少女「家に女の幽霊が出るんですけど」 (11)
「幽霊が出る部屋に友達が引っ越すことになってさ」
「怖いもの知らずの友達数人で、そいつの家に泊まりに行ったのよ」
「で、酒盛りしてる最中にまんまと出てきたわけ、幽霊が」
「それが女の幽霊だったんだけど」
「みんな酔っ払ってるから妙に盛り上がっちゃって」
「可愛いだの何だの言いながら、皆で服脱ぎだしたの」
「中には、ちょっと口では言えないような事を始めるヤツまでいて」
「それを見た幽霊は、顔真っ赤にして消えてっちゃった」
「それ以来、その部屋に幽霊が出る事はなくなったってさ」
「おしまい」
こんなお話を聞いた事があります。
ネットを調べれば、類似した怪談が沢山出てくるでしょう。
所謂「幽霊を怖がらない人間が一番怖い」的なお話です。
他にも、幽霊と仲良くなって最終的には恋をしてしまう漫画とかも。
まあ、良くあるストーリーですよね。
けど、ホントに、そんな事で幽霊が何らかの反応を示すのでしょうか。
ホントに恋愛に陥ることが可能なのでしょうか。
そんな事を、金縛りにあいながら、私は考えてしまっています。
だって。
だって、目の前に居る女の幽霊が、とても綺麗で。
何だか惹かれてしまったから。
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それは、長い黒髪を持つ女性でした。
綺麗な顔立ちをしているのですが、顔色は少し……いや、かなり悪いです。
触れると、きっと冷たいだろうなというのが、見ただけで判ります。
そんな彼女が、私が横たわっているベットの横に立っています。
ああ、何をされるのでしょうか。
ホラー映画の定番だと、私に顔を近づけて何か囁いたり。
布団の中から、ばぁと出てきたりするのですが。
ちょっと期待してしまいます。
私は別にレズビアンではありませんが、綺麗な物を間近で見たいという気持ちは人よりも強いのです。
ドキドキ。
ドキドキドキ。
しかし、彼女は何もしてきません。
私に触れることも、恨みの言葉を吐いてくることもしません。
いや、そもそも。
彼女は、私を見ていませんでした。
ボーっと壁を眺めているだけです。
壁には別に何もないのですけどね。
壁の向こうは道路ですから、有名な怪談のように「壁の中に彼女の死体が!」という展開もあり得ません。
そうしていくうちに、彼女は薄れて消えてしまいました。
それと同時に、私の金縛りは解けて動けるようになります。
「ふぅ、貴重な体験をしました」
「しかし、今の女性は誰なのでしょうか」
「幽霊さんなのは、確定でしょうけど」
「自縛霊、という物でしょうか」
「この部屋の家賃が妙に安かった事に対する疑問が、これで解消されましたね」
冷静な分析を試みつつも、心臓はまだドキドキしています。
だって、姿は見えませんが彼女はまだきっとここに居ますから。
どうしましょう。
取りあえず、パジャマのままだと恥ずかしいので私服に着替えましょうか。
……いや、待って下さい。
着替えも見られてるんじゃないですか、ひょっとして。
それは、ちょっと、困ります。
少女「……という事が、昨日の夜ありましたよ」
友達「へー、で、どうしたの?」
少女「苦肉の策で、布団の中で着替えました」
友達「そうじゃなくて、不動産屋か大家に事情を聞くべきでしょ」
友達「場合によっては引っ越さなくちゃならないだろうし」
少女「あー、その手がありましたね」
少女「まずは、幽霊さんの情報を調べる事から始めないと」
少女「もしかしたら友達になれるかもしれませんし」
友達「……あのさ」
少女「はい?」
友達「幽霊と友達になるってのは、無理だから」
少女「むむむ、そうでしょうか」
友達「そうだってば、連中は、まあぶっちゃけて言うと時間が止まった存在だから」
友達「向こうには確かに意識らしきものがあるけど、それは生前の残滓にしか過ぎないの」
友達「例えば、録音された音声に幾ら話しかけても、会話にはならないでしょ」
友達「それとおんなじ」
少女「むう、寺生まれの貴女が言うのであれば、確かにそうなのかもしれませんが……」
友達「まあ、あれね、一番確実なのは、私が、その、えっと、貴女の部屋に……泊まりに行くことね」
友達「弱い幽霊くらいなら、どっかに追い払うことくらいは出来るから」
少女「おー、それは、あれですね、お酒を飲んで幽霊さんの前で裸踊りをする流れですか」
友達「どんな流れよ……」
友達「で、どうなの、行ってもいいの?」
少女「うーん、幽霊さんを追い出すかどうかはさておき、専門家の意見を聞きたいと言うのはありますから」
少女「おっけぃです」
友達「ホント?やった」
少女「そんなに嬉しいんです?」
友達「……いや、別に」
少女「まあ、私も友達が多い方ではありませんし」
少女「友達を部屋に招くという機会も、今までありませんでしたから」
少女「少し嬉しくはありますね」
友達「そ、そっか」
友達「私がはじめてなんだ」
少女「それじゃ、帰る前にマーケスに寄って食べ物とか買って行きましょうか」
友達「そ、そうね、夜は長いものね」
~少女の部屋~
友達「お邪魔しまーす……」
少女「どうぞ、遠慮なさらず上がってください」
友達「うんと、食べ物とかはこの辺に置いておくね」
少女「はい、えっと早速ですが」
友達「な、なに?」
少女「幽霊さん、見えます?」
友達「……ああ、そうね、そういえばそうだった」
友達「お泊りに気を取られて忘れてたわ」ボソボソ
少女「え?」
友達「何でもないよ、えーと、見た限りはいないけど……あ、居た」
少女「ど、どちらですか?」
友達「ベットの脇に座り込んでる……何やってんだろアレ」
少女「……うーん、見えない」
友達「そりゃ、こんだけ弱い幽霊なら、見えないでしょうね」
友達「多分、眠ってる間に一時的に波長が合って見えちゃったんだと思う」
友達「まあ、1年に1回くらいは運が良ければ見えるだろうなってレベル」
少女「え、えええー……」
友達「いいじゃない、こんなに貧弱だと追い出す必要性もないと思うわ」
少女「えええええええええー……」
友達「ガッカリしすぎ」
少女「ううう、折角結ばれた縁が途切れてしまう……」
友達「さっきも言ったけど、幽霊と縁が出来ても意味ないって」
友達「連中と私達は、生きてる所が違うの」
少女「けど、幽霊が人を憑り殺すみたいな話を時々聞きますけど」
友達「それは、単に向こうの波長に引っ張られただけね」
友達「彼らは死んでるんだから、その波長に合わせて行動してしまうとドンドン衰弱して行っちゃうの」
友達「集中力も散漫になるから、些細な事故にあう可能性が増大する」
友達「けど、そこには幽霊達の意志は関係してないの」
友達「だから友達になるのは無理、わかった?」
少女「……」
友達「ほら、晩御飯の支度しよう?お鍋にするんでしょ?」
少女「見えるように、出来る事は出来ますか」
友達「まーだそんな事言ってるの、そんなの意味ないって……」
グイッ
友達「ひゃっ!?」
少女「見えるようにする方法は存在しない……とは言わないんですね」
少女「という事は、方法は、ある、と考えていいんですか」
友達「ち、近い、顔近いって///」
少女「ねえ、私達は、友達、ですよね」
友達「う、うん、と、友達だよ///」
少女「友達は、助けあう、べきですよね」
友達(あ、顔が、近づいて……唇が……唇が、あたっちゃう……)
少女「ね?」
友達「わ、わかった、わかったからぁ///」
友達「はぁ……はぁ……はぁ……」ドキドキドキ
少女「ふう、どうですか、クラスでも無表情で怖いぃと言われている私の顔を間近で見た気分は」
少女「この手の脅しを使うのは本意ではありませんでしたが、まあ仕方ありません」
友達「べ、別に怖くは無かったけどね、寧ろかわいいし……」ドキドキ
少女「強がる事はありませんよ、クラスでもこの技に耐えられた人は存在しません」
友達「それは、たぶん違う理由で耐えられなかったんだと思う……」
少女「では、約束通り幽霊さんを見えるようになる方法をば」
友達「はぁー……まあ、いいけどね、見えるようにするだけなら害はないだろうし」
はよ
そう言って、彼女は懐から出した紙に何かを書き始めました。
ちょいちょいちょいと。
友達「はい、これを持ってればアレが見えるようになるはずよ」
友達「但し、他の幽霊は見えないからね、アレ限定」
少女「こんなチラシの裏に書いたもので大丈夫なのですか?」
友達「平気平気、ほら、見てみ」
少女「うーん……あ」
見えました。
ちょっと驚きですが、確かに幽霊さんが蹲っているのが見えます。
わーい。
幽霊さんは、先日見たまま、青白い顔をして床を眺めているようでした。
何を見てるのかな。
絨毯に、何か気になる物でも付着しているのでしょうか。
私は取りあえず、ファーストコンタクトをとってみることにしました。
少女「幽霊さん、はじめまして、私は先日からこの部屋に住み始めた者です」
少女「宜しくお願いしますね」
少女「うふ」
精一杯可愛いしぐさで挨拶してみたのですが、返事はありません。
不思議に思い、友達を見上げます。
友達「いや、だから会話とかは出来ないって、見えるだけ」
友達「もし仮に向こうの声が聞こえたとしても、それはソイツの独り言だから」
友達「貴女に対して何らかの反応が返ってくるとは、考えない方がいいよ~」
友達「ほら、それよりお鍋しよう、お鍋」
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