【艦これ】北方棲姫「ゴメンクダサイ」 (24)
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寒い冬が北方から、深海棲艦の棲んでいる北方海域に浮かぶ無人島へもやって来ました。
或朝、洞穴から北方棲姫が出ようとしましたが、
「アッ」と叫んで眼を抑えながらの港湾棲姫のところへころげて来ました。
「オネエチャン、メニナニカササッタ、ヌイテ!」と言いました。
港湾棲姫がびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている北方棲姫の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。
港湾棲姫は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解わかりました。
昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照らしていたので、雪は眩しいほど反射していたのです。
雪を知らなかった北方棲姫は、あまり強い反射をうけたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。
北方棲姫は遊びに行きました。真綿のように柔らかい雪の上を駈け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。
すると突然、うしろで、
「どたどた、ざーっ」と物凄ものすごい音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと北方棲姫におっかぶさって来ました。
北方棲姫はびっくりして、雪の中にころがるようにして十メートルも向こうへ逃げました。
何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。
それは樅の枝から雪がなだれ落ちたのでした。まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
間もなく洞穴へ帰って来た北方棲姫は、
「オネエチャン、オテテガツメタイ。ジンジンスル」と言って、濡れて牡丹色になった両手を港湾棲姫の前にさしだしました。
港湾棲姫は、その手に、は――っと息をふっかけて、ぬくとい手でやんわり包んでやりながら、
「モウスグアタタカクナル。ユキヲサワルト、スグニアタタカクナル」といいましたが、かあいい妹の手に霜焼ができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、妹用にお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
姉妹の深海棲艦は洞穴から出ました。
北方棲姫は港湾棲姫に抱かれ、そこからまんまるな眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら港湾棲姫のカイロになっていた。
やがて、海へ出て、暫く行くと行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを北方棲姫が見つけて、
「オネエチャン、アレハオホシサマ?」とききました。
また書きます
手袋を買いにかな?
>>9
正解です。
「アレハオホシサマジャナイノヨ」
と言って、その時港湾棲姫の足はすくんでしまいました。
「アレハ……マチノアカリ……」
その町の灯を見た時、港湾棲姫は、ある時町へ他の姫級と出かけて行って、とんだめにあったことを思出しました。およしなさいっていうのもきかないで、他の姫級が、町中を歩き回ったので、見回り中の艦娘に見つかって、さんざん追いまくられて、命からがら逃げたことでした。
「オネエチャン、イコウ」と北方棲姫が言うのでしたが、港湾棲姫はどうしても足がすすまないのでした。
そこで、しかたがないので、北方棲姫を一人で町まで行かせることになりました。
港湾棲姫が手を出すようにいいました。その手に、港湾棲姫は海に沈んでいた日本のお金を握らせました。
「コレナニ?」と言って、握らされた硬貨を見る。
「ソレハ、ニンゲンノヲモノ、モラウトキニワタス、オカネ。
マチ二、タクサン、ニンゲンノイエアルカラ、テブクロノエ……カイテアルイエサガシテ。
ミツケタラ、トビラヲタタイテ……ゴメンクダサイ……ッテ、イウト、ニンゲンガトビラアケルカラ、ソノスキマニ、オカネヲダシナガラ、
「テブクロチョウダイ」ッテ、イウンダヨ。カオヲミラレチャイケナイ」
と港湾棲姫は言いきかせました。
「ドウシテ?」と北方棲姫はききかえしました。
「ニンゲンハ、アイテモニンゲンジャナイト、ウッテクレナイ。
ミツカッタラ、カンムス、ヨバレル。ニンゲン、コワイ」
「ソウナノ?」
「ダカラ、カオハゼッタイミセチャダメ」
北方棲姫は、町の灯を目あてに、沈みかけた夕日反射する海をよちよちやって行きました。
始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。
北方棲姫はそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄いのや青いのがあるんだなと思いました。
やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸を閉めてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。
けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、北方棲姫は、それを見ながら、手袋屋を探して行きました。
自転車の看板や、眼鏡の看板やその他いろんな看板が、あるものは、新しいペンキで描かれ、あるものは、古い壁のようにはげていましたが、町に始めて出て来た北方棲姫にはそれらのものがいったい何であるか分らないのでした。
とうとう手袋屋がみつかりました。港湾棲姫が道々よく教えてくれた、手袋の絵が描かれた看板が、青い電燈に照てらされてかかっていました。
北方棲姫は教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
「ゴメンクダサイ」
すると、中では何かことこと音がしていましたがやがて、戸が一寸ほどゴロリとあいて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
北方棲姫はその光がまばゆかったので、めんくらって、思わずよろけ――港湾棲姫が見せちゃいけないと言ってよく聞かせた顔ごと半身を、戸のすきまからさしこんでしまいました。
「テブクロ、オイテケ」
すると手袋屋さんは、おやおやと思いました。人間ではありません。人によく似た何かが手袋をくれと言うのです。これが噂の深海棲艦か? と思い、電話を手に取ろうとしましたが、その寒そうな牡丹色に染まった手を見て、その気が変わりました。
そして、「450円です」と言いました。
北方棲姫はすなおに、握って来たお金を手袋屋さんに渡しました。手袋屋さんはそれを人差指のさきにのっけて、爪で叩いて見ると、チンチンとよい音がしましたので、ほんとのお金だと思いましたので、棚から子供用の毛糸の手袋をとり出して来て北方棲姫の手に持たせてやりました。
北方棲姫は、お礼を言ってまた、もと来た道を帰り始めようとしましたが、手袋やさんに、「おつり、もってけ」とおつりを差し出されたので、それを受け取って帰りました。
「オネエチャン、ニンゲン、コワイッテイッテタケド、ソンナコトナカッタ」と思いました。けれど北方棲姫はいったい人間なんてどんなものか見たいと思いました。
ある窓の下を通りかかると、人間の声がしていました。何というやさしい、何という美しい、何と言うおっとりした声なんでしょう。
「ねむれ ねむれ
母の胸に、
ねむれ ねむれ
母の手に――」
北方棲姫はその唄声は、きっと人間のお姉さんの声にちがいないと思いました。だって、北方棲姫が眠る時にも、やっぱり港湾棲姫は、あんなやさしい声でゆすぶってくれるからです。
するとこんどは、子供の声がしました。
「母ちゃん、こんな寒い夜は、この間合った艦娘のお姉ちゃんたちは寒い寒いって言いながら海に行くのかな?」
すると母さんの声が、
「こんな夜ですもの、深海棲艦も寒くて出てこないから、皆お家で休んでいるわ。さあ坊やも早くねんねしなさい。お姉さんたちと坊やとどっちが早くねんねするか、きっと坊やの方が早くねんねしますよ」
それをきくと北方棲姫はお母さんって何だろうと思うと同時に、急にお姉さんが恋しくなって、港湾棲姫の待っている方へ跳とんで行きました。
港湾棲姫は、心配しながら、北方棲姫の帰って来るのを、今か今かとふるえながら待っていましたので、北方棲姫が来ると、暖かい胸に抱きしめて泣きたいほどよろこびました。
姉妹は洞窟の方へ帰って行きました。月が出たので、辺りの雪が輝き、まるで光の道のようになっています。
「オネエチャン、ニンゲン、ホントウ二ワルイヤツ?」
「ドウシテ?」
「マチガエテ、カオミラレタ。ケド、ニンゲン、ツカマエナカッタ。チャント、テブクロクレタ」
と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。港湾棲姫は、
「マア!」とあきれましたが、「ニンゲンハ……ソレヲマモルカンムスモ……ホントウニ、ワルイヤツバカリナノカ……」とつぶやきました。
北方棲姫は先程聞いた、お母さんって何だろうと思いながら、港湾棲姫に抱き着き、その温もりを感じながら目を閉じ、そのまま眠ったのであった。
以上です。
今回は>>9の方のいう通り、新美南吉の『手袋を買いに』でオマージュしました。
多くの方は『ごん狐』の作者と言えばわかるのではないでしょうか?
新美南吉は児童文学の作家なので、読みやすいけど、いろいろと考えさせられる作品が多くある、29歳と言う若さでこの世を去ったのが惜しまれる作家です。
この作品も青空文庫で無料公開されているので、興味を持っていただけたのなら一読していただけると幸いです、ありがとうございました。
あきらか奪ってるんですよぉ……
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