美也と藍子と将棋のこと (17)
美也の誕生日と言うことですが、誕生日要素はありません。
ミリモバのクロス物です。
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「藍子ちゃんは、将棋はご存知ですか?」
「はい?」
桜の花は散り、爽やかな風に緑の葉っぱがさらさらと揺れる穏やかな日の午後。もう何度目かになる宮尾美也の部屋で高森藍子は急な質問にきょとんとした声を返した。
「うふふ~、ちょっと待ってくださいね~」
美也は涼しげなワンピースを揺らしながらベッドの下を漁ると、その奥から茶色い塊を引っ張り出した。
「それは……将棋盤ですか?」
「はい~」
分厚い木で出来た、それも足が付いた実に立派なものである。それが藍子と美也の間に置かれる。
「美也ちゃんの趣味が将棋なのは知ってますけど……」
さっきまで、お互いのアイドル業について話していたはずである。イースターパーティーやファッションショー、他事務所との交流……そこからどうして将棋の話になったのか。
「将棋って、アイドルみたいだと思いませんか~?」
「アイドルみたい、ですか?」
そうです、と微笑みながら美也はいくつもある駒から1つつまみ上げる。
「センターは王様です」
自分に最も近い段の真ん中に王将と書かれた駒を置く。
「その横は金、銀」
ぱちんと軽い音が部屋に響く。
「桂馬、香車」
慣れた手付きで駒を並べていく美也を藍子は興味深そうに眺めていた。
「角行、飛車」
瞬く間に駒が頭を揃えて盤に上がる。
「最後に歩兵で……準備はバッチリですね~」
最後にずらっと並ぶ歩兵。
「あ、確かに……アイドルっぽいかも?」
藍子は幕が上がる直前の光景を思い浮かべる。開幕の全体曲の時はこんな風にステージに並んでいるな、と。
「そうなんです~。これを見てたらステージみたいですよね」
そう言いながら美也は藍子の方にも駒を並べていく。藍子も1つ1つ駒を見比べながらこつんこつんと盤に乗せていった。
「それでは1局……」
「へ?わ、私出来ませんよ!?」
「なんと~、それでは私が教えてあげますね~」
そうして、最前列の歩兵をつまむとひとつ前のマスへ進める。
「歩兵さんは1歩ずつ、こつこつ前に進む頑張り屋さんです~」
「『ほへい』、じゃなくて『ふひょう』って言うんですね」
「はい~。次は金将さん銀将さんです。金と銀、ゴージャスですね~」
ゴージャス。藍子の脳裏にあのアイドルが浮かぶ。
「……千鶴さん?」
「おお~、確かに千鶴さんみたいですね~。王将をしっかりフォローしてくれて、決める時は決める……おまけにセレブですからね~」
「セレブですねー」
なんだかよくわからない話になったのを、笑顔で流して次の駒に指を移す。
「桂馬と香車?」
「この2つは、なんと茜ちゃんコンビですよ~」
茜ちゃんコンビ、おそらく美也と同じ事務所の野々原茜と藍子とユニットを組んでいる日野茜のことであろう。
「桂馬さんは前の駒を跳び越えて行っちゃうんですよ~」
「あ、ぴょんぴょんしてるから……ふふっ、野々原さんみたいですね」
「そうです~、それから香車さんは、ま~っすぐ!行けるところまで進みます」
香車の前から歩を退けて、美也はぐいっと一直線に駒を進める。走り回る赤毛が思い起こされた。そう言われると、小振りな香車の駒もどことなく茜と重なる部分があるかも知れないと藍子は思うのだった。
「最後はこの2つですね」
「そうですね~。この二つは飛車と角行、大駒って呼ばれてます」
説明をしながら他の駒を動かしていく美也。
「飛車さんは、縦にも横にもどこまででも行けるんです。まさに縦横無尽、ですね~。将棋で一番目立つ駒かですぞ~。アイドルでしたら、そうですね……」
「……きらりちゃん?」
「おお~、きらりちゃんですか~。元気いっぱいに動くところなんて、ぴったりですね~」
長い手足が映えるダンス、独特の雰囲気。きらりの持つ圧倒的な存在感はファンを釘付けにして離さない。藍子はそんな姿を思い出していた。
「では、こっちの角行さんは……海美ちゃんにしましょう」
高坂海美は美也と同じユニットを組むアイドルの一人だ。
「海美ちゃん、ですか?」
「はい~。この角は飛車と違って斜めに動きます。こう……駒の間を縫って……」
コツンと盤を叩きながら角を進める美也。
「角は切り込み隊長なんですよ~」
「あ、だから海美ちゃん。一番に走って行ってステージを温めるから……」
藍子も海美のステージを見たことがあった。誰よりも走り、跳び、踊る姿。ステージの端でファンに呼び掛けたかと思えばすぐにセンターでダンスを披露し、あっという間に反対側へ駆けていく。
「皆で協力して、相手の王さまを倒せば勝ちですよ~」
将棋の勝ち負け、アイドルの勝ち負け。ふと藍子の頭にある悩みが浮かぶ。
「私と美也さんも、この将棋みたいに……争うことになるのかな?」
藍子と美也は近しいキャラクターを持っている。そうであれば、1つの仕事を取り合うこともあるだろう。
「そうかも知れませんね~」
藍子の口から零れた言葉を聞いても、美也は柔らかな表情を崩さない。
「そうなったら私はどうすれば良いのかな……?」
「……こちらをどうぞ~」
美也が指差す先、藍子にはただ駒が並んでいるようにしか見えない。
「囲いとか矢倉って言って、皆で王さまを守っているんです。王さまがやられると、負けですからね~」
そう言いながらぱちぱちと先手後手の駒を動かしていく。
「仲間がやられた穴を皆でフォローして……」
かけた陣形を埋めるように駒を動かす。
「時には仲間がライバルになったり、その逆だったり……」
取った駒を打ち込み、打ち込まれ。
「そうやって競い合っていくんです~」
藍子は黙々とそれを眺めていた。
「そうして前に進んだら……」
歩兵が三段目に進入すると駒を裏返す。
「金になります~。ぴかぴかですね」
将棋は特定の駒を除き、成ることができる。長い道の先で昇格するのだ。輝く金、空を駆ける龍へ。
「前へ進む藍子ちゃんに、誰もダメなんて言いませんよ~。私も応援しちゃいます~」
「美也ちゃん……」
将棋盤の上では既に決着がついていた。後手、藍子側の駒が美也の王将に迫り、王手をかけている。
「でも、私も負けませんよ?一人じゃダメなんです。仲間がいて、それから競い合う人がいて……だから私たちはアイドルとして進めるんだと思います~。それに……」
そうして勝負がついた駒たちをまとめていく美也。
「勝負が終わればまた同じところに帰って来て、混ざって、また新しく始まるんです」
さっきは向こうにいた駒が、次はこっちにいるかもしれませんね。そう言って美也は笑う。
「美也ちゃん、私も美也ちゃんに負けません。だから、これからもよろしくお願いします」
「ふふっ、これからも頑張りましょうね~」
外は日が傾き始めている。もう随分と長い時間、盤を挟んで向き合っていたらしい。
「でも、その前にご飯にしましょ~」
二人は揃って立ち上がり、台所に肩を並べる。さきほどずっと空気が和らいだように感じられた。
きっと二人はこれからも肩を並べて歩くだろう。時には向き合い、背を向けて、別の方向を見る。競い合い、ぶつかって、それが終わればお互いがお互いの次の始まりの場所になる。そんな関係でありたいと心に秘めながら。
「美也と藍子の将棋のこと」終わり
ハッピーバースデー美也!
ということで美也と藍子のssでした。
美也の行く道がハッピ~でありますように。
美也のアイドル観いいね
乙です
ミリオンライブより
宮尾美也(17) Vi
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シンデレラガールズより
高森藍子(16) Pa
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いいね、アイドルに例えていくのわかり易かった
なごむコンビだのう…
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