優花里「許してください!」麻子「許さない」 (46)


優花里「申し訳ありません! 許してください!」

麻子「許さない」

優花里「そこをなんとかぁ!」

麻子「なら、私の言うことを聞いてもらおうか」ククク

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―1時間前―


みほ「みんな、お疲れ様。大洗凱旋パレードも無事終了だね」

優花里「本当に大洗が優勝し、廃校を免れたんですよね。夢みたいです!」

杏「悪いんだけど、まだちょっとやることがあってさ」

杏「武部ちゃんは応援してくれた老人クラブへ、西住ちゃんは私と一緒に商工会にきてもらっていい?」

沙織「うぅ、ファンの皆さんにちゃんとお礼言わなきゃだよね」

みほ「は、はい! 義捐金ももらってましたし、あいさつ回りですね」

華「それでは、私は一度実家に挨拶にいきます。乗船時間までには戻ってきますね」


優花里「私は家が学園艦なので……冷泉殿はどうします?」

麻子「おばあが元気なことは確認したから……そうだな。私も行きたいところがある」

優花里「もし良かったらついていってもいいですか?」

麻子「えっ?」

優花里「私だけ独りぼっちなのは寂しいです! お願いします!」

麻子「……勝手にしろ」


―どこかのお寺―


優花里「ここは……お寺ですか? いっぱいお墓が並んでいます、お化けが出そうですね」

麻子「ひっ!? お、お化けはやめろ! いるわけないだろ!」ビクッ

優花里「そ、そうですね! 昼間ですから、いるわけないですよね!」

麻子「全く。……ここだ」

優花里「ここって……」



 冷泉家之墓


優花里(なるほど。ご両親に優勝報告ですか)ニコニコ

優花里「お花は買わなくて良かったんですか?」

麻子「親が好きだった花はお店で買えない」

優花里「というと?」

麻子「オリーブの花なんだ」


優花里「オリーブ……どんな花か想像もつきません」

麻子「白くて小さくてかわいい……いや、関係ない話だ」

麻子「それに、私はその花が大嫌いだからな」

優花里「はぁ」

麻子「今日は言いたいことがあって来ただけだ。すぐに帰る」

優花里「そうですね! 冷泉殿が立派になられたことをご両親に報告しましょう!」

麻子「……そういうんじゃないんだ、秋山さん」

優花里「えっと?」


両親は車が好きで、ドライブが好きだった。

小さい頃、家族3人でよくドライブに行っていたくらいに。

ある日、私は母親と喧嘩して、父の実家、おばあの家に家出したことがあった。

おばあはそんな私を優しく守ってくれた。今じゃ信じられないが。

なんでも、母親は元ヤンだったみたいで、おばあと反りが合わなかったんだ。

結局、あの日家出した私のことを両親が迎えに来ることはなかった。


優花里「交通事故だった、と聞いています。武部殿から」

麻子「罰が当たったんだ。いつも娘に怒ってばかりの母親だったからな」

優花里「そんなこと……」

麻子「いつも怒ってばかりの母親のことが、私は大嫌いだった」

麻子「母もまた私のことが大嫌いだったんだろう」

麻子「今日の優勝報告は、そんな母親への当てつけだ」

麻子「貴女が毛嫌いした娘でも全国優勝できるんだぞ。早死にして残念だったな、ってな」


優花里「そ、そんな言い方っ!」

麻子「……なんだ、秋山さん。他人が口を挟む気か」

優花里「い、いくらなんでも母上殿だって冷泉殿のことを大事に思っていたはずで―――」

優花里(……ああ、なるほど。冷泉殿は言えないんだ)

優花里("母が自分を愛していた"と。それは、母と喧嘩した自分に非がある、というようなもの)

優花里(あの日家出さえしなければ両親は、と、きっとどこかで思っているのでしょう)

優花里(その自責の念で押しつぶされてしまうから、あんな言い方を……)


麻子「仮にそうだったとしても、私にとってはどうでもいいこと」

麻子「まだ小学生の子どもをひとり遺して先に逝ったバカ親のことなんか……」ウルッ

優花里(その涙が全てを語っていますよ、冷泉殿)

ダキッ

麻子「な、なにを……」

優花里「……いいんですよ。ここには私と冷泉殿しか居ないんですから」

優花里「無理してご両親をけなさなくてもいいんです」ギュッ


麻子「……秋山さんに私の何がわかる」

優花里「わかりますよ。濃密な数か月を過ごした仲間ですから」

優花里「もう冷泉殿の戦車の操縦は私の身体に染みついています。今どこへ向かおうとしているのか、私にはわかります」

麻子「……どうして、そこまでする。たかだか数か月の付き合いじゃないか」

優花里「友だちだから……じゃ、ダメですか?」

麻子「ホントに、いいのか? もう、泣きそうだぞ? きっと面倒くさいぞ?」

優花里「気を使うなんてらしくないですよ。それは私の役目です」

麻子「うっ……うぅっ……」


麻子「うわぁぁ……っ……」グスッ

麻子「なんでそばに居てくれないんだよぉ! 一緒に喜んでくれないんだよぉ……!」

麻子「どうして、決勝戦見に来てくれなかったんだ……優勝したんぞ、廃校を救ったんだぞ……」

麻子「仲間だって、友だちだってできたんだ……想い出だって、たくさん……」

麻子「いつまでドライブしてるんだよぉ……いい加減、帰ってきてくれ……っ」

麻子「良い子にするから……もう、お母さんを怒らせたりしないからぁ……」

麻子「私が全部謝るから……だから、帰って来て……」


優花里「―――お水、飲みますか?」スッ

麻子「なんでも持ってるんだな……すまない、秋山さん。取り乱してしまって」ゴクゴク

優花里「お役に立てたのであれば、不肖秋山優花里の誉れであります!」ビシッ

麻子「ふつう、友だちだからってここまでしないぞ」

優花里「そうなんですか? 今まで友だちが居なかったのでよくわかりません」

麻子「お節介にしても度が過ぎる」

優花里「うぅ、申し訳ありません。許してください!」

麻子「許さない……ってのは、冗談だ」

優花里「ほっ……もちろん、冷泉殿に嫌われるかも、と思うと少し怖かったですが」

優花里「そんなことはないと信じることもできましたから」ニコ

麻子「そ、そうか」


優花里「それにしても、冷泉殿の意外な一面を見てしまいました」

麻子「意外なもんか。結構こんなだぞ」

優花里「そうなんですか?」

麻子「秋山さんの方が意外だ。情に厚いのは知っていたが、私にまで体当たりするとは」

優花里「体当たりですか、ハハ」

優花里「でも、そうですね。自分でも驚いています」

優花里「みなさんと出会えて、大きく変わったのかもしれません」

麻子「私も、そうなのかもな……」


優花里「もしまたご両親のことを思い出して泣きたい時は、私でよければお供いたしますよ」

優花里「この水筒を持って!」

麻子「泣いてない」

優花里「え、ええーっ!? そこで意地を張るのはどうなんですか……」

麻子「……泣いてないが、万が一の時は秋山さんを頼るとしよう」


麻子「せっかくだ、少し昔話を聞いてほしい」

優花里「ええ、どうぞ」

麻子「沙織にも話したことのない話だ」

優花里「……心して聞かせていただきます」

麻子「私が生前の母親に向かって言った最後の言葉、なんだと思う?」

優花里「…………」

麻子「まあ、ありきたりだし陳腐な台詞なんだが」



   『ママなんて死んじゃえ』


麻子「冗談みたいだろ。出来過ぎてて、作り話って言われても否定できる自信がない」

麻子「けど、私だけが知ってる。私の中で一生残り続ける事実なんだ」

優花里「…………」

麻子「ま、だからどうしたと言われればそれまでなんだけどな。ただそれだけの話―――」

ダキッ

麻子「2回目……お、おい? 秋山さん?」

優花里「ぐすっ……ひぐっ……」ポロポロ


麻子「ど、どうして今度は秋山さんが泣いてるんだ?」オロオロ

優花里「冷泉殿が泣かないからですよぉ……!」グスッ

麻子「……すまん」ギュッ

優花里「うぇぇ……」ウルウル

麻子「変な人だな……」


なぜ母親と喧嘩したか。

普段からよく喧嘩していたが、最後の喧嘩はハッキリ憶えている。


・・・
・・・・・・


父「麻子。今度の誕生日プレゼント、何か欲しいものはあるかい?」

麻子「……ママの好きな花。写真、飾ってあるやつ」

父「ふむ、オリーブの花か」

麻子「ママにも喜んでもらえたらって思って……」エヘヘ

父「そっか、わかった。ママに内緒で買ってこよう」

父「前に、一緒に遊びに行く約束を破っちゃったお詫びだ」

麻子「っ! 約束!」パァァ


父「―――ごめん、麻子。売り切れてて、当分手に入りそうにないんだ」

麻子「約束と違う! どうしていつも約束を破るの!?」

父「本当にごめんな。この埋め合わせは―――」

麻子「嘘吐き! パパなんて嫌い! どうせ私のことなんか、どうでもいいと思ってるんだ!」

母「麻子! なんてこと言うの、パパに謝りなさい!」

母「いつもいつもワガママばっかり! 朝は起きないし、面倒かけて!」

麻子「ママまで……。ママに喜んでもらいたったのに……っ」グスッ

母「そんなんじゃいつまで経っても……って、麻子!? 聞いてるの!?」


麻子「ママなんて死んじゃえ!」ダッ


・・・・・・
・・・


優花里「そんなことがあったんですね」グスッ

麻子「……なあ、秋山さん」

優花里「はい」ゴシゴシ

麻子「秋山さんのご両親は、私たちを見て喜んでたか?」

優花里「ええ、それはもう。父なんかとんでもない枚数の写真を撮影したそうですよ」

麻子「そうか」

優花里「……冷泉殿のご両親も、心の底から喜んでいます」

麻子「……なぜわかる」

優花里「この秋山優花里の諜報能力をあなどってはいけませんよ!」

麻子「ふふっ。仕入れ先が気になるな」


麻子「なんだか不思議だ。私が言ってもらいたいと思っていたことを、秋山さんは先回りして言ってくれる」

優花里「自分でも不思議です。前は戦車しか友だちがいなかったのに」

麻子「私たちはきっと、戦友なんだな」

優花里「戦友っ! なんとも甘美な響きですぅ!」キラキラ

麻子「……秋山さんは本当に変な人だな」

優花里「今頃気が付いたんですかぁ?」

麻子「ふっ。あはは……」




久子「…………」

久子(いい友達を持ったじゃないか、麻子……)


久子「なんだ、こんなところに居たのかい。麻子」

麻子「お、おばあ?」

優花里「おばあ様! お久しぶりです、秋山優花里です!」

久子「ちょうどいい。ふたりとも、うちに来な」

麻子「えっ?」

久子「あんたらに見せたいもんがある」


―久子の家 庭先―


優花里「お寺のすぐそばだったんですね」

麻子「それで、見せたいものって?」

久子「これさ」

優花里「これは……木、ですか?」

久子「家出した麻子をあの子たちが迎えに来る時にね、苗木が荷台に積んであったんだよ」

麻子「え……?」

久子「事故の遺留品さ。最初はなんの木かわからなかったが、オリーブの木らしくてね」


優花里「ええっ!? それって、お父さんはオリーブを手に入れてたってことなんですか!?」

麻子「気付かなかった……写真で、花しか見たこと、なかったから……」

久子「なんでも、あの子の嫁の母校から分けてもらったそうだ。隣の県が本拠地の、なんていったかねぇ……」

優花里「でも、花は咲いていませんね」

久子「5月から6月の間に、4、5日だけ咲いたよ。これがその写真だ」スッ

麻子「毎年撮ってたの!?」

久子「実がなるかと思って育ててやったんだが、とんだ期待外れだよ」ケッ

麻子「おばあ……。ありがとう」

久子「ふんっ」


久子「秋山さん、とか言ったか? ちょっと、こっち」

優花里「あ、はい。なんですか?」

久子「……私が死ぬ前に、あんたにだけは教えておくよ」

優花里「ご、ごくり」

久子「あのオリーブの木をアンツィオから買いつけたのは私だ」

優花里「え……?」

久子「息子は結局、オリーブの苗木を手に入れることはできなかったんだ」


優花里「……どうして嘘を吐いたんです?」

久子「生きていくのに希望は必要なのさ」

久子「あの子にとっても、私にとっても」

久子「人は必ず死ぬ。死んだらそれきり」

久子「だったら、生きてる間くらい希望があったっていいじゃないか。えぇ?」


優花里「嘘は良くないです」

久子「かかっ。気持ちの良いやつだね、あんたは」

久子「……たまに考えちまうのさ。もし私が麻子を匿うんじゃなく、母親のところへ突き返していればこんなことには、ってね」

久子「あの母親だって、間違いなく麻子を愛していた。私が意地さえ張らなければ……」

久子「そんなことを言っても仕方ないのはわかってる。それに、問題なのはもうすぐ私が死んじまうってこと」

久子「でもね、私が死んだ後も、あの子には、あの子を愛する家族が必要なんだ」

優花里「それがこのオリーブ、ってことですか」

久子「……さあね。わたしゃただの嘘つきババアだよ」

優花里「ふふふ、そうですか」


―帰り道―


麻子「こんなひねくれた性格で迷惑をかけた。せっかくのお祝い気分に水を差してしまったな」

優花里「今更水臭いですよ、冷泉殿」

麻子「いっそ私のことを嫌いになってくれても構わないんだぞ?」

優花里「むしろより一層好きになっちゃいましたよ」

麻子「……秋山殿に告白されましたぁ~(棒」

優花里「ちょっ!? 私のモノマネをしないでくださいよぅ!」

麻子「フフフ」


麻子「……私も、秋山さんのことを誤解していたようだ」

優花里「おっ。冷泉殿からも告白されちゃいますか私!?」ワクワク

麻子「ただのお人よしかと思っていたが、底抜けのお人よしだったんだな」

優花里「ぐへぇ」


麻子「……沙織には今日のこと言うなよ」

優花里「言いませんよ」

麻子「五十鈴さん、母親と仲直りできてよかったな」

優花里「そうですね」

麻子「西住さん、母親と仲直りできるといいな」

優花里「そうですね」

麻子「……これも言うなよ?」

優花里「なんでです?」


麻子「私ができないことを押し付けているみたいで、イヤだ」

優花里「……わかりました! 言いません!」

麻子「軍機だぞ」

優花里「はいっ! 軍機であります!」

麻子「ふふっ」

優花里「あはは」


みほ「あっ、麻子さんに優花里さん! おかえりなさい!」

沙織「って、ふたりとも目赤いけどどしたの?」

麻子「秋山さんに告白された」

優花里「ちょっ!?」

沙織「え……えぇーーーっ!?!?」


優花里「武部殿!? 冗談ですよ!?」

沙織「あ、そっか。そうだよね、冗談だよね……もう、麻子!?」

麻子「だが私は好きだぞ。秋山さんのこと」

優花里「こっ、ここでそれ言うんですかぁ!?」カァァ

沙織「……ホントに何があったの?」

優花里「ぐっ、軍機故、言えません! 申し訳ありませんっ!」

沙織「お、おう?」


優花里「だから武部殿、聞かないでください! 聞いてはいけないのでありますぅ!」

沙織「そこまで言われると逆に気になるんだけど」

優花里「ハッ!? 失敗してしまいました~……」

麻子「命令違反をしたな? 秋山軍曹」

優花里「申し訳ありません! 許してください!」

麻子「許さない」

優花里「そこをなんとかぁ!」

麻子「なら、私の言うことを聞いてもらおうか」ククク


優花里「―――野ゆき森ゆく、オリーブドラブ! ……これでいいですか?」

みほ「えっと、宴会芸の練習?」

沙織「みたいだね」

麻子「バッチリだぞ、オリーブドラブ秋山」

優花里「おお! 芸人みたいな響きです!」

麻子「嬉しいのか?」

優花里「自分にはオリーブ色が似合っていると言われているようで、悪い気はしませんよ」


沙織「でも、確か麻子ってオリーブ嫌いじゃなかったっけ?」

麻子「何を言ってる。オリーブは、私の大好きな花だ」

優花里「ふふっ。そうでしたね」

沙織「そうなの? って、花? オリーブオイルじゃなくて?」

華「オリーブの花ことばは、『平和』、『安らぎ』、『知恵』、『勝利』……どれも麻子さんにピッタリです」

みほ「あ、華さん。お帰りなさい」


みほ「そう言えば、アンツィオ高校から優勝祝いとして、アンチョビの缶詰とオリーブオイルが届いていました」

華「オリーブはお花も可愛らしいですが、やはりイタリア料理の必需品ですね」

沙織「華は花より団子だねぇ」

麻子「沙織は花より男子」

沙織「皆さんご老体でしたけどねっ!」

みほ「あははっ。なんだかお腹減ってきちゃったかも」


優花里「早く宴会をしましょう! オリーブドラブ秋山迫真の芸を見せますよー!」

杏「おっ、面白そうだねぇ。だったらみんなでやろうか、それ」

みほ「え、えぇーっ!?」

優花里「良いじゃないですか! 冷泉殿もやりましょう!」

麻子「……秋山さんがそういうなら、いいだろう」

沙織「あの麻子がやる気に!?」

麻子「まあ、なんていうか……」


麻子「秋山さんとなら、楽しそうだしな」ニッ


お父さん、お母さん。

これからも、私のことを見守っててくれ。

朝は苦手だけど、友だちと楽しくやっていくから。

あ、宴会芸は見に来なくていい。


P.S. 次はちゃんと墓参りする。たぶん、ふたりで。





おわり

いいですね。乙です。

この二人の組み合わせってなかなか見ない感じ、新鮮で良かった!

乙でした!!

新しい境地を見たようだ、おつ

オリーブドラブの元であるシシレンジャー役の能見達也さんが亡くなったことを
昨日知ったから違う方面でも泣いてしまった

読了ありがとうございました
過去作
・まこみほ
【ガルパン】麻子「西住さんの睡眠は安眠戦士マコリンが守る!」
・まこさお
【ガルパン】麻子「なんでも言うこと聞く券……?」

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