【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」 (110)
性役割逆転系時代劇 江戸中期ぐらい
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連年の不作のあおりを受け、美城藩は慢性的な財政難に陥っていた。
それをきっかけとして、家老千川ちひろと大目付東郷あいの派閥争いは顕在しつつあった。
執政会議において、千川は倹約令を唱えた。
未納分の年貢と負債を残らず取り立て、それができぬ地主や百姓は土地を没収。
同時に藩が手に入れた土地は富商に引き受けさせ、見返りとして貸付を増やしてもらう。
つまるところ、倹約というよりは藩が土地売買に手を染めるようなものだった。
これに東郷は異を唱えた。
「不作でもっとも困窮している者達を、さらに痛めつけてどうするんだい?」
これに対して千川派の人間達は、それは感情論だと非難した。
しかし実のところ、東郷は単なる感傷で口を挟んだのではなかった。
千川は昨年、藩主の江戸参上に同行した。
そこで主とともに藩の財政に響きかねないほどの遊興をし、領地に戻ってからも無為な散財を行なっている。
勘定奉行は千川の息がかかっていたために、今まで咎める者がいなかった。
だが東郷は執政会議を機に、藩主と老中千川を暗に批判したのである。絞り上げる人間が間違っているぞ、と。
藩内は千川派と東郷派に真っ二つに割れた。
流血沙汰こそまだ起こっていないが、中立という安易な立場が許されぬほど、対立は深まっている。
本田未央は一応東郷派に属しているが、率直な所政治に興味はない。
それどころか千川派の者の邸宅で酒を貰っている始末である。
「大変なことになっちゃったねえ」
まるで他人事のように、未央はつぶやいた。話し相手は、若くして馬廻の長を勤める渋谷凛である。
「政治は政治屋にまかせて、私達はできることをやろうよ。権力争いの走狗になって死ぬなんて、馬鹿馬鹿しい」
凛は血累によって千川派に属していたが、未央と同じく政治に興味はない。
両者は派閥も家柄もちがっていたが、無二の親友であった。
未央は酒をすすりながら、豪奢な庭園を眺めた。
季節の花々が軽く数百種咲き誇り、えもいわれぬ芳香を放っている。これが、渋谷邸が“花屋敷”と称される所以である。
花々の蒐集を始めたのは先先代の当主で、彼女は色を好まない代わりに、文字通りの花狂いであった。
蒐集の手は国内だけでなく国外にも伸び、一時期渋谷家が傾きかけたほどである。
しかし当人は晩年、花の数を聞かれた折「二種類しかありませぬ」と答えた。
すなわち、孫娘の凛とそれ以外。
未央は凛の顔をしげしげと眺めた。
切れ長の瞳。まっすぐ綺麗な形の鼻。小さく艶めいた、美しい唇。長い黒髪は月光を浴びて、ほのかに輝いている。
同性の未央ですら時折妙な気分になるほど、凜という女は魅力的な容貌である。
さらに気も利き、文武にも優れている。先先代の孫馬鹿にも納得できよう。
幼少にして四書を読破し、漢詩を趣味として嗜む。また謡もうまく、たびたび藩主に乞われて参上するほどである。
剣術においては柳生新陰流の免許皆伝を受け、門下生百名以上の道場で並ぶ者がない。まさに天才剣士である。
家柄は家老の千川家に連なる名門である。
果たして渋谷凛ほどの逸材が、此度の政争に無関係でいられるだろうか。未央はまた酒をすすった。
自分は心配ない。本田家の禄高は50に届かず、未央個人の身はしがない平武士。
二年前苦労して論語を読み解いたが、孟子でつまずいた。
内容があまりにくだらなかったから。未央は述懐した。読めなかったせいでは、決してない。
唯一のたのみは剣であるが、藩内では異端の示現流である。
九州から流れ着いた“という”浪人が、食うに困って始めた道場が外れにあった。
そこは月謝がとかく安く、下級武士の吹き溜まりのような場所だった。
未央はそこで皆伝を受けたが、なにせ道場主がそもそも怪しいので、凜とは比べるべくもない。
おかげさまで気楽に酒が飲める。未央は自嘲気味に微笑んだ。
彼女の当面の懸念は、政治や自身の進退ではなく花嫁だ。
脳裏に浮かぶのは、自身よりも一回り近く年上の男。背は六尺一寸、領内一の長身。
肩幅はがっしと広く、身体つきは引き締まっている。顔は世辞にも美男子とは言えず、近寄りがたい険がある。
まず、抱いて楽しい男ではない。
だが気性は優しく、家事もそつなくこなす。口数は少なく、伴侶をよく立ててくれるだろう。
未央にとっては理想の嫁である。
この前会った感触も悪くなかった。重ねた手をもそっと握り返してくれた、その時のことを思い出し未央は微笑んだ。
「お嫁さんのこと考えてた?」
未央の表情の緩みにめざとく気づいて、凛は尋ねた。
「まあね」
未央は曖昧に返事をした。未央は、花嫁のこととなると凛を警戒してしまう。
渋谷家と武内家では家柄に差があるゆえ、伴侶を掠め取られることはないはず。
そう考えたいが、凛の美貌の前には自信がない。まして渋谷家には、下流武家の1つや2つ買い上げてしまいそうな富がある。
本人はともかく、武内家の当主が首を縦に振らないとは限らない。
だが不安と同時に、凛だったら、という気持ちもある。
美人で優しく、出世が約束された婿。名家での不自由ない暮らし。彼女の伴侶になるものは幸福に違いない。
その幸福を捨ててまで、私と一緒になってとは言えない。
未央の表情にふっと陰が差す。凛はそれをまた目ざとく見つけて、
「取ったりしないよ」
と親友に言った。
未央はこの言葉を聞き、親友を無闇に警戒している自身を恥じた。
「そっちのお嫁はどうなのさ」
気を紛らわすために、未央は尋ねた。
「さあね。決まってはいるけど」
凛はそっけなく返す。彼女の生まれる前から、嫁の相手は千川直系と定められていた。
好きも嫌いも、良い悪いもない。
「それじゃあお互い、こっそり色街を見にいくこともできないわけだね」
未央は親友との馴れ初めを思い出した。
数年前。金はあったが度胸がなかった凛は、色街の入り口をうろうろしていた。
金がなく度胸はあった未央が彼女を発見したのである。
以降良家の娘は悪い遊びを覚え、その悪友は少しまともになって現在に至る。
「色街か…今行けば、お互いの派閥に目をつけられるだろうね」
凛はそうこぼした。
政争に興味がない2人とはいえ、異なる派閥の人間が和気藹々と戯れていれば、間諜の疑いは必至である。
「お嫁と自分の安心のために、大人しくが一番だね」
未央はそう言い、また酒をすすった。
後日勤めを終えた未央は、道場に急いだ。藩内の不穏な空気がそうさせたのである。
派閥争いに参加する気はなかったが、相手が未央を見逃してくれるとは限らない。
斬り合いに突然巻き込まれることも、覚悟をせなばなるまい。
道場の門を叩いた未央を迎えたのは、門下生の凄まじい猿叫だった。顔が痺れ、前髪が少し浮く。
「おーすっ」
未央が挨拶をすると、門下生一同が礼を返した。免許皆伝を受けた未央は、吹き溜まりの中の英雄であった。
「こんにちは、でしてー」
道場主、依田芳乃が奥から顔を出した。
年齢不詳。身長は未央よりも低く、身体つきは子どものようである。
顔立ちも幼く、道場の主としての威厳はない。
薩摩で生まれ示現流を覚えた、というのが本人の弁だが、訛りや顔つきが薩摩らしくない。
ただ、おそろしく腕は立つ。なので信用はともかく、侮られてはいなかった。
「稽古でしょうかー」
えらく間延びした声で、芳乃は未央に聞いた。
「うん……もうじき、斬り合いに巻き込まれるかもしれない」
未央は深刻な顔で言ったが、芳乃は「そうですかー」とだけ返し、木刀を投げた。
未央はそれを受け取ると、道場の裏手にある林に入った。
そこには、樹齢数百の杉の大樹がある。未央は杉に一礼したあと、猛然と木刀を打ち込んだ。
『立ち木打ち』。未央が林の面積を半分にしてからは、この大樹が彼女の相手をしている。
未央の打ち込みがそれだけ強力なのである。仮に真剣を用いれば、大樹を両断することもできるかもしれない。
相手が人間であれば、彼女の太刀を受けられる者はいないだろう。
斬り合いなんて…のぞむところだ!
未央はいつも以上に気勢を張って、大樹を打った。
半刻ほど過ぎた後、未央は人の気配を感じ振り返った。
道場から人が駆けてくる。
「よい勘なのでしてー」
芳乃は駆けた勢いのまま、未央に木刀を振るう。
未央は後方へ飛び、それを回避する。示現流の、いや芳乃の懸打ちを受けることは不可能だった。
木刀を握った拳が砕け、こちらの刀身が肩口にめり込んでしまう。
振り抜いたところへ、未央は打ち込む。手加減はする必要がない。否、できる相手ではない。
芳乃は地面を転がって躱し、そのまま未央の足を狙う。
未央は飛び、芳乃の脳天へ木刀を振り下ろしたが、これは受けられた。
「なぜ手を緩めるのでしてー?」
「緩めてない!」
「未央さんが本気だったら、私は死んでいるのでしてー」
芳乃は受けた刀身をぐいと押して、そのまま未央を地面に倒してしまった。とてつもない膂力である。
「そんなことでは人は斬れないのでしてー」
「師匠が斬れなくても、普通の人ならもう死んでるよ…」
未央は力無く、そう返した。
「未央さんは優しすぎるのでしてー」
立会いを終えた後、芳乃はそう告げた。
未央は、「優しい人斬りを目指しているからね」と減らず口を叩いたが、内心は消沈していた。
他流試合を禁止されているので、未央の強さの尺度は芳乃との比較である。
芳乃に勝てないということは、成長していないということ。負けるたび、未央はそう結論づけている。
だが示現流の技は全て覚えてしまっており、単純な膂力はもう伸びない。
あとは衰えるだけなのかも。未央は恐怖した。
剣に見放されれば取り柄はないと、彼女はそう思い込んでいる。
道場を後にして、未央は渋谷家に足を運んだ。
酒が飲みたい気分である。しかし金がない。その時の親友である。
「可愛い未央ちゃんに、お酒を恵んでおくれ〜」
未央はそう嘯いて渋谷家の門を叩いた。
無礼極まりない行為だが、未央が酒を飲みに来る時、いつも凛が門にいるので問題ない。
だがその凛は、なかなか出てこなかった。
「お酒ちょうだい。ねえっ、お酒ちょうだいって言ってんじゃん!
聞こえてるんだろ、返事しろー!!」
未央はふざけ半分に門を叩く。凛でなくとも、門を閉ざしたくなる有様だった。
ようやく門が開き、未央は勇んで屋敷に乗り込んだが、待ち構えていたのは凛の両親だった。
「あっ…」
未央は口を開く前に膝をついた。相手は藩の家老に匹敵する地位の人間である。
「そなたが本田未央か」
凛の母が未央に尋ねた。凛によく似ていて、美しい女だった。
だがその美貌を、ゆるりと鑑賞する余裕はない。
「はい。左様に御座いまする」
未央は恐縮しながら、慇懃な口調で答えた。
さきほどの振る舞いを考えれば、すでに手遅れとも考えられるが、未央も武家の人間である。
「凛がどこにおるか、分からぬか?」
凛の父親が、控えめに未央に尋ねた。
「戻っておられぬのですか」
凛は非番のはずである。
外はすでに暗く、戻っていないのはおかしい。
「そなた、本日行われた執政会議について知らぬようだな。
でなければ、ここへ来るはずがない」
凛の母はこめかみに指を当てて、ため息をついた。
大目付の東郷は千川派の糾弾に耐えかねて、千川と藩主を名指しで批判し、逆鱗にふれた。
東郷は無期限の謹慎処分を受け、議会は千川派が占めるようになった。
民を痛めつけ、賢臣を罰するとは何事か。この処分に東郷派の人間は激怒している。
それこそ千川派の人間どころか、藩主を殺めかねないほどに。
そのような事態の最中、一人娘が帰ってこなければ渋谷家でなくとも不安であろう。
未央は、「凛殿を連れて帰りまする」と言って屋敷を飛び出した。
馬廻の詰所、二人が出会った色街。新陰流の道場。
凛がたまに講師をつとめる寺子屋。
この前二人で立ち寄った茶屋。藩主の屋敷。
どこにも凛はいない。
未央は息を切らし、道にへたりこんだ。
もう心当たりはすべて探した。
あとは川底でもさらうか。
未央が再び立ち上がろうとした時、彼女は複数の武士に取り囲まれた。
東郷派の人間達である。
「本田さん。誰をを探してるんですか?」
徒士の大石泉が、未央に問うた。
「尾けられるほど人気者で嬉しいなー」
凛を探しているとは言えない。
東郷派に餌をくれてやるようなものだ。
「冷たいなあ。同じ派閥のよしみで、教えてくださいよ」
「派閥のよしみで見逃してくれたら教えるよ」
未央は不敵な笑みで、東郷派の人間の顔を見回した。
皆、未央と同じような下級武士である。
派閥争いの走狗。真っ先に切り捨てられる、哀れな存在。
だが最も哀れなのは、ここで彼女達に取り囲まれ自分だ。未央は考える。
自分は東郷派の人間に、間諜の嫌疑をかけられている。
無論理由は分かっている。凛との交流を絶たなかったからだ。
このままではまずい。
未央は叫んだ。助けを呼ぶためではなく、相手の意表をつくためである。
稽古で鍛え上げた肺活量は、未央の喉から凄まじい猿叫を響かせた。
その叫びは東郷派の人間の鼓膜を破壊しさ、数人を卒倒させた。
その隙をついて、未央は逃げ出した。
藩に居場所はなくなったかもしれない。
街を疾駆しながら未央は幽かに後悔の念を覚えた。
弱った心に思い浮かぶのは、未来の伴侶。
付近には武内家の屋敷があったが、駆け込むことはできない。小家などが政争に巻き込まれれば家が潰れかねない。
死んでたまるか。未央は武家屋敷が連なる通りを、自分に喝を入れながら走った。
追っ手を巻くために街を大回りして渋谷家を目指す。
結局凛を見つけられなかった。戻って、彼女の両親になんと言うべきか。
まあ八つ裂きにされることは…ないよね?
未央が暗黒の辻道を走り抜けようとすると、人らしきものに衝突した。
「ああっ、すみませぬ!」
「こちらこそ……」
相手の声は、凛であった。
「どこ行ってたのさー!」
未央は手探りで、倒れている凛を助け起こした。途中誤って尻を揉んでしまったが、感触はたいそう柔らかかった。
ついでに匂いをかぐと、かすかな香が鼻をついた。その香は年頃の男の間で、にわかに流行しているものである。
「男のところかい!」
未央は凛の尻を張った。とんだ骨折り損である。
未央はそのまま渋谷家に戻り、凛を父母に引き渡した。
時刻も遅く帰りが危険なため、未央は初めて一泊を許された。
さらに夕餉を馳走になった。領内の不振のせいなのか家柄の割には慎ましいもので、未央は好感を持った。
とはいえ、千川派の人間にここまでの歓待を受けたとなれば、もはや東郷派からの吊し上げは必至である。
なるようになれ。未央は出された酒をすすった。
翌朝凛が勤めに出た後、未央は凛の両親から金子を渡された。
その額30両。未央にとっては目も眩む大金である。
「今後渋谷家には、近づかれぬよう」
昨日の礼ではなく手切れ金ということだった。
未央は腹は立てたが、名家の当主が娘に近づく蝿を払うのも、当然のように思われる。
未央はかしこまって受け取り、“家には”近づかないように決めた。
はよはよ
期待
未央はこの程度で、自分と凛の絆が切れるとは思わない。また切ろうとも思わない。
凛のような友は貴重である。羽目を外しすぎる未央に釘を刺すこともあるが、よく未央を助けてくれる。
論語をなんとか読解できたのは凛の指導の賜物であるし、時折弟の教師も勤めてくれる。
本田家を訪れる際には家族皆に、気の利いた土産などを持って来る。
……私がしたことといえば、いくつか悪い遊びを教えたくらい。
親友との過去を振り返って、未央は軽い自己嫌悪に陥った。凛の方も未央を貴重に思っているよう、祈るほかない。
さてな。未央は膝を叩いて商店が並ぶ通りに足を進めた。
駆け込み寺がなくなったのは惜しいけど、いざとなれば道場に身を寄せよう。
まとまった金を手に入れた未央のやることと言えば、武田家および未来の伴侶への贈り物である。
本田家の家柄ゆえ、たとえ両思いであっても正攻法では嫁がもらえぬ。外堀を埋める必要がある。
いきなり反物など送ると、「もう婿様気分か」と嫌味を言われ兼ねないので、まずは季節にあった菓子や食物である。
軽く汗ばむほどの気温であるので、水菓子・涼菓などがふさわしかろう。
未央は凛とともに訪れた茶屋を思い出した。あそこは水羊羹が絶品であった。
だが茶屋に着くと、未央は顔をしかめた。
千川派の人間達が談笑していたのである。
昨日と今日とついてない。未央は見つからないよう、こっそりと茶屋の裏手に回った。
店に顔を覚えらているから、ある程度の気は回してもらえるだろうと思われた。
だがその裏手では、千川派の女が店の少年を口説いていた。
「ついてなさすぎ!!」
未央は叫んだ。
その声に驚いて、少年は店の奥に引っ込んでしまった。
残った女の方はひどく不機嫌そうな顔で、未央を見た。
「よう田舎侍。今日は非番か」
それは、未央が示現流の遣い手であることを揶揄した呼び方だった。
「拙者は美城の生まれにございまする」
未央はそう言い返すことしかできない。相手は上約の木村夏樹である。
木村は未央をじろりと見ると、頰に笑みを浮かべた。
木村は精悍な容貌であったから、その表情に悪意はないように見える。実際どうであるかは、また別として。
「ところでお前、まだ凛と付き合ってるのか」
「は」
唐突な問いに未央は動揺した。
昨日は東郷派に取り囲まれたが、今度は千川派に尋問を受けている。
つまり、両派から間諜の疑いを持たれているのだ。
未央は黙った。答えを誤れば、ここで斬られるかもしれない。
口を閉ざす未央に、木村は言葉を続けた。
「お前も度胸があるよな。嫁さんもらう年頃の女は、みんな凛に近づかないぜ。取られちまうからな!」
木村はからからと笑う。悪口が悪口と聞こえぬ、妙な女である。
未央は反論しようと思ったが、自分にも思い当たる節があり、ただ静かに頷いた。
男を口説くのを教えたのは未央で、また、凛を警戒しているのは未央も同じであった。
未央が黙っていてつまらないのか、木村は「じゃあな」と表の方へ行った。
それから表で馬鹿笑いが聞こえたが、千川派の人間は来なかった。
木村は未央の存在を仲間に告げていないらしい。
怒るべきか感謝するべきか分からず、未央は菓子を手に入れた後、そそくさと茶屋を後にした。
面倒なことは、彼の顔を見て忘れよう。
未央は武内家の門を叩いた。しかし一向に返事がない。
未央はまた門を叩いた。それでも返事がないので、未央はひょいと壁をよじ登って屋敷を覗いた。
すると寂れた庭先に、彼が立っているのが見えた。
奉公人もいない家なので、彼が門を開けてくれないことには屋敷に入れない。
「おーい!」
未央は壁の上で声を張り上げた。そのまま屋敷に入ってもよいのだが、彼に門まで来て欲しかった。
そうでないと、拒まれているのではないかと不安になるのだ。
だが、彼は未央に気づくと怯えたような目で立ちすくんだ。
「入ったらだめ?」
未央がそう尋ねても、彼は硬直して、身動きひとつしない。
「私のことが嫌い?」
今度はそう尋ねると、彼はふるふると首を横に振った。
未央は安心して、壁をまたいで屋敷に入った。
もう何度も会っているが、彼の動きは硬くぎこちない。
極度の人見知りというわけではないが、女を前にするとこうなるという。
だが未央にとっては、遠慮がちで不器用な姿がまた愛おしい。恋をしたものが罹患する、一種の病気である。
武内の両親は不在だった。母親は仕事で、父は親戚の家を尋ねているという。
これを幸いに、未央は彼の近くに寄った。
いままでは両親の手前、隠れて手を握るだけだったが今日こそは。
正式に婚約を申し込もう。未央は決心した。
気持ちを固めると、未央は座敷に入るや否や彼を抱きしめた。
彼は少し身じろぎしたが、突き放しはしなかった。
未央は自分より一回り年上の、成熟した男の香りをかいだ。
緊張しているのか、ほんのり汗の匂いにまじった濃厚な牡。そしてかすかな香。
脳みそがやわらかくなるような、甘美な香りだった。
「私のお嫁さんになって」
未央は、やおら自分の中の雌が目覚めるのをこらえながら、婚約を申し込んだ。
焦ってはいけない。いまここで欲望に身をまかせたら、全てが台無しになる。
未央の言葉を聞くと彼はびくりと大きな身体を震わせた。
動悸がいっそう早まるのを肌越しに感じる。
「私のことが好きなら、ねえ…」
未央は彼の胸板をゆっくりなぞりながら、返事を待った。
だが彼は一向に返事をしない。
未央は自分の心臓が、深い焦燥で暴れ出すのを堪えた。
まさか、怖がらせてしまったのか。身は一旦身体を離し顔を窺った。
彼は、さめざめと泣いていた。
「申し訳、ありません…本当に」
「ごめん」
未央はそう言うしかなかった。本当は、「なぜ」と尋ねたかったが、彼を傷つけたくない。
「帰る」
未央はぽつりとそう言って、座敷から出た。
無理に屋敷に入ったのが悪かったのか。急に抱きしめたのがよくなかったのか。
それとも、はじめから私ではいけなかったのか。家柄か。
未央の中で様々な感情がせめぎあった。
後悔。悲しみ。恐怖。絶望。不安。
未来の伴侶を失った痛みは、未央を深刻に痛めつけた。
もし、凛だったら。
未央は、あの夜酒をすすりながら抱いた不安を思い出した。
凛だったら彼は受け入れただろうか。
この日、未央は自分の中にある、親友への憎悪を自覚した。
兄の嫁入り先に15両。自身の両親に14両。残りで弟へ腕に抱えるほどの菓子を買ってやった後、未央は道場に出向いた。
何も考えられなくなるくらい、木刀を振り回したい気分だった。
「こんにちはでしてー」
道場は芳乃1人で、他の門下生はいなかった。寂れた道場が、夏だと言うのに余計にうすら寒く見える。
未央は木刀を手に取って、裏の林に向かおうとしたが、芳乃がそれを阻んだ。
「邪魔なんだけど」
未央はぞんざいに木刀を芳乃に向けた。芳乃はまったく臆さず、その木刀の先をつかんだ。
「今日の未央さん、良い目をしているのでしてー」
「迷いがないからね」
雑念が渦巻いた胸中を自嘲しながら、未央は答えた。
「新しい技を授けるのでしてー」
芳乃は、いままで見せたことのない満面の笑みで言った。
新しい技。未央は首をかしげた。
免許皆伝とは、“もうこれ以上教えることがない”という段階で与えられるものである。
今更何を授けてくれるのだろうか。
「示現流の技ではく、私が編み出した技でしてー」
未央と芳乃は、道場の中心ではなく両端に立った。
奇怪だが、これが道場における正式な立会いの姿である。
互いに一礼した後、芳乃は蜻蛉に構え、がっと距離をつめてきた。
今度は相討ち覚悟でぶったたく。未央は中段から、八相に構えを変えた。
未央が横薙ぎに木刀を振るうと、芳乃の姿がかき消える。
芳乃は。未央は周囲を見渡す前に、こつん、こつんと頭と首を軽く打たれた。
「これが、私が編み出した“辻車”なのでしてー」
何が起こったのかわからない未央に、芳乃は言葉で術理を述べた。
辻車とは、“二の太刀いらず”の示現流の中では異質な二連撃である。
しかも、外した、受けられた後の二撃目ではなく、一撃目で仕留めた相手を再び斬る。
八つ裂きにしたいほど憎い相手にしか使えぬ、非情の剣。
あまりに武士の道に反した技であったので、いままで隠してきたのだという。
八つ裂きにしたいほど憎い相手。
未央は、秘剣の生まれた経緯に思いを巡らせた。
芳乃は憎しみどころか、人間的な情緒が欠落しているように見えた。
そんな彼女に、身を焦がすほどの感情を沸き起こさせた出来事とは如何に。
未央は軽く身震いした。
一方で未央は、技自体には何の感慨もない。
未央がこれから剣を振るうことになるのは、派閥争いのいざこざの中である。
相手への好悪の感情など、挟まれる余地がなく、さらに相手が一人で来る保障もない。
複数の人間に対して無意味な二撃目は隙であって、技としては欠陥である。
使えない、使う機会もない。師が編み出した秘剣を、未央はそう結論づけた。
「もっと便利な技だとおもってたよ」
未央は自身の失望を臆面もなく述べた。だが、芳乃は微笑んで答えた。
「心底憎んだ相手を1人斬れるなら、十分でしてー」
「いや、敵に囲まれたら使えないじゃん」
「その時は潔く死ねばいいのでしてー」
未央と芳乃では、死生観に大きな違いがあった。
あるいは、これが剣士としての差なのかもしれぬ。
だが未央は、そのことを悔しいとは思わない。
人のために技があるのであって、人が技に命を賭すものではない。
そう信じているからだ。
しかし芳乃は、冷然と未央に告げる。
「この技を生み出したのは人の業なのでしてー。
達人でも剣聖でもない、一介の人間にしかこの技は使えないのでしてー」
その日を境に、芳乃は姿を消した。
そして芳乃がいなくなると、指導する者がいないので道場には誰も寄り付かなくなった。
未央の相手をしてくれるのは、裏手の杉の大樹のみである。
結局、芳乃という人間の正体は最後まで知れなかった。勝つことも叶わなかった。
未央は心中に新たな逼塞感を覚えた。
未央は藩内で孤立を深めていった。
東郷派と千川派両方に睨まれている。凛にも、武内家での一件から近寄りにくさを感じる。
無論彼にも迂闊に会えない。
気のせいか、領民の視線も冷たい。自分の知らないところで笑い者にされているような気がする。
どうしようもなく寂しい気持ちを慰めてくれるのは酒のみであったが、金がなく。
しょうがないので未央は、好きでもない仕事に精を出すことにした。
未央の仕事にこれといった名称はなく、各奉行の小間使いである。
なのでやろうと思えば、いくらでも仕事があった。
そうやって様々な場所に関わっていくと、不本意だが、醜い派閥争いを目の当たりにすることが増えた。
そのどれもが根拠のない、稚拙な悪口の応酬。
千川派は皆金に物を言わせる非人の集まりだ。
東郷派の連中は、ものの道理も学も無い猿の群れだ。
千川派の女は金がなければ嫁を貰えぬ。
東郷派の猿は藩内の輪を乱し、民に不安を与えている。
未央にとって唯一の幸いは、まだ流血がないことくらいである。
だがある日、彼女は捨て置けない中傷の張り紙を発見した。
渋谷凛は家柄に物を言わせ人の男を取る。そう記してあった。
はじめ未央は怒った。しかし、凛なら男の方から寄ってくるかもという邪推が首をもたげた。
私って最低だ。未央はまた自己嫌悪に陥った。
武内家の件は凛とは関係ない。私の婉曲な妬みに過ぎない。
未央は親友の不名誉を漱ぐため、あるいは自身の疑念を消すために、未央はそれとなしに町を探るようになった。
時間のあるときには寺子屋で町の子らに漢学を教えてくれる。
酔った狼藉者を懲らしめた。
身内に不幸があったとき、透き通るように美しい花を一輪贈ってくれた。
顔が良い。
そう色めき立つのは町の男共である。
一方でこのような声もある。
欠点のない人間などおらぬ。澄ました顔をして、裏で色々やっているにちがいない。
家柄がよいから誰も文句を言えぬのだ。
人が出来ているが、友人にはなりたくない。
未央は苦笑いした。全ては未央と同じ、下級武士の言である。
優れた同性の前にすると、それを素直に賞賛できないのは皆同じらしい。
とはいえ、件の張り紙について話す者はいなかった。
やっぱり根も葉もない中傷だったのかな。
そう思いながら武家屋敷がつらなる辻道を歩いていると、思いがけない人物に遭遇した。
木村夏樹である。徒士頭の仕事があるはずなのだが、彼女はまた男を口説いていた。
邪魔するのも悪いかと思い、未央はこっそり裏地に回ろうとしたが、今度は木村の方から声をかけてきた。
「なんでお前はいつも、アタシが男を口説いているときに現れるんだ?」
「男を口説いていない時間があるんですか」
「ははっ」
未央と木村は、近頃こういう冗談が言える仲になった。
木村という女は少し変わっていて、派閥もなんの未央によく声をかけてくるのだ。
「アタシが男を口説くのをやめたら、町の男共はかえって不安になる。
アタシの仕事は領民を安心させること。
これは立派な職務行為なんだよ」
「ははっ」
今度は未央が笑う。
木村も生まれは下級武士の家である。
凜とはまったく趣のちがう人間だが、未央は木村との会話に居心地のよさを感じる。
「ところで、このところ渋谷家について悪い噂があるようなのですが」
未央は張り紙について木村に尋ねた。ふいに茶屋での一件を思い出したのである。
「なんだ、お前。武内家の男に気があるのか」
「は?」
木村は唐突に、武内家を話に持ち出した。凜となんの関係があるのだろうか。
「ふん。アタシの好みじゃないが、ああいうのにも需要があるんだな」
「なんの話をしているんですか」
未央は狼狽した。自身がかつて抱いた、酒混じりのつまらない想像。
お門違いの警戒。それは単なる未央の嫉妬ではなかったのか。
「凛が武内家の男を手篭めにしたって話、聞いてないのか。
いや、武内だけじゃない。ここいらの屋敷の男はみーんな凛が転がしてるって噂だぜ」
あやかりたいもんだ。木村は手をすりながら、にんまりと笑った。
oh...
はよはよ
こ、こんな時は卯月が何とかしてくれるよな!
真相をどうやって確かめるべきか。未央は悩んだ。
「渋谷と寝たのか」、などと言えるはずもない。
ならば文で遠回しに尋ねてみるか。
未央はそれにも自信がない。どうやって角をたてずに、相手の不義を聞き出すことができよう。
未央は自分が、思いがけず小心であることを実感した。
気の向くままに酒を飲み、ぶらりと道場に出向き、金があれば遊ぶ。
自分はそういう大雑把な人間だと思っていた。
だが今は男1人のことで数日間も思い悩み、出所のはっきりしない噂で凛を疑っている。
ああくそ。
なにもかも面倒臭い。煩わしい。
未央は人のない道場に出かけた。彼女の煩悶とした気持ちを受け止めてくれるのは、あの大樹のみである。
それから未央は、じっとしていることがなくなった。
以前の彼女からは信じられないほど熱心に、丁寧に仕事に取り組み、暇があれば剣術の修行をした。
じっとしていると、彼と未央のことを考えてしまうからである。
だが未央は、逃げるべきではなかった。
彼と親友。その2人から目を背けるべきではなかった。
仕事と修行に逃げた未央は、真相を彼から聞き出す機会を永遠に失うことになった。
その年の秋桜が咲く頃、当人が自裁したためである。
葬儀に未央は行かなかった。
代わりに凛を伴って、浴びるように酒を飲んだ。
不義の片割れと酒を飲み歩く。
いささか奇妙に見えるが、将来の伴侶を失った未央は、唯一残った親友を失うことを恐れたのである。
未央は凛を問い正すことはしなかった。
親友から不義の疑いをかけられた凛は、たとえ事実がどうであれ苦しむことだろう。
一方責める側の未央も、不愉快な真実を直視することになるし、また彼が戻ってくるわけでもない。
誰も得をしない。だったら私は口をつぐむべきだ。
おさえきれない疑念と、にわかに大きくなりつつある凛への憎悪を、未央は酒で呑み下そうとした。
へべれけに酔っ払った未央は、凛におぶられながら帰路についた。
武内家の前にさしかかったところで、未央は甘えた声を出した。
「しぶり〜ん」
深く酔うと、未央はいつもこのような調子である。
「なにそれ・・・」
「渋谷家の凛ちゃんだから、しぶりん 」
「安直なあだ名だね」
呆れながらも凛は笑った。
堅物だった彼女に気安く話しかけ、冗談を言ってくれたのは未央一人であった。
凛も未央と同様に、親友をかけがえのないものだと思っているのだ。
管鮑。刎頚。断金。莫逆。
どのような言葉を用いても足りぬほど、2人は固く結ばれていた。そのはずだった。
しかし未央はまどろみの中で聞いた。
夜風にはためく月見草を見て、凛が発した言葉を。
もう一度だけ抱いておけばよかった。
未央が凛に果たし状を送ったのは、その翌日のことである。
場所は武内家のそばにある、人気のない辻道。時は夕刻。
未央と凛は対峙した。
未央の表情は笑顔である。
この際にいたっても、未央は凛に友情を感じていた。
だからこそ、その友情を裏切られた未央は凛を斬る。
見てる
「始めるまえに聞くよ。どうして、武内家に手をだしたの?」
未央は尋ねた。どのような答えが返ってこようと、これからすることに変わりはないが。
「さあ。真実の愛を探してたんじゃない?」
凛は他人事のように答えた。
陽が傾き、辻道に長い影が差す。
「示現流の開祖の名前を知ってる?」
今度は凛が尋ねた。未央の位置からは、表情は見えない。
「依田芳乃」
「誰それ」
「今思いついた」
「はは」
笑いが止まったあと、凛は未央に答を教えた。
「“東郷”重位」
「それじゃあ私はさしづめ、東郷派の一番槍というわけだね」
未央は皮肉な笑みを浮かべた。
ここで凛を斬る。すると子細を知らぬ千川派は東郷派からの攻撃と見なし、喜び勇んで報復に出る。
東郷派も、未央と凛の果し合いをきっかけに、千川派への“誅殺”を開始するだろう。
あれほど政争を嫌ったふたりが、血みどろの抗争の口火を切ることになるとは。
まあ、すべては瑣末なこと。
「はじめよう」
未央は刀を抜いた。
「そうだね。終わらせよう」
凛も得物を鞘から放つ。互いに、これが初めての真剣勝負である。
出し惜しみはない。小手調べも不要。
未央は上段から、太刀を全力で降り下ろす。
未央が数千数万繰り返し、いくつもの大木を割ってきた動作。
常人には受けることは叶わない。峰が身体に食い込んで絶命することであろう。
だが凛は常人ではない。彼女は腰を深く据え、未央の刀を迎えた。
刃と刃がぶつかり、暗い辻道に光を散らす。
未央の一撃は受けられた。未央が絶対の自信を持っていた降り下ろしが、凛に防がれた。
圧倒的な才能。たゆまぬ鍛錬。
凡人を遠く彼方に置き去る、凛の剣術。
だが、未央の気勢は全く削がれない。
「折れろよ・・・折、れぇ、ろぉ!!」
がちがちと鍔を鳴らしながら、未央は刀身を凛に押しつける。
殺す。全ての力を振り絞って。
稽古で鍛え上げた足腰が未央に応え、凄まじい力で前進する。
凛の腰が崩れ、二人はもつれこむようにして地面に倒れる。
不利な鍔競りから逃れるために、凛は巴投げの要領で未央の腹を蹴り上げた。
未央はそれを踏ん張って耐えようとしたが、柔に関しては相手に一日の長がある。
未央は後方へ弾きとばされた。
「やるじゃん」
凛は土を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「そっちこそ」
未央は刀を支えにして体勢を起こす。
そこからは言葉もなく、熾烈に斬り合った。
手数では未央がやや上回ったが、凛は剣撃をことごとく受けた。
二ノ太刀いらず、一撃に全てをかける示現流の矜持をへし折るために。
一方未央は、凛の攻撃を激しい動きで躱す。
怪物的な集中力と体力。芳乃と立ち会うために、未央が身につけてきたものだ。
いまだ互いに致命傷はないが、未央は左肩口、凛は右脇腹から出血している。
長引けば失血で倒れる。 未央はそう悟り、凛と距離を空けた。
辻車で勝負を決めるために。
構えは蜻蛉。未央は地面を蹴り上げ、相手に向かって駆ける。
凛は青眼で未央を待ち構えた。今度は受けない。
刃をかわし、すれ違いに斬り捨てるつもりだ。
だが、未央が間合いに入る直前。彼女は凛の視界から消え失せた。
どこへ・・・そう思った凛の顔に、赤い滴が垂れた。未央の血。
空から。すなわち。
凛は未央を補足した。彼女は血のしたたる位置から、一瞬で未央の居場所を悟ったのだ。
おそるべき判断力である。
しかしすでに遅い。
膂力。体重。落下速度。そして、ありたっけの憎悪を込めて、未央は宙空で身体を捻る。
辻車一の太刀。
凛はとっさに受けたが、刀身がへし折られ防ぐことは叶わなかった。
美しい髪が、月夜にはらりと散った。夥しい血しぶきとともに。
続く二の太刀は、背後に回ってからの斬首。
これで辻車は完成する。未央の復讐は完遂される。
天才剣士を剣によって蹂躙する。その事実のみが、未央の後生に一筋の光明をもたしてくれるのだ。
しかし未央は二撃目を打たなかった。親友の最後の声が、彼女を制止した。
それは彼の名であった。
倒れそうになる親友の身体を、未央は支えた。
どうして、こうも互いに不器用だったのか。
いや不器用者同士だったからこそ2人は出会い、同じ男を愛したのか。
「ばかやろう」
誰にともなく未央はそう言った。
おしまい。
その後の顛末とか色々知りたいこともあるが、ここで終わらせるのがベストなんだろうな
面白かった乙
すっげえ好き
面白かった!
おっつおっつ
おもしろかった
乙
藤沢周平の読者が潜みおるとは…
藩の上層部の争いから、巻き込まれる武士…藤沢作品っぽい
隠し剣シリーズって言うのか
映画で見た鬼の爪しか知らんが、言われて見ればタイトルの作りが似てるな
うれしい
シンプルww
時代劇殆ど知らないけど引き込まれた
この話に未央と凛をチョイスしたことも凄くいい
乙でした
辻車の名前の由来
・空中で回転する
・タロットの『運命』
・シンデレラの馬車
・交わった道を断ち切る
蛇足ですが、花言葉をちょろっと調べるとおもしろいかも。
乙乙
時代劇見る訳じゃないが凄くそれっぽかったし終わりのすっぱりした感じも好き
映画館で予告見た必殺剣鳥刺しとかそういうネーミング思い出したけど元ネタのシリーズがあったのね
藤沢周平の短編も終わりはすっぱりした感じだったものね
次回作はあるのかな
次は東郷派と千川派のバトルロワイアルだよ。
時代小説の雰囲気出てて面白かった
この後どうなったかかが気になるな
【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
↑ミスが見つかったよ。書き直すよ
シリーズ整理
第1作 ここ
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
読み切り 【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
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