女「寒いなぁ…」男「そっか」 (19)
冬が好きだ。
何よりも寒いのが。
手袋にマフラーだってできる。
寒いのを口実に抱きついても許される。
夏場はそうはいかない。
だから冬が好き。
寒いなぁ…とぼそっと呟いた。
君はどうしてくれるんだろう?
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女「ねえねえ、男は冬って好き?」
男「うーんどうだろう。寒いのは嫌かな」
女「そっか…ちょっと残念だな」
男「でも冬は好きだよ?星も綺麗だし雪も降るから」
女「よかった。そうだ、今日流星群来るじゃん」
男「そっか、そうじゃん。見に行くの?」
女「ちょっと迷ってるんだよねー」
分かりやすく「誘え」ってアピール
男「あははっ。じゃあ行こうか?」
女「うんっ!」
男「何時ぐらいからだっけ?」
女「んーとね…確か11時ぐらいからだったかな」
男「じゃあ10時ぐらいに待ち合わせしようか?」
女「いいよ。場所は?」
男「神社の近くのとこでどう?」
女「分かった。それじゃまた後でね」
男「うん」
天体観測デートだ やったね
男も私もお互いに好きだって分かってるのに
全く告白をしようとしないで
ズルズル仲良しのままなんだよね
そろそろ告白してくれないかなぁ…
いや、別に私が告白しても良いんだけど…
女「早いね…まだ9時半だよ?」
男「女だってそうじゃん」
女「確かにそうだね…行こっか」
男が早めに来てる、それだけで嬉しくなる
女「ねえねえ、少し神社に寄っていかない?」
男「神社?」
女「うん。私、夜の神社ってわりと好きなんだ」
男「いいよ、寄っていこう」
神頼みもたまには良いよね?
女「良いよねーこういう雰囲気。なんて言うんだっけ?」
男「ホラー、かな?」
女「なんか違うと思うよ?」
男「なんだろうね…まあ雰囲気は確かに良いね」
女「でしょでしょ!ほらお参りしよ」
男「お参りまですんのかい…」
チャリンチャリン
ペコペコ
パン!パン!
男、女「………………」
ペコッ
女「何をお祈りしたの?」
男「お祈りしたことを言ったら叶わなくなるってばーちゃんが言ってたから言わない」
女「何それ?」
男「分かんない。迷信かもね」
女「なら教えてよー」
男「やだ」
つまんないの 教えてくれても良いのに
男「ここ、2人で来るのは久しぶりだね」
女「誰かと来たりするの?」
男「友だちと来たり1人で星を見に来たりね」
女「へぇ…、あ、そこ滑るよ」
男「おっと、ありがと」
手、繋ごうか?なんて期待してないもん
女「ふぅ…やっと着いたね」
男「そうだね…大丈夫だった?」
女「うん…あーちょっと寒いかな」
男「良かったらコート着る?」
女「大丈夫。ありがとね」
遠回しに言うんじゃダメなのかな
男「ね、街めっちゃ綺麗だよ」
女「うわぁ…ほんとだ…すごい」
男「嫌なこととかあるとさ、たまに来るんだよね」
女「そんな場所、私に教えて良いの?」
男「んー女なら良いかなって」
ずるいよそんなの…期待しちゃうじゃん…
女「あのさ…それってどういうこと?」
男「あっ…うーん…お好きなように」
お好きなように?
女「良いの?ほんとに好きなようにとっちゃうよ?」
男「うん、いいよ」
女「それってさ…あ…」
男「ん?」
女「今、流れ星が見えたの」
男「なんかお願いできた?」
女「そんな暇ないよ。気づいた時には消えちゃったもん」
怖気づいちゃった
肝心なとこで、って意味で私らしいな
神さまと流れ星にお願いしたら流石に叶うかな
男「そっか。次はお願いできると良いね」
女「男はなんてお願いする?」
男「うーん…願いが叶いますようにってお願いしようかな」
女「なにそれ?」
男「さっきお参りした時の願いだよ。女は?」
女「じゃあ私もそうする」
男「真似すんなよー」
女「えへへ。あ、また」
男「うそ、見逃した…あっ見えた」
女「けっこう来るね」
男「そうだね。うわぁ…綺麗」
女「ほんと綺麗」
あんまり綺麗だったからお願いし忘れちゃった
男「あー首痛い…」
女「私も…」
男「そろそろ帰ろっか?」
女「もう少し夜景見てても良い?」
男「あ、じゃあ俺も見る」
気を使ってくれたんだろう 優しいな
女「あのね…ほんとはね」
男「うん?」
女「言おうと思ってたことがあるんだ」
男「言いたいこと?」
女「うん。けっこう前から言おうと思ってたんだけど…」
男「………」
女「私ね…男のことが…」
男「はっ…はくしょん!」
女「ど、どしたの…?」
男「なんか冷えたみたい…ごめん、それでなんだっけ?」
女「ううん、やっぱなんでもない」
男「ん、そっか」
男も薄々感づいてはいたんだろうな
私と付き合いたくないのかな
なんで遮ったんだろう
さっき怖気づいたバチが当たったのかな
わざわざあんな小芝居まで打って
下手くそなくしゃみだったな
男「今日はありがとね」
女「私こそ。ありがと」
男「じゃ、また明日ね」
女「うんまた明日ー」
結局、最後まで言えなかったな
チャンスだったのにね
男「おはよ」
女「ん、おはよう。今日寒いね。午後から雪だってさ」
男「らしいね。雪ってちょっとワクワクしない?」
女「あーわかる。なんか子どもに戻った気がするよね」
雪ってなんであんなにワクワクするんだろう
男「あー…ちょっと降ってんね」
女「今から少し弱まるみたいだしこのまま帰ろうよ」
男「そうしよっか」
さく、さく
積もり始めた雪を踏みしめる
なんとなく気持ちが昂る
男「積もり始めてるね。何センチぐらい積もるかな?」
女「10センチぐらいってニュースで言ってたよ」
男「そんなに…。雪だるまとか作れるね」
女「この年になって雪だるま?…うん、ちょっと良いかも」
男「小さい頃に作ったの覚えてる?」
意外だった 男がそんなこと覚えてるなんて
女「うん。次の日に溶けちゃってて私が泣いた時でしょ?」
男「そうそう。今度は泣かないよね?」
女「どうだろう。悲しかったら泣くかもね」
悲しいのは別な理由だけど
女「はーっ」
男「真っ白だね」
女「うん…そうだね」
男「どうかした?」
女「ううん…寒いなぁって思ってさ」
男「ちょっと待ってて…えーっと…あった、はい」
女「これ…?」
男「ネックウォーマー。あったかいよ?」
女「ありがと…うん、あったかい」
期待してたのと違ったけど
これはこれであったかくて
なんだか満たされた気持ちになった
男「そのネックウォーマーさ、ほんとにあったかいんだよね」
女「あ、これ私が去年あげたやつ?」
男「そうそう」
女「大事にしてくれてたんだね…ありがと」
男「いやまあそりゃ…うん…」
お茶を濁すような言い方が引っかかったけど
特になにも言わなかった
男「女?急に立ち止まってどうしたの?」
女「あのさ…」
男「うん?」
女「男はさ、この前お参りした時の叶った?」
男「あー…いや、叶いそうで叶ってないんだ」
女「ふーん…私もなの」
男「私もって?」
女「叶いそうで叶わないの」
あれ、どうしたんだろう
口が勝手に動き出した
ネックウォーマーのおかげかな
男「へぇ…叶うと良いね」
女「男こそ」
男「…………」
女「…………」
男、女「「あ、あのさ!」」
男「あっごめん…お先にどうぞ」
女「こっちこそごめん…。今、たぶん同じこと考えてたよね」
男「どうだろうね?」
女「同時に言ってみない?」
男「いいよ。じゃあ…せーの!」
男、女「「この前のお願い教えあわない?」」
男「あははっ…あははは!」
女「あはは!!やっぱそうなんだ?」
ああよかった
不思議な安堵感に包まれた
男「女はなんてお願いしたの?」
女「男から教えてよ」
男「あー………」
女「ほら早く」
ほぼ確信に変わったからわざと言ってみる
男「その前にさ、ちょっと良い?」
女「良いけどなに?」
男「うん…いやぁ…少し待ってもらえる?」
女「うん」
期待しちゃうじゃん
やめてよそんなの
男「お待たせ。女ってさ、好きな人いる?」
女「いるよ」
男「その人に告白されたらどうする?」
女「即オッケーだと思うな」
男「じゃあ好きじゃない人からされたら?」
女「うーん…たぶん断るかな」
男「そっか……」
女「うん…」
すごい緊張する
こんなに緊張することは人生で何度もないね
男「じゃあさ…俺が告白したら…?」
女「男が…?………試しに告白してみてよ」
男「試しに?」
女「ほらほら」
男「………ずっと好きでした。付き合ってください」
女「………うん…!」
ああやっと
やっと男と付き合える
そう考えたら涙が溢れてきた
男「ほんとに…?」
女「遅いよバカ…ずっと待ってたんだよ……」
そのまま男に抱きついてしばらく泣いた
雪はいつの間にか止んでいた
女「それでなんてお願いしたの?」
男「そりゃ…女と付き合えますようにって…女は?」
女「私は男と付き合えますようにって…2人して同じことお願いしてたんだね」
男「みたいだね」
やっぱりか、と思いつつ安心する
よかった 本当によかった
女「あのさ…少し寒いなぁって思うんだけど」
手を彼に差し出して言う
男「そっか」
その手を握って彼のポケットに入れてくれた
今までで一番あたたかいポケットだった
そのまま歩きながら言う
女「来年はさ、なんてお願いするの?」
男「どうしよっか?」
そんな質問、答えるまでもない
そんな風に彼の手が私の右手を握ってきた
少し立ち止まって見つめ合う
男「………」
女「………」
男「…あははっ」
女「…えへへっ」
そしてそのまま歩き出した
こんな日常が続きますようにってお願いしながら。
おわり
以上です。
今回から酉を付けてみました。どこかで見たら暖かく見守ってください。
お付き合いいただきありがとうございました。
乙
乙
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