鷺沢文香と一ノ瀬志希は同じ日に生まれた。 (16)
次レス注意書き
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496070828
-ー=-‐ 、__
, r '" ヽ,
l ' ,
/ 三ニ=ー-'`=ニiiiiiiiiiiil
/ ニ'" `ヾiiiiiiii|
/ ニ' 'liiiiii|
,l |,r=-;.,_ _,、-=-、|iiiiil
l .il .,rェェ、_" :;"ェェ j |iiiiiil
| . i| ,, :; ,, iiiiiiil
,| il, , :: , liiiiiill
l iil, ` ' ,|iiiiiiii|
/ l、 ー- -,ー イiiiiiiiiill
/ iゝ、  ̄ /|iiiiiiiiiiiil
/ i| `ー- ' " ,liiiiiiiiiiii|
クソスレータ・テルナー[Qtosleata Telnault]
(1946~1992 イタリア)
※登場キャラ
一ノ瀬志希
http://i.imgur.com/IYlc1hE.jpg
鷺沢文香
http://i.imgur.com/FgQNVp4.jpg
(以下本文)
――アイドル・鷺沢文香と一ノ瀬志希は同じ日に生まれた。
と書くと、案の定、編集さん・校正さんからギモン出しをいただきました。
もっともな指摘です。
戸籍上の私の誕生日は10月27日、志希さんは5月30日です。
事務所との契約日も、デビューした日も異なります。
しかし私と志希さんとの間では、
『アイドル・鷺沢文香と一ノ瀬志希は同じ日に生まれた』
ということになっています。
生暖かい雨が降る日のことでした。
その時期の私は、デビューシングルの収録や関連イベントの準備が大詰めでしたが、
『こんな私が本当にアイドルになれるのか……』と今更な不安を抱えている状態でした。
私は、幼少の頃から本が一番の友人でした。
書を繙けば、眩しく輝く空想の世界で、主人公を演じる気分に浸れました。
そんな私がプロデューサーさんのスカウトに心を動かされたのは、
書の心躍る感覚を、現実でも味わえたら……という願望を撞かれたから、でした。
しばらくはその共鳴に酔って、深く考えずにレッスンへ没頭できたのですが、
デビューまでの計画が具体的になると、私の冷静な部分がある弱点を思い出しました。
当時の私は、自分の空想を形にして他人に見せた経験が無かったのです。
私はもっぱら読むばかりの人間で、作文は人並みにできましたが、
自分から書をつづったことはありませんでした。
そんな私が、アイドルになって空想の世界を描き、
人の心を動かしてファンを集められるのでしょうか。
疑問を抱えたまま、その日のレッスンが時間切れとなり、
しかたなくプロダクションを出ようとすると、エントランスで硝子の向こうに雨が見えて足が止まりました。
私は傘を持っていなかったのです。
売店がないかと辺りを見回すと、エントランスに設けられている椅子の一脚に、
志希さんがもたれかかっていました。
「志希さんも……遣らずの雨、ですか?」
「折り畳み傘なら持ってるよ。文香ちゃんは持ってない? なら、駅まで一緒に歩いてこうか」
当時の志希さんは、私と同じくデビューを目前にしたアイドル候補生でした。
私は自分から他人に話しかけるのが不得手ですが、
志希さんとは同じ基礎レッスン中に体力を使い果たし倒れたことがあり、その縁でよく話す仲でした。
私は文学の本を、志希さんは自然科学の本を、それぞれ貸しあったこともあります。
「ありがとうございます……それでは、お気持ちだけ。急ぎませんので」
私は一瞬、志希さんの好意に甘えて、駅まで傘に入れてもらおうかと思いました。
しかし、志希さんが腰をあげるより先に、
「お隣、よろしいでしょうか?」
「お茶も出ないけど、どうぞお構いなく」
私は志希さんの隣の空き椅子に、腰を下ろしました。
「こうして、雨を見上げてメランコリーな顔してるの、志希ちゃんには似合わないかな」
「……どうして、そう思われたのですか」
「文香ちゃんは、それが気になって帰るの止めたのかと思って」
「……雨の憂さ晴らしにしてよいのであれば、うかがいたいですね」
志希さんの口ぶりは『自意識過剰かな』とはにかみ、
私の声は図星を指されて開き直っていました。
「今日、デビュー曲が届いたんだ。収録も始まって、いよいよアイドルってカンジ」
「聞かせてもらってもよろしいでしょうか」
私の穿鑿にも、志希さんは頓着無い風でした。
「アカペラでよければ、今ここで歌ってもいいよ」
「すごい自信ですね。今日もらったばかりの曲を、人前で歌えるのですか」
「音程と歌詞とリズムは頭に入れたから」
志希さんは、ポケットからピンクのイヤホンを出して、
片方を私に手渡し、もう片方を自分の耳にはめて、スマートフォンに指を添えました。
「今日の最後のテイク、よければ」
「……拝聴いたします。ちなみに、タイトルは」
「“秘密のトワレ”」
https://www.youtube.com/watch?v=wD3olymAvN0
その時に聞いた『秘密のトワレ』は、
後に売り出された音源と比べても、九割方は完成されていました。
デジタルファンクの伴奏を従え、剣呑で蠱惑的な歌詞、揺らめくメロディが、
志希さんの囁くような歌声となって私に届きます。
私の意識は志希さんの曲に飲み込まれていきました。
歌の中の志希さんは、絡みつくように迫り、脳内にまで忍び入ります。
“吐息がうなじをくすぐるように”のくだりなど、本当に耳を吐息で撫でられている錯覚さえしました。
「ご清聴ありがと」
曲が終わっても、私は志希さんにイヤホンを抜かれるまで何もいえませんでした。
歌う側が目眩を起こしそうな旋律。
そして惚れ薬を作り意中の人を奪い去る倒錯的な歌詞。
その歌をここまで歌いこなす志希さんの声と吐息。
「もし私がこの曲でデビューだと言われたら……腰を抜かしますよ」
自分が収録に苦戦していたので、つい歌う側の視点で感想が浮かびました。
私の歌声は、この音声と同じように、人の心を動かせるでしょうか?
その域までの道は、雨霧に包まれて見通せません。
「今日はこのテイクでとりあえず切り上げてもらったの。
志希ちゃんグッタリ疲れちゃって、帰る前に休憩してたんだ。いっぱいダメ出しされちゃったし」
私と反対側のイヤホンで聞いていた志希さんは、
まるで今しがた自分が歌いきったかのように大きく息をつきました。
「……どんなことを言われたのですか」
「本当に自分から抽出した成分をファンにぶち込んで虜にするつもりで歌え、って」
プロデューサーさんから見て、志希さんは歌に没入しきっていないということでしょうか。
「いやぁ、まさかアイドルになってケミカルテロを教唆されるとは思わなかったよ」
「……空想で、そういう人格を演じるだけですよね?」
「そーなんだけど、そーしたら、あたし本当に“もう戻れない、ごめんね”ってなる気がするの」
志希さんから漏れた歌詞は、ためらいの色が塗られていました。
「あたしがデビューしたら、どれくらいの人が“秘密のトワレ”を聞いてくれるのかな。
あたしの論文読んでくれた人と、どっちが多いだろう」
「志希さんは……確か、アメリカで薬学をお修めに……?」
「うん。ちょっとだけ。だからPVとか有線ふくめたら、きっとコレを聞いてくれる人のほうが多いね」
「同じアイドルの私が言うのもなんですが、なかなか現実感が湧きませんよね」
アイドルならずとも経験があると思いますが、自分の声を録音して聞くと、
普段自分で発話して自分の耳で拾っている音声と比べて“本当にこれが自分の声か?”
と思ってしまうほど印象が違うものです。
私たちアイドルの場合は、その“本当にこれが自分の声か?”と思う響きが、そして姿や立ち居振る舞いが、
“鷺沢文香”や“一ノ瀬志希”というラベルを貼られて、電子データとして拡散されます。
「これが“今度のあたし”かと思うとね。どうなっちゃうのかな、って怖気づいてるんだと思う」
「……“今度のあたし”とは」
「手前味噌だけど、薬学やってた頃のあたしはちょっとした有名人でさ。理由は、一人だけ若いから。
あと、やってた研究テーマが……ニオイと嗅覚と脳とメンタルのカンケイを分析するっていう、
メンタル病み病みなイマドキにぴったりなモノだったってのもあるかな」
私は、志希さんのいう“あたし”が、
“志希さんが余人から抱かれるイメージを指している”とあたりをつけました。
「“以前のあたし”は、志希さんのお気に召さなかったようで」
「気に入ってたら、まだあっちにいたよ」
そしてすぐに、“秘密のトワレ”と“あたし”が結びつきました。
「……この歌詞を書いた人、志希さんの研究テーマを調べてるでしょうね」
「論文検索でタイトルだけは読んだんだろうね」
「志希さんは“今度のあたし”が、アメリカ時代を思い起こさせるのが……」
言った直後に、私は自分の目を覆いたくなりました。
思いつきの勢いに任せた、不用意な言葉でした。
私の場合は、アイドルになる前は普通の大学生かつ古本屋の店員で、
それについて特にネガティブな認識はありませんでした……が、志希さんはどうでしょうか。
「思い起こさせるほど似ているから忌避しちゃう気がするし、そうじゃない気もする。
そもそも、思い出したくない気がするし、忘れたくない気もする……まとまんないなぁ」
志希さんはウェーブヘアをくしゃくしゃと乱しながら体を揺すっていました。
その様で私に“えたいの知れない不吉な塊”を連想しました。
だから私はあの時、あんな突拍子のないことを口走ったのかもしれません。
「志希さん、レモンを買いに行きませんか?」
立ち上がると、頭を抱えた志希さんが見上げてくる視線が、ちょうどかちあいました。
私たちは小さな折りたたみ傘の下に身を寄せ合って、プロダクションの自動ドアを通り、
しとしと雨に濡れるタイルの上を歩きはじめました。
こいついつも志希書いてんな
でも好き
プロダクションは都心駅近くの商業地域にあって、生鮮食品を扱っている店がやや遠く、
私たちはそれなりの距離を歩く見通しでした。
「レモンってさ、前に文香ちゃんが貸してくれたアレのこと?」
以前私は、志希さんに梶井基次郎の『檸檬』を貸しました。
“えたいの知れない不吉な塊”に押さえつけられていた梶井が、
街をさまよううちに目に止まったレモンを買って、丸善書店に置き去りにする短編です。
「それなら、八百屋さんのレモンじゃなきゃダメだよね。トロピカーナかな、サンキストかな」
「あれは確か“カリフォルニヤ”産でした」
「じゃあサンキストだね」
スマートフォンの地図アプリを起動した志希さんは、
いわゆる青果店に候補をしぼって場所を検索していました。
「それにしても文香ちゃんったら、意外と物騒なコトを考えるね。
プロダクションにレモンを置き去りにして、ドカーンとやっちゃえーってつもりでしょ」
『檸檬』の中の梶井は、ガチャガチャと自分を悩ませる丸善の店内にレモンを置いて、
そのレモンが大爆発を起こし店をこっぱみじんにするという想像を抱いて立ち去ります。
「レモン一つで、そこまでファンタジックな想像ができるって、すごいよね」
「私はそういった空想にふけることが、時折あります……」
「あたしは、そーゆーの怖いかな」
さすがに悪趣味な提案だったかという後悔が、今更ながら心中にわきました。
といっても一つの傘を握った私たちの足取りは、止まらないまま。
「知ってる? 今の調香師ってね、香水のレシピを考えるとき、ほとんど素材のニオイを嗅がないんだ」
「嗅覚は、とてもデリケートだから……ですか」
私の香水についての知識は、以前に志希さんが貸してくれた、
ジャン=クロード・エレナのエッセイを読んだ程度でした。
「調香師学校では最初に10種類のニオイを覚えるんだけど、
一つ覚えたら、次のニオイまで1時間以上は間隔を空けなきゃダメなの。
そうしないと、鼻が疲れちゃってうまく覚えられない」
「志希さんでも……ですか」
「ヒトの嗅覚ってみんなそーゆーモノなの」
志希さんは、スマートフォンをポケットに入れました。
目的地へのルートが脳裡に描けたのでしょうか。
あるいは、果物がひしめくニオイを嗅ぎつけたのかもしれません。
「調香師たちは、いちいち素材のニオイを嗅いでたら鼻がもたないから、
頭の中のラボに何百種類かの材料をコレクションしてて、まず頭の中で調合するの。
調合をレシピに書き出して、うまく行きそうだと思ってはじめて、実際の香りを手に取る」
私が調香の妙に圧倒されていると、志希さんは微苦笑して言葉を続けます。
「文香ちゃんも、辞書を見なくたって言葉を話せるでしょう。頭の中に語彙があるから。
それと同じ。単語を一つずつ覚えるように、香りを一つずつ覚えていって、
単語を組み合わせて文章を綴るように、香りを組み合わせて香水を作ってるの」
私は前述のエッセイで、調香にcompose(書いて作る)という動詞が配されていたのを思い出しました。
「着いたね。八百屋さん」
私たちは、事務所から少し離れた商店街の青果店で足を止めました。
お店は年季が入った木造で、通りに面した20歩ぐらいの幅の売り場は、
プラスチックのカゴやダンボールに入れられた野菜や果物が所狭しと並んでいました。
時間帯は夕方でしたが、雨が降っているせいかお客さんはまばらでした。
「あった。サンキストのレモン」
志希さんが売り場の隅を指すと、その先に青いロゴの貼られたレモンが、
ダンボールに入って並べられていました。
「さて、どこまで話したっけ……あたしは、香りを頭の中で組み合わせるんだってところまで、だね」
志希さんの目は、黄金色に光るレモンを食い入るように見つめていました。
きっとその嗅覚は、レモンの青く酸っぱい香りをも、しっかりと捉えているでしょう。
「化学実験も同じ。頭の中で仮説をひらめいて、試してもいいなと思ったら、実行する。結果を見る。
結果を頭に取り込んで、また仮説をひらめいて試す。ずっとずーっと、その繰り返し。
つまりあたしのイマジネーションは、いつだって、現実へフィードバックされるのが前提だった」
私は志希さんと一緒に折りたたみ傘の柄を握っていました。
指は触れ合っていて、志希さんの手がかすかに震えているのを感じていました。
「だから、ビルを爆破するとか、香水でヒトの心を奪う……とか想像してると、
それを現実とする道筋を自分がひらめいちゃうんじゃないか、って思っちゃう」
柄で触れ合う志希さんの指先は、しっとりと冷えていました。
「あたしが『檸檬』みたいに、あのレモンでプロダクションのビルを爆破できるって言ったら、
文香ちゃんは笑ってくれるかな」
「……冗談だな、とは思いますね」
私は志希さんの真意を測りかねて、言葉に迷いましたが、結局感じたままを口に出しました。
「あたしが“秘密のトワレ”みたいに、香水で人の幸福感や興奮状態を操作してヒト一人オトせるって言ったら、
文香ちゃんは笑ってくれるかな」
「……冗談ですよね?」
「ほんの一部だけど、アメリカのある人は冗談だと思わなかった。
あたしもイロイロやりすぎて“もう戻れない”状況だった。だから“あたし”は逃げ出した」
小さな傘一つに収まってレモンを凝視しているのを怪しんでか、
青果店の人やお客さんは私たちを遠巻きにしていました。
「あたし、アタマおかしいと思う? 現実と空想の区別がついてないって」
志希さんのいう空想と、私の思う空想は、ある前提が決定的に異なっていました。
「……私の空想は、実現できないことが前提ですから……」
「安心した。キミが本気で爆破やろうとか考えてる人だったら、あたしうまく付き合う自信ないから」
私の空想はいつも現実から遊離していて、志希さんの空想はいつも現実へ回帰しようとする。
「これはあたしの経験則だけど、みんな自分で思うほど現実と空想の区別をつけられてないよ。
特に、周りの100人に“キミには無理だよ”と言われてきたコトを何度も実現させちゃったりするヒトがいると、
みんないつしか自分の空想で描いたコトを“あいつならやりかねない”と思うようになる」
「それは……私事ですが、思い当たる節がありますね」
“あいつ”は志希さんであり、ある意味で私も同じ立場にあと一歩まで近づいています。
一年前の私からすれば、鷺沢文香がアイドルになってステージで歌うなど、夢でも不可能なことでしたから。
「あたしが、例えば一年後までアイドルを続けたら、どうなってるんだろうね。
今のあたしが想像だに恐ろしいと思う“秘密のトワレ”みたいなコに、なっちゃってたりして」
アイドルの世界は、どんな荒唐無稽でも実現させかねないように見えます。
志希さんも、その華やかで危険な誘惑の香りを嗅ぎ取っているのでしょうか。
それは華やかさゆえに私たちを魅了し、デビュー寸前の位置まで引き寄せて、
それは危うさゆえに私たちを怖気づかせ、一歩先へ進むのをためらわせます。
「その恐ろしさが飽和すると、あたしはプロダクションを爆破……する代わりに、
アイドル・一ノ瀬志希を自分から引っ剥がして、キミもプロデューサーも、
ここで出会ったヒトたちみんな投げ捨てて、失踪するの。イヤな話だね。寂しいよ。
でも“もう戻れない”ってきっとそーゆーコトだと思う」
もし、鷺沢文香や一ノ瀬志希の偶像がたくさんのファンの思いを受けて膨れ上がって、
実像たる私たち自身ですら持て余すようになった時、私たちはどうすればいいのでしょうか。
「……すみません」
私は志希さんの手を握りながら、青果店の方に声をかけました。
「レモンを一つ……いただけますか?」
単純で力強い黄金色の紡錘体は、周りのどんよりとした世界を吸収して、
カーンと冴えかえっていました。
しとしと雨は、相変わらずでした。
私たちはレモンが一つ入ったビニール袋をぶら下げながら、
小さな折りたたみ傘に身を寄せ合って、プロダクションへ戻る道を歩いていました。
「文香ちゃーん。あたしのハナシ、聞いてた?」
「……聞いておりましたよ。難しいお話でしたが。
さしあたって、このレモンを爆弾扱いするつもりはありません」
私たちはレモンを買った後、手のひらで転がしたり、指でもんだりしました。
重ねた手からも、どことなくレモンの青い残り香を感じられました。
「ただ、今の私たちのふらふらとしたこの気持ちを、レモンの香りと合わせて覚えておこう、と思っただけです。
そうすれば、もし道を間違っても、気づいてここに戻れますから」
志希さんは私たちの手をくんくんと嗅ぎました。
「魔法使いの家から帰りたくなったときの、あたしたちの道標は、このD-リモネンの記憶?
パンくずと違って、思い出なら誰かに食べられちゃうこともない、か」
志希さんがビニール袋を持ったまま、その口に鼻を近づけると、
しゃらしゃらした音をビニールが立てるのとともに、レモンの香りがこぼれ出ました。
「いいよ。文香ちゃんが言うなら、今あたしのラボのラベルに書き加えちゃう。
あたしたちの初心は、カリフォルニアのレモンの香りだ、って」
私の描いた空想は、志希さんとレモンと雨を媒介にして、初めて現実への結びつきを得ました。
私たちはプロダクションに帰ると、仕事中のプロデューサーと一緒に飲む紅茶を淹れました。
その紅茶には買ってきたレモンを切って添えました。
さらに志希さんは、プロデューサーの一杯へたっぷりとレモン果汁を絞り入れました。
それを見たプロデューサーはぎょっとしていましたが、
「コレ、惚れ薬だと思って入れたの♪ 飲んで飲んでー!」
と志希さんに押し切られ、
苦い表情ながら最後まで飲み干していました。
●
あの日、覚えておこうと言った私は、それに飽き足らず、
今こうしてあの日のことを書き残しております。
レモンの香りを感じるたびに、思い出します。
私と志希さんが迷いながら雨中を歩いて、レモンを買いに行ったことを。
志希さんが、アイドルデビューへの最後の一歩を踏み出したことを。
私の描いた空想が、はじめて人の心を動かしたことを。
その日、アイドル・鷺沢文香と一ノ瀬志希が生まれたのです。
(おしまい)
志希誕生日おめでとう!
みなさんも一言祝ってくだされば幸いです。
(以下ダイマ)
【楽曲試聴】「秘密のトワレ」(歌:一ノ瀬志希)
https://www.youtube.com/watch?v=wD3olymAvN0
【楽曲試聴】「女の子は誰でも」(歌:一ノ瀬志希)
https://www.youtube.com/watch?v=QMtlK6yj5f8
【楽曲試聴】「Bright Blue」鷺沢文香
https://www.youtube.com/watch?v=67bgK3LMkD4
【楽曲試聴】「大きな古時計」(歌:鷺沢文香)
https://www.youtube.com/watch?v=4eaVnkXQWU4
第6回総選挙のアイドル紹介でこの通り
http://i.imgur.com/hlTKrtJ.jpg
文香が志希に書を薦めたことがある、とあったので、何か文香は志希に薦めていると思い書きました
はっぴーばーすでー
檸檬選んできたのにクスッときた
檸檬、好きなんだよなぁ
やっぱ上手いなぁ乙
交流会楽しかった
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません