岡崎泰葉「ふたりのひととき」 (15)
――事務所
泰葉「……」
泰葉「……」ペラ
泰葉「……」
泰葉「……」カキカキ
P「勉強か?」
泰葉「ひゃっ……Pさん、いたんですか」
P「『ひゃっ』だって」
泰葉「……からかいに来たんですか?」
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P「いや、違う違う。何してるのかなーと思ってな。眼鏡かけてるし、学校の勉強か、あるいは仕事の予習のどっちかなーとは思っていたが」
泰葉「勉強です。……そうだ、Pさん、ここ、わかりますか?」
P「どれどれ……あ、なんか見覚えがあるな。この参考書、ちょっと借りてもいいか?」
泰葉「はい。どうぞ」
P「すまんな。……あー、わかった。えーと……泰葉、ここにこの公式があるだろ? それで、この演習問題ではこれがこう使われているわけだ」
泰葉「はい……あっ、そういうことですか。これと一緒で、それから、ここに応用して……できました。ありがとうございます、Pさん」
P「どういたしまして。……まあ、教えるならもっと良い教え方があったかもしれないんだがな」
泰葉「いえ、答えだけを教えるんじゃなくて、きちんと導き方を教えてくれましたから」
P「そう言ってくれると助かるよ。……で、それ以外にも何か聞きたいことは?」
泰葉「いいんですか? 忙しいんじゃ……」
P「問題ない。一段落ついたし、たまにはこういうのを見て頭の体操をしなきゃな。まあ、わからないこともあるかもしれないが、わかることならなんでも聞いてくれ。俺が泰葉に教えられることなんて、これくらいだからな」
泰葉「……他にも色んなことを教えてもらっていますよ、私は」
P「そうか?」
泰葉「はい。たくさん」
P「……そうか。じゃ、これもその一つだ。何が聞きたい?」
泰葉「えっと……それでは、ここの問題が、ここまではできているんですけれど、ここからどうやったら答えになるのかがわからなくて……」
P「んー……それにしても、泰葉、字、綺麗だな」
泰葉「字が綺麗だと得することもありますから。Pさんももう少し字を綺麗にした方がいいと思いますよ」
P「ぐっ……努力する」
泰葉「はい、努力して下さい。それで……わかりました?」
P「ん? ああ、たぶんな。一応参考書を見せてくれ。……うん、やっぱりそうだな。泰葉、この問題はだな――」
――
P「これくらいにしとくか」
泰葉「はい、ありがとうございました。ここからは私一人で……」
P「いや、泰葉、お前も休め。何か飲み物でも入れるよ。ココアでいいか?」
泰葉「えっ、はい。いや、その前に、Pさんが入れなくても、私が……」
P「お前はずっと勉強して疲れただろ? 休んどけ。それじゃ、俺は入れてくれるから」スタスタ……
泰葉「あっ……もう。Pさんも、ずっと仕事だったのに」
泰葉「……ありがとうございます、Pさん」
――
P「ん」ズズ……
泰葉「ありがとうございます。……でも、飲みながら渡すなんて、危ないですよ?」
P「いや、ちょっとミスってな。入れすぎたんだよ。それでこぼれそうだったから、仕方なく」
泰葉「……Pさんは、コーヒーですか?」
P「ああ。砂糖たっぷりだけど、な。これが俺には効くんだよ」
泰葉「……おいしいですか?」
P「飲んでみるか?」
泰葉「いいんですか? それじゃあ、一口……」ズズ……
P「どうだ?」
泰葉「……甘いですね」
P「甘ったるい、じゃなくてか?」
泰葉「確かに甘かったですけど、そこまででは……十分おいしく飲める範囲内だと思います」
P「そうか。まあ、俺はこれが好きだから褒めてくれて嬉しいよ」
泰葉「今のが褒めていたかどうかは微妙な線かと思いますが、はい、確かにおいしかったです」
P「ココアはどうだ?」
泰葉「おいしいです。飲みますか?」
P「いや、それはやめておくよ。……泰葉は、最近、どうだ?」
泰葉「なんですか、その質問? 娘との距離をはかりあぐねているお父さんですか?」
P「なんだその具体的な例……」
泰葉「お父さんみたいだったので」
P「……お父さんには優しく、な?」
泰葉「してるつもりですよ? でも、アイドルになってから色々ありましたし……私も、変わりましたから」
P「……泰葉はずっと泰葉だと思うけど、まあ、変わりはしたな」
泰葉「はい。Pさんのおかげで、Pさんのせいです」
P「『せい』と来たか」
泰葉「違いますか?」
P「違わない。でも、俺だけじゃないだろ?」
泰葉「それは……そう、ですね。アイドルになってから、色んなことがあって……色んな人と、会いましたから」
P「そうだな。……本当に、そうだ」
泰葉「それで、変わったという話ですが」
P「うん?」
泰葉「魅力的に、なりましたか?」
P「んっ……それを聞くか」
泰葉「はい、聞いちゃいます」
P「聞いちゃうかー……あー、そうだな。昔から泰葉は魅力的……じゃ、ダメか?」
泰葉「Pさんはどう思いますか?」
P「そう来るか。えー……個人的には、魅力的になった、と思います」
泰葉「どうして敬語なんですか」フフッ
P「いや、だって、これ、俺としてはかなりデリケートな話なんだぞ? 昔の泰葉の魅力と今の泰葉の魅力はちょっと違うからさー……昔の『子どもの頃からずっと芸能界で生きてきたんです。だから華やかなだけの世界じゃないってわかってる……』って泰葉も魅力的だったから」
泰葉「わー! わー! どうして今さらそんな話を持ち出すんですか! というか、どうしてそんなこと覚えているんですか!」
P「『誰にも負けたくないから……』『今更私がプロデューサーに教えてもらうことなんて……?』『ステージには慣れてるから平気よ』」
泰葉「や、やめてください! は、恥ずかしいですから! もー!」
P「恥ずかしい、って……俺の好きな泰葉を泰葉はどう思ってるんだ」
泰葉「む、昔のことを話されると恥ずかしくなるのは仕方ないでしょう……!」
P「そうか? ……でも、今もこういう気持ちがないわけではない、だろ?」
泰葉「それは……そう、ですけど」
P「俺に教えてもらうことなんてない?」
泰葉「そっちじゃなくて! ……誰にも負けたくないと思っているのは今でも本当です。それに、芸能界が華やかなだけの世界じゃない、というのも事実です。ただ、今はそれ以上に素敵な世界だと信じているし……みんなライバルだけど、それだけじゃない、ってわかってますから」
P「……そうか」
泰葉「はい、そうです」
P「……なんか、やる気出てきたよ。今からちょっと、頑張るか」
泰葉「それじゃ、私もちょっとレッスンをしてきます。今、トレーナーさんはいますか?」
P「確かベテトレさんがいたはずだ。連絡しておく」
泰葉「ありがとうございます。……それでは、Pさん、頑張って下さい」
P「泰葉も、な」
泰葉「はいっ」
P「……レッスン終わったら、何か食べにでも行くか」
泰葉「……楽しみができました。レッスン、頑張ってきます」
P「ほどほどにな」
泰葉「Pさんも、ですよ? ……仕事が終わったら、レッスン室に来て下さい。私も、ご褒美に成長した私を見せてあげます」
P「……」
泰葉「どうかしましたか?」
P「いや、泰葉がそういうこと言うのは、ちょっと意外でな。……期待してるよ、泰葉」
泰葉「ええ、期待していて下さい」
P「……それじゃ、また後で」
泰葉「はい、また後で」
終
終わりです。ありがとうございました。
乙
信頼関係があっていい感じだなあ、乙
ベタベタしすぎないいい空気をありがとう
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