道明寺歌鈴「温かなこの想いを抱きしめて」 (18)

道明寺歌鈴ちゃんのSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1498578666



ちひろさんがカタカタとパソコンを操作する音や他のプロデューサーさんがぺらりとなにやら紙を捲る音が事務所に響き渡っています。

そんな中、午前中でレッスンが終わった私はお昼を一緒にとろうとプロデューサーさんに誘われているのでここで待機です。

ぽすんとソファへと座り込みます。ふぅ、と小さく息を吐いて持ってきた雑誌を開きました。前にインディゴ・ベルとしてユニット活動を共にしていた藍子ちゃんが表紙の雑誌です。雑誌を開いて紙面に目を落としますがどうにも目が滑ってしまいます。



読むのを諦め、ソファの脇へと雑誌を置いて窓の外を眺めます。木々を風が揺らし、地面に移った影を歪めました。

ここ最近は梅雨らしく雨が多かったり雨でなくとも曇りだったりと微妙な天気が続いていたのでこうした晴れた日は久々な気がします。

これを機にもうすぐ梅雨明けでしょうか。とそこで今年は合羽を着てないことを思い出しました。
普段は雨だったら傘を差すのですが、時々合羽を着るのも好きなのです。特にこれといった理由はありませんが何故か楽しくて、それに合羽でしたら雨の中転んだとしても支障はないですから。



そんなことを考えているといつの間にか近くに来ていたちひろさんに話しかけられました。

「歌鈴ちゃん?」

「はい?」

「そろそろお昼にしようと思うんだけど歌鈴ちゃんは?」

「私はこの後プロデューサーさんと約束しているので……」

「ふふ、そっか。分かったわ、じゃあお疲れ様ね」

「はい、お疲れ様です」



ちひろさんを見送った後、もうそろそろかなと思いスマートフォンを見るとプロデューサーさんからのメッセージが入っていました。

『今から戻る、あと20分くらい待っててくれ』

『分かりました、お気を付けて』

と、プロデューサーさんに返信を返した後、ソファに広げていた雑誌を片付けて身だしなみを整えます。

髪型はおっけー、服装も大丈夫、臭いは……レッスンの後にシャワーを浴びたのできっと大丈夫。
するとスマートフォンが通知音を鳴らしました。恐らくプロデューサーさんからでしょう。確認するのは身だしなみを整えてからでもいいかと思い、鏡に向き直ります。



よし、とチェックを終えて鞄を取るためソファに戻ると藍子ちゃんの担当のプロデューサーさんに声をかけられました。

「歌鈴ちゃん、ちょっといい?」

「な、なんでしゅか?」

余り他のプロデューサーさんと話すことがないので思わず噛んでしまいました。

「この後って歌鈴ちゃんのプロデューサーさんと会うんだよね?」

「は、はい」

「良かった。じゃあこれ、渡しておいてくれないかな。あいつったら今日までに返せって言うのに今日は直帰らしいからさ。じゃ、よろしくね」

そう言うとなにやら封筒を渡してデスクへと戻っていきました。
封筒の分厚さや重さからすると中身は本、でしょうか。中身が気になりますが流石に勝手に中身を見るようなはしたないことはできません。とは言うもののやっぱり中身は気になります。
なので見ないようにと鞄の中へと早々に仕舞います。よし、これで大丈夫っ。



支度を終え、そういえばとスマートフォンを確認します。先程のメッセージはやはりプロデューサーさんからでした。

『ありがとう。できればロビーで待っててくれると助かる』

分かりました、と小さく声に出して時計を確認すると最初のプロデューサーさんからのメッセージから既に15分近く経過していました。

うん、もうロビーに降りても大丈夫かな。このお部屋からロビーにゆっくり降りても2分くらい。それくらいなら丁度プロデューサーさんも着いているでしょう。

お疲れ様です、と残っている方々に声をかけて部屋を出ました。



ロビーに着くと既にプロデューサーさんがいましたが、ぱたぱたと服をはためかせていました。よく見れば少し息も荒いです。

「お待たせしました、プロデューサーさんっ」

「おう、今来たところだから大丈夫」

「あの、もしかして走ってきたんですか?」

そう言うとプロデューサーさんはバレたか、といった表情で苦笑いして。

「あはは、歌鈴を待たせるわけにはいかないと思ってな」

と言いました。

「もう……」

「ごめんごめん」

あははと笑いながら謝るプロデューサーさんの汗を背伸びしてハンカチで拭います。
ふう、と落ち着いたように息を吐くプロデューサーさんに少し安心します。



そういえばプロデューサーさんはこの後どこに行く気なのでしょうか。

「プロデューサーさん、今日はどうするんですか?」

「ああ、今日は歌鈴も俺もこの後はオフだからな家に帰って歌鈴の料理を食べたいな、って思うんだけどいいか?」

「もちろんいいですよっ。けどなんで急に?」

「あー。ほら、ここ最近は俺も歌鈴も仕事だなんだって忙しくて朝とか夜寝る時とかにしか一緒に居られなかっただろ? だから久々にゆっくりと過ごすのも悪くないかなと思ったんだ」

「確かにそういえばそうですね」

「だろ? さっ、行こう」

そう言うとプロデューサーさんが私の手を握って歩き出します。久々なその感触にどきっとしながらも嬉しくなりました。



──────


最近の調子はどうだとかお仕事は大変だとかたわいもない話をしながら二人で歩みを進めます。特に大切な話などではないですが、とても楽しい一時です。

そうしていると、ふっとあることを思い出しました。

「あ、そういえば」

「どうした?」

「藍子ちゃんのプロデューサーさんから、プロデューサーさんに渡してくれってなにか渡されたんですけどあれはなんですか?」

「あー、あれね。歌鈴をアイドルとしてスカウトしてからのアルバムだよ」

「ふぇ!?」

思わぬ返答に素っ頓狂な声をあげてしまいます。



「可愛い声だな」

「ちゃ、茶化さないでくだたいっ!」

「ははは、ごめん。ほら、インディゴ・ベルあるだろ? あれの新しい売り出し方の参考にってことで向こうに貸してたんだよ」

「え、ってことはまた藍子ちゃんとお仕事できるんですか!? えへへ、やったぁっ!」

「まだ正式決定じゃないんだけどな」

「ふふっ、楽しみ……」

「おーい、歌鈴? まだ検討段階なんだけど……」



──────


流石にお話を続けていると話題も減るもので、黙ったまま歩みを続けます。
黙ったままとは言うものの気まずい沈黙などではなく、どこか心地よい沈黙です。

と、ここである思い付きが浮かびました。

繋ぐ手をそっと離し、プロデューサーさんの指と私の指が絡むように握り直します。いわゆる恋人繋ぎというものです。少し恥ずかしいですが、普通に手を握るよりもプロデューサーさんとしっかり繋がっていられるように思えて私はこれが大好きです。



えへへ、と小さく笑いながらプロデューサーさんの顔を仰ぎ見るとプロデューサーさんも少し顔を赤くしながら満更でもなさそうな顔をしています。

そんな私の視線に気付いたのかプロデューサーさんもこちらへと視線を向けて小さく笑いかけてきます。

私とプロデューサーさん、お互いの顔が赤いのは気温が高いからでも、湿気が高いからでもなくて。

それでもその恥ずかしさがどこか幸せでぽかぽかとした温もりが心の中に生まれました。



立ち止まって「プロデューサーさんっ!」と声をかけます。

「どうした?」と問いかけてくるプロデューサーさんの頬に背伸びをしてキスをします。驚いた表情のプロデューサーさんに私は。




「大好きです、プロデューサーさんっ」




だから私は、生まれたこの温かな想いを大切にして、これからも二人三脚で歩みたいと思うのです。

以上です。
読んでくださりありがとうございました。
歌鈴ちゃんとのんびり日々を送りたい……

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom