とある魔神の上条当麻II (241)

彼女は何者なのだろう



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知るかバカ!そんなことよりオナニーだ!

楽しみ。

オティヌスの作り出した結界の中で、神裂は心を落ち着かせながら思った。
これほどまで高度な結界を一人で張り、聖人である自分の全力の一撃を受けてもなお、平然としている。

さらに彼女は、オティヌスは、自分が聖人であると知っていながら、肉弾戦を申している。通常の人間であれば自殺行為に等しいだろう。
だが神裂は既に、オティヌスのただならぬ気配を感じ取っていた。かといって、この気配は感じたことはなかった。一言で言えば異端。人間とは違ったものだった。

並みの魔術師なら失神するであろう魔力と、呼吸と同じように、絶えずはっせられている殺気。あの時の一撃で神裂はオティヌスが聖人でもなく、人間でもないことをさとったのだ。しかし、勝ち目がない訳ではない。自分はロンドンでも五本の指にはいると呼ばれている。自惚れているわけではないが、自分を倒すような相手はそういないのだ。

しかし彼女は知らない、オティヌスが魔神の失敗作であり、既に別の出来損ないに、別の聖人が完敗していることを。


「聖人対オティヌス、か……。」

完璧な魔神、上条当麻は、オティヌスの作り出した結界の外でつぶやく。

「おてぃぬすは勝てるのかな?」

銀髪純白シスターのインデックスがといかける。

「少なくとも並みの魔術師には一瞬もかかんないだ
ろ。でも今回は聖人だからなぁ…。」

戦闘経験が狭い当麻は強さを比べるのが苦手だ。
それに先の一撃で全てを決められる訳にもいかない。

「やって見ないとわかんねぇわ…」

「ふーん。」



































「意外と役に立たないね。」

「がふっ!」

痛烈なお一言! 、という声が辺りにこだましまた。

「でも、おてぃぬすが勝つと思うよ。」

自分の身がかかった勝負でありながら、インデックスは自信ありげにいう。

「へぇ、なんでそう思うんだよ?」

精神的ダメージからなんとか復活した当麻が問う。
するとインデックスはなぜか嬉しそうなうな顔で、

「だって、私のために戦ってくれようとしてくれてるもん。」

「っっっっ!」

今度は嬉しそうに彼女は話した。

「それだけでも嬉しいし、迷える子羊に手を伸ばす
者は神の名のもとに救われるんだよ」

ここで当麻はさとった。
彼女が今までずっと一人でにげつつけていたのを。

「それに、わたし何にも覚えてないんだ。」

記憶喪失ってのかな。 彼女は続けた。

「気がついたら裏道にいて、頭の中で自分の名前と
か、魔術結社、とかが頭の中で回っていて、追わ
れてる、逃げなきゃ、て必死に逃げてたの。だか
ら……」

くるり、とインデックスは当麻を見た。そして、

「助けてくれようとしててくれてありがとう」

弾けんばかりの笑顔でそう言った。それは不幸な境遇にある少女の顔ではなく、純粋な、幸せそうな顔だった。

かつて、同じように一人ぼっちな状況にあった当麻だったが、そこには支えてくれる家族がいた。

しかし彼女は、ずっと一人でいた。ずっと一人、恐怖からにげつづけていたのだ。

「……待ってろよ」

当麻の言葉にインデックスが反応する。

「必ず救いだしてやるからな!」

その誓いにインデックスはにっこりと微笑んだ。


「おい魔神、お話しはすんだか」

割って入るように話しかけてきたのは、神裂と一緒に結界の中にいる魔神の失敗作、オティヌスだった。

「今からこの勝負のルールを説明する。二人には審
判をやってもらうからな」

相変わらずの身勝手ぶりに、いつもは反応するはずの当麻だが、それよりも気になることがあった。

「審判て……、俺らがやったら不利になるんじゃない
か?」

当麻が言っているのは勿論神裂だ

「あっちには審判になれそうなやつはおらん。それ
に勝敗の決め方は簡単さ」

「なんなんだよ?」

不思議そうな顔をする当麻に、オティヌスはニヤリと笑う。すると、一枚の赤い布切れを見せた。

「日本で言うところの、しっぽとり、てやつさ」


張り出されている結界の半径は約200メートル、高さは400メートル近い。肉弾戦には充分過ぎる広さであろう。既に、今いた空き地の面積を超え、町をものみこんでいるのだ。

そしてその中に立ち、いがみ合う少女が二人。

一人は黒髪をポニーテールに結んだ長身の少女。服装は奇抜(率直に言うと痴女)で腰に2メートル近い日本刀を据えている。聖人神裂火織。

それに逆方向に位置するのは、流れるような金髪と金瞳の丸腰の少女。ゆったりとした金と黒のトルコ系民族衣装を身にまとっている。魔神の失敗作オティヌス。

すでにピリピリとした空気が流れているが、先に口を開いたのはオティヌスだった。

「魔術無しの肉弾戦、といっていたが、そっちにハ
ンデをやる」

「ハンデ、ですか」

なめられたものだ。
すると、オティヌスは一枚の赤い布切れを出した。

「この布切れにはこの結界の核となる術式がかかっている。私以外の者が触れると核の役割を終え、この結界は解除される仕組みだ」

さらにオティヌスは続けた。

「お前のハンデとしての勝利条件はこの結界の解除だ。私が腰に巻いたこの布切れに触れて解除するか、この結界をちからずくで壊すかすれば勝ちだ」

他に質問は? とオティヌスは聞く。
しかし神裂は答えもせず、何かの術式を唱えた。

「ほう、解除術式か」
しかしオティヌスともに、結界は余裕そうだ。多少の影響を受けてか結界にブレが生じたが、他に何ともないようだ。

「かなり高等な術式ですね……」

神裂が唱えたものも並みの魔術師が扱えるものではないが、それを上回るように結界はもろともしない。

「で、他に質問は?」

オティヌスが同じ問いをする。

「……ちなみに聞いておきますが……、そちらの勝利条件は?」

「私か? そうだな……」

そこら辺を考えていないあたり、オティヌスらしからぬところだ。ただ単に忘れただけか、それか……。

「二度と立てんようにしてやるか」

極度の好奇心によるものか。


いつぞの続きか

なつかし

その言葉を合図に、先に地面を蹴ったのはオティヌスだった。ただ一蹴り、たった一蹴りだけで、オティヌスは金色の閃光となり、10数メーター離れた神裂の目の前まで距離を詰める。

「ッ!」

反射的に腕を顔の前でクロスしてガードする、が、その刹那に放たれた拳にその場にとどまることができず、大きく後退する。

(この威力は、聖人並み……!!)

例えるならば大砲、それに近しい威力の拳だ。

「ーーーー応言っておくが、もうこの結果(なか)では魔術は使えん」

まるで歌でも歌うように、オティヌスは話す。

「と、言っても、あの程度のものなら使っても変わらんがな、聖人」

最後に皮肉を添えて。

「っ! 調子にのんじゃ……!」

体勢を立て直し、神裂は両足に力を入れる。

「ねぇっっ!!」

今度は神裂が地面を蹴る。その一瞬にして神裂は音速を超え、すでに眼前へと迫ったオティヌスに放つ右拳に、力をこめ、そして放つ。

「やるうっ! が」

マッハ2近い右拳(凶器)を前にして、オティヌスは怖がるどころか逆に楽しそうだった。

「足りんわっ!!」

「ぐっ!」

マッハ2近い拳を、オティヌスは机上の消しカスを払うように、容易く片手で払いのける。


しかし神裂の狙いはそこだった。

空いていた左手を動かし、腰に巻いている赤い布切れに素早く手を伸ばす。

あと数センチ。しかし、

「なんだ、もう止めるのか?」

神裂の眼には、それがスローに見えた。
自分の左手か、どこからともなくやってきた白い右手に払いのけられるのを。

そして、

「もう少し楽しめよ、神裂」

もう片方の、全てを壊す力を持つ白い左手が、自分に迫るのを。



「らあぁぁぁぁっ!!!」

「!?」

そこで、オティヌス側にはじめて予想外のことが起きた。
右頬に直撃すると思われた、いや、確信していた自身の拳が、スカッ、という風に空をきったからだ。
神裂が、自分の予想を上回るスピードで拳を避けきったのだ。
通常の聖人には避けられるはずがない、そう、『通常』の聖人には。







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神裂は上位9位以内に入る実力者聖人だった。それも、身体能力だけでなく魔術の面でも世界最高クラスの実力を持つ。

(……なめていた)

すでにオティヌスの攻勢はくずれ、今は均衡の状態にある。
いや、神裂がやや押している。

(こいつ、私のスピードに順応してきているのか……?)

神裂ほどの上位聖人となると、その強さは正に反則級である。下位の聖人、つまり『通常の聖人』ではなく、『聖人 神裂火織』の強さが今、発揮されている。
それは今のオティヌスと渡り合うほどに。

まさにこれは音速戦闘。周囲に衝撃波を出しながら、お互い戦闘を続けている。


そして何より、この状況に深く関わっている要因があった。

(……予想外のスピードだな……。そしてマヌケにも……。)

腰に巻いている布切れに伸ばされた神裂の手をいなし、オティヌスは忌々しく思う。

(自分の付けたハンデで苦戦するとは……!)

オティヌスがハンデをつけたのは神裂の心を折るためだった。圧倒的な力の差を見せつけ、勝利する。それが目的だった。
しかし実際はどうだ。自らが劣勢とまでは言わずとも、互角以上に渡り合っている。魔神の失敗作であるオティヌスの体力が神裂以上としても、攻撃力そのものでは神裂には劣っていた。

仕方なくオティヌスは神裂の最期の拳をいなし、一旦距離をとる。

「……どうしたんですか?」

神裂はやや息を切らして問う。すでに愛刀『七天七刀』は腰からおろされていた。

「正直予想外だ……。それほどの強さを秘めていたとは……」

オティヌスは息を切らしてはいなかったが、以前、状況は変わっていない。それどころかいつか押し負けてしまう恐れも。

「……もうやめましょう。こんな下らないことはやめて、彼女を渡して下さい。」

神裂が降参を促す。しかしオティヌスは、

「図にのるな聖人」と一蹴した。

「貴様ごときが、私に勝てると本気で……」
「時間がないんです……」

ついに神裂が絞り出したような声をだす。その顔は、今にも悲しみで潰れてしまいそうな顔だった。

「あの子にはもう……、時間が残ってないんです」

(……あの子とは……禁書目録?)

オティヌスは後ろの二人、結界の外にいる上条当麻とインデックスに目をやる。
この結界には防音加工がされているので、二人はこちらをただ観ているだけだった。

ここでオティヌスは長考、といってもほんの数秒だけ頭を巡らせる。

(こいつら、禁書目録と過去に接点でもあるのか……?)

ここで、あの赤髪神父の言葉がよみがえる。

『例え君が全てを忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れず君のために生きて死ぬ』

(『例え全てを忘れてしまうとしても』……?)

オティヌスが原典を数千冊抜き取った際、インデックス自身の記憶はゼロに近かった。ここ一年以前の記憶が、『消去されていた』(面倒くさそうだったので黙っておいたが)。

(こいつらが抜き取った……?)

だが何の為に……。

この二人とインデックスには、過去に接点があるように思える。現に、神裂と赤髪神父(ステイル)には、そういったそぶりが見えた。

オティヌスは長考、といってもほんの数秒だが思考を巡らせたあと、

(茶番は終わりだ……) とため息をついた。

するとオティヌスは腰の布切れを外した。敵の突然の動きに、神裂はつい身構えてしまった。がーー、

ーーブチンッーーーー
という音に、それを見ていた三人は驚愕に目
を見開く。そしてーーーー、




「なぁにやってんだあぁぁっーーーー!!!!」

結界の解除によって、魔神の怒声がオティヌスたちの耳に届く。強固な結界は核の破壊によって崩れ、跡形もなくなる。

「オティヌス! お前っ!」

当麻は初めて彼女に激怒した。

インデックスの事情をオティヌスは知らないとしても、オティヌスは勝手に勝負を仕掛け、勝手に負けたのだ。



長年付き添った仲だとしても、さすがにこの身勝手さは許せなかった。

彼女がどれだけ辛い過去を背負っているのか、
彼女がオティヌスにどんな感情を抱いていたのか、



それを無下にしたのが許せなかった。


そう、当麻が激怒した理由はそこだった。

「こいつがーーインデックスがお前にどんな気持ちを抱いていたのか、わかってたはずだろうが!!
自分の身がかかった勝負だとしても、こいつはお前を信じてたんだぞ!?」

「今はそこに注目している時じゃない」

「っ!」

オティヌスは平然とした口調で答えた。
当麻はまた何かを言おうとするが、オティヌスは当麻ではなく、神裂の方に向かって口を開き、それを遮った。

「禁書目録……、インデックスの記憶を消去したのはお前らだな?」

「!?」

神裂の顔が驚愕と恐怖の色に染まる。オティヌスはそれを見て図星か、と確信した。

「ーー記憶を消したって……、どういう……!」

「まぁ、確かに、インデックスを狙う輩がこいつの記憶をわざわざ消したというのはおかしい」

インデックスの知識が欲しいなら、記憶を消すついでに抜き取ればいいのだ。

「 だが、こいつらはそれだけをやった。それにこいつらの言葉からは、インデックスと過去に何か合ったことが伺える。因縁など、そう言った物ではない、何かが」


そして、その場を沈黙が支配した。
当麻とインデックスは驚愕で何も言えず、神裂は沈痛な顔をし、オティヌスはただ答えを待った。


だが、その沈黙を破る声が。

「答える理由はないな……」

神裂ではない。別の、男の声だった。

「ス、ステイル!」

「寝たふりして聞いていたのか? それとも本気でいままで寝てたのか?」

オティヌスの問いにステイルは答えない。代わりにステイルはルーンのカードをオティヌスの背に向けた。

「黙れ。人の心にずかずか踏み込んできやがって……!」

「おいおい、ボロを出したのはそっち側のはずだろ?
それにその言葉はさっきの肯定として受け取っていいのか?」

敵対心丸出しの姿勢と言葉に、オティヌスは背を向けたまま逆に挑発するように答えた。

一触即発の空気が流れた。オティヌスとステイル、どちらに軍配が上がるかは明白だった。
しかし、その空気を破るように、

「…………私とステイルは、1年前インデックスと同僚でした」

「!?」

突然、神裂が話始めた。

「神裂っ……!!」

ステイルが止めようとする。しかしオティヌスはすかさず、「続けろ」と遮った。

「記憶を抜き取る手間が省けた」

神裂は続ける。

まるで、思い出を語るように。



【1年前】


ある日、二人はとある少女と出会った。

当時、二人は悩みを抱えていた。

まだ、自分の選択が正しかったのか悩んでいて、それに沈みこんででしまったような気持ちで前を向けずにいた。


だが、彼女は、インデックスは二人に光をくれた。


インデックスは純粋で、無垢で、二人に優しく接してくれた。


話しているだけで心が安らぎ、
自然と笑顔があふれ、
ーーーーいつしか二人の悩みは消え去っていた。


幸せだった。
彼女が笑えば自分達も笑い、
彼女が悲しくなれば自分達も悲しくなる。



ありきたりの
平穏な日々が、
二人にはそう感じられた。

永遠に続く、そう思っていた。 だけどーーーー、



彼女は魔導図書館。完全記憶能力をもち、十万三千冊の原典を記憶し、保持する。

そのため脳の容量の八十五パーセントはそれに侵されていた。

そして、残っている十五パーセントは、完全記憶能力を持つ故か、たった1年で埋まって、限界で死んでしまう。

容量の限界を迎えたときの彼女は苦痛と高熱で苦しそうにうめき、見るに耐えなかった。背けたかった。助けたかった。その手段を探した。 でもーーーー、

二人は消すことにした。

見つからなかった、方法が。彼女を救えなかった。




なのに、記憶を消す時の彼女の顔は笑っていた。


『絶対に忘れないから…………』


できやしない。なのに、二人にとっては救いの言葉だった。それとともに、ある罪悪感ができた。


『忘れないから…………』


高熱で苦しそうな顔に、無理に作った笑顔。
それは二人に対する罪悪感も籠っているようだった。

情けなかった。救うことができなかったうえ、純粋で無垢な少女に、自分達は罪悪感を抱かせてしまった。 あんな苦しい顔をしてほしくなかった。

だから……、罪悪感を抱かず、自分達への罪悪感を抱かず、出来るだけ楽に、
彼女の記憶を消すことにした。

おつかーレ




私達のせいだ…………。



これからも引き続き、インデックスの罪悪感で埋まってしまった顔を見ることができなかった。

自分達のせいで、あの美しい笑顔を歪ませたくなかった。

自分達の楽しい思い出で、彼女を苦しませたくなかった。



だから、恨まれ、嫌われることを選んだ。

それが正しいことではないと分かっていた。

けれど少なくとも、罪悪感は抱かない。

それで苦しんだりはしない。悲しんだりしない。


だから、悪役を買った。


最低限の記憶を残し、自分達に追われているという状況を作り、『学園都市』という壁の内に彼女を閉じ込めた。

『学園都市』という科学の街の中では、インデックスを狙う魔術師はそう易々と手は出せない。魔術サイドと敵対する総本山が、安全の地だった。



ーーーーもう一度言うがそれが正しいとは思って
いない。

けれど、二人はそれを選んだ。



もう、これ以上、苦しませたくなかったから。



それが、とある少女と二人の過去(思い出)だった。



過去を話し終えた神裂は、ただ前を向いている。悲しそうな顔で。

その視線の先は、彼女が心の底から愛するインデックスか、お互い拳を交えたオティヌスか、傍観者であった当麻か、同じ過去を歩いたステイルか、それは定かではない。

「私達は感情という余計な物を捨て去り、時に敵の追跡者を演じ、時に害するものから彼女をまもり、今日まで監視をすることに徹していました」


誰も何も言わないので、「だから……」と神裂がまた話しはじめた。


「もう時間がないんです……! 今日を含めて、あと一週間もないんです……!! だから……っ」

ついに神裂が、切羽詰まったような声を出した。それはまるで、懇願する、弱々しい少女のようだった。

「彼女を、ーーインデックスを引き渡して下さい……!」

ついに、神裂は、頭を垂れた。




「……何、戯れ言いってんだ……!!」



誰も言葉を発さない『沈黙』を破るのは、オティヌスやインデックス、ステイルでもない。

その声は、神裂にただ傍観者としてしか位置付けられていた、オティヌスより格下と判断されていた、上条当麻のものだった。

その顔はさっきまでの腑抜けたような顔ではなく、真剣で、怒気を含んだ表情(かお)だった。

「インデックスを苦しめたくない!?
余計なものは捨て去った!?
ふざけんな! ただ怯えてただけじゃねぇか!!
自分が背負い込めそうなもんだけ背負って、他こいつに押し付けただけじゃねぇか!!」

「ッ!!!」

「何でテメェらが勝手にこいつを『不幸』って決め付けて勝手にこんなことやってんだ!
気づかねぇのか!? 自分達がこいつにただ下向かせてるだけだって!!」

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乙カレー?




その言葉に、聞いていた二人はうっ、と声を詰まらせる。

二人の様子は当麻の尋常ならざる怒気にたじろいでいるようにも見える。

「インデックスを苦しめたくないってテメェら言ったよな!? でもどこかも分からない場所に一人ぼっちの状況がどんだけ辛いのかぐらい分かるだろ!? 何でそんな馬鹿見たいな選択しちまったんだよ!?」

「ほ、他にどうしろって言うんです!?
教会の中で監禁するのも考えました! でもそうしたら彼女の目には全てが敵に……!!」

「……誤解ときゃいいだけだろ。一年で記憶なくなんならその次の一年でもっと幸せな記憶を作ってやれよ……」

二人の魔術師は何も言わない。

「記憶失っても次の一年にはもっと幸せな記憶が待ってんなら苦しまねぇだろ……。インデックスを幸せにすることくらいは貫き通せよ。それができねぇんなら……」

魔術師は顔を伏せたままだった。そして当麻は、最期の言葉を叩きつけた。

「てめぇらにインデックスの友達はつとまんねぇ」

「何……!」

その言葉に反応したのは、神裂ではなく、ステイルだった。

「お前の言ってることは最もだ。けどな、世の中は何で綺麗事だけじゃやっていけないんだ。
『必要悪の教(こちら側)』の事情もあるんだ。
そんな感情論だけじゃどうにもならない事情がな……!」
「だからいってんだろ……!」

一瞬の間も開けず、当麻が言う。

「こいつを幸せにすることくらい、貫けって!!」

「……………………」

ステイルは何も言わない。だが、代わりに彼の手には、今の心情を表すような、炎があった。

「っ! ステイルッ!」

神裂が咎めようとするが、「止めるな」、としか彼は言わなかった。


「……お前は本当に生意気で気にくわないよ、心の底からな……!」

「…………俺も同じ気持ちだよ……!」

当麻も拳を握った。
まさに一触即発の空気。少しでも刺激が加われば、また新たな争いが起こるだろう。


「……いい加減頭を冷やせお前ら」

そんな空気の中、声を出したのはオティヌスだった。はりつめた空気は消えないが、構わずオティヌスは、諭すように話しはじめた。

「……まずルーンの魔術師、ここで争って何になる?
その時の感情で動くんじゃない。そのうち自分の身を滅ぼすことになるぞ。

そして魔じ……上条……」

この二人がいるところで、『魔神』という呼びは控えた方がいい。が、不覚にも当麻は何故か揺らいだ気持ちになった。

「お得意の説教は良いが、当然何か解決策でもあるんだろうな?」

「そ、そりゃ、原典の記憶を抜き取ったり……」

「お前はイギリス清教と戦争するつもりか。勝敗云々はともかく、お前ん家の野蛮……聖人の立場が悪くなるだろ」

「そうかもしんねーけど、このままほっとけるかよ! このまま記憶を消され続けるなんて……、こいつの人生なのに……!!」

すいません。23の質問は無視して下さい。


「これ以上こいつの人生を消され続けるだけにしたくねぇよ!!」

その言葉は上条当麻の心の願いにも聞こえた。誰の支えもなく、これからも一人で、何も知らず、この街をさ迷い続ける宿命を、背負わせたくなかった。

可哀想、という言葉は見下したような言葉だ。

けれど上条当麻にはわかる。自分以外の全てのものを失った気持ちが。

「だから、頼む! 二人とも!」

当麻の声が一段と大きくなる。

「俺に、インデックスを……任せてくれ!!」

「…………」

また辺りが沈黙に包まれる。当の二人は何も言わない、いや、言えない。何を言えばいいのか分からない。
オティヌスはただ静観していた。が、口角は何故か、少し吊り上がっているようにも見える。

「……私はとうまにまかせてもいいよ」

「!?」

「インデックス……」

「とうまは助けてくれるもん。私が飢えていたら食べ物をくれたんだもん」

それは、インデックスにある思い出。

「私を飢えから救ったように、とうまは私を救ってくれるよ、きっと」

インデックスの大切な友達。


「だから、大丈夫」

それは、至極当たり前で、最も困難なこと。

「私は……、とうまを……信じるよ……」

人を心の底から信じること。

「だ、から……」

その時、インデックスの体勢がぐらりと崩れる……。

バタン! と、インデックスが倒れた。

「イ、インデックス!?」

突然倒れたインデックスに、当麻が駆け寄る。
インデックスの顔は赤く、体中から熱という熱を出している。
当然、インデックスは苦しそうにうめいていて、口からは僅かに、「とうま……、オティヌス……」と二人の名を呼ぶ声が。

「まさか……、これが……!」

「ああ、症状だ」

驚愕する当麻に、ステイルが平然を装いながら、忌々しげに言う。

「もう良いだろ。インデックスの記憶を……」
「待って下さい」
「神裂?」

「彼らはいわば、今のインデックスのパートナーの様なものです。彼らが何とかすると言っているのなら、我々は静観すべきでは?」

「何を言ってるんだ!? 今日、昨日会った様な奴らだぞ!? もう時間は迫っている! やるぞ!」

「記憶を消す直前、何も出来なかった私達は、彼女に泣きつき、何度も謝りました。
その時間ぐらい、与えてもいいのでは?」


神裂はステイルと違い、冷静だった。
それがステイルの怒りにさらなる拍車をかけた。

「神裂!! 正気か!? 教会精鋭の僕らでもどうにもできなかったんだぞ!? あの得体の知れない奴らが、彼女を救える訳がない!!」

「そうでしょうか? 少なくともあのオティヌスと名乗る少女は聖人でもないに関わらず、魔術なしの肉弾戦でも私と互角の力を持っていましたよ?」

「なっ……!?」

「ステイル、何より彼女が信頼しているんです。
ここはインデックスの意思を尊重すべきです。
あなたは彼女を信じた人間を、信じられないんですか?」

その一言が、ステイルを黙らせた。

やがて、ステイルは「君は信じるのか?」と神裂に聞いた。
が、彼女はただこちらをまっすぐ見つめるだけだった。

「……はぁ、分かった」

ついにステイルが折れた。

「でもいざとなったら……」

「私もそのつもりです」



「話しは終わったのか?」

わかりきったことなのに、オティヌスが言葉をかける。

「ああ、君達を信じよう」

その言葉に、オティヌスは待ってましたと言わんばかりの顔をする。当麻はインデックスをだきかかえながら安堵した笑みを浮かべていた。

「だがその前に、君達のことを知りたい。
君達は何者で、どこの国の魔術師だ?」

神裂にも聞かれたことだが、これはあまり聞かれたくなかった。

さっきの勝敗はうやむやになったから、答える必要はないのだが、
断ったら面倒になりそうなので、仕方なくオティヌスは答えることにした。

「はぁ、上条……」

「な、何でせうか……?」

まだ呼ばれなれていないからか、当麻は多少びくついた様な、裏返った様な声を出した。


「……インデックスを降ろしてこっちにこい。
こいつらに正体を話す」

「必要ねぇだろ。下、地面だぞ?
つか、何でインデックス降ろす……」
「来い。いいから降ろせ」

オティヌスの声はなぜだかいつもより威圧的に聞こえた。

「………………」

「なんだそのオッレルス似の気色悪い笑み顔は」


「いや、ひょっとしてオティちゃん、インデックスに焼きもちを……イタイ、イタイ、イタイ!!」

「オティちゃん言うなっつってんだろ!! つか、妬いてねぇしっ!!」

「蹴んなって! インデックス抱えてんだぞ!?
つか妬いてんだろ、行動からして!
あと、上条さんの笑った時の顔はあんな気色悪くないぞ!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「そこまで気色悪くなんかない!!」


「うるさいわよ、オッレルス!!」


「ゴ、ゴメン、何か罵られた気がして……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……で? あらためて聞くけど、君達は何者なんだ
い?」

当麻に抱えられていたインデックスの体は、四人の後ろで、オティヌスの浮遊魔術(当麻がうるさかったので)によって数10センチほど宙に浮いていた。

両腕は自由だが体はボロボロの当麻は、隣に立つオティヌスが答えるのを待った。


「まず初めに言っておく。私達はどこの国の、どこの勢力の魔術師と言うわけではない」

国はともかくとして、オティヌスには組織はあるのだが、ここではそれを隠しておいたほうがいいだろう。

「フリーの魔術師、ですか?
それだけじゃないように思えますが?」

やはり、神裂は鋭い。たまらず苦笑したオティヌスは、内心で舌を巻いた。

「もちろんそこらの魔術師ではない。
ちょっと違っていてな。お前らも聞いたことがあるんじゃないか? ーーーー『魔神』」

「!!!?」

神裂とステイルが受けた衝撃は並々ならぬものだろう。

何故ならば、自分達が相容れていた存在が、
魔術を極め、『神』の領域にまで足を踏み入れた存在だったのだから。

普通はこの瞬間、生きているだけでも何億分の一の確率の奇跡なのだから。


「もっと詳しく言うとその失敗作だ。力は到底本物には及ばんだろうが、世界を壊すぐらいは出来る」

さらりととんでも発言がでたが、ステイル達は敢えて無視する。それよりも気になったことがあった。

「……まるで本物に会った様な言い方だな」

「ふん、何を言うか」

当たり前だろう、とオティヌスは隣に立つ当麻の背を叩く。それは彼を差し出すようだった。

「こいつが『完璧』な魔神だ」

敢えて、オティヌスは当麻をただの『魔神』として紹介した。100%成功の確率を喋るより、ただの魔神としての方が、都合が良いと考えた。

ちなみに当麻にはさっき蹴っているときに「何も喋るな」と伝えておいた。

ここまではオティヌスの演出通りだった。が、


「いまいち信じられません……」

「そこのマヌケ面が魔神? そういう寝言は寝てても言うな」

さんざんな評価だった。

当の魔神は何か言おうとするが、オティヌスから余計なこと言うな、とばかりに足を踏まれる。

色々とかわいそうな神様だ。

予想外の出来事に、オティヌスははぁ、とため息をつく。

「いや、確かに、こんな中も外も腑抜けな奴が魔神とは、私は正直今でも信じられん。
まぁ、そういう結果は見えていたが」

「おい」

「……仕方ない。魔神」

オティヌスは魔神呼びに戻す。

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「……あれをやれ」

「……分かったよ、いつものあれだろ?」

いまだに不機嫌な当麻は、オティヌスに言われて手のひらを前にだす。突然の事に、ステイル達は身構える。

すると魔神の手のひらから、まばゆい光を放つ魔方陣が出現した。

「どうだ? 初めて見た感想は?」

その輝きは、八年前、一人の少女と老人に見せたものと同じ光だった。


「『聖ジョージの領域』に出現した空間の亀裂から放たれる巨大な光の柱。
魔術名は"竜王の息吹"」

オティヌスが淡々とした説明口調で話す。

ステイル達は禍々しい光と魔力を感じ、驚愕としている。これが自分達に向けば、塵一つも残らないだろう。
実際、これは聖ジョージのドラゴンの一撃と同義なのだ。

「魔神級の魔術師……おっと魔神だったな。その限られた者達でしか使えん超魔術だ。
……それで、信じてくれたか?」

「…………信じましょう。あなたが魔神だと」

神裂はこれを見て信じたようだ。

「…………はぁ」

しかしステイルは、ため息をついた。

「正直、信じたくないけど、君が魔神であることを信じる……!」

不快感を隠そうともせず、ステイルはイライラ声で言った。当麻達に自分の大切な少女を委ねることが気にくわないようだ。

「で、改めて俺達にインデックスを任せてくれるよな?」

「ああ、任せたよ!」

「任せます」

二人は自分達を信じたようだ。

「しかし、私達が一年かけても見つけられなかったのに、あなた達には探す宛でもあるんですか?」

いくら魔神と言えど、後一週間でインデックスを解放する方法が見つけられるのか、神裂は疑問に思った。

しかしオティヌスはこう答えた。
「もう既に、方法は見つかった」

「!?」

「ほ、本当かよ!?」

「ああ。しかしそれにはまず、お前達の間違いを正す必要がある」

オティヌスは、ステイル達の間違いについて話しはじめた。


「最初に言っておく。人間が記憶のしすぎで死ぬことはない」

しょっぱなからオティヌスは、問題の大前提を覆した。それにステイルは勿論、神裂も「ほ、本当ですか!?」と驚いたそぶりをする。

「ほんとも何も、よく考えてみろ。インデックスの脳の八十五%は原典の記憶で、残りの十五%はたった
一年で埋まってしまうんだったら、
他の完全記憶能力者はたった七、八年しか生きられない、という理屈になるぞ」

「それに、人間の記憶したものはその種類によってそれぞれ別の部分に振り分けられる。知識は知識、エピソードはエピソード、というように。

知識である原典の記憶を消すべきなのに、何故エピソード記憶を消すんだ?」

「じ、じゃあ、一年おきに記憶を消すというのは……」

「お前らの上の人間のデマだろう。そう言えばお前らは絶対に助けようとするし、魔術どっぷりならその理屈でも信じるに決まってると踏んだんだろう」

大体、というよりほとんどの魔術師は、科学を嫌う、または苦手としている者達である。
中には一般家庭にある電化製品すらまともに扱えない者もいるので、こういった多少のこじつけでも信じてしまうのだろう。

「インデックスは天才なんだろ? 恐らく自分達へ反乱を起こされるのが怖くて、記憶を消して使いたい時だけ使えるように手近に置いたほうがいいと考えたんだ」

「…………インデックスが苦しんでいるのは?」

ステイルが静かに問う。
一見冷静に見えるステイルだが、その両拳は強く、固く握られていた。相当怒っている。

「一年周期にインデックスの記憶を消さないと死ぬ、といったような魔術でもかけられているんだろう。恐らくずっとな」

「最大主教……! あなたは……!」

ついにステイルが憤慨したかのような声をあげた。最愛の友人の命と人生、記憶すら奪われたのだ。彼は今、『最大主教』という人物に怒りを向けている。
オティヌスはステイルを敢えて無視して続ける。

「術式は恐らくインデックスの体のどこかだ。その場所さえ分かれば破壊できる」


「じゃあ、俺がそれを右手で壊せば……!」

「インデックスは晴れて自由になる」

つまり、可能なのだ。この少女の地獄を終わらせることが、自分達にはできる。このふざけた現実を、ぶち壊せる。それを実感した瞬間だった。

「だったら話しは早えな!」

「そうだな。しかしその前にもう一度聞く。お前達、本当に『私達』に任せていいのか?」

それを聞き、オティヌスの言葉の真意に気付いた神裂は、「いいえ、私達も協力させて下さい」と答える。

「インデックスの友として、あなた達に協力させて下さい」

「よし。……で、そこの神父は?」

「助けるに決まってるだろ。……彼女を救って見せる。ずっと前に、僕の魔法名に誓ったんだ」

「おお! ようやく折れてくれたか」

オティヌスのオーバーリアクションにステイルは煙草をふかすだけだ。それにオティヌスのニヤケ顔が自分の上司に似ているからか、さらにイライラが加速する。

「うるっさいな! とっととやれよ!!」

イライラが頂点に達し、ついにステイルが怒鳴った。

「分かってますって。さて、さっそくインデックスの術式を……」

急かされた当麻が軽いテンションでインデックスに駆け寄り、右手で彼女の体に触れようとする。
が、しかし、「待て! 魔神!」とオティヌスの慌てた声ですんでの所で静止する。


「な、何でせうか……?」

恐る恐る、当麻が聞く。オティヌスの顔は本気で焦っていた。

「いいか、魔神。インデックスが着ているのは、『歩く教会』だぞ?」

「ああ、そうだけど……」

当麻はまだ自分のしようとしたことが理解出来ていないようだった。

「即ち、魔術だ。お前の右手でそれに触れれば……」

「あ……」

当麻の右手は自分の幸運どころか、魔術すら消す。いや、それがこの場に置いて役に立つのだが、今その手でインデックスに触れれば、

「『歩く教会』は壊れて……」

「……インデックスの衣類はバラバラになる……」


それを聞いた神裂は横を向いて咳払いをする。

一方ステイルは幽鬼の様な表情を浮かべ、「燃やしてやる……!」といった不穏な言葉を呟いている。

「危うく上条さんの不幸の確率が働くところでした……」

もしあのまま触っていたら、一気に袋叩きだった。

「お前が完璧なのに完璧じゃない理由が分かった気がする……」

オティヌスはすでにげんなりとしていた。


気を取り直して当麻は、『歩く教会』に触れないよう気をつけて、インデックスの術式を探そうとする。
が、また問題にぶち当たった。

「……どっから探せばいいんだ……」

考えて見れば、どこから探すべきかそんなもの決めていなかった。後ろではステイルが「変なところ触ったら燃やす!」とうるさい。


というかずっと燃やす、しか言ってないな。

「あの~、神裂?」

「はい?」

インデックスの体に術式っぽいものとかなかった?」

いつも一緒にいた二人なら、それらしき物を見ているかも知れないと思った。

「……いえ、私の知る限りは……」

「そうか……」

また振り出しに戻る。こうなれば泣き寝入りだ。

「オティヌ……」
「自分で考えろ」
「……ひどい」

泣き寝入りも失敗した。こうなればない知恵を振りしぼるしかない。

(神裂やステイルにも見つけられなかったんだから、普通の隠し場所じゃないよな……。他人にも、インデックス自身にも見つからない………………あ)

それは偶然だった。いや、奇跡とも呼んでもいい。

当麻に答えが下りてきた。


「な、なぁ! 体の中は!? インデックスの身体の中に術式があるんじゃないか!?」

その言葉に、三人ははっ、とする。



「例えば……口の中とか」

確かに、体内に術式があるのなら、ステイルやインデックスには発見はまず不可能だ。しかし口の中ならば、まだ術式の解除ができる。

それに納得したのか、オティヌスは「でかした!」と声をあげる。

「本当によくやった! まさかこんな的確な答えをお前が導き出すとは!」

「誉めすぎると逆に傷つくんですけど!?」

当麻が悲痛な叫びを上げる。不憫すぎるだろ。

「……で、口の中、というと……」

「もちろんお前が探せ」

「デスヨネー」

これで見つからなかったら、また振り出しだ。
そう思いながら、当麻はインデックスの口をできるだけ優しく開く。口内は温かいというより熱く、インデックスの熱い吐息が手にかかる。

そして当麻はその中を覗く。

「……あった」

見つけた。喉の奥に、魔方陣が描かれていた。


形はまるで数字の4がねじまがった様で、ここからでも禍々しい魔力を感じた。
明らかに並みの魔術ではない。オッレルスの持つ原典の中にも、このような術式はなかった。

「喉の奥にある。けど、この術式、なんというか……」

「"やばい感じがする"んだろう?」

当麻の言葉を察してか、オティヌスが先に言う。

「そこらの教会の防御術式とは比にならないだろうな。なんせイギリス清教の最重要人物だからな、魔神のお前でも、ダメージを受けるんじゃないか?」

まぁ、当麻に本当で勝とうとするならば、それこそ魔神級の術式を数十個使うか、同じ存在である魔神でもなければ無理だろう。

「まさかインデックスの魔力を使うとか……」

「それはありえません。インデックスは魔術が使えません」

当麻の不安要素神裂がを否定した。しかし当麻は、

「それ、どこ情報?」

「教会からですが」

「今すぐその考えを捨てろ。お前らを騙した奴等だぞ?」

「いえ、インデックスが魔術を使えないのは事実です。実際、彼女は魔術を使うことができませんでしたし」

「…………んじゃ、これはもう壊していいよな?」

当麻が最終確認をとる。

「たとえ教会に刃向かうことになっても」

「もう覚悟は決まっているからね……」

「お前ら……ほんとインデックスのことが好きだな」

その答えを待たず、当麻はインデックスの口に入っていた右手をさらに奥へ入れる。インデックスはやはり呻き声を上げたが、当麻は人差し指を魔方陣に当てた。





バキィィィィィィン!!





という甲高い音が響く。破壊した。

しかしその瞬間、当麻は衝撃波の様な何かに吹き飛ばされた。


「!?」

何が起こるかは覚悟していたが、これほどまでの衝撃は予想できなかった。不様にも当麻はしりもちを地面につき、黒いオーラを漂わせて体を浮かばせるインデックスを、ただ見ることしかできなかった。


「…………」

ギン、と魔方陣を浮かばせた目と、当麻の黒い瞳が合う。
そして、インデックスの口が開く。




「ーー警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorumーー禁書目録の『首輪』、第一から第三までの全結界の貫通を確認……」


それは間違いなく彼女の声だった。しかし、その口調は機械的で抑揚の欠片もなかった。


「再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能。現状、10万3000冊……もとい、10万2997冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

突如、インデックスの眼の魔方陣が拡大した。



「『書庫』内の10万2997冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。
 術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組みあげます」


まずいーーーー、直感的にそう感じた。

(やっぱりただの魔術じゃねぇ!)

当麻は今のインデックスにかかっている術式を解除しようと駆ける。が、

「迎撃用の結界を展開ーー」

先にインデックスが結界を展開する。

それによって発生した衝撃波に押しのけられるように、当麻は数メートル後退した。

「こ、これは……! シルビアの……!?」

オッレルス家の聖人シルビアは、結界を防御だけでなく、攻撃にも使っている。
しかしあれは彼女の独創魔術だったはずだ。それも聖人特有の『天使の力〈テレズマ〉』を使うはず。


「天使の力すら使うのかよ!」

右手を大きく突き出す。一見何の変哲のないただの手。しかしそれは神の奇跡を打ち消す。



「やってやろうじゃねぇか……!!」

甲高い音と共に、結界は壊れた。


「……結界の崩落を確認。侵入者個人への有効な術式を検索、組み立てーー」

「ーー侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました」

インデックスの眼の魔方陣がまた広がる。

その時、当麻の背中にとてつもない悪寒がはしった。

何か来る。核兵器級の何かが。

当麻は反射的に右手を前に突き出した。

「これより、特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」



インデックスから、見覚えのある光を放つ、直径数メートルの光の柱が当麻を襲う。

突き出した右手でそれをおさえるが、絶えずぶつかってくる砲撃の威力と質量に、体全体が押される。

当麻の右手はただの右手ではない。しかし魔術の類いを打ち消すだけで、強度は人間並み。

防御の術式もかけられないし、仮に魔神の左手で受けても怪我ではすまないだろう。

そのため衝撃はダイレクトに、絶えず体に伝わる。

この右手こそが、魔神上条当麻の最大の特徴であり、弱点である。

しかし、

「っぐ……! うおおお!!」

他の部位は魔神だ。魔神の肉体は強大な魔力とリスクの高い術式、そして原典に耐えられる強度を持つ。
そのため聖人と比較して身体能力は2~3倍、肉体強度は3~4倍だ。

直に受けない限り、現状では押しきることができる。


(一歩、一歩ずつでも……! 前に進む!!)

ほんの数センチずつだが、前進しはじめた。

押しきればインデックスに触れられる。

インデックスの術式を解除できる。

この魔術"竜王の息吹"の弱点は、威力が高過ぎてコントロールが難しく、下手すれば自分にも当たることだ。そのため一直線にしか放てない。


押しきってインデックスにたどり着ければ、自分達の勝ちだ。


〈オティヌスside〉



オティヌスは目の前の光景に言葉を失っていた。


巨大な光の柱と、自分の相棒が右手一本で拮抗している。
どう見てもあり得ない状況だ。


「何故だ……!」

オティヌスが言葉を絞り出す。


「何故インデックスに魔術が!?」


驚愕が困惑へと変わった。

インデックスは魔術を使えない。つまり魔力を練れない、そう解釈していた。

しかし魔力を練れないのではなく、魔術を使うのに制限がかかっているのでは、その時は考えつかなかった。


「……あれは"自動書記"……」

一緒に傍観している神裂がつぶやいた。表情と目は、驚愕の色に染まっている。

「彼女の持つ10万3000冊の魔道書の知識を総動員し、最適な対抗手段を用いて敵を排除する魔術……!」

「インデックスが魔術を使えないのはあの魔術の維持、発動のためだったと言うのか……!」

吐き捨てるようにステイルが言う。

「10万3000冊の魔道書の知識を持つ彼女と戦うとことは……、一つの戦争を迎えることを意味するぞ……!」


「いや、ちがう……、もしかしたら」

インデックスこそが、完璧な魔神なのでは、
オティヌスはそんな気がした。



ギリ、と無意識に歯ぎしりする。
恐れている? 自分が?

急激に今の自分に対する怒りを感じた。

自分が浅はかな考えをしなかったら、自分が考えを急かさなければ、こんなことにはなり得なかったはずだ。これは自分の責任だ。

彼が進もうとする限り、オティヌスも諦められない。

だがら、インデックスを救う以前に、魔神の失敗作として、上条当麻の相棒として、


(打開策を…………!!)



「魔神! よく聞け!」

「!? オティヌス!?」

「分かっているだろうが、インデックスはお前が触れれば解除される。つまり私達の勝ちになる!」

「知ってら! だからこうやって近づこうと……!」

「近づけば近づくほど威力が増しているのくらい分かってるだろ、このバカ野郎!
右手は人間なんだぞ!? 今でもその手は悲鳴をあげている! 下手すりゃ耐えきれず消し飛ぶ!」

「悪いが引くってのはなしだぜ!?」

「当たり前だ。誰に当たると思ってるんだ、このマヌケ。いや、弾除け」

「おい! 上条さんの価値ってその程度なの!?」

「いいか、魔神」

「スルー!?」

「少しの間だけ、その攻撃を私達が食い止める。その間にインデックスに触れて術式も解除しろ!」

「ん、んなことできんのか!?」

当麻にはとてもこの力をオティヌス達が押さえきれるとは思えない。

「ああ、できる。ステイル」

オティヌスがステイルの名を呼ぶ。

「"魔女狩りの王"は?」

「一応使えるが……」

ここら一帯にあるステイルのルーンは、まだはずされていない。"魔女狩りの王"を使うのには十分だ。
しかし、あの火力が何の役にたつのか、ステイルは分からなかった。

「……いくら持つ?」

「おい! まさか!」

ステイルはオティヌスの考えを察した。"魔女狩りの王"を、盾がわりにする気だ。
確かに防御に特化しているが、今回は度が違う。

「魔神級の魔術だぞ!? 一瞬も耐えきれない!」

「魔力と耐久性については私が補助する。数秒持てばあいつがインデックスにたどり着ける!」



「だが……」

「自信がないのか!? 助けたいんじゃないのか!? 少なくとも今、あいつは逃げず耐えているぞ!」

ステイルの態度にオティヌスはついに激昂したような声を上げる。


「やれ、ステイル! インデックスを救え!」

「っ!! ……"魔女狩りの王"」

キッ! と前を向き、ステイルは炎の巨人を呼び出す。
出現した巨人はいつもより

「お、大きい……!」

オティヌスの補助を得てか、2メートル程増していた。これほど大きなものはステイル自身、作ったこともなかった。
燃え盛る炎は大きく、ここからでも熱を感じる。

「魔神! 準備はできたぞ!」

そのオティヌスの声を合図に、当麻は"竜王の息吹"をいなし、かわす。
そして砲撃はオティヌス達の方へと向かい、その射線上にある"魔女狩りの王"に直撃する。

「よし!耐えているぞ!」

普通ならすでに崩壊していてもおかしくない。
しかし、オティヌスの補助で、余裕で耐えている。
再生も追いついていた。
が、

「い、威力が!?」

"魔女狩りの王"の防御力に比例するように、砲撃の威力もとたんに上昇した。

今度は再生が追いつかず、"魔女狩りの王"はすぐに崩壊しはじめた。
そしてさらに追い討ちをかけるように、

「上条当麻の接近を確認。標的に攻撃を行います」

二発目の"竜王の息吹"が当麻に放たれる。

「うおっ!」

反射的に右手をつき出す。直撃はしなかったが、受けていた右手から、ごきり、と嫌な音が。

八方塞がり、万策尽きたかに思われた、が、


「Salvare000!!」

神裂の声と共に、剣激がインデックスの足下へ向かう。


「神裂!」

放たれた剣激はインデックスの足下、正確にはその地面に直撃し、インデックスの体ごと、二つの砲撃が空へと向く。

「行って下さい! 上条当麻!」

当麻はもう一度走り出す。そしてインデックスの眼前へとたどり着き、インデックスに触れた。
そして、

バキィィィィィィン!!

甲高い音と共に、インデックスの魔術が、ついに、解除された。

〈上条side〉

やっと、終わった。

インデックスを助けることができた。


術式から解放されたインデックスは、自身の傍らで気絶していた。今はスースーと、寝息をたてている。

当麻の右手はもう動きそうにない。二発目に耐えきれず、何本か折れていた。

(終わったんだな……)

しかし右手に痛みはない。珍しく今日は疲労を感じていて、痛みより疲労が勝っていた。


すると、自分の頭上から、光の羽が落ちてきた。"竜王の息吹"の余波だった。

(や、やばい!)

その羽はインデックスに触れそうだった。

どのような効果があるかはよく知らないが、インデックスに触れられればやばいことはわかる。

すぐに消そうとするが、

(右手が動かねぇ!)

先で折れてしまった右手が、動きそうにない。衝撃を受けて肩も痛めているようだ。

(ハッ……)

何故か当麻は心の中で笑った。



(魔神って、これ受けてもだいじょぶだよな……)

当麻はついに、インデックスに覆い被さった。


そして、光の羽が、当麻の体じゅうに当たった。








目を開けるとそこには、見知らぬ白い天井があった。

どれ程寝ていただろうか。ゆっくりと上体を起こすと、自分はベッドの上だった。

(……ここは……病院?)

なんとなく状況がわかってきたところで、ドアが開いた。

「魔神、気分はどうだ?」

入ってきたのはオティヌスだ。どこか申し訳なさそうなのは気のせいだろうか。

「よ、オティヌスか」といつも通り返事をしたつもりだが、今度は安堵したかのような顔をした。

「インデックスはどうなったんだ?」

「無事だ。お前が庇ったおかげでどこも怪我していない」

淡々とオティヌスが答える。

「そーですか。上条さん、一安心ですよ」

「…………」

「ん、オティヌス? どうかしたか?」

急に黙りこくったから、どうかしたのかと思った。
すると、オティヌスは気まずそうに「なぁ……」と声を出した。

「聞きたいことがあるんだ」




~~数分前~~


「これは記憶喪失というより、記憶破壊じゃないかと思うよ?」


とある病院の診察室で、カエル顔の医者が言った。


「脳細胞の一部が焼ききれていて、正直記憶が戻る見込みは無いよ? なんせ物理的に潰されているようなんだから」


彼はこの学園都市内で一番の腕前を誇っている。必要な機材があれば直ぐ様用意し、取りこぼした命は一つと無い。

しかし、その力を持ってしても、


「これは、僕でも治せないよ?」


目の前に座る二人の少女は、何も言葉を発さない。明らかに二人は学園都市の人間ではなかった。

片方の金髪の少女は悔しそうな表情で、ギリ、と歯ぎしりし、もう片方の銀髪の少女(シスター?)は今にも泣き出しそうだった。

やがて、金髪の少女が口を開いた。


「……肉体のダメージは……?」


恐らく、彼女が最も恐れていることだろう。よほど大切な人なのか。それでも、真実を伝えなければ。


「完治したとは言えないよ」


「恐らく後遺症が残る。
外傷の無い所にまで体のあらゆる所に大きなダメージを負ったんだ。それは精密検査しないと分からないけれど―――――――」
「もういい」


金髪の少女が遮った。
やはり聞くに耐えなかったようだ。今の彼女の胸中は察せないが、穏やかではないのは確かだ。


「――――面会してもいいか?」

「ああ、いいとも」


昨日、あの少年と彼女達に何が起こったかは知らない。けれど、彼女達が、これから大きな業を背負っていくのは、その場にいなかった自分でも分かる。
だから、背を押すことしかできない。


「言っておいで」


それに答えず、彼女は診察室を静かに去って行った。




~~現在~~



診察室をでて、現在病院の廊下を歩いているインデックスの胸中も、穏やかではなかった。

自分はどんな顔をして、彼に会えばいいのだろうか。
第一、彼は自分を覚えていてくれているのだろうか。

忘れられていることを考えると、胸に黒い何かが渦巻いてきた。



それが何かはわからない。




結局それが分からないまま、彼のいる病室の前へとたどり着いた。
いや、たどり着いてしまった。

自分の気持ちも定まらない、そんな不完全な気持ちだった。こんなので入れるのだろうか。
けど、そんな気持ちでも、

オティヌスは既に入っている。自分より先に覚悟を決めて。だから、自分もいかなければ。自分だけ逃げたくなんかない。


「ふぅ………………」と病室の前で一息つく。





そして、インデックスはドアを開けた。













「―――――――――――――――――お、インデックス」




いた。


ベッドには間違いなく、上条当麻がいた。右手が折れているなど違った所はあるが、確かに、はっきりと自分の名を呼んだ。



彼の傍らではオティヌスが「遅いぞ。何してた」とやや膨れっ面で、怒ったような口調だが、間違いなく診察室の時とは雰囲気が違っていた。


「だ、大丈夫なの…………?」


おかしい、嬉しいのに声がかすれてる。目頭も熱くなってきた。


「ああ、身体のことか? いやー、上条さんもさすがに死んだと思いましたけど、奇跡的に助かったんですよ。魔神の肉体も捨てたもんじゃないですよ」

「よく言え。もろに受けて魔力生成に障害を持ったくせに。どんだけ体はるんだ」

「いいんですぅ、上条さんの身体なんだから。障害くらい、訓練すれば」

「…………その訓練に付き合うのは誰だ」

「オティヌス様、お願いします」



「イヤだ」

「土下座したのに!?」

「怪我人の土下座ほど見苦しいものがあるか。お前限定で。お前限定で!」

「理不尽すぎんだろ! つか二回も同じ事を!?」

「あ、違った。いつもだったな」


「………………あれ、目から涙が…………?」

「キモいんだよ、目の前で」



全く、何にも変わっていない。
二人はさもいつも通りのように、夫婦漫才を始めていた。至って健全に振る舞っている。


昨日何が有ったかはあの魔術師二人に聞いた。
自覚と記憶はないけれど、確実にこの二人とあの魔術師達が、生死の間際にまで達してしまいそうになったのは紛れもない事実だろう。


そして、その原因が自分であることも。


けれども二人は、何も言わず、自分という存在を受け入れてくれた。この場にいることを拒みはしなかった。



「さすがにそれは許せねぇ! 仕返しに炎の魔術で燃やしてやる!」

「はぁ? 今のお前なら、初見の魔術じゃチャッカマン程度がせいぜいだろうが(笑)!」

「火炎放射器くらいは出せますぅ! 上条さんは腐っても魔神です! 魔力練れなくても魔神です!」




しかし、拒まれてはいないが、今は相手にされていない気がする。


(…………早速空気なんだよ…………)


今や、さっきまで感じていた嬉しさはどこへやら、自身の存在の空気化が気がかりだった。

早く自分の存在に気づいてほしくて、声をかけようとしたその時、ガラリ、とドアが開いた。


「やぁ。気分はどうだい?
…………て、だいじょぶそうか」


入ってきたのは、二メートル越えの大男、ステイルだった。
その後ろからは、病院の中でも露出過多な服装の神裂が、ステイルに続いて入ってきた。



「あ、ステイルと神裂か」

「なんだ、見舞いか?」

「それも兼ねて………………て言うか、お前ら何やってんだ!?」

「いや、これは……」


ステイルが驚くのも無理ない。
今二人の状況を説明すると、オティヌスがどこからともなく取り出した縄で当麻の身体を縛って、彼を芋虫状態にして自由を奪い、その胴体を片足で踏んづけている最中だった。


俗に言う、SMプレイだ。


「上条当麻。昨日の一件で君に対して尊敬と感謝の気持ちを抱いたが………………幻想だったようだ」

「誤解だ! これはオティヌスが……」

「見損ないました……」


間髪入れずに、神裂が告げる。


「インデックスの前で、こんなことをして!」

「違うってば! あ、インデックス! お前何か言ってよ!」



今度は恥とプライドをかなぐり捨て、インデックスに懇願する。もちろん芋虫状態で。しかし、


「ふん! とうまなんか知らない!」

「何故にお怒りモード!? つーかオティヌスいい加減、縄(これ)、外せーーーー!!」




~~数分後~~




「危うく変態認定されるとこでした…………」

「安心しろ、もうなってる」

「安心の要素どころか、不安要素しかない!?」


ようやく解放された当麻だが、オティヌスの不穏な一言に反応する。


「インデックスは何か不機嫌だし……、あー、不幸だ…………」



サラリーマンのようなため息をつき、当麻はお決まりの口癖を呟く。神裂がそれに反応したのは気のせいだろうか。


「で、何の用できた? 見舞いだけじゃないだろ」

「……さすがは魔神、の失敗作か。
確かにそれだけじゃない。というか、見舞いがついでだね」


ステイルの言葉におい、と病室内から声が上がる。
しかしステイルは意に介さず続ける。


「インデックスの処遇が決まった」

「!!」

「…………教会はインデックスを、上条当麻の下に保護させるそうだ」

「え!?」

「……なんだ、嫌なのか? 生活費の方は補助するそうだが」

「いや、そういう問題じゃねぇよ! それよりシルビアに何を言われるか分かったもんじゃねぇ!」

「そっちかよ」


オティヌスの突っ込みが入る。




「前から思うんだが、シルビア程度、お前には赤子以下のはずだろ」

「お前はあの『お仕置き』を知らないから言えるんだ!」


すると突然、当麻の体がぶる、と震えたように見えて
「シルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖い」

と、何かのトラウマを呼び覚ましてしまったようだ。


「で、インデックスを私達に預けるのはいいとして……」

(潔いくらいにスルーしたんだよ…………)


「お前達の方はどうなんだ? インデックスを監視する任務も解かれ、実質、そっちの上司に逆らったようなことをしたんだぞ?」


形からすれば二人は、『必要悪の教会』に逆らったことになる。恐らく二人もそれを覚悟してインデックスを救おうとしたのだろう。
それ相応の罰が下るはずだとオティヌスはおもっていた。


「いえ、インデックスの件については何も言及されていません。私達に対しては、通常の勤務に戻れ、というお達しだけでした」



「それだけ?」

「教会の方もあまり表沙汰にはしたくないのでしょう。インデックスはイギリス清教の重要人物ですから」

「ま、君達が僕達にする心配事なんて、ないってことさ」


そう言うとステイルはゆっくりと振り返り、「彼女をよろしく」とだけ言って神裂と共に当麻の病室を出た。



「……ま、とりあえずよろしく。インデックス」

「とりあえずよろしくな」

「なんで『とりあえず』!?」

「「いや、急だったし」」

「だとしても扱いがひどい!」


そしてまたいつもの空気に戻る。
今の所はインデックスがいじられ役にいるようだ。まぁ、基本自由奔放なインデックスを翻弄できるのはこの二人ぐらいだろうが。

「あ、インデックス。あのお医者さんに俺の薬貰ってきてくれない? 後で取りに来るよう言われてるから」

「わ、分かったんだよ。でも代わりに、お家に帰ったらいっぱい食べさせてほしいかも!」

「ああいいぞ。当麻(こいつ)の財布が空になるくらいまでは大丈夫だ」

「何が大丈夫だ!?」

「分かったんだよ!」

「わかるなーーーーーーーー!」



前言撤回。オティヌスの方が上手であった。


「…………お前……後で覚えとけよ……」

「暇だったらな」


つまり、覚える気はない。
当麻は諦めたように、はぁ、とため息をつき、上体をベッドに寝かせる。昨日の疲れが完全に取れたわけじゃなかった。
それに後一週間は入院生活、とあのカエル顔の医者が言っていた。


「…………ふふ…………」

「?」


オティヌスが急に笑った。それを見て当麻は怪訝な顔をする。


「お前と会って、早くも八年たったか。正直、私にとって、お前と出会ったあの日は最高の日だと思っている。勿論今も」



「ああ、もう八年たつのか……」


オティヌスが唐突に他意のない話を始めるのはいつもの事なので、当麻も慣れたように返す。


「バチカンでお前とまた会ったときも、お前は私のことを覚えていてくれてたな」

「そりゃ、あんな痴……すいません、なんもない」

「……それ以上言ったらグーをとばすつもりだった。
ま、それも覚えているくらいなら問題ない。やはりお前は何の記憶も失っていないな」

「人名、用語、知識、全部問題無かったしな」


当麻が目を覚ました後、 オティヌスは自分に細かい所まで質問してきた。当麻はその全てを正確に答えていたし、オティヌスが頭の中を覗いても、脳の機能には何の問題もなかった。
つまり、上条当麻は何の記憶も失っていなかった。


「だが、それは今分かっている範囲だけだ。
後々から何かの記憶を失っていることが分かるかもしれない。……そういった時は頼れよ?」

「ハイハイ。喜んで頼らせて頂きます」


しかし、当麻の答えを聞いたオティヌスは、何故か不服そうにジトッとした目でこっちを見た。


(そう言っていつも頼らん癖に……)

「え? 上条さん何か悪いこと言った!?」


本気でオティヌスが不服な顔である原因が分からない当麻は、態度を崩して慌て始める。
それを見て、不満を通り越して呆れ始めたオティヌスはもういい、と病室を出ようと立ち上がる。




「…………俺も、オティヌスと会えてよかった」


ピタリ。
病室のドアの前まで歩いたオティヌスが動きを止める。


「オティヌスはすげぇ頼れるし、俺の知っている中じゃ、ダントツに強い。それに何より、オティヌスは優しい」


「…………優しい、のか? 私は……」


いつもの自分なら否定していたであろう。だが、他でもない自分の相棒、上条当麻の言葉にオティヌスは何故か、やや恐怖心を抱きながら聞き返す。

生まれてこのかた、そんな事は他人に言われたことがなかった。

自分が持つ力を見たものは誰であれ、恐れ、また拒絶され、敬遠された。当麻以外の人間で、まともに話そうとする者はいなかった。

自らの力が原因の彼女の苦悩を、理解しようとする者はいなかった。





オティヌスは信頼する相棒からの返事をまった。








「友達のために立ち上がるやつが、優しくないわけねぇだろ」






「――――――――――そうか………………」


短い返事だけ返して、病室の外へと出る。当麻には見えるはずもなかったが、その時のオティヌスは、




――――――――――――いつもより柔らかな、白く、美しい、聖母のような笑みを浮かべていた。


(優しい、か………………)



病室から出ても、オティヌスはどこにも行かずそのままゆっくりとドアにもたれ掛かった。

その間も彼女はその笑顔を崩すことはなかった。


やはり、ああ言われると反応に困る。


だけど今、オティヌスの心はとても穏やかだった。
いや、暖かい。今まで感じたこともないくらいに。


それは、ただ優しいと言われたからだけじゃない。



自分にとって、世界で最も長い時間を共に過ごしてきた人に、そう『理解』してくれていたからだ。
それが堪らなく、嬉しい。


(やはり、私も一人の人間なのだな)


まぁ、それがあいつの耳に入れば、『そんなこと思わなくてもお前は人間だろ』と言われそうだが。



少しして、トテトテ、という音がオティヌスへ近づいてきた。


「おてぃぬす~。どうしてそこにいるのー?」

「ん、いや、お前を迎えにいこうとしててな」

「まだそんな立ってないと思うんだけど……。
あ、当麻のお薬貰ってきたよ」

「おお、ありがと」


すると突如、インデックスの表情が凍るように固まった。あまりにも唐突なことだったので、オティヌスは「ど、どうした!?」と狼狽え始めた。


「お、おてぃぬすが、わ、私にお礼を言ったんだよ……!」

「なんだよその理由!? 失礼すぎんだろ!?」

「いや、自分勝手で傍若無人な性格してて、問題が起こったらとうまに押し付けてるし…………」

「今日のご飯、もやしな」



「嘘なんだよ!? 冗談なんだよ!? 昨日会ったばかりでおてぃぬすのことあんまり知らなかったし……!」

「……………………これから知っていけばいいだろ…………」

「…………え?」

「私もお前のことをよく知ってる訳じゃない。これからお互いのことを知りあって、理解していけばいい。理解し合う時間なら、たくさんあるだろ。勿論、あいつとも」

「お、おてぃぬす…………」


これまで、オティヌスが積極的に人と関わろうとしたことは少なかった。ましてや仕事関係ではなく、友情関係を築いていこうとしたことは、全く無かったと言っていい。
しかし、上条当麻との出会いによって、八年前から少しずつ、オティヌスの心は変わっていっていた。
勿論、インデックスもたじろいでいた。
だがオティヌスは、内心不安ながらも黙って目の前の少女の答えを待った。









「…………………………と、とうまとならともかく! お、女の子どうしでそう言った関係は、私としては遠慮しとくんだよ!」

「は!?」

「ゆ、百合展開はかんべんかも!!」

「んな展開望んじゃいねぇよ!
ちくしょう、一生に一度の告白なのにィ!!!」






「…………はは、不幸だ」


病院、特に病室の前では静かに(切実)。

…………………………………………………………………………………………………………………………………


「…………何かな? 冥土帰し」


とある病院の一室。そこでは冥土帰しと呼ばれるカエル顔の医者が、数年ぶりに誰かと電話ごしの会話をしていた。
勿論、ただ世間話をするために掛けたのではない。


「今日、僕の所に一人運ばれて来たんだがね? 明らかに学園都市の生徒じゃないんだよ」

「ほう。それがどうかしたのかい?」


電話の向こうからは、それだけがかえってきた。


「君と彼らは関わっているんじゃないか? アレイスター。特にその付き添いで来た金髪の子と」


今度は少し間があった。

「…………なぜ、そう思う?」

「彼らのIDが見つからなかったからだよ。
それに今日は来賓の予定も無かったし、そうなると君が関わっているのがいつものことだろう?」


冥土帰しは淡々と、詰問するように答えていく。


「それにあの金髪の子、なんというか、雰囲気が昔の君と似ているんだよ」

「…………ク、ククククク、ふ、ふははははは! ふはははははは………………!!」

アレイスターが電話の向こうから地獄の亡者のような笑い声をあげた。


「さすがだ。さすが冥土帰しだ。 もう数十年と経っているのに……。私のクローンだと見破ったか?」

「クローン? 私が似ていると言ったのは雰囲気だが?」


「ふむ。確かに彼女……オティヌスは私と姿形は似ていない。しかし彼女と私の考えることは非常によく似ている。合理的思考、判断力、観察力。全てにおいて私と似かよった方式だ」

「……まるで今まで見ていたかのような言い方だね」

「"プラン"に必要な"パーツ"だからな。部品の性能はよく見ておくべきだろ?」


「――――僕の患者を部品呼ばわりするな。彼らは僕の患者なんだからな――――」


いつもの彼なら考えられないであろう、怒気の籠った声で冥土帰しは忠告する。医者として、患者を守ることが彼にとっての信条だった。

「おっと、失言だったな。
用がそれだけなら、そろそろ切らせてもらうよ。
さらばだ」


その言葉を最後に、電話からはプー、プーという電子音だけが、冥土帰しの耳へと入ってきていた。


「……アレイスター、君は……」



…………………………………………………………………………………………………
…………………………



インデックス編、終わりです。
ぐだぐだとひきのばしすぎてしまったと今思います。
慣れないせいで、下手な文ばかりを書いてしまいました。

次は、三沢塾編をとばして、日常編、妹達編に続きます。

おつなのー

次回予告


「また勝負かよ! このビリビリ中学生!」
魔神になった不幸体質を持つ少年ーー上条当麻


「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての!」
学園都市のビリビリ中学生ーー???


「それほどこの町は、人を狂わせるんだ」
クローン(?)の魔神の失敗作ーーオティヌス


「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ!」
十万三〇〇〇冊を記憶する少女ーーインデックス


「よろしくだにゃー、カミやん」
謎の金髪グラサンニャーニャー男ーー???


「ボクぁ落下型ヒロインのみならず、」
謎の青髪変態ピアス男ーー???


「―――と、ミサカはツンツン頭の少年に答えます」
学園都市のビリビリ中学生(?)ーー???



「 第五話・学園都市の日常」





学園都市

東京西部に位置し、三メートルの壁に囲まれた完全な円形の都市。
総面積は東京都の3分の1を占める広さを持つ。
総人口は約230万人で、その8割は学生。
ここの学生らは「記憶術」だの「暗記術」という名目で超能力研究、即ち「脳の開発」を行っている。
そのため外の世界との技術格差は二、三十年ほどあり、二十三に別れたそれぞれの学区で様々な研究を行っている。

そしてその一角、第七学区

中学・高校といった中等教育機関を主としており、同校に通う学生や勤務教師たちの生活圏となっていて、9つの他学区と隣接するせいか雰囲気は雑多である。



はー、ホントついてないわ…………。

7月中旬終わりのある日、八時を少し過ぎた頃、第七学区のとある路地で、一人の少女がいた。
しかしその周りには、がらの悪そうな男が四人いて、その少女を囲って逃げ場をなくすかのようにして絡んでいた。


「なー、君、常盤台の子だよねー?」

「こんな夜中に何で一人でいんの? 暇なら俺らと遊ばない?」

「帰りはちゃんと俺らが送るからさ」

「いつ帰れるかはわかんねーけどよー」


その言葉で下品な笑い声を上げる不良達に対し、彼女は軽くため息を漏らすだけだった。
その理由は呆れ。
誰にと言うと、この状況を見ていながらにして、見ないふりをしてそこを通りすぎる生徒達にだった。


自分の身が可愛いのは分かるが、この状況を見たのなら、せめてこの街の治安を守る、警備員や風紀委員に通報だけでもするべきだ。
それすらもできない生徒達は、いくら何でも情けないと思った。

最も、彼女の素性を知る者がいたなら、イヤお前が追っ払えよ、と口を揃えるだろうが。

(ホント、ろくでもないやつばっかね、この街も、こいつらも)


そろそろ不良達が手を出してきそうだ。出して来たら即攻撃する。相手が手を引いてくれたのならこっちはありがたいが、今までの経験では、今日もまた攻撃することになるだろう。


攻撃しようと身構えたその時、「おい、どこ行ってたんだよ」と見知らぬツンツン頭の少年が、不良達の間を割って入り声をかけてきた。


「探したんだぜ? ほら、帰るぞ」


まるで自分を囲む不良達は眼中に無いとばかりに、少年は続けて話しかける。勿論面識はない。
しかしこの少年はまるで知り合いとでも話しているかのようだった。


「ちょ、待ってよ! あんた誰!?」


思わず叫んでしまった。そしてそれを聞いた不良達は一気に雰囲気を変え、少年は「おい! 知り合いのふりして逃がそうとしたのに!」と慌て始めた。


「はぁ!? いきなり話しかけてきたらそうなるでしょう!?」

「だとしても空気読めよ!」

「誰に向かって口聞いてんのよ!!」


自分は昔から少々勝ち気だ。ゆえに、些細なことでもすぐ突っかかってしまい、今のように言い争いになったりする。
一方、完全に無視されたと思った不良達は「テメー何無視してんだ?」と詰めよってきていた。

「いきなり出て来て舐めたことしやがって。覚悟できてんだろーな?」

「ハッ。女の子に手を出すような小者が吐きそうな台詞はいてんじゃねーよ」

「あぁ!?」


「よく見ろ! まだガキじゃねぇか!」

「え?」


……おい、このツンツン頭今なんつった?


「こんなガキに手ぇ出して、お前ら恥ずかしくねぇのかよ!?」

「だっ……………………!!」


ブチン、と自分の中の糸が切れた。


「誰がガキだああぁぁぁぁぁぁ!!!?」


自分の身体から、怒りの叫びと共にビリビリ、と電撃がほとばしける。それは周りの不良達に至らず、近くの電子機器にも直撃した。放電が終わると当然不良達は揃って気絶し、頭上の街灯は弱々しく点滅していた。


しかしそんな中で、断末魔の悲鳴を上げて気絶した不良達と同じようには倒れず、頭上の街灯のように弱々しいそぶりは見せず、その場に堂々と立っている男がいた。


「な、何すんだよ! この電撃ビリビリ女!」


このツンツン頭の少年だった。
右手を前に構え、それだけで身体を守っているような姿勢と、驚きながら非難するかのような口調で自分の目の前に立っていた。
さっきの電撃は右手一本で防げるようなものじゃない。どうやって防いだのかは分からなかったが、それよりも、自分にはまず言うべきことがあった。


「ビリビリ言うなっ! あたしにはねぇ!―――――」




「―――― 御坂美琴って名前があんのよ!」


その瞬間、ついに、科学と魔術は交差した。



上条当麻と御坂美琴が出会ってから数日たった。

その日、学園都市は記録的な猛暑を観測し、今の時間帯なら平日は学生達が通学中で、その暑さに身を焦がすはずだが、その日はちょうど日曜日で、この猛暑の中では誰も外を出歩こうせず、ほとんどは冷房の効いた学生寮に引きこもっているだろう。

が、しかし、当麻らのいる学生寮は、数少ない例外だった。


「あ、暑い……んだよ………」


当麻達が住む、とある高校の学生寮の一室。純白修道服のシスターことインデックスは、そのリビングでうだるような暑さに耐えきれず、だらしなくねっころがっていた。


「そ、それに、お腹すいたよぉ……。とうま~~、朝ご飯まだ~~?」


この暑さなら食欲も失せるのが普通だが、インデックスはそんなこと関係ないようだ。

それを聞いた当麻は、テーブルの宙に浮いた卵とのにらめっこをやめ、「やかましい! 上条さんは忙しいんです!」とインデックスへ一喝した。
しかしその弾みで、宙に浮いた卵はバリリッ、という音をたてて割れてしまった。


「集中しろ! これで三十一個目だぞ!」


今度はテーブルの向かいに座っているオティヌスが、半ば涙目で当麻に一喝する。
それを聞いた当麻は「不幸だ……」とお決まりのセリフを呟く。


「お前はどんだけ卵を無駄にする! 今日と昨日を合わせて、六十個はやってるぞ!」

「せ、正確には五十三個なんだよ……」


インデックスが意味のない訂正をする。こうでもしないと気が持たない。


「ほら、まだ六十個もいってないよ!」

「やかましい、開き直んな! 六十個も五十三個も五十歩百歩じゃねぇか! インデックス、テメェがんなこと言うからこいつが屁理屈胡くんだよ!」


ついに溜まったストレスが爆発し、インデックスは「どうどう、落ち着くんだよ、オティヌス」といつかの流れのように宥める。


「私は犬じゃねーしっ!!」

(この流れどっかであったな……)


当麻がやっているのは、魔力をコントロールする訓練"卵割り"だ。八年前にオッレルスから魔力を扱うための訓練としてやらされていて、とうの昔に成功した(二百個近く無駄にしたが)はずだが、なぜ今更こんな訓練をやっているのか。

それは学園都市に着いたその日のこと、彼はインデックスを救うため、自らの身体に光の羽を受けた。

魔神級の魔術の余波だけあって、普通なら骨も残らないだろう。しかし上条当麻は魔神。身体に受けて死にはしなかったものの、魔力の生成と制御に障害が残ってしまった。

このまま魔術を使われると下手すれば世界そのものがぶっ壊れる危機を感じたオティヌスは、当麻に昔やった"卵割り"の訓練を聞き出し、早速昨日からその訓練を課していたのだが、一向に成功する気配は無かった。


「はぁー、はぁー。……すまない、取り乱した」


さっきのは取り乱したってレベルじゃ無かったけど、と当麻は思った。しかしそれを言うとまたキャラが崩壊しかねないので、黙っておこう。


「今日はこれくらいにするか。卵はもうないし」

「んじゃ、朝ご飯にするか」

「ご飯!?」


ガバッ、とインデックスが生き返る……もとい起き上がる。


「は、早く食べたいんだよ! とうま! 今日は何!?」

「あー、卵焼きと目玉焼きとスクランブルエッグにしようかな」


「ぜ、全部卵……!」

「さすがにもう飽きたぞ、魔神」

「と、おにぎりです」

「よっしゃ! …………ハッ!」


自分の好物が出て素直に喜ぶオティヌス。しかしそれを見た当麻がにやけているのに気付き、ハッとなる。

「き、貴様……! 図ったな!」

「えー、何のことでせうか? オティちゃイヤ、マジでごめんなさい!」

「もう一回"これ"で縛られたいみたいだな、魔神。いや、上条当麻……」

彼女が手に持つのは、病院で当麻を縛ったいつかの縄だった。


「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ! おにぎりは前も食べたし! もっと別のが食べたいんだよ!」


自分を無視する二人と空腹に耐えきれず、ついにインデックスが癇癪を起こした。しかしオティヌスと当麻はそんな事どうでもいいとばかりに、


「黙れ、インデックス! 今日という今日は、こいつのふざけた頭を刈り取ってやんだよ!」

「インデックス! そんな事言わずにたす……不幸だああぁぁぁぁーーーーー!!」


上条家は相変わらず、平和だった。


乙カレーの



そして、一悶着あったが三人は無事朝食をむかえることができた。相変わらず卵しか並んでいなかったが、さっきの一悶着も含め、もはやそれは日常風景だった。

「やっぱり五日連続卵料理はキツイんだよ……」

と言いつつ、これで三十個目の卵焼きを口に入れるインデックス。

「そうか? まぁ、確かにコレステロールは溜まりそうだが……」

いつもはインデックスに賛同するはずのオティヌスだが、今日は好物のおにぎりが並んでるだけあって、朝から上機嫌だった。

「ステイルからの生活費がお前の食費で泡になるんだよ。文句あんなら食う量減らせ」


当麻がこれで何回目かも分からないセリフを言う。

「でも、この食欲は押さえきれないんだよ!」

「修道女にあるまじき言葉だな。禁欲じゃなかったのか?」

「オティヌスまで……! でも私はまた修行中の身であって……」

「修行中ならなおさらじゃないか? まぁ、その気になれば私と上条は食事をする必要もないのだが」

「だ、だったら……」

「かといって私達も空腹に完全に耐えきれる訳じゃないぞ? 前に一ヶ月ぐらい飲まず食わずでいたが、精神がおかしくなりそうだった」

「んで、一ヶ月ぶりの食事の感想は?」

当麻が興味本位でオティヌスに聞いた。
対して、オティヌスが答えた。


「あの時は全ての苦痛から解放されたようだった。
思えば、私がおにぎりが好きになったのはあの時からだったな……!」

「おにぎり食ったって……、二年前のあの日じゃねぇか!」

「なんだ、覚えてるのか?」

「当たりめぇだ! あん時何も言わずに姿消しやがって! 後から一ヶ月はお前が消えたとかでトール達が俺んとこに来たり、お前に恨み持った魔術師がお前探しに襲って来たりで大変だったんだぞ!?
んな下らねぇ理由で消えてたのかよ!? 事後処理大変だったのに!」

「だ、だったら、文句あるならあの時に何してたか聞いてたら良かっただろ!?」

滅多に見せない剣幕に、オティヌスはややおののきながらも言い返す。その弱々しさから、あまり効果は無さそうだ。
しかし、当麻から返ってきた答えは、予想の斜め上をいっていた。


「珍しくお前が疲れてたから何も言えなかったんだよ。あんなに弱々しいお前は初めて見たからな。敵の魔術師に襲われたかとか、心配してたんだぞ?」


当麻の「心配してた」という言葉を聞いて、不意を突かれたオティヌスは顔を赤らめて、何やらゴニョゴニョ言い始める。僅かに聞こえたのは「べ、別にそんな…」「お前になら……」だが、当麻にはどういう意味か分からなかった。


「ご馳走さま、なんだよ」

空気を無視して食べ続けていたインデックスが両手を合わせる。当麻もそれに続いて「ごちそうさん」と言った。

「さて……。オティヌス、これから何か用でもあるか?」



今だにゴニョゴニョ言っているオティヌスが、それを聞いて「あ、ああ。そうだな」と冷静さを取り戻した。


「……とりあえず、また新しい冷房機を買うか。この前買ったのも、昨日ぶっ壊れたしな……」

また、とは、ぶっ壊れた冷房機が一つ目じゃないということだ。昨日の謎の落雷によって今の冷房機はおじゃんになってしまった。すると、オティヌスは突然何か黒いオーラを出し始めた。

「なぁ、魔神。思ったんだが、そろそろ例のビリビリ女を粛清しに行かないか? もう我慢の限界なんだが」

「しゅ、粛清って……! お前が行くと洒落になんねぇじゃねぇか! それと上条さんはそんな事に加担しません!」



当麻が

上の110のは誤投です。すいませんでした。


「チッ。なぁ、インデックス? "竜王の殺息"って知ってるか?」

断固とした態度をとる当麻に対して、オティヌスは次にインデックスに不安な言葉をかける。
これを聞いて当麻は必死に「答えるなよ!? 絶対に答えるなよ!?」と言った。

当のインデックスは、可愛らしく小首を傾げただけだが。


「ま、あの女の事は置いといて、とりあえず明日から行く高校の準備をするか」

「え? ちょ、オティヌスさん!? 今さらっと何て言いました!?」

「さーて、まずは冷房機を買いに行くぞ。準備は後だ」

「ねぇ無視? そんな怒ってんの? エアコン壊されたの俺に原因あんの? ねぇ?」


エアコンを壊されたのが原因ではなく、オティヌスは当麻が他の異性とつるんでいるのが気にくわないのだが、それに気づかない当麻はかなりの鈍感だ。


「先日あのカエルの医者からここのIDが渡されてな。私達がここに移り住んだのも、そのIDに記されてる学校の寮がここだったからさ」

「んなもん医者がやっていいのかよ……。てか、今更学校行くって」

「今の歳なら高校生だろ? 平日に外にぶらつかれると、ここの治安を守ってるっていう警備員とやらに毎回補導されるだろ。おとなしく行け」

「けど……」

「……まぁいい。お前がどうして躊躇するのかは知らんが、とりあえず冷房機は買いに行くぞ。
ほら、とっとと準備しろ」

「わかったよ…………」


しぶしぶながらも当麻が承諾した。


「ほら、インデックス。お前も準備しろ。幸い家電量販店はここから近い」


今日の分はここまでです。
次は明日か明後日に投下します。

へい、おつなの


外に出ると、ホットプレートの上にいるかのような暑さが三人を襲った。エアコンが壊れているので家の中も十分暑いのだが、外は太陽光によって温度が上がったアスファルトの地面が、さらに温度を上昇させている。比喩表現なら、ホットプレートというよりフライパンの方が正しい。


「こ、これは……」

まだ歩いて五分もたっていないのに、当麻は汗だくだった。また他の二人は当麻より暑さの耐性が無いらしく、当麻より後ろにいた。

「くそ…。これが日本の夏かよ……汗が……」

「も、もう限界、かも……」

「お前ら気をしっかり持て! 今はまだましだ! 日本の暑さはこんなもんじゃないぞ!」

「お前……最近日本に行ったことあるのかよ……」

既に意識が朦朧とし始めている後ろ二人に当麻が檄を飛ばす。効果はないようだが。


「毎年帰ってるよ。丁度今の季節だな。まだこっちで別の用事済ませてないから、そのついでに今年も行く気だよ」

「毎年帰ってるのか? なんの用があってだ?」

「……………………良いだろ、別に」

「素っ気ないな。それが八年間共に過ごした女に対する態度か?」

「誤解を生む言い方すんなよ」

「教えてくれよ」

オティヌスという少女が嫌うのは退屈だ。そのため自分が気に入った物、興味がわいたことに食いついてくる。当麻の素っ気ない態度を見て、興味がわいたのだろう。
だがオティヌスは知らない。それが彼の地雷を踏んでしまったことに。


「そうだな、強いて言えば―――――――――――
――――――――――死んだ人が帰ってくる日、かな」



「っ! …………悪いことを聞いたな…………………」

「……いや、あれは俺がやるべきことだよ。
お前は別に気にする必要ねぇ。あれは俺に原因があるし」

「そうか……………………。あ、ほら、見えたぞ」

オティヌスの指の先には、大手家電量販店の店舗があった。それは一店舗にしてはかなり大きく、当麻も「うお! でっけぇ!」とさっきの暗い声とは打って変わって驚いたような声を上げ、一人で先に進む。

「………ねぇ、とうまって、昔家族を亡くしたりしたの?」

「さすが禁書目録だな。東洋の文化も知り尽くしているか」

インデックスの頭には十万三〇〇〇冊の魔導書が記憶されている。その中には東洋や日本の仏教文化も入っていておかしくない。

「あいつはそれに対してはかなりデリケートだ。あまり触れるなよ。あいつが魔神であることを忘れるな」



オティヌスが恐れているのは、上条当麻の暴走だ。感情が爆発することで魔神の力が感情のままに振るわれることで、世界が崩壊する恐れがある。

その場合は彼の右手を使えば元に戻せるが、最悪彼の精神が壊れて、それすらできなくなるかもしれない。それに今の当麻の力は不安定だ。精神が正常でも、魔術を使われれば世界にどんな影響を及ぼすか分からない。


「第一として、あの状態で、あいつには魔術を使って欲しくないな……」

「…………………………………」

「別にお前に原因があるわけじゃない。あいつが勝手にお前を庇っただけだ」

そのとげのある言い方に、インデックスの身体がピク、と震える。


「どうせ、自分のせいだとか、何もできない自分に怒りでも感じてるんだろ?
あいつがあんな"些細なこと"でお前を責めるわけないだろ。最後は気にすることねぇよ、で済ますに決まってる。
だからそんな下らない考え捨てて、今までのようにに接しろ。あいつならその方が喜ぶに決まってる。
あいつもまた、一人の人間だ」


「…………そうかな」

「私はそう解釈しているぞ」


何年間も共に過ごした、オティヌスだからこそ言い切れる上条当麻という人間の性質。オティヌスの言葉には、信頼の他に、その誇りも感じられた。

そして、この話は終わりだと言わんばかりに、オティヌスは当麻のもとに急ぎ足で向かって行く。
インデックスは何か吹っ切れたかのように、「待ってよ~! オティヌス!」と彼女に続いた。




店に入った三人は早速、前に買ったエアコンと同じ種類の物を買うために、店の奥の方へと向かう。
が、しかし、ここで"不幸"が襲う。

「うそだろ…………」


あろうことか、そこにエアコンは無かった。いつもなら稼働中のサンプルの下に商品が置いてあるはずなのに、それが影も形もない。
電化製品が売り切れるとは信じられないことだが、紛れもない現象(リアル)である。




あまりの衝撃でその場で三人が固まっていると、後ろから「どうしたんですかにゃー? 御三方?」というエセっぽい土佐弁が聞こえてきた。


「え?」

と、突然かけられた声に後ろを振り返ると、



「もしかしてエアコンが目当てなら、もうとっくに売り切れちまってるにゃー」



そこには、アロハシャツを着た、金髪サングラスの、いかにも怪しげな男が立っていた。



短いですが、今日の分はこれで最後です。

おつん


(にゃーってなんだよ……)売り切れって、電化製品であるエアコンが何で売り切れてんですか」

「昨日の落雷のせいで、ここら辺の学生寮の電化製品が一部駄目になっちまったから、たくさんの生徒がここに買い直しに来てるからだにゃー。
全く、学園都市の天気予報は外れるはずないのににゃー」

金髪アロハシャツはやれやれといったふうに頭を振った。落雷の原因を知る当麻はハハハ、乾いた笑いを見せながら、心の中で顔も名前も知らない生徒に謝った。


「たぶんどこの店も売ってないだろうにゃー。再入荷は未定らしいし…、ところでお宅ら、あんま見かけねぇ顔だにゃー? 転校してきたかにゃー?」

「まぁ転校……かな? この近くの学生寮に住んでるんだよ」

「!? もしかしてそこの女の子と同棲してんのかにゃー!?」

「まぁ、そうだな……」

「羨ましいんだにゃー!」


他の客がいるのに関わらず、金髪の男は大声を上げた。

「金髪金眼美少女に銀髪碧眼シスター、どんなラノベの主人公だにゃー! リア充爆ぜろ、ハーレム爆ぜろ! こんチキショー!!」

(後半は口調が標準になって願望だらけじゃねーか)

「はぁ、はぁ、す、すまんにゃー。最近舞夏が構ってくれてなくてにゃー……」

だからってここまで感情を露にすることはないだろ、当麻は心中で突っ込んだ。

「まいか? もしかしてその子って土御門舞夏?」

インデックスは聞き覚えのあるのか、目の前の土御門舞夏の兄と思われる男に聞いた。

「? 舞夏と友達かにゃー? そーいやあいつ、隣に銀髪のシスターと金髪の美少女と冴えなさそうなツンツン頭の男が引っ越して来たとかいってたにゃー?」

「具体的すぎんだろーが! つーか冴えないってなんだよ!」


冴えないと言われたのが傷ついたのか必死で否定しようとする当麻。しかしあの魔術師二人にも同じようなことを言われたのを思いだし、(そんな冴えないのか……)と若干自信をなくしてきてはいるが。


「ハハハ、落ち着くんだにゃー。
あ、改めまして、土御門舞夏の義兄、土御門元春だにゃー」

土御門元春と名乗る金髪の男は自己紹介をする。

「俺は上条当麻。明日からあの寮の学校に転校するから、同じクラスだったらよろしく。」

「よろしくだにゃー、カミやん。じゃ、俺はお目当てのもんは見つかったからそろそろ帰るにゃー」


お互いに自己紹介が終わると、そのまま土御門は満足気に帰っていった。上機嫌なのを見ると、『お目当てのもん』が見つかってよほど嬉しいようだ。



「………………何かインパクトの強い人だったな」

当麻がしみじみとした表情で呟いた。

「私はできれば同じクラスにはなりたくないな。
あんなクソ変人とは」

(それはさすがに言い過ぎかも…………)


「しかし何でこう、学園都市には変なやつしか居ねぇんだろうなぁ」

そう愚痴をこぼしたら、頭に例のビリビリ中学生、御坂美琴の顔が浮かんだ。あれと似た人達とこれから暮らすと思うと「不幸だ…………」と口からお決まりのセリフを吐き出した。

「ねーねーとうまー。エアコンはどうするのー?」


「うーん。……仕方ない、ちょっと遠い所に買いに行くしかないか……」

「えー!? また歩くのーー!?」

「さすがに疲れたぞ。もう空間移動魔術でも使って行った方がいいんじゃないか?」

「上条さんもそうしたいんですけど、正直苦手で毎回三キロくらいの誤差は当たり前なんですよ」

「完璧な魔神がなにいってんだよ」

「はっきりとイメージして、移動することだけに集中するかしないとダメなんだよ! 成り立ての頃も『部屋をキレイにしたい』って念じたらそこら辺の家具とかも一緒に消しちゃったこともあるんだからな!」

上条当麻という魔神は、望むことを一〇〇パーセント成功させることができる。しかしそれはあくまでも魔術によるものであり、望む事をそっくりそのまま再現出来るわけではない。

途中で雑念が入ればそれと混同した結果になる恐れもあり、それは複雑であればあるほど起こりやすくなる。
要は気持ちの問題である。自身の感情だけは、魔神でもどうにも出来ないのだ。


「だったらあれを使ってみたい。丁度この前完成した物なんだが」

「完成? ひょっとして作ってた霊装かよ?」

前にオティヌスの仲間と話している時、オティヌスは何やら魔神級の霊装を作っているらしいと聞いた。
それにオティヌスは何回か家の原典を借りに来たりしていたので、あの原典を霊装を作るための参考にでもしていたのだろうかと思う。

「ん、知ってたのか。北欧神話に出てくるオーディン、別名オティヌスのみが持つ『骨船』と呼ばれる霊装だ」

そう言ってオティヌスがポケットから取り出したのは、ナイフで文字のようなものが刻まれていた何かの動物の脚の骨だった。


「自分たちを移動させているのではなく、自分たち以外の全て、惑星の方を移動させることで瞬時の移動を実現しているんだ。
動くのは地球だから、お前の右手も関係なしで移動できる」

「へーすげーな! オティヌスってこんなものも作れんのかよ」

「借りにも魔神の失敗作だ。これくらい余裕で出来なくてどうする。
この場所じゃ使えないから一旦外に出るぞ」

当麻に褒められたせいか、若干嬉しそうな表情のオティヌス。
そのまま悠々と二人を連れて外に向かえたらよかったのだが突然、「あ」とオティヌスの足が止まった。

「ど、どうしましたー? オティヌスさん?」

嫌が予感はするが、当麻は取り敢えず背を向けたまま固まっているオティヌスに声をかける。
するとオティヌスは「怒らないで聞いてくれ…」と大変申し訳なさそうな顔でこっちを見る。

「……………実はこれ、だいたい三〇〇から四〇〇キロくらいの誤差が当たり前なんだった」

「はぁ!? 三〇〇から四〇〇って、俺の誤差の百倍もあるじゃねぇか!」


「し、仕方ないだろ! 地球は一直線じゃないんだ! これくらい当たり前だ!」

「逆切ですか!? お前の『骨船』なんかを期待して損したわ!」


「つ、つまり、また…………」

ギャーギャー言い合う二人を傍目に、インデックスは絶望的な声を漏らす。

「……歩かなきゃなんねぇ……」

当麻の言葉で、ハァ、と三人分のため息がその時同時に出た。







「…………どうしてこうなった……………………」


再び歩き始めた三人。灼熱地獄のような炎天下に置かれ、その顔に最早生気というか、希望というか、そう言ったものは一切無かった。

「何でだ。私達は普通でいたはずだ。いやいれたはずなんだ。バカの卵割りの訓練にだけ時間を潰していれば…………」

(オティヌスにも限界が来やがった…………。インデックスは…………)

ちらり、と隣を歩くインデックスを見る。

「アハハ、アハハハハハハハ!!!
ねぇねぇ見てよ当麻!? 目の前に緑色の髪をした変な男の人がいるよ!? アハハハハ!!!」

「ダメだ……(緑色の髪の男?)」

正直自分も限界が来ていた。このままでは本当に死んでしまう。魔神だから、といういつもの法則はちゃんと通じてくれるのだろうか?


すると追い討ちをかけるように、「ちょっとアンタ!」という声が聞こえ、自分の身体がビクゥッ! と跳ねた。

「その声は……ビ、ビリビリ」


目の前に仁王立ちしているのは、茶髪で常盤台の制服を着た、当麻が最近よく出くわす少女だった。その少女は「またビリビリって……!」と身体から、比喩ではなく本当に電気を放出する。

「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての! さ、勝負よ!」

「また勝負かよ! このビリビリ中学生! 昨日もやったじゃん!」

「だ・か・ら・名前で……!」

「ハイハイ。でも御坂、悪いけど今日はムリ! またお前のせいでぶっ壊れた我が家の家具をまた買い直しに行かないと行けないんだよ!」

「ハァ? 知らないわよそんなの。さ、とっとと行くわよ!」

相変わらずの美琴の自分勝手ぶりに、当麻はげんなりとする。こっちはそれどころじゃないのに。
しかし当麻は突然、背後からの禍々しい気配を察知した。


「………………お前が学園都市第三位、"超電磁砲(レールガン)"の御坂美琴か?」

それはオティヌスのものだった。しかしその様子はまるで宵街を徘徊する吸血鬼のようで、目はしっかりと美琴を向いていた。

今日はここまでです。

おつかーレ


「? アンタ誰よ?」

自分の好敵手の背後から出てきた金髪金眼の少女。勿論自分とは初対面のはずだが、どうやらあっちは自分の素性を知っているようだった。

「……………………………の、せいで………………」

「え?」

彼女から何か聞こえた。が、小さすぎて何を言ったのか分からなかった。

「お前のせいでええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

今度ははっきりと聞こえた。
そしてそれと同時に金髪の少女の手から、まばゆい光を放つ電撃の槍が放たれ、それは真っ直ぐと自分に向かって来る。

「くっ!」

紙一重でそれを避けるが、あの電撃の出力は焼け焦げた地面を見る限り、明らかにLevel4相当の威力だった。


「ちっ! 外れたか!」

一方、電撃の槍を避けられたオティヌスは堪らなく悔しそうだった。勿論さっきの攻撃で殺す気はなかったが、目の前の女、御坂美琴のせいで被った被害を思いだし悔しさが別のベクトルの怒りへと変わる。理由はとんでもなくしょうもないのに。
そして、次の攻撃をしようとしたそのとき、

「ま、待てオティヌス!」

相棒、上条当麻が後ろから抱きついてきた。

「ひゃ、ひゃん! な、何をする!?」

勿論上条は暴走する自分を止めようとしたのだろう。しかし今のお互いの身体は密着状態で、傍から見ればまるで自分が抱き締められているように見えるだろう。
上条の体温を直に感じ、心臓はバクバクという音をたてている。そして、限界がやって来た。

「や、やめ、やめろ……!」

「え? あ、ご、ごめん!」


慌てて上条は抱き締めるのをやめる。
が、次の瞬間、上条目掛けて雷撃の槍が飛んできた。

「え、ちょっとま、」

完全に不意討ち。勿論放ったのは美琴だ。
対処が遅れ、遂に上条の身体に直撃した。常人なら直ぐ様失神しても可笑しくないはずだが、

「イテテ…………」

それをちょっと痺れた程度で済ましてしまうのが魔神、上条当麻。

「くっそ、不幸だ」

「今更ながら、何でアンタはちょっと痛いで済ますの?」

「その前に今更ながらお前が電撃を放つのはなぜでせうかそしてなぜ今もビリビリしてる!?」

目の前の少女がビリビリ、というよりイライラしているのは主に自分が原因なのだが、それに気付くことがない上条。そして不幸は続く。

「とうま? 何でオティヌスに抱きついたの?」

「イ、インデックスさん。なぜその歯をガチガチとならしているんでせうか?」



「決まってるんだよ。とうまに噛みつくためなんだよ♪」


「ふ、不幸だああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


魔神が全力疾走で逃げる姿が、そこにはあった。









~翌日~


第七学区にある、とある高校の一年七組。
今の時間帯ならそろそろホームルームが始まる頃だが、今日は始まるのが遅れている。


「今日は小萌先生くんのおそいなー? どうしたんやろ?」

三大テノールもびっくりするほどの野太い声をした男が言う。いや、何よりもびっくりするのはその髪。場違いなくらいの青い髪だ。

「さぁ。今の今まで、遅れたこと何てないのにニャー」

その前の席に座るのは、同じく場違いなくらいの金髪をした男、というか土御門だった。

「ああ、早くあの幼い姿を見て癒やされたいわー」

「そのセリフじゃ、お前は生粋のロリコン決定だにゃー」

「ロリが、好きちゃうねん! ロリも、好きなんや!!」


「結局同じだにゃー」

すると、教室のドアがガラリ、という音と共に開かれる。

「はーい、みなさーん。ホームルームを始めるんですよー?」

入ってきたのは教師、ではなく、どう見ても小学生くらいの女の子だった。しかも普通に教壇にたっている。
初見なら確実に唖然とする光景だがもう見馴れてしまったのか、生徒達は何ら違和感を抱かず、席に座っていく。

「そ・の・ま・え・に、今日は転校生を紹介するんですよー」

その一言に、教室の空気は一気に沸いた。
さらにその幼女、ではなく、幼女のような容姿の教師、月詠小萌は言葉を続ける。


「し・か・も、一人ではなく二人。片方は男の子、もう片方は女の子ですよー。喜べ、ヤローどもに、女どもー」

「オー! 転校生美少女やー!」

「まだ美少女とは決まった訳じゃないだろ。つーか黙れ! この変態が!」

黒髪のロングヘアーの少女が青髪の変態に非難を浴びせる。だが逆効果のようで「吹寄はーん! もっと罵ってーー!」とかのたまっている。

「じゃ、入ってきて貰いましょう。どうぞー」

彼女の声を合図にガラリ、とまたドアが開いた。



今日はここまでです。また明日上げます。

おつかーレ



一年七組のドアの前。上条当麻は黒の学生服を身につけ、あの幼い教師に呼ばれるのを静かに待っていた。

(や、やべー。緊張してきた……)

何せ、上条は学校に来ることそのものが八年ぶりなのだ。
勉強云々の前に、ちゃんと馴染めるかどうか不安だった。

「緊張してんのか上条?」

オティヌスの声が背後から聞こえた。学校では上条呼びなので慣れない感じはあるが、もっと慣れないのはその格好だった。

「? どうした?」

振り返った上条が見たのは、――――セーラー服に身を包んだ金髪金眼の少女だった。
純白で新品のセーラー服はオティヌスの華奢なスタイルにぴったりで、二の腕や首など、普段は露出されない部分も珍しく露になっている。
正直、すごく艶かしい。


それに比べて自分はどうか。身長が一七〇センチ前後なのにサイズが無かったため、少し大きめのサイズのものを身につけているからダブダブだった。
まさしくオティヌスと正反対。

「いや、上条さんがここでやっていけるかどうか不安なんでせうよ……」

「安心しろ。できるだけフォローはしてやる」

「オティヌスマジ女神様!」

「お前が言うな。つーか何でそんなに不安がっているんだ?」

「いや、ガキの頃にちょっとな…………」

「……ああ、不幸体質か」

オティヌスは普通に上条の傷を抉ってきた。

「ここは私らと違って科学の街だぞ? お前の不幸体質なんてちょっと不幸な奴、くらいとしか思われないだろ」

「でも…………」

「ウジウジしてんじゃねぇ。呼ばれたから行くぞ」


相変わらず自分勝手だ。オティヌスは上条を押し退け、中に入る。上条は不安ながらもそれに続いた。


「学芸都市から転校してきた、オティヌス=ハーヴァマールちゃんと、上条当麻ちゃんでーす!」

なんだよ、オティヌス=ハーヴァマールって。
小萌先生の自己紹介に上条か心中で突っ込む。勿論オティヌスの偽名なのだが、上条はそのとき本気でオティヌスの姓名がハーヴァマールだと思った。

「オー! 金髪美少女やー!」

おいなんだ、あのエセ関西弁で青髪の男は。つーかその前にいる金髪グラサンは……土御門かよ。

「それでは上条ちゃんとオティヌスちゃん、後ろの席が空いているのでそこにどうぞー。
それではホームルームを始めまーす」




そしてホームルームが終わった後、早速上条らはこのクラスの生徒達に質問攻めにあった。


「なぁなぁ、カミやんとオティヌスはんは、一体どんな関係なんやー?」

いきなりドきつい質問が近くの席の青髪からとぶ。

「え? えーっと……強いて言えば……幼なじみ?」

「な、なんやー!? 幼なじみなんかー!?」

出会いこそイギリスのバッキンガム宮殿と普通とはかけ離れているのだ。その後に戦場を供にしたり、魔術組織を作るのを手伝ったり、後さらっと世界の危機を救うはめになったりと、いろいろと聞かれたらやばいこと尽くし。

なら

上条「まずは、その幻想をぶち[ピーーー]??」

上条「まずはそのふざけた幻想をぶち[ピーーー]??」


「クッソー! 二人にはボクらが入る間もないんかー!」

「え!? いや、何でそうなんの!?」

「何でって、幼なじみ二人が揃って学園都市に来たんやろ? もう普通にカップル成立しとうやん! どんだけアツアツなんよ!」

一人勝手に盛り上がり始める青髪ピアスと呼ばれる男。このままでは重大な勘違いをされかねないと思い、一緒に否定をしてもらうため(恐らく怒ってるはずの)隣のオティヌスにチラリと目をやるが――――


「(カアァァァァ)」

「(何故に顔を赤らめているんだ、オティヌス!)」


まんざらでもなかったようだ。






「んじゃ、改めて自己紹介……と言いたいところだが、オレはもう昨日やったからいいかにゃー」


青髪から解放(未だに疑惑は残っているが)され、土御門がそれぞれの自己紹介を始める。

「なんやツッチー、もうあっとったんかいな……。
あ、ボクは青髪ピアス。みんなからは青ピって呼ばれとうでー。よろしゅうなー。カミやん、オティヌスはーん」

「あの、本名の方は………」

「……禁則事項や (キリッ)」

「(あ、こりゃダメだ)」


重大な疑問を頭に残しながら、次に青髪ピアスの隣にいる黒髪のロングヘアーのしっかりとしてそう(ついでに巨乳)な女生徒が自己紹介を始める。

「私は吹寄制理。困ったことがあったらいってちょうだい」

「あ、委員長ですか?」

彼女のこの性格なら間違いない、そう確信した当麻だったが、

「いいえ、委員長はこの青髪の変態よ」

「ブォアァッ!?」


完全に意表を突かれた。思わず吹き出す上条。


「ひどいなフッキーはん。ボクは変態とちゃうでー」

「ロリコンが何をいっている!」

変態に吹寄が凄んだ。

「だからロリコンちゃう!」


だが、身体が一回り大きくなったかのような気迫を出しながら、青髪ピアスが思いの丈をぶつけ始める。


「ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪金髪ロングへアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテール――――――――――」


「「ふんッ!!」」

「へぶしっ!」


吹寄とオティヌスの息のあった蹴りが、青髪の変態に直撃、目標を静める。





その後は特に何も問題は無かった。
上条とオティヌスは同じクラスの生徒から心よく受け入れられ、困った時は土御門や小萌先生が助けてくれた。上条の不幸体質の事も、オティヌスの言うとおり『ちょっと不幸な奴』程度にしか思われず、何の心配もなかった。

だが、一番の問題は能力開発だった。
学園都市では投薬、電極などで脳を改造し、生徒達に能力開発を行う。
しかし魔術師である上条とオティヌスがそれを受ければ、どうなってしまうか分かったものでは無かった。
が、幸い二人は既に能力開発を受けたことになっているらしく、二人は無能力者と判定された。



今日はここまでです。

おつかれなのー

絹旗「上条は超何にしますか?」

上条「そうだなあ、やっぱ定番メニューのオムライスかな。オティヌスはどうする?」

オティヌス「私も上条と同じもので良いぞ。」

絹 浜 フレ 麦 滝「!? いまどこから(超)声がした(んだ)?」

上 オティ「あ・・・・。」

麦野「上条は何か知ってるっぽいなあ?話してもらおうか?」

上条「実は・・・・、かくかくしかじかで・・・・・。」

麦野「この世にかくかくしかじかで通じる奴何ざ、居ねえよ。」

上条「ですよねー。やっぱ話さないとダメか?」キョロキョロ

絹旗「超当り前です。」  浜面「このままじゃ、気になって夜も寝られねえよ。」

フレメア「気になるから話せ。にゃあ」  滝壺「話したくないかみじょうを私はおうえんする。」

オティヌス「上条、話すしかないようだぞ?」 上条「みたいだな。」

上条「じゃあ皆、これを見てくれ。」

本筋をシリアスに、しかも謎解きっぽく事件の少しずつ輪郭を表していく。
一方でキャラの性格を掴みながらの日常コメディに妥協がない。

冗談抜きで市販レベルなんだが何者だよ


感想ありがとうございます。皆さんが見ててくれていて嬉しいです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昼休み。上条とオティヌスは、土御門、青ピ、吹寄の三人に昼食を誘われ、人気のない学校の屋上で楽しそうに昼食を食べていた。ただ一人を除いて。

「へー。カミやんって、ホンマについてへんのやなー」

下宿先のパン屋の、あまりのパンを頬張りながら、青ピは平坦な口調で言う。

「そんな軽く流すような口調すんなよ……。あー、これもつぶれてる、フコウダー」

半ば諦め口調の上条は、カバンの中で教科書もろもろに潰され、原型の留めていないパンを口に入れていた。

「何で教科書の下にパンを入れたのよ。普通逆でしょ」

そう言った吹寄は、『健康パン』と書かれた袋に入っているパンを食べていた。今日一日で、彼女が健康マニアだということが上条達に判明していた。

「もう一人の居候の世話をして忙しかったからな。
このお人好しめ。あ、昆布うまい」

上条と一緒に住んでいるオティヌスが、おにぎりを食べながら上条の素性を明かす。


が、それを聞いた青ピは、

「なんや!? 二人は同棲しとんかいな! しかももう一人って、もしかして女の子!?」

どうやら聞き捨てならない情報だったようだ。
そしてさらに、土御門がいらない事を言う。

「オティヌスだけじゃなく、銀髪のシスターのインデックスって子とも住んでるらしいんだぜい?」

「「はーーーーーーーー!?」」

青ピだけじゃなく、吹寄も一緒に驚いたような声を上げた。

「カミやん! どういうことやー!」

「説明しなさい! 上条当麻!」

「え!? 何でそんな怒ったように!?」

「オンナノコといちゃつきおってーー!」

「不潔! 不潔すぎるわ!」

「な、何かよく判んないけど、とりあえず、不幸だー!」

「……さすが上条だな」

「いっつもあんなんなのかにゃー。つか爆ぜろ」




その後、上条は上手く事態を収拾できず、青ピは「モテたい! うらやましすぎるやろー!」と何故か泣きながら去っていき、吹寄は「この不埒ものめ!」と怒りながら去っていった。


「……今日でこういうのって何回めだろう…………」

上条が遠い目をしながら青空を見上げる。

「これから毎日続くぞ」

オティヌスの言葉に、今日で何回目かの「不幸だー」の声が、青空に上がった。

「んじゃ、オレも食い終わったから戻るかにゃー」

弁当箱を巾着に包み土御門は、教師に戻ろうと立ち上がった。

「いや、待てよ、土御門元春」

しかし、その土御門をオティヌスが止めた。
するとオティヌスは、子供のいたずらを見破ったかのような顔で、こう告げた。


「お前、何で"インデックス"の名前を知ってるんだ?」

「え?」

「……………………………………」

一転して無表情になり、土御門は黙る。

「確か、お前は昨日会ったとき、初めて上条の名前を知ったんだよな? そして私の名前も今日初めて知ったはずだ。なのに何故、"インデックス"の名前を知っている? 教えた覚えはないよな?」

子供のような笑顔を浮かべたまま、オティヌスが問う。まるでネズミを追い詰めた猫のように。
すると、


「…………さすが、魔神の失敗作だな」

土御門はニヤリとした顔で、確かにこう言った。


短いですけど終わりです。
明日辺り、多く投下できると思います。

おつにゃー

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「いや、……正しくはあいつの娘、ってところか?」

エセの土佐弁がなくなった口調で土御門が続ける。

「あいつと一緒にするな。血縁関係すら怪しいんだぞ。で、お前は何者だ? あいつを知ってるってことは、この街の暗部とやらと関わっているのか?」

「いやいや、オレは――――――」

「ちょ、ちょっと待った!」

何かを言いかけた土御門を、状況が全く理解できない上条が大声で止める。

「俺を置いてって二人だけで話進めんなよ! 土御門、何でオティヌスの素性を知ってんだ!? あいつって誰だよ!?」

置いてけぼりを食らって頭の中クエスチョンマークだらけの上条。しかし土御門は「だからー」と上条の方を向いてまたニヤリと笑って、



「オレはイギリス清教『必要悪の教会』所属で、今は学園都市のスパイ、土御門元春ぜよ」




「え? は? えーーーーーーーー!!!?」

驚きの土御門の素性に、上条が驚愕のあまり大声を上げる。当の土御門は「ハッははー」と笑っていて、オティヌスは二人のやり取りが終わるのをただ待っていた。

「ス、スパイ!? いや、それよりも『必要悪の教会』ってことはステイル達とインデックスの同僚かよ!? いやつーかお前魔術師なの!?」

「いや、実はイギリス清教にスパイのふりしている学園都市の逆スパイってやつで、そのまた実は、逆スパイの振りをしている逆逆スパイで、そのまた実は……」

「ようは信用できねー嘘つきじゃねぇか!」

「まぁそうだにゃー。双方の勢力の間で争いを生ませないように駆け回っている、多角スパイってやつですたい」

「(うさんくせー)」

「イギリス清側からは、インデックスの監視役の監視役、学園都市統括理事長からは、お前らが暴れないように監視するようそれぞれ命じられててな、あのカエル顔の医者からIDと一緒にこの学校の学生証を渡すよう言ったのもオレなんだぜ?」

どうだすごいだろ? とでも言いたげなドヤ顔で土御門は言った。まあ、これが彼の素でもあるのだが。


「つか、そんなあっさりと認めて良いものじゃねぇだろ……」

「始めはこっそり監視していくつもりだったんだが、バレて下手な嘘つくより、はっきりと素性を言った方が良いと思ってだにゃー。
ま、取り敢えず問題さえ起こさなければこっちも手を出しやしない。
オティヌスは結構頭がキレてそうだから、どっちも痛い目を見たくはないはずだぜ」

「遠回しの脅迫か? あいつにでも吹かれたか?」

やや挑発気味にオティヌスが言う。
しかし土御門は大して気にもせずにヘラヘラと笑っている。

「オレが命じられたのは監視だけだ。これはオレからの頼みとして受け取ってくれ」

「頼み? なんだよそれ?」

「……近々、魔術サイドとここ科学サイドで大きな争いが起きそうだ。例え避けられたとしても、飛び火が散る。だから余り大きく動く訳にはいかんぜよ」

段々と土御門の顔が真剣になっていく。彼は自分を多角スパイと言うだけあって、様々な情報を抱えているのだろう。そしてこれからどうなるのかも、大方予想もついているはずだ。


「ま、こっちは義妹が無事ならそれでいいんだけどにゃー」

「「おい」」

そして根っからの変態でござった。

「んじゃ、オレはそろそろ本当に戻るぜ。昼休みがもうすぐ終わりそうだからにゃー」

そう言い残して、土御門はその場を去っていった。
残った上条達もまた、弁当の残りを食べて早く教室に戻る事にした。


「……なぁオティヌス。もしかして話に出てきたあいつって……」

「ああ。飛行機の中で話したあいつだ。それ以外に誰がいるというんだ?」

淡々とした口調でオティヌスが答える。対して上条は「でもなぁ……」と髪の毛をかきながら呟いた。

「未だに信じらんねぇよ。世紀の魔術師、アレイスター=クロウリーが生きてて、この街の統括理事長やってんなんて」



余りいい考えが浮かばなかった……。

書き留めってどうやってるんでしょうか?
教えてくれたら嬉しいです。

おつなのーね

とりあえずピンと来た単語連ねてそれに肉付けして何個かルート描いていけばこの話はこれに転用出来そうとかやってけば溜まるんじゃね?

後は自分が描きたいシーンだけ先に書いておけば書き溜めにはなると思うが
素人意見ですまん


大変申し訳ありませんが、明日から二週間テスト期間に入るので、更新が難しくなります。
感想、批評など、お好きに書いて下さい。

>>173さん

ありがとうございます

ういー
気長にまつよー

一応生存報告しに来ました。

待っとるで勉強がんばれ

勉強頑張ってください。
保守


その頃、多重スパイという衝撃の事実をあっさりカミングアウトした土御門は、二人に別れを告げた後、教室にも行かずに階段の暗い隅で電話をしていた。

その相手は、例の『人間』だった。


「……やっぱりバレた。さすが、戦いと詐術の神の名を冠するだけある。俺をつたって、芋づる式にお前の『プラン』にたどり着いて、その妨害へと本気で乗り出そうとしている……。
……ま、ここまでは計画通りといったところか? アレイスター?」

そして、電話の向こうに居るであろうアレイスターは一瞬間を置いて、

「何とか誤差を修正仕切れた、と言ったところだな。やはり『幻想殺し』が魔神となったのが大きな痛手だったが、今はまだ、彼がここを離れると言った気は無いようだな」

「(やはり計画通りか……)」

今の時点の土御門は、一見アレイスターとは協力関係の様に見える。
しかし土御門は、この『人間』が何か世界を揺るがす程の事、例えば八年前の『魔神』の誕生の様な大事を仕出かそうとしているのを知っていて、それを阻止しようとしていた。


勿論アレイスターもまた、土御門の目論見を知っているだろう。
しかしそれを知っていても、こうして土御門を使っていると言うことは、まだ自分を手放すには早いと思っているに違いない。

しかしそれと同時に、土御門にはある考えが浮かぶ。
『こうして土御門元春が、アレイスターの目論見を挫こうとしている事すら、アレイスターのプランの一部なのでは』と。

仮にそうだとしても、土御門がアレイスターの遂行する『プラン』から目を離す訳には行かない。ただでさえ、前科を持っている危険人物なのだ。


そしてもし、その魔の手が自身が命を課して守ると決めた舞夏におよぼうとすれば、必ずや電話の向こうの相手を殺してでも止めるつもりだ。


『……ここまでは順調と言ったところか。
……おい土御門、聴いているのか?』

「ああ聴いている。じゃ、切るぞ」

もう要は済んだ、とばかりに一方的に土御門は電話を切る。


「さて……幻想殺しの魔神、上条当麻。世紀の大魔術師、アレイスター=クロウリー。
どっちに軍配が上がるか……」


その心中は、穏やかでは無かった。

二週間振りなので今日はこれくらいが限界です。
週末は多く投下できそうです。

テストも投下も乙でした

おつかーレ


場所は変わってとある公園。すでに放課後の時間帯だけあってそこでは学園都市の住人が多く見かけられた。
とぼとぼと意味もなく歩く人、ランニングしている人、自身の能力を試している人など、昼間のストレスを癒すためか、自分のやりたいことをしている。
しかし、この学生服を着た、金髪の外人の少女は違った。

「遅いなあいつ……何してるんだ……?」

登校初日で既に疲労マックスのオティヌスは、自販機に飲み物を買いに行かせたったきり戻って来ない
相棒兼雑用の上条を待っていた。明らかにその顔は不機嫌だが、そんな表情でも美しく見えた。

「……待ってても埒があかんか……」

大方、厄介事に巻き込まれたのだろう。彼女の経験からして、そういった理由で遅れる事は多かった。
そして、生命探知魔術ーー理論上不可能なはずだがーーを周囲に展開し、オティヌスは上条を探し始めた。そして、発見には数秒もかからず、上条はすぐに見つかった。

「自販機の前……。動きがないな、誰かと話でもしてるのか? ……ん?」

そして上条の前には、もう一つの生命反応があった。

だが、オティヌスが気になったのは別の事だった。

その生命力大きさ、魂の形からして、それは……、

「…………女…………」

さらにオティヌスが不機嫌になる。そして、

「コロス……!」

学校での疲労(主に青ピのせい)も重なってか、オティヌスは黒いオーラを纏い、上条のもとへと向かう。







上条当麻は不幸な人間だ。財布は落とすし、ゲーム機は踏み壊され、外に出歩けば魔術師に遭遇する毎日。そして今も、

「……不幸だ……」

彼は目の前の自販機に千円札を飲まれたばかりだった。取り返したいのはやまやまだが、失敗することはないにしろ別の障害が起こってしまうはずだ。


「(怒るだろうなー、オティヌス。金呑まれれたなんて聞いたら……)」

諦めるしかない。そう思ったその時、




「何をしているんですか、とミサカはツンツン頭の少年に問います」



「へ?」

突如としてかけられた声に、思わず上条は間の抜けた返事をしてしまう。慌てて取り繕おうとしたがーーーー、

「み、御坂!?」

上条が最初に出会った学園都市の少女、御坂美琴がそこにいた。いや、似ていると言うべきか。雰囲気や口調が彼女とは違う。それに彼女は真っ黒な軍用ゴーグルを額に付けたりはしてはいない。


「私とは初対面のはずです、とミサカはツンツン頭の少年に答えます」

「(ああ、やっぱり違うのか……)いや、俺の知り合いに良く似てる、て言うかもろ同じ顔の奴がいてさ、つい……」

よくよく考えれば、あの美琴がこうしてわざわざ声をかけてくる訳がなかった。彼女なら顔を合わせた瞬間に、挨拶代わりの電撃を飛ばしてくるだろう。
冷静に考えて見ればそうだ。
だが、その冷静さも、目の前の彼女の、次の言葉で脆くも崩れ去る。




「ーーーーそれは一体、何体目のミサカの事でしょうか?」




「…………へ?」

なんと言った? 彼女は今『何体目』、と言ったのか?

急激に思考が凍てついていく。嫌な予感が身体中に走った。

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。

上の奴キモいぜ☆

乙カレー


「? どうかしましたか、とミサカはいきなり凍りついた様な顔をしたあなたに声をかけます」

「!?」

しまった、顔にまで出ていたか。すぐに凍てついた思考を元に戻そうとするが、一向に、頭は回ろうとしない。完全に冷静さを欠いていた。
何とかして取り繕おうと必死に考えていると、


「ナアァァァァニしてんだ、カミジョオ~~?」


まさしく上条にとって救世主が来た瞬間だった。
だがそれと同時に、こんな状況でも自らに襲い来る恐怖も認知せざるをえなかった。

御坂美琴にそっくりな、彼女の後ろ。神秘的なまで美しい金髪をたなびかせる少女が、その華奢な身体に、どす黒いオーラ(何故か上条には視認可能)を纏わせて仁王立ちしていた。


こんなことできるのは彼女しかいない。


「……オティヌス?」

恐る恐る声をかける。すると、オティヌスは上条と自らを挟むように立つ御坂の妹と思わしき少女を
見て、


「……………………………で」

「え?」


何故かオティヌスは顔を下にして俯いてしまった。
いつもならすぐ上条に電撃の槍やら100パーセント命中する槍やらを投げたりしてくるのに、今回は何もしてこない。言葉責めすらしてこない。


「オ、オティ……」


不自然に思いながら、初めての事だったので戸惑いもしながらもどうかしたのかと聞こうとした。
しかしそれを待たずして、オティヌスの顔がばっ、と前を向いた。


「え…………」


そのオティヌスの顔は赤かった。しかもただ白い肌に赤が浮かんでいるだけじゃない。その金色の目の目尻には、涙が浮かんでいた。


「何で……グスッ、私より、『超電磁砲』と一緒にいるんだよ…………グスッ」

「え、えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

あーあ遂に泣かしたか…


恐らく魔神となって、というかこの世に生まれてこの方こんなにまで驚いた事は無かった。後に、伝説や神話になったとしてもおかしくないくらいの衝撃が、魔神、上条当麻に来た。


「え、い、イヤ、オティヌス!?」

「い、いつも、グスッ、外に出ると、『超電磁砲』と、グスッ、エッグ……」

「……………………………………」


泣いている。
あの冷酷非道とまで組織内で恐れられたオティヌスが、目に涙を浮かべている。普段の堂々とした態度はなくなり、上から目線の口調の影も無かった。

理由は何となく、いや、絶対の確信を持って言える。

寂しさ。学園都市に来てから数日、上条はここの複数の住人と交流をしている。カエル顔の医者を始め、ミステリアスな雰囲気の少女にツインテールの瞬間移動能力者、電気系超能力者とここ数日でかなりの人物と知り合う事ができた。

だがしかし、それを間近で見ていたオティヌスはどんな心境だったろうか。
自分のよく知る人物が、自分ではなく、他の者と楽しそうにしている。もとから愛情や友情等、人と関わると言った経験が浅く、それに餓えていた少女だ。


「(きっと、不安を感じたり、怖くなったりするに決まってる)」


今隣にいる大切な人が、いなくなってしまう。
十年に近い日々を共に過ごし、それを一瞬にしてこの手で失った上条にはその気持ちが痛い程に分かった。ましてやオティヌスは、それが人並みよりも強いのだ。いや、強くなったといえる。この八年間、彼女は上条を通して人の温もりを知り、そしてその大切さを短期間で知った。
けれど、やはり一番の温もりを与えてくれる理解者である上条が離れてしまうのは、他の何に代えても耐えがたかったのだ。

それをごまかし、隠し、今まで耐えてきた。
それが今になって溢れてしまったのだろう。

「(……情けねぇ……、サイテーなヤローだ)」


寂しがっている彼女に気づかない奴の、何が理解者だ。口先だけで安心させ、今日までずっと耐えることを彼女に強いてしまったのだ。


「……………オティヌス……」


ゆっくりと、オティヌスに近づいて行く。

今日はここまでです。

眠い……。

おティちゃん可愛い

おティちゃんマダー?

まだかなー

続きを楽しみにしております…

面白いから期待。早く来て??

待っています。
保守

保守

待ちたい


すみません。ネタが思い浮かばなくなって今まで逃げてました。
コメントしてくれた方々、保守してくれた方々、待ってくれた方々、本当に申し訳ありません。

ひとまず今日出来た分だけ投稿します。
今後とも宜しくお願いします。

もう一度すみません。名前を間違えました。

酉を変えますのでご了承下さい。


そして当麻は、唯一無二の人に、思いの丈を紡ぎ出す。


「……ごめん、オティヌス。俺、浮かれてた。
この街に来て、初めて普通の人と触れて、初めて友達が出来た気がして、嬉しくて、新しい事に目移りしてた……。オティヌスって言う相棒を、ずっと蔑ろにしてたんだ」

「……………………………」

「言い訳がましく聞こえるけど、その時はオティヌスとは何も変わりはしないって都合よく思ってた。
……本当にダメな男だと思う。十年も一緒に居てくれた人を、相棒を、大切な家族を泣かせたんだ。
お前に嫌われ、最悪殺されても文句は言えない」

「……………………………………………」

出てきたのは苦しい言い訳。失った物を見つけて浮き足立ち、はしゃぎ、周りが見えなくなった愚か者の、ありふれた懺悔の言葉。
それにオティヌスは何も答える事はない。
それを見てもなお、魔神は、頭を深く、下げ、もう一度言い訳を続ける。


「ごめん。許してくれ。これからは、もう寂しい思いなんかさせない。お前と一緒に居続ける。何があっても、例え世界が終わっても、オティヌスの理解者として有り続けたい」

「………………………………………………………………」

「頼む」

当麻の懺悔が終わる。それでも彼は、ずっと頭を深く下げている。

「……………………………………」

それを見ていたオティヌスの顔は、髪で隠れて他人からは見えない。そのままお互いの間に永久と思える程の沈黙が流れる。
そして、しばらくしてオティヌスは、おもむろに右足を浮かせ、



「ふごっ!?」

────思いっきり、地面に向かっていた当麻の顔面を蹴り上げた。




半分魔神であるオティヌスのパワーからすれば普通に脳みそがグチャグチャになって死ぬのだが、幸か不幸か当麻は本物の魔神。

空中に身体が浮かび上がった後、地面に叩きつけられてもなお、普通に痛くて気を失いかける程度で済んだ。


「わわ、わわわわわわわわわわ………………………!」


そして蹴り上げた張本人のオティヌスは、顔を真っ赤にして可愛らしく慌てふためいている。
さっき晒してしまった情けない姿を思い出したのもあるが、それ以上に当麻から告げられた言葉が、ストレートに恥ずかしく、そして密かに嬉しかった(勿論嬉しかった事に彼女が気づく事は無い)。

勿論、オティヌスもまたこれでも多感なお年頃。恥ずかし紛れに、思わず蹴飛ばしてしまうのは致し方ない。何故なら職業が戦闘職種なのだ。当麻と違って、言葉でなく力で表現してしまうのだ。


「おっまえ、ちょ、待ってくれ! まだだ、まだ早いんだ! まだ勇気がないんだよぉ!」

何が勇気がないのかは知らないが、とにかく羞恥のせいでオティヌスの思考回路が溶け落ち始める。
彼女の脳内は、最近になって恋愛脳になって来ていたらしい。その対象が何なのかはお察しの通りである。

「うわ、しかも私は、なんで……! こんな所でぇ……!」

ついさっき一緒に居続ける宣言をした張本人が気絶仕掛けているのも知らず、多感な少女は、自分の醜態を明確に思い出して、さらに悶える。

恋は盲目。
決してこの表現がこの場に置いて合っている訳ではないが、少女の恋とは時として、羞恥の余りに周りを見えなくしてしまうのだ。例え相棒だとしても。



そしてオティヌスが、当麻が既に気絶していた事に気付いたのが、一通り自分が苦しみ終えた後だった。



─────────────────────

「………………」

「改めて、本当に申し訳なかった」

脳みそグチャグチャ未遂蹴飛ばし事件(後に上条命名)による気絶から覚めた当麻は、まず真っ先にオティヌスにもう一度謝った。

今もオティヌスはそっぽを向いており、やっぱりまだ怒っているのかな、などと検討違いも良いところを、当麻は本気で思っていた。

実際は自分の醜態を見られた事と、当麻から告白紛いのような謝罪を受けたから、まともに当麻の顔を直視できないだけなのだが、それに『完全』であるはずのこの魔神が気づくわけがない。

しかし、このままではずっと上条はこうして謝り続けるだろう。恐らくオティヌスが彼を許すか、もしくは殺すかしない限り、彼はずっとこのままでいるはずだ。

「……上条」

「……何だ、オティヌス」

そしてやっと、オティヌスは当麻の顔を見る。それは同時に上条もオティヌスの顔を見ることになり、数分間見ていなかっただけなのに、お互いの顔が十年ぶりにやっと見ることが出来たのではと思うほど、お互いの顔がとても懐かしく感じた。


すぅ、と息を吸って、吐き、その美しく形の整った唇から、ゆっくりと、言葉を紡ぎ出していく。


「お前は、ずっと、私と居続けるんだな?」

「ああ。例え世界が終わっても、何があっても」

「他に目移りした、お前に?」

「確かに目移りはした。でも、絶対にお前だけは蔑ろにしない。世界の何にかけても優先するし、それを変えるつもりもない」

「……はぁ、もういい」

どこまでも真っ直ぐな口調と、同じくらいに真っ直ぐなその『青い瞳』。
戦闘中、いつも見ていたその瞳からは、相も変わらず嘘、偽りは感じられ無い。これは馬鹿正直に、そして真剣に応えようとしている眼だ。

恐らく今の上条なら、オティヌスの為ならば本気で、嬉々として世界を敵に回そうとする。例えそれが世界の全てから自分が『悪』と呼ばれる理由になろうと、上条からすればそれは些細な事でしかない。
そしてオティヌスもまた、上条と同じである。

八年前のあの日に出会ってから、何に置いても、お互いはお互いに、最も優先すべき存在だったのだ。

世間一般の愛からすれば、『重い』と思われるほどの『思い』。
しかし、それくらい重い思いを持った関係の方が、今の二人には丁度良く、そして心地良かった。

今日はここまでです。

次が出来るのは、もう少し先のプロットが出来たら、もしくはネタが思いついたらにします。

早ければ明日には投稿します。

今後とも宜しくお願いします。

待った甲斐がありましたわ


「……私も、ほんの少し、嫉妬した……」

「ほんの少し、じゃなくて結構だろ」

「うるせっ」

拗ねたオティヌスを当麻が茶化し、それに対してオティヌスが悪態で返す。
少しずつ、両者の空気が戻っていく。

「で? もう一度聞くが、さっきの言葉に嘘偽りはもちろんはないな?」

「ない。一生守り続ける」

「……一生だな?」

「……本当に?」

「ああ」

「絶対に? 途中で破ったりしないな?」

「しない。だから、安心して俺を信じてくれ。
俺は、この約束を裏切ったりしない」

「…………………………よし。私も悪かった。泣き落としなどと言う無様をさらすとはな。
私もお前を無理に束縛したりはしない。だから、だからお前もきっちりとその約束を『護れよ』?」

「……ありがとう。オティヌス」

無垢な笑顔で礼を言ってくる上条。それを見て、またオティヌスは顔を赤くする。

「いや、なに、私にも原因がある。前の私ならこんな事にはならなかったと思うし……。
さっきも言ったように、お前を束縛したりはしない。私だって我慢する。だから、ほんの少しぐらいなら、お前も私を雑に扱ったって、良いんだぞ」

まさかのオティヌスの譲歩発言に思わず驚きの声が出そうになるが、ぐっとこらえる当麻。
ここで要らんこと言ったら、即グレイプニルされてしまうのは、分かりきったことだ。

しかし、上条が要らんことを言わずとも、次の瞬間でオティヌスのその顔が、転じて無表情になる。



「だが魔神、さっきの事についてで詰問しないとは言っていない。
ベンチで一人待ってた私をほっぽって『超電磁砲』の同型体を口説いてたのは、それはどういう事だ」



「(……何だ、やっぱり怒ってるじゃないか……)」


───────────────────────

「で、お前を縛るのは後にしてだ」

「おい不穏な言葉が聞こえたぞ」

当麻の突っ込みを無視して、オティヌスは話を続けようとする。

「あの女……御坂美琴そっくりの女の事だが」

「あ、そうだった! あいつは!?」

すっかりと美琴そっくりの少女の事を忘れていた上条。あわてて陽の沈んだ周囲を見渡し、軍用ゴーグルの頭を探す。

そしてそれにオティヌスはげんなりとした顔で、

「いや、何て言うか。お前が気絶したのに気付いた時に、あの女が『そー言うのは家でやれや。馬鹿共、とミサカは悪態を吐き捨てて去っていきます』って、変な口調で吐き捨てて帰ってった」

すぐ目の前で放置され、挙げ句キャラ崩壊仕切った告白劇をまじまじと見せつけられた美琴らしき少女は、その状況にあきれてもう帰っていってしまっていた。
見ていてかなり辛かったのだろう。

「がっはぁ!」

そして思い出した上条も喀血しそうになる。言ったことに後悔はないが、往来の場でやらかした事については普通に恥ずかしかった。

今日はここまでです。

オティちゃんクソかわ

いつまで待たせるつもりだ

待ってる

早く続きを読みたいです(//∇//)

遅れてすみませんでした。投下します。




「おい、勝手に死ぬな。私だって恥ずかしい」
「いや死んでねぇよ…………。あー悪いことしちまったなー」
「ああそうだな。詫びとして今年いっぱいは全食おにぎりにしろ」
「いやお前の事じゃねぇよ。わざとか」

つーか全食おにぎりってどんだけ食い意地はってんだオティヌスさん。

「さっきのは……御坂の、姉か妹……か?」
「それっぽいんだけど……でもなーんか、引っ掛かるんだよなぁ」

あの御坂のそっくりさん……御坂妹と仮称しよう。上条は彼女と話したとき、猛烈な違和感を感じた。それに彼女の口にしていた「何番目」と言う言葉、一体何の意味が籠められているのだろうか。御坂美琴とは全くの赤の他人とは考えられないのだが。

「………………………………」

一方、オティヌスはややうつむいた顔で思考に耽っているようだった。何かにかけて一度思考しだすと止まらない癖のある彼女なので、上条はオティヌスが顔をあげるのを待った。

「……おかしい」

少しして、オティヌスが呟く。

「ん?何が?」
「いや、この前に、この学園都市の戦力を計るためにハッキングを使ってレベル5の能力者のデータを漁っていたのだが」
「おい。さりげない犯行宣言だすな」

だからこいつ御坂の事を知ってたのかよ、初対面なのに妙に詳しいなー、とは思っていたけど。

「で、何がおかしいんだよ」
「……三人だ」

オティヌスは上条に指を三本立てる。



「御坂美琴の直径の血族は、三人だけ。姉妹や兄弟はいないはずだ」

ぞくり、と上条の背中を、何かが駆け抜けた。



──────────────────────────

日が暮れ始めた。夏休みも直前だと言うのに、今日は日が早かった。

上条はほとんど学生がいなくなり、会社勤めから帰ろうとする途中の大人達がちらほらと見える歩道を歩いていた。

「……………………………」
『私はこれからもう一度、学園都市のデータベースをよく調べてくる。もしかすれば、あの御坂妹と言う女は、奴の『計画』とやらに関係するかもしれん。……何故か今回は特に嫌な予感がする。あの御坂妹を見つけ次第、すぐに話しかけて引き留めろ』

そうとだけ言い残して、上条が引き留める間もなくオティヌスは飛び去っていった。
しかし上条もこのままただ公園でじっとしているのは性分に合わないので、結局オティヌスに言われた通り、こうして街を歩いて探しているのだが。

「全然、見つからねぇ。まだそう遠くには行ってないはずなんだけど……」

一向に、あのゴーグルをかけた御坂は見つからない。常盤台の制服にゴーグルと、あれだけ目立つ格好をしていると言うのに。

「もうすぐ日も暮れそうだし……。あー、インデックスの飯はどうしよう」

完全に暗くなり、アンチスキルに見つかってしまうとなると厄介な事になる。しかしそれよりもさらに厄介なのは、腹を空かして機嫌を悪くしたインデックスである。噛みついてくる事は別に良いが、ドタバタしているとオティヌスにまたしこたま叱られてしまう。

「さっき叱られたばっかなのに……あー、未来の事なのに、もう不幸だー」

先の見えた人生ほど、面白味が無い物は無い。しかもその内容がグレイプニルで縛られて出来た隙に散々に蹴られ、殴られると言う物で、その上今の上条の力も弱体化しているため、殴られ放題な未来である。どう希望を持てと。

見つからないので早いとこ切り上げたい気持ちはあるが、それはそれでグレイプニル。しかし日が完全に暮れた以降に見つかったら見つかったで、インデックスの機嫌が悪くなりグレイプニル。どっちの未来に転んでも、待ち受けているのはグレイプニルしか無いのか。

──ああ、何と、世は無情なのだ。

そんなどんよりとしたお先真っ暗な考えをしていると、ふと、道端に目が止まった。

──そこにいたのは、ダンボールに入った捨て猫に触ろうとしている、探していたゴーグル御坂こと、御坂妹の姿だった。しかも猫に夢中なのか、まだこっちには気づいていない。
しかし、今の上条にとっては、紛れもない、約束された不幸な未来を打破する女神だった。

「……み」
「?」

そして御坂妹も上条に気付いたのか、こっちに目を向ける。
しかし、上条は御坂妹を凝視して、指を指して呆然としたまま直立していた。そして、

「貴方は、さっきの……」
「見ぃつけたああぁぁぁぁぁ!」
「違った、不審者です。誰か助けて下さい!」

 その後、路上の隅で、全力で女子中学生に土下座して謝る男子高校生らしき姿が見えたと言う。



 そして、上条が御坂妹を全力で宥めた後。

「では、不審者さん。貴方は不審者ではないのですね、とミサカは疑惑の目を向けながら無理矢理納得します」
「いや、絶対納得してねぇだろ。つーか不審者さんて何だ」
「路上で人を見つけただけで大声をあげる人が、不審者ではないと?とミサカはまた疑惑の目を向けます」
「とりあえずその目やめーや」

 今、分かった事だが、この御坂はとにかくボケ倒す性格らしい。インデックスが見ようものならクールビューティーなどと持て囃しそうだが、上条にはただふざけているようにしか見えない。

 すると唐突に、「まぁ、冗談はここまでにして」と御坂妹は子猫を抱き抱えたまま立ち上がった。

「……この猫の飼い方、教えてくれませんか?」
「……は?」

 今度は何だ、唐突に。と上条が思っていると。

「飼いたい……のか?」

 まぁ、ずっとあそこに座っていたから、わからなくはないけど。
 唐突なその言葉に戸惑っていた上条に、御坂妹は不安に思ったのか、再度問い掛けてくる。

「……駄目、ですか?」

 しかも今度は上目遣いで言われた。まぁ、オティヌスには引き止めておけ、と言われてるし、時間的にもまだ余裕があるから大丈夫か。それに路上で大声出したのも悪かったし。

「……別にいいよ。付き合ってやるよ」

 断る理由も特に無い。まぁ、折角出会ったんだ、ここでもう一人友達を増やしておくのもいい。

「!本当ですか?とミサカは不審者さんに感謝します」
「おい、それもやめろ」


 ……やっぱりこいつ生意気だわ。

今日はここまでです。

おつー
待ってたよー!

おつなんだよ!

 場所は変わって、上条宅の一室。灯りがない部屋の中では、オティヌスがパソコンの画面を金瞳で睨み付けながら休むことなくキーボードに触れる手を動かしていた。

「くそ、思ったより固いな……」

 一介の学生でさえ機密の塊である学園都市。前回、御坂美琴の個人情報について調べた際にハッキングしたサーバーの、そのさらに深層のサーバーにハッキングを試みているのだから、当然一筋縄で行くわけがなかった。
 しかし、機械系統に強い仲間から教わった技術で、何十何百と張られた分厚いプロテクトを、オティヌスは止まることなく根気よく破っていった。そして。

「……!やった!」

 遂に、機密サーバーへの侵入に成功した。
 頑張った反動か、それともアレイスターが張り巡らせた電脳の壁を突破出来た事からか、オティヌスは思わず歓喜に震える。

 しかし、その歓喜は長くは続かなかった。

「…………何だと?」

 そこに保存されたデータには、とある計画についての詳細しか載っていなかった。しかし、その計画はオティヌスでさえ、残酷かつ非道で、人道から外れきった狂人達の狂った実験だと思わせるほどの内容だった。

「──『量産型超能力者計画』……それと『絶対能力進化計画』……だと!?」



──遠いビルの中で、誰かが微笑んでいる気がした。


 ──とある路地裏

 白い悪魔が少女と鬼ごっこをしている。悪魔は逃げる少女の後ろを追っていた。
しかし、その足はゆっくりと、悠然と、そして気だるそうに。

「アーーーー、くそつまんねェ」

 白い悪魔は、白髪に赤目、そして貧弱そうな体型をした少年だった。しかし、そのドスの効いた声は残酷さを感じさせ、もし、誰か彼をよく知る人物がいたのなら、真っ先に彼から距離を取ると思われるほどに、彼は不機嫌だった。

 毎日毎日、同じことの繰り返し。微妙に違ってくる時もあるが、それもほんの僅かなだけで、いい加減彼も飽きてきた所だった。そもそも、この飽きっぽい性格をした彼が、ここまで長期間に渡ってこの『実験』を続けて来れたのが異常だった。しかしそろそろそれも限界に近づいてきたようで、溜め込んできたフラストレーションが爆発しそうだった。

「……チッ」


 思い出すのは数日前の事。そう、あの奇妙な二人組と出会った日の事だった。

 いつもと同じ変わり映えのない『実験』を行っていた途中、ふと何気なく目を外してみると、遠くで巨大な光の柱が立っているのを見た。そして彼は確信した。あれは昼間の二人の仕業だ、と。
 天を突き抜けるが如く空へと伸びる光の柱。その明らかにこの都市の超能力とは違ったその力を見て、彼は心を躍らせた。

 ──やはり、あいつらはやってくれた、と。

 一刻も早くあの光の柱の下に向かいたかったが、今回の『実験相手』はこういう時に限って自分相手にそれなりに粘り強く立ち回ったので、かなり時間がかかった。最終的には周囲一帯を巻き込んで消滅させたが、焦った事もあってかなり時間を掛けてしまった。

 そして、天を破る光の柱が立ち上がった場所で彼が見たものは────丸ごと一帯が焼け焦げた跡のある、空き地だった。
 もう既に、彼が実験を終えた時には、全ての事は終わっていたのだった。

「クソ……なんたってあの時に限ってよォ……」

 おもむろに、足に力を込める。

「ア────────退屈だァ」

 悪魔は、絶望の鬼ごっこを再開した。

今日はここまでです。

おつなの

乙です。 

続き、まだぁー

待つてる

楽しみに待ってます。
保守

保守

まだ更新来てないのか…。
続きをください…!!!

Pixiv,ハーメルン,掲示板…。どこかで続きやってくれたらなぁ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年05月18日 (木) 18:19:22   ID: XIrjBKYA

ほう。

2 :  SS好きの774さん   2017年06月30日 (金) 00:21:58   ID: EZHCVeKQ

やっと更新きた。

3 :  SS好きの774さん   2019年02月06日 (水) 20:03:11   ID: lNNi47q2

麦野達のところ
オティヌス「ここが上条当麻の部屋か・・・」上条「おう」26 にある!!

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