王「や、やきゅー……?」勇者「はい、野球です」 (20)

王「そ、その野球とやらは、いったいなんなのじゃ?」

勇者「球技です」

王「……すまぬ勇者。その、球技についても」

勇者「ボールを使ったスポーツです」

王「すまぬスポーツもボールもまったくわからぬ!!」

勇者「わかりました。順を追って説明しましょう」

王「うむ、その前にな」

勇者「?」

王「それが魔王討伐の旅にどのような影響が」

勇者「それはお聞きいただければわかります。少しお時間を」

王「ほ、ほお……」

勇者「スポーツというのは、人間の身体技能を使った遊びになります。走ったり、跳んだり、投げたり、という動きなどのことですね」

王「ふむ、以前城で行った剣技大会みたいなものか?」

勇者「そのような感覚ですね。剣ひとつでも、相手を倒すことを第一の目的としたり、反対に一人だけで剣を振って、その型の美しさを競ったりなど、様々な側面から楽しむことができますよね」

勇者「野球は『ボール』という球体を投げ、それを人間の半身の長さほどの棒、『バット』で打ち返す。この動作が流れの軸となるスポーツになります」


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王「……すまぬ」

勇者「いえ、わかりませんよね。では僧侶、あれを」

僧侶「は……」

王「……勇者よ、僧侶もその野球とやらをよく」

勇者「知りませんね。私が先ほど思いついた競技ですから」

王「なのになぜあれだけ……」

僧侶「王、これを」

王「あ、ああ……これか、バットとボールは。……ん?」

勇者「はい。こちらの赤い縫い目がついている球、これがボールになります。大体私がここに戻るときに使用した『帰還のオーブ』と同じサイズですね」

王「ちょ、ちょっと、勇者よ?」

勇者「なんでしょうか」

王「これ、帰還のオーブではないのか?」

勇者「違います」

王「答えるのがやけに早くないか?」

勇者「普通です」

王「いや、これ、周りに鞣し皮を巻いた帰還のオーブでは?」

勇者「野球のボールです」

王「帰還のオーブ、出してみよ?」

勇者「………」

王「ほら、ほら!」

勇者「……僧侶」

僧侶「……は」

勇者「帰還のオーブ、王にお見せしろ」

僧侶「………」

王「僧侶の汗すごくないか?」

勇者「僧侶は元から汗かきです」

僧侶「……は、は」

王「声震えちゃってるではないか? なんか苦し紛れに笑ってるみたいではないか?」

勇者「そんなことはありません。……僧侶、オーブを」

僧侶「………ば、馬車の、なかにヒィ……!」

なかなか無い設定だな
期待

ワンさん?

ホームラン868本打ちそう

貞治だと思ったじゃねぇか

王「裏返ったではないか?」

勇者「僧侶は少々喉を悪くしているのです。僧侶、持ってきなさい」

僧侶「勇者様……」

王「僧侶もう『正気ですか』って言う口になってるぞ?」

勇者「僧侶……『君の母の作る料理は、美味いな』」

僧侶「行ってまいります」

王「もういいから!! というかその話はあとでわしにじっくり聞かせてくれ!」


勇者「僧侶は体調が優れないとのことで一度休養させました」

王「うむ……」

勇者「気を取り直して、このボールとバットをどう使うかをご説明します。王」

王「うむ?」

勇者「私はここから少し離れますので、このボールを王座からこちらに投げてください」

王「わかった……もうよいか?」

勇者「はい。ばっちこーい!!」

王「ば、ばっち……ええい、なんでもいい!」ポイッ

王「ば、ばっち……ええい、なんでもいい!」ポイッ

勇者「ふんッ!」ブルンッ

王「……」

勇者「これが空振りです」

王「あ、ああ。実演か。なるほどな」

勇者「これをすると『ストライク』という判定になります。これが三つ重なると『アウト』になり、またこれが三つ重なって『チェンジ』となります」

王「チェンジになると、なにが起こるのだ?」

勇者「まあまあ、今度は打ってから説明します。ボール、もう一度投げてみてください」

王「わかった。ほいっ」ピュッ

勇者「ふんッ!」ブルン

王「……」

勇者「……」

王「……もう一回やるか?」

勇者「いえ、王。すみませんが手で持ったボールを、このバットに当ててください。私が構えていますので」

王「諦めが早いな……」

勇者「王が予想以上に良いボールを投げるのですよ……」

パワポケの裏サクセスを思い出す
支援


勇者「そうです。これで、ボールが飛ぶのです」

王「ふむ。それで、どうなるのだ」

勇者「ボールがフェアゾーンに入らない場合はファールになります。ノーバンでキャッチしたりランナーがファーストに到達する前にファーストミットにボールが届く、またはファーストミットにボールが入ったままバッターランナーにタッチを」

王「いやがらせだな? 先ほどわしのボールが打てなかったからいやがらせしているのだな?」



勇者「ルールは大体覚えられましたか?」

王「うむ。まだタッチアップやフォースアウト辺りがわからぬが、御主のやりたいことは存分に理解できた」

勇者「では、今度は王がバッターをしましょう」

王「きゅ、急ではないか?」

勇者「いえいえ。こここそ野球の醍醐味ですから。もちろん、王がお打ちできるように、配分しますので」

王「むう、なら……やってみるか」

勇者「はい、じゃあ少し離れますね」

勇者(調子乗りジジイが。俺は元々バッターよりピッチャー向きなんだよ!)

王「勇者、少し遠くはないか? マウンドとホームベースの距離とはそれほどにあるものか?」

勇者「はい。では、行きますね」ズサァッ


王「なッ……なんだその豪快なピッチングフォームは!? ボールが背中の後ろに隠れて……見えんッ!!」

勇者「これが私の、ストレートです――よッ!」ピシュッ

ズバァン!

戦士「……ストライク」

王「………」

勇者「すみません、少し肩が慣れておらず、王に無礼を……」

勇者(ぷくくっ、超面白いなあの顔! まるでなにが起こったか分かってねえみたいだ!)

勇者(それにフォームもなんだあれ、ビビッて前に出た足がそんまま上がっちまってる……フラミンゴかな? くはは! 傑作!)

勇者「次はもう少し力を抜いて「かまわぬ」やりま……はい?」

王「――かまわぬ。同じボールを、投げるがよい」

勇者「……わかりました」

勇者(ついに耄碌したかあのジジイ……でも、あの顔は――まさか、俺の球を見て『打てる』、そう思ったと?)

勇者「……バカバカしい」ボソッ

勇者(そんなことあるはずがない。俺がこのストレートをどれだけ磨き上げてきたのか、こいつは感じなかったのか?)

王「早くしろ、勇者」

勇者(またあのフラミンゴ足……ジジイ、何を考えてるんだ?)

勇者「ッ、どうなっても、知りませんよ――ッ!!」ビシュッ

勇者(来たァッ!! ど真ん中、だがこの感覚は――俺のベストのストレート!)

王「……」

ニヤ

勇者(!? あいつ今、笑っ――)



ガッ――キーーン…



王「……なるほど。これが、

  『ホームラン』か」



 これは『野球』というスポーツに愛されたとある一国の王が、
 生涯に『868本のホームラン』を生み出し、

 
 
 ――『世界の王』と呼ばれることになる、それまでの物語である。

すき

面白かった!
次回も期待

さいしょからさいごまで読んでいただきありがとうございました
だいぶ展開が読まれるのが早かった(>>5-7)のでぱぱっとまとめてしまいました
はじめてSS完結まで書けたので個人的にもうれしい限りです 次の作品も読んでいただけ
ると幸いです ほな、また……。

乙。そりゃ野球で王って言われたらねぇ。




スレタイで王さんに野球を語るとか何様のつもりだこの勇者と思った

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