八幡「奉仕部ティータイム」 (30)
週末の夜 比企谷家にて
八幡「…」ガサゴソ
小町「お兄ちゃん何探してんの?」
八幡「部室に持っていくお茶請けがあればと思ってな」
小町「おー、気が利くねえお兄ちゃん。みんなのためにお茶菓子を用意するっていうのはポイント高いよ!って、奉仕部って部活中にお茶やお菓子食べられるの?」
八幡「雪ノ下が紅茶を振舞ってくる。あと依頼者が来た時ももてなすのに用意してるな」
小町「ふーん…。で、お兄ちゃんはそれ手伝ったりするの?」
八幡「いや全然全く。お兄ちゃんコーヒー派だし。紅茶の入れ方なんてサッパリ知らないし」
小町「はぁ…これだからゴミいちゃんは…。それ小町的にポイント超低いよ…?そういう雑用は下っ端の仕事なんじゃないの?なんで部長の雪乃さん働かせてんの?そんなんじゃ社会に出た時やっていけないよ?」
八幡「い、いや…もともと雪ノ下が趣味でやってるようなもんだし、俺が出しゃばるのもおかしいだろ?ティーセットも雪ノ下の私物だしな」
八幡(中3の妹に社会に出る心構えをお説教されるとは…。情けないやら小町の成長っぷりが嬉しいやら)
小町「そんなことないよ。手伝うって言われて嫌な顔する人なんていないじゃん」
八幡「いや、そんなことあるぞ。俺なんて小学校のころにな…」
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小町「とにかく!今度雪乃さんがお茶用意しようとしたらお兄ちゃんがやるって申し出ること!分かった?」
八幡「お、おう…」
八幡(つってもな…雪ノ下が俺に私物を貸してくれって言われて素直に渡すだろうか…?)
八幡(いや、十中八九理由を聞かれるだろう。とはいえ雪ノ下を納得させる嘘なんて思いつかん…からかわれるだろうが素直に理由を話すべきか)
八幡(それに小町のことだ、バックれても雪ノ下にメールなり電話なりして確認してくるかもしれん…。もしもバレたら小町から小一時間問い詰められるのは免れない…こっちの方がキツいな)
八幡(やれやれ…仕方ない、雪ノ下のティーセットを借りる方を選ぶか…。ウチから別の用意して持っていくのもしんどいし…)
八幡「面倒なことになった…」
翌週 部室前
八幡(…今日は由比ヶ浜が遅れて来る。雪ノ下が紅茶を用意するとすればその後のはず)
八幡(言うタイミングはそこだ。もし断られても俺をいじる会話のネタにはなるだろう)
八幡(…よし、覚悟を決めるか)
ガラッ
八幡「…うす」
雪乃「こんにちは」
八幡「…由比ヶ浜は日直で少し遅れる」
雪乃「そのようね、先ほどメールが届いていたわ」
八幡「そうか」
雪乃「……」ペラッ
八幡(…俺も読書に移るか)
ガラッ
結衣「やっはろー!遅れてごめんね」
八幡(来たか)
八幡「…うす」
雪乃「こんにちは由比ヶ浜さん。今お茶を用意するわ」
八幡(…よし、ここだ。言うぞ。言っちゃうぞバカヤロー)
八幡「雪ノ下」
雪乃「え?」
八幡「あーその、なんだ…。部室にあるティーセット、ちょっと貸してくれないか?」
八幡(やべ、言い方まずったな…もう少しはっきり「俺にやらせてくれ」って伝えるべきだったか)
雪乃「……」
結衣「え?それって今からヒッキーがお茶を用意するってこと?」
八幡「まあ、な」
八幡(由比ヶ浜がフォローしてくれたおかげで助かった)
結衣「おー!ヒッキーが自分から仕事をやりたいって言うのは珍しいね!ねぇ、ゆきのん」
雪乃「…」
結衣「ゆきのん?」
八幡「いや、もちろん無理にとは言わないが…」
雪乃「…ごめんなさい。普段は動かざること山のごとしのあなたが仕事を申し出るなんて、驚きのあまり少し意識が飛んでしまっていたわ」
八幡「あー…ほら、三年寝太郎だって起きたら少しはいい働きしてただろ」
雪乃「あなたの場合は寝たまま息を引き取っていそうだけど。そしてそれに気付かずに腐敗したまま目覚めるの」
八幡「いや腐敗してるのは目だけだから。ほんっと俺をゾンビにするの好きですね」
雪乃「でもそうね、たまには私がお茶を入れてもらうのもいいわね。由比ヶ浜さんはどう?」
結衣「うん、あたしもヒッキーの入れたお茶飲んでみたい!」
八幡「…分かった」
八幡(なんとか承諾は得られた、いよいよここからだな…)
雪乃「ただし、自分から申し出たからには私が満足できるようにきちんと入れなさい?」
八幡(やっぱやりたいなんて言わなきゃよかった!)
雪乃「紅茶の入れ方については?」
八幡「ストレートなら一応知ってる」
雪乃「そう。ではお願いするわ。お湯はもうすぐ沸くわよ」
八幡「分かった。じゃあティーセット借りるぞ」
結衣「入れ方って、ポットにお茶っ葉を入れてお湯を入れるだけじゃないの?」
八幡「紅茶は少し手間が必要でな」
結衣「ほぇー」
電気ケトル「沸いたぞ」グツグツグツ…
八幡「よし…(まずティーポットにお湯を注いで全体をまんべんなく温める…)」コポコポコポ…
八幡(次にそのポットのお湯をティーカップに注いで、カップを温める…)
八幡(温めたポットに茶葉を人数分入れる…この茶葉は砕けていないタイプだから、スプーン山盛りを3杯だな)
八幡(ポットに沸騰したお湯を注ぐ)コポコポ
八幡(酸素を含ませるため高い位置から注ぐ人もいるようだが、部室ではお湯が跳ねないようにポットの近くからお湯を入れた方がいいだろう)
八幡(お湯を入れたらポットに蓋をして蒸らす…時間は…だいたい5分くらいか)カチャ
八幡(うまくいっていれば、ポットの中で茶葉が浮き沈みしているはずだ)
八幡(スマホのタイマー機能をセットして時間まで待つ)カチカチ
八幡「…ふう」
雪乃「…なかなか手慣れてるわね」
八幡「意外だと言いたげだな。最近は紅茶もたまに飲むんだよ」
結衣「へえ、ヒッキーってコーヒー党だと思ってた」
八幡「普段はコーヒーだが、専業主夫を志す者としてお茶くらいきちんと入れられるようにしとこうと思ってな」
結衣「それまだ志してたんだ…」
雪乃「でも、どうして急にお茶を入れたいなんて申し出たの?」
八幡「…由比ヶ浜にも以前言ったんだが、俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はないからな」
結衣「出た捻デレ」
八幡「それに、仮にも部長の雪ノ下が動いてて平の俺がぼーっとしているのもどうかと思う」
雪乃「あら、殊勝な心がけね。あなたにそんな上下関係の意識があったなんて意外だわ」
八幡「…って小町に言われてな」
結衣「それは報告しなくていいです」
雪乃「はぁ…。そんなことだろうと思ったわ」
八幡「俺にとって小町の言葉は全てに優先するんだよ。でなきゃ俺が自分から動くわけ…」
タイマー「5分後経ったぞ」ピーピー
八幡「よし…」
八幡(温めてあった別のポットのお湯を捨て、茶こしを使って蒸らしたお茶を移し替える)コポコポコポ…
八幡(こうすることで、お茶の濃さが均一になるらしい)
八幡(温めてあったカップの中のお湯を捨てて、それぞれのカップにお茶を注ぐ)ジョロロ…
八幡(分量は…きっちり3人分あるな。目分量だから不安だったが)
八幡「…どうぞ」カチャッ
結衣「ありがと。それじゃあいただきます」ズズッ
雪乃「…!」ゴク
結衣「おー!ゆきのんの入れるお茶よりちょっと濃いめだけどおいしいよヒッキー!ねえゆきのん!」
雪乃「…そうね、及第点は与えられるわ」
八幡「そりゃどうも」
八幡(なんとか合格か…これで一安心だな…)
雪乃「ただ、次はお茶を蒸らす時間を30秒ほど短くするといいわ。それでちょうどいい濃さになるはずよ」
八幡「お、おう…ん?次?また俺がお茶入れんの?」
雪乃「あら、お茶を出すのはあなたの役目なのでしょう?小町さんにそう言われたと話していたじゃない」
結衣「うんうん」
八幡「なんだと…っていうかおい由比ヶ浜、お前だってヒラ部員だろ!なに雪ノ下に同調してるんだよ、お前もお茶くみやれよ」
雪乃「あら、由比ヶ浜さんは副部長よ?立場的にはあなたより上にいるわ」
八幡「は?なんだそれ初耳だぞ」
雪乃「言ってないもの」
結衣「え?…う、うん、あたし副部長なの!ゆきのんの次に偉いんだよ!」フンス
八幡「お前も自分が副部長だったっての今知ったろ…」
雪乃「今日の出来は60点といったところね。精進なさい」
八幡(うわー採点渋ーい…お前さっき及第点って言ってたじゃねーかよ…)
後日
ガララ
八幡「うす」
結衣「ヒッキー遅いよ!」
雪乃「遅刻谷くん、あなたは時計の見方も分からないのかしら?5分前行動は社会人の基本中の基本よ?」
八幡「平塚先生に捕まってたんだよ…つーか別にこの部活って開始時間とか決まってねーだろ…」
雪乃「いいから早くお茶を入れなさい、私も由比ヶ浜さんも待ちくたびれているのだけど」
八幡「お前俺より上手いんだから俺を待ってないで自分で入れりゃいいだろ…」
結衣「分かってないなぁ、あたしもゆきのんも『ヒッキーの入れた』お茶が飲みたいんだよ」
八幡「なっ…ドヤ顔でそういう恥ずかしいこと言うのやめてもらえます?」
雪乃「そっそうよ由比ヶ浜さん私としては比企谷くんの入れるお茶なんて私の足元にも及ばないのだけど不味いお茶を出されても困るから腕を上げさせるためにあえて比企谷くんにやらせているだけで決して楽しみにしているとかそんなことを思っている訳ではないのだけど」
結衣「えー違うのー?でもヒッキーが来る前は『最近私好みの味に近づいてきてる』って…」ニヤニヤ
雪乃「なっ!…ちょっと由比ヶ浜さん、ちゃんと私の話を聞きなさい」
八幡(俺が来る前にどんな会話をしていたんですかね)
八幡「あー…雪ノ下、ティーセット借りるぞ」
コポコポコポ…
八幡「お待たせしました、お嬢様方」カチャ
結衣「うむ、ご苦労セバスチャン」
八幡(誰がセバスチャンだよ誰が。俺がクララの使用人ならお前はアルプスの少女なの?オープニングで超でかいブランコこいじゃうの?)
雪乃「ありがとう」
雪乃「…」ゴク
結衣「いただきます」ズズッ
結衣「ふぅ、あったまるー。今日もおいしいよヒッキー」
八幡「そいつはよかった」
雪乃「ふむ…75点というところね」
八幡(75点以上の点数が出たためしがない…。表情は点数の割に満足そうだが)
雪乃「あら、不満そうな顔ね?」
八幡「…別に」プイ
雪乃「ふふっ」
八幡(言われるほど不満は感じていない。むしろうまそうにお茶を飲む二人を見るとなんというか…)
八幡(ひと仕事したっていうちょっとした達成感というか満足感というか…いや、素直に嬉しいと思える自分がいる)
八幡(…もしかして飼い慣らされている!?これが労働の喜び、社畜化の第一歩なのか!?専業主夫志望のこの俺が!?)ガーン
八幡(…ともあれ、だ)
八幡「…まあ、やることがあるっていうのはいいことだよな」ボソッ
結衣「ん?ヒッキー何か言った?」
八幡「いや、何も」
また後日
結衣「今日はあたしがお茶をごちそうします!」フンス
八幡「…は?」
結衣「だから、今日はあたしがお茶を入れてあげるの」
八幡「ちょっとマッ缶買ってくるわ」
結衣「むっ、失礼しちゃうなあ!あたしだって今まで昼休みにゆきのんと一緒に練習して、ちゃんと出来るようになったんだから!」
八幡「マジか…。大変だったな、雪ノ下…」
雪乃「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。由比ヶ浜さん、お願いするわね」
結衣「うん!見ててね、ヒッキーをぎゃふんと言わせてみせるから!」
八幡(うまいのか不味いのかどっちとも取れる言い方だなオイ。本当に大丈夫なのかマジで)
コポコポコポ…
結衣「よし!はい、どうぞ!」カチャッ
雪乃「ありがとう」
結衣「はい、ヒッキー」コトッ
八幡「お、おう…」
結衣「……」
八幡「……」
結衣「…飲まないの?」
八幡「猫舌なんだよ」
結衣「あ、そっか…」
八幡「……」フーッ フーッ
結衣「……」ジーッ
八幡(そんなに見つめんなよ、飲みにくいっつーの。そんなほのおタイプの伝説の鳥ポケモンばりににらみつけると俺のぼうぎょが下がっちゃうだろ)
八幡「…いただきます」ズズッ
結衣「……」ドキドキ
八幡「…うまい」
結衣「!」パァッ
雪乃「ふふ、だから心配ないと言ったでしょう?」
結衣「ありがとう、ゆきのん!どう?あたしだってやれば出来るんだから!」フンス
八幡「わかったわかった、疑って悪かったって」ズズッ
八幡(ずっと見つめられてたからぶっちゃけ一口目は味を感じる余裕なかったけどな)
八幡(ほんと由比ヶ浜は天然でぼっち男子を動揺させる行動してくるから油断ならん)
八幡(…だが改めて飲むと、確かに)
八幡「うまいな…ほんとに」
結衣「えへへ…ありがと、ヒッキー」テレ
八幡「……」プイ
八幡(だからそんな目で見つめられちゃ困っちゃうでしょ!もう俺のぼうぎょは下がりきってるっつーの!)
雪乃「……」ニヤニヤ
八幡(そんな俺の動揺してる姿の一部始終を見てニヤニヤしないでください雪ノ下さん。ここは早くお茶飲みきって読書に逃げよう)
八幡(…ん?っていうか本読みながら飲めばいいじゃん。動揺してて気づかなかったよどんだけテンパってるんだよ俺)
八幡「……」パラ
雪乃「上出来よ、由比ヶ浜さん」
結衣「えへへ…ゆきのんのおかげだよ」
さらに後日
雪乃「今日は私がお茶を準備するわ」
結衣「ゆきのんがお茶を入れるの久々だねー」
八幡「おい、それは下っ端の仕事じゃなかったのか」
雪乃「あなたにお手本を見せてあげることも兼ねてるのよ」
八幡「…ありがたいことで」
コポコポコポ…
雪乃「どうぞ」コトッ
結衣「いただきます」ズズッ
八幡「サンキュ」
雪乃「……」ジー
八幡「……」
八幡(何故あなたまで見つめてくるんですかね雪ノ下さん。だからドキっとするから睨み付けるのやめてくれっつーの。前はそんなに見てこなかっただろうが)
八幡(いや雪ノ下の場合「にらみつける」より「こころのめ」か。タイプ的にもこおりだしイメージはフリーザーさんだもんなコイツ)
八幡(ってそれ次のターン「ぜったいれいど」使われたら一撃死確実なんですけど)
雪乃「冷めるわよ?」
八幡「…だから猫舌なんだよ」
雪乃「そう言えばそんなことを言っていたわね。…どうでもいいことだからすっかり忘れていたわ」
八幡(ウソつけ絶対覚えてたゾ。…分かったよ、早く飲むよ)
八幡「……」ズズッ
八幡「…俺よりうまいな、やっぱり」
雪乃「!…ふふ、当然よ」グッ
八幡(そう言う割には小さくガッツポーズなんかして嬉しそうですね。そういや雪ノ下にお茶の感想を言ったのは初めてだったか)
八幡(究極と至高の料理の区別がつくほど上等な舌なんて持っていないが…)
八幡(それでも、心なしか自分で入れるお茶よりもうまいと感じるのは何故だろうか)
『つまりアレだ。男ってのは単純なんだよ。話し掛けられただけで勘違いするし、手作りクッキーってだけで喜ぶの』
八幡(…まだまだ俺も単純ってことか…。あれだけ勘違いして痛い目にあってきたのにな)
雪乃「……」ジーッ
八幡「……?」チラ
雪乃「!……///」プイ
八幡「……」
八幡(ハイ今死んだ!今ぼくのハート死んだよ!)
八幡(っていうか顔赤らめながら目を逸らすなよ可愛いじゃねえかよ畜生いつもの罵詈雑言はどうしたんだよお前!)
八幡「……」チラ
結衣「~♪」ニコニコ
八幡(コイツはコイツで今のやりとり見てニヤついてやがるし…なんか最近この二人に翻弄されっぱなしな気がする)
後日 比企谷家
八幡「…とまあ最近はこんな感じだな」ズズッ
小町「ほうほう!よかったじゃん二人に褒められて!紅茶を入れる練習した甲斐があったねお兄ちゃん」
八幡「確かに『余計な真似するな』って言われて努力が無駄になるよりはマシかもな」
小町「なかなかいい感じっぽくて小町も一安心だよ。こうしてお兄ちゃんが家で練習するおかげで小町も優雅なティータイムも満喫できるし?」ズズー
八幡「そのせいでお茶くみやらされるわ雪ノ下と由比ヶ浜にはニヤニヤされるわだし、最近マッ缶も飲めてないし…俺のソウルドリンクが…」
小町「しょっちゅうあんな甘ったるいの飲んでたら体壊しちゃうからいいんだよ」
八幡「そうだな…」
八幡「…まあ…紅茶も悪くないか」
おわり
乙です
乙でございます
よきかな
八幡「ハルノ君だっけ? 立ってるのも何だからここ座んなよ。お茶でも飲んで…話でもしようや……」 ジョボボボボ…
アバ茶www
八幡が実に気持ち悪いな
中学生の落書きかこれ
乙です
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