メリークリスマス!(遅い
初投稿です。暇な時にでも読んでください。
以下、諸注意。
※ミステリーではありません。
※アイドル活動は描写しません。
※飽きたら完結します。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482690475
File.1『ブロッコリー連続テロ事件』
突然だけど、自転車に一度でも乗ったことがあるヤツは想像してみてほしい。
ある日、自分のチャリのサドルがブロッコリーに差し変えられていたらどう反応すればいいと思う?
喜べばいいのか?怒ればいいのか?悲しめばいいのか?はしゃけばいいのか?
それとも……ブロッコリー、食べればいいのか?
現代日本人に不足しがちなビタミンやミネラルといった必須栄養素がタップリ含まれている緑黄色野菜を取れよ、という謎の人物からの粋な計らいによるプレゼントなのだろうか?
俺のチャリのサドルに刺さっているこのブロッコリーは。それならそれで、せめてマヨネーズくらい付けろよーーなんて、見当違いなことを思いつつも。
俺は、自転車のサドルにインしてるブロッコリーを引っこ抜く。このままじゃ帰れないので当然の行いだ。
その流れで、ブロッコリーをボールに見立ててチャリの前カゴにダンクシュートを決めようとして……
その動きを止めざるを得なかった。
何故かって?
前カゴに抜き取られたサドルと一緒に、キューピーマヨネーズの小袋が二、三袋ほど雑に放り込まれてるからだよ……。
なんだよこれ。ブロッコリーにマヨつけて喰えってか……それもチャリの鉄臭いサドルに刺してあるブロッコリーに……。
食べ物を粗末に扱いやがって……もったいねえじゃねえか!
俺はバイキング形式の料理店で注文し過ぎて食べ物いっぱい残すヤツとか大っキライなんだよ!許せないから、最終的に、俺が全部喰うハメになるし。
中学の時、焼肉バイキングでテーブルの上に溢れんばかりのお肉の後始末を、退店時間間際に押し付けやがった部活仲間のアイツの所業は未だに許してない。ライス食い過ぎなんだよ、テメェ。お前が頼んだ肉だろ!責任持って胃袋に収めろよ!『……もうこれ以上、肉入らんわ。無理。ギブアップ。俺が焼肉になる』ってやかましいわ!……あの時は本当にアイツを焼肉にしてやりたかった。
学校の駐輪場の一角で、俺は激情に駆られるままブロッコリーの房にマヨネーズの小袋をあるだけブチまけていた。
……あぁ、いいさ。喰ってやるよ、喰えばいいんだろ。バカにしやがって!ここまでお膳立てしてくれたんだ、喰ってやるからその辺で見とけよ暇人のクソ野郎がぁ!
自棄になって、ブロッコリーに喰らいついた。
口の中に広がる青臭い風味と、ブロッコリーの柔くてコリッとした独特な歯ごたえのある食感。?みしめるたびに、みんな大好きな万能調味料ーーマヨネーズの酸味とこってりした脂の旨味が主張してきて……あぁ、普通に旨いな。
「いかにも怪しいですね」
その声は不意打ちだった。後ろから急に呼びかけられてビクッとしながら振り向く。
放課後ーー駐輪場の一年生ゾーンの一角に30台ほど停められている生徒達の自転車。そのサドルはすべてブロッコリーに差し替えられているーーそんな異様な光景の一部と化して向かい合う俺と……見知らぬ女子。誰だこいつは?
俺の目の前で佇むのは、学校の中でコスプレめいた格好をした女生徒?だった。
こういう服は探偵服と言っていいんだろうか?
アニメや漫画でステレオタイプの探偵が着ているような全体的にブラウン系の色合いをした鹿撃ち棒と、丈の長いコートに、ケープを合わせた『あ、コイツは探偵っぽいや』と思わせるシャーロック・ホームズよろしくな装い。つまりは、まぁ探偵服。
下は探偵服のイメージに合わせた褐色のスカートで、よく見れば周りにフリルやリボンがたくさん付いている。細かいところにも彼女なりのこだわりを感じさせる服装だった。
おまけに、何故か虫メガネを持っている。
そんな学校よりコスプレ会場にいるほうが相応しいエセ探偵女が俯きながら「やはり怪しい……私の探偵としての勘が」とか何とかブツブツ呟いている。かと思えば、俺のことを訝しむような失礼な目線をくれて睨んできた。
『いや、怪しいのはお前のほうだろ』と言い返してやりたかったが。現在の状況では……まぁ、彼女の指摘のほうが正しいので何も言えなかった。確かに怪しいよな。こんな状況で、のん気にブロッコリーにマヨかけて喰ってる男。アホかな?
「単刀直入に聞きますーーあなたが、犯人ですか?」
真剣な表情だった。……いや、違う。これはキメ顔だ。決め台詞を言った後に『ドヤッ!』と格好つけてる顔だ。指もこちらに突きつけてるし。
ともあれ、俺はこのサドルブロッコリー事件の犯人だと疑われているようだ。そんなバカな。
待て、一旦落ち着こう。
こんな時は、ブロッコリーだ。ブロッコリーを食べるに限る。……うん、美味い。マヨネーズの味が。
ブロッコリーを味わってからーー俺は彼女に対してどう接するか決めた。とりあえず、誠実であろうと。
「冤罪だ。美少女名探偵さん」
ーーのちに『スイ校ブロッコリー連続テロ事件』と称され、一時期ネットを騒がせた一連の事件。
その事件を解決に導いた立役者となったのは、この春ハネ校に入学した新一年生の女の子だった。
自らの肩書きを『アイドル探偵』と言い張り、恥じらいもせず学友に宣伝するその少女の名前は、安斎都(あんざいみやこ)。
あの日、彼女に無理やり押し付けられた名刺にもそう書いてある。
この名刺は手当たり次第に配っているらしく、ファンの証でもあるそうな。ちなみに、俺の会員ナンバーは『334』番だった。なんでや!
変人だ。見ていて痛々しくすらある。二度と関わるまいと心に誓っていたが……
事件解決から一ヶ月後ーー六月の週初めの月曜日。
校舎4階の西側に位置する第二理科室のドアを開いた俺を出迎えたのは、件の変人だった。
「やぁ、ワトソンくん」
「俺は立花だ」
「早速で悪いがコーヒーを淹れてくれないか?もちろん、ブラックで」
「自分で淹れろや。大体、淹れてやってもロクに飲めねえくせに。半分も減らないうちにカフェオレにしてんじゃねえよ、お子様舌が」
「なっ!?助手のくせに探偵部所長のこの私に口答えするとは……これは再教育が必要だね」
第二理科室を借りたという探偵部の部室にて。
毒にも薬にもならない言い争いの末、再教育と称して柔道2段の腕前を持つ彼女に払い腰で投げ飛ばされ、足4の字固めをキメられている不幸な男の名前は、立花圭太(たちばなけいた)。
十七歳の高校二年。彼女いない歴=年齢の非モテ男子。彼女ナシ。友達も特にナシ。……悲しいかな俺の青春は灰色だ。現在進行形で。
「ワトソンくん、これが現代に蘇ったバリツだよ。私はその継承者なんだ」
「ど、どこがバリツだっ……ただのプロレス技じゃねえか!って、イッテェーー!?足!足折れる!?少しは加減しろやテメェ!?……わかった!わかったから!ギブ!ギブアップ!コーヒーでも何でも淹れてやるからぁ!」
今は、彼女のしつこい勧誘に折れて、探偵部に所属している。……どうしてこうなった。
続きはまた後日。
File2.『ブロッコリー連続テロ事件。その顛末』にて。
校舎4階、探偵部の仮部室である第二理科室にて。
安斎都は自宅から持ってきたというパイプ椅子に腰かけてくつろいでいた。木製のテーブルを挟んだ向かい側の席で俺はその様子をぼんやりと見つめていた。
今日は珍しく小説を読んでいる。
普段は第二理科室に常設されている型落ちのテレビで、探偵が登場するドラマやミステリー・サスペンスものを好んで視聴していることが大半なのだ。あと、漫画も読む。
「ワトソンくん、コーヒーを頼む」
「立花だ。……コーヒーだな。今、お湯を沸かしてやる。もう少し待て」
特にやることもないのでコーヒーを淹れてやることにした。
俺は立ち上がり、安斎都の私物であるティファールの電気ケトルの電源を入れる。あっという間にお湯が沸いた。いつやっても驚きの早さである。
戸棚からマグカップを2つ用意し、両方にインスタントコーヒーの粉末をひと匙落とす。
えぇっと、砂糖は……どこだっけ?
「安斎、読書中悪いが、砂糖はどこだ?」
「部長と呼びたまえ。……み、都でもいいけど。砂糖ならたしか……」
安斎は読書の手を止めて立ち上がると、黒板前の教卓に移動する。引き出しから取り出したプラスチックのボトルをドンと机の上に置いた。
「これを使いたまえ」
「……おい。俺の見間違いじゃないならラベルに『炭酸水素ナトリウム』と書いてあるんだが?」
「重曹のことだね。少量なら経口摂取しても身体に害はないよ」
「そういう問題じゃねえよ!砂糖を出せ砂糖を!」
「中身は砂糖のはずだよ。二、三日前に移し替えた記憶がある。以前使っていたガラスの容器を誤って割ってしまってね。その代用品だ」
だからって重曹のボトルに移し替えるなよ。実験の時とか教員が困るだろ。
「そんなに疑うなら試しに私が舐めてみようか?」
「いや、いい……俺はブラックで飲むし」
「ぐぬぬ……なら、私も砂糖なんて入れないもん!」
「勝手にしろ」
言いながらマグカップにお湯を注ぎ入れる。インスタントコーヒーの出来上がりだ。
直接手渡してやってもいいが何かの拍子で中身をコボすと危ないので、安斎が座っていた席まで移動してコーヒーが入ったマグカップの1つを置いてやることにした。
あと、どうでもいいけど語尾が可愛いなオイ。
「あの……ワ、ワトソンくん!」
「立花だ」
砂糖入りのプラスチックボトルを胸に抱えた安斎が拗ねたように明後日の方を向きながら、
「あ、ありがと……立花くん」
とお礼を言ってきたので「どういたしまして」とだけ返して自分の席にUターンする。
時折忘れるんだけど……コイツ、後輩の女の子なんだよな。しかも、やたらと可愛い。
都SSは珍しい
都かわいい期待
払い腰は基本的に自分と同じか小さい相手にかける技
そして都の身長は156㎝
……立花君、ブロッコリーだけじゃなくいろんなもんもっと食べろ
ビジュアルに関して言えば、『アイドル探偵』を自称するだけはある可愛さだと思う。
160センチないことはパッと見でわかる小柄だが女子としては平均的な身体に、どこか子犬を思わせる小動物的な愛嬌のある顔立ち。
一際目を引く赤毛は染髪料で染めている訳ではなく地毛なのだというから驚きだ。日本人でここまで見事な赤毛の少女は今まで見たことがなかったので、ハーフなのかと疑ったら『生粋の日本人だよ』と返されたのはつい最近の話。
くせっ毛のあるセミロングの赤毛は窓から差し込む光の加減でまるで宝石のルビーのようにキラキラと紅く輝いて見えた。クッ……認めるのは癪だが流石現役JKアイドル。制服姿で椅子に座っているだけでも絵になっている。
安斎は読みかけだった小説のページを開き、空いた片手で淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを手に取る。唇をすぼめて何度かフーフーと息を吹きかけてから口をつけた。
「苦っ!?くない……。けど、砂糖を入れようかな……。探偵は頭を働かせる仕事だからね。脳の栄養補給にも糖分が必要不可欠なんだよ。…………クリープも入れちゃえっ」
……アホな言動はともかくとして。いつ見ても安斎都は美少女だった。
その容姿は、もし許されるのなら何時間でも見惚れてしまえるほどに可愛いーーと少なくとも俺は本気でそう思っている。
別にアイドルだから大袈裟に言ってるわけじゃないぜ?
ましてや一目惚れしたわけでもないし。好みのタイプからは外れている。
でも、可愛いのだ。男女問わず、飛び抜けた可愛さは万人受けする。ましてやアイドルとして世間一般から存在価値を認められているほどの容姿だ。
ありえない話だが、安斎に言い寄られたら瞬く間に惚れるだろう。タイプじゃないとか関係ない。その日からお付き合いを始める。
安斎都が美少女アイドルだからーー俺は探偵部に所属し続けているのかも知れない。
安斎クラスの美少女とお近づきになれる機会はこの先皆無に等しいと思うので、退部という形で縁を切るには惜しいと感じている。口では文句を言いつつも退部しない理由はそれだ。
>>払い腰
よく知りもしないのに適当に描写してると、やはり知識の無さが露呈しますね…。すみませんが本筋には関係ないので書き直しませんが、違和感の少ない投げ技に脳内変換してくれると助かります。ちなみに、立花くんの身長は165cm程度です(今決めた
本当はミステリーも『書かない』のではなく『書けない』のです。
安斎が可愛いからロクに活動もしてない謎部活でも付き合うし、コーヒーも淹れてやる。彼女はそんな男のゲスい本音を知れば軽蔑するだろうか?縁を切るだろうか?
まぁ、深く考えてもどうしようもないことだけども。
「はぁ~」とため息が出る。
……まったく、何で俺なんか誘ったんだ。意味が分からん。好きとかじゃないのかよ。変に期待させんな。
口に含んだブラックコーヒーはやっぱり苦いだけで美味しくなかった。
暇だな~……」
「……依頼人がやって来ないことにはね。我々も動くに動けないのだよ。探偵業務は慈善活動ではないのだし」
「えっ?お金貰ってんの?」
「も、もも貰ってるわけないでしょう!?……ゴ、ゴホン。……金銭のやり取りはしてないよ。というより、してはいけない。何故なら、犯罪だから。国内で探偵業務を営むにはね、探偵行法という法律によって定められている、探偵部の部室があるこの地域を管轄する警察署を通して公安委員会への届出が必要に……」
「お、おう……」
なるほど、わからん。
「……はぁ。つまり、依頼人と金銭のやり取りはしてないってことだけ覚えておいて」
「ってことは、無報酬で探偵の真似事をやってるのか?それって虚しくならないか?」
「……無報酬ってことはないけどね。その辺は追々きちんと説明するよ。あと、真似事じゃないから。お金は貰ってないけど……私は探偵としての活動に本気で取り組んでる。そのバカにしたような言葉ーー今すぐ撤回して」
睨みつけるような安斎の厳しい視線に射竦められて俺は彼女を本気で怒らせてしまったことを悟った。すぐに机の上で頭を下げて「悪かった。さっきの言葉は撤回する」と謝った。
「い、意外だね……。君は自分が悪いと思ったら謝れる人間だったんだね」
「どういう意味だオイっ!?」
ガバッと顔を上げた。人が誠意を持って反省しているというのに聞き捨てならないな!
「……いや、なんていうか、私も悪かったよ、ワトソンくん」
「立花だ。というか、何でお前が謝るんだよ……」
「図星だったから熱くなっちゃったのかも知れないね……私に人を責める権利なんかないのに……ごめんなさい、立花くん」
「安斎……」
そんな寂しそうな顔するなよ。
こんな時、ヘコんでる女の子にどんな声をかければ正解なのか分からない非モテな俺はただ黙り込むしかなくて……
気まずい雰囲気の中、どうにか俺は話題を変えればいいんだという解決策を頭の中で導いた。
「あ、安斎さん!」
「ひゃいっ!?」
「ご……ご趣味は……?」
お見合いの話題かバカ!
「え、えぇっと、探偵ドラマとか……探偵小説を見ることです……?」
「そ、そうなんだ……ほ、他には?」
「他にっ!?えぇっと、そうですねぇ……び、尾行?」
「尾行って…………ふふっ、面白いヤツだなお前」
「あー!またバカにしましたね~!?」
「バカにはしてないよ。バカだとは思うけど」
「……もう怒りましたから。立花くんには再教育です!泣いて謝っても許しませんから!」
「再教育って……ちょっと待て!実力行使は反則だろ!?暴力反対!ダメ、ゼッタイ!」
「問答無用~!」
彼女のバリツ(護身術)の技の冴えに、ケンカもマトモにしたことがない貧弱な俺が抗えるはずもなく……今日も教育という名の折檻を受けるハメになった。
いつもより激しかったけど、テクニカルなスキンシップだと思えば……ギリギリ耐えられた。
それに……安斎が笑っていたからヨシとしようじゃないか。
>>14
話の腰を折るつもりはなかった
貴重な都SSなうえに面白いんで気にせず続けてどうぞ
安斎がカフェオレ片手に優雅な読書タイムを再開し、暇を持て余した俺は最近ハマっているスマホのカードゲームをプレイし始めた。
放課後から最終下校時刻までの約二時間半。安斎都部長率いる我が探偵部は、大体いつもこんな感じで時間を潰している。
各々が好きなことをしながら、時折思い出したように安斎と他愛もない会話をして……依頼人の来訪を待っている。もっとも、依頼人というか顧問すらやって来ない部室だけど。
この体たらくな部活内容で、何で廃部にならないのか不思議でしょうがなかったのだが、最近その疑問に一つの答えが示された。
どうやら安斎は校内の探偵活動で知り得たスイ校のトップである校長の、ある重大な秘密を握っていて、その秘密を他者に漏らさない代わりに、探偵部の活動が許可されているとか。部の顧問を何故か校長直々に務めているのがその確たる証拠だと、この前、櫻井が教えてくれた。筆談で。
……そういえば。陰が薄いからすっかり存在を忘れていたが……
「今日は櫻井は来ないのか?」
櫻井とは、もう一人の女子部員の名字である。名前は未だに知らん。別に興味ないから聞きもしない。安斎とは同学年でクラスメイトであり、気の合う友達同士だという。
安斎が探偵部に直々にスカウトしたという依頼人へのお茶汲み係だ。いらんだろ、その役職。っていうか依頼人が(ry
櫻井のことを一言で紹介するならーー変なヤツだ。
よく知らない以上、そうとしか言いようがないヤツなのだ。俺が櫻井のことを変なヤツだと断定するに至ったエピソードもある。
俺が探偵部に正式に入部した一週間後くらいのことだ。
安斎に連れられて探偵部にやって来た制服姿の櫻井は、五月だというのに首元に長いマフラーをグルグル巻いて顔の半分を隠していた。第一印象は、校内でマフラー巻くなよ、と思った。あと、小脇に抱えてる本格的なスケッチブックの用途はなんだ?これから美術の写生大会にでも出かけるのか?
その他ツッコミ所満載だったが、空気が読める俺は全部スルーして、彼女に初めましてのご挨拶をした。
筆談だった。
強調したいことだからもう一度言うが、筆談で挨拶を交わした。
最初に俺から話しかけても、うんともすんとも言わないので、何故無視するのかと理由を問うと、彼女は『誰とも喋りたくないから』と持参しているスケッチブックに理由を書き記した。
サラサラと手慣れた様子で書いていた。
別に病気が原因で喋れないとかそういう類の深刻な理由があるわけでもなくーー
『他人と発声した言葉でコミュニケーションを取りたくない』
『でも、貴方を軽んじているわけではない』
『納得してくれたなら是非仲良くして欲しい』
と、常人には理解不能な喋らない理由をスケッチブックに並べ立てていた。
なぁ、変なヤツだろう……?
櫻井?
櫻井桃華?
あとこの部活、スケット団ぽいね
ついに今回無口キャラまで加わったわけだし
>>22
櫻井に関しては作中で掘り下げていけたらなと。アイドル探偵がその謎を解き明かす日が来るかも知れません。
スケット団に関しては……『スケットダンス』を読んだことがないので意図的には寄せてませんとだけ答えておきます。
ブロッコリー200円くらい×30…犯人は金持ちだ!
「櫻井ちゃまなら『今日は用事がある』から部室には来れないと聞いているよ」
「用事ね……ちょっと気になるな」
「そうだろう?」と安斎は言った。
「私も気になったから失礼を承知でどんな用事なのか聞いてみたんだ。そしたら『茶葉が切れたから駅前の百貨店に買いに出かける』との答えが返ってきたよ。普段から愛飲している美味しい紅茶の茶葉があるらしい。確か名前は……ふぉー……ふぉー……『フォー・イート・ザ・ベトナム』!」
現地でベトナム料理食ってんじゃねえよ。
「多分『フォートナム&メイソン』だろ。英国王室御用達の紅茶のトップブランドの1つだよ。名前くらいは……聞いたことないか。値段は張るが、美味しい紅茶だよ。というか、俺たちも恐らく飲んだことがあるはずだぞ?櫻井が部室に顔見せたら必ず紅茶淹れてくれるだろ」
そういえば、櫻井がロイヤルブレンドの箱缶を通学カバンから取り出して、理科実験用の計量スプーンで茶葉を計っているシュールな様子を見かけたことがあった気がする。
どうりで美味しかったはずだ。茶葉を買いに出かけるほどの紅茶好きが淹れる、正真正銘のロイヤルミルクティーを飲んでいたんだから。
お茶汲み係の面目躍如といったところか。まぁ、マグカップで飲んでいるので情緒もへったくれもあったもんじゃないが。
立花君のツッコミスキルが日々磨かれている予感
安斎をよく見ると、整った太眉をひそめて露骨に嫌そうな顔をしていた。
「非モテ野郎の立花くんから上から目線で物を教えられるとは屈辱的だね」
「非モテかどうかは関係ねぇだろ」
……悲しいことに事実ではあるが。
「立花くんが紅茶の銘柄に詳しいのが納得いかないの。女子力で負けた気がするから」
「男と女子力競ってんじゃねえよ。どんな底辺の争いだ」
ぐぬぬ……と安斎が悔しそうに唸った。
「私だってねぇ、立花くんと女子力競い合うとか不毛な争いをしたくないよ!で、でも、櫻井ちゃまって女子力すごく高いんだよ!?」
「いや、知らんがな」
「お弁当自作したりしてるし、食べ方とかお箸の持ち方もすごくお上品だし、薔薇のいい香りがするハンカチ貸してくれたりするし……細かい所作に女子力の高さが伺えるんだよ」
探偵活動で鍛えられたであろう観察力や洞察力が仇になっていやがる……不憫なヤツだ……。
「まぁ、変なヤツには変わりないけどな。お前よりは女子力高いってのは、わかるわ」
「やっぱりわかるんだ……。お互いの女子力の話題になった時とかどうしよう……櫻井ちゃまに『女子力……たったの5か……ゴミめ……』とか揶揄されたら私は生きていけないよ……」
お前の想像の中の櫻井、性格悪すぎだろ。どこのラ○ィッツだよ。
安斎が力尽きたように首をガクリと落とした。
「流石、神戸出身の櫻井財閥のお嬢様だよね……女子力の高さでは到底敵う気がしないよ」
櫻井財閥のお嬢様……?そんなこと初めて聞いたわ。へー、すごいなー。お嬢様かー。確かに言われてみれば、櫻井は金髪だし紅茶も嗜んでるし、お嬢様のイメージはあるかも知れない。
一切喋らないし顔の下半分をマフラーで巻いて隠している、変なヤツだけど。っていうか、
「えっ?……アイツ、財閥令嬢なの!?」
今年度の更新はここまでで。
年が明けたらガンガン書き進めたいと思うので、暇な時にでも読んでもらえれば幸いです。
それでは皆様、よいお年をお迎えください。
乙
来年も楽しませてください
「知らなかったのかい……?財閥令嬢は大袈裟だと思うから訂正するけど、正しくは、財閥規模の四大企業グループの一つに属する、幾つかの関連企業の社長が祖父や父親にあたる、戦後以前から存在する由緒正しい家柄の良家の子女だね」
「お、おう……」
よくわからんけどなんか凄そうだな。
「財閥自体は、日本敗戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指令による『財閥解体』で解体させられているから、現在の日本において財閥というのは存在しないんだよ。大規模な財閥は解体させられた後も、企業グループとして結集して、その形を保ってはいたんだけど」
「な、なるほど……詳しいんだな」
どう返答していいか困ったので安定択としておざなりに褒めておくと、安斎が呆れたと言わんばかりに頭に手を当てて首を横に振った。
「のんきに感心している場合じゃないよ……中学校の社会の勉強で習ったはずだろう……」
「嘘だろ?まったく記憶に残ってないぞ……」
「……では、ここで立花くんに中学社会のクイズだよ。企業が市場を独占する時には、三つの形があってそれぞれ『カルテル・トラスト・コンツェルン』と言うんだけど、その三つの特徴と違いを簡潔に説明しなさい」
「えっ?今なんて言ったの?三つの形って?」
「『カルテル・トラスト・コンツェルン』だよ」
「カルーセル麻紀?」
「誰なんだいその人は!?」
誰って日本のオネエタレントの先駆者だよ。
「まったく……ふざけてないでちゃんと答えたまえ。少し考える時間をあげるから」
ズズッと残りのコーヒーを飲み干した安斎は、手に持っていたマグカップを実験機材などを洗浄する際に使う凹んだシンクの中に置いた。
彼女は、おもむろに席から立ち上がるとその場でグーッと背伸びをする。名誉の為に、どことは言わんがいつ見ても真っ平らである。
「……興味があるのはわかるけどあまり他人の女の子の胸部をジッと見つめるもんじゃないよ。そのうちセクハラで訴えられるから」
「……ゴメンナサイ。ユルシテクダサイ」
「悪いと思うなら帰りにコンビニのスイーツを奢りたまえ」
「それって何個だ?」
「じゃあ3個で」
「……まぁいいだろう。非は俺にあるし」
「やったね」
安斎は軽い調子でそう言うと、読みかけだった小説本を手に取った。制服の胸ポケットから四つ葉のクローバーをモチーフにした栞をページの間に挟んでから、テキパキと自分の通学カバンにしまい込む。
それから再びパイプ椅子に座り直した。
背筋をピンと伸ばし、机の上に二の腕を置いて、両手の指を組み合わせる。
そして、瞑目して祈るように数秒間まぶたを閉じてーーゆっくりと開いた。まるで北欧人のような青みがかった瞳が、視線がぶつかる。素直に綺麗だなと思いつつ、彼女が本格的に話を聞く姿勢を整えたことを悟った。
たまに真剣な話をする前など、安斎はいつも似たような流れの行動をして、意識を切り替えている節がある。きっと、探偵として依頼人の相談を聞く前にもやっているんだろう。聞くというより、聴くかーー傾聴する姿勢だ。
「さぁ、答えたまえ。『カルテル・トラスト・コンツェルン』の特徴と違いだよ」
「先生、わかりません!」
安斎の首がガクッと大袈裟に落ちる。俺の答えに調子を外されたみたいだ。真剣だった傾聴モードが完全に解かれている。
やがて、機械仕掛けの人形のように時間をかけて首を上げた彼女は、見るからに疲れたような表情をしていた。
「……わからないなら素直にわからないと言いなよ」
「途中からお前の胸をガン見することで頭がいっぱいだったわ」
「……っ。バカ。見るな変態。中学生からやり直したまえ」
自身の胸の辺りを両腕で隠して批難の目を向ける安斎。急激に顔も紅潮して熟れた林檎のようだ。羞恥を感じている女子の反応というのはどうしてこうもエロく感じるのだろうか……
「すまん。冗談だ。忘れてくれ」
「冗談でさらりとセクハラ発言するな!」
安斎は怒り疲れたのか息を荒げている。エロさが二割増しだが、もう余計なことは言うまい。
セクハラで訴訟を起こされる前に、話を本題に戻すことにしよう。まぁ、この話も脇道に逸れているただの雑談だけど。
「それで『カルテル・トラスト・コンツェルン』の特徴と違いってなんだよ?バカにもわかるよう説明してくれ」
「櫻井ちゃまにもセクハラ発言したら今度こそ許さないよ」
「気をつけるわ」
「まったく……では無知で非モテな立花くんにも理解できるよう『カルテル』から簡単に説明しようかな」
話の前提として『カルテル・トラスト・コンツェルン』とは、複数の会社が一体となってある市場を独占する形を区別して表す用語だよ。と前置きしてから、安斎は話を続ける。
「『カルテル』とは、簡単に説明すると『同じ業種の会社が集まって、価格協定を結ぶこと』を指す用語なんだよ。では何故、そんなことをするのかといえば、話は単純だーー商品の値段や生産量に対して独自のルールを決めることで、企業間の競争が減って独占的に利益を得られて、会社(生産者側)がボロ儲けするからだ」
「不正な談合みたいなものか……?」
「そう捉えてもらって構わないよ。事実、現在の日本では法律によって禁止されている不正行為だ。『カルテル』は一般企業同士の協定に対して使われることが多くて、『談合』は官公庁の競争入札に対して使われることが多いかな」
ちなみに、と安斎は流れるように言葉を紡ぐ。
「官公庁とは、国と地方公共団体の役所の総称のことだよ。競争入札は、中学生の勉強の範囲じゃ習わないから簡単な説明だけに留めておくけど、民間企業が官公庁の業務を引き受ける場合に使われている選定方法のことだね」
女子高生にセクハラ発言したのに仲が壊れない立花君はリア充
爆発しろ
競争入札の詳細とかは、高校の勉強の範囲でも習わないと思うから興味があるなら今度ネットで色々調べてみるといいよ、と安斎は言ったが興味がないので多分一生調べないだろう。
そんなことより『カルテル』だ。安斎に説明してもらったことを頭の中で整理する。
『この理解でいいかな……?いいよねっ!多分!』と思ったところで、口を開く。
「つまり、『カルテル』は企業間で不正な取り決めをして価格とか生産数量を調整することを言うんだな?取り決めたルールのせいで、企業側がボロ儲けして俺たち消費者側が損をするばかりだから法律で禁止されていると」
「そう。独占禁止法で禁止されている立派な犯罪だ。『カルテル』については、概ね、その理解で合っているよ」
「そりゃ良かった。具体例も考えたから聞いてくれ」
「具体例……?う、うん。聞こうじゃないか」
「とある業界で社長の地位まで上り詰めた『カルーセル麻紀』がーー」
「だから、誰なんだいその人は!?」
俺は興味があるなら今度ネットで調べてみるといいよ、と言った。探偵としての血が騒いだのか安斎は「わかったよ」と即答する。
真面目な顔をして『カルーセル麻紀』についてネットで調べている安斎を思い浮かべると、ちょっと笑ってしまうなぁ。
波瀾万丈な生い立ちの芸能人のwikiは流し読むだけでも充分楽しめるんだけどね。
>>34
後輩かつ気心の知れた安斎にしか異性に対してはセクハラ発言できないので良かったら許してやってください。
あと、安斎都って懐すごく深いと思うの。
「その人については帰宅後に徹底調査するとして、だ。続いて、『トラスト』の説明に入るよ」
徹底調査するのか……。面白半分で余計なことを言ったなと後悔の念が湧き始めるがもう遅かった。
忘れていた。安斎都は探偵だった。wikiの情報レベルで満足するヤツじゃなかったんだ。情報入手の為なら対象者の尾行や、張り込みとか聞き込みとか平気でやってるヤツだった!
……自分には直接的な被害はないのに心臓がドキドキしてきた。ヤバい。大丈夫か、カルーセル麻紀。現在進行形で犯罪的なことしてないだろうな?もはや、致命的な何かを暴き出さないことを神に祈るしかない。無宗教だけど。
そんな俺の心配を知ってか知らずか、安斎は相変わらずの自由な進行で「わかりやすく一言でまとめるよ」と前置きしてから話を続ける。
「『トラスト』とは、いくつかの会社が合併して、一つの大きな会社になることをいうんだよ。……って、話聞いてるかい?」
「き、聞いてる聞いてるゥ!」
「声が裏返ってるけど……まぁいいや。『トラスト』も現在の日本の法律では禁止されているんだけど何故だかわかるかな?」
問われて、少しだけ考えてから自信なさげに告げる。
「……同一業種の会社同士がくっついたら、それだけ業界のシェア率が大きくなって、その夢の大会社が市場を独占できるからか……?」
「……驚いた。その理解で合っているよ。正解だ。パチパチパチ」
おざなりに拍手をする安斎。随分と憎たらしい反応だ。
「流石にバカにし過ぎだろ。一応、俺だって現役高校生なんだぜ?」
「そうだったね。では、謝罪の代わりに具体例を挙げるとしようか。立花くんはどんな業界がいいと思う?」
「アイドル業界」
俺は即答した。
「アイドル業界ねぇ……もっとわかりやすい題材がいくらでもあると思うけど。コンビニ業界とか携帯電話業界とか。何故、その題材を選んだのか気になるところだね」
「そりゃお前がアイドルだからだよ」
「だと思った。アイドルの私にアイドル業界の『トラスト』の例え話をさせるとか……こういう地味でせこい嫌がらせをさせたら、学内で立花くんの右に出る者はいないんじゃないかな」
「照れるわ」
「当たり前だけど褒めてないから」
突き放したように言うと、安斎はしばし口を噤んだ。目を閉じて、頭も少し下げると同時に、傾いた顎を手の甲で支える。
前から見ると、まるでかの有名なロダンの彫刻『考える人』のポーズだ。上半身だけだが。
『傾聴モード』もそうだが、この『上半身だけ考える人』ポーズもよく見かける仕草の一つだった。特に彼女が探偵として活動している時、『ブロッコリー連続テロ事件』での調査活動の際などは、彼女が何か考え込む度に見かけていた。
よし、これからこのポーズは、『考える人の上半身モード』と名付けることにしよう。字面だけ見たら意味不明だな……
やがて、覚醒した彼女は「いいかい?これは例え話だよ」と念を押してから話し出した。
「現在、世はまさに『アイドル戦国時代』と形容されるほどアイドルを名乗る女性タレントの数と合わせてメディアへの露出も増えたわけだけど……そんなアイドル業界でしのぎを削り合う大手芸能プロダクションは、961プロダクション、765プロダクション、そして私がこの春から所属している346プロダクションの3社が有名なのは立花くんも認めるところだよね?」
俺はそんなにアイドル業界に詳しい事情通ってわけではないが、安斎が今挙げた大手3社は、日常的にテレビを視聴しているヤツらなら、年齢問わず大半の人は知っていてもおかしくないレベルの超有名芸能プロダクションだ。
コンビニ業界で例えるなら、『セブンイレブン』、『ファミリーマート』、『ローソン』。
携帯電話業界で例えるなら、『NTTドコモ』、『au』、『ソフトバンクモバイル』といった大手携帯キャリア3社のように。
日本で生きてメディアに触れる日常を過ごしていたら嫌でも手に入る部類の情報であるといっても過言じゃない。もちろん、俺もその3社の存在は知っていたので無言で頷いた。
「『トラスト』とは、アイドル業界で例えるなら、その961プロと765プロと346プロが……まぁ、なんていうか、一つに合併しちゃうの」
「なにそれ無敵じゃん!」
『無尽合体キ○ラギ』じゃん!この前、劇場版のDVD見たんだ。すげー良かった(子並感
生活必需品でもインフラ関係でもないものでトラストを説明させるとか立花君マジ鬼畜
……でもアイドル業界に代替品と呼べる存在は二次元ぐらいしか無いし、説明しやすい部類ではあるのか?
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