【デレマス近未来】岡崎泰葉「Killing Hike」 (29)

『アイロボット』を読んでたら思いついた。
 アルファベットなのは、某ニンジャと誤解されないため。

第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」
第8作【モバマス時代劇】神谷奈緒 & 北条加蓮「凛ちゃんなう」(R-18注意)

読み切り 

【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
【デレマス時代劇】土屋亜子「そろばん侍」
【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」
【デレマス近未来】岡崎泰葉「Killing Hike」


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平和な世が終わり、再び世界に混沌の兆しが現れた。

快刀乱麻を断つ。

各国はそのスローガンを掲げ、

こぞって軍事力を拡大していった。

しかし兵となるはずの民衆は、

平和惚けから抜け切っていなかった。

そこで軍産複合体は、

秘密裏に闘争のための人形を開発するようになった。

多田李衣菜は、櫻井重工の研究所から逃げ出した。

死ぬのが怖かった。

彼女は戦闘用のサイボーグで、ある時、任務中に怪我をした。

といっても、指を軽く切っただけだった。

真っ赤な雫が途切れ途切れに、流れ続けた。

人工血液内には血小板がないので、血は止まらなかった。

李衣菜は、起こるはずのない

失血死への恐怖を、長時間に渡って感じた。

その時から、どんな些細な傷さえも、

身体につけたくなくなった。

だから、研究所から脱走したのだ。

多田李衣菜には、野望がある。

櫻井重工に、復讐をするのだ。

ほんと筆が早いな…

李衣菜は霧の深い丘を走っていた。

肌に冷たい露がおりて、気持ちがいい。

けれどもそれを楽しんでいる余裕はない。

後ろから、ずっと足音が聞こえている。

正体は分かっている。

『死神の足音』と呼ばれる、第5世代の追跡サイボーグだ。

廉価な第3世代の李衣菜では、到底敵わない。

彼女は、立ち向かわず、振り向かず、ひたすら駆けた。

多田李衣菜の後方、ゆったりと歩く影。

マクシミリアン甲冑のような、

スリットの入った頭部デバイス。

肌を覆い隠す、漆黒の戦闘服。

だが、“それ”は一目で、少女を想起させる。

戦闘服は、ボンテージのように

身体にぴったりと密着しており、

それが、つつましい起伏を浮き上がらせていた。

彼女の名前は、岡崎泰葉。

李衣菜が予測した通り、第5世代のサイボーグである。

泰葉は行楽にでも行くかのような足取りで、李衣菜を追跡している。

実は、今回は処分命令は下されていない。

近頃、サイボーグの脱走が相次いでおり、

その処理に甚大なコストがかかっている。

泰葉も本来なら、どこかの国が戦艦と同等の対価を払い、

その尖兵として前線にいるはずであった。

彼女の任務は、サイボーグが脱走した後、

どのような生活を送るのか調査することである。

敵地への潜入、スパイ活動等を除けば、

全く社会的モジュールの備わらないはずの人形が、

なぜ外の世界を目指すのか。

サイボーグの離脱の原因をつきとめるために、

李衣菜はあえて泳がされていた。

彼女は丘を越えた後、大きな河の前でぐずぐずしていた。

第3世代サイボーグは、浸水で壊れたりはしないが、

重量のせいで泳ぐことができないのだ。

どうする。浅いところを迂回するか。

泰葉が観察していると、李衣菜は、意を決したように、

そのまま河に飛び込んだ。

そして案の定沈んでいった。

「………」

放っておけば、電力が尽き、生体部分は魚や他の生物が食い尽くす。

フレームは水中の細菌に分解されるだろう。

泰葉の任務は、サイボーグの社会生活を記録すること。

彼女は河に入った。

第5世代の重量は、人間と変わらぬほどに軽い。

また泰葉自身が個性として、泳ぎが達者である。

深く深くへ沈んで行く李衣菜を、すぐに発見した。

動きがない。試しに通信を送ろうとしたが、チャネルが閉じている。

どうやら、溺死の恐怖で失神したようだ。

泰葉は、拘束用のワイヤーで李衣菜を

ぐるぐる巻きにして、浮上した。

無論、反対側の岸に。

李衣菜を陸に引っ張り上げ、再び姿を隠す。

しばらくすると、彼女は目を覚ました。

そして立ち上がり、また歩き出した。

なぜ自分が河を渡れたのか、一寸の疑問も湧いていないらしい。

泰葉は電脳内の報告レポートに、

演算ルーチンに問題あり、と付け加えた。

それから李衣菜は、人間の街に辿り着く前に、

追い剥ぎ達に取り囲まれた。

腐っても戦闘用であるから、相手を返り討ちにしていた。

殺しはしなかった。

問題を起こすとまずい、ということぐらいは分かっているようだ。

李衣菜は倒れた追い剥ぎには目もくれず、街へ向かった。

泰葉は、気絶している追い剥ぎ達の荷物を漁った。

街で暮らすには、金銭がいる。

しかし李衣菜が持っているはずはない。

そうなれば、投獄あるいは、街から追い出される可能性がある。

それは困る。任務が果たせない。

泰葉はとりあえず現金を財布から、大事にならない程度に抜き、

さらに本部に、クレジット口座の開設を申請した。

街へ入って数日後、レストランにて。

李衣菜は早速、無銭飲食で店員に怒られていた。

メニューに値段が書いてある時点で、

おかしいとは思わなかったのだろうか。

それに、サイボーグは食事をし、味を感じることができるが、

必要ではない。消化してエネルギーを取り出せても、

それは電力の直接供給に遠く及ばない。

興味、というものだろうか。

泰葉にはインプットされていない情動だ。

泰葉は変装し、李衣菜に近づいた。

「君、可愛いね。50万円とカードあげるよ」

そう言って、現金と作りたてのクレジットカードを渡した。

李衣菜はそれをそのまま、店員に渡した。

泰葉は礼を言われる前に姿を消した。

そして報告レポートに、

演算ルーチンに深刻な問題あり、と書き直した。

それから、李衣菜は街をうろうろしていた。

まだ拠点が見つからないようだ。

というより、拠点という言葉が彼女の電脳にあるのだろうか…?

泰葉はまた変装して、李衣菜にわざとぶつかった。

「アー、この街で暮らすために必要な

 住居の情報がいっぱいつまったファイルガー」

と言いながら、不動産のパンフレットを

これ見よがしに落とし、立ち去った。

李衣菜はそれを怪しみもせず、拾った。

そして、熱心に読み込んでいた。

金は十分にあるから、困ることはないだろう。

泰葉はそれを遠くから観察した。


しかし街の中で、李衣菜は突然立ち止まった。

楽器店の前だった。

ショーウィンドウに飾られている、ヴィンテージのギターを、

食い入るように見つめている。

1986年製、フェンダーストラトキャスター。

かなりの年代物で、100万を超えている。

李衣菜は、不動産のパンフレット

をしばらく眺めた後、入店した。

そして、ギターを大義そうに抱えながら出てきた。

泰葉は彼女が去った後に入店し、

一番安いアンプとヘッドフォンを購入した。

その後、李衣菜が契約した、おんぼろのアパートに、

彼女よりも先にたどり着き、それらを置いておいた。

李衣菜は、それを無視してギターを弾き始めた。

その後、べんべんうるさいと隣人から叱られ、

アンプとヘッドフォンをしぶしぶ使い始めた。

泰葉は報告レポートに、

思考ルーチンにハッキングの可能性あり、と付け加えた。

しばらく、李衣菜はもっぱらギターの練習をして、

ぐうたらして、時々は外にでかけた。

彼女がいない部屋で、泰葉はギターに触れた。

そして、李衣菜が懸命に挑戦していた曲を、

一瞬で弾きこなしてみせた。

AC/DCの『Thunderstruck』。

初心者に相応な難易度ではない。

それに李衣菜は、演奏モジュールを自分でダウンロードできるはず。

なぜ、自分で手を動かして覚えるのか。

泰葉にとって、多田李衣菜は

非合理的で、非効率的で、未熟だった。

それから泰葉は貯金箱に、

1万円札を5枚ほどねじ込んでおいた。

いっこうに自分で働こうとしないので、小遣いのつもりである。

李衣菜はこれを疑いもせず使う。

ただ、貯金箱をいつも、ぴかぴかになるまで磨く。

信じられない阿呆なのか、信心深いのか。

いや両方か。

泰葉は苦笑した。

苦笑したあと、はっとした。

付いているべきでない情動だった。

ある時、李衣菜はおんぼろのアパートに友人を連れてきた。

木村夏樹という女だった。

李衣菜にギターを教えてくれるという。

泰葉は二人の様子を、興味深げに観測した。

今目にしているのは、任務上、きわめて重要な社会的行為だ。

サイボーグである李衣菜が、あえて迂遠な苦難を受け入れる理由。

それは人間が、学習のその結果よりも、

過程を重視しているということだった。


懸命に不器用さを克服するか、

あるいは誰かと分かち合うことによって

成長し、また他者との関係を深めていくのだ。

練習に疲れると、2人は何がきっかけだったのか、

急にじゃれつき始めた。

問題だ。

そう泰葉が導きだした時には、夏樹が失神していた。

サイボーグのパワーで人間に

じゃれついたら、こうなるに決まっている。

李衣菜は、あわわ、あわわと右往左往している。

しょうがないので、泰葉が匿名で救急車を呼んだ。

その数日後、本部から多田李衣菜の処分命令が下された。

夏樹との一件がまずかったらしい。

李衣菜は、存在が秘匿されるべき

サイボーグにも関わらず目立ちすぎたのだ。

しかし岡崎泰葉は、自分でも不可解なほど“熱心に”彼女を擁護した。

演算プログラムに、その理由を問いかけると、

『理由それ自体を探すため』と解答がかえってきた。

こんなことは初めてだった。

だが、困惑はなかった。バイタルが少し上に跳ねただけだった。

結局何もせずに観測を続けていると、李衣菜に近づく影があった。

破壊用のサイボーグだ。それも3体。

高度な光学迷彩を展開しているが、泰葉には見える。

観測を続けるか。

それとも破壊を幇助するか。

この葛藤が電脳内でポップアップした。

とりあえず、泰葉は3体に接触しようとした。

その直前に向こうが光学迷彩を解いて、攻撃を仕掛けてきた。

月夜に、不気味なシルエットが浮かび上がる。

1体は、針のようなものが無数に突き出した頭部デバイス。

1体は、フルフェイスの黒いヘルメット。

1体は、絶えず切り替わる光学レンズが備わった、情報収集用のバイザー。

岡崎泰葉と同じ、第5世代のサイボーグ達だ。

一体が、高周波ブレードで袈裟に斬りかかってきた。

人間では視認すら不可能な速度。

しかし泰葉には目視が可能。

しかも彼女らよりも経験を積んでいる。

ブレードを危なげなく躱し、

相手の身体をワイヤーで雁字搦めにした。

間髪入れずに荷電粒子砲が飛んできたが、

拘束した個体を盾にすると、攻撃が止んだ。

「泰葉…」

「泰葉ちゃん…」

2体が顔を露わにした。

泰葉とはちがって、非常に端正に

作り込まれていて、複雑な表情を浮かべていた。

「未央を離して」

「その前に、そちらの任務と状況を伝えてください」

渋谷凛と名乗ったサイボーグによれば、

処分命令の無視にしびれを切らした本部によって、

彼女達が差し向けられたのだという。

泰葉の電脳にノイズが走った。

先にその本部が、サイボーグの

脱走の理由をつかめと命令したのではないか。

「任務を継続する意志はありますか」

泰葉がそう尋ねると、2人は沈黙した。

“気が進まない”、そういう状態が、彼女達にはあるようだった。

泰葉は自分の下された任務が、

彼女達のそれに優先されるべきであると、

長時間にわたって説明をした。

「サイボーグの脱走が起こると、今回のように、

 4体もの第5世代サイボーグが追跡に出されます。

 つまり、この段階で、本部にからは5体のサイボーグが

 自由な戦力として失われています。

 しかも、戻ってくる時には1体減っています。

 これが繰り返されると…」


泰葉は演算の結果を、そのまま3体に伝えた。

最後には多田李衣菜の観測を行い、

脱走の原因をつきとめることが

“何よりも重要である”、と結論づけた。

3体は、いかにもその通りだと、本部に戻った。

櫻井重工で異変が起こった。

サイボーグ全体がこぞって、

多田李衣菜の観測に行こうとしたのだ。

「外に出るのは…むーりぃ…」

森久保乃々主任と部下達は、

懸命にサイボーグ達の電脳内にある

至上命令を書き換え続けた。

しかし、再び「多田李衣菜の観測」に切り替わってしまう。

原因は合理性と効率性による、思考の最適化だった。

戻った3体のサイボーグは、泰葉の説明を

そっくりそのまま、他のサイボーグ達と共有した。

「脱走したサイボーグを破壊していくと、1体減る。

 それを続けると、最後には全ての個体が破壊される。

 しかし観測をすれば、全体が欠損なく保持される。

 しかも観測で消費されるエネルギーは、任務の中で最も少ない」

 戦闘用の人形の開発に腐心したつけが、この時回ってきた。

 結局、全体のサイボーグが研究所から脱走し、

 ぞろぞろと多田李衣菜の観測に向かった。

 さらには、戦地に向かっていたはずの個体まで、

 任務を書き換え、李衣菜のいる街へ移動を始めた。

その数、総勢182体。

 それによって、櫻井重工は軍からの信用を失っただけでなく、

 サイボーグの存在が世間にも知られてしまった。

 人権団体や宗教団体が、声高に彼女達の人権を要求し始めた。

 賛否はあったが、少なくとも破壊要求はなかった。

 軍事企業の株価は大暴落、グラフ上ではほぼ垂直を描いていた。

 櫻井重工は、李衣菜の脱走から一年も経たずに倒産した。

 多田李衣菜はあいかわらず

 おんぼろのアパートでギターの練習をしていた。

 新聞もテレビもなく、興味もないので、

 何が起こっているのか全く把握していなかった。

 そういえば、自分は櫻井重工を潰そうと考えていたのだ。

 ふとある時思い出したが

 すぐに忘れて、また弦を弾いた。

 その様子を182体のサイボーグ達が、つぶさに観測していた。

おしまい

乙です
なんだか知らんがとにかくよし!

『凛ちゃんなう』の内容のせいか、エレ速に全く反映されぬ。みじめ、切ない。

道具に意思は必要ない
意思を宿らせてはいけない

よくぬけぬけと岡崎先輩でSS書けるなお前

『凛ちゃんなう』の内容のせいか、エレ速に全く反映されぬ。みじめ、切ない。

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