【艦これ】熊野「瀟洒、典雅」【文学】 (27)

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 重巡熊野は艦娘になる前の、子供のころから、お洒落のようでありました。

 まだ、艦娘になる前。
 
 小学校、毎年三月の修業式のときには必ず右総代として校長から賞品をいただくのであるが、その賞品を壇上の校長から手渡してもらおうと、壇の下から両手を差し出す。

厳粛な瞬間である。その際、熊野は何よりも、自分の差し出す両腕の恰好に、自分の注意力の全部を集めているのです。

母におねだりした、おっとりとした次女とお揃いの色鮮やか着物の下に純白のフランネルのシャツを着ているのですが、そのシャツが着物の袖口から、一寸ばかり覗出て、シャツの白さが眼にしみて、いかにも自身が天使のように純潔に思われ、一人、うっとり心酔してしまうのでした。

修業式のまえの晩、袴と晴着と、それから下ろしたての白いフランネルのシャツとを、枕もとに並べて置いて寝て、なかなか眠れず、二度も三度も枕からそっと頭を出しては、枕もとの品品を見ました。

まだ、その頃は双子の姉と同じ部屋故に、大きなライトはつけることができず、枕もとのライトのみで、部屋は薄暗いものでしたが、それでもフランネルのシャツは、純白に光って、燃えているようでした。

一夜明けて修業式の朝、起きて素早くシャツを着込み、あるときは、年とったメイドに内緒にたのんで、シャツの袖口のボタンを、更に一つずつ多く縫いつけさせたこともありました。賞品をもらうときシャツの袖がちらと出て、貝のボタンが三つも四つも、きらきら光り輝くように企てたのでした。

家を出て、学校へ行く途々も、こっそり両腕を前方へ差し出し、賞品をもらう真似をして、シャツの袖が、あまり多くもなく、少くもなく、ちょうどいい工合ぐあいに出るかどうか、姉たちに尋ねながら、なんどもなんども下検分してみるのでした。

誰にも知られぬ、このような侘しいおしゃれは、年一年と工夫に富み、街の小学校を卒業して車にゆられ電車に乗り,はなれた県庁所在地の小都会へ、中学校の入学試験を受けるために出掛けたときの、そのときの熊野の服装は、あわれに珍妙なものでありました。

TENGA?

白いフランネルのシャツは、よっぽど気に入っていたものとみえて、やはり、そのときも着ていました。

しかも、こんどのシャツには蝶々の翅のような大きい襟がついていて、それを着物の襟の外側にひっぱり出し、着物の襟に覆いかぶせているのです。

なんだか、よだれ掛けのようにも見えます。でも、熊野は悲しく緊張して、その風俗が、大正ロマンな淑女のように見えるだろうと思っていたのです。

またある日には、ジャケットに、白っぽい縞しまの、短い袴をはいて、それから長い靴下、編上のピカピカ光る黒い靴。それから派手なリボン。

父はすでに他界し、母は病身ゆえ、熊野の身のまわり一切は、やさしい上の姉二人の心づくしでしたが、姉二人も自身の学業などが忙しく、双子の姉に限っても、中学は公立に行くことになっていたので、あまり熊野の服装についてなど気にしていなかったのです。

熊野は、次女に甘えて、むりやりシャツの襟を大きくしてもらって、次女が笑うと本気に怒り、熊野の美学が誰にも解せられぬことを涙が出るほど口惜くやしく思うのでした。

「瀟洒、典雅」

熊野の美学の一切は、それに尽きていました。いやいや、生きることのすべて、人生の目的全部がそれに尽きていました。

リボンは、わざと長いものを用意し、その小さい身長ゆえ、今にもかかとについてしまいそうで、そうしてそれを絡めぬように歩くのが小粋な業だと信じていました。

どこから、そんなことを覚えたのでしょう。おしゃれの本能というものは、手本がなくても、おのずから発明するものかも知れません。

ほとんど生れてはじめて都会らしい都会に足を踏みこむのでしたから、熊野にとっては一世一代の凝った身なりであったわけです。

興奮のあまり、その小都会に着いたとたんに、熊野の言葉つきまで一変してしまっていたほどでした。

かねて少女漫画で習い覚えてあった東京弁を使いました。けれども宿に落ちつき、その宿の女中たちの言葉を聞くと、ここもやっぱり熊野の生れ故郷と全く同じでありましたので、熊野はすこし拍子抜けがしました。

生れ故郷と、その小都会とも結局同じ日本なのでした

中学校へはいってからは、校規のきびしい学校でしたので、おしゃれも中々むずかしく、やけくそになって、スカートのアイロンも怠り、靴も磨かず、制服のボタンもいじれないので、わざと猫背になって歩きました。

そのときの猫背が癖になって、数年たって艦娘になる適性試験の時に注意され、やっとつい最近になって、何とか金剛などに協力してもらい、治ったのでした。あのころは、おしゃれの暗黒時代と言えましょう。

>>4
そうですね、読みは「てんが」であってます

また書きます

乙です

天津風についてるカップ型ホール

天津風の下の口をオナホにしてオナニーしたい

再開

>>11>>12
R18スレじゃないんでw

その小都会から更にはなれた或る港町の高等学校にはいってからは、熊野のお洒落も、のびのびと発展いたしました。発展しすぎて、やはり珍妙なものになりました。

リボンをつくりました。リボンは、海軍紺ネイビブルーの鮮やかなリボンで、引きずるほど長く造らせました。

熊野もそのころは、背丈も伸びていましたので、そのリボンは、まるで触手のようでした。

このリボンを着けるときには、必ず高いヒールを履くことにしていました。

さらに、上着も作りました。このころ、上の姉二人が艦娘になり、熊野も艦娘になることを意識したらしく、ところどころに海軍意識の独創も加味されていました。

第一に、襟です。大きい広い襟でした。どういうわけか広い襟を好んだようです。その襟には黒のビロオドを張りました。

胸はダブルの、金ボタンを七つずつ、きっちり並べて附けました。ボタンの列の終ったところで、きゅっと細く胴を締めて、それから裾が、ぱっとひらいて短く、そこのリズムが至極軽妙を必要とするので、洋服屋に三度も縫い直しを命じました。袖も細めに、袖口には、小さい金ボタンを四つずつ縦に並べて附けさせました。黒の、やや厚い生地でした。これを冬の上着として用いました。

この上着には、白線の制帽も似合って、まさしく英国の海軍将校のように見えるだろうと、すこし自信もあったようです。白のカシミヤの手袋を用い、厳寒の候には、白い絹のショールをぐるぐる首に巻きつけました。凍え死すとも、厚ぼったい毛糸の類は用いぬ覚悟の様でした。

けれども、この上着は、友だちに笑われました。大きい襟を指さして、よだれかけみたいだね、失敗だね、大黒様みたいだね、と言って大笑いした友人がひとりあったのでした。

また、やあ君か、おまわりさんかと思った、と他意なく驚く友人もありました。

淑女な海軍士官は、情無く思いました。やがて、その上着を止しました。さらに一枚、造りました。

こんどは、コバルト色のセル地を選び、それでもって再び海軍士官の上着を試みました。乾坤一擲の意気でありました。

襟は、ぐっと小さく、全体を更に細めに華奢に、胴のくびれは痛いほど、きゅっと締めて、その上着を着るときには、熊野はひそかにシャツを一枚脱がなければならなかったのでした。

この上着に対しては、誰もなんとも言いませんでした。友人たちも笑わず、ただ、へんに真面目なよそよそしい顔になって、そうしてすぐ顔をそむけました。

熊野も、その輝くほどの上着を着ながら、流石に孤独寂寥の感に堪えかね、泣きべそかいてしまいました。お洒落ではあっても、心は弱い少女だったのです。

とうとうその苦心の外套をも廃止して、中学時代からの姉のおさがりのボロボロのコートを、頭からすっぽりかぶって、喫茶店へ葡萄酒を飲みに出かけたりするようになりました。

 喫茶店で、葡萄酒飲んでいるうちは、よかったのですが、そのうちに男性に声をかけられ、レストラン、のこのこ入って行って一緒に、ごはんを食べることなど覚えたのです。

熊野は、体を許すわけでなければ、それを別段、わるいこととも思いませんでした。男性に声をかけられるということは、女性として魅力的であるということだ。とつねに信じていました。

港町には似合わないおしゃれな、古い静かなレストランへ、二度、三度、ごはんを食べに行っているうちに、熊野のお洒落の本能はまたもむっくり頭をもたげ、今度は、それこそ大変なことになりました。

西洋映画で見たの演奏者のような服装して、レストランの奥に置かれたピアノの椅子に座り、給仕に対して、お兄さん、今日も素敵ね。などと言ってみたく、ワクワクしながら、その服装の準備にとりかかりました。

ドレス。あれは、すぐ手にはいりました。さらに、それに合う、上品なストールと小さなネックレス買いました。さらに、くびれがきれいに見えるようにと、腰に巻くベルトまで手に入れたのです。

しかし、ドレスにはドレスなのだが、やはり日本人。映画の登場人物のようにはいきません。胸が無いのです。スタイルが違うのです。なので、登場人物のような妖艶さなどは出ませんでしたが、とにかく、映画に出て来る人物の印象を与えるような服装だったら、熊野はそれで満足なのでした。

また書きます

>>12
ご丁寧にsagaいれててワロタ

そういうお前もわざわざ名前欄に11って入れなくていいから

その後、熊野がきてみたいと思ったのがブレザーでした。今でこそ艦娘としての制服で毎日着ているが、高校の制服はセーラーだったのだ。

公立の高校に通う双子の姉から送られてきたメールに添付された画像をみて、自分もきてみたくなったのだ。

 熊野は町中の洋服屋を探し回り、自分の理想を実現させようと、ネットで少し遠くの学校の紺のブレザーを購入、同じく紺のソックスや、ローファーを探し求めたのだが、どうしても理想のネクタイだけが見つからなかった。

 困りに困った熊野は、いっそと、紳士服屋にも足を延ばしたのだが、どうしてもそれは見つからなかった。

 自分の服装が理想通りにならないと、やけくそになる悪癖を、熊野は持っていました。

希望通りのネクタイを求めることができなくなって、熊野の小粋の服装も目立って、いけなくなりました。

赤いチェックの薄く入った黒のスカート、こげ茶色のローファー、紺にワンポイントの入ったソックス。そのような服装をしていながら、白線の制帽をかぶって、街を歩いたのは、どういう美学が教えた業でしょう。

そんな異様の風俗のものは、どんな少女漫画にだって出て来ません。たしかに熊野は、やけくそになっているとしか思えません。

カシミヤの白手袋を、用いました。ブレザー、制帽、白手袋、もはや収拾つかないごたごたの満艦飾です。

そんな不思議な時代が、人間一生のあいだに、一時は在るものではないでしょうか。なんだか、まるで夢中なのです。持ち物全部を身につけなければ、気がすまぬのです。

カシミヤの白手袋が破れて、新しいのを買おうとしても、カシミヤのは、なかなか手が出せないので、しまいには、生地は、なんであっても白手袋でさえあればという意味で、軍手になりました。

兵隊さんの厚ぼったい熊の掌のように大きい白手袋であります。なにもかも、滅茶滅茶でした。

熊野は、そのような異様の風態で、今度はファミレスレストランへ行き、西洋の小説で習い覚えた英語を、一生懸命に、何度も繰りかえして言っていました。男など眼中になかったのです。ただ、おのれのロマンチックな姿態だけが、問題であったのです。

やがて夢から覚めました。艦娘の適性試験を受けたとき、そのころの学生を興奮させ、学生たちの顔が颯さっと蒼白になるほど緊張していました。

熊野は軍に入ることが決まりました。そのあとは学校の講義には、一度も出席せず、雨の日も、お天気の日も、色のさめたレインコート着て、ゴム長靴はいて、何やら街頭をうろうろしていました。

お洒落の暗黒時代が、それから永いことつづきました。そうして、間もなく熊野はおしゃれというものをやめてしまいました、それは数年経った今に至るまで、つづいています。

熊野も、もう、いまでは制服にばかり袖を通し、街へ行くときも同じ格好である。むろん、問題があるわけではない。

けれども彼女自身は、決してそうではないと信じている少しずれたセンスの話をしながら、今日も姉妹たちと海軍生活を送って居ります。

昨年気になる人が、できて、時々非番の時に逢いに行くのに、ふっと昔のお洒落の本能が、よみがえり、けれども今となっては、出撃で忙しい姉に頼むこともできなくなっているし、思うようにお金使って服装ととのえるなぞ、自分のセンスというもののズレに気がついた熊野には、とても不可能なことなのでした。

普段着一枚在るきりで、他には、オシャレ着など、片一方さえ無い仕末でした。よほど落ちぶれて、ショックを受けたものと見えます。

もともと、お洒落な子だったのですし、軍に決められた服で意中の方に逢うくらいだったら、死んだほうがいいと思いました。

散々思い迷って、決意しました。双子の姉に頼んでの借衣であります。お金を借りるときよりも、服を借りる時のほうが、十倍くるしいものであること、ご存じですか。

顔から火が出るという言葉がありますけれど、実感であります。それに、服ばかりか、アクセも、靴も借りなければ、いけなかったのです。

そうして、好きな人を……提督を欺くのです。どんなに落ちぶれても、ロマンスの世界にはいると、彼女のお洒落の本能が、むっくり頭を持ち上げて、彼女の胸をワクワクさせる様であります。

熊野のような女は、自分のセンスのなさを自覚しても、七十歳になっても、八十歳になっても、内心、やはり派手なシャツなどを、きたがるのではないでしょうか。

外面の瀟洒と典雅だけを現世の唯一の「いのち」として、ひそかに信仰しつづけるのではないでしょうか。

昨年、彼女が借衣までして意中の方に逢いに行ったという、そのときの彼女の自嘲の川柳を二つ三つ左記して、この恐るべきお洒落童子の、ほんのあらましの短い紹介文を結ぶことに致しましょう。


落人の借衣すずしく似合いけり。この柄は、このごろ流行と姉は言い。その袖を放せと借衣あわてけり。借衣すれば、人みな借衣に見ゆる哉かな。味わうと、あわれな狂句です。



提督「ってのが俺のお前に対するイメージなんだけど、実際どうなの?」

熊野「ありえませんわ!」

最上型姉妹三人「(実際この子(熊野)はセンスないんだよね(ですのよね)……)」

以上です。
熊野はポンコツお嬢様可愛い。
今回のオマージュは太宰治の『おしゃれ童子』です。この話の主人公のオシャレの感覚が世間とズレている感じが個人的な熊野のイメージと合ったのでオマージュさせていただきました。
太宰は暗い話ばかりを書いているイメージですが、こういうクスリと笑えるお話も書いているのです。これも興味を持っていただけたのなら青空文庫で一読していただけると幸いです。
ありがとうございました。

乙乙
このシリーズ好き

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