【艦これ】鳳翔さんと完璧性の懐中時計 (45)


色褪せない海。

誇らしさと悲しさの詰まった私の居場所。

彼女たちの呼び声が私にはずっと聞こえ続けている。


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鎮守府近くの公園で過ごす午後、私は非番の日にこの場所へ来るのが好きだ。

ベンチに座り、見つめるともなく景色を眺める。


鳳翔「いい陽気ですねぇ」


誰にも届かないと知っているからこそ、私はひとりごちた。

ただ心静かだ。

子どもたちが遊ぶ声や姿は穏やかな日常の象徴であるように思う。


鳳翔「戦争はもう終わったのですね……」


ハワイ沖での決戦、多くの艦娘の血にまみれた激戦の果て、我々は最終的な勝利を手にした。

敵は太平洋から放逐され大西洋やインド洋に残った拠点に閉じこもり最後の抵抗を続けている。

だが最大の生産拠点であったハワイを失った以上、その抵抗も続かないだろう。

喜ばしいことだ。それなのに……。


鳳翔「……何で元気が出ないのでしょう」


背もたれに寄りかかり、視線を上にし木漏れ日を見つめる。

きらきらと、あの日の海面のように光っている。


鳳翔「これは私たちの特権ですね」


人間には見えない色、耐えられない光……艦娘にしか捉えられない映像。


老人「こんにちは」

鳳翔「あっ、こんにちは」

老人「驚かせてしまいましたかな」


彼は老いを感じさせる含み笑いをした。


老人「隣に座ってもよろしいですかな」

鳳翔「勿論です。どうぞ」


光を放たない黒塗りのステッキ、見事な質感を持った茶色の革靴、落ち着いた品の良い服装。

薄くなった頭、皺の寄った目とよく似合った眼鏡。

年相応でありながら全体として気品のある格好。お金持ちなのだろうか。


……私は何をしている。人を値踏みするような真似など、はしたない。


老人「初めまして。この公園でお会いするのは初めてですな……よく来られるのですか」

鳳翔「初めまして。いいえ、休みの日には来る程度です」

老人「私はほぼ毎日通っているんですがね、いやはや。どうぞお見知りおきを」

鳳翔「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


その後、彼はバッグから小説を取り出して読み始めた。

私はすぐに帰るつもりだったが、先程挨拶をした人がすぐに帰るというのはおかしな話ではないか?

帰るか、帰るまいか、どうにも居心地が悪く、結局私もしばらく座っていることにした。


老人「……」ペラ

鳳翔「……」


暇なので、横目に顔を覗いてみる。

その時、熱心に小説を読んでいた筈の彼がこちらを向いた。


老人「そういえば」

鳳翔「はっ、はい!!」


驚いて少し素っ頓狂な声を上げてしまった。


老人「隣に貴女がいらっしゃるというのに、一人で本を読むなど失礼でしたかな」

鳳翔「いえ、とんでもございません。どうぞ私などお気にならさずに」

老人「いやいや申し訳ない。日課でして」

鳳翔「……すいません。お気を使わせてしまって」

老人「構いませんよ。どうせ暇なのですから。読書も暇つぶしのようなものです」

鳳翔「何をお読みになられていたのですか」


老人「秘密です」


鳳翔「……え?」

老人「がっかりされても困りますし、その方が面白いと思いませんか」

鳳翔「ふふっ、そうでしょうか」


そこからの会話は弾んだ。天気のこと、近くのスーパーの品揃えのこと、彼の昔話。

とりとめもない話をする内に時間は過ぎていった。


鳳翔「それは少し思慮が足りていない行動ではないですか?」

老人「何をおっしゃいます。南方の学校では優等生だったのですよ。特に語学が」

鳳翔「ふふふ、既に日本語は覚えていらしたのでしょう?」

老人「確かに父母から多少の手ほどきは受けて居ましたがな。ふっふっふ」

鳳翔「もう」クスクス


鳳翔「南方の学校はどのような?」

老人「どこの国だろうと子供は子供です。日本人という肩書はまるで通用せずに、喧嘩ばかりしていましたよ」

鳳翔「まぁ」

老人「ですが気質が優しい者が多かったように思います。喧嘩して、仲良くなって、そうですな……今思えば楽しかったものです」

鳳翔「それは良かった」


老人「貴女の学校生活はどうだったんですか。是非お聞きしたい」

鳳翔「……私は詰まらないものです。人一倍グズで、誰かの後ろから眺めているような、そんな感じで」

老人「お優しいのですな」

鳳翔「いえ、鈍いだけです」


そうだ。私は誰の役にも立てないだけだ。


老人「……そうですか。ああ、もうこんな時間か」

鳳翔「あっ」


気づけば夕暮れも終わりが迫っていた。

遊んでいた子どもたちの姿も無く、公園には私たち二人だけになっていた。


老人「ではまた、えーっと……あ、申し訳ない。貴女のお名前を伺うことを忘れていた」

鳳翔「秘密です」

老人「え?」

鳳翔「お互いに名前は秘密にしておきましょう。その方がきっと楽しい、そう思われませんか?」


一般人と艦娘は必要以上に関わってはいけない。その方がお互い幸せだ。


老人「……そうですな。ふっふっふ。それではお嬢さん、またお会いしましょう」

鳳翔「はい。またご縁があれば」

老人「楽しい時間をありがとうございます」

鳳翔「こちらこそ、良い時間を過ごさせて頂きました。またご縁があれば、よろしくお願いします」

老人「はい。勿論ですとも」


「鳳翔さん、おはようございます。今日も早いですね」

鳳翔「新聞屋さん、おはようございます。いつもありがとうございます」

「ちわーす魚屋です~、鳳翔さん毎度っ!」

鳳翔「はい。ゲンさんもおはようございます。毎度様です」

「どう鳳翔さん、イキの良いブリも入ったし、戦争も終わったことだし、ウチに嫁に来ない?」

鳳翔「ありがとうございます。ご縁があれば是非」ニッコリ

「クゥゥゥ! てっきびしいねぇ!」

「ちわーす八百屋です。ゲンさん、アンタのとこじゃ無理だって。鳳翔さんはウチの息子の嫁になるんだから」

鳳翔「ありがとうございます。ご縁があれば是非」ニッコリ

「カァァァァ!!! そりゃ無いよ鳳翔さん!」

「だぁっとれ八百屋!」


「鳳翔さんいつも悪いね。食堂の仕事なのに」

鳳翔「いえ、私も楽しいですから。この具材先に刻んでおきますね」

「そいつが終わったら魚の下処理も頼むよ。アンタより上手い人は居ないんだから」

鳳翔「ありがとうございます。任されました」




鳳翔「駆逐隊の皆さん、朝の哨戒をよろしくお願いします」

「「「「「「はーい、いってきま~す」」」」」」

鳳翔「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね」




「鳳翔さん、おはよう。ちょっと頼み事良いかな?」

鳳翔「はい。何でもどうぞ」




「鳳翔さん鳳翔さん、ここの備品って予備どこあったっけ」

鳳翔「それなら第四倉庫の棚に有ります。あ、私が取ってきます」




「鳳翔さ~ん、手伝ってくれるのも朝夕だけで良いのに~」

鳳翔「いえ、私も楽しいですから。この具材先に刻んでおきますね」




提督「鳳翔さん、年度締めの収支報告書の確認をお願いしたいんだが」

鳳翔「はい。お任せ下さい」

提督「悪いね。秘書艦にも頼んでるんだがどうにも不安で」

鳳翔「もっと雲龍さんを信頼してあげて下さいね。……後で執務室へ参ります」

提督「頼む」


「うぇぇぇぇぇ」

鳳翔「はいはいはい、どうしたんですか」

「あ、あかづぎはれでぃなのに、びすまるぐが」

鳳翔「……ビスマルクさん」

「わ、私は本当のことを言ったまでだ」

鳳翔「めっ!! 誰かを傷つけちゃ駄目です」

「うぐっ……は、反省する!」

鳳翔「反省では駄目です。暁ちゃんにあ・や・ま・り・な・さ・い」




鳳翔「はい、おやつが焼けましたよ~」

「「「「「「ッシャコラァ!!!」」」」」」

鳳翔「クッキーは一人二枚まで、良いですね」




鳳翔「遠征お疲れ様です、報告をこちらで受け付けます」




鳳翔「失礼します。鳳翔、参りました」

提督「ありがとう」




「鳳翔さ~ん、悪いんだけどこれお願いできるかな」

鳳翔「はい。お任せ下さい」




「鳳翔さん、アラの下処理頼むよ」

鳳翔「すぐ終わらせます」




「鳳翔さん、今夜一杯どう?」

鳳翔「はい。一酌お付き合いします」

「やっり~! さすがは鳳翔さん!」

鳳翔「隼鷹さん、昨日も飲んでいるのですから。今日は飲み過ぎは駄目ですよ」

「ヘーキヘーキ、今日は休肝日だって休肝日~」

鳳翔「その言葉、忘れませんからね」クスクス


鳳翔「……戻りましたよ~」


隼鷹さんを止められず少し深酒し過ぎた。

少し愉快な気持ちで独りごとを呟いてみたりして。

結を解いて髪を下ろし、寝間着へと着替え……。


鳳翔「ふぅ」ボスッ


そのまま布団の上に寝転んだ。


鳳翔「めっ、お行儀が悪いですよ」

鳳翔「……」

鳳翔「ふふふ……」


疲労感から私の瞼は独りでに落ち、意識は闇へと沈んでいった。


たすけて


くるしい


いたい


どうしてまた


いたいよ


ほうしょうさん……?


前に来てから一週間程だろうか。曇り空の公園はいつになく静かだった。


老人「またお会いしましたな」

鳳翔「奇遇ですね」クスクス

老人「ご機嫌はいかがですか」

鳳翔「お陰さまで」


短い他人行儀な挨拶を済ませた後、また前のようなとりとめもないお喋りが始まった。


時間を忘れ熱中し、気がつけば夕暮れ……とは今回はならなかった。


老人「おっといけない。今日はこの後約束があるんだった」


彼はそう言うと胸ポケットから時計を取り出し、時間を確認した。


老人「ああ、まだこんな時間か。もう少しこちらに居られそうです」


鳳翔「懐中時計ですか」

老人「おや、お気づきですか。お目が高い」

鳳翔「誰でも分かることだと思いますが、ありがとうございます」クスクス

老人「私の数少ない自慢の逸品ですよ。とても愛着もあるし、性能的にも頼もしい」

鳳翔「今時懐中時計とは、何かのこだわりですか?」

老人「まぁ骨董趣味ですかな」

鳳翔「もし良ければ触っても……?」

老人「勿論ですとも。どうぞ」


彼はしわがれた手で時計をこちらに寄越した。


鳳翔「ありがとうございます」


両手で受け取った瞬間、予想外の重みがあった。


鳳翔「……重いですね」

老人「中に私の時間が入っていますから」

鳳翔「はい。そうですか」

老人「ふっふっふ」


眺めてみる。


見えないほど透き通ったガラス板を通った光は文字盤に反射し、くっきりと数字と針を示し出している。


鳳翔「とても綺麗です」

老人「いえいえ。貴女のほうが綺麗ですよ」

鳳翔「作った人の心遣いが汲める気さえします……」

老人「良ければ裏面も」

鳳翔「裏面?」


言われるがまま裏返すと、裏蓋には小さな突起がついていた。


老人「はい。開いてみて下さい」


突起に爪をかけると裏蓋は容易に開いた。


鳳翔「……これは」



大小様々のネジが緻密に重なり合い動き続けていた。



老人「このモデルは自動巻きですらありませんから、中がよく見えるんですよ」

鳳翔「……」


もはや『綺麗だ』という言葉すら無かった。

私と薄いガラス一枚挟んだ先に、なにか違う世界が姿を現したかのような恍惚。

ゼンマイ仕掛けで電気要らずの機械には確かに命が吹き込まれている。

指の隙間から溢れてゆく砂のように、滑らかに、組織的に、規則正しく動き続ける。

表面では今も秒針が正しい時刻を示し続けているのだろう。

もっと見ていたい。

ずっと、この時計と一緒に、時間を


老人「はい、おしまいです」パッ

鳳翔「あっ……」


恍惚は私の手の中から唐突に姿を消した。


鳳翔「えっ、あの、どうして」

老人「この時計は私のものですから。これ以上は困ります」

鳳翔「えーっと……もう少しだけ」

老人「駄目ですな」

鳳翔「……どうしても?」

老人「どうしてもです」

鳳翔「私も、どうしても見たいです」


老人「さて。アナログ時計の良さを分かって頂いたようで、良かったです」

鳳翔「あの……」

老人「少し早いですが私はここでお暇しましょう。それで」「あのっ!!!!」


老人「はい? どうかされましたか」

鳳翔「私は、その時計をもっと見たいです」

老人「やれやれ、困った人だ。どうしても見たいのですかな」

鳳翔「はい。お願いします」

老人「では鳳翔さん、私のお願いを一つ聞いて頂けますかな」


「八百屋さん。今日も早いですね」

「おーコンチワ新聞屋さん」

「ちわーす魚屋です~、鳳翔さん毎度っ!  っていねぇ。おい八百屋」

「俺だって知らねぇよ。鳳翔さんが来てねぇんだ」




「おい下っ端! 遅いよ、それじゃ朝食に間に合わないじゃないか!」

「ど、どうして今日はこんなに忙しいんですか!?」

「鳳翔さん、寝坊かねぇ……珍しいこともあるもんだ」




提督「……これはどういうことだ」

提督「朝6時に朝食が出来ていない、朝遠征に誰も出てない、書類が執務室へ来てすら居ない」

提督「まだあるぞ、トイレットペーパーは切れ、艦隊の出撃準備は済んでおらず……」


「う゛あ゛あ゛!! あがづぎはれでぃだもん!!!」

「誰が暁泣かせたんだよ~」

「オネショをするレディなど居ないと言ってやったまでだ」

「なんだと~!」

「提督、ちょっと頼み事していい?」

「提督、私も少し頼み事が……」

「提督さん、相談なんだけど」

「提督! おやつがないぞ!」

「そもそもお昼ごはんは無いっぽい!? 夕立、お腹すいたっぽい!」


提督「な、何がどうなってるんだ!?」


「提督、鳳翔さんに頼み事をしていたのだが彼女がどこか知らないか」

提督「すまんちょっと待て! 今はそれどころじゃ……待て待て待て、鳳翔」



提督「そうだ、鳳翔さんが居ないんだ!!!!」


鳳翔(私は何をしているんだろう)


私は今、知らない人の家に居る。


老人「朝早くからようこそ。どうせ共犯です。そうですな、記念にワインでも開けましょうか」


しかも人間の男の家だ。


鳳翔「……やっぱり私、帰ります」

老人「どうせ今戻っても脱走扱いですよ」

鳳翔「知っていたんですか」

老人「何を」

鳳翔「私が艦娘だって」

老人「ええ、知っていましたよ」

鳳翔「私は貴方の名前すら知らないのに……」

老人「私の名前など知る必要のない事です」

鳳翔「……」


何か悔しかった。良いように扱われ、こんな場所まで呼び出され。

この男は「従わなければ時計を壊す」と私を脅した。


鳳翔「……」


私はその言葉に逆らえなかった。

時計、あの時計をずっと見ていたい。

その一つだけの欲求に私は突き動かされていた。


老人「どうぞ。中々上物ですよ」


彼は白ワインを私にも勧めてきた。

鳳翔「……いりません」

老人「そうですか。ところで貴女は時計を身につける機会はあるんですか」

鳳翔「……ありません。直接時刻を受信していますから」

老人「生きる電波時計というわけですか。はっはっは」

鳳翔「何がおかしいんですかっ!」

老人「正しい時刻が分かるとは何とも詰まらないと思いましてな」

鳳翔「……」

老人「機械式の時計は」


彼はポケットから時計を取り出し、机の上に置いた。


鳳翔「……!」

老人「たった一つの正しい時間を示さない。……どうぞ、お好きに見てもらって構いません」


私は夢中で時計を奪い取り、裏蓋を開いた。

私は私を魅了する景色とまた出会えた。


鳳翔「あぁ……」

老人「たまたま貴女を見かけた時、確信しましよ。鳳翔さんだと」


だからなんだ。


老人「公園で子どもたちを見つめる目は、また違ったものでしたな」


関係無い。


老人「貴女の目は優しくもどこか遠くを見つめるような、寂しい目でした」


知らない。


老人「もう私の声など聞こえていませんか」


……いつまでも見続けていたい。


老人「よろしければ、その時計は貴女に差し上げますよ」


鳳翔「……え?」

老人「やっとこっちを見てくれた」

鳳翔「頂けるのですか」

老人「老い先短い私にはもう必要ありませんから」

鳳翔「……」

老人「その時計の美しさは、自身の完璧性にあります」

鳳翔「完璧性……」

老人「まるで無駄がない、洗練された機械仕掛けと盤面設計の端正さ」


老人「まさに完璧です。唯一の欠陥は時間が日に日にズレるところ、でしょうか」

鳳翔「……私はその程度を欠陥だと思いません」

老人「鳳翔さん、自身に不足感を覚えてはいませんか」

鳳翔「知りません」

老人「自分に自信が無い者程、その時計に固執するのです」

鳳翔「知りません。私はただ好きなだけです」

老人「……そうですか。では飲んでいますので適当にどうぞ」

鳳翔「持って帰ってもよろしいですか」

老人「せめて酒盛りには付き合って頂きたい」


……時計を眺められるならどこでも関係は無いかもしれない。


鳳翔「……」

老人「実のところ私は貴女のファンなんです」

鳳翔「……」

老人「世界初の航空母艦、素晴らしい快挙だ」

鳳翔「……」

老人「華々しい戦果が無いとしても裏方として戦線を支え続けていた」

鳳翔「……」

老人「最後に解体されるまで国のために戦い続けた」

鳳翔「……」

老人「貴女はその記憶を引き継いだ存在であり鳳翔そのものだ」


彼は喋りながら白ワインをグラスに注ぎ中々のペースで飲んでいる。

私は時計ばかり見て一向に返事をしなかった。

彼の話は次第に白熱し、深海棲艦と艦娘の戦いの流れにシフトしてきた。

一般人にしては中々に情報通、恐らく広報が流した情報は全て網羅しているのであろう……と思わせる程の物だった。


だから何だというのだ。


私は無視し続けていた。

しかし、聞き逃せない言葉が飛び込んできた。


老人「結局のところ貴女は戦闘において役立たずです」

鳳翔「……」ピクッ

老人「先ほどまで語った大きな海戦の中に、貴女の名前は出てこない」

鳳翔「……」

老人「華々しい戦果など、二次においても三次においても出していない」

鳳翔「……だから何でしょう」

老人「ほう。逆に私が問いたいくらいですよ。だから何だ、と」

鳳翔「意味が分かりません」

老人「ふっふっふ。本当に私の賞賛の言葉が届いていなかったようだ」

鳳翔「……?」

老人「どれ程の艦娘がハワイに沈んだか、ご存知でしょう」

鳳翔「????」


老人「役立たずとは哀れなものですな。老いさらばえ生きながらえた今だからこそ、理解できる」

老人「使えない存在として大事に奥にしまわれ、いつ来るかも知れぬ死を待つだけなど」

老人「悔しさしか無い」

老人「自分の代わりに死んでいく若人たちを眺める気分はどうでしたか」


鳳翔「……っ!!」


老人「不足を知らぬ満たされた貴女には、さぞ痛快だったことでしょう」

鳳翔「痛快な……わけが」

老人「……」

鳳翔「痛快なわけが無いじゃありませんか!!!」

老人「ほう」

鳳翔「私がもっと強ければ、足が速ければ……救えた命だってあったかもしれない!」

老人「ほう、そんな風に考えていたのですか」

鳳翔「……帰ります」

老人「試すような真似をして申し訳ない」

鳳翔「……」

老人「戦闘に弱くても良いじゃありませんか」

鳳翔「……気安くそんな言葉を使わないでください。私がどれだけ苦しんだかも知らない癖に!」

老人「少しは理解できているつもりです」

鳳翔「人間の癖にどうして理解できるんですか! 不愉快です!」


人間の癖に、私たちに守られているだけの脆弱な存在のくせに。


老人「鳳翔さん、貴女は立派な艦娘だ」

鳳翔「立派なんかじゃありません!!」

老人「何故ですか」

鳳翔「大事な時に戦えない艦娘なんて、艦娘じゃありません……」

老人「私はそうは思いません」

鳳翔「貴方がどう思ってるかなんて関係ないんです!! 何なんですか、さっきから!」

老人「……」

鳳翔「皆がボロボロになりながら戦っているのに、私はいつも旧型駆逐艦と主戦場から離れた場所で!!」


死に立ち向かった彼女たちに、どこまでも生ぬるい声しか掛けられない自分が惨めで。


老人「……」

鳳翔「なんで、もっと役に立てないのでしょう……ただ眺めるだけで……」


自分で言って目頭が熱くなってきたその時


老人「う……うぅ……」

鳳翔「え?」


目の前の老人が泣き始めた。


鳳翔「……」

老人「そんな風に……自分を憐れまないで下さい。貴女の存在によって救われた命だってあるんだ」

鳳翔「救われた命……」


老人「現に私は貴女に救わている!」


提督「艦娘の第二分隊は隣町まで捜索範囲を広げろ、第五分隊は帰って飯だ! 第六は遠いからその辺で適当に済ませろ! 捜索続行! 整備員は鎮守府内をくまなく探し直せ! 下水にも入れよ!」

鳳翔「あの、提督?」

提督「ああ鳳翔さん、お帰り。帰ったところ悪いがちょっと手伝って貰えるか!」

鳳翔「それは良いのですが……この基地の厳戒態勢は一体……?」

提督「実はな鳳翔さん、今鳳翔さんが行方不明になっていてだな、その鳳翔さんの捜索をこの鳳翔さんにも手伝って貰いたいって鳳翔さんここにおるやん!!!!!!!」

鳳翔「はい。ご迷惑をお掛けしました」ペコリ


たすけて


『ごめんなさい。助けられません』


くるしい


『分かっています。だけどもう助けられないのよ』


いたい


『うん、うん』


どうしてまた


『私にも分からないの。でも、もう終わったわ』


いたいよ


『……』


ほうしょうさん……?


『私はこれからも私の出来ることをする。精一杯生きていく』


……私たちのこと見捨てるの?


『はい。私は死んだ貴女たちでなく生きた人間を救うためにここに居る。……やっと思い出したんです』


……。


『さようなら。今度こそ、ゆっくり休んで下さい』


「鳳翔さん、おはようございます。今日も早いですね」

鳳翔「新聞屋さん、おはようございます。いつもありがとうございます」

「昨日はどうしたんですか。なんか鎮守府のほうが凄く騒がしかったような」

鳳翔「申し訳ありません。軍事機密なので」ニッコリ

「ちわーす魚屋です~、鳳翔さん毎度っ!」

鳳翔「はい。ゲンさんもおはようございます。毎度様です」

「どう鳳翔さん、イキの良いタイも入ったし、戦争も終わったことだし、ウチに嫁に来ない?」

鳳翔「ありがとうございます。ですがこの際ハッキリとお断り致します」ニッコリ

「クゥゥゥ! 相変わらずてっきびしいねぇ! ってえ? ハッキリとお断り?」

「ちわーす八百屋です。ゲンさん、アンタのとこじゃ無理だって。鳳翔さんはウチの息子の嫁になるんだから」

鳳翔「ありがとうございます。そちらもお断りさせて下さい」ニッコリ

「カァァァァ!!! そりゃ無いよ鳳翔さん! ……え?」

鳳翔「ではまた明日よろしくお願いします」ペコリ

「ど、どうなっとんじゃ八百屋!」

「俺が知るか魚屋!」


「鳳翔さんいつも悪いね。食堂の仕事なのに」

鳳翔「いえ、私も楽しいですから。この具材先に刻んでおきますね」

「そいつが終わったら魚の下処理も頼むよ。アンタより上手い人は居ないんだから」

鳳翔「ありがとうございます。誇りに思います!」




鳳翔「駆逐隊の皆さん、朝の哨戒をよろしくお願いします」

「「「「「「はーい、いってきま~す」」」」」」

鳳翔「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね」




「鳳翔さん、おはよう。ちょっと頼み事良いかな?」

鳳翔「はい。どうぞ」




「鳳翔さん鳳翔さん、ここの備品って予備どこあったっけ」

鳳翔「それなら第三倉庫の棚に有ります。あ、場所は教えるので自分で取ってきて下さい」




「鳳翔さんホント昼は良いって! 食堂の仕事なんだから!」

鳳翔「いえ、いずれ居酒屋でも開こうと思っているので。この具材、先に刻んでおきますね」


提督「鳳翔さん、申し訳ないが年度締めの収支報告書の確認をもう一度お願いしたいんだが」

鳳翔「嫌です」

提督「悪いね。秘書艦にも頼んでるんだがどうにも不安で……え?」

鳳翔「もっと雲龍さんを信頼してあげて下さい。……それでは」

提督「ええぇぇ!?」




「うぇぇぇぇぇ」

鳳翔「はいはいはい、どうしたんですか」

「あ、あかづぎはれでぃなのに、びすまるぐが」

鳳翔「……ビスマルクさん」

「わ、私はまた本当のことを言ったまでだ」

鳳翔「めっ!! いい加減覚えなさい!」

「うぐっ……こ、怖い!」グスッ

鳳翔「次やったら一週間ごはん抜きですからね」

「分かりました……」




鳳翔「はい、おやつが焼けましたよ~」

「「「「「「ッシャコラァ!!!」」」」」」

鳳翔「クッキーは一人二枚まで、良いですね」




鳳翔「遠征お疲れ様です、報告をこちらで受け付けます」


「鳳翔さ~ん、悪いんだけどこれお願いできるかな」

鳳翔「すいません。今回は自分でお願いします。場所はもう知っていますよね」




「鳳翔さん、タイの下処理頼むよ」

鳳翔「はい! すぐ終わらせます」




「鳳翔さん、今夜一杯どう?」

鳳翔「う~ん。ごめんなさい、今日は予定が」

「やっり~! さすがは鳳翔さん! ……え?」

鳳翔「少し読みたい本がありまして」

「鳳翔さんが酒の誘い断るなんて、こりゃ明日雪でも降るのかなぁ」

鳳翔「その言葉、忘れませんからね」クスクス

「かっかっか! で、何読むんだい? 哲学書? 歴史書? 自己啓発書?」

鳳翔「秘密です」

「なんで~けっち~」

鳳翔「秘密の方が面白いと思いませんか?」

「あはは! 分からん!」


コンコン


鳳翔「どうぞ、入って下さい」

提督「失礼する」

鳳翔「提督、どうかされたのですか」

提督「ああ、いや。昨日何があったのか聞きたくてな。今日は少し様子が変だったし」

鳳翔「もう既に私は誰かの役に立っていたのだと、気づくことが出来ました」

提督「?? なに当たり前なこと言ってるんだ。鳳翔さんは前からウチの大事な艦娘だろ」

鳳翔「……提督」

提督「なんだ」

鳳翔「この時計をどう思われますか」スッ

提督「ふむ……おお、機械式の懐中時計か。しかも中々趣味の良い品じゃないか」

鳳翔「裏蓋も開けてみて下さい」

提督「……は~~! これは大したもんだ! 凄いな!」

鳳翔「……」


提督「これは大事にしろよ。将来価値が出るぞ。ほれ、返しておく」


鳳翔「へ?」

提督「ん?」

鳳翔「……いらないんですか?」

提督「え、だってお前のだし」

鳳翔「奪ってでも欲しい、とは思わないのですか?」

提督「??? 別に思わんが」

鳳翔「どうやら提督は……満ち足りた幸せな方のようですね」クスクス

提督「ま~、俺の不足は全部艦娘が補ってくれるからな! 幸せいっぱいだ!」


提督「あ、そうだ。鳳翔さん、昨日はどこへ出掛けてたんだ」

鳳翔「懐かしい方とお喋りを少し」

提督「む? 知り合いか」

鳳翔「はい。とても古い知り合いです」


鳳翔「あの時彼はまだ子供でした」


おわり

愉しかった
乙です

乙です

乙でした!

俺氏が無能だから内容よくわからんかったなぜ年寄りが子供なん?

鳳翔さんがまだ艦だった時代に助けられたんだろ
時系列を考えればその時子どもだった人物が老人になってるって事だろ
わざわざなんでこんな回りくどい真似をしたのかとか懐中時計との関連性はよくわからんが

おそらく鳳翔が引き揚げ船に時にのせた子供なんだろうけど懐中時計にしろ鳳翔の不安を知って接近した機序にしろ全くわからんね
オカルトよりの世界観なのかもしれん

いわれてるように気になるとこはあるけど雰囲気は好きだ

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