回復した。嘘偽り無く全快して、アイドル活動も再開できた。
レッスンをこなして、モバP(以下「P」)さんからもらったお仕事もしっかりやって。
謝る人には謝って、復帰祝いをしてくれた人にはお礼を言って、以前までの日々が戻ってきた。
それなのに、私はまだスマートフォンを手に取っていない。
いつもの場所で――たった7文字を思い浮かべるだけで、おなかが痛くなる。
……。
…………。
高森藍子「加蓮ちゃんが全然誘ってくれなくて、寂しくなったのでお邪魔することにしました♪」
北条加蓮「……つくづく思うけどアンタ、私のことが好きすぎない?」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第47話(その2)です。もう少しだけ、加蓮の部屋よりお送りします。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ちょっと疲れた日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春風のカフェテラスで」
・北条加蓮「……」高森藍子「……加蓮ちゃんと、桜の日の夜に」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「静かな部屋で」
――加蓮の部屋――
藍子「お布団、変えたんですね」
加蓮「ちょうど春夏用にしたかったし、あの布団で寝るのはもう飽々だもん」
藍子「加蓮ちゃん、ずっと外に出たい出たいって言っていましたよね……」
加蓮「ぽーてーとー」
藍子「はい、ちゃんと買って来ていますよ」スッ
加蓮「やたっ。さすが藍子! いただきます!」パクー
藍子「2人分を買ってきたんですよ。私も頂きます。あむっ。……あうぅ、やっぱりしょっぱい」
加蓮「うまうまー。やっぱりポテトはこーでなきゃ。揚げたてパリッと塩味強め!」
藍子「前にも言いましたけれど、この味は私には強すぎるみたいです……」
加蓮「健康志向なんていらない。そんな人はジャンクフードを食べるなー。お腹をぶっ壊してこそのポテト!」
藍子「…………」ジトー
加蓮「……待って藍子。いや、もう全快してるから。ホントのホントにだから」
藍子「それは分かっていますけれど……。反省、していますか?」
加蓮「逆に私が反省することってなくない?」
藍子「は?」
加蓮「えちょっと待って? 今の声どっから出したの!?」
藍子「……………………」
加蓮「いや……いや、あのね? ちょっと聞いてよ。冷静に考えたら私が反省することなんて何もないって気づくから」
藍子「そうなんですか? 話してみてください」
加蓮「だってさ、無理……はちょっとしちゃったかもしれないけど、体調を崩したのは私のせいじゃないし」
加蓮「寝込んでからも、ちゃんと大人しく……はしてなかったかもしれないけど、こうして回復まで持っていけたんだし」
加蓮「その間にもわがままを言って困らせ……たかもしれないけど、」
藍子「反省することいっぱいあるじゃないですか!」
加蓮「あ、あははー。それよりほら、ハンバーガーは? ハンバーガーは無いの?」
藍子「買ってきていますよ。どうぞ」
加蓮「中身は」
藍子「照り焼きですっ」
加蓮「藍子」
藍子「はい」
加蓮「愛してる」キリッ
藍子「ごめんなさい」キッパリ
加蓮「冷たっ!?」
藍子「…………」ジトー
加蓮「き、機嫌直してよ。ほらこれ、照り焼き。照り焼き一口あげるから」
藍子「あむっ。…………」ジトー
加蓮「まだ膨れてる!? おかしい。ハンバーガーとポテトを食べれば人類皆平和になるハズなのに。こんなことはありえない」モグモグ
藍子「すごい世界ですね、それ」アムアム
加蓮「藍子のは何ー? あぁ、レタスたっぷりの……。健康志向なんて、」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「すみません私が冗談を言う度に部屋の気温を下げるのやめてくださいホントごめんなさい」セイザ
藍子「……もう。こっちも食べますか?」
加蓮「ひとくち」アーン
藍子「はい」スッ
加蓮「あむっ」
加蓮「ん……。これもこれで美味し。そしてレタスの後に照り焼きを食べるともっと美味しい」アムアム
加蓮「たまにはヘルシーなのもいいかなぁ。ジャンクフードってお腹をぶっ壊せるってところも好きなんだけどね、私」
藍子「あ、私も照り焼きもう一口くださいっ」アーン
加蓮「はいはい」スッ
藍子「あむっ」
加蓮「なんか急に部屋がお肉臭くなってくー。あとで窓を開けなきゃ」
藍子「モグモグ……ごくん。今日は風も穏やかで、とても暖かいんですよ。おひさまを浴びてみるのもいいかもっ」
加蓮「そっか」
藍子「どうしても気になったら、リビングに移動しちゃってもいいかもしれませんね」
加蓮「リビングでもいいけど面倒くさいお母さんがいるからパス。藍子といる時いっつも私を見てニヤニヤ笑ってるもん」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「そーそー。あとほら、テレビでさ、私がいなかった間のLIVE映像とか見てたら身体がうずうずしだすかもしれないから」
藍子「それはダメですね」
加蓮「ダメだね。せっかくだしここでゴロゴロしよーよ」
藍子「そうしちゃいましょうか」
加蓮「ごろごろー」
藍子「ごろごろ~」
加蓮「……いや、さっきから行儀よく正座したまんまじゃん、藍子」
藍子「それを言うなら加蓮ちゃんだって、足を伸ばして座ったままになってますよ」
加蓮「口で言っとけばそれっぽくなるかな? って」
藍子「なら、私もそんな感じでっ」
加蓮「藍子の前で無防備なところを見せたら襲われそうだし?」
藍子「襲ったりなんてしませんよ……」
加蓮「藍子みたいな子こそ実は」
藍子「実は?」
加蓮「……今思ったけど"藍子みたいな子"ってすごくややこしくない? ほら、"子"って続いてるから」
藍子「確かに、聞いただけだと変なことになっちゃいそうですね」
加蓮「ねー」
藍子「ですねっ」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「あー……」
加蓮「……とりあえず、ごちそう様でした」パン
藍子「私も、ごちそう様でした」ペコッ
加蓮「久々のハンバーガーとポテト。照り焼きにレタスにしょっぱいポテト。これであと100年は生きていける」
藍子「本当に好きなんですね、ハンバーガーとポテト」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……今日は、加蓮ちゃんに聞きたいことがあって来たんです」
加蓮「うん」
藍子「ううん。聞きたいことじゃありません。問い詰めちゃいます。加蓮ちゃんに問い詰めることがあるんです」
加蓮「……まぁだいたい想像はしてる。何?」
藍子「どうしてカフェに誘ってくれないんですかっ」
加蓮「藍子から誘われるのを待ってたから。これじゃダメ?」
藍子「ダメです」
加蓮「手厳しいなぁ」
藍子「……この前の……加蓮ちゃんが調子を崩した日から、私、しばらく加蓮ちゃんを見ていたから」
藍子「加蓮ちゃんがどういう時に嘘をついて、本音をごまかしているのか、少しだけ分かった気がするんです」
藍子「本当になんとなくで……こういう動作をしている時、とか、そういう説明はできないと思いますけれど、でも」
藍子「嘘をついている時は、前よりずっと、はっきり見えるようになれた……ハズです」
加蓮「そこで"筈"って付け加える辺りが藍子だよねー」
藍子「やっぱり、自信ってなかなか持てませんから。加蓮ちゃんがうらやましい……」
加蓮「私は藍子の方が羨ましいけどね。いつだって前に前に進もうとしてて、実際進んでて」
加蓮「私なんていつもいつも後ろばっかり見てるし、前を向いててもフリをしているだけで後ろ歩きになっちゃってるし」
藍子「だから私が背中を押すんです。ぐい、って」
加蓮「ぐいって」
藍子「ぐいーっ、って!」グイー
加蓮「肉臭い部屋から追い出そうとするなー。そっちは窓だー」
藍子「外の新鮮な空気を吸いましょうっ」
加蓮「今日はごろごろするって決めたー」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「…………で、言いたかったことは何? なんか問い詰めたくて来たんでしょ?」
藍子「どうして、カフェに誘ってくれないんですか?」
加蓮「……、……」
藍子「……」
加蓮「……だいたい分かってるでしょ」
藍子「加蓮ちゃんの口から教えてください」
加蓮「あんまり話したくないんだけど」
藍子「前に"カフェで"言ってたじゃないですか。想うだけで伝わるのも寂しいって。やっぱり、気持ちは口にして伝えたいって、そう言ったのは加蓮ちゃんですよ?」
加蓮「ったく……。そこ強調するのは何? 嫌味?」
藍子「私なりの、せいいっぱいの皮肉です」
加蓮「下手くそ」
藍子「へたくそだって、へたくそなりに頑張るんです」
加蓮「……ホント、何その前向きっぷり。羨ましいのを通り越して恨めしくなるよ。何もかもが嫌がらせに見えてくるんだけど」
藍子「嫌がらせに見えるのなら、見えないようにしてください」
加蓮「は?」
藍子「私にそんなつもりはありません。……加蓮ちゃんにも、それは……伝わっているって、信じています」
加蓮「…………アンタさ」
藍子「何ですか? 加蓮ちゃん」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……。別に……。約束するのがちょっと怖くなった。それだけのことだよ」
藍子「……そうですか」
加蓮「だって、やらかしたんだし。次に同じことがあったらって思ったら嫌になるでしょ。それだけのことだよ。悪い?」
藍子「悪くないです」
加蓮「そ」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……何を言いに来たの? 何も言うことがないなら、帰ってほしいんだけど」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……、……」
藍子「……」
加蓮「……あーもー! シリアスモード終了! 終わり!」バッ
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「いやもう……何度か見てきてるし今更かもしれないけど! 藍子の、泣くのを堪えてじっと見てくる目を見るのって結構しんどいんだよね。しかも原因私だし」
加蓮「私の為にそこまで頑張らせるのもあんま好きじゃないもん。……や……嬉しいは嬉しいかもしれないけど……もっと別のところで無理をしてほしいっていうか、そもそも無理をしてほしくないっていうか」
加蓮「あと意地を張っても無駄だって知ってるし! 藍子だもんね、どーせ心にずけずけと乗り込んで引っ掻き回して荒らしていくに違いない!」
藍子「ず、ずけずけって言い方はやめてくださいっ」
加蓮「だって事実でしょ?」
藍子「うぅ……その……それはそうかもしれませんけど」
加蓮「ね」
藍子「そ、それを言うなら加蓮ちゃんだってっ。もう終わったことなのに、いつもつんつんしてて……」
加蓮「うんうん」
藍子「いつも、私をじっと睨みつけてきて……」
加蓮「それでそれで」
藍子「…………」
加蓮「続きは?」
藍子「……いじわる~~~~~!」ポカポカ
加蓮「ちょ、こら、ぽかぽかしてくんなっ。こらっ。……地味に力強くなったね!? マジで痛いんだけど!?」
藍子「あ、ごめんなさいっ」バッ
加蓮「……あー、痛かったなぁ。藍子のパンチすごく痛かったなぁ。これはハンバーガー追加でオーダーしないと」
藍子「こ、今度買ってきますから許してくださいっ」
加蓮「しょうがないなー。許しちゃおう」
藍子「ほっ……」
加蓮「……あははっ」
加蓮「ごめんね?」
藍子「え?」
加蓮「また明日って言えば明日は来るし、週末に遊ぼうって言えば週末は来るし、月末に約束すれば月末は来る」
加蓮「知ってたけどさ……藍子に教えてもらったことだけどさ。それでも、ちょっとだけ躊躇っちゃった」
加蓮「ちょっとじゃないや。なんか、スマフォが打てなくなっちゃったもん。これって結構重症だよねー」
藍子「それは重症ですね……」
加蓮「ここだけの話、未読スルーしちゃったメッセージがいっぱいある」
藍子「あはは……。誤解されないように、後で返信してあげてください」
加蓮「そーする」
藍子「隣で見ていますから」
加蓮「えー。いいよ、子供じゃないんだから」
藍子「いつまでもつんつんしている加蓮ちゃんなんて、子どもと同じだと思いますっ」
加蓮「こんな子を捕まえておいて子供扱いなんてっ。お前はいくつだーっ」
藍子「きゃーっ。同い年ですっ」
加蓮「あははっ」
藍子「……ふふっ」
加蓮「誘えなくてごめんね、藍子」
藍子「ううん。いいですよ、加蓮ちゃん」
加蓮「弱気になっちゃってごめん」
藍子「そういう時もありますよ。それに、最近の加蓮ちゃん、本当に謝ってばっかりですね」
加蓮「あ……。あはは。またやっちゃった」
藍子「加蓮ちゃんの気持ちも、分かりますけれど……」
藍子「さっき加蓮ちゃん、自分は後退してばっかりだって言っていました。謝ってばっかりだと、本当に後ろ歩きになっちゃいますよ?」
加蓮「かもね……」
藍子「加蓮ちゃん。色んな人に、ごめんなさい、って謝っていましたよね」
藍子「確かに、加蓮ちゃんはモバP(以下「P」)さんや事務所のみなさん、現場のスタッフさんに、迷惑をかけちゃったかもしれません」
藍子「でも、謝った後に加蓮ちゃんを許してくれなかった人はいましたか?」
藍子「もし……本当にもし、いたとしても、そんなにたくさんいましたか?」
加蓮「……ん……」
藍子「アイドルって厳しい業界だと思います。ミスを、取り戻せない時だってあります」
藍子「落ちちゃったオーディションは取り返せません。別の埋め合わせをしても、足りない時だってあるかもしれません」
藍子「でもそれはアイドルのお話です」
藍子「……私は……あなたのことを、アイドル仲間で……そして、同じ16歳の友だちだって思ってます」
加蓮「…………」
藍子「加蓮ちゃんは私よりずっとアイドルっぽいアイドルです。自分に厳しくなっちゃうのも分かりますし……あと、体験談とかもあるのかもしれません。それでも」
藍子「たった1度の約束を破られただけで、もうずっと許さない、なんてことは絶対にありませんから」
藍子「私が、加蓮ちゃんに許せないことがあったとしたら」
藍子「"私が加蓮ちゃんを許さないって思い込んでいること"そのものですっ」
藍子「……いつも、約束をすごく大事にしますよね。そんな真面目な加蓮ちゃんは、すごい人だと思いますよ」
藍子「それでも、必要以上に自分を傷つけるのは、やめにしちゃいましょう」
藍子「……ねっ?」
加蓮「……、……ねえ、藍子」
藍子「はい。何ですか、加蓮ちゃん」
加蓮「愛してる」
藍子「ごめんなさい」ペコッ
加蓮「やっぱり冷たいっ!?」
藍子「カフェに誘ってくれない加蓮ちゃんのことなんて大っ嫌いです」
加蓮「え、ここまで言って最後にそれ!? つまり私が嫌いって言いたかっただけ!?」
藍子「あはっ♪」
加蓮「わ、私だって藍子のことなんて大っ嫌いだし!」
藍子「えー。それは残念ですっ。私は加蓮ちゃんのことが大好きなのに」
加蓮「ぐぬぬ……」
□ ■ □ ■ □
藍子「ここに2つのお茶があります」
加蓮「うん」
藍子「片方は、私が淹れたお茶です。もう片方は、加蓮ちゃんのお母さんが淹れたお茶です」
加蓮「……仕切り直しとか言いながらどっか行って、戻って来たら……。これが目当てか」
藍子「もし、外しちゃったら――」
加蓮「は、外したら?」
藍子「そうですね~……。そういえば、加蓮ちゃんのお母さんが、今度の加蓮ちゃんのオフの日、1日遊びたいって言ってました♪」
加蓮「な……っ!? お、お母さんと1日!? やだよお母さん色んなところに買い物連れ回してくるし私を着せ替え人形にするし!」
藍子「……加蓮ちゃんもだいたい同じことをやっていませんか?」
加蓮「気のせい!」
藍子「クリスマスのディナー以来、誘ってくれない、って寂しがっていましたよ~」
加蓮「むしろお母さんの方が私をほったらかしにしてたじゃん! 勝手に家を空けたり親戚とショッピングしたり!」
加蓮「てか親戚の高校生の子のコーディーネートとか! そういう話なら私を誘ってよ!!」
藍子「着せ替え人形にするのは嫌だってさっき、」
加蓮「するのは好きだもん!」
藍子「加蓮ちゃんのお母さん、加蓮ちゃんがずっとお仕事をしていて、放っておかれたことに拗ねちゃったから意地悪したらしいですよ♪」
加蓮「子供か!」
藍子「そのお話を聞いた時、加蓮ちゃんと加蓮ちゃんのお母さんって似ているんだな、って思っちゃいました」
加蓮「一緒にするなっ」
藍子「加蓮ちゃんもよく拗ねちゃうじゃないですか」
加蓮「そこだけでしょ!?」
藍子「それより、お話をしていたらお茶が冷めちゃいますよ。はい、どうぞ」スッ
加蓮「くそう。絶対に当ててやる。お母さんに振り回されるくらいなら藍子と1日カフェでだらだらしてや――」ハッ
藍子「……! ……♪」ニコッ
加蓮「……アンタこれを言わせたかっただけでしょ!?」
藍子「えへ♪」
加蓮「こ、こんのぉ……」ワナワナ
藍子「か、顔が怖いですよ加蓮ちゃんっ」アトズサリ
藍子「でも、さすが加蓮ちゃんのお母さんです。加蓮ちゃんのこと、お見通しなんですね」
加蓮「入り知恵か! 余計なことを!」
藍子「私だって寂しかったんですからね。加蓮ちゃん、ぜんぜん誘ってくれなかったから」
加蓮「……! …………!! ……!!」ワナワナ
藍子「わ、わぁ……。加蓮ちゃん、顔が真っ赤になってて、目もすごく怖いですっ」
加蓮「……。……もう、なんかいろいろすっごく疲れた」グテ-
藍子「大丈夫ですか? 病み上がりですから、無理はしないでくださいね」
加蓮「無理をさせてるのはいつもいつもアンタだ……。アンタらだ……」
加蓮「ハァ……。どうせどっちも2人で淹れたお茶でしょ。種類が違うとか時間が違うとかそんなんでしょ、これ」
藍子「あぅ。やっぱり、加蓮ちゃんのお母さんと加蓮ちゃんはそっくりです」
加蓮「……まぁお母さんの娘だし私。もしかして、それを見抜くところまでお母さんの掌の上だったりする?」
藍子「加蓮ちゃんなら見抜けるかも? とは予想していたみたいですね」
加蓮「まだまだ娘だなぁ、私。ま、ずっとそっか」
加蓮「お茶、頂きます」ズズ
藍子「はい、どうぞ」
加蓮「ごくごく」
藍子「……美味しいですか?」
加蓮「ん……」ゴクゴク
加蓮「だいぶ渋く淹れたんだね。これは藍子好みの味って感じがする」
加蓮「……でもこの味、私も結構好きかも。なんだか落ち着けるっていうか、安らげるっていうか……」
藍子「良かった♪ もう片方は、加蓮ちゃん好みの味にしてみたんですよ。後で飲んでくださいね」
加蓮「はーい」
藍子「……」ジー
加蓮「ん?」
藍子「あ、ううん……なんでもないですっ」
加蓮「……? そういえばさ。私に誘われなくて寂しいって言うなら、藍子の方から誘ってくれればよかったのに」
加蓮「ほら、いつだっけ。よくわかんないけど藍子が膨れてた時みたいに……って藍子はいつも膨れてるか」
藍子「そ、そんなに私、いつも膨れてますか?」
加蓮「膨れてる。ぷくーって」
藍子「そんなことないですよ~。……たぶん」
加蓮「そう?」
藍子「誘われたかったんです。加蓮ちゃんの方から」
加蓮「そーなんだ……」
藍子「特に理由なんてありませんよ。なんとなく、ですっ」
加蓮「そっか」
藍子「はいっ」ズズ
加蓮「……」ズズ
藍子「あ、あれ? ……ああ~っ! これ、加蓮ちゃんの為に淹れたお茶なのに! つい無意識で……!」
加蓮「うくくっ……今、すごく自然に手が伸びたね」
藍子「あうぅ。淹れ直して――」
加蓮「いーよいーよ。こっちが藍子好みの味。で、そっちが加蓮ちゃん好みの味」
加蓮「ね? いつも通りを交換したみたいで、なんか良いじゃん」
藍子「……いいんですか?」
加蓮「いいんです。せっかくだし」
加蓮「でも、お茶ってやっぱり飲みやすい味に限るよねー。さっと飲んで、お菓子もささっと食べて。そしたらまた、頑張ろうって気になるし」ズズ
藍子「む。お茶は渋くて濃い味がいいに決まってますっ。その方が、飲んでいて穏やかになれますから」ズズ
加蓮「ババ臭ー。そーいうのは50歳をすぎたおばあちゃんがやればいいんだよ。私達まだ16歳じゃん」ズズ
藍子「渋いお茶が好きな16歳がいてもいいじゃないですかっ。せっかく淹れてもらったお茶をさっと飲んじゃうなんて、もったいないです!」ズズ
加蓮「レッスンの合間休憩に1時間もかけてたら、時間なんてあっという間になくなっちゃうでしょ?」ズズ
藍子「本番が近い時ならそうかもしれませんけれど、そうじゃない時は休憩時間が長くてもいいと思います。あんまり根を詰めすぎたら、疲れだって取れなくなっちゃいますよ」ズズ
加蓮「そもそもお茶よりジュースの方が好きだなー私」ズズ
藍子「ジュースにはジュースの良さが、お茶にはお茶の良さがあるんです~」ズズ
加蓮「えー、やっぱり年寄りっぽくて嫌だよ」ズズ
藍子「せめて大人っぽいって言ってくださいっ」ズズ
加蓮「むー。……あ、ごちそう様でした。美味しかった~♪」コト
藍子「むぅ。……ごちそう様でした。いつもとは違う味のお茶も、新鮮でいいですね」コト
加蓮「文句言いながら飲んでるじゃん、藍子」
藍子「加蓮ちゃんだって」
加蓮「あー……あははっ。ま、それとこれとは別ってことで?」
藍子「ふふ、そうしちゃいましょうか」
加蓮「部屋もだいぶ元通りの臭いになってきたね」
藍子「ハンバーガーとポテトの包み、下に捨てておいて正解でしたね」
加蓮「ああいうのって置いたままにすると臭いがエグくなるからね」
加蓮「前にさー、スクールバッグの中に入れっぱなしで忘れた時があったの。どうなったと思う?」
藍子「ど、どうなっちゃったんですか?」ドキドキ
加蓮「それはもう」
藍子「それはもうっ」
加蓮「迷わず次の日に買い替えた」
藍子「そこまで!?」
加蓮「無理。あの臭いを振りまきながら登校するJKとか無理だから。ホント無理」
藍子「確かに、加蓮ちゃんのイメージではなくなっちゃいそうです」
加蓮「これでもミステリアスガールとして通ってますから♪」
藍子「謎多きクラスメイト、なんてっ」
加蓮「……まー実際のところよくポテトの差し入れもらっちゃうんだけどね。誘われたりもするけどね」
藍子「あ、あはは……。でも、謎多きクラスメイトのままじゃ、ミステリアスではあるけれど近づきにくくなっちゃいます。仲の良い子もできなくなっちゃいそうですから」
加蓮「変にキャラを作らなくて済むのが楽ではあるよね。テキトーにやってる方が、肩の力も抜けて良い感じだし」
藍子「自然体でいられるのって、とっても大切なことですよね」
加蓮「ホントホント。アイドルとしてはやっぱある程度はキャラを作らないと……って、藍子ならそういう心配もいらないか」
藍子「どうでしょう。私も、アイドル活動をしている時は少しだけ強張っちゃうかな……? 今でも、慣れないことはいくつかありますから」
加蓮「そっか」
藍子「あまり意識しすぎると、自然体の私って何なのかな? なんて考え込んでしまって……自分を、見失いそうになります」
加蓮「哲学っちゃうよねー」
藍子「Pさんも、それはよくないって前に言っていました」
加蓮「あんまり悩みすぎると藍子が藍子じゃなくなりそうだもん。今の藍子だから、Pさんも好きなんだよ」
藍子「す、好きなんてそんな……」
加蓮「ん? そーいえばこの前Pさんが藍子のことで何か言ってたなー。確かー……聞きたい?」
藍子「っ~~~~~! だ、ダメです……ああでもすっごく気になります!」
加蓮「ひひひっ」
藍子「ううぅ~……」
加蓮「まあ今度本人から直接聞いてみるといいよ。そんなに言えないことでもないだろうし、むしろPさんなら意識せずにさっと言うだろーし」
藍子「は、はい。そうしますね……」
加蓮「そこを意識せずに言う辺りが逆にアレなんだけどねー」
藍子「Pさん、ときどきすごいことをさっと言っちゃいますよね」
加蓮「ねー。こっちの気も知らないで」
藍子「どきどきしちゃってるのにっ」
加蓮「乙女心の知らぬ鈍感ものめ」
藍子「ほんのちょっとだけ、気付いてほしいなっ」
加蓮「ふふっ」
藍子「あはっ」
藍子「……自然体……」
加蓮「ん?」
藍子「いいえ。お話はPさんから加蓮ちゃんのことに変わりますけれど……それが答えなのかな、って思いました」
加蓮「答え……?」
藍子「考え込みすぎないで、思ったままに。気張らないで、肩の力を抜いて。何事だってその方が楽ですよね」
藍子「1つの答えなんだと思います。何の答えかは……説明が難しいんですけれど」
加蓮「……なんとなく言いたいことは分かるよ。そっか。そうなのかもね」
藍子「伝わりましたか?」
加蓮「たぶん。こう、自分の中で存在が大きくなりすぎるのも大変なのかなって、ちょっとだけ思った」
藍子「ふんふん」
加蓮「相手が大切であればあるほど、どうしても気張っちゃうから、当たり前のことすらなかなか言えなくなる」
加蓮「でも軽い気持ちにはなりたくない。1つのジレンマだね」
藍子「難しいお話ですね……。でも……だから、って訳じゃありませんけれど、私はここに来たのかもしれません」
加蓮「……そか」
藍子「帰れって言っても、絶対帰りませんから!}
加蓮「はいはい、もう言わないって。っていうかもう諦めてるし」
藍子「諦めさせることができちゃいました♪」
加蓮「喜びポイントおかしいでしょ、それ」
加蓮「……あ」
藍子「?」
加蓮「もしかしたらそういうところ、私達はPさんを見習うべきかもしれないね」
藍子「自然にすごいことを言えちゃう、ってところですか?」
加蓮「うんうん。単にPさんが鈍感なだけ……いや実際そうだと思うけど、でもそれもそれですごいことなのかもしれないね」
藍子「確かに。Pさんこそ、事務所で一番自然に、のびのびとお仕事をされている方かもしれません」
加蓮「今度コツとか聞いてみよーっと」
藍子「あ、私も同伴させてくださいっ」
加蓮「ねぇ、藍子」
藍子「はい、加蓮ちゃん」
加蓮「また休みが重なったらさ、いつものカフェでのんびりしようよ」
藍子「はーいっ♪」
加蓮「……ふうっ」
加蓮「簡単に言えたー♪」エヘ
藍子「言えちゃいましたねっ」
加蓮「それまでにまた、藍子をからかえるネタをいっぱい用意しなきゃ」
藍子「それは用意しなくていいですっ」
加蓮「だって話が途切れると気まずくなるだけだし」
藍子「もう気まずくなんてなりませんよ。きっと」
藍子「どうしても静かな時間が嫌なら、私が何かお話をしますから」
加蓮「やだ。私が話したいもん」
藍子「それなら私は加蓮ちゃんのお話を聞きますね。楽しい話題を、楽しみにしてますっ♪」
加蓮「そっか。……さーてどうやってからかって、」
藍子「えい」ペチ
加蓮「うぎゃ」
藍子「……む~」
加蓮「……たははっ」
藍子「ふふっ」
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
おつですー
おつおつ。
やっと雰囲気がゆるふわに戻ってきましたね。
次回も楽しみにしています。
ちんちんぶらぶら
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