元カノは高垣楓さん (66)



何となく、な恋の話







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【事務所】



ガチャ



楓「おはようございます、Pさん」


P「おはようございます、楓さん」


楓「今日は午後から歌のお仕事でしたね。今からとっても」


P「わーくわーく、しますか?」


楓「…」プクー


P「拗ねないの。流石に読めますよ」


楓「…精進します」


P「はい、レッスン共々頑張って下さいね」


楓「…あ、Pさん」


P「はい?」


楓「お弁当を作ってみたのですが、食べますか?」


P「え、お弁当を?……楓さんが、俺に?」


楓「Pさん、いつもお昼ご飯抜いてるでしょう。きちんと食べないと体を壊してしまいますよ」


P「…ありがとうございます、楓さん。中身、見てみても?」


楓「ええ、どうぞ」


P「わ…! 俺の好物がいっぱい…楓さん、覚えててくれたんだ」


楓「ふふ、腕によりをかけて作りましたからね。あまりの美味しさに、それなりに驚いてしまうかも、なんて。ふふっ」


P「…? それなりに、驚く…あ、わかった。「中ショック」だ。昼食だけに」


楓「せいかーい♪ これは読めなかったでしょう?」


P「はは、やりますね」


楓「それでは、レッスンに行ってきますね」


P「ええ。後で迎えに行きます」


楓「それでは、また後で…」スタスタ


P「…」


P「…よし、頑張るか!」


ちひろ「……」ジー


ちひろ「……Pさん」


P「はい、何ですか?」


ちひろ「…Pさんと楓さんは、本当に今はお付き合いしていないんですか?」


P「またその話ですか? 三年前にとっくに別れましたよ。楓さんは元カノです」


ちひろ「…ええー…?」


P「…まあ、説得力がないですよね」


ちひろ「あ、自覚はあるんですね」


P「そりゃそうでしょう。俺みたいな男が楓さんみたいな綺麗な人と付き合っていたなんて」


ちひろ「いや、そっちじゃなくて」


P「?」


ちひろ「…まあいいです。今日の飲み会で色々お話聞かせて貰いますから!」



ーーーーーーーーーーーーー


【居酒屋】



ワイワイ、ガヤガヤ…



早苗「ーでさ、前から聞きたかったんだけどさ、楓ちゃんはP君とどこで知り合ったわけ?」


美優「早苗さん、Pさんが向こうの席にいるのに…」


瑞樹「この騒がしさなら聞こえないわよ。 私も気になるわね、昔付き合ってた事しか知らないから。美優ちゃんも気になるでしょう?」


美優「…それは、まあ…」


楓「ふふ、Pさんと出会ったのはですね、大学の授業でです。私が二年生、Pさんが新入生で」


瑞樹「大学の先輩後輩、ね……いいわあ、青春ね♪」


早苗「もしかして、逆ナン?」


楓「いいえ。むしろ…」


美優「Pさんから…?」


楓「まあ、そうですね」


瑞樹「P君、意外とやるじゃない!」




ちひろ「ーで、大学生になってはじめての授業中に堂々とナンパしたと」


P「話聞いてました? 後ろの席の楓さんにプリントが行き渡ってないのに気づいた俺が、代わりにプリントを貰ってあげたんです。楓さん、昔は人見知り激しくて言い出せずに困ってたから…」


聖來「でもプリント渡す時、お昼ご飯に誘ったんでしょ? 絶対それ下心あったでしょ?」


P「……まあ、少しは」


ちひろ「やっぱりー!」


P「べ、別にいいでしょう? 俺だって新入生で浮かれてたんだから…」


ちひろ「それにしても、よく人見知り時代の楓さんがご飯に付き合ってくれましたね?」


P「…その、「履修一緒に組んでくれませんか」って言ったから、断れなかったのもあるかも」


ちひろ「わー…悪どい」


P「悪どいって」


聖來「それでデートするようになったの?」


P「…うん。学部が同じだったから授業も割と被ってたし、授業後ご飯を食べに行く機会も増えて…その延長で映画とかプラネタリウムとか行ったりして」


ちひろ「で、告白はどっちから?」


P「…それは、もちろんー」




楓「ーPさんから」


早苗「おおー!」


瑞樹「場所は? 」


美優「…その、どんなシチュエーションで…?」


楓「ええと…あれはPさんの成人祝いにふたりで飲みに行った時でしたね…しばらくふたりで飲んでいたらPさんに「好きです」と言われたので「私もです」と」


早苗「はしょり過ぎよ! もっとこう、ないの? 恋の駆け引きみたいな! ねえ、美優ちゃん!」


美優「ど、どうして私に…? でも、確かにあっさりしすぎのような」


楓「そう言われても、私たちってずっとこんな感じですよ。何となくご飯に行くようになって、ふたりでいる時間が心地よくて、何となくお付き合いして、何となく別れてしまって…」


瑞樹「…楓ちゃんはP君のどこに惹かれたの?」


楓「うーん…可愛いところ、ですかね」




ちひろ「可愛いところ?」


P「楓さんが言うにはね。自分じゃよくわからないですが」


聖來「あ、でもアタシなんかわかるかも。Pさんってわんこみたいだし」


P「…犬顔って事?」


聖來「あ、柴犬顔かもね。って、そうじゃなくて」


ちひろ「子供っぽいですしねPさん」


P「ええー…それを言うなら楓さんの方がよっぽど…」


ちひろ「ほら、すぐそうやって張り合うとことか」


P「む…」


聖來「ね、ね! Pさんは楓さんのどこに惹かれたの?」


P「うーん…そりゃあ理由を言おうと思ったら色々言えるけどさ。でも、恋って理由もなく落ちるものだろ? だから、何言っても後付けになるんじゃないかな…って」


聖來「…」


ちひろ「…」


P「…なんですかその顔」


聖來「…なんか、Pさんっぽくない!」


ちひろ「オットナー!」


P「からかうなよー! なんか恥ずかしくなってきた!」


聖來「じゃ、じゃ、Pさんが楓さんを好きになったのはいつだったの?」


P「え? …あー…それも、今から思い返せばだけど…夏休み前だったかな…ふたりで昼飯食べて大学に戻る途中でさ、楓さんがー」




瑞樹「ー駄洒落?」


楓「ええ、駄洒落」


早苗「そんなの、いつもの楓ちゃんじゃない」


楓「ふふ、実は私が家族以外に駄洒落を言ったの、Pさんがはじめてだったんです」


瑞樹「そうだったの!?」


楓「自分を出すのが苦手だったので…でも、いつもPさんは急かさずに私のテンポに合わせてくれて…他愛もない私の話を楽しそうに聞いてくれて。だから、そんなPさんに笑って欲しくて」


早苗「…ちなみに、どんな駄洒落?」


楓「本格的なインドカレーのお店の帰りに料理の話になったので、「私、カレーは得意ナンですよ」と。ふふっ♪」


瑞樹「変わらないわねえ、楓ちゃん」


美優「…それで、Pさんは?」


楓「ふふ、大笑いしてくれたんです。「楓さん、やっぱり面白い人ですね」って。Pさんが言うには、その時に私の事を好きになってくれたらしいですね」


瑞樹「ギャップにやられたのね。わかるわ」


美優「ギャップ、ですか…?」


早苗「普段お淑やかな子が見せるお茶目な一面って事よ! 美優ちゃんも駄洒落言ってみたら? モテるかもよ?」


美優「え」


楓「それはいいですね! 美優さんの駄洒落、聞いてみたいです♪」


美優「で、でも、今は楓さんのこ、コイバナを」


楓「美優さんが駄洒落を言ってくれないなら、この話はここまでですっ」


美優「そ、そんな…!」


瑞樹「なんだかんだ言って、美優ちゃん興味津々ねえ」


美優「う、うぅ〜…」


早苗「さ、ほら美優ちゃん!」


美優「……えっと……その……」



美優「……み、美優の…駄洒落…聞いて、みゆ…?……なんて…」



楓「…」


早苗「…」


瑞樹「…」


美優「な、何か言って下さい…」


楓「…美優さん、可愛いです!」パチパチ


早苗「うーん、確かに、これはヤバいわね…」パチパチ


瑞樹「今思えば楓ちゃんの駄洒落をはじめて聞いた時もびっくりしたものね…ギャップね! ギャップ!」パチパチ


美優「は、恥ずかしいです…」


楓「美優さん、自信を持って下さい! とっても可愛かったですよ! 「聞いて、みゆ…?」の「みゆ…?」の部分で顔を赤らめながら首をかしげるところが色っぽくて…」


美優「し、詳細に語らないで…! さ、さあ、ほら、続きを…!私の事は、忘却の彼方に…!」


早苗「忘却の彼方て」


瑞樹「でもしばらく忘れるのは難しいわね〜私も駄洒落言ってみようかしら」


早苗「やめときなさいって」


美優「ほら、楓さん…!」


楓「ふふ、わかりました。それでは続きを、聞いて、みゆ?」


美優「〜〜!!」ポカポカ


楓「ふふふー♪ 美優さん顔まっかー♪」


美優「………いじわる」


早苗(拗ねても色っぽいわあ)


楓「ふふ、ごめんなさい。えっと、どこまで話しましたっけ?」


瑞樹「楓ちゃんがはじめて駄洒落を言って、そのギャップでP君が落ちたとこまでね」


楓「ああ、そうそう。実は、私がPさんを好きになったのもその時なんですよ」


瑞樹「ええ!?」


楓「私も思い返せば、ですけどね…その時のPさんの笑顔が忘れられなくて、しばらくして「ああ、私はPさんが好きなんだ」と」


早苗「笑顔、かあ…確かにP君の笑った顔、ちょっと可愛いかもね。芝犬みたいで」


美優(それは褒めているのでしょうか…)


楓「あの日をきっかけに少しづつ、自分を出す事が怖くなくなったんです。緊張しても、あのPさんの笑顔を思い出すと自然と一歩踏み出せて…恥ずかしいので、Pさんには内緒ですけど」


瑞樹「青春してるわねえ…」


楓「ふふ、今でも忘れない、素敵な思い出です♪」




ちひろ「ーで、ですよ」


P「はい?」


ちひろ「そんなこんなでお付き合いして、デートしてイチャついて」


P「べ、別にイチャついてるとは…」


ちひろ「でも、最後までやることやったんでしょう!?」


聖來「ちょ、ちひろさん酔ってる!? 楓さんたちに聞こえちゃうから! そんなに席離れてないんだから!」


P「まあ…それは、大学生ですし…旺盛な時期ですし…」


聖來「Pさんも答えんでいいから!」


ちひろ「そんな楓さんと、どーして別れちゃったんですか!?」


P「え…」


聖來「ちひろさん、ボリューム! …まあ、アタシも気になるけどさ…」


P「どうしてかー…どうしてだったんだろう?」


ちひろ・聖來「「…は?」」


P「いや、それも理由をつければ楓さんがモデルにスカウトされて、上京したら遠距離になるからとか言えなくもないけど、でもそういうのじゃないんだよなあ…」


ちひろ「…好きじゃなくなったとか?」


P「いや、それはないですよ。まあ、燃えるような激しい恋でもなかったですけど…ずっとお互い好きではいたはずです」


聖來「好きの種類が違ったとか? 恋人と先輩に対する好きみたいなさ」


P「それも違うかなあ。間違いなく恋人として楓さんが好きだったし」


ちひろ「うーん…? じゃあ、どんな風に別れちゃったんですか? 差し支えなければ」


P「ああそれなら、楓さんが俺に駄洒落をはじめて言った道を歩いている途中でですね。どちらからともなく「別れましょうか」と」


聖來「え…? そ、それで?」


P「それで? うーん「東京でも頑張って下さいね」とか「たまには連絡しますね」とかそんな他愛もない話をしたっけな…」


聖來「えー…? じゃ、じゃあ、その日の後に楓さんとは会わなかったの?」


P「会ってたよ?」


聖來「へ?」


P「普通に飯も食べに行ったし、「酒飲み放題!」みたいなイベントにも参加させられたし…楓さんが上京しても連絡はたまにはしてたし…まあ、お互い忙しくなって回数は減っていったけど」


ちひろ「…なんか、あっさりしすぎてません?」


P「うーん、そう言われても…何となく、なんですよ。何となく付き合って、何となく別れちゃって。でも、好きじゃなくなったわけでもなくて。わかりません、そういうの?」


ちひろ「わからないわ」


聖來「それで、Pさんも上京してプロデューサーになってから二年目に再会を果たす、と。びっくりした?」


P「そりゃあね。楓さんも俺がプロデューサーなのは知ってたけど、どこの事務所なのかは言ってなかったし。社長に紹介された時はめちゃめちゃびっくりしたよ」


ちひろ「気まずくなかったんですか?」


P「んー…特には。むしろ、久しぶりに会った楓さんが色々グレードアップしてた分、なんなら前より打ち解けられたかも」


聖來「…わかんない!Pさんの恋ってわかんないよ!」


P「えー、聖來だって恋した事あるだろ?」


聖來「あるけど!そんなあっさりしてないよ!もうちょっとしょっぱい思い出とか甘い思い出とかもあるもん!」


P「んー…俺が変なのかなあ…あ、でも確かに、楓さんの前に付き合った人とは、もっとしょっぱかったり甘い思い出もあったかも…」


ちひろ「でも、楓さんは好きだったんですよね?」


P「ええ。好きでしたよ。何度聞かれても、あれは間違いなく恋でした」


ちひろ「うーん…世の中、燃えるような恋だけではないとは思いますが…」


P「…多分、相手が楓さんだったからなのかなあ…」


聖來「…」


ちひろ「…」


P「…え。何ですか」


ちひろ「…ここで改めて、Pさんに聞いてもいいですか?」


P「ええ、どうぞ」


ちひろ「Pさんと楓さんは、今はお付き合いしていないんですよね?」


P「そうですね」


ちひろ「…そうですか。では質問を変えます。Pさんは、今でもー」




美優「ー今でも楓さんは、Pさんがお好き…なんですか?」


楓「…え?」


早苗「やっぱり気になるわよね」


瑞樹「楓ちゃんとP君、はたから見ていると今でも普通に恋人に見えるもの」


楓「でも、結構ケンカもしていますけど…」


早苗「ケンカったってあんなのイチャつきの範疇よ」


楓「皆さんにはそう見えているんですか…? 美優さんも?」


美優「えっと…はい」


楓「…そうですか…」


楓(…何でだろう、そんなの考えた事もなかったな…)


楓(…私は今でも、Pさんを…Pさんは、今でも私を?)チラッ



P(…俺は今でも、楓さんを…楓さんは、今でも俺を?)チラッ




楓・P((……あ。目が合った))


楓・P((……あの顔、もしかして、向こうのテーブルも私の(俺の)事を…?))


楓・P((…………………))




早苗「楓ちゃーん?」


楓「……くす」



ちひろ「Pさーん?」


P「……あはは」






楓・P「「……考えてみましたが、まだちょっとよくわからないです。どうして今まで考えなかったんでしょうね?」」


楓・P「「……でも」」


楓・P「「今でもあの人は、私の(俺の)特別な人みたいです…何となく」」



ーーーーーーーーーーーーー


【後日、事務所】



P「うーん…こりゃあ、終電ギリギリコースかなあ…」ノビー


P「腹もペコちゃんだし、コンビニで軽く飯でも…うわ!」


楓「ふふ、だーれだ?」


P「…その「暇な私の遊び道具みーつけた♪」みたいな声は、高垣楓さんですね?」


楓「せいかーい♪」


P「もう、俺は今仕事中なんですから。肇に構ってもらって下さい」


楓「さっき帰っちゃいました。もう夜の9時前ですもの」


P「…楓さんは帰らないんですか? 見たところ、事務所にはもう俺と楓さんしかいませんが」


楓「私は明日オフですので…ところで、Pさん。よかったら休憩も兼ねて一杯いかがです?」クイッ


P「楓さんと飲むと一杯じゃなくていっぱいになるでしょ」


楓「あら、お上手♪」


P「はいはい……まあ、俺で良ければお付き合いしますよ。まだ仕事が残ってるのであまり長くは時間取れませんが」


楓「そうこなくっちゃですね! いいお酒をいただいたんですよ」


P「俺はあまり強くないのでほどほどで」


楓「Pさん、相変わらずお酒弱いんですね?」


P「こればかりはどうも…」


楓「ではPさんがギブアップしたら私がその分も…このお猪口で」


P「はは、マイお猪口ですか……あれ、それ、もしかして」


楓「そうです! 肇ちゃんの手作りです! 「いつもお世話になっているお礼に」と…ふふ、お姉さんのように慕われていますからね〜Pさん、羨ましいでしょう?」


P「……じゃあ俺は、これで飲もうかな」スッ


楓「ふふ、Pさん、流石に湯呑みでお酒は…って、その湯呑みは!」


P「そう! 肇の手作りでーす! いやーお兄ちゃんみたいに慕われちゃってるからなー」


楓「むぅ…! 私の方が肇ちゃんに慕われています!」


P「いいえ! 俺の方ですね!」


楓「かくなる上は……飲み比べで決着を!」


P「いや、何サラッと自分の土俵に持ち込もうとしてんですか!」


楓「…」


P「…」


楓「…ふふっ、何やってるんでしょうね、私たち」


P「いい大人がふたりして…」


楓「本当ですよ、もう四捨五入したら三十路の男女ふたりが…」


P「あ、俺まだ二十四歳なんで」


楓「…」


P「…」


楓「…」プクー


P「ごめんなさい」


楓「…拗ねちゃいますよ? まるで人をおばさんみたいに…」


P「自分で言い出したんじゃ……お詫びにおつまみ作ってあげますから」


楓「…じゃあ、許します」


P「ん。それじゃあ準備しましょうか。楓さん、お酒の準備お願いします」


楓「かしこまりました♪」



……………

……………………

…………………………


P「ーさて、それではお酒もおつまみも揃ったところで改めて」


楓「はい♪」


P・楓「「乾杯」」チン


P「…」コクッ


楓「…」コクッ


P「…あー…確かに、こりゃいい酒だ…」


楓「そうでしょう、そうでしょう? どんどん飲んじゃって下さいね」


P「まあ、無理しない程度に…ところで、楓さん?」


楓「な、何ですか?」


P「ちゃんと野菜炒めのピーマン食べるんですよ。真っ先に隅っこに寄せてないで」


楓「べ、別にいいじゃないですか。食べなくたって死にはしません」


P「ただでさえ健康なのが不思議な食生活なんだから、食べられる時にちゃんと食べなさい! ほら、あーん」


楓「ちょ、ちょっと」


P「食べないのならお酒没収」


楓「そ、そんな…! わ、わかりましたよ…! …あーん…」


P「よろしい。しっかり噛んで」


楓「うぅ…私はただPさんと飲みたかっただけなのに…どうしてこんな辱めを…」


P「誤解されるような事言わない。せっかくおつまみ、ていうか夕食作ってあげたんだから」


楓「それは感謝してますが…」


P「ほら、もっとよく噛んで」


楓「…もぉー! Pさんは私のお母さんですか!」


P「プロデューサーとして楓さんのお母さんの代わりにあなたの健康を気遣う義務がありますから」


楓「あー言えばこー言う…そんな細かい性格してるから背が伸びないんだ…」


P「楓さんと同じ身長でしょう?」


楓「ヒール履いたら抜かれちゃうくせに…」


P「…きちんと栄養あるもの食べないから胸大きくならないんだ」


楓「何ですか?」


P「そっちこそ」


楓「…」


P「…」


楓「…やめますか」


P「…そうですね」


楓「…Pさん、変わりましたね」


P「…あなたこそ」


楓「…昔は、Pさんとこんなくだらない事でケンカするなんて思ってもみませんでした」


P「…そうですね」


楓「…」コクッ


P「…」コクッ


楓・P「「……あの」」


楓・P「「はい、何でしょう?」」


楓「Pさんから…」


P「いえ、楓さんから…」


楓「…そうですか。では…」


P「…はい」


楓「…私たちの関係、の事なんですが」


P「…ええ」


楓「実は今日、そのお話をしたくて事務所に残っていて…」


P「やっぱりそうでしたか」


楓「わかりますか」


P「わかりますよ。元カノなんですから」


楓「そこです…私たちの関係は、元恋人、ですよね」


P「…はい」


楓「実はこの前の飲み会で、Pさんの話になって」


P「あ、やっぱりそうでしたか」


楓「ふふ、そちらも、でしょう? 目が合った時に察しがつきました」


P「はは、少し離れたテーブルでお互い昔の恋人の話をしていたんですね」


楓「そう考えると、面白いですね…それで、ですね」


P「…ええ」


楓「皆さんに聞かれたんです。今でもPさんの事が好きなのかと」


P「…俺もです」


楓「私、何故だかそんな事考えてもみませんでした」


P「…それも、俺もです」


楓「それで、ちょっと考えてみたんです。どうしてPさんとお付き合いして、どうして別れてしまったんだろう、とか」


P「…はい」


楓「…で、考えてみたんですが…やっぱり、よくわかりませんでした。何となく、あなたを好きになって、何となく、別れてしまった…としか」


P「…」


楓「でも、どうやらこれだけは断言できちゃうみたいなんです。私、Pさんの事が好きって…あの頃からずっと」


P「楓さん…」


楓「…Pさんは、どうですか?」


P「…俺も、色々考えてみたんです。でも、やっぱり何となくとしか言えなくて…でも、俺も今でも、楓さんが…その」


楓「その?」


P「…好き、です」


楓「…ふふ、言っちゃいましたね」


P「…言っちゃいました」


楓「…」


P「…」


楓「…隙ありっ」


P「んっ…」


楓「…ふふ、キスあり。それと…好き、あり、です。Pさん」


P「…楓さん」


楓「…はい」


P「ていっ」ペシッ


楓「いたっ!?」


P「あなたはアイドルでしょう。そんな事しちゃダメです」


楓「…相変わらず、いじわるですね」


P「楓さんの為ですから」


楓「…それじゃあ、私たちは…」


P「前と変わらず、あなたは俺の元カノ、俺はあなたの元カレです」


楓「えー…」


P「…でも」


楓「?」


P「…何となく、ですが。俺、楓さんが引退するまで待ちます。それで、あなたを迎えに行く気がします…何となく、ですが」


楓「…ふふ、それなら私も何となく、Pさんに貰われる覚悟をしておきましょうか」


P「…何となく、ね」


楓「…何となく、ですね」


P「…こういうのを運命って言うんですかね」


楓「ふふ、そんなロマンチックなものでしょうか? …人の心は不思議でいっぱい、そんなところでしょう」


P「はは、そうですね……楓さん、これからもよろしくお願いします」


楓「ええ、こちらこそ…元カノの次は、今嫁、ですね♪」


P「…そうなりますね。何となくそんな気がする、だけですけど」


楓「…ふふ、それなら私も。何となくお付き合いして、何となく別れてしまいましたがー」



楓「ーもうずっと離れませんよ? …何となく、そう思います♪」




その後、元カノ楓さんと過ごす日常




【事務所】


楓「Pさーん、遊びましょー♪」


P「ん。ああ、楓さん。今、美波にレポートの書き方教えてるんでちょっと待ってください」


楓「えー…」


美波「すみません、楓さん。私の学科にレポートってあんまりないので…」


楓「ふふ、美波ちゃんが謝る事はありませんよ…それじゃあPさん、また後で」


P「ええ。それでな美波、こういうレポートは結論を最初に述べてから…」


美波「なるほど…」


楓「……むぅ」



……………

…………………

………………………


P「すみません、楓さん。すっかり遅くなっちゃって…楓さん?」


楓「…」ムスッ


P「…何か、怒ってます?」


楓「別にー…美波ちゃんに頼られてデレデレしてるPさんに怒ってなんかいません」


P「…妬いてるんですか?」


楓「…美波ちゃんに偉そうに教えていたレポートの書き方、私がPさんに教えた書き方まんまでしたね…いつも提出直前にヒーヒー言ってたくせに」


P「む…それを言うなら楓さんだって、グループワークでいつもあぶれそうになってたくせに」


楓「ふーんだ。私がいなかったら留年していたくせに」


P「俺がいなかったらバイト先のみんなと馴染めなかったくせに」


楓「…」


P「…」


楓「…私から手を繋いだら、びっくりして飲み物吹いちゃったくせに」


P「…俺が不意にキスしたら恥ずかしくて泣いちゃったくせに」


楓「…バーで強めのお酒飲んだら、一杯でへべれけになっちゃったくせに」


P「…バイト先の飲み会で酔っ払って大声で駄洒落言って、顔真っ赤にしてたくせに」


楓「それを言うなら、Pさんだって…」


P「楓さんこそ…」



ちひろ「…ふたりの過去がダダ漏れなんですが、それはいいんですかね…?」


早苗「さあ? でもやっぱりイチャついてるようにしか見えないわねあのふたり」


瑞樹「駄洒落を言って恥ずかしがる楓ちゃん…? 想像できないわ…」



ーーーーーーーーーーーーー


楓「…水着の撮影、ですか」


P「ええ。嫌ですか?」


楓「嫌じゃないですが…私にそんな需要が?」


P「ありますよ。楓さん美人なんだから」


楓「…海にデートに行った時、私の水着より巨乳美女に釘付けだったPさんに言われても」


P「…か、楓さんの足も見てましたから」


楓「すけべ」


P「うっ…」


楓「あれ以来私は、自分のプロポーションに自信を無くし人前に出れなくなり…」


P「おい元モデル現アイドル」


楓「…殿方に肌を晒す事に恐怖心を抱くように」


P「ええっ!? …本当、ですか?」


楓「嘘です」


P「こいつ…!」


楓「…あ、でも、もし良ければひとつ条件が」


P「…何です?」


楓「パレオを着た写真も撮って欲しいです」


P「え」


楓「…覚えてますよ。お好きなんですよね? パレオ」


P「それは、まあ…」


楓「ふふっ…それでは、そういう事で。お仕事に行ってきますね」


P「い、行ってらっしゃい…」


楓「……Pさん?」


P「は、はい」


楓「……Pさんの、すけべ」ボソッ


P「…」


楓「ふふ♪ それでは…」スタスタ


P「…」


P「…手強いなあ」



ーーーーーーーーーーーーー


楓「肇ちゃんに、はじめまして♪」


肇「え? は、はい。はじめまして…?」



楓「藍子ちゃんと、アイコンタクト♪」


藍子「はい、いいですよ♪ じー…」



楓「聖來ちゃんの、セーラー服♪」


聖來「あー…実はアタシ、ブレザーだったんですよね。あはは」




楓「Pさんがー」


P「はい、ストップ。何してるんですか楓さんさっきから」


楓「「目指せコンプリート!事務所のみんなの名前で駄洒落を作っちゃおー」のコーナーです」


P「何かの企画ですか?」


楓「はい、私が趣味で開催している」


P「なるほど。ただの暇つぶしですね」


楓「そうとも言いますね」


P「ちなみに、今何人まで行きました?」


楓「Pさんで記念すべき百人目です!」


P「ドヤ顔で言われても…今仕事中なので邪魔しないでいただけると…」


楓「…私が、邪魔、ですか…?」


P「…言い過ぎました。哀しげな目で見ないで下さい」


楓「構って下さいー」グリグリ


P「あーもう、綺麗な髪がぐしゃぐしゃになってますよ」


楓「ふたりで飲みに行きましょうよー」


P「ダメですよ、まだ仕事少し残ってるんですから」


楓「お酒を避けちゃ、ダメですよー?」グリグリ


P「グリグリしないの! …まったく、すっかり駄洒落お姉さんになっちゃいましたね。昔はたまに呟くからギャップがあって可愛かったのに」


楓「…あら、今は可愛くないと?」


P「…そうとは言ってません。今の楓さんも…可愛いと、思います」


楓「…そんなPさんも、可愛いですよ♪」ツンツン


P「そりゃどうも…」


楓「あれ? 反応薄いですね」


P「もう慣れちゃいましたから」


楓「…ああ、これが倦怠期ですか…」


P「倦怠期て」


楓「倦怠期…けんた…ケンタッキー…倦怠期フライドチキン…ふふ」


P「ひとりで何を言っているのこの人は」


楓「Pさん、私、唐揚げが食べたいです」


P「自由かよ」


楓「Pさん、飲みに行きましょうよーPさん、Pさーん」グリグリ


P「駄々こねないの! …はあ、しょうがないなあ」


楓「!」


P「…ま、たまにはいいでしょう。残った仕事は明日の朝やればいいし」


楓「ふふ、優しいですね、Pさん……大好きですよ」


P「…だから、そういう事を言わないの。アイドルなんだから」


楓「…ちなみに、Pさんは私を?」


P「…ノーコメントで」


楓「…じゃあ、嫌い?」



P「…嫌いだったら飲みに行ったりしません。大好きです。ずっと…さ、行きますよ楓さん」


楓「…はいっ♪」


はじめての楓さんメインの話でした。次はまた肇ちゃんの話かな…
総選挙、最後まで頑張りましょう!

それでは今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。

おつ

おっつおっつ

乙です

どこの大学に行けばこんな素敵な出会いがありますか?(血涙)

おつおっつ
良かった


大学に女学生がいるって都市伝説でしょ?

楓さんはやっぱりかわいいなぁ…
おつ

>>64
女子大生は…いまぁす

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