仮面ライダー剣と仮面ライダーウィザードと劇場版艦これのコラボSSです。
劇場版艦これ上映記念に(※筆者は未見、知人から得た伝聞情報に従って書いてます)
艦これ劇場版で如月に救いはあっても、祥鳳にだけは何もないと聞き、書いてみました。
これで、少しでも多くの祥鳳提督が救われれば幸いです。
※如月好きと瑞鳳好き、劇場版艦これの感動を台無しにされたくない方、閲覧非推奨です。
※当然ですが劇場版のネタバレ注意です。
※睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」
睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428572159/)
の続きです。
※事前に上記3作、ならびに>>2のSSを目を通していただければ幸いです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480316445
過去作
祥鳳「私が轟沈・・・?」 剣崎「ウゾダドンドコドーン!!」
祥鳳「私が轟沈・・・?」 剣崎「ウゾダドンドコドーン!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425207826/)
弦太朗「俺は全ての艦娘と友達になる男、如月弦太朗だ!!」
弦太朗「俺は全ての艦娘と友達になる男、如月弦太朗だ!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425986661/)
比叡「カレーができました!」橘さん「これ食ってもいいかな?」
比叡「カレーができました!」橘さん「これ食ってもいいかな?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427537012/)
睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」
睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428572159/)
曇り空の砂浜。そこを一人の少女が必死で走っていた。黒髪が風に靡き、水飛沫が飛ぶ。
その少女は、元艦娘だった祥鳳だった。
彼女は砂浜を走り、必死に逃げていた。黒い靴が砂で汚れるのも構わず、彼女は走った。
彼女を追っているのは、同じ仲間であるはずの艦娘、如月であった。
「あらあら、まだ逃げるの~?」
「やめて、私は敵じゃない! なんでこんなことするの如月ちゃん!?」
だが、彼女に祥鳳の言葉は通じない。如月の脳内には、祥鳳の言葉は全て滑舌の悪い不格好な言語となって響いていた。なにより、祥鳳の姿がはただの空母ヲ級にしか見えていなかったのだ。
如月はにっこりと笑い、逃げる彼女を何度も何度も撃った。そのさまは獲物を楽しそうに追い詰める猟犬のようでもあった。
そして、彼女を追い詰めるのは駆逐艦だけではなかった。
「待ちなさい、深海棲艦!!」
「瑞鳳……、やめて!」
祥鳳の妹、瑞鳳までもが彼女を深海棲艦と言い放って追跡してきた。
「沈みなさい、深海棲艦!!」
瑞鳳は容赦なく爆撃を開始した。爆撃により、祥鳳の逃げ場は徐々に狭められてゆく。祥鳳は焦った。なにより、大事な妹がこんなことをすることが信じられなかった。
「あぁぁっ!」
如月の執拗な砲撃が祥鳳の足を掠めた。その衝撃で彼女は足を痛め、派手に転んでしまった。
「うぅ……」
破壊者の異名を持つ駆逐艦の少女はスキップを踏むようにして陸に上がると、激痛に苦しむ祥鳳の脚を踏みつけて銃口を額に突きつけた。
「さあ♪ 如月が今、楽にしてあげる♪」
「あ、あぁ……」
ダメ、殺される……!
祥鳳は、なんとか逃げようと脚を動かしたが、どうにもならなかった。
「さあ、ヲ級ちゃん……。痛みは一瞬よ?」
「い、いや……」
絶望に震え、祥鳳の目に涙が浮かんだ。
その時、彼女の脳裏にある男の姿が浮かんだ。
剣崎一真。彼女を一度助けてくれた、緑色の血の男。
「助けて! 助けて、剣崎さぁぁん!!」
祥鳳は思わず叫んでしまった。彼が、この場にはいないにも関わらず。
その時、不思議なことが起こった。
「やめろ! 何やってんだお前!」
「えっ……?」
突如、ひとりの若い男が現れた。祥鳳にとって、見覚えのある長身の若い男が。
「な、なんなのっ!?」
如月は驚いて、その場から離れてしまった。男は祥鳳の前に仁王立ちし、如月の前に立ち塞がった。
「あなた、深海棲艦を庇うつもりなの!? どいて、どかないと撃つわよ!」
如月は警告したがそれでも男は動かない。
仕方なく如月は砲撃を放った。だが、祥鳳をその身を呈して庇った男は、一瞬にしてヘラクレスオオカブトを禍々しく変質させたような怪物へと変わった。
そしてその体からは、緑色の血が流れ出した。
「なに、このバケモノ……!?」
対峙する如月はその禍々しい姿と血の色を見て震えた。
だが、祥鳳にはわかっていた。
この人は怪物なんかじゃない。この人は、この人は……!
この人は、私のヒーローなんだ……!
「剣崎さん……! 来てくれたんですね…」
怪物は無言のまま頷くと、腰からベルトを取り出した。
「全ての人間を守る。それが俺の仕事だ!」
怪物は右腕を構え、変身の姿勢を取った。ベルトが唸り、彼の腰に巻きつけられる。
「変身!」
『TurnUp』
怪物がベルトのバックルを引くと光り輝く紋章が飛び出た。紋章を潜り抜けた瞬間、紫紺の甲冑を纏った剣士、仮面ライダーブレイドが立っていた。
「なっ……!?」
如月は驚き、何度も何度も砲撃を放った。だが、ブレイドの体には傷一つつかない。
「祥鳳ちゃん。ここを離れるぞ!」
剣崎は祥鳳をその腕で抱き抱えると、黄金の鷲が描かれたカードを取り出し、剣にスキャンさせた。
『Fusion Jack』
黄金の鷲が鳴き声をあげブレイドと融合すると、ブレイドの背中に翼が生え、空へと舞い上がった。
「な、なんなの……!?」
突風で吹き上がったスカートを押さえながら、如月は去って行くブレイド達を悔しげに見つめた。
「逃げられたようね」
瑞鳳は悔しげに言った。
「ふふ。まあ、ハンティングは楽しまないと」
「そんな無駄な遊びをする必要はない」
ふたりの前に一人の背の高い男が現れた。髭面の軍服を身にまとった中年の男だった。
「そうね。追撃しちゃいますか!」
瑞鳳はゲームを楽しむ狩人のようににっこりと笑った。彼女が狙う獲物が、実の姉であるにも気づかず。
森の中へ逃げ込むと、ブレイドは翼を畳んで着陸し、祥鳳を降ろした。
「大丈夫か? 血が流れてるぞ」
祥鳳に簡単な止血を施したあと、剣崎は変身を解いた。だが、その姿はかつて祥鳳が見たものではなかった。
「剣崎さん、その体は……?」
彼の身体は怪物の姿のままだった。
「ごめん。驚かせちゃって。俺、ときどきこんな風になっちまうんだ……」
剣崎は苦笑した。口が裂けた凶悪な顔だったが、なぜか祥鳳は怖いと思わなかった。
たとえ外見が怪物でも心は優しい剣崎のままだということを、彼女は理解していたからだ。
「まあでも、そろそろ収まるかな……」
しばらくすると、剣崎は怪物の姿から人間の姿へと戻った。その緑色の血だけは変わらぬままだったが
「ありがとうございます、何度も助けてくれて」
「いいよいいよ。それより、怪我はない?」
「えぇ。でも……」
祥鳳は悲しげに俯いた。そして、肩を震わせて嗚咽した。
「なんで……。なんで瑞鳳たちが……!」
仲間と妹に襲われたことがショックだったのか、あるいは裏切られたことが悲しかったのか、祥鳳は大粒の涙を零した。
「こんなの……。こんなのって……!」
祥鳳は悲しかった。仲間に裏切られたことが、最愛の妹に裏切られたことが苦痛であり悲しくて仕方が無かった。
しばらく、剣崎は彼女をそのままにしておいた。今はまず落ち着くまで泣かせた方がいい。
だが、彼女の悲痛な泣き顔は剣崎の心を暗くするものであった。
しばらくして祥鳳が泣き止むと、剣崎は彼女から事情を聴き始めた。
「……さっきの瑞鳳って子、君の妹か?」
祥鳳はこくりと頷いた。
「そうか……」
「みんな、私のことを忘れちゃったんです……。私なんて、いなくなったっていい艦娘だから……。だからみんなで私を……!」
「そんなことはない!」
剣崎は声を荒らげた。
「この世界に、いなくなっていい人間なんて一人もいない!」
「剣崎さん……」
剣崎は真剣な目つきで、彼女を見つめた。
「だからそんなこと言うなよ。なっ?」
「剣崎さん……。ありがとう……」
祥鳳は少しだけ微笑んだ。
「大丈夫。きみは、絶対に俺が守ってみせる」
剣崎はそう言って祥鳳の肩を優しく叩いた。
その時であった。
『Teleport』
突如、不思議な呪文が鳴り響き、その場にある者達が現れた。
「えっ……?」
「追手かっ!?」
だが、ふたりはその二人が意外な人物であることに気付いた。
「ようやく見つけられたか」
「久しぶりだな、剣崎」
そこに現れたのは艦娘ではなく、二人の若い男だった。ひとりは背の高い優しげな表情の男、もうひとりは左腕に指輪を填めた男だった。
「橘さん……」
「久しぶりだな、剣崎」
「どうしてここが?」
「アンデッドサーチャーに反応があった。随分苦労したぞ、お前を探すのに」
橘は懐かしそうに微笑んだ。
「橘さん……。お久しぶりです」
剣崎もまた懐かしそうな笑みを浮かべた。
「ところで橘さん、その人は?」
「俺は操真晴人。仮面ライダーウィザードだ」
「仮面ライダー、ウィザード? きみも、仮面ライダーなのか?」
晴人は黙って頷いた。
「時間がないので簡単に言うぜ。世界がある怪人によって書き換えられてしまった。その怪人を倒すのに力を貸してくれ、ブレイド……」
「世界が? どういうことだよそれ!?」
唐突な話に剣崎と祥鳳は驚き、目を丸くした。
「艦娘については、あんたも知ってるな?」
「ああ」
剣崎は頷いた。祥鳳など、艤装という装備を纏って戦う少女たちのことだ。
「その艦娘が仲間の一部を、敵の深海棲艦だと思い込んで殺し合いを始めている」
「なんだって!?」
「なんとか今は、他のライダー達が食い止めてるがな」
晴人と橘の話を聞きながら、剣崎は驚愕していた。こんな女の子達に殺し合いだって?
「そして、どういうわけか、彼女達はそれを疑いようのない事実だと信じてる。深海棲艦を殺せば、自分たちの仲間に、艦娘になる。そう信じてな……」
「だが実際は逆だ。彼女達が同族殺しをするたびに、倒された艦娘は深海棲艦となってしまう。逆もまた然りだ。彼女達は、そんな終わりのない殺し合いの連鎖を続けてる」
「そんな……」
剣崎の拳は怒りで震えていた。一方、祥鳳は俯いたまま何も言わない。
「誰なんだよ!? そんな酷いことさせてる奴は!?」
「アマダムだ」
晴人はきっぱりと断言した。
「アマダム?」
「ヤツは倒したはずだが、なぜかこの世界に……」
晴人の言葉は耳をつんざく爆撃の音によって遮られた。
「なっ……!」
「見つけたわよ!」
追手の艦娘たちが現れた。瑞鳳と如月だ。
「いかん。ここは退くぞ!」
橘は祥鳳や剣崎を連れてゆこうとしたが手遅れだった。
「あらあら? 何処へ行く気なの?」
退路を如月がしっかりと塞いでいた。
「さあ、その深海棲艦をこっちに渡してもらえる?」
「あ、あぁぁ……」
祥鳳は怯えきって座り込んでしまった。その目には涙と仲間に狙われる恐怖が浮かんでいた。
愛する者に恐れを抱き、剣を向けられる。
そのさまは、嘗て相川始が暴走して天音を襲いかけた時の記憶を剣崎に思い起こさせた。
剣崎にとって、それは苦い記憶であった。
なぜ、心優しい者同士が争わねばならないんだ? こんな理不尽なことがあっていいのか?
いや、絶対にあってはならない。剣崎には、その想いを抑えきれなかった。
「よせ! 彼女を撃つなら、俺を撃て!」
剣崎は前に飛び出し、祥鳳の前に仁王立ちになって立ちはだかった。
「どいて! その深海棲艦、倒せないじゃない!」
瑞鳳が怒鳴るが剣崎は怯まない。
「よせ剣崎! 今はこの場を退き、アマダムを探し出して倒すことを優先するんだ!」
「ごめん。橘さん、晴人」
剣崎は心からすまなそうに詫びた。
「でもやっぱり、俺には見過ごせない! こんな、仲間同士で争うところなんて!」
そう言って、剣崎はその場を動かなかった。
「……相変わらずだな、剣崎」
橘は苦笑した。
そうだ。これこそが剣崎一真だ。たとえ自分の体がぼろぼろになってでも、全ての人を守りぬくため戦う。
それがこの男だ。
晴人も何も言わず、黙ってその場を見つめた。彼も口には出さなかったが、剣崎と同じ思いであった。
彼女達の心を救うことこそ、魔法使いの、そして仮面ライダーの在り方なのだ。
「なんで? なんであなた、深海棲艦を庇うの?」
瑞鳳が何をしてるのかさっぱり理解できないという表情で冷たく言い放った。
「よく見ろ! お前らの目の前にいるのは、ホントに敵か?」
「何言ってるの? 敵に決まってるじゃない? 早くどきなさい!」
「何馬鹿なこと言ってんだ!」
剣崎は一喝した。その気迫に、如月と瑞鳳はひるんだ。
「怯えて抵抗できないヤツを倒すのが、きみたちの戦う目的なのか!? 違うだろ!?」
その言葉に、瑞鳳達は反論出来なかった。確かに、眼に映る空母ヲ級は攻撃もせず、ただ怯えて座っているだけだ。
「よく見ろ。彼女は、何もしない。君たちの、仲間だ」
瑞鳳達は、彼の言うことが信じられない。だが、目の前のヲ級には確かに敵意が感じられなかった。
「証拠は? 何を証拠にそんなこと!?」
「だったら本人に聞いてみろ! この子の名前は祥鳳。きみの、お姉さんなんだぞ!」
「ウソ……?」
「彼女の目をよく見ろ! そいつは、敵なのk!?」
「あなた、あなた、祥鳳……お姉ちゃんなの?」
祥鳳は黙って頷いた。
「よく見ろ、君の目の前の女の子は、きみに危害を加える目をしてるか?」
瑞鳳はじっとヲ級の目を見つめた。その優しい眼差しはどこか見覚えがある。
まさか、まさか……! 瑞鳳は愕然とし、彼女の弓矢が手からこぼれ落ちた。
「お姉ちゃん……!」
目に映るものがヲ級であるにも関わらず、瑞鳳と如月は駆け寄って手を取った。
「祥鳳さん、私、なんてことを……!」
「お姉ちゃん……。ごめんね、ごめんね……!」
三人は互いに抱き合い、泣き出した。
「良かった……」
剣崎は微笑み、艦娘たちの和解を喜んだ。
「さすがだな、センパイ……」
晴人は驚愕していた。同時に、体を張って少女達を説得し、和解させた剣崎に密かな敬意を感じた。
だが、祥鳳が妹たちと暖かな時間を過ごすのもそこまでだった。
「…え?」
突如、刃が瑞鳳と如月の体をえぐり、二人は祥鳳の目の前で血を噴き出して倒れてしまった。
「う、うそ……? 瑞鳳……?」
直後、瑞鳳と如月の体から錆が大量に吹き出し、やがて二人とも完全に赤錆に埋もれて見えなくなってしまった。
「いや、いや、いやぁぁぁぁぁ!!!」
愛する人達の死に、祥鳳は絶叫した。
その時だった。
「ハハハハハッ! やっと見つけたぞ、指輪の魔法使いぃぃぃ!!!」
高笑いをする軍服を着た男が突如現れ、高速移動を行ない、一瞬にして祥鳳に当身をして気絶させてその手に捕縛してしまった。
「お前は!?」
「俺はアマダム、キサマらが探していた魔法使いだぁぁぁぁ!!」
軍服姿の男は、一瞬にして小豆色の怪人の姿へと変わった。
「そうか、お前が世界を書き換えたとかいうヤツか!?」
「そうともぉぉ!! 私がクリエイトのリングを使って作り出した新たな世界だ。なぜか、君達仮面ライダーや一部の艦娘達には効果がなかったがなぁぁ!!」
剣崎に対し、アマダムは妙に嬉しそうに答えた。
「やはりそういうことか……。にわかには信じられないが」
「ありえないことすんのが、魔法使いなんだよ。橘さん」
晴人の言葉に橘は頷いた。
世界を思うがままに変える魔法か。天王寺が聞いたら喉から手が出るほど欲しがっただろうな。橘はそう思った。
「なぜこんなことを……!?」
「操真晴人。俺は貴様に倒されたが、貴様が元の世界へ帰る瞬間、怨念となってその後を追ったのだ! そして、この世界に魂なくして彷徨っていたカーバンクルに取り憑いた。その後、艦娘やクリエイトの指輪についての知識を得たのだぁぁ!」
自慢げにアマダムは話し始めた。剣崎の目はすでに怒りに燃えていた。
「……なぜこんな世界を作った? 何が目的だ!?」
「決まってるだろ? クロス・オブ・ファイヤーの世界を作るためだぁぁぁ!」
「何馬鹿なこと言ってんだ!」
剣崎が怒鳴った。
「私が作り替えたこの世界では、艦娘は死ねば深海棲艦となる。その深海棲艦は死ねば艦娘になる。つまり、艦娘は悪から生まれた存在、お前たちと同じ悪から生まれた存在、クロス・オブ・ファイヤーなのだよ!! 既に何人もの艦娘が同族殺しの末に深海棲艦となった! 見るがいい!」
アマダムが指さした方向には、不思議な形状のカプセルが13個並んでおり、その中では加賀を初めとする深海棲艦となりかかった状態で眠っていた。
「……艦娘同士に幻覚を見させ、片方がもう片方を殺し合う! そして深海棲艦が生まれ、彼女達はまた艦娘になり、深海棲艦の幻覚を見てまた艦娘を殺す! ついでに深海棲艦となった同族もなぁあ!! おかげで楽しい殺戮ショーが見られたよ! アッハッハッハッハ!」
アマダムは下劣な感情を隠そうともせずに大笑いした。
「お前……、自分がどれだけひどいことをしてるのか、分かってるのか!?」
「よくも女の子達にこんなことを……!」
剣崎と橘は激昂し、叫んでいた。晴人もまた無言であったが、その目には静かな怒りが漂っていた。
「人の命を弄びやがって……。お前は絶対に許さない」
「ハハハハハッ、お前たちに私たちを倒せるというのかぁぁ?」
アマダムは笑った。
「簡単だ。お前を倒し、世界を元に戻せばいい!」
『Shabadobitattihensiiin……!』
魔法の呪文が詠唱され、ベルトの美しい機械音が鳴り響いた。
「変身ッッ!」
「変身!」
「……変身!」
『Turnup』
『Turnup』
『Flame……Hi,Hi,HiHiHiiii!』
三人が紋章を潜ると、一瞬にしてその場に指輪の魔法使いウィザード、紫紺の剣士ブレイド、そして紅の銃士ギャレンが現れた。
「アマダム、覚悟しろ!」
「バカめ、易々とやられるものかぁぁ!!」
「ウィガゼルグァ!!」
その瞬間、カプセルを破り、空母ヲ級を始めとする十三体もの巨大な深海棲艦が出現した。戦艦棲姫、空母棲姫、装甲空母姫など、巨体を誇る深海棲艦がブレイド達の前に立ち塞がった。
その間に、アマダムは高速で飛び上がり、どこかへ逃走してしまった。
「くっ……!」
「ザァ、ギザマラボヂバヅリニバゲデグベル!!」
まずい。このままでは逃がしてしまう。ブレイド達が焦ったその時だった。
「ここは俺に任せてくれ」
ウィザードが静かに言い放った。
「晴人! でも……」
「早く行け、ブレイド、ギャレン。人間を守るのが、あんた達の仕事だろ?」
「晴人……」
ブレイドは逡巡したが、やがてすぐに首を縦に振った。
「…わかった! 気をつけろよ晴人!」
「ああ」
晴人は頷いた。
「行くぞ剣崎!」
「はい!」
ブレイドとギャレンは、鷹と孔雀が描かれたカードをそれぞれ取り出し、左腕の機械に装填した。
『FusionJack』
『FusionJack』
鷲の鳴き声が甲高く響き、孔雀の羽が華麗に広がり、ブレイドとギャレンはジャックフォームとなった。
そしてふたりはすぐさま翼を広げ、アマダムの後を追った。
「ゴウガイズルゾ、ヴィドリデノゴッダゴドヲ!」
「それはどうかな?」
ウィザードは軽やかに左手をくるりと回し、言い放った。
「さぁ、ショータイムだ」
https://www.youtube.com/watch?v=GatOgrIVFMk
ウィザードの戦闘は流麗だった。砲弾を軽やかに躱し、装甲空母鬼の放った艦載機を次々にウィザーソードガンで撃ち落とし、砲塔を刃で切り裂いてゆく。
「ヂョコバガドォォ!!」
「ギザマボフカイウミ゙ノゾコヴェ、ゼズボウルゥイロォ!!」
「ヤギヅグジデイヤルゥ!!」
戦艦棲姫達が巨大な怪物と共に砲撃を放った。だが、ウィザードには通じない。彼は攻撃を躱しつつ、指輪を装填した。
『Defend,Please』
ウィザードはすぐさま炎の盾を召喚し、攻撃を弾き飛ばしてしまった。
「ボノレェ……!」
「さて、ちょっとおとなしくしてもらうか」
『Bind,Please』
幾つもの魔法陣が浮かび、鎖が飛び出て深海棲艦達を縛り付けた。
「グワァァ……!!」
あっという間に、ウィザードは次々と深海棲艦達を無力化してしまった。
「ナズェダァ! ナズェオバエダヂハヤミガラブマレタゾンザイナノニヤミにオヂナイ!?」
「ちがう!」
ウィザードは叫んだ。
「たとえ俺たちや君たち艦娘達が、悪から生まれた存在だったとしても……。俺は絶望を希望に変えた!そしてなったんだ、仮面ライダーに!」
「ナッ……!」
「人は、絶望から這い上がれるんだ! たとえ、どんなに苦しくても、君たちも絶望に負けちゃいけない!」
その言葉に、深海棲艦達は暴れる手を止めた。
「ホントウニ、ヤミカラモドレルノ……?」
「ああ。約束する、俺が最後の希望だ」
深海棲艦達は時間が止まったかのように落ち着き、涙を溢し始めた。
「モドリタイ……、モドリタイヨ……!」
「ああ。悪い魔法は、これでおしまいだ」
ウィザードは静かに輝く純白色の指輪を取り出し、ベルトにスキャンさせた。
『Infinity…! Please...! Hi,sui,fuu,do,boo,zaaba,byuu,dogooon!!!!!!!!』
星屑が彼を包み、ウィザードは宝石の輝きを持つインフィニティスタイルへと強化変身した。
「少しだけ、我慢してくれ」
ウィザードはアックスカリバーの一部に何度も触れ、
『Hightouch…‥Shiningstrike!!! Kirakira,Kirakira!!!』
ウィザードは巨大な光り輝く斧を振りかざし、一気に深海棲艦達を切り刻んだ。
「はあぁっ!」
強大無比の深海棲艦は13体まとめて爆散し、やがて次々と艦娘の姿を取り戻していった。
気を失った瑞鳳や如月、加賀らが砂浜に横たわった。
「ふいぃ……」
少女達が元の姿を取り戻したことに安心し、ウィザードは安堵のため息をついた。
一方、アマダムを追っていたギャレンとブレイドは、海辺の崖に佇むアマダムを発見した。
「フハハッハ! お前たちの負けだ仮面ライダーどもォォ!!」
「なにっ!?」
「いでよフォーティーン! 我が身と一体となり、仮面ライダーを破壊し尽くすのだぁぁ!!」
アマダムが叫ぶと、突如海から巨大な光の柱が発せられた。
その光ははるか天空を貫き、空に雷を生み出した。
「あれは……!?」
アマダムはさっと飛び立つと、紫色の光の中へ飛び込んだ。
やがて、紫色の光は巨大な塊となって海を割り、巨大な魔神が現れた。いつの間にか、嵐が起き、豪雨が降り出していた。
「魔法の力で、眠っていた古代の力を不完全ながら復活させた!! ワハハハハハ!!」
巨大な魔神フォーティーンに、仮面ライダー達は驚愕した。その額にはアマダムが張り付いており、この二体が融合したことが見て取れた。
フォーティーンは咆哮をあげ、仮面ライダーへと襲いかかってきた。
体当たり一つでブレイドとギャレンを吹き飛ばそうとした。あまりにも巨大な風圧が彼らを襲うが、なんとかふたりは回避した。
「こんなの、でかいだけでなんともないさ!」
「あぁ、俺たちの力で倒してみせる!」
ブレイドとギャレンは剣を構え、立ち向かおうとした。だが、
「それはどうかな? 見るがいいぃぃ!」
フォーティーンは自らの右腕を見せつけた。その右腕の中には、気を失った祥鳳が握られていた。
「祥鳳ちゃん!?」
「さぁどうした!? 私に手を出せば、そのまま彼女を握りつぶすぞぉぉぉ!!」
「ぐっ……!」
人質を取られては手出しできない。ブレイド達が攻撃の手を緩めたその時だった。
「ハハハハハッ! 吹き飛べぇぇぇ!!!」
フォーティーンは左の聖杯から電撃を放ち、仮面ライダー達を吹き飛ばした。
「ぐはぁぁっ!」
ギャレンとブレイドは地面に落ちてしまった。黄金の翼が泥に塗れ、茶色い斑点がいくつもできた。
どうすればいい!? どうすればあの子を救える!?
剣崎は一瞬迷ったが、ある考えが閃いた。
「橘さん。少しの間、あいつを任せてもいいですか?」
「……わかった」
ギャレンは頷くと、翼を広げて飛び立った。彼はフォーティーンの顔に近づくと、銃撃をせず敢えて挑発するかのように顔の周りを飛び立った。
「バカめ、と言って差し上げますわぁぁぁ!! わざわざ、死にに来たかぁぁぁぁ!?」
フォーティーンはギャレンに何度も何度も火球を放ち、彼を狙い撃ちした。
「うわぁぁぁぁ!」
今だ。一瞬の隙ができた。
ブレイドは剣のホルダーを開き、スカラベの描かれたカードを取り出し、スキャンさせた。
『Time』
その瞬間、ブレイド以外のすべての物体が動きを停めた。フォーティーンもギャレンも、降り注ぐ雨も、雷も、何もかもが。
「よし!」
ブレイドもまた上空へと舞い上がり、トカゲのカードを手に取り剣を構えた。
「今だ!」
その瞬間、時は再び動き出した。
「なっ!?」
アマダムはいつの間にかブレイドがフォーティーンの指先へ到達していたことに驚愕した。
そして次の瞬間、彼をさらに驚愕させる出来事が起きた。
『Slash』
「ウェイッ!」
「ぐぉぉぉ!!!」
ブレイドはフォーティーンの指を切り落とし、祥鳳を解放した。すぐさま彼女を腕に抱えながら、地上へと向かった。
「剣崎さん……」
「大丈夫か、祥鳳ちゃん?」
だが、フォーティーンは痛みに苦しみながらも、ブレイドを逃さなかった。火球を口から放ち、祥鳳ごと焼き尽くそうとした。
「ぐわぁぁっ!!」
ブレイドは咄嗟に祥鳳を庇い、変身を解除してしまった。
それでも仁王立ちしたままであり、祥鳳には傷一つついていない。
「剣崎さん……!」
「言ったろ? きみは、俺が必ず守るって!」
痛みに苦しみながらも、剣崎は精一杯の力で祥鳳に向かって微笑んだ。
「おのれぇぇ!! その小娘ごとトドメを刺してくれるわぁぁぁ!」
フォーティーンが剣を剣崎にふり下ろし、祥鳳ごと潰し倒そうとしたその時だった。
「それはどうかな?」
『Smog』
『Tornado』
電子音が鳴り響いた直後、どこからか煙幕が放たれ、フォーティーンの視界を遮った。
「なっ……!?」
さらに、どこからか放たれた衝撃波がフォーティーンを襲い、少なからぬダメージを与えた。
「ぐぉぉぉ!!!」
フォーティーンは突然の攻撃でバランスを崩し、海へと落下してしまった。
「始、睦月!」
剣崎のもとに、懐かしい友がまたふたり現れた。黒き戦士、カリス。緑の甲冑騎士、レンゲルだ。
「剣崎さん、助けに来ました!」
「剣崎……!」
ふたりは変身を解き、剣崎のもとへ駆け寄った。
「睦月、始……。久しぶり」
長年会いたかった人たちを見て、剣崎は嬉しそうに笑った。
「あぁ。だが今は、再会を喜んでる時じゃない」
始の言葉に剣崎は頷き、祥鳳に向き直った。
「祥鳳ちゃん、早く安全な場所へ」
「……はい!」
祥鳳は崖から離れ、急いで内陸の森の中へと走り出した。
「おのれぇ! ならば四人まとめて蹴散らしてくれるわぁ!」
「剣崎!」
「橘さん!」
橘も傷つきながらその場へ戻ってきた。
「橘さん!」
「うまくいったようだな……」
「すみません、橘さん。こんな危ないことさせちゃって」
「気にするな、お前のためなら、これくらいなんともない」
橘は泥だらけの顔で笑った。
気づけば、その場にいた全員が雨で濡れていた。
「久しぶりに四人揃いましたね」
睦月は嬉しそうに言った。
剣崎も、橘も、始も同じ想いだった。
剣崎は橘を、睦月を、始をじっと見つめると、今にも襲いかからんと向かってくるフォーティーンへと向き直った。
https://www.youtube.com/watch?v=8tg9ivKrHVw
「橘さん! 始! 睦月!」
「戦うんだ! もう一度! 俺たちの力で!」
橘も、始も、睦月も黙って頷いた。
「俺達の、仮面ライダーの力で!」
四人は変身のポーズを構え、戦いの狼煙を挙げた。
「変身っ!!!」
「変身ッ!」
「変身……!」
「変身!」
『TurnUp』
『TurnUp』
『Change』
『Openup』
紫紺の剣士が、紅の銃士が、黒き戦士が、緑の戦士が、その場に現れた。
「おのれぇぇ!! まとめて焼き尽くしてくれるわぁぁ!!」
フォーティーンは雷を、炎を、暴風を、ライダー達に向けて放った。だが、仮面ライダー達は負けない。
咄嗟に手にした切り札を出し、最強形態へと変わった。
『EvolutionKing』
『EvolutionKing』
『EvolutionKing』
『Evolution』
ブレイド、ギャレン、レンゲルはキングフォームに、カリスは真紅のワイルドカリスへと強化変身した。
「なっ……!?」
四人の仮面ライダーは飛び上がり、フォーティーンへと対峙した。それぞれ必殺のカードを手に取り、装填した。
『Club10,Jack,Queen,Ace... RoyalStraightFlash!!!!!』
『Dia10,Jack,Queen,Ace... RoyalStraightFlash!!!!!』
『Wild』
炎の奔流が、氷の刃が、閃緑の光矢が、フォーティーンの腕を打ち砕いた。
「今だ剣崎!」
ブレイドは頷くと、5枚のカードを大剣キングラウザーに装填した。
『Spade10,Jack,Queen,Ace... RoyalStraightFlash!!!!!』
スカラベ、鷲、山羊、2体のカブトムシ、黄金のステンドグラスが邪神の眼前に5つ並んだ。
そのステンドグラスが並んだ瞬間、邪神は動けなかった。まるで御札を貼られ動きを封じられた怪物のように。
ステンドグラスをくぐり抜け、ブレイドは突き進んだ。その度にブレイドの輝きが増してゆく。
「ウェーーーーイ!!!」
そして、キングラウザーの一閃が炸裂し、黄金の刃がアマダムごとフォーティーンを切り裂いた!!
「そんな、そんな、そんなぁぁぁぁぁ!!!」
剣を降ろし、ブレイドはゆっくりと息を吐いた。
直後、アマダムは悲鳴をあげ、フォーティーンと共に海上で大爆発した。
いつの間にか、雨は止み、雲の隙間から太陽の光が差し込んできた。
「……」
ブレイドは、晴れやかに輝く空を満足げに見つめた。
その直後、世界は突然、真っ黒な闇に包まれ始めた。
「これは!?」
変身を解き、人と獣が入り混じった姿になった剣崎が動揺した。
「安心しろ。これで世界は元通りさ。艦娘たちも、元通りだ」
晴人が穏やかな表情で微笑んだ。
「これで、悪夢はおしまいだ」
「そっか……」
剣崎は安堵したような表情を浮かべた。
「ブレイド……!」
ウィザードは変身を解き、晴人の姿へと戻った。
そのまま、怪物のものと化した剣崎の腕に対し、躊躇いなく手を差し伸べた。
「ウェッ?」
「トモダチのしるし。オレのダチが教えてくれた、友情の証だ」
「友達、か……」
剣崎は爪の生えた手を差し出し、晴人と優しく手を重ねた。
ふたりは握手を交わし、握り拳を軽く突き合わせた。
「ありがとう晴人。友達、増えたよ」
「俺もだ」
「へへっ」
拳を突き合わせ、ふたりは穏やかに笑った。
「またどこかで会ったら、その時も一緒に闘おう」
「ああ」
晴人はにっこりと微笑むと、その場から姿を消した。
「友達か……」
嬉しいな。こんな俺を友達と言ってくれるなんて。
剣崎は素直にそう思った。
https://www.youtube.com/watch?v=lY83RGUhCj4
その時だった。
「剣崎!」
「剣崎ッ!」
「剣崎さん!」
誰かが彼を呼んだ。振り返ると、懐かしい仲間達がやって来た。
別離の予感が、三人をこの場へと急がせたのだろう。
「剣崎。せっかくだ。別れの言葉くらい、あってもいいだろう」
「橘さん……」
橘は悲しげな表情で呟いた。
「剣崎、俺も運命と戦う。せめて、お前が守りたかった世界くらいは、守り続けるよ……」
剣崎は黙って聞いていた。
「剣崎さん。俺、近々結婚します。あなたが守ってくれたこの世界で生きていきます」
「睦月……」
そして、剣崎は長い間会うことのなかった友へ向き直る。
「剣崎……!」
剣崎は自分の目に映ったものに驚いた。
始は瞳を潤ませていたのだ。そして、嗚咽が邪魔して、剣崎の名前を呼ぶのが精一杯だった。
「始……!」
だが、二人の間にもう言葉は要らない。ただ視線を交わすだけで、10年以上離れた想いは確かに伝わった。
「橘さん、睦月、始」
剣崎は仮面ライダー達ひとりひとりの名を呼んだ。
「これからも……俺は運命と戦う。そして勝ってみせる!」
「剣崎」
「剣崎……!」
「剣崎さん……!」
「ブレイド」
剣崎は拳を突き出した。橘も、始も、睦月も彼と同じく拳を突き出した。
四人は黙って拳を合わせ、しばしそのまま立ち尽くした。
言葉に出さずとも、彼らにはその想いが共有されたのだった。
だが、無情にも彼らの想いを黒い闇が阻んだ。
「剣崎、体に気をつけろよ」
切なそうな表情で橘が言い、姿を消した。
「剣崎さん! 俺、あなたのことを忘れません……!」
睦月が頭を下げ、先輩の目の前から消えた。
「剣崎……! 俺は……! 俺は……!」
始は、涙を流し彼を見つめた。彼が何かを言おうとした瞬間闇が二人を分ち、その場に残った仮面ライダーは剣崎のみとなった。
「始のやつ、泣き虫になったなぁ」
最後までまともに話せなかった始に、剣崎は苦笑した。
それでも、そんな友の気持ちが嬉しかった。
始。お前なら、きっとうまくやってゆける。
これからも、人間たちの中で生き続けろ。
胸の内でそっと剣崎はつぶやいた。
しかし、もうひとりその場に残っていた者がいた。
祥鳳だった。
ほかの艦娘達が既に闇に消えたなか、彼女だけはまだ消えないままだった。
「剣崎さん、待って……!」
闇が全てを飲み込もうとする中、祥鳳は必死で剣崎のもとへ駆け寄った。
「剣崎さん、ありがとうございます……! 私、私……!」
祥鳳は怪物の腕を取り、何度も何度もありがとうと言った。
「お願い。今度は離れないで、私といっしょに……!」
だが剣崎はそっと手を離すと、彼女に背を向けた。
「祥鳳。きみは、人間たちの中で生き続けろ」
穏やかな言葉を残し、剣崎は闇の中へと歩んでゆく。
「待って。待って!」
それでも彼女は構わず叫んだ。
「私は……! 私は……! あなたのことがっ……!」
剣崎はふっと振り返ると、何も言わずに微笑んだ。
その直後、祥鳳の視界が黒くなった。
そして、すべてが黒い闇に塗り潰された。
「剣崎さぁぁぁんっっ!!!」
「……お姉ちゃん?」
「瑞鳳?」
気が付くと、私は布団の中にいた。古びた和風家屋の天井の木目模様がよく見えた。
そして、隣にはボサボサの髪の妹が、瑞鳳がいた。
「どうしたの? 叫んだりなんかして」
今までのことが夢だったの?
「瑞鳳。私のこと、ちゃんとわかる?」
「えっ?」
瑞鳳は不思議そうな顔をした。
「大丈夫、お姉ちゃん? 変な夢でも見たの?」
「瑞鳳、何も覚えてないの?」
「……?」
瑞鳳は怪訝な表情で私を見た。
それから、私は普通の日常に戻った。
瑞鳳とも仲の良い姉妹に戻り、私は普通の飲食店の店員に戻った。
あのあと如月ちゃん達にも尋ねてみたが、みんなそんなこと覚えてないという返事しか返ってこなかった。橘さん達仮面ライダーを除いては。
晴人さん曰く、あの世界がなかったことになると、一部の人間以外はその記憶がなくなるのだという。
まるで全ては夢だったのだろうか。
優しい妹のいる世界。
艦娘が戦いの呪縛から解き放たれ、平和に暮らす日常。
これが現実なんだ。
私はそう思うしかなかった。
でも、私の手にはあの暖かな剣崎さんの温もりが少しだけ残っていた。
それだけは、現実だと信じたかった。
数日後、喫茶店ハカランダで天音さんの誕生日パーティが開かれた。
「天音ちゃん、おめでとうー!!」
「ありがとー、みんなー!」
会場には相川さんや橘さんだけでなく、いろはにほへと屋の了さん、如月さんや晴人さんも招かれていた。
天音さんは今年で21歳。そろそろ大学卒業も間近だ。
会場が盛り上がり、へんてこな仮装をしながらみんな盛り上がっている。
私は料理を作ったりと裏方役だったけど、幸せそうな雰囲気が心地よく、苦にはならかった。
そんな中、ふと窓を見つめたその時だった。
「剣崎さん!?」
窓の外に、優しくこちらを見つめ微笑むあの人がいた。
https://www.youtube.com/watch?v=E_H8Rcn_JoY
「剣崎さんっ……!」
私は、驚いて走り出した。
彼は手を広げ、抱きとめようとしてくれた。私も彼の胸に飛び込もうとした。
でも、それは幻だった。そこには、おんぼろのオブジェしかなかった。
「剣崎さん……」
涙が溢れそうになった。
ありがとう。大好き。大切に思ってる。結局、そんな当たり前の言葉すら言えなかった。
彼は、またどこかへ行ってしまった。
でも、それしかないんだろう。
あの人はすべての人を守るために戦う、仮面ライダーなのだから。
そんな時、みんながやって来た。
「もー、どうしたのよ祥鳳さーん」
天音さんが苦笑した。
「ごめんなさい、あそこに剣崎さんがいるような気がして」
「ふふ。なにそれ」
誕生日パーティを中断されたのに、天音さんは優しく笑って許してくれた。
「剣崎は、いつも祥鳳ちゃんのそばにいるよ。ずっと、ずっとね」
橘さんが穏やかな表情でそう言ってくれた。
始さんも、悲しげに微笑み、黙って首を縦に振った。
「…はい!」
私は涙を拭い、無理に微笑んだ。
「よっしゃぁぁっ!! 飲むぞー!!」
突如、橘さんが叫び、飛び上がった。
いつも冷静沈着な橘さんらしからぬ挙動にみんなが笑い出した。
再び、楽しい誕生日会が始まった。
剣崎さん。見てて。
私も運命と戦う。
そして勝ってみせる。
彼から貰った勇気を、希望を、確かにこの胸に閉じ込めて。
きっといつかある、悲しみが終わる場所。それを目指して。
おまけ
翌朝、ハカランダでは騒ぎ疲れた祥鳳達が眠っていた。
少女たちに気を遣い橘達は別室にいたが、祥鳳は天音と共にソファーの上で静かに眠っていた。
その時、ハカランダの扉の鈴が鳴った。
背の高い青年が現れ、そっと扉を静かに開いて、部屋の中を覗いた。
青年は、穏やかな少女の寝顔を目にすると、優しい微笑みを浮かべた。
彼はすぐに扉を閉めて古びたバイクにエンジンを灯すと、満足げな表情のまま去って行った。
アスファルトの道路に、一本の黒い轍だけが残された。
その数週間後、人とも獣ともつかぬ姿の怪物が戦場に現れ、戦火に巻き込まれた孤児を救ったという報道がテレビで流れたという。
以上です。
ご覧いただき、ありがとうございました。
おつです
とりあえず公開途中の作品をネタバレ込みで上げる時点で屑
お前の書いた作品二度と見ないよ
>>33
ネタバレ注意との表記を書かせていただきましたが、わかりづらくて申し訳ございませんでsた。
お前さ
如月生きてて祥鳳救われないってネタバレかました後にネタバレ注意って言ってもなんの意味もないって理解してる?
>>35
ネタバレに対する配慮が足りず大変申し訳ございませんでした。
改めてお詫び申し上げます。
なんだ祥鳳提督が暴れてるのか?肩の力抜けよ、早死にするぞ?
1もあまり気を落とすな、こんな程度でネタバレと喚いてたらネット見るなとしか言えん
俺も映画まだ見てないから分からんがネタバレは最初の祥鳳云々だけだろ?
1にネタバレ注意って書いてあるのが読めない頭の悪さを自ら喧伝しなくてもwww
劇場版艦これ、中盤まで100万点、後半1点です。
如月生きてた
犠牲者は如月だけです
一旦は生き返った如月が深海せいかんとして正式に轟沈しました。
犠牲者はそれだけまずは青葉組の輸送船団の襲撃作戦から物語が始まりこっちは快勝してます。
そしてそこでカエリタイトという謎の声がこだまし如月がドロップします
そして復帰した如月ですが様子がどうもおかしいです。轟沈した時の記憶を明確に持っています。
そして肘には謎のアザがあり日を経るごとにどんどん体が深海せいかんに近くなっていきます。如月は相当荒んでいて以前とは別人です
そしてその字はいくら洗っても落ちません
そして帰りたいという謎の声がアイアンボトムサウンドの中央部から泊地にこだましてます。
そして同心円状にその中心部からどんどん海域の赤化が進んでいき後3日と7時間で泊地も汚染に巻き込まれることが判明した
そして敵船団は帰りたいという声が聞こえてくる海域の中心部に集結しようとしており
もし集結されたら二度と海域の突入ができないので的船団が集結する前に空有墓機動部隊が囮となり吹雪を中心とする船団が海域中心部に集結します。
敵の艦隊は空母姫や戦艦棲息姫が普通に出てきて普通に強いです。編成としては2015夏E6に近い
そして海域中心部に集結しようとした時吹雪を襲う強力な艦隊が吹雪を追い詰めましたがそこに変わり果てた如月が助けにきます
深海化した如月の姿は重巡に近い
吹雪は最終的にカエリタイという声の発生源のものすごい光るポイントに来ました。
そこで待っていたのは帰りたいという思いで艦娘になった吹雪とは別に分離した忘れ去られた怨念で深海棲艦溶かした吹雪です
ラスボスはもう一人の吹雪です
そして謎の光の空間に沈んでいく主人公吹雪は数々の艦が沈んで行った時の幻影とかを見せられて苦しみもがきながらもう一人の吹雪の闇に飲み込まれそうになる。
だが吹雪はもう一人の吹雪と敵対することなく大丈夫だからとひたすら連呼してもう一人の吹雪に寄り添います。そこで咲き誇る大量の彼岸花が印象的でした
最終的に吹雪はもう一人の自分を受け入れもう一人の吹雪は成仏してあたり一面の艦娘も光となって消えて行きました。その際に如月も成仏していきました。
まあ、思ってたほどひどくはなかった
ちなみに一部の艦娘は深海棲艦としての記憶を持っており加賀がそれにあたるそうです。
瑞鶴が帰ってこれるかもしれないんでしょっと言った時に加賀が二度と口にするなって
言ったけどそれほどまでに一時期深海化していた時のトラウマを引きずってます
如月は以前と同じような記憶を持ってますがおそらくドロップした
如月はどんどん深海化していく幽霊みたいなものです
謙介的には沈んだ艦娘は深海生艦になり沈んだ深海棲艦は艦娘になるというループが成立しているようです
映画としては、1000円くらいの価値はある
ネタバレってのはこのくらい徹底的にやらないと。
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