――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「テラス席、解禁!」
高森藍子「今日の加蓮ちゃんは元気いっぱいですね!」
加蓮「地味に楽しみにしてたんだよねー。最近ようやく暖かくなってきたし。ん~~~~!」ノビ
加蓮「室内の席もさ、カフェにいる感じー、って、ゆっくりできるし、暖炉式ストーブとかあって暖かいけどさ、私はやっぱこっちの方がいいかなぁ」
藍子「ここは、自然に包まれている感じがして……おひさまも、ぽかぽかしていて……♪」
加蓮「太陽の光が包んでくれて……」
藍子「つい、ふわぁ、って……」
加蓮「瞼が、重たくなって……」
藍子「……」
加蓮「……zzz」
藍子「……zzz」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第45話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「1月のカフェで」
・北条加蓮「カフェに1人で来た日の話」
・高森藍子「カフェで加蓮ちゃんを待つお話」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ちょっと疲れた日のカフェで」
……結構な間、寝ていましたとさ。
藍子「加蓮ちゃん加蓮ちゃん。私、やりたかったことがあるんです」
加蓮「なになに?」
藍子「桜餅を食べましょう!」
加蓮「桜餅?」
藍子「今日ずっとこれを楽しみにしていたんです! 限定メニューの――」パラパラ
藍子「…………」パラパラパラパラ...
藍子「ない……」
加蓮「どれどれ? 今の限定メニューは、春野菜&ツナのパスタと桜いちごのパフェ……」
藍子「……」
加蓮「……ドンマイ」カタポン
藍子「……」シクシク
加蓮「そんなに食べたいならどっか買いに行く?」
藍子「イヤです。このカフェの桜餅は、このカフェにしかないんです」
加蓮「ふーん」
藍子「去年は確かに桜餅で……桜餅なのに桜餅っぽくなくて、でも桜餅で……」
加蓮「……どういうこと?」
藍子「桜餅だったけど、桜餅っぽくなかったんです」
加蓮「つまり」
藍子「オリジナルの桜餅だったんです!!」クワッ
加蓮「そう……」
藍子「ここでしか食べられない桜餅だったんです!!!」クワッ!
加蓮「……藍子ちゃーん? 気持ちは分かったから落ち着こ? ね? ほら周りに人……はこっち見てないけど、鳥とか動物とかこっち見てる気がするよー?」
藍子「はっ」
藍子「……ううぅ」キョロキョロ
加蓮「はいはい、誰も見てない見てない」
藍子「……加蓮ちゃんが見てる」
加蓮「あーちょっと寝癖がついてるからトイレで直してくるねー」ガタッ
……。
…………。
加蓮「ただいま。で、落ち着いた?」
藍子「はい。……ごめんなさい。つい、興奮しちゃって」
加蓮「いーよいーよ。そんなに食べたいなら店員さんに言ってみる? 前にメニューにあったんだったらレシピとか――」
藍子「ダメですよ。カフェが出さないって決めたメニューに、私がわがままを言っちゃダメです」
加蓮「そう?」
藍子「それは、常連客失格ですから」
加蓮「そっか」
藍子「はいっ」
加蓮「藍子は真面目だなー。私ならわがまま言っちゃうかも」
藍子「…………うぅ、食べたかったなぁ……」
加蓮「って結局未練タラタラじゃん」
藍子「ぅ~……」
加蓮「まったく。帰りに何か奢ってあげるから元気出しなさいって」
藍子「…………」
加蓮「ずっとしょんぼりしてるばっかりの藍子なんて、萎れたお花を見ているみたいでイヤだよ」
藍子「……、……約束ですよ?」
加蓮「はいはい」
藍子「じゃあ……楽しみにしちゃいますね」
<ブルルルル
<ブルルルル
加蓮「ん? メールだ」
藍子「あれ? 私も……」
加蓮「ってことは一斉送信かな? モバP(以下「P」)さんからだったりして」
藍子「事務所の皆さんに送っているのかもしれませんね。見てみましょうっ」
加蓮「どれどれー」
藍子「ふんふん……あれ? 未央ちゃんからだ」
加蓮「ホントだ未央だ。えーと?」
藍子「"春だ! 桜だ! 大花見計画だ全員集合っ!!"?」
加蓮「……何につられたんだろーね、このタイトル」
藍子「あはは……」
藍子「これ、お花見のお誘いみたいですね。それも、事務所のみんなでって書いてありますっ」
加蓮「みんなって……よくスケジューリングできたね。いや、それをやってのけるのがPさんか」
藍子「未央ちゃんも協力したみたいですよ。ほら、"私とプロデューサーで休日をもぎとった!"だって。ふふっ」
加蓮「さっすが未央。あの2人が組んだら敵なしだね」
藍子「Pさん、未央ちゃんとコンビを組んでいる時はすっごく活き活きしていますよね」
加蓮「そんな未央がちょっと羨ましい?」
藍子「……そ、それより続きを読んでみましょう」
加蓮「図星」
藍子「"なんと豪華プレゼントも用意してるよ~! プレゼント・バイ・プロデューサー!"……Pさんのお財布、大丈夫かな……?」
加蓮「やれやれって顔が目に浮かぶね。お花見かー。藍子、どうする?」
藍子「それはもちろんっ」
加蓮「参加します、っと」
藍子「はい!」ポチポチ
加蓮「あ、そうだ。どうせだから写真も送っちゃおっか」
藍子「写真?」
加蓮「そ、写真」(立ち上がって藍子の方へ行く)
加蓮「えいっ」グイ
藍子「ひゃっ?」
加蓮「ぱしゃっ、と」パシャリ
加蓮「"2名様参加よろしく~!"っと。はい送信」ポチポチ
藍子「もうっ。急に抱き寄せられたらびっくりしちゃいますよ……ってもう送信しちゃってる。私、変な顔になってませんでした?」
加蓮「変な顔じゃないよ。びっくりしてる顔だったけど」
藍子「どうせ送るなら、もうちょっと笑顔の――」
加蓮「寝起きの加蓮ちゃんに気を抜いてアホ顔になってる加蓮ちゃんにご飯を食べてる加蓮ちゃんと撮りまくってる自称専属カメラマンさんに文句を言う権利はありません」
藍子「…………あ、あは」
加蓮「Pさんに横流しするのホントやめよ?」
藍子「ほ、本当に見せちゃダメな写真はこっそりしまってますから」
加蓮「今並べたのぜんぶ見せてほしくないんだけど。で、いくらもらってんの?」
藍子「それはないですよっ」
加蓮「それは」
藍子「……あっ」
加蓮「つまり別の何かをもらっている」
藍子「……き、今日はあたたかいですね~。春がようやく来たって感――」
加蓮「…………」ジトー
藍子「…………」アセダラダラ
加蓮「……ん? もう返信来た。早っ」
藍子「!」ホッ
加蓮「"2名様確保~! かれん、いい加減にあーちゃんを返しなさーい!!"。……ふむ」
加蓮「"返してほしければ奪ってみなさい"っと」ポチポチ
藍子「あぁ、なんだかお話が大きくなっていく予感……」
加蓮「さて藍子。写真の件――うわっホント返信早! "ならばあーちゃんを賭けて花見LIVEバトルだよ!"」
藍子「またこのパターンになっちゃうんですね。加蓮ちゃんのことだから――」
加蓮「"そう来ると思ったよ。どうせなら茜にも声をかけといてね"よしっ」ポチッ
藍子「ですよね……。いつもいつも、私を勝手に景品にしないでくださいよ~」
加蓮「今こそアレを言うチャンスだよ。ほら、マンガとかで定番のアレ」
藍子「定番の?」
加蓮「ほらほら、少女漫画とかによくある?」
藍子「えっと……あっ! わ、わたしのためにあらそわないでー」
加蓮「正解!」
藍子「やった♪」
加蓮「でも棒読みすぎるから獲得ポイントはゼロです」
藍子「残念ですっ」
加蓮「獲得ポイントに応じて加蓮ちゃんからの奢りが高級になっていきます。頑張りましょう」
藍子「頑張らなきゃ!」
加蓮「ところで写真の件――」
藍子「それで、またLIVEバトルするんですか?」
加蓮「逃げたな? ……まぁ、藍子を賭けてって言うなら、ほら……ね?」
加蓮「未央と茜が相手なら誰か味方につけときたいなぁ。藍子絡みでやる気が出る子って言ったら……やっぱ歌鈴かな?」
藍子「……ケンカ、しないでくださいね?」
加蓮「大丈夫。たぶん」
藍子「たぶん」ジトー
加蓮「……きっと」
藍子「きっと」ジトー
加蓮「…………最善を尽くします」
藍子「信頼がどんどん下がってる……」
加蓮「やったのは秘書です。私は存じません」
藍子「秘書って誰ですか?」
加蓮「……、……歌鈴?」
藍子「歌鈴ちゃんになすりつけちゃってるじゃないですか。怒られちゃいますよ?」
加蓮「真面目にやる時にはやるから大丈夫大丈夫」
藍子「お花見のイベント、1つ確保できちゃいましたね」
加蓮「あーあー、藍子はのん気でいいなぁ。こっちはガチなのに。ガチでバトらなきゃいけないのに」
藍子「そんなこと言って。いつも加蓮ちゃん、最後には未央ちゃんと楽しそうにしているじゃないですか~」
加蓮「そうだけど聞いてよ。ほぼ全敗だよ? いっつも負けてるんだよ私?」
藍子「それって、加蓮ちゃんが意地を張って、未央ちゃんと茜ちゃんの2人を相手しているからなんじゃ……」
加蓮「うん。だから学習した。こっちにも味方をつけなきゃって」
藍子「本当に本気なんですね。……それならせめて、私を景品にするのはやめてくださいよ。どっちの応援もできなくなっちゃいますから」
加蓮「やっぱり勝負って何か賭けとかないとね。燃えないじゃん」
藍子「むぅ。せめて別の何かなら……」
加蓮「やっぱ私1人でやろっかなぁ。勝てないからって味方を増やすのは何か違う気がするし」
藍子「聞いてくれない……。結局、1人でやっちゃうんですね」
加蓮「勝てないなら勝つまでやる! なーんてっ、たまにはそういうのも楽しそうかなって。私のキャラじゃないかな?」
藍子「……うぅ、加蓮ちゃんの応援をしたいのに未央ちゃんと茜ちゃんの応援もしなきゃ……」
加蓮「心の中だけでも応援してくれてるならそれでいいよ。あとは私の問題なんだし」
藍子「いいですけれど……でも、その……あはは」
加蓮「ん?」
藍子「ううん。私を賭けてのLIVEバトルなんて……どうしても勝ち抜かないといけない大舞台とかじゃありませんよね。でも、加蓮ちゃんにとってはすごく真剣な、一世一代の大勝負なのかなって」
藍子「そう考えたら、なんだか変な感じがしちゃったんです。……ごめんなさい、笑っちゃって」
加蓮「んーん。私だってずっと"変なの"って思いながら喋ってるし」
藍子「……困ったら、意地を張ってばっかりじゃなくて、周りにも頼っていいと思いますよ?」
加蓮「ん?」
藍子「ずっと負けっぱなしだと、加蓮ちゃんもしんどくなっちゃうかな、って……」
加蓮「じゃー藍子、私の味方をしてくれる?」
藍子「うぅ……し、真剣な目で見ないで下さい。無理だって答えるの、分かってるくせに」
加蓮「うん。知ってて聞いてみた」
藍子「いじわる」
加蓮「さーて誰に連絡しよっかなー。ガチで勝ちに行くなら愛梨かなぁ。でも藍子の為にって気合を入れるんだったら歌鈴の方が意気投合できるかなー。ねね、藍子。誰がいいと思う? 私とペアを組む相手」
藍子「もう加蓮ちゃん1人でいいんじゃないですか?」
加蓮「藍子が冷たい」
藍子「ふふ。冗談です♪」
藍子「加蓮ちゃんは、誰と一緒にLIVEがしたいんですか? やりたいって思う相手を優先しちゃっていいと思いますよ」
加蓮「いやいや。今は"誰とやりたいか"じゃなくて"誰とやれば未央・茜に勝てて藍子をゲットできるか"だから。そっち重要だし」メラメラ
藍子「め、目の中が燃えてる……!」
加蓮「夕美とか歌鈴をペアにして勝っても決勝戦とか起きそうなんだよね。奈緒や凛……どっちも白い目で見られそう。乗ってくれなさそう……それなら愛梨とか由愛ちゃんの方が……でも合わせられるかなぁ……」
加蓮「いいや。後で決めよっと。そういえば藍子の方には返信とか来てないの? ほら、未央から」
藍子「え? ……あ、ずっと前に来てますね。加蓮ちゃんが写真を送った直後くらいに」ポチポチ
加蓮「やっぱり」
藍子「ふんふん……。よかった。返信は必要なさそうです。未央ちゃん、すっごく楽しみにしているみたいですよ」
加蓮「よしっと。ん~~~っ」セノビ
加蓮「お花見かー。楽しみだなぁ……。真面目に参加したことってほとんどなかったし。ほら、仕事終わりにちょこっと寄ったくらいならあるんだけどさ」
藍子「私は、たまに皆さんと一緒に参加を。そういえば加蓮ちゃんがいたこと、ありませんでしたね」
加蓮「そそ。なんかタイミングが合わないんだよ~」
藍子「加蓮ちゃんが楽しみにしてるってこと、私もすっごく楽しみです。楽しい時間にしましょうね♪」
加蓮「うんうん。そうだ。藍子も何かネタ持っていったら?」
藍子「ネタ?」
加蓮「ほら、サプライズの新曲披露~♪ とか。藍子ちゃんのトークショー、インお花見編! ……は時間が消えるか」
藍子「新曲はさすがに……。こんなことで、スタッフさんにわがままを言う訳にもいきませんから」
加蓮「藍子が言えば乗ってくれると思うんだけどね。難しいなら誰かの歌のカバーとか」
藍子「うーん。練習してみるのはいいですけれど……私は、裏方の方がいいかもしれないです」
加蓮「また控えめに来たね」
藍子「去年のお花見の時も、私、いっぱい写真を撮ったんです。後から写真集ってことで、販売はしていないんですけれど、事務所の思い出ってことで、大切に仕舞ってもらってて」
加蓮「へー。今度見てみよっと」
藍子「それで、写真を撮って回っていたら、茜ちゃんがお弁当のおかずを差し入れてくれて」
加蓮「ふんふん」
藍子「いっぱい食べましょう! って」
加蓮「言いそう言いそう」
藍子「その後、食べたら走りましょう! って言って、どこかに行っちゃいました」
加蓮「やりそうやりそうっ」
藍子「ぽかーんとしちゃいました」
加蓮「なるなる」
藍子「未央ちゃんが追いかけようとして」
加蓮「追いかけようとして」
藍子「すぐに、苦しそうにお腹を抑えて立ち止まっちゃうんです」
加蓮「いっぱい食べてたんだろうなー」
藍子「今年も……そうそう、今年もお花見をやるのかなぁって思って、実はカメラとアルバムを新調したんですよ」
加蓮「気合入ってるね」
藍子「どんなシャッターチャンスも見逃しませんっ。加蓮ちゃんのことも、いっぱい撮ってあげますね♪」
加蓮「ふふっ。ずっとアイドル顔してなきゃいけないね。大変そうだ」
藍子「ずっと加蓮ちゃんの後ろを追い回しちゃおっかな?」
加蓮「アンタはパパラッチかっ」ペシッ
藍子「あうっ」
加蓮「お花見の話をしてたらなんだかお腹が空いちゃった。パスタ、食べてみる?」
藍子「私は、そんなにお腹が空いていないので……。加蓮ちゃんが食べるなら、少し、分けてもらってもいいですか?」
加蓮「んー……いや、私もそこまでがっつりって感じじゃないかも。最近あんまり食べられなくなったんだよね」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「ほら、超忙しかった時とかご飯テキトーだったし。そのせいで今もガッツリ食べられなくて」
加蓮「って、ガッツリ食べられないのは前からだけど」アハハ
藍子「それなら、少なめに……いつものクッキーとかにしちゃいましょうっ」
加蓮「そうしよっか。すみませーんっ」
……。
…………。
□ ■ □ ■ □
加蓮「クシュン」
藍子「?」モキュモキュ
加蓮「ぅ~」
藍子「ゴクン。もしかして、冷えちゃいましたか? それなら――」
加蓮「ううん。違う違う。誰かがウワサしてたとかじゃない?」
藍子「でも、」
加蓮「大丈夫だってば。せっかくテラス席解禁したんだから、今日はここでのんびりしようよ」
藍子「……加蓮ちゃんがそう言うなら」モキュモキュ
加蓮「ふわ……。最近暖かくなったからかなぁ。すぐ眠くなっちゃうんだよね……」
藍子「……」モキュモキュゴクン
藍子「さっきも、一緒に寝ちゃいましたね」
加蓮「私が揺さぶって起こさなかったらきっと1時間くらい寝てたよ」
藍子「あはは……」
加蓮「2時間くらい寝てた」
藍子「そ、そんなには寝ませんっ。……たぶん」
加蓮「……。……カフェテラス席でよだれを垂らして寝ている藍子ちゃん」
藍子「わー!?」
加蓮「を撮影して笑顔で店員さんに横流しする加蓮ちゃん」
藍子「やめてーっ!?」
加蓮「ほら、店内に飾る写真を募集してる話があったし。"うちのカフェはこれだけゆっくりできる場所です"的なアピール」
藍子「よだれが垂れてる写真はやめて下さい! ここに来られなくなっちゃいますから!!」
加蓮「いや誰かさんが私の写真をこっそり流してるらしいし?」
藍子「いくらなんでもそこまでひどい写真は見せ、というか撮ってもいませんよ!?」
加蓮「[しあわせ寝顔]高森藍子」
藍子「何ですかそれは!?」
加蓮「[しあわせ寝顔・よだれ]高森藍子」
藍子「そんなのばらまかれたら私引きこもりますからね!? もう外を歩けませんから!」
加蓮「ま、藍子がここに来られなくなったら私も困るからやめとこ~っと」
藍子「ほっ……」
加蓮「そもそも藍子がよだれ垂らして寝てる姿をまだ撮れてない訳だし」
藍子「……まだ、って何ですか」
加蓮「スマフォのカメラのレンズ、こまめに拭いとかなきゃ」フキフキ
藍子「と、撮ったら怒りますから。私でもその、怒りますから」
加蓮「ふふっ。でも、本当に暖かくなったよね」
藍子「暖かくなりましたよね。ストーブも、もう使わないんです。最近」
加蓮「ね」
藍子「でも仕舞うのは躊躇っちゃって……」
加蓮「分かる分かる。タイミング難しいよねー」
藍子「衣替えもしなきゃ」
加蓮「えー。遅くない? 春服の準備なんてもう済ませて、むしろ夏服を探す頃だよ?」
藍子「さすがに春服は確保してます。ただ、コートとかそろそろ仕舞わなきゃ、って……でも、こういう時に急に寒くなってしまって」
加蓮「あるある。困るよね、あれ」
藍子「雪が降ってる地域もあるみたいですよ」
加蓮「北国は大変そうだね」
藍子「でも、ずっと冬服を出しておくのも、春らしくないですよね」
加蓮「難しいなぁ」
藍子「難しいですよね」
加蓮「ね」
藍子「私、今の時期ってすっごく好きなんです」
加蓮「ん?」
藍子「春が、来そうで来なくて、ときどき、寒くなっちゃって……でも、じわじわって確かに春が来る感じ……」
藍子「それが、なんだがすっごく楽しくて」
加蓮「ちょっと分かるー」
藍子「最近の夏や冬って、急に暑くなったり急に寒くなったり、極端なことが多いですよね……。だからこう、じわじわって来る感じが、すっごくいい感じなんですっ」
加蓮「ふふっ、藍子らしい」
藍子「四季も人も、あんまり駆け足じゃ疲れちゃいますから。春くらいは、ゆっくり歩いて欲しいな……」
藍子「あ、でもっ、たまにはお花見の時の茜ちゃんみたいに全力疾走するのもいいのかな?」
加蓮「……あの子って割といっつも大爆走してない?」
藍子「あはは……」
加蓮「春が全力疾走したら……どうなるんだろ?」
藍子「つぼみだった桜が、1日にして満開になるとか!」
加蓮「そして1日で枯れる」
藍子「もう。夢のないこと言わないでくださいっ」
加蓮「ゴメンゴメン。春と夏だったらさ、夏の方が突っ走ってるイメージがない?」
藍子「うーん。私は逆かもしれません」
加蓮「そう?」
藍子「7月と8月って、長く感じちゃうじゃないですか。だから、夏の方がのんびり屋さんって気がします」
加蓮「あーそれ分かるかも。……でもよく考えたら春だって4月と5月で同じ長さなんだよね」
藍子「どうして夏って長く感じるんでしょう?」
加蓮「夏休みがあるから?」
藍子「あっ、そうかもっ」
加蓮「あと、春って色々忙しいよね。入学式があったり進級があったり。そういうのについていってるうちに時間が過ぎるとかじゃない?」
藍子「確かに、周りの環境が変わる時ってすごく早く時間が過ぎちゃいますよね」
加蓮「藍子もそう?」
藍子「中学に入学した時と、高校に入学した時なんかは……気がついたらいきなりテストってなっちゃって。特に、中学校の時は大変でした」
加蓮「あー…………」
藍子「?」
加蓮「ううん……。それより四季で一番せっかちなのって絶対に秋だよ。秋。だってすぐ来てすぐいなくなるもん」
藍子「秋は、確かにせっかちかも。気がついたら冬になっちゃってて、ストーブやこたつを出さないといけなくなりますよね」
加蓮「いつだったかなぁ。扇風機を片付けた1週間後にストーブを出したことがあった気がする」
藍子「せわしないっ」
加蓮「アイドルやっててスケジュールがびっしりだと、色々追われたりもするけど……そうだね。春くらい、お散歩気分で味わいたいよね」
藍子「!」
加蓮「いや別に散歩に行きたいって意味じゃないから」
藍子「あうぅ」シュン
加蓮「……散歩くらい誘ってくれればいくらでも付き合うけどね」
加蓮「ね、よく考えてみれば冬も相当のんびり屋じゃない?」
藍子「冬ですか?」
加蓮「だってほら、12月に1月、2月、3月……は微妙だけど、ものすごく長いじゃん。夏の2倍くらい?」
藍子「言われてみれば確かに……。それなら、四季で一番のんびり屋さんなのは冬ってことですね」
加蓮「のんびりしてないで早く春を連れてこーい!」
藍子「お花見したいんです。少しだけ、席を譲ってくださいっ」
加蓮「ストーブをしまわせろー!」
藍子「お母さんが灯油代が大変だって言ってました。助けてあげて~!」
加蓮「……ふうっ」
藍子「……えへへ」
加蓮「何言ってんだろ私達」
藍子「……主張でしょうか?」
加蓮「主張?」
藍子「Pさんが言っていたことですけれど……若者が主張する時代だ、って」
加蓮「主張」
藍子「言いたいことがあるならいっぱい言え! だそうですよ。普段も、Pさんは遠慮するなって言ってくれるんですけれど、それだけじゃなくて」
藍子「アイドル活動の時とか、やりたいことや言いたいことはいっぱい言うように、って、いつも教えてくれるんです」
加蓮「Pさんってホント……ふふっ。主張かー。藍子って何かある? そういうの」
藍子「うーん……あんまり」
加蓮「私も無いかも」
藍子「加蓮ちゃんもですか?」
加蓮「無くはないけどね」
藍子「どっちですか~」
加蓮「伝われ、って。いつも思ってる気はする。ううん、伝わってほしいなって。私の気持ちとか、想いとか」
加蓮「どんな気持ちか、なんて聞かれたら困るんだけどさ……。本気とか、全力とか、そういうんじゃなくて。とにかく伝わってほしいんだ」
加蓮「なんでもいい……なんでもはよくないけどね。あははっ」
藍子「伝わる、ですか……」
加蓮「私、何か伝えられてると思う?」
藍子「はいっ。加蓮ちゃん、いつも一生懸命で、全力だから……ファンの皆さんにも、いっぱい伝わっていますよ!」
加蓮「そっか……ありがと」
加蓮「私の気持ち、伝われ~」ミョインミョイン
藍子「……それは何のポーズですか?」
加蓮「ん? ……こう……なんかこう、なんかのポーズ」
藍子「あはは……思いつかなかったんですね」
加蓮「伝わった?」
藍子「伝わりませんでした」
加蓮「薄情者ー」
藍子「えへっ」
加蓮「でも、何もしないで伝わるっていうのもシャクかも」
加蓮「前に言ったような気もするけど……何もしないで伝わったら、言葉とか会話とかいらなくなっちゃうし」
藍子「思うだけで想いが伝わってしまうなら、口を開くこともなくなっちゃうかもしれませんね」
加蓮「甘いよ藍子。まだ口には物を食べるという役割がある!」
藍子「あ、そうでしたっ」
加蓮「私の口は藍子のクッキーを食べる為についている」パク
藍子「ほんとに食べてる。ひかえめにしておこうってさっき言ったのに~!」
加蓮「歌って、想いを伝えて。それから藍子のおやつを食べる為に、私の口はついてる」ドヤッ
藍子「最後で台無しです」
加蓮「あはははっ」モグモグ
加蓮「…………ん?」クビカシゲ
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「んー……? ……ううん。やっぱいいや。残りのクッキーぜんぶ藍子にあげる」
藍子「はぁ。ありがとうございます……?」モグ
加蓮「……あげといてなんだけど、なんか今日のクッキー、ちょっと変な……いや、味が変わってない?」
藍子「そうですか?」モグモグ
藍子「……いつもと同じですよ? ふんわりさくさくしてて、甘さは控えめだけど、噛めば噛むほど染み込んできて……ふふ、美味し♪」
加蓮「藍子が美味しいならそれでいいや……。んー、なんだったんだろ……」
藍子「……?」モグモグ
加蓮「やっぱさ。ネタ、考えようよ」
藍子「ネタ?」
加蓮「お花見の。写真を撮るのもいいけどさ、藍子も何かしようよ」
藍子「うーん。さっき言っていた、カバーソングとか、トークとかですか?」
加蓮「それもいいと思ったけどちょっと微妙な気がする。LIVEとかお笑いトークとかはきっとみんな持ってくるだろうし、どうせなら藍子らしいことをしたいじゃん。……あ、そうだ!」
加蓮「藍子さ、いつも写真撮ってるけど、たまには写真じゃなくてムービーとかどう?」
藍子「ムービー……?」
加蓮「うん。でさ、後で編集とかしてみるの。ちょっとしたイメージビデオとかになっちゃわない?」
藍子「わぁ……! それ面白そうですねっ。でも私、編集のやり方とか分かりませんよ?」
加蓮「私も知らないけどそこら辺はPさんに教えてもらうとか。もしかしたらPさんの手伝いとかできるようになるかもしれないしっ」
藍子「ふふっ。加蓮ちゃん、Pさんを手伝ってあげたいんですね♪」
加蓮「えー。藍子も一緒にだよ?」
藍子「私が一緒でいいんですか?」
加蓮「んー? 何が言いたいのかなー?」グニグニ
藍子「いひゃいいひゃい♪」
加蓮「Pさんを手伝いたいってのもあるけど、ちょっとスイッチ入ったかも」
藍子「スイッチ?」
加蓮「新しいことをやってみたいスイッチ! ムービー撮って、編集して、イメージビデオにする。すごく楽しそうじゃん!」
藍子「加蓮ちゃん……。じゃあ、私でよければ一緒にやらせてくださいっ」
加蓮「オッケー。……って、これは花見の時のネタとはちょっと違うよねー」
藍子「カメラを回す係ってことで、ダメですか?」
加蓮「もっとこう、カメラはカメラで回すとしてもさ。なんかやってみたいなーって」
藍子「あはは……私がやるお話なのに、加蓮ちゃんがやってみたいお話になっちゃってる」
加蓮「ま、もう少し日にちはあるしまた思いついたら言うね」
藍子「私も考えてみますね。……ふふっ。お花見の日が、今からすっごく楽しみです!」
加蓮「予定にワクワクするなんていつぶりだろ。藍子、私がブルブル震えてたらどついといてね。きっと変な顔とかしてるから」
藍子「じゃあ、私が変なことになってたら、加蓮ちゃんにお任せしますっ」
……。
…………。
……。
…………。
□ ■ □ ■ □
ごめん。体調崩した。(加蓮)
Pさんと未央には伝えてる。私は行けないって伝えといて。(加蓮)
ごめん(加蓮)
・
・
・
分かりました。
残念ですけれど、伝えておきます。
暖かくして、ゆっくり休んでいてくださいね。(藍子)
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
基本的に現実世界の季節に合わせて進行している当シリーズですが、
ここから第49話(予定)までは「桜の季節のお話」とさせてください。
ではまた次回、
第46話 北条加蓮「……」高森藍子「……加蓮ちゃんと、桜の日の夜に」
にて、お会いしましょう。……タイトルは例によって予定です。変更する可能性も御座いますのでご了承を。
おつですー
よだれ差分……そういうのもあるのか!とか思ってたらこれはまた……
続き、楽しみに待ってますー
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