モバP「神様仏様しゅーこ様」 (8)
モバマスの塩見周子を主人公にしたSSです。
独自設定が多分に含まれます。アレルギーをお持ちの方はお控えください。
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「はぁ……」
通算七回目の家出ともなると、あたしも慣れたものだ。いつものように近所の稲荷神社にお邪魔している。境内の階段、特等席に座った。
あたしが悪いのはわかっている。でもどうしてもあの家を継ぎたいなんて思えなかった。そりゃ、立派な仕事かもしれないし、伝統、なんてものもあるのかもしれないけどさ。正直あたしにはよくわからない。よくわからないのによくわからないままやりたくはなかった。まあ、あたしのわがままだ。
「怒ってるやろなぁ……」
体育座りをしながら独り言をつぶやく。幸い、この神社は人が滅多にいなかった。知り合いに聞くと盛況してるってみんな口をそろえて言うが、あたしが来た時にあたし以外の参拝者を見たことはなかった。神社なんてそんなものなのだろう。
「あー……帰りたくない」
「帰りたくないの?」
「うんまぁ……気まずいし、怒られるし」
「そう。でもいつも帰るじゃない」
「そりゃ、お腹はすくしいつまでもこんなところに……ん?」
ふと、気づく。あたしは誰としゃべっているのだろう。
「こんなところで悪かったわね」
「わぁ!?」
後ろを振り向くと……超美人がいた。
「お、おねーさんなにしてんのこんなところで」
「あなたこそ、早く帰らないのかしら」
お姉さんは17、8歳のような少女にも見えるし、25歳ぐらいの女性のようにも見えた。
「あなた、早くここから出ないと『気に入られて』しまうわ」
「気にい……なんて?」
お姉さんは顔をピクリとも動かさずそういった。よく見るとお姉さんは銀髪に染め上げてるし、和服きてるし、なんとも時代錯誤な恰好をしていた。それに、
「おねーさんその……耳なに?」
「これは……生まれつきよ」
お姉さんの頭に……耳が生えていた。それも狐耳。もしかして……
「……コスプレ?」
「違うから」
きっぱりと断ったお姉さんからは若干怒気が含まれていた。
「ああ、ごめんごめん。別に馬鹿にするつもりとかないから」
「だから違うって」
どうやら琴線に触れてしまったらしい。お姉さんには悪いけど早めに退散しよう。
「それじゃ、お姉さんの言う通り帰りましょうかね」
「ええ、たぶん誤解は解けないでしょうけど早めに帰るべきだわ」
お姉さんが憮然とした表情で言い放つ。おおこわ。
これ以上怒らせないように、退散するため立ち上が……ろうとした。
「……あれ?」
「……やっぱり、気に入られてしまったのね」
手や足に力が入らない。むしろ、そのまま横になりたくなるような眠気が襲ってくる。
「なぁに……これ……」
「しょうがないけど、もうあきらめるしかないわ。いったん眠りなさい」
「何を……言って……」
そのままあたしは意識を手放した。
「ん……」
あたしは寝苦しさから身体をひねる。それを数度繰り返したあと、徐々に意識が覚醒してきた。
「んん……あぁ!」
ガバッと身体を起こす。あたしは家出して、変なお姉さんにあって、それで眠たくなって……。
左右を見渡すと、そこは神社の境内ではなかった。寝ていた場所も、苔の生えた石段ではなく木の床だ。どうやら、誰かの家にいるようで、床だけでなく、壁、柱、天井すべてが木で出来ている。まるで平安時代の家屋のようだ。
「お目覚めかしら」
またもや後ろから声がかかり、振り向くと先ほどのお姉さんが立っていた。
「…………」
「私をにらんでも意味はないわ」
お姉さんはそういうと、戸棚から湯呑と急須を取り出した。あいかわらずコスプレをしたままだが、家の雰囲気と和服が妙にあっていた。
「……ここ、お姉さんの家?」
「そうとも言うし、そうでないとも言えるわ」
お姉さんは今時誰も使ってないような囲炉裏に茶釜を掛けた。コスプレのなかでも、本格的な人のようだ。
「だからコスプレじゃないわ」
「いやだってこんな時代錯誤な……え?」
今……あたしは口に出してしゃべっていただろうか。
「いいえ、出していないわ」
「そうなんよ……あれ?」
「ただ私があなたの心を読んでいるだけよ」
お姉さんはこともなげに言うと、あたしの前に座った。
「さて、どこから説明しようかしらね」
あたしは、自然と不自然に右頬が上がるのを感じた。
そうね、まず私が誰であるかを言うわ。私は御饌津神」
「みけつの……神?」
「そう御饌津神よ。長いならミケツでもいいわ」
お姉さんは一切表情を変えずに言っている。そういえば、この人あった時からほとんど顔色が変わらない。
「え、じゃあお姉さん……神さま?」
「あなたたちからそう呼ばれている存在ではあるわ」
「い、いやいやまさかそんな!いくらなんでもそれはないやろ!」
あたしはのっけから自分が神というコスプレお姉さんがいよいよ怪しく見えてきた。さっきから飲ませてるお茶もなんか入ってるんじゃ……
「伏せ」
「はにゅう……はっ!?」
あたしはいつの間にかお姉さんの目の前で頭を垂れていた。
「な、なにこれ!?」
「信じてもらえたかしら」
「信じた!信じたからこれやめさせて!恥ずかしいから!」
頭をお姉さんに向けて下げる。それだけならまだしも、なぜかお尻を天に向けて突き上げていた。
じたばたと手を動かすことはできるが、肝心の頭と腰が全然動かない。
「戻れ」
「も、戻った……」
「神を疑うのはあまりいいことではないわ」
「そ、そういえば心読めるんだったわ……」
あたしは木の床にはっつけていた額をさすりながら言った。こりゃ、うかつにコスプレとか思えないなぁ……
「まだ伏せたいの」
「やっぱり疑ったことよりコスプレの方に怒って「伏せ」あーごめん!だからやめて!」
お姉さんに……いや、ミケツさんにコスプレ呼びは禁句のようだ。
「そ、それでそのミケツさんなんの用であたしをここに?」
二度目の伏せから解放されてから、あたしは改めて聞き直した。
「用があるのは私ではないわ」
ミケツさんは済ました顔で言う。
「それじゃ、どうしてあたしはミケツさんの家に?」
「それは、あなたが『気に入られた』からよ」
「気に入られた?なんか神社でも同じこといってたけど、どゆこと?」
「あなたは『気に入られて』しまったのよ。私のようなものよりかもはるかに大きな存在にね」
「えーっと、結局、そのもっと上の神様に気に入られてしまったからここにいるってこと?」
「そういう解釈で間違いはないわ」
「その、上の神様ってのは誰なのかわかる?」
「わからないわ。ただ人間を神格化させるほどの力よ。天地創造に関与していた神かもしれない」
「天地創造」
「ええ、天地創造」
出てくるキーワードがいちいちでかすぎて想像しづらい。
「天地創造に関わる神の名を一つずつ上げていこうかしら?」
「そういうことじゃないから。あとナチュラルに心読まんといて」
「……ナチュラル?」
「ああ、神様だからそういうのは疎いんか……あれ?でもコスプレは知ってたような」
「ボケよ」
「ボケかい!」
無表情でボケられてもわからんわ!
「ごめんなさい」
「だから心読むな!」
あたしは途方もないものに巻き込まれていることに気付きだした。目の前のミケツさんだけでもとんでもないのに、これよりもっと上の神様に気に入られている。
今日はここまで。
期待
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