岡崎泰葉「私の敵はどこにいるの?」 (22)
泰葉「君の敵はそれです。君の敵はあれです。君の敵はまちがいなく……」
奈緒「お疲れ様でーす。ただ今戻りましたー」
茄子「お疲れ様です」
ほたる「お、お疲れ様です」
泰葉「あら、皆さんお帰りなさい。お疲れ様」
奈緒「あ、泰葉……なんか、邪魔しちゃったか?」
泰葉「いいえ、大丈夫ですよ? 少し休憩しようと思っていたところです」クスッ
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茄子「お茶が入りましたよー……あ、ほたるちゃん、そこ気をつけてね」
ほたる「は、はい!」
奈緒「泰葉……確かそれ、ラジオでの朗読の仕事の奴だっけ?」
泰葉「ええ……詩の朗読ですね。茨木のり子さんの『敵について』という詩です」
茄子「茨木のり子、さんですか……確か、国語の教科書に載っていた覚えがありますね」
ほたる「ありましたね。確か、えーと『自分の感受性くらい』だったかな?」
茄子「そうそう、それです! 『自分の感受性ぐらい自分で守れ ばかものよ』って」
奈緒「あー、あたしも覚えがあるかも……で、今泰葉が読んでいるのが『敵について』か……」
泰葉「奈緒ちゃん、もしかして知ってるんですか?」
奈緒「まあ、一応……アニメで引用されてるのがあってね……」
茄子「引用ですか。アニメではないですけど、ドラマの『金八先生』で、茨木のり子さんの詩が引用されてたことがありましたね。そのアニメも学園モノだったり?」
奈緒「いや、ファンタジーよりのバトル、冒険モノってのが近いかな……」
ほたる「でも……確かにそっちのほうがイメージが湧くかも……なんだが、敵、敵って連呼してて、ちょっと怖い感じもしますし……」
奈緒「ああ、確かにそのアニメの、ラスボスが朗読してたシーンあったなぁ。アレは結構不気味だった……」
茄子「確かに、ほたるちゃんが言った通り、ちょっと怖い感じもしますね……」
泰葉「でも、この詩。実は夫婦の対話みたいなんですよ」
ほたる「へ? ふうふ?」
泰葉「ええ。朗読にあたって文香さんや風香ちゃんと一緒に、詩の背景を調べたりしてたんです」
奈緒「夫婦の対話かあ……そうだとすると、結構イメージ変わるなぁ……」
ほたる「……この、『私の敵はどこにいるの?』って聞いてるのが奥さんの方なんでしょうか?」
奈緒「そうなんじゃないか? これに応える形で続いてる分には『ぼくら』って書いてあるし」
ほたる「……この奥さん、敵が欲しいんでしょうか?」
茄子「確かに書いていることをそのまま読めばそうよね……『私は探しているの 私の敵を』って」
泰葉「確かに色々解釈を広げられそうな詩なんですよね……そういえば奈緒ちゃん」
奈緒「ん?」
泰葉「その……この詩が引用されているっていうアニメでは、どんな風に使われてましたか?」
奈緒「えーと、そうだな……主人公と敵対する事になるヒルケン皇帝ってキャラが、国民にむけて放送してたり……」
奈緒「あ、あと主人公との最終決戦の時もなんというか……吐きだす様にこの詩を読みながら戦ってたかな」
奈緒「なんていうのか……敵味方をきっぱり分けるための演説、あと、その皇帝の戦わないといけない、って心を現すって感じかなぁ」
ほたる「……私には、やっぱり怖い詩に思えます」
泰葉「……どうしてですか?」
ほたる「もし書いてある通り、自分から敵を追い求めるなんてことだったら……私にはちょっと……気持ちがわからないです」
茄子「うーん……なるほど、ほたるちゃんの意見もわかるわ」
茄子「でも、私は……申し訳ないけど、そこまで怖い感じはわかないわね。むしろちょっとおかしいって感じが……」
奈緒「……え、おかしい、か?」
茄子「うーん、さっき夫婦間の対話ってことを聞いた影響もあるし……そもそも“敵”って言葉を日常的に使わないせいか……」
茄子「なんていうのか……言葉遊びをしてて、ヒートアップしちゃった夫婦、ってイメージが湧いちゃうのよね」
奈緒「あー、なるほど。確かにな……」
泰葉「……ほたるちゃんは、“敵”って言葉を強く意識したんですね」
ほたる「……はい。“敵”って聞くと……その、いつも意識してるわけじゃないんですけど、嫌なこととか、そういうイメージも湧くので……」
泰葉「……私も、最初にこの詩を見たときは、ほたるちゃんと同じような感想を抱きました」
泰葉「恥ずかしい話ですが……一時期は“大人はみんな敵だ!”みたいな気持ちだったこともありますからね」クスッ
奈緒「(……地味に重い話題ぶっこんできたな、岡崎先輩……)」
奈緒「じゃあ、泰葉はどんな風に思ってるんだ? 朗読するんだし、イメージは固まってるんだろう?」
泰葉「うーん……そうですね」
泰葉「さっきも言いましたが……この詩、“敵”について抽象的な会話をしている、という形ですから……解釈を広げようと思えば、イロイロ広げられるんですよね」
奈緒「それこそアニメみたいな、誇大解釈みたいなこともできるしな」
泰葉「だから……あえてその辺は、きめてかからないことにしました」
奈緒「え、決めてないの?」
泰葉「ええ……怖く、でもどこか滑稽な……さっきまで皆さんが抱いたイメージ、全てを内包できる、そんな朗読が理想ですかね」
茄子「うーん……でも、朗読するなら、なにか指針みたいなものがあった方がいいとは思うんだけど……」
泰葉「それなら、最後の方に書いてあるのが、この詩の指針だと私は思っています」
ほたる「最後?」
泰葉「『ひとつの出会いがきっと ある』という所です」
茄子「ほたるちゃんが怖いって感想を抱いた一因の文ね」
泰葉「私が抱いた一番の感想……それは『逢いたい』って気持ちを詠った詩じゃないか、と思うんです」
ほたる「逢いたい……」
泰葉「ええ……なぜ逢いたいのか、それは何度詩を読んでも、よくわかりませんでした」
泰葉「でも……逢いたい、逢わねばならない、その必要が是が非でもある……」
泰葉「そこは一貫して書かれている、だから……その、ある意味一途な気持ちを、芯にしてみることにしました」
奈緒「逢いたい、逢わねばならない……か、うーん。難しいな……」
泰葉「……そう言えば休憩中でしたね。茄子さんとほたるちゃんが入れてくれたお茶もさめちゃいそうですし、はやく頂きましょう」
茄子「おっと、結構ヒートアップしちゃったわね」
泰葉「いえ……皆さんの意見はとても参考になりました。ありがとうございます」
ほたる「い、いえ、そんな!!」
奈緒「ま、役に立ったのならそれに越したことはないな。さて、ではお茶を頂きますか」
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モバP「ただ今戻りましたー」
ちひろ「おかえりなさい、プロデューサーさん。どうです、進展の方は?」
モバP「ええ、イイ感じですよ。さて、後は報告書をまとめて……と、そうだ。今日は泰葉の朗読が放送される日だったな。ラジオを付けてっと……」
―――ザザッ
―――『……の、朗読の時間です。今日は私、岡崎泰葉が務めさせていただきます』
―――『茨木のり子、敵について』
『私の敵はどこにいるの?』
『君の敵はそれです
君の敵はあれです
君の敵はまちがいなくこれです
ぼくら皆の敵はあなたの敵でもあるのです』
『ああ その答のさわやかさ 明確さ』
『あなたはまだわからないのですか
あなたはまだ本当の生活者じゃない
あなたは見れども見えずの口ですよ』
『あるいはそうかもしれない 敵は…』
『敵は昔のように鎧かぶとで一騎
おどり出てくるものじゃない
現代では計算尺や高等数学や
データを駆使して算出されるものなのです』
『でもなんだかその敵は
わたしをふるいたたせない
組み付いたらまたただのオトリだったりして
味方だったりして…そんな心配が』
『なまけもの
なまけもの
君は生涯敵に会えない
君は生涯生きることがない』
『いいえ 私は探しているの 私の敵を』
『敵は探すものじゃない
ひしひしとぼくらを取りかこんでいるもの』
『いいえ 私は待っているの 私の敵を』
『敵は待つものじゃない
日々に僕らを侵すもの』
『いいえ 邂逅の瞬間がある!
私の爪も歯も耳も手足も髪も逆立って
敵!と叫ぶことのできる
私の敵!と叫ぶことのできる
ひとつの出会いがきっと ある』
オチなしですが終わります。HTML化依頼してきます。
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