高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「手がかじかむ日のカフェで」 (39)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「加蓮ちゃん。あけまして、おめでとうございます」フカブカ

北条加蓮「あけましておめでとー。今年もよろしくね、藍子」

加蓮「……って、それもう言ったでしょ? カウントダウン、藍子の家でやったんだから」

藍子「そうですけれど、ここでも言いたくてっ」

加蓮「同じこと、初詣の時とか事務所に行った時にも言わなかった?」

藍子「加蓮ちゃんだって、今年もよろしくって毎回言ってくれますっ」

加蓮「だって藍子につられてさー……」

藍子「私だって、加蓮ちゃんを見たら言わないとって気になっちゃいますっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「お互い様ってことにしちゃおっか」

藍子「お互い様ですねっ」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第42話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「冬日のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「18時のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「瑞雪の聖夜で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で よんかいめ」

謹賀新年 今年も何卒よろしくお願い致します。

藍子「外、すっごく寒いですね」

藍子「手も冷たくなっちゃいました。かじかんで、メニューが掴めません~」

加蓮「ん」ヒライテアゲル

藍子「ありがとうございますっ♪」

加蓮「狙ってたでしょー」

藍子「実はちょっとだけ」

加蓮「やらしーんだ」

藍子「加蓮ちゃんなら、きっと優しくしてくれるって思ったんです」

加蓮「言い方言い方」

藍子「?」

藍子「はーっ、はーっ」(両手をかざして暖かい息を吹きかけながら)

藍子「うぅ、やっぱりすぐには暖かくならないですっ」(手をこすり合わせて)

加蓮「手袋とか持ってこなかったの? ほら、毛糸の。ぎっしり入ってるじゃん」

藍子「外に出た時はそんなに寒くないって思っちゃったから……。加蓮ちゃんは?」

加蓮「私は事務所帰りだし、モバP(以下「P」)さんに押し付けられちゃって。持ってきてまーす」スッ

藍子「なるほど~。……!」キュピーン

加蓮「ん?」

藍子「か、かれんちゃん!」

加蓮「うん。……なんか声がすっごい裏返ってない?」

藍子「ごほん。……わ、わー。なんだろうなーあれー」チラッ

加蓮「は……?」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……あぅ」

加蓮「……????」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……か……加蓮ちゃんの気を紛らわせて首にえいって手を当てたかったんです! ほらっ前に加蓮ちゃんにやられちゃったことがあるからその仕返しで!」カオマッカ

加蓮「あ、そう……」

藍子「なんであっち向いてくれないんですか~~~~!」

加蓮「なんでその雑にもほどがある演技に引っかかるって思ったの!? 棒読みすぎて逆に何狙ってたのか分からなかったよ一瞬!?」

藍子「うぅ。だって……本当にやったら加蓮ちゃん、びっくりしちゃうかもしれないって思って、そうしたら声が裏返って……うぅ、恥ずかしい~~~っ」

加蓮「ならなんでやろうとしたの!?」

藍子「思いついたらやりたくなるじゃないですかぁ!」

加蓮「はあ!? 分からなくも……ないけど……」

藍子「ですよね!?」

加蓮「いや、今の藍子は分かんないけどね」

藍子「加蓮ちゃんなら大丈夫ですっ!!」

加蓮「何が!?」

藍子「何かは分かりませんけど!」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……な、何か言ってぇ……」ナミダメ

加蓮「いや、なんか、もう……。……!」キュピーン

加蓮「あーあ。そっか、藍子はそんなことをしようとしてたんだね。残念だなぁ~」フゥ

藍子「うぅ、ごめんなさい。……でもっ。加蓮ちゃん、前に私に同じことしたじゃないですか――」

加蓮「藍子の手があまりにも冷たそうだったから温めてあげようかなって思ったけど、藍子がそういうつもりならやめとこっかな~」

藍子「へ?」

加蓮「あーあ。私は寒い中歩いてきた藍子が可哀想だと思って、私にできることがあったらやってあげようとしたのになー。藍子はそういう意地悪なことしか考えないんだー。そっかー」

藍子「え、あ、その……あ、あぅ……」ショボン

加蓮「……」

藍子「うぅ……」チヂコマリ

加蓮「……手」

藍子「?」

加蓮「出して。こう、前に」

藍子「ふぇ?」スッ

加蓮「ん」ギュー

藍子「ひゃっ。加蓮ちゃん、そんなにぎゅって握ったら加蓮ちゃんの手が冷たくなっちゃいますよ……?」

加蓮「ここ暖かいしへーきへーき。ほらほら、ぎゅー♪」

藍子「わ。……あったかい……♪」

加蓮「次からは手袋を忘れちゃダメだよ?」

藍子「はーい。ありがとうございます、加蓮ちゃん♪」

加蓮「どーいたしましてー」

(しばらく経過してから)

加蓮「もう大丈夫かな?」スッ

藍子「お陰さまで、メニューもちゃんとめくれそうです。ほらっ」パラパラ

加蓮「よかった。……あーそうだ。今更だけどさっきのアレ、ほとんど演技だからね? 一応言っとくけど」

藍子「ふふ。知ってますよ~。加蓮ちゃんはそんなに冷たいことを言わないって、私、分かっていますから♪」

加蓮「……見透かされた笑顔がなんかなぁ」

藍子「加蓮ちゃんって、やっぱり優しいですよねっ」

加蓮「言っとくけどホントに"全部が"演技だからね? 最初は藍子の手を暖めてあげようって思ってた訳じゃないし」

藍子「でも、温めてくれました。ぎゅって」

加蓮「演技ではあるけど、突き飛ばすだけ突き飛ばしてアフターフォローなしっていうのは最悪でしょ? 最低限やることやっただけだよ」

藍子「温めてくれたことにはかわりませんから♪」

加蓮「……はいはい」

藍子「だから、やっぱり加蓮ちゃんは優しいんです」

加蓮「あんまり何回も言うなら今から外に出て手を冷たくして藍子の首筋をまさぐるよ?」

藍子「ダメですよ~。そんなことしたら加蓮ちゃん、手も体も冷たくなっちゃいます! ここはぽかぽかしていますから、ここにいましょ?」

加蓮「……本当に優しいのは藍子の方だと思うんだけどね」

藍子「?」

加蓮「来る途中にさ、手袋を取りに帰ろうとか買って行こうとか思わなかったー?」

藍子「だって、そんなことをしたら加蓮ちゃんを待たせちゃうから……」

加蓮「それくらいで怒るほど私は鬼じゃないってーの」

藍子「だから早くここに来たくて。……でも、歩いて来る最中に、持ってくればよかったって何度も後悔しちゃいました」

加蓮「あー、そういうの分かる。もう1枚羽織ればよかったー、って思ったりするよね」

藍子「しますしますっ」

加蓮「逆に、もう1枚減らせばよかったー、って思ったりも」

藍子「私、寒いのはちょっと苦手なので……あんまり思わないかも?」

加蓮「そっか。ほら、私って放っておいても周りが重ね着させてくるし」

藍子「あぁ……」

加蓮「我慢するのもオシャレなのに」

藍子「よく美嘉ちゃんや唯ちゃんが言っていますよね」

加蓮「加蓮ちゃんはもこもこな格好もいいんじゃないー? ってすっごく楽しそうに言われてさー。なんか、そーいうのは違うっていうか」

藍子「前に事務所でキグルミみたいにもこもこされている加蓮ちゃん、可愛かったですっ」

加蓮「あー、あれは凛と奈緒のイタズラだよ。あんにゃろめ、私がどこまで重ね着できるか実験だー、とか言っちゃって。脱ぐの大変だったんだからね?」

藍子「最後には立ち上がれなくなって、コロコロされちゃってましたよね」

加蓮「せっかくだから誰かの足をひっかけて道連れにしてやりたかったのに。藍子ー、なんであの時に逃げたの」

藍子「だって、加蓮ちゃんと目が合った時に『イタズラしちゃえ♪』って言っているような気がして」

加蓮「実際心の中で言ってた」

藍子「だから、逃げちゃいました」

加蓮「ちぇ」

藍子「でも、変に気を遣われるよりは……加蓮ちゃんも、こっちの方が気が楽になりますよね?」

加蓮「そーなんだけどね。だから本気で文句は言えない」

藍子「加蓮ちゃんが本当に嫌がっていたら、凛ちゃんも奈緒ちゃんも、きっとやめていましたよ」

藍子「それに、その時は私だって、全力で止めに入っちゃいますっ」

加蓮「変に空気を読める人が多すぎるんだよね。いや、ホンキでギスギスするよりはずっといいんだろうけど……なんかこう、違和感がねー」

藍子「違和感、ですか?」

加蓮「人ってもっとギスギスするものだって、ちっちゃい頃の加蓮ちゃんは全力で思っていたものだから」

藍子「あー……」

加蓮「相変わらず、心地よすぎて困るよ。事務所も、それにここも」

加蓮「あんまり完璧すぎる物ってさ、逆に引かれちゃうじゃん。Pさんも言ってたっけ。ちょっと人間臭いところを見せるくらいが、アイドルとしてちょうどいいって」

藍子「生々しいお話でしたよね……。私、思わず苦笑いしちゃいました」

加蓮「私もー。たぶんアレ、完璧なんて目指さなくていいって話だったとは思うけど……そこそういう風にぶっちゃける!? って感じ。業界人だからこその言葉だなー、って感想もあったけど」

藍子「でもPさんの言葉も分かる気がします。私」

加蓮「そお?」

藍子「昔の加蓮ちゃんが、そんな感じでしたから」

加蓮「昔? ちっちゃい頃……あ、違うか。出会ったばっかりの頃って話?」

藍子「はい。綺麗すぎたら近づきにくくなっちゃいますよ。私じゃなくても、きっと」

加蓮「あの頃は……色々あるけど、ほら、真のアイドルは孤高っていうか、キラキラしてるところだけ見せてる物だって思ってたところもあって」

加蓮「……ふふ。思えば馬鹿だよね、私」

藍子「どっちも加蓮ちゃんです。馬鹿なんかじゃないですよ。……それに、近づけてよかった、って、今は心の底から思います」

藍子「ここでこうしている時間ができて、本当によかった、って。あの時に加蓮ちゃんから逃げていたら、こんなに幸せな時間は生まれなかったと思うから……」

加蓮「…………藍子」

藍子「?」

加蓮「そういう顔でそういうこと言うの、ダメだと思う」

藍子「加蓮ちゃん? あれ、少しだけほっぺたが赤くなってる……?」

加蓮「がーっ!」

藍子「ひゃっ」

加蓮「いきなりそんなこと言われたら照れるでしょー、もう。……完璧っぽいって言えばよく言われるなぁ。私がこんなに砕けた感じだとは思わなかった、って」

加蓮「アイドルになってから……ううん、もうちょっと後かな。それこそ藍子とここで喋り出した頃から、少し友達が増えたの」

加蓮「で、みんな言うんだよねー。ほっとしたとか、もっと堅い人だと思ってたとか。生真面目すぎて近づけなかった、なんてのもあったっけ。だいたい男子からだけど」

藍子「今の加蓮ちゃんからは、想像もできない言葉ですね」

加蓮「だねー。……あれ? 藍子藍子。それは今の私は真面目でもないしふざけてばっかりの嫌な奴って言いたいのかな?」

藍子「その辺がですよ。そうやって、からかってくるところ」

藍子「私、そこまで言ってません。どっちも加蓮ちゃんだってさっき言いましたっ」

加蓮「……なーんか反応が慣れた感じでムカつく。前はもっとこう、ちちち違いますっ! 私そんなつもりじゃ! とか慌ててたのに」

藍子「加蓮ちゃんに慣れちゃいましたから」

加蓮「加蓮ちゃんに慣らされちゃったかー」

藍子「前の方が良かったですか?」

加蓮「良かったって言ったら演じてくれたりする?」

藍子「演じませんけれど」

加蓮「はくじょー」

藍子「演じてほしいんですか?」

加蓮「んー……いや、いいや。別に私、理想の相手が欲しいから藍子といる訳じゃないし」

藍子「理想の相手……」

加蓮「第一、藍子のボロボロな演技を見てても笑えるだけだもん」

藍子「あうっ」

加蓮「藍子といたいから、藍子といたいだけだよ。……いたいいたいって言ったら"痛い"って思われちゃいそうだねー」

藍子「加蓮ちゃんって、理想を求めちゃうことはありませんか?」

加蓮「ん? ……まぁ、何だってちょっとは求めるもんじゃない? こうなりたいとか、こうあってほしいとか」

藍子「そうですか……」

加蓮「……、……え? ……で?」

藍子「? 何にもありませんよ? ちょっぴり、聞きたくなっちゃっただけです」

加蓮「はい……? 急に哲学っぽいこと言われたら何もないって……え、何だろこれ。どんなリアクションを取ればいいんだろ、これ」

藍子「もしかしたら、私も影響されちゃったのかも」

加蓮「……私に?」

藍子「ううん。ほら、前にお話したじゃないですか。Pさんから小説を貸してもらった、って」

加蓮「言ってたねー。もしかして、影響ってそこから?」

藍子「理想と現実が、っていうお話があったんです。物語の中だけでしたけれど、私、ちょっと考えてしまって」

加蓮「ちょっと」

藍子「ちょっと」

加蓮「……ちょっと」

藍子「……い、1時間だけです」

加蓮「うん」

藍子「にやにやしないでください~っ。私だってその、恥ずかしく……はありませんでしたけど、後から何やってるんだろうって頭を抱えちゃったんですから!」

加蓮「うんうん」

藍子「だから笑顔で首を縦に振らないでぇ……」

加蓮「分かる分かるー。藍子の気持ち、すっごい分かるよー」

藍子「いっそ笑い飛ばしてください……」

加蓮「いいんじゃない? 色々考え込んだりして。小説の読み方として正しいかどうかは知らないけど、そういう時間があってもいいと思うよ?」

藍子「そう……ですか?」

加蓮「何も考えてないよりはいいと思うよ」

加蓮「……あ、ごめん。別に藍子のアイドル仲間をディスってる訳じゃないんだけど」

藍子「……、ちなみに誰のことですか?」

加蓮「誰だと思う? ねえねえ、誰だと思う? 考えなしって言われて最初に藍子ちゃんが思いつくのは誰かな? 誰かな?」

藍子「…………もう加蓮ちゃんでいいです」

加蓮「何その妥協した言い方ー。本命の相手に振られたからそこら辺の相手と付き合うみたいなの」

藍子「あったんですか? そういうこと」

加蓮「友達から。相談、じゃないけど雑談程度でね。そういうことがあったんだって」

藍子「なんだか、加蓮ちゃんが怒っちゃいそうなお話ですね」

加蓮「うん。反射的に言っちゃって……そうそう。聞いてよ藍子。私さ、言っちゃったんだよね。それでいいの? って」

加蓮「そしたらさ、何って言い返されたと思う?」

藍子「うーん……あんまり、よくないことですよね?」

加蓮「けっこーガチ凹みしたっていうか、後悔するくらいには」

藍子「『私の気持ちなんて知らないくせに』?」

加蓮「だいせーかーい。さすが藍子ー」パチパチ

藍子「やったっ」ワーイ

加蓮「景品は何がいい?」

藍子「じゃあ、そのお話の続きでっ」

加蓮「しょうがないなー。って言っても続きは何もないんだけどね。なんかこう、ちょっと冷えちゃって」

藍子「冷えた?」

加蓮「その言葉ってさ、魔法の言葉……魔法って言うのは癪だね」

加蓮「……呪い。呪いの言葉なんだと思う」

藍子「呪いの言葉……」

加蓮「思いっきり突き飛ばす感じじゃん。私の話、聞く気ないじゃん。そう思ったら私まで冷えちゃった。あ、いいや、別に分かんなくて――なんて」

加蓮「ま、次の日になってお互い言い過ぎたって謝っておしまい。今も別に、後腐れを残したり~とかはないよ」

藍子「……よかった。仲直りはしているんですよね?」

加蓮「してるしてる」

藍子「ほっ」

加蓮「……藍子が相手なら、もっと必死になるんだろうなぁ」

藍子「?」

加蓮「ううん。さっきの、呪いの言葉の話。藍子にもし同じことを言われたら~、とか思っちゃって」

加蓮「藍子が相手ならもっと必死になりそうだし……何が何でも分からせようとする、なんて思うんだ」

加蓮「あ、この場合は藍子を分かろうとするって話なのかな」

加蓮「あははっ。サイテーじゃん、私」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……何か、飲みましょ?」

加蓮「ん……」

藍子「すみませーんっ。私はココアで……加蓮ちゃんは?」

加蓮「……コーヒー」

藍子「で、お願いしますっ」

加蓮「……なんかごめんね。反応に困るようなこと言っちゃって」

藍子「ううん。ほらっ、そういうことは何か飲んで、流しちゃいましょうっ」

藍子「溜め込むことは、よくないことですけれど……忘れちゃうことだって、時には大切ですから」

藍子「……」

藍子「……溜め込んじゃダメですよ?」

加蓮「そこ強調する?」

藍子「そこ強調します。だって加蓮ちゃんですもん」

加蓮「はーい。自覚はしてまーす……」

藍子「えへへ」

加蓮「……」

藍子「……あっ、店員さん。ありがとうございますっ。ほら、加蓮ちゃん。一気に飲んじゃいましょう!」

加蓮「うん……」ゴクゴクゴクゴ...

加蓮「~~~~~っ!? あづ~~~~~っ!」

藍子「……あっ」

加蓮「は、はー、はー……あっつぅ! 口ひりひりするしっ、むねっ、胸の辺りが灼けっ……あ、藍子~~~~~~!」

藍子「ごめんなさい、そういうつもりじゃないんです~~~~~~!」

加蓮「ぜー、ぜー、ぜー、ぜー……だ、大丈夫かな。お腹、変なことになったりしてないかな……」

藍子「て、店員さんっ。あの、お水大至急でお願いします!」

藍子「……って本当に早いっ!? 加蓮ちゃん、はいっお水です!」エイッ

<びちゃっ

加蓮「はぶっ!」

藍子「ああっ! 勢いつけすぎて加蓮ちゃんの顔に水が散って……!」

加蓮「冷たぁ! お腹は焼けてるのに顔は冷っ、何っこれ、何の拷問!?」

藍子「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! と、とりあえずお水を飲んでお腹を!」

加蓮「そ、そーだね。それがいいね」ゴクゴク

藍子「あっ、店員さん、タオルありがとうございますっ加蓮ちゃん!」シュバッ

<べしょ

加蓮「ふぶっ」

藍子「あっ、顔にぶつけちゃった……」

加蓮「い、今のなんか地味に痛かったんだけど……!? 藍子、どんだけの勢いで投げたの……」

藍子「そのっ、すぐに拭いた方がってっ。ええと、あとは何が必要ですか!?」

加蓮「もう何も要らないからとりあえず落ち着いてよ。ほら、深呼吸深呼吸」

藍子「はいっ。すぅー、はぁー……」

加蓮「……ふふっ」

藍子「へ?」

加蓮「あはははははっ……!」

藍子「……加蓮ちゃん?」

加蓮「あはははっ! ……ううんっ。慌てた藍子が見れたなーって。さっきは見れなかった藍子が見れたから、なんだかおかしくてっ」アハハハッ

藍子「…………」ポカン

加蓮「ふうっ。お腹の中ももう大丈夫っと。店員さんありがとー。タオルは洗って返すね」

加蓮「え? そのままでいい? ……なーんか言い方若干やらしくない?」

加蓮「あ、こっちで洗うからって意味。いやそんなに早口で言わなくても。とにかくありがとね」

藍子「…………」

加蓮「ん、どしたの? ぽかーんとしちゃって」

藍子「……ふふっ」

加蓮「笑った」

藍子「ううんっ。ちょっと焦り過ぎちゃいました。ごめんなさい、加蓮ちゃん。水をかけちゃったり、タオルを投げつけちゃったり……」

加蓮「いーよいーよ。見れないと思ってた慌てふためく姿が見れたし、満足満足♪」

藍子「む~っ。それで満足されるのは、なんだかイヤですよ~」

加蓮「……それに、気まずいのも藍子のお陰で吹っ飛んでくれたし」ボソ

藍子「?」ムー

加蓮「なーんでもないっ。そうやって膨れてるところまで込みで、今日は私の勝ちだねー♪」

藍子「もうっ」

加蓮「騒いじゃったし店員さんに謝ろっか。ついでにテーブルを拭いて、何か食べる物でも注文しない?」フキフキ

藍子「そうですね。じゃあ、簡単にサンドイッチにしちゃいましょうっ」

加蓮「あれ珍しー。正月系ので来ないんだ。きなこもちとかあるみたいだけど」

藍子「加蓮ちゃんならおもちもそろそろ飽きちゃったって言うかな? なんてっ」

加蓮「あー、分かる分かる」

藍子「実は、私も……」

加蓮「藍子もなんだ。ここんところ私も藍子もいっつもおもちばっかりだったよね」

藍子「お揃いですねっ」

加蓮「だねー。って、そりゃ同じ食卓だったんだから当たり前でしょー」

藍子「そうでした」

□ ■ □ ■ □


加蓮「もぐもぐ……」

藍子「もぐもぐ……」

加蓮「美味し~♪ レタスってこんなに美味しかったっけ。卵にかかってるコショウ味ってこんなに美味しかったっけ」

藍子「お代わり!」

加蓮「早! もう食べたの!? ゆるふわな藍子ちゃんはどこに行ったの!?」

藍子「美味しい食べ物の前では、ゆるふわもお休みです」

加蓮「藍子が、藍子がパッションしてる……! ……っていつもやってるか」モグモグ

藍子「すみませーんっ。サンドイッチのお代わり、お願いします!」

加蓮「はいはい私もー。どうせお代わりするし」

藍子「加蓮ちゃん加蓮ちゃん。食べきれなかったら、私に分けてくれてもいいんですよ~?」

加蓮「よし決めた。意地でも自分でぜんぶ食べる」

藍子「そんなぁ」

加蓮「あー、美味しー♪ 普通のパンが美味しく感じるなんていつ以来だろ。1週間ポテト生活した後、普通の朝ご飯を食べた時以来かなぁ」

藍子「何やってるんですか加蓮ちゃん……。お仕事ですか?」

加蓮「ううん。趣味」

藍子「本当に何やってるんですか」

加蓮「あははっ」

加蓮「あ、そうだ。ご飯で思い出したんだけどさ。お母さんがさ、藍子のところに世話になってばっかりじゃなくてそろそろ帰って来いって――」

藍子「えっ」ウルウル

加蓮「言ってるから明日辺りにでも帰ろうと思う、ん、だけど……」

藍子「加蓮ちゃん、帰っちゃうんですか……?」ウルウル

加蓮「いやその反応になるの早くない……? そりゃいつかは帰るでしょ。別に藍子の家にいなきゃ理由もない訳だし」

藍子「い、いいじゃないですかっ、ずっと私の家にいても! 一緒にご飯を食べて一緒にお風呂に入って一緒に寝ましょうよ~!」

加蓮「……藍子。今のでなんか一気に周りからの視線を感じたんだけど。なんか、そのケがある人みたいに思われそうなんだけど私」

加蓮「ともかく。あのね、別に今生の別れとかじゃないし、いつだって遊びに行けるんだから」

藍子「うぅ……。そうですよね。加蓮ちゃんにも事情はありますよね」ショボン

加蓮「(事情って程じゃないけど……)そーそー」

藍子「楽しかったなぁ。加蓮ちゃんと一緒にごろごろしたりするの。一緒にみかんを食べて、一緒にテレビを見て……。それに、加蓮ちゃんとお母さんがお話しているのを見るの、最近の楽しみだったのになぁ……」ブツブツ

加蓮「……」

藍子「ようやく加蓮ちゃんにただいまって言ってもらえるところまで来たのに……」

加蓮「……ハァ。せめて次の週末までだからね」

藍子「!」パアァ

加蓮「アンタねぇ……」

藍子「よかったっ。きっと、お母さんも喜んでくれます!」

加蓮「藍子の方が喜んでるでしょーが」

藍子「お母さん、最近やっと加蓮ちゃんが親しくしてくれるようになったって嬉しそうに言ってましたよ」

加蓮「まだちょっと緊張するんだけどねー……。普通にしてくれていいって言ってくれるのは分かるんだけどさ」

藍子「私とお話する時みたいに接していいのに。それか……ほらっ。このカフェの店員さんとお話する時みたいに?」

加蓮「んー」

藍子「加蓮ちゃん、私の部屋でごろごろしている時も、お母さんの声が聞こえたらすぐに起き上がりますよね。こう、しゅばっ! って感じで」

加蓮「ほらほら藍子ー、美味しいサンドイッチ、食べないなら私がぜんぶもらっちゃうよ?」

藍子「あ、話を逸らしました。……って本当に私のを食べようとしてる~~~! だ、ダメっ、これは私のです!」パク

加蓮「ひゃっ。……食べ物が絡むとゆるふわがなくなる、かー。藍子の家じゃそんなことはなかったのにね」モグモグ

藍子「今日のサンドイッチだけは例外ですから! 加蓮ちゃんにだって渡しませんっ」

加蓮「そう言われると意地でももらいたくなっちゃうなー。ねー、藍子ー」

藍子「ダメったらダメですから」

加蓮「……これはガードが固いかな? 今日のところは退いとこっと」

藍子「~~~~♪」モグモグ

加蓮「美味しー♪」

……。

…………。

加蓮「ごちそうさまでした」パン

藍子「ごちそうさまでしたっ」パン

加蓮「お腹いっぱいー。……外、暗くなるの早いね。晩ご飯、食べられるかなぁ」

藍子「お母さんに言って、今日のご飯は遅めにしてもらいましょうか」

加蓮「そうしよっか。藍子、お願いしといて」

藍子「はーい。それじゃあ、そろそろ帰りましょう」

加蓮「あんまり暗くなりすぎても、お互い心配されちゃうもんね」

藍子「ですねっ。……一緒に帰る……えへへっ」

加蓮「それ、そんなに楽しい?」

藍子「楽しいですよ。隣に並んで、同じところに帰るのって、なんだかすっごく安心感があって……」

加蓮「それは分かるかも。別れ際の寂しさとかぜんぜん無いもんね」

藍子「加蓮ちゃんっ。やっぱり、ずっと私の家で暮らしませんか? そうしましょうよ~っ」グイグイ

加蓮「だからそーいう訳にもいかないでしょ。何、そんなに一緒の家にいることが楽しいの?」

藍子「楽しいですよ?」ニコッ

加蓮「そう……」

藍子「加蓮ちゃんは、楽しくないんですか?」ジー

加蓮「……さーてお会計して帰ろっかー。今日はあんまり食べてないしお財布も軽くならなさそうだね」

藍子「…………」ジー

加蓮「はいはい、楽しい楽しい。ったくもー」

藍子「……♪」ニコッ



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

乙ですの
あーちゃん可愛いなぁ

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