【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」  (45)

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読み切り 
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【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 

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 夕暮れ時。竜胆の花が点々と咲く、野原。

「池袋殿、こちらが貴殿の申していた最強の剣士か」

 脇山珠美は、7尺を超える身丈の鎧武者と相対していた。

 しかし、彼女の表情に恐れはない。

 幼くして一刀流の免許皆伝を受け、

 自身の強さを磨くために全国を行脚。

 数々の剣豪を打ち破り、“最強”の名を欲しいままにしている。

 また近年、示刀流なる剣術を自身で編み出し、道場を立てた。

 門下生は200をゆうに超え、

 念流、神道流、陰流、中条流に並ぶ

 第5の兵法源流となるのではないか。

 そのように噂されている。

「最強の剣士、と言われれば自信がありませんな」

 鎧武者の背後で、池袋晶葉は肩をすくめた。

 彼女は先日道場に現れて、

 脇山珠美よりも強い剣士を知ってる、と声を上げた。

 激怒する門下生らを諌めながらも、脇山の自尊心は

 むくむくと鎌首をもたげてた。

 最強の剣士は脇山珠美おいて他になし。

 脇山自身がそう考えているからだ。

 「そう謙遜されると、まるで私が弱いようではないか」

 脇山は笑いながら、剣をすぅっと滑らかに抜いた。

「そなたは名を何と言う」

 脇山は鎧武者に問うた。剣士の流儀である。

 しかし相手は黙して語らなかった。代わりに晶葉が答えた。

「すみませぬな…そやつは口が聞けぬ者でして。
 
 名は、我者髑髏と申します」

 がしゃどくろ。脇山は眉を細めた。

 戦で死んだ武者の怨霊が集まって、形を成す妖怪の名。

 脇山は自身が斬り捨ててきた剣豪達を思い出した。

 もし自分が敗れたとしたら、それは今まで殺めてきた者の

 祟りということになるだろうか。

 くは、と脇山は笑った。

 敗れるなど、到底ありえぬことであるが。

「それでは尋常に、参る」

 脇山は奇妙な上段の構えをとった。

 柄を逆に持ち、切っ先を武者に向け、両腕を顔の真横に据える。

 これは脇山が独自に開発した、刺突のための構えである。

 対して、鎧武者の方はゆらりと野太刀を抜いた。

 緩慢すぎる動きだった。

 鎧を着ていることで安心しているのだろうか。

 露出した急所さえ剣で防げいでいれば、勝てるなどと。

 脇山はまた笑った。

 自身の剣の前に、防具など意味をなさぬからだ。

 脇山の突きは、米炊き用の厚い羽釜さえ貫通する。

 「傲ったな、我者髑髏!!」

 脇山の刺突は風を巻き込み、猛烈な音を立てた。

 そして鎧を、いとも簡単に貫いてみせた。

 だが、驚愕したのは脇山の方であった。

 心の臓を狙ったのに、手応えがまったくない。

 まるで中身ががらんどうのような…。

 鎧武者は緩慢な動きで、脇山の剣をつかんだ。

 きりきりきりと、歯車の回る音が聞こえた。

「まさか、から…」

 脇山が言い終える前に、彼女は大刀によって押し潰された。

 血が、竜胆の花に雨のように降り注いだ。

 それはおどろおどろしくも、美しい光景だった。

「我者髑髏も改良が必要だな…」

 糸を指で繰りながら、晶葉はため息をついた。

 我者髑髏は彼女が5番目に製作した、絡繰の武者であった。

 最高傑作ではなかった。しかしとにかく頑丈ではあった。

 その装甲が人間の手によって突破されるとは。

「やはり脇山珠美は、凄まじい剣豪だった」

 花のように上半身がめくれた脇山の死体に、晶葉は一礼した。

 世は、太平の一歩手前。

 戦国に敗れた大名どもや百姓が、各地で散発的な乱を起こしていた。
 

 池袋家は、玩具用の絡繰人形を作る職人の家であった。

 だが玩具と言って侮れぬ精巧な出来栄えで、

 ひっそりと蒐集する大名や富商が数多かった。

 顧客は多く、池袋家は裕福だった。

 晶葉は両親に甘やかされ、何不自由なく育った。

 元々は厳しい家であったが無理もない。

 晶葉の才能は、池袋家史上最高のものだった。

 初めて見る絡繰でも内部の機構を完全に理解した。

 そして、代々の傑作と呼ばれる作品が児戯に見えるような、

 素晴らしい絡繰を次々に作り上げた。

 とかく資金には事欠かない環境であったから、

 上達は止まることを知らなかった。

 最上級の素材、最前線の知識を消化して、晶葉の絡繰は進化して言った。

 彼女の栄達は約束されたもののように思われた。

 しかし恵まれた者が、恵まれぬ者の憎悪を買うのが世の常。

 池袋家は夜盗に踏み入られた

 技術一筋の家系が災いし、抵抗するも虚しく、

 家の人間は次々に殺されていった。

 少女だった晶葉は、試作品だった武者人形を操り、

 自身の身を守った。

 だが朝を迎えた時には、彼女は1人になっていた。

 それから晶葉は、人間と等身大の絡繰を作るようになった。

 玩具とはかけ離れた、殺人用の絡繰を。

 自身の身を守るためか、それとも孤独を癒すためか。

 それは当人にしか分かりえぬ。

 晶葉は絡繰を使って復讐を果たした。

 相手はいともあっけなく死んだ。

 金に困った、やせ百姓達だった。

 それから晶葉は、天下一の腕前を持つ剣豪達に戦いを挑むようになった。

 剣豪達は人の身にして、晶葉の絡繰と渡り合った。

 彼女が最高傑作と見込んだものさえも、敗れ破壊されることもあった。

 その度に改良を重ね、晶葉は再戦を挑み、打ち勝ってきた。

 結果できたのが我者髑髏だったが、晶葉は納得していなかった。

 頑丈さと馬力だけを追究した、のろまで不恰好な武者は

 晶葉の美意識には合わなかった。

 精強な剣豪達はえてして慕われるものであったから、

 晶葉は多くの人間に恨まれた。

 しかし本人は気にも留めなかった。

 池袋晶葉の信念は、自分自身だけのために、最高の絡繰を作ること。

 人の世の理など知ったことではないのだ。

昼休みに読めるとは

 脇山珠美を倒した後、晶葉は四国の地に入った。

 そこで、遊佐家預かりの絡繰師となった。

 無論忠義の徒になったわけではなく、絡繰の開発のためであった。

 「ふわぁ…あなたが…いけぶくろ、あきは…」

 遊佐城にて、晶葉は姫のこずえと対面した。

 ほのかに緑がかった、金色の髪。
 
 翡翠石のごとく、きらきらひかる瞳。

 乳を溶かしたようになめらかな肌。

 こずえは、人形のように愛らしい少女だった。

 遊佐氏はこずえを溺愛していた。

 領民を締め上げて税を集める一方、

 こずえのために高価な絡繰をせっせと集めた。

 そのほとんどは池袋家製のものだった。

 そして、晶葉が遊佐家に招かれたのは、

 こずえのための絡繰を作らせるためだった。

 親馬鹿も甚だしいな。

 晶葉は内心で笑った。

 遊佐氏とこずえを見ていると、かつての両親のことを思い出した。

 しかし、晶葉の本懐は玩具の製作ではない。

 職人は人目があっては、作品を作る事ができませぬ。
 
 晶葉はそう言って城外に工房を建てさせ、立入厳禁の札を建てた。

 これで自身の研究に集中できる…はずだった。

 こずえはどうやって抜け出してくるのか、

 たびたび晶葉の工房に忍び込んできた。

 そして、絡繰製作をつぶさに見つめるのであった。

 晶葉はこずえをつまみ出し、娘を探す遊佐氏の下へ帰した。

 しかし、こういったことが何度も続くと、

 遊佐氏の方から、こずえの好きにさせよと命じられた。

こずえの目があるために、

自身のための絡繰作りは一向に進まなかった。

しょうがないから真面目に仕事にしていると、

今度はこずえが色々と注文をつけてくる。

衣装はこういう風にしてほしい。

髪の色はどうだ、顔のかたちはこうだ。

しかし晶葉が最も困ったのは、

お話できるように、という頼みだった。

「こずえ…おにんぎょうさんと…おはなし…したいの…」

こずえはしきりにせがんだ。

晶葉が理由を尋ねると、友達が欲しいからだと言う。

「非効率的な機能だ。しゃべるなら人と話せ」

晶葉は銅板に爪を立てた。

きぃぃという音がした。

こずえは顔をくしゃっと歪めた。

その様子が存外に面白かったので、晶葉はまた爪を立てた。

同じ音がした。

こずえがまた、顔をくしゃっとさせた。

「それ…なに…」

こずえが銅板を指差して、晶葉に尋ねた。

「高純度の銅だよ。導電性が高くてな。

 本当は、金とか銀の方がよかったんだが…」

「どう、でん…」

晶葉の説明にこずえは目を回して、ぱたりと倒れた。

そしてそのまま、すやすや眠ってしまう。

晶葉は肩をすくめて、仕事に戻った。

糸のように細く切った銅を、糸巻きのような器具に巻きつける。

話すのはともかく、遊び相手にはなる人形を作ってやるか。

晶葉はふっと笑った。家族を失って何年かぶりの、小さな笑みだった。

しかし、遊佐氏の圧政が祟ってか、

次第に領内は不穏な空気に包まれていった。

晶葉の工房も、領民達から狙われた。

遊佐氏が金に飽かして呼び込んだ絡繰師。

その工房からは夜更け、まばゆい光が漏れているという。

領民達にとっては格好の標的であった。

とはいえ晶葉が無抵抗に身を差し出すはずはなく、

我者髑髏を使って相手を蹴散らした。

動きが遅いものだから、我者髑髏にも多くの傷ができた。


「おにんぎょうさん…いたく…ないのー…?」

晶葉が修理を行なっていると、こずえが尋ねた。

「痛いわけがないだろう。こいつには心がないんだから」

晶葉はそう返した。

「矢が飛んでこようが、槍が刺さろうが、我者髑髏は傷つかない。

 中身が空っぽだからな」

晶葉は我者髑髏の胴体を開いた。

彼女の言う通り、小さな動力装置の他には何もなかった。

「かわいそう…」

こずえの言葉に、晶葉は眉をひそめた。

絡繰とはそういうものだ。

ものを考えず、壊れはしても、死んだりしない。

だからこそ素晴らしい。晶葉はそう思う。

やがて晶葉は、こずえのための絡繰を完成させた。

こずえに似せて作った、等身大の毬つき人形。

遊佐氏は大層喜んだ。

しかし、こずえは不満げであった。

「このおにんぎょうさん・・・しゃべらないのー・・・?」

晶葉は聞かぬふりをした。


晶葉自身の絡繰もまた出来上っていた。

いままでの木と鉄ではなく、全身を軽銀で組み立てた。

我者髑髏とは異なり小柄で俊敏。

見栄えにもこだわり、

武装の剣は両腕に格納できるようにした。

素材が光沢のある白色であったので、

この絡繰は“白雪”と名付けられた。

その意匠には、どことなくこずえの面影があったが、

晶葉は気づいていなかった。

仕事を終えたので晶葉はこずえと別れ、領内を後にした。

新しい絡繰を手に入れたので、

重くかさばる我者髑髏は工房に置いてきた。

それから晶葉は九州を巡った。

聞くところによると、タイ捨なる新しい流派が精強であるという。

晶葉は白雪を繰り、その流派の剣士達に戦いを挑んだ。

タイ捨流の剣術は、いや、兵法は、

たしかに今までのものと次元が異なっていた。

神道流が持つ一瞬の静謐さ、念流の重厚さとはちがい、

タイ捨流は、機敏で自由な剣さばきだった。

しかし白雪はさらに鋭敏、かつ苛烈な攻撃を行う。

絶えず相手の死角に回り込み、相手の目にも止まらぬ。

まさに最高傑作。

晶葉は白雪を繰り、輝かしい勝利を量産した。

また、彼女は鉄砲について造詣を深めるために、

種子島を訪れた。

晶葉は以前から、威力はもとより、

その戦術的価値に注目していた。

音と光による相手への牽制。

“遠くから狙われている”という心理的圧迫。

装填速度さえなんとかすれば、鉄砲は刀を戦場から、

いや社会から駆逐してしまうだろう。

そう晶葉は確信していた。

晶葉は鉄砲を一本買い付けて、つぶさに調べた。

弾丸。火薬。火縄による点火方式。それぞれが分離している。

晶葉は迂遠な発射機構に失望した。なんたる原始的な発想。

弾丸と火薬を一体化させ、点火方式を単純化した方がよいか。

火縄が外に露出しているのは明らかな欠陥だ。

雨に濡れれば使い物にならぬし、火縄を支えるために余計な部品が増える。

彼女は色々と工夫して、いくつかの試作品を開発した。

すると今度は、火薬の性能が気にくわない。

黒色火薬は光と音が大きい割に、弾丸を押し出す力が弱い。

貫通力を高めるために施条を行なったのに、

かえって威力が低下している。

だが、薬化学は晶葉の専門外。

冶金ならともかく、こればかりはどうしようもなかった。

もう1人の天才が現れるまで、自分は生きていられるだろうか。

晶葉は孤独を感じた。

両親が亡くなってから、ずっと1人だった。

いや、もしかすると生まれた時から、

自分は1人であったかもしれない。

工房のなかでひとり、無数の絡繰達に囲まれながら、

他者を寄せ付けなかった。

こずえ。晶葉はふいに、彼女のことを思い出した。

こずえに会いたい。

晶葉は山陽から本州に入る針路をねじまげて、再び遊佐氏の領内に入った。

果たして、そこは火の海だった。

「こずえ!!」

池袋晶葉は、こずえの名を呼びながら城下を駆けた。

遊佐城はすでに燃えていた。

こずえはどこかに避難しているだろうか。

だが、遊佐氏の姫を呼ぶ者が看過されるはずはなかった。

1人の女が、晶葉の前に立ちふさがった。

「“秋来ぬと 

目にはさやかに見えねども 

風の音にぞおどろかれぬる”」

鷲色の長髪が、炎の明かりでちろちろ揺らめいてる。

相手は、焦点の合わない目を晶葉に向けた。

「いまの季節は春だ」

「無粋だねえ、池袋晶葉」

相手は名前を名乗った。

「一刀流、松永涼。脇山珠美の、ちょっとした知り合いだ。
 
 アンタが遊佐氏に仕えたって聞いて、ここに来た」

「復讐か」

「はははは。アタシは、そんないツマンナイ女じゃないよ。

 強い剣士と闘いたいだけさ」

 松永は舌をちろりと出した。

 それは、嘘をついている表情だった。

 だが晶葉にはどうでもよい。一刻も早くこずえを見つけねば。

 白雪の繰り糸をがっと引き、松永の背後から攻撃を仕掛けた。

「なにこれ」
 
 松永は造作もなく、白雪の剣を弾いた。

「魂が込もってねえな」
 
 白雪は死角から、次々に剣を振るう。

 しかし、すべてが防がれる。まるで全身に目がついているようだった。

「狙ってんのか。アタシの死角を」

 晶葉は、試作銃を松永に向けて発砲する。

 それも避けられた。

「アンタ、本当に珠美に勝ったのか?

 やることなすこと、てんでくだらねえ」

 晶葉は策を弄するのをやめ、正面から挑んだ。

 さきほどより速度は上だ。

「貴様の目には追えまい!!」

 そう叫んだ晶葉の目の前で、白雪は破壊された。

「目?

 アンタまだ気づいてないのか」

 松永は両目にぎゅうと指を掴んで、眼球を抜いた。義眼であった。

「珠美にやられてから、この有様だ。

 せっかく可愛がってやったのに…あんなに、いっぱい、可愛がってやったのに」

 松永は義眼を握りつぶして、あ゛ー!、あ゛ー!と叫び始めた。

 晶葉は逃げだした。絡繰を失えば、非力な1人の女だった。

 そして、心当たりを思い出した。

 晶葉の工房。そこにならあるいは。

 城下のはずれに工房はある。まだ無事かもしれない。

 晶葉は哄笑を上げる松永を背に、再び駆けた。

 果たして、工房はまだ焼けてはいなかった。

 戸を蹴破って中に入る。こずえは見当たらない。

「こずえ!!」

 晶葉は枯れかかった喉で、名前を読んだ。

 すると、鎮座した鎧武者の中から、かすかに音がした。 

晶葉は我者髑髏の腹を開いた。こずえがいた。

 でかしたぞ!!

 晶葉は初めて、我者髑髏の肩を叩いて褒めた。

「…ちちうえも…ははうえも…みんな…」

 こずえは涙を零して震えた。晶葉は彼女を抱きしめた。

「逃げるぞ。ここから、2人で」

こずえを我者髑髏の中に入れ、晶葉は城下から逃れた。

しかし遊佐領の境で、松永が待ち構えていた。

「そのお侍さんには魂があるねえ」

彼女は舌なめずりをして、我者髑髏に迫った。

こちらは速さが足りぬ。圧倒的に。

晶葉は我者髑髏の前に立ちはだかって、松永の突きを受けた。

「やれぇ!! 我者髑髏!!!」

そして繰り糸を、身体中の筋肉が裂けるくらいの力で引く。

びちびちと、 傷口から血が吹き出した。

「そう、そういう一撃だ」

鈍重な拳が松永の頭を潰し、宿主を失った身体が、ぺたりと足をついた。

松永の刀は晶葉の肺腑を貫いた。致命傷だ。

晶葉はじんわりと息が赤く染まるような気がした。

我者髑髏の方を見た。

晶葉を貫いた刃によって、大きな傷がついている。

しかし脇山との戦いの後、少しだけ厚くした装甲によって、

こずえは守られた。

晶葉は我者髑髏の腹を開いた。

「こずえ、出てこい」

こずえは、人形を抱えて出てきた。

晶葉がこっそり中に忍ばせていたものだ。

大きさはこずえの手に納まるくらいの、小さなものだった。

そして、どことなく晶葉に似ていた。

「そうか、見つけたのか…。

 それの、背中のぜんまいを…回してみてくれ」

こずえは震える手で、ゆっくりとぜんまいを回した。

すると人形が、こずえ、こずえ、と言葉を発した。

それはくぐもっていたが、晶葉の声だった。

「本当に、非効率な機能だ…

 気恥ずかしくって…

 素直に…渡せやしない…」

晶葉は苦笑したように、顔を歪めた。

「こずえ…逃げろ …それを持って…」

晶葉は崩れ落ちた。もう限界が迫っていた。

こずえは涙をぽろぽろ流しながら、しばらく立ち尽くした。

だが、晶葉が息を引き取る前に領外へ逃れた。

晶葉はかすむ意識の中、いままでの絡繰達のことを思い出していた。

「ごめんなぁ…お前達…ずっと、こんなに…痛かったんだな」

冷たくなっていく彼女を、鎧武者が静かに見守っていた。

おしまい


良かった

最高傑作だと思う(毎日更新)

好き

速筆だなぁ
今回も面白かった

時代"劇"だから悲しくないもん

クオリティ落ちないね

おつおつ
よしのんがこずえを拾う未来しか見えない・・・

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