【ミリマスSS】ジュリア「夢路」 (76)
元ネタ
『流星群』
https://www.amazon.co.jp/IDOLM-STER-PERFORMANCE-アイドルマスター-ミリオンライブ/dp/B00DP43BBS/ref=pd_sim_15_4?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=Q213AYM5GMAN4KWCV3TY
『プラリネ』
https://www.amazon.co.jp/IDOLM-STER-HARMONY-アイドルマスター-ミリオンライブ/dp/B00MAN4DOY
少しミリオン本編とは時空が歪んでると思います。
あと、オリキャラ注意報ですよー(◯・▽・◯)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479626460
先生「おまえ、ふざけてんのか?」
放課後の生徒指導室。私は3人のセンセイに囲まれている。ふざけてんのはテメェの方だろ?そう言ってやりたかったが、延々とループするカセットテープのようなオセッキョーにもいい加減飽きたので黙っておくことにする。
あたし「...」
『もうメンドクセー』というオーラを視線に込めてセンセイガタに送っているのだが、全く見向きもしてくれない。あたしの視線に気づいて無視しているのかそれとも気づいていないのか、もし気づいていないなら『生徒に向き合った指導』なんて嘘っぱちだな、なんてうるさい声をかき消すために思考する。
先生「おまえなぁ?進路がパンクロッカーってなんだそれ?よく考えろ?大事な将来だぞ?」
もう何回目なんだよそのアリガタイお言葉。大事な将来だからそう書いたんだろ?自分のやりたいことも決められずに無難な近所の高校名を埋めた奴らより、よっぽどあたしは自分のことを考えてる。
先生「我々は、おまえのためを言ってるんだ。なぁ?ほら、おまえの進路を書け!」
そう言って新しい進路希望調査をあたしに突き出すセンセイ。あたしはそれを受け取り、クシャクシャに丸めて投げ捨てた。もう付き合いきれなくなったので、カバンを持って部屋を出る。
先生「どこへ行く!?話はまだ終わってないぞ!!」
ガッと肩を掴まれる。センセイの手はやたらとデカくて、あたしは動けなくなる。センセイガタはいつもこうだ。力であたし達が自由に動けないように押さえつける。『若者は夢を持て』なんて声高に語りかけながら、あたし達が目の前に広がっている広い世界に目を向けると、そこから目を背けさせる。
あたし「離せよ!ふざけんな!」
思いっきり体を揺さぶって、どうにか肩にかかる手を振りほどき、あたしは外に向かって全力で走った。
あたし「...あー、眩し...」
薄暗く狭い進路指導室から急に晴れ模様の外に出たからか、眩しさにすこし目眩がした。
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???「おまえさぁ、もうちっと上手くできないわけ?そりゃ先生も怒るよ」
とあるライブハウスの事務室。髭とサングラスのスキンヘッドのおっさんがあきれた口調であたしに言う。この人はこのライブハウスのオーナー。ん?そういやライブハウスの偉い人って『オーナー』でいいのか?まぁ、なんだっていいか。みんながオーナーって呼んでんだから、この人はオーナーだ。
オーナー「そんなんテキトーに近くの高校名書いときゃいいのによ。それで先生も満足だし、おまえも怒られずにすむ。めでたしめでたしじゃねぇか」
そんなの言われなくても分かってる。他の奴らみたいに、考えなしにテキトーな高校名書いておけば放課後の貴重な時間を無駄にしなくてもすんだし、この肩も痛まずにすんだ。でも、あたしにはやっぱりそれは胸くそ悪くてできなかったんだ。
あたし「なんか...自分の夢に嘘つくみたいでさ...。嫌だったんだよ...」
オーナー「へっ、青いねぇ。まだまだケツが青いよ」
あたし「けっけけけけけけケツとか言うなよ!セクハラだぞ!それにもう青くねぇ!たぶん!」
このおっさんは時たまこういうヘンタイなこと言いやがる。こういう話が苦手なあたしをからかってるんだろう...チクショウ...。
オーナー「まぁ、その若さはもうおっさんにはねぇからよ。少し羨ましい気もするわ。まぁ、精々悩め若者よ。悩んだ分だけ、納得するさ」
そしてこのおっさんは時たまこういうオセッキョーをする。あたしのような若者を見るとついついオセッキョーしてしまうらしい。
オーナー「まぁ、テメェが納得するだけだけどな。それで上手く行くほど、世の中は甘くねぇ」
カーッカッカッと大笑いするオーナー。まぁ、正直あたしはこのおっさんのオセッキョーは嫌いじゃない。ひとつの答えが出るまでオセッキョーし続けるセンセイよりも、答えがない問いを適当に投げかけるオーナーの方がよっぽどたくさんのことをあたしに教えてくれている気がする。
ひとしきり笑い終えるとオーナーはドヤ顔を作って言った。
オーナー「ジュリア!お前は今日からジュリアだ!」
あたし「は?あたしが?」
いきなりの話で何がなんだかわからずぽかーんとするあたしに、オーナーは続けて言う。
オーナー「パンクロッカーとしてのお前の名前だよ。中坊のおまえとパンクロッカーとしてのおまえ。切り離して考えりゃ、少しは上手くやれるんじゃねぇか?」
あたし「なんだよそりゃ?別人格を作れってことか?やだよそんなの、結局は嘘つくことになるじゃねぇか」
上手く嘘をつくために別人格を演じろってか?言ってることは理解できるが、それはそれでやっぱり自分を騙しているようで胸くそ悪い。
オーナー「嘘つけとは言ってねぇよ。現実を生きるおまえと、夢を追いかけるおまえ。どっちもおまえだ」
オーナー「その辺の切り離しができるのが大人だけどよ、おまえはまだ子供だ。だから名前をつけて、無理やり切り離してやるんだよ」
オーナー「いずれはわかるさ。とにかく俺はこれからおまえをジュリアって呼ぶからな」
またおっさんのオセッキョーだよと呆れるが、まぁこんなドヤ顔をキメた時は何を言っても聞いちゃくれない。仕方がないのでオーナーの提案を受けることにする。パンクロッカーのあたしはジュリアだ。胸くそは悪いが、なんだか妙に心がアツくなるのも感じる。芸名みたいでカッコいいしな。
ジュリア「んで、ひとつ聞いてもいいか?」
オーナー「あ?なんだ?」
ジュリア「なんでジュリアなんだ?」
オーナー「思いつきだ!細けぇことはいいんだよ」
カーッカッカッカッとまた大笑いが響く。あまりに呆れて言葉も出ず、ただジトーっとした目でそれを眺めるしかなかった。
オーナー「うし、無駄話もここまでだ。じゃあ、レッスン始めっか!」
ジュリア「はい。お願いします!」
オーナーもあたしも、そう言ってギターを準備する。あたしはここのライブハウスでバイトをする代わりに、オーナーにギターを教えてもらっていた。
オーナー「毎回思うけどよ、レフティ同士で向き合ってギターを弾くなんてジュリア相手だけだから、変な感じするな」
ジュリア「そうかい?あたしはこれしか知らないから、わかんないや」
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パンクミュージシャンに憧れたのは少し前のこと。なんてことない出会いさ。TVでカッコいいパンクロッカーをみたからだ。
そんなよくある話でも、あたしにはあまりにも強烈だった。激しく力強く音を叩きつけ、その空間をその時間を自分たちの音だけで埋め尽くす。激しく叩きつけるドラムの音が心臓の鼓動のようで、激しく掻き鳴らすギターの音が魂の叫びのようで、あたしは一発で心を奪われた。
次の日、あたしは前借りした小遣いを握りしめて、楽器屋に走っていった。そこからこのギターは、ずっとあたしの相棒だ。
初めて家から1番近いライブハウスに行ったとき、あたしはひどく驚いた。TVで憧れたパンクロッカーのギタリストが、こんな近くの小さいハコにいたからだ。あまりの偶然に喜ぶ反面、あたしには素朴な疑問が浮かんでいた。
(なんでTVの人がこんなところに?)
わからないことは聞くのが早い。ライブが終わった後、フロアにいるその人に話しかけてみた。そうすると返ってきたのは意外な言葉だった。
『あぁ、もう俺はプロじゃねぇ。今は自分のライブハウスでギターを弾くだけのおっさんだ』
『あんなにカッコいいギタリストが?あたし、あんたに憧れて今ここにいるんだぜ?』
そう言うとニカッと笑ってギタリストは言った。
『ありがとよ。もちろん俺はここで終わるつもりはねぇ。もう一度未来にちっと夢を見てみようと思ってるよ』
そう言い終わって、ギタリストはタバコを吸う。赤く燻っていたタバコの火が、呼吸に合わせて強く光るのを何故だか強烈に覚えている。
################
そんなこんな過去がありって言うほど前ではないのだが、あたしはそれからずっとオーナーにレッスンを受けている。オーナーはその間も定期的にライブを開き、インディーズでCDも出していた。
ヒットチャートには程遠い売り上げだが、あたしのとびきり好きな1枚だ。売れセンとは違う、ただ自分の存在証明のようなエゴの塊のような音が、なぜだかあたしには心地よかった。
きっとオーナーは近い将来に、またTVの向こうに帰って行ってしまうと思う。だからあたしはその日が来るまで、今のうちに教えてもらえるものを全部教えてもらうつもりだ。
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オーナーの指導もあり、あたしはメキメキと実力をつけてきた。はじめはスゲースゲーとどのバンドにも無条件で手を叩いていた両手も、今は他のバンドの演奏を聴きながら『あたしならもっとうまく弾ける』とエアギターをつま弾いている。
あー、あたしも早くステージ立ちてぇなぁ。でも、一人でやるには何もかもが足りなさすぎる。バンドを組めばいいのだろうが、残念ながらあたしの知り合いにはそんな奴はいない。そもそもダチっていうか知り合いが少な...ウン、ゴホンゴホン。
どっかのバンドに入ろうかとメンバー募集のビラを見てみても、あたしの心をワクワクさせるバンドはそこにはなかった。あたしの胸の奥で燃える炎は、行くあてもないままグルグル回り続けるだけだった。このままではその炎が、あたし自身の身体を焼き尽くしかねない。
炎に焦がされて胸の中に溜まった灰を吐き出すようにプハーっとでかい溜息をつくと、目の前のオーナーがいつもの様子でカカッと笑う。
オーナー「あー、若者が溜め息だと?生意気だねぇ。幸せが逃げんぞ?やめとけやめとけ」
ジュリア「はっ、そのナリで幸せを語るとかシンコーシューキョーの勧誘みたいでゾッとするね」
オーナー「ばーか。俺はいつも愛と平和を歌ってんぞ?ラブアンドピースアンドロックンロールさ」
ジュリア「『クソッタレ』って言葉が20回も出る曲作っておいてよく言うよ...」
このおっさんはプロポーズのときも『クソッタレ』って言ったのかな?だとすると奥さんの顔が見てみたいぜ。オーナーの左手の薬指に光る指輪を見て、あたしはぼんやりとそんなことを思った。
そんな呆けているあたしに向かって、オーナーは問いかける。
オーナー「退屈か?レッスンだけの毎日は?」
ジュリア「あぁ。吐き気がするってほどでもないけどよ、もうどこに行くでもない空気中に散っていくだけの音を出すのにも飽きてきた頃だ」
ジュリア「早くあたしもステージの上に立って、客にガンガン音を叩きつけたいって気持ちが止まらねぇんだ」
あたしはオーナーの目をまっすぐ見て答えた。あたしの答えを受け取ったオーナーはニヤリと笑い、何かのバラエティーショーの司会のようなテンションであたしに告げた。
オーナー「オーケーオーケー!そんな走り出したいけど走り出せない青い春真っ只中の、ケツの青いジュリアちゃんにいい話があります!」
あたしはその変なテンションについていけず、黙ってオーナーの次の言葉を待った...ん?けっ...けっ...ケツ!?
ジュリア「だだだだだからもういい歳なんだからそんなヘンタイなこと言うのやめろ!!」
オーナー「おいおい、せっかくおまえにいい話があるからおじさん無理してテンション上げてんのに、邪魔すんなよ」
ブーっとクソ可愛くもないオコダヨーのサインを出すオーナー。
ジュリア「.....うるせー///」
もうやだこのおっさん...。
オーナー「んで話を戻すとよ。お前に紹介したいバンドがあんだよ」
ジュリア「へ?バンド?」
紛れもなくそれはあたしにとって最高の話だった。飛び上がって喜びたい衝動に駆られたが、またオーナーにからかわれそうなのでクールを装う。
ジュリア「で、どんなバンドなんだ?」
オーナー「まぁまぁウキウキしちゃって。この前、ウチのフェスで優勝したバンドわかるか?」
ジュリア「あぁ、あの男3人のバンドだろ?ギターとベースとドラムの」
確か大学生くらいの奴らがやってたバンドだ。優勝するだけあって、メチャメチャレベルが高かったのを覚えている。まぁ、耳馴染みの良いメロディーと万人向けの歌詞は、あたしには合わないと思ったけれど。
オーナー「あぁ、そのバンドがギター1人増やしたいって言っててさ、本気でプロになるにはもうひとつピースが足りないんだとよ」
オーナー「んで、俺に誰か紹介してくれって来たわけよ。そこで、お前を紹介しようと思う。今俺の知ってるフリーの奴らの中では、お前が一番根性ありそうだからよ」
あぁ、サイコーだ!今でもメチャメチャ上手い奴らが、さらに上を目指そうとしている。そういうハングリーさが、あたしが求めて止まないものなんだ。
願ってもない話だが、ひとつ引っかかるとこがある。きっと撒き餌な気もするが、仕方がないのであえて聞いてみる。
ジュリア「そこは一番上手いから紹介してくれるんじゃねぇのかよ?」
オーナー「自惚れんな。まだまだ上には上がいるんだよ。技術面ならお前は中の中だ。プロっつうのはそのくらいスゲェんだよ」
あぁ、やっぱり撒き餌だった。釣られた先には案の定、オセッキョーが待っていた。だが、そうだなと納得する。あたしはきっと、このライブハウスしか知らない井の中の蛙なんだろう。んじゃやっぱり早く大海に出て、そのスゲェ奴らとやりあってみたい。
オーナー「それだよ。その突っ走ることしか考えてねぇ、ギラギラした目。それがお前の一番大事なもんだ」
急に開けたあたしの先の世界に高鳴った心臓が止まらなくて、その日は一睡もせず夜通しギターをかき鳴らしていた。
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『お前を紹介すると決めたが、まだお前にはあいつらに大手を振って紹介するには技術が足りねー』
そう言ってオーナーは紹介先のバンドに1ヶ月の猶予を貰ってきた。そこまでにあたしをそのレベルまで引き上げるとのことだ。
1ヶ月といったら、相当な時間だ。キョーカショは随分進んじまうし、背が伸びる奴は2,3cmはデカくなっちまう。それだけの時間を用意したってことは、全然あたしの技術は足りていないんだと思う。あたしは少しでも時間を無駄にしないよう、昼休みの僅かな時間も屋上でレッスンに費やしていた。
とある日、屋上の隅っこに腰掛けてギターをかき鳴らしていると、進路指導のセンセイがふらっと現れた。このセンセイと会うといつも小言を言われてしまうので、条件反射でギロッとセンセイを睨んでしまう。そんなあたしの視線を受け取ったセンセイは、争う気はないと柔らかく両手を上げてあたしの2m横に座る。
先生「どうした?練習続けろ?」
隣のあたしに目を向けず、真っ直ぐ前を向いてセンセイはボソッと呟いた。オセッキョーが飛んでこないことに拍子抜けしながらも、オコトバどおりあたしは練習を続ける。ガンガンにギターを弾いてると、センセイがあたしに向けるでもなく、ふわっと言葉を発する。
先生「俺もな、昔はプロ野球選手になりたかったんだ。甲子園でも投げたし、スカウトも見に来てくれたんだよ」
コーシエン?あぁ、あの高校野球ってやつの聖地だっけか?スゲェじゃねぇか。そんなとこでプレイできるのは一握りの人間だけなんだろ?あたしに向けて話しかけているわけでもないので、心のうちだけでセンセイに相槌をうっておく。
先生「でもな、上には上がいた。ひとつ階段を登るたびに俺はどんどん普通になっていって、自分の限界を知ったんだ。そしてプロを諦めた」
そうかい?奇遇だな。あたしもついこの前同じようなことを言われたよ。だから今こうして、一分一秒でも無駄にしないようにギターを鳴らしてるんだ。
先生「ずっと勉強はきちんとやってたからな。こうして教員になって、今ここにいる」
そうかい、それは大した人だ。茶化してるわけじゃない。プロ寸前まで野球で頑張って、きちんと勉強もして立派に先生になってるんだ。並大抵の努力じゃないと思うよ。
先生「だからな、俺はお前のことが心配なんだ。今は夢だけ見てればいいのかもしれないが、いずれ壁にぶち当たる可能性の方がずっと高い」
そうだな。そうだろうな。あたしの尊敬するギタリストはいつしかプロの世界を去っていて、今じゃ小さなライブハウスで中坊にギターを教えてるよ。
先生「夢を追いながら現実を見ることもできる。まだそういう歳だ。無理に道を狭める必要ない」
一方的にそう言って、センセイは屋上を後にした。あたしはずっとギターを鳴らし続けていた。センセイを誤解してたかもな。キチンとセンセイは大人で、子供にかけるべき言葉をかけてあげられて、子供に与えるべき心配りができる人だった。
だけど、悪いなセンセイ。やっぱりアンタの言葉は今のあたしにとってはただの雑音だ。開けた未来を曇らせる、モヤモヤした霧みたいなもんだ。壁に当たったならぶち壊せばいい。ゲンジツに目を向けてる暇があれば、その分全力で夢を見ればいい。道なき道は自分で作るもんだ。今のあたしには、そうとしか思えねぇ。
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猛レッンスの甲斐あってか、3週間経った時点であたしはオーナーからオッケーをもらえた。オーナーは『さっすが俺、1週間早く仕上げるなんて俺の指導の賜物だな』なんて言ってウザいドヤ顔を見せていたが、まぁ確かにオーナーはそれだけ気合い入れてレッスンしてくれた。
ジュリア「えーっと、オーナーから教えて貰ったレッスンスタジオは...ここか」
あたしは少し繁華街から外れた雑居ビルの前で、スマホのマップを何度も見返す。何回も迷ってしまって、早めに家を出たのに時間ギリギリになっちまった。決してあたしが方向音痴なわけじゃない。音痴なんて縁起でもねえしな。あのおっさんが、テキトーな手書きの地図とスタジオの名前しか教えてくれなかったからだ。
腹いせにオーナー自作の地図をクシャクシャに丸めて、近くのコンビニのゴミ箱に叩きつけてからお目当のスタジオへの階段を上がっていく。スタジオのあるフロアに近づくにつれて、バンドの演奏の音がどんどん大きくなっていく。相変わらず耳馴染みの良い、わかりやすいメロディーだ。その早いビートの演奏音に呼応するように、あたしの胸の鼓動も高鳴っていくのを感じる。
ジュリア「おはよーございます」
ノックをして重いドアを開くと、鳴り響いていた演奏の音が止んだ。3人の男の視線があたしに集まる。3人ともロッカーというよりは、アイドルみたいな爽やかさと清潔感のある奴らだった。
あのおっさんとはえらい違いだななんてぼんやり考えていると、ギタリストの男がニッコリと笑顔を作ってあたしを迎えてくれた。
ギタリスト「君がオーナーの紹介してくれたジュリアちゃん?よろしく!」
ギタリストはそういって右手をすっと差し出す。あたしは右手でその手をガシッと掴んで、改めて挨拶をする。
ジュリア「あぁ、あたしがジュリアだよ。よろしくな」
ギタリスト「オーナーから聞いてたけど、やっぱり若いんだな。俺らより、6つか7つくらい下になるのか」
ということは、こいつらは20歳くらいか。きっと、あのライブハウスのフェスに出た中でもかなり年齢は若い方だろう。それで優勝しちまうんだから、ものすごい奴らだって改めて思う。
ジュリア「中坊だよ。まだガキかも知れねぇけど、ギターはオーナーに仕込まれたからなかなかのもんだと思うぜ」
ギタリスト「あぁ、あのオーナーの推薦なら間違いはなさそうだ。期待してるよ」
余裕を含んではいるが、嫌味のない笑顔。きっと、自分たちの腕に自信があるからこんなに余裕なんだろう。まぁ、それに似合うだけの実力があるし、ポーズだけの奴らとは違うな。
ジュリア「まぁ、たくさん言葉を並べるよりも聞いて貰った方が早いと思う。とりあえず、1曲弾いてみようか?」
よいしょっと背負っていた相棒を下ろし、カバーから解放してやる。ストラップを肩にかけると、いつものあたし達の距離で安心する。
ギタリスト「そうだね。適当に何か弾いてみてよ。僕たちもそれに合わせるからさ」
そうやって、オーナー以外の奴らとの初めてのセッションが始まった。
あたしが音を奏でる。ドラムとベースがそれに合わせてリズムを刻んで、もう1つのギターがそのリズムを頼りに音を重ねる。
4つの音がピタッと調和する。少しあたしのリズムが走ると、他の音がそれにスッと合わせてくれて、そして元のリズムに導いてくれる。
1つのギターだけじゃ出せない音の膨らみ。たくさんの音と音が重なるだけでこんなにテンション上がるなんて知らなかった。
相棒が普段よりもいい音を奏でている気がする。ひとりでただ喋ってばっかだった相棒が、他の仲間と会話を楽しんでいるようだ。
スゲェスゲェ!これがバンド!これが誰かと一緒にやる音楽!新しい世界に興奮してばかりの5分間は、あっという間に終わってしまった。
しかしどうやら興奮してたのはあたしだけのようで、3人は何か苦い顔でアイコンタクトをとっていた。
おいおいまさかあたしの腕が不十分てことはねぇよな。自分で言うのもなんだけど、さっきの演奏は良く出来た方だったぜ。なんてあたしらしくもないネガティブな言葉を頭の中で巡らせていると、ギタリストがさっきのニコニコ顔を作ってあたしに問いかける。
ギタリスト「ジュリアちゃん?誰かときちんとセッションしたことある?」
『あぁあるよ、オーナーと二人でやったさ』と答えようとして言葉を止める。こいつらと音を合わせてみてはっきりとわかった。あたしとオーナーはセッションをしてたんじゃない。あたしたちは、ただ二人で向かい合って好き勝手に音を鳴らしあっていただけだった。
ジュリア「まともなセッションはしたことない。今のが初めてさ」
どうりでと納得いったようなギタリストの顔。続いて、少し申し訳なさそうな顔を作って言う。
ギタリスト「ジュリアちゃんのギターの腕は確かにスゴイよ。でも、少しエゴが強すぎる。俺たちはバンドなんだから、きちんと俺らの音を聞いて合わせて欲しい」
振り返ると確かにさっきのセッションは奴らが全力であたしをおもてなししてくれた結果、音があっていただけのような気がする。
ジュリア「わかった。合わせてみるから、もう一回やってくれ」
ジュリア「...もう一回!もう一回だ!」
そこから2時間はたっただろうか。ぶっ通しでセッションし続けたが、全く上手くいく気配すらみえない。うちの相棒は、こいつら3つの音の会話に入るタイミングを逃し続けて、無様に浮いた独り言を喋り続けてた。両膝に手をついて、肩で息をするあたしにギタリストは優しく告げる。
ギタリスト「ジュリアちゃん、ゴメンね。俺たち、メジャーデビュー手前まで来てるんだ。だから、」
『だから』の先の言葉は簡単に想像できた。悔しさと腹ただしさで、頭がカーッと熱くなる。デビュー手前のバンドが、音も合わせられない素人に付き合ってる暇はない。そんなことはわかるさ。あたしが同じ立場だったら絶対にそうする。けど、リクツじゃない感情が溢れ出て止まらない。
ギタリスト「ジュリアちゃんの腕なら他のバンドでも引く手数多だと思うよ。だから、」
また『だから』で言葉を濁す。あぁ遠慮されるよりも、『帰れ』って言ってくれた方がスッキリするぜ。『万が一でもお前の居場所はここにはない。お前には足りないことだらけだ』ってことを、言葉で投げつけてくれた方が楽だ。そしたらあたしの怒りのいくらかを、お前らにぶつけることができるからな。
ジュリア「...わかったよ。あんたらの練習時間を無駄にして悪かった...」
そう言って相棒をケースにしまいこんで、肩に担ぐ。何故だかいつもよりも、その重さがズシッと響いた。
ギタリスト「こちらこそ頑張ってくれたのに申し訳ない。オーナーによろしく伝えてくれ」
そう言って、最後まで奴らは好青年で爽やかだった。
何が『申し訳ない』のか、あたしには分からない。下手くそに夢みさせたことか?下手くそに下手って遠回しに伝えたことか?
チクショウ...頭の中がぐちゃぐちゃで仕方がない。自分の実力が足りないのが悔しくて、それで同情されるように優しい言葉をかけられたのも悔しくて、何度リトライしても結局満足のいくセッションができなかったことにイラついて、あんなにガンガンに練習したのにそれがほんの数時間で無駄になってしまって悲しくて、とにかくこんな惨めな感情たちがあたしの中にあるなんて知らなかった。
今のあたしには濁流のように流れてくる強烈な感情を受け止めきれない。だから、それをエンジンに変えてやるしかなかった。唇を噛み締めて、心の中で叫び続けるしかなかった。
ふざけけるな!チクショウ!絶対に上手くなってやる!!今よりもっと上手くなってやる!!!
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次の日のジュギョー中。念仏みたいに教科書を読み上げるセンセーの声を聞き流しながら、窓の外をポケーと眺める。昨日までは晴れの日が続いたのに、打って変わって今日はサイテーの天気だ。雨も降らず、ただただどんよりした曇り空。ジメジメ粘り着く湿気が、あたしの気持ちを尚更重くさせた。
あの進路指導のセンセーも、こんな気持ちがずっと続いてたのかもな。粘り着いた嫌な気持ちを振りほどけないまま、ドロドロの泥沼に沈んでいったのかもしれない。
気持ちのスイッチを入れ替えるように、小さくため息を1つつく。あたしが考えるべきはそういうことじゃない。もっと大事なことを考えないといけない。昨日のことオーナーに何て言おうか?ガンガンに力を入れて仕上げたのにもかかわらず、1日ももたずにクビになりましたなんてどんな言葉で伝えればいいのだろう?
頭のなかでたくさんの言葉をグルグルめぐらせる。『わりぃ!クビになった!』なんて軽々しくは言えないし、『ダメでした!本当に申し訳ございません!』なんて重々しく言うのもなんだか違う気がする。
うああああああああ思い浮かばねぇ!クソつまんねぇ外国の昔の物語よりも、こういう時の対処法を教えてくれよセンセーなんて心の中で毒づいていると、それに気がついたのかセンセーに頭のてっぺんをキョーカショでバシンと叩かれた。チクショウ...悪いことは重なるな...。
いつものようにライブハウスに向かう足取りは重かった。こんなにライブハウスまでの道が遠いと思ったのは初めてだ。到着した後も、ドアを開けるのは少しためらわれる。『いっせーので開けるぞ!』っていうカクゴはもう10回目だ。そんな不甲斐ない自分をまた嫌悪し始めていると、後ろから声がした。
オーナー「あのさ、早くどいてくれねぇか?入れねーんだけど?」
ジュリア「おわああああああああああああ!!!!!」
不意のオーナーの登場に驚く。急にでてくんじゃねぇよ、心臓口から出るかと思っただろ。
オーナー「そんなにビックリすんなよ、こっちまでビビんだろ?ほら、とっとと入れ入れ」
あたしの事情を知ってか知らずか、オーナーはいつも通りのテンションだった。そんなオーナーを見て少しホッとしたあたしは、言葉通り重い扉を思いっきり押してライブハウスの中に入る。
オーナー「んで、ダメだったか?」
中に入るや否や、いきなりオーナーは話の本題ど真ん中を突いてきた。
なんだよこのおっさんホントデリカシーねぇな、なんていつもは毒づくのだろうが、生憎今のあたしはそんな軽口を叩けるほどゴキゲンじゃねぇ。弱ってるからこそわかるよ。これはおっさんなりの優しさなんだろうな。
ジュリア「あぁ、優しく丁寧に追い返されたよ。腕は確かだが、バンドでやるには足りないものが多すぎるみたいだ」
ど真ん中を突いてきたので、こちらもストレートな言葉を返す。オーナーは少し苦い顔をした後、ふーっと大きく息を吸い天井を見上げてぷはーっと息を吐く。
オーナー「まぁ、バンドメンバーなんてもんは巡り合わせさ。1人1人くるくるまわりまわって、グニャグニャ形を変えながら続いてくもんさ」
そう言ってどこか遠くを見つめるようなオーナー。その言葉はあたしに向けられているのか向けていないのか、表情からは読み取れなかった。だから、あたしはその言葉を強引に受け取る。
オーナー「俺もここまでたくさんのバンドを組んだよ。長く続いたものもあれば、1日で解散しちまったバンドもある」
オーナー「いろんな奴がいろんな思いで音楽やってんだ。それにキョロキョロ振り回されたら、何もできなくなっちまう。お前はお前の信じることをやればいい」
オーナーは変わらず天井を見上げたまま、視線は遠くを見つめたまま。えらく飛び飛びの言葉だなと思いながら、その言葉の裏にある気持ちに目を向けて意味を繋げる。一言で言えば、壁をぶち壊せってことなんだと、とりあえずあたしの中の答えを作る。
あぁ、そうだな。過ぎちまったことに足をとらわれちまっても、それを無理やり引きずりながら進むしかねぇな。ありがとよ、少しだけ気分が晴れた気がするぜ。
少しの静寂が流れる。オーナーは目の前のあたしに顔を向き直し、すっかりいつもの腹の立つ笑顔をキメて言った。
オーナー「とりあえずは1人でやってみな。2、3曲いいのができたらステージにあげてやるからよ」
################
その日から3週間。あたしはひたすらにノートとにらめっこしていた。自分で曲を作るのがこんなに大変だとは思わなかった。どのバンドもよくあんなたくさんのオリジナル曲作ってんな。
オーナーに作曲のコツを聞いたら『クソと一緒だ。溜まったら勝手に出てくらぁ』なんて最低なことを言っていた。あたしはあいつのクソを聞いて憧れちまったと思うと泣きたくなったので、この言葉は早く記憶から消えてほしい。
1つ1つコードを並べ、ギターを弾いてみて音の連なりを確かめる。納得いくまで壊して繋いでを何度も繰り返して、ようやく納得できる曲を作ることができた。
試しに通して弾いてみる。明らかに他の曲をやっている時とは違う。1つ1つのコードを繋げた思いを知っている分、相棒がいい声で叫んでくれる。相棒の叫び声は、あたしが求めるもの100%とは言えないが、間違いなく今のあたしの全力を声に乗っけたものだった。よし!これなら十分だ。
翌日、あたしは足取り軽くライブハウスに向かう。曲を作り始めてからずっと顔を出してなかったから、なんだか久しぶりなような気がする。この角を曲がればライブハウスに着く。小走りで角を曲がったあたしの目に飛び込んで来たのは、でかいトラックに荷物を積み込むオーナーの後ろ姿だった。
ジュリア「よぉ、どうしたオーナー?機材の入れ替えでもしてんのか?」
ビクッと漫画みたいなオーバーリアクションをするおっさん。振り向いてあたしの顔を見ると、グニャッと嫌そうな表情になる。
オーナー「よっ...よぉ、どした?」
蚊がプーンと飛んでるようなへにゃへにゃの情けない声。おいおいどうしたんだ、明らかに様子がおかしすぎるぜ。夜逃げしてる現場を見つかったみたいな感じじゃねぇか。
こっちはいい曲が作れたんでウキウキなんだ。こんないい日に辛気臭くしてんなよ、テンション下がっちまうだろ、という気持ちを少し乗せてオーナーに答える。
ジュリア「どうしたじゃねぇよ。曲ができたんだ!機材の入れ替えが終わったら聞いてくれよ」
オーナー「お...おう...丁度いいから、今から聞いてやるよ。入りな」
やっぱりオーナーはどこかぎこちない様子で、あたしをライブハウスの中に入るように促す。なにがあったか知らないけどよ、せっかくの初めての曲なんだからもうちょっと喜んで聞いてくれよ、なんて心の中で毒づきながら、オーナーの後に続いてライブハウスに入った。
ジュリア「へへっ、どうだ?」
一曲弾き終えてオーナーに尋ねる。自分で言うのもなんだけどよ、今のはスゲー良かったと思う。あたしも相棒も、叫びたいことがすんなり気持ちよく叫べた感じ。
しかし、オーナーは曲を聴き始めたときから顔の筋肉をひとつも動かさずに、あたしじゃないどこか遠くを見つめていた。
30秒かそこいらの沈黙。一向にオーナーは答える気配がないので、もう一度聞くついでにさっきからジメジメまとわりつくこの嫌な雰囲気についても聞いてみる。
ジュリア「なぁ、一体どうしたんだ?今日のあんた変だぜ。魂がすーっと抜けちまったようだ...で、あたしの曲どうだった?」
オーナーはひとつ大きため息をつき、何かを決心したように一度うなづき、あたしに言った。
オーナー「あぁ、いい曲だ。でも、そんな曲作るんじゃねぇ」
は?オーナーが言った言葉の意味が意味がわからない。いい曲なら良いんじゃねぇのか?なんで作っちゃダメなんだ?
ジュリア「おいおいオーナー、意味がわからないよ。もう少しわかりやすく説明してもらっていいか?」
オーナーは苦い顔をした。喉に引っかかった何かを無理やり出そうとするように力一杯に顔を歪ませて、その表情とは反対に消えてしまいそうな声で言った。
オーナー「おまえの歌はいい歌だ。おまえの叫びがズシンと俺の心に響いて来たよ。でもダメなんだ、それじゃダメなんだよ」
オーナー「おまえの叫びたいことをただ叫んでただけじゃ、この小さなライブハウスでしか通じねぇ。もっともっと上に行くには、それじゃダメなんだ」
オーナー「音楽ってのは商品なんだ。おまえの自分勝手な叫びは、100万人の心には響かねぇんだよ...」
最後の方はもう声になっていなかった。必死に酸素を求めて口をパクパクさせながら、それでもなんとか喉を絞りきって出したような声だった。
おいおい、話が違うぞオーナー。あたしの叫びたいことを歌にして、声高に叫べって教えてくれたのはだれでも無いあんたじゃねぇか?あんた自身が、そういうやり方を否定してどうするんだ?
ジュリア「オーナー?ホントにどうしちまったんだ?あんたはそんなこと言う奴じゃないだろ?叫びこそが音楽だロックだって、あんたずっと言ってたじゃないか?」
そう言ったあたしの疑念を断ち切るように、オーナーは一言あたしに告げる。
オーナー「もうやめてくれ、俺はもうここのオーナーじゃねぇ」
オーナーの言葉は、はっきりとあたしの耳に届いた。だけど頭がその言葉の意味を理解できない。オーナーがオーナーじゃないってどういうことだ?
オーナー「ここのオーナーは他の奴に譲ったよ。俺は綺麗さっぱり音楽から足を洗って、田舎に帰ることにしたんだ」
オーナーの言葉にますますあたしの頭は混乱する。音楽をやめるってなんだよ?あんたはずっとTVの中にもう一度帰るために、ずっとずっと叫び続けたんじゃなかったのか?こんな小さいライブハウスから、もう一度広い大空に羽ばたくんじゃなかったのか?
オーナー「限界は前から感じてたんだよ。俺より下手な奴が、世の中のニーズって奴に合わせた曲を作ってドンドンドンドンこのライブハウスを出て行っちまう」
オーナー「自分勝手に叫びたいだけ叫ぶ歌はもう広い世界には響かない。世界は変わっちまったんだ。俺はそれに気がつきながらも、やっぱり自分勝手に叫ぶしかできなかった」
もうあたしの目の前には、あたしの憧れたパンクロッカーはいなかった。目の前にいるのは、変わって行った世界に取り残された一人のおっさんだった。
オーナー「悔しいよ!腹わたが煮えくり返って、頭がパンクしそうだ!でも、俺は生きて行かなきゃいけないんだ!自分勝手に届かない夢を追い続けるには、俺はたくさんのものを背負っちまった」
そう大声で叫んでおっさんは机をドンと叩く。抱えきれない悔しさと怒りを、机に八つ当たりして喚き散らす。
オーナー「だからよ...おまえは俺みたいになるな!上に行くために何をすればいいかキチンと考えて、自分を変えろ!俺の言ったことは全部忘れて、世界に耳を傾けろ!」
グシャグシャに涙を流しながら、まるで懺悔のように祈るようにあたしに叫ぶ。おっさんは何度も机を拳で叩いて、グシャグシャの涙を拭いもせず大声で泣いていた。あたしはただ、その姿を黙って見てることしかできなかった。
家に帰り、暗い部屋の中相棒を適当にかき鳴らす。あたしの目の前には、一本の使い古したギターがある。おっさんが『もう俺にはこいつは必要ねぇからな』と言ってあたしに手渡した、長年おっさんと走り続けた相棒だ。
あたしの相棒をそっとベッドに寝かせ、そのおっさんの相棒を手に取る。あちらこちらに傷はあるし、塗装もハゲかかっていた。その傷をなぞりながらあたしはおっさんの叫びを思い出す。
大の男があんなにみっともなく泣き喚くのをみたのは初めてだった。大人はみんな、そういうたくさんのどうしようもないものを上手くやりくりして生きていけるもんだと思っていた。
はたから見ればきっとガキのように夢を見続けて、それに破れて泣き喚いてる惨めな奴に見えるんだろうが、あたしにはそう思えなかった。
おっさんは走り続けたんだ。自分が生きるために全力で走って走って、でもゴールは遠すぎて。この傷は、偉大なパンクロッカーが苦しみもがきながら、全力で生きていた証なんだ。
そっとギターをスタンドに立てかける。あたしがこいつを弾くのには、きっとまだいろんなものが足りていない。
バタンとベッドに仰向けに寝そべる。あたしは隣の相棒に問いかける。
ジュリア「なぁ、あたしはこれからどうすればいいと思う?」
相棒は答えない。あたしの横で黙って寝そべっているだけだった。そりゃそうだな。お前はただあたしの叫びを音として奏でてくれるだけの存在だ。あたしが進む道は、あたしが決めないといけない。
ジュリア「エゴで歌うな。100万人のために歌え...か...」
あたしが辿ってきた道しるべは消え失せて、あたしが進んできた道は閉ざされて、広く荒れ果てた砂漠にポツンと取り残されたようだった。
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それからいくらかの時間が経った。あたしは中坊を卒業し、パンクロッカーへの道を本格的に歩き始めた。と言ってもデビューしたとかそんなのじゃなくて、朝昼バイトをして夜はストリートで歌を歌うだけの毎日だ。
あの日おっさんが言ったことは、あたしの中でまだ決着がついていない。ぐちゃぐちゃに混ぜ合わさった気持ちが、ぐちゃぐちゃのままだ。それでも、あたしは歩き続けるしかなかった。あの日からたくさんの曲を作ったが、始めの曲より満足する曲はつくれていないけれども。
ストリートで歌ってるとよくわかるよ。100万人に届けるどころか、ただ一人に歌を響かせるだけで難しい。中には足を止めて少し聞いてくれる人もいるが、よくて待ち合わせの暇つぶしのBGMにしかなっていない。
そんな空虚な気持ちを見て見ぬ振りして、いつもの駅前の場所に着いたあたしは相棒をケースから解放し、ストラップを肩にかける。いくらあたしがぐちゃぐちゃでも、やっぱりこの距離に相棒はいてくれる。それだけがあたしに安心をくれた。
あたしは相棒をアンプに繋いで、早速ライブを始める。いつも通りこの街は忙しい。サラリーマンやOLや学生や親子連れが次々とあたしの前を横切る。それぞれに向かうべき場所があり、あたしの歌はその気持ちに少しも入りきれないのだと感じていくらかの無力感を感じる。
そうやっていつものようにいつもの曲を叫んでると、目の前にひとりこちらを見つめる妙なスーツの男が目についた。その男は一曲目も二曲目も終わっても、変わらない位置で変わらずあたしの演奏を黙って聴いていた。
その男をあたしは不思議に思いながらも、今日歌うだけの歌は歌った。タイムリミットが来て撤収するあたしに、その男は声をかけて来た。
???「あーすみません、少しお時間よろしいですか?」
あたしはその男の声を無視する。時々あるんだこういうナンパ。テキトーに答えてやるといい気になって、プランAみたいな典型的な口説き文句をだらだらいってくるやつ。
でも、次にその男が発した言葉はそんな軟派な奴らとは違った。
???「君は歌手になりたいんだよね?じゃあ、うちの事務所はどう?」
そういって名刺を差し出すスーツの男。765プロ...シアタープロジェクト...なんだそりゃ?
そういえばストリートで音楽をやる前にケーサツから聞いた気がする。ストリートミュージシャンに音楽事務所のフリをして騙すサギに気をつけろって。
でもサギとかどうとかいう前に、あたしは戸惑っていた。もしこれがホンモノの音楽事務所からの誘いだとして、あたしにこれを受ける勇気はあるだろうか?ほんの重箱の隅くらいの小さな迷い。でもあたしにはそんな小さな迷いも一大事だった。
どうして、あたしは迷ってるんだ?
たしかにあたしはぐちゃぐちゃのままだ。おっさんの言葉に決着がついてないままだ。でも、目の前にチャンスかもしれないものが舞い降りて来たんだ。サギかもしんねぇけど、それを確かめることくらいはしてもいいはずだろ。
でも、結局あたしは『サギかもしれない』という迷いを言い訳にして、そういう疑いがあるからこの提案に耳を貸さないと言い訳にして、その男に告げる。
ジュリア「いや、いきなり言われてもワカンねぇから、またの機会にしてくれ」
男は少し考えるそぶりを見せていった、
???「オーケー分かったよ。近いうちにまた来るからじゃあね」
そう言ってあっさり去っていくスーツの男。やっぱりサギじゃなかったのかもな、なんて思うと同時に少しばかりの安堵感が出てきて、そんな安堵感にあたしは吐き気がした。
それから次の日の夜、あたしは同じように相棒とともにいつもの場所に来た。周りを警戒するが、昨日の男はいない。また今日あいつは来るかもしれない。
昨日ネットで軽く調べたが、確かにあいつのいう765プロ事務所は実在するらしい。じっくり調べたわけではないけど、何人かがCDデビューしているみたいだから音楽系の事務所なんだろうな。
そこまで証拠は揃って、それで昨日の男がまた目の前に現れたらあたしはどんな反応をするのだろう?それは、あたし自身でさえよく分からなかった。
結論から言うと、昨日の男は来なかった。でも代わりに、左肘を右手でぎゅっと抑えるポーズでずっとあたしの歌をまっすぐにみつめつづける、長髪の華奢な女の子がそこに立っていた。
その女の子のイメージは、薄い透明な青色だ。余りにも実在感がなかったので幽霊かもしれないと思い、1曲が終わった時点でその子に話しかけた。
ジュリア「あーあのさ、熱心にあたしの歌を聞いてくれてたようだったけど、あたしの歌を気に入ってくれたのか?」
あたしの問いかけに、女の子の目は幾分見開かれる。この反応を見ると、どうやら生きてる人間らしい。よかったよかった。
女の子は長いストレートの髪を風になびかせながら、びっくりするほど表情を動かさずに言った。
???「えぇ、あなたの歌。私はいいと思いました」
その褒め言葉とは裏腹に、彼女の表情や声からは少しもポジティブな感情は読み取れなかった。ほんとにいい曲をきいた後で、こんな冷たい態度を取れるやつはいねぇ。女の子は嘘をついてると思い、あたしはもう一度尋ねる。
ジュリア「いや、あんたは本当はあたしの歌はいいとは思っていないだろ?言いたいことがあるなら言ってくれ、それはあたしのためになるかもしれないから」
これは正直な気持ちだった。このジメジメと体にまとわりつく気持ち悪いものを、早くふりほどきたくて仕方がなかった。あたしはなぜだか分からないが、彼女がそのヒントをくれる気がしていた。
結論から言えばそれは正解だった。彼女はクールな顔そのままに、冷たい目であたしをしっかりと見つめていった。
???「そうね。飛び方は知っていてきちんと翼もあるのに、空を恐れて枝にしがみついている鳥。あなたの歌はそんなイメージだった」
ゾクッと背筋が震えた。体温が少し下がった。この女、あたしの歌を一曲聞いただけで、あたしの全てを見透かしてしまったようだった。なんなんだこの女は?
ジュリア「...聞いていいか?あんた何者だ...?」
素直な疑問が口をついて出てきた。彼女は淡々とその問いに答える。
千早「私は如月千早。歌を歌っています」
なるほど、歌手だったか。納得がいった。なら話は早い。走り出す気持ちに従い、あたしは如月千早と名乗った少女の手を握ってお願いした。
ジュリア「聞いて欲しいことがあるんだ!そこのファミレスまで来てくれないか?」
如月千早は視線を別の方に向け、数秒間じーっとそちらを見た後に、一度首を縦に振って肯定のサインを示した。
ここまであたしの気持ちを見透かす凄い奴だ。あたしに何か、1つの助言をくれるかもしれない。藁をつかむ気持ちで、あたしは如月千早の華奢すぎる手を引っ張ってファミレスに向かった。
ファミレスであたしは如月千早に今までのことを全部話した。自分勝手に叫び続けるパンクロッカーに憧れて、あたしもそういうやり方に夢をみて走り始めたらそのパンクロッカー自身からそれを否定されたこと。如月千早は頷きもせず、ただ静かにあたしの話を聞いていた。
ジュリア「そんな感じであたしはぐちゃぐちゃになっちまってさ、それをあんたに見透かされたってわけだ」
話し終えたあたしは如月千早の反応を見る。少し眉をひそめて、何か考えているようだった。
ジュリア「前に進むしかないって分かってるし、壁があるならぶち壊せばいいって分かってる。でもさ、前ってどっちだか分かんなくなっちった、って感じだ」
ズズっとアイスコーヒーを啜る。急に冷たいものを口にしたからか、頭がキーンとする。その痛みに顔をしかめていると、如月千早がようやく口を開いた。
千早「ごめんなさい。私には、あなたの気持ちも、そのパンクロッカーの気持ちもわからない」
まぁ、そうだろうさ。あんたはあんたで、あたしはあたしで、おっさんはおっさんだ。あたしはあんたに気持ちを分かって欲しいんじゃない。あんたは今のあたしをどう感じるかが聞きたいんだ。
あたしの心の声に答えるように、如月千早は言葉を続ける。静かな口調で淡々と続けたその言葉は、あたしの心に強烈に届いた。
千早「私は100万人のために歌わない。自分1人のために歌う。それでもきっと最高の歌を歌いさえすれば、自ずと100万人は耳を傾けるはず」
口角が自然と上がる。笑い声が口から溢れて止まらなくなる。ダメだ、腹まで痛くなってきた。
こいつはネジが飛んでいる。こんなことを真面目な顔で、真っ直ぐな目で、淡々と言ってのけるんだ。こいつは本当にそれを信じている証拠だ。おかしい。ヤベェ。狂ってる。
だが最高だ。これだ。こういう言葉だ。あたしが求めてたのはこういう狂気だ。ただ真っ直ぐにどこまでも伸びる、硬くて強い意志だ。
プスプスと燻っていた火種にガソリンをぶっかけられたみたいに熱くなるのを感じる。メラメラと炎が高く高く燃え上がるのを感じる。
ジュリア「あんたサイコーだ!そうだな!そうだよな!」
そう言って笑い続けるあたしを、如月千早は小首を傾げて不思議そうに眺めていた。
ジュリア「ところで聞いていいか?あんたはどこの事務所で歌ってるんだ?」
こんなクレイジーな奴がいるところだ。あたしはそんなところで音楽をやってみたい。あたしの問いに、如月千早は答える。
千早「私は765プロに所属しているわ」
その言葉を聞いて、また笑いが止まらなくなる。チクショウ!あのスーツ野郎あたしをはめやがったな!こんな偶然、あるわけがねぇだろうが!
だけどわかったよ。こんなにサイコーな気分にしてくれたんだ。あたしはそのオファーを受けてやるよ。あたしは如月千早に右手を差し出して告げた。
ジュリア「サンキュー。これからよろしくな、チハ」
チハはあたしの言葉に驚いたように目を丸くして、少しバツの悪そうに言った。
千早「気づかれたようね。プロデューサーにあなたの歌を聞いてくるよう言われたの。ごめんなさい、騙すつもりはなかったのだけれど...」
オイオイ、謝ることはねぇよ。燻った火にガソリンぶっかけてもう一度燃え上がらせてくれたんだ。むしろ感謝以外の感情はねぇよ。
ジュリア「いや。謝る必要ないよ。ありがとな、あたしはまた突っ走れそうだ」
あたしの言葉を聞くと、チハはあたしの右手をそっと掴んだ。ひんやりと冷たい華奢な小さい手。あまり強く握ると壊れてしまいそうだった。
千早「ところで、チハとは私のことかしら?」
ジュリア「あぁ、これから長い付き合いになりそうだからな。ニックネームだよニックネーム」
千早「なんだか犬のような名前ね。まぁ、なんでも、いいですけれど」
チハと別れて、帰り道を歩く。燃えた上がった炎が、ずっと足元にまとわりついていたネバっこいものを焼き切ってくれたようだ。こんなに足取りが軽いのはいつ以来だろう?
スーッと深呼吸をする。まだ少し冷たさを残しつつも、新しい季節の匂いがした。
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次の日の昼、早速あたしはバイトを辞めた。いきなりのことだったから店長にはかなり怒られたけど、進むべき方向が決まったんだ。1秒たりとも無駄にするわけにはいかなかった。
そんなわけで、あたしは765プロ事務所の前にいる。窓ガラスにガムテープで書かれた765という文字。さすがにそのチープさに戸惑いながらも、事務所のドアをノックして開く。
ジュリア「おはようございまーす。すみませーん」
???「はーい。少々お待ちください」
奥の方から大人の女の人の声がした。数秒待つと、緑色の制服を着た女性があたしを迎えてくれる。きっと事務員さんか何かだろうと思った。
事務員さん「はじめまして、えーっと、あなたは牛乳配達屋さん?うち、牛乳はとってなかった気がするんですけど...」
どうやら思いっきり勘違いされてるみたいだ。あたしは勘違いを訂正する。それにしてもなんで牛乳配達屋なんだ?
ジュリア「いや、違うよ。あたしはこの事務所の人に誘われてここを訪ねたんだ」
あのスーツ男のことをチハがなんかいってた気がする...プロ...プロ...プロフェッサー...だっけ?
事務員さん「あぁ!プロデューサーさんが言ってた、新しいアイドル候補ってあなたのことね。待ってたわ、手続きをするから奥のソファーに座って」
あぁ!プロデューサーだプロデューサー!なんて納得する頭の片隅、気味の悪い違和感が浮かび上がる。あれ?この事務員さん、いまなんつった?アイドル?
ジュリア「なぁ事務員さん、もう一回聞いていいかい?あたしは何の候補だって?」
事務員さんはあたしの質問が意外みたいな反応をした後、少し間を置いて言う。
事務員さん「あたしは765プロの事務員の音無小鳥です。あのー、もしかして、プロデューサーさんからあんまりこの事務所については聞いてなかったりしちゃう?」
質問に質問を返された。そういえば、プロデューサーもチハもこの事務所については何も言っていなかったな。あたしも気持ちが走りすぎて、質問するの忘れていたけど...。
ジュリア「あたしのことはジュリアって呼んでくれ。この事務所については...残念ながら何も聞いてない」
あたしがそう答えると、小鳥さんはため息を一つついてあたしの質問に答えた。
小鳥「コンプライアンスの問題もあるから、あれほどスカウトの時はきちんと説明をしてくださいって言ったのに...。プロデューサーさんには私から、もう一度しっかり言っておくわ。ここはアイドル事務所で、あなたはアイドル候補生になります」
やっぱりあたしの聞き間違いじゃなかったようだ。アイドル?アイドルってあれか?フリフリの衣装着て、キャピキャピ歌ってる可愛らしい奴らのことか?マジか?あたしとは正反対じゃねえか!!!
あたしがアイドル候補生?あたしが可愛らしいアイドルになるのか?急に恥ずかしくなって、頭がカーッと熱くなる。
ジュリア「アアアアアアアイドルって、あたしが?あたしがか?」
小鳥「そういうことになっちゃうわね。どうする?今から契約の手続きをする必要があるんだけど、もう少し考える時間が欲しい?」
頭がフットーしそうなあたしを心配そうに見る小鳥さん。きっとこの人はいい人なんだろうなと、熱にうなされそうな頭の片隅で思う。
恥ずかしい。あたしがアイドルなんて確かに恥ずかしい。でももう決めちまったんだ、あたしはここで夢に向かって走るんだって。一度決めたことをまっさらにして投げ出すほど、あたしは器用にはできていないんだ。
ジュリア「いや、なんだ、取り乱してすまなかった。いいよ、やってやるよ。この事務所でお世話になります」
そう答えると、小鳥さんはパアッと笑顔になる。心の底から嬉しそうだ。その顔を見ると、少し頭の熱が引いた気がした。
小鳥「ありがとう!あなたみたいなカッコよくてカワイイアイドルがうちに来てくれて嬉しいわ...ピヨピヨピヨグフフフフ」
そう言って小鳥さんはあたしをソファーに座るように促す。あれ?なんか語尾に変な笑いが聞こえたような...?
そうして契約を一通り終えた時点で、事務所の入り口が開いて聞いたことのある声がした。
ミリP「ただいま帰りましたー。ふー、疲れた疲れた」
振り返ると、あの日会ったスーツ男の姿があった。小鳥さんが待ってましたと言わんばかりに、スーツ男に詰め寄る。
小鳥「お疲れ様ですプロデューサーさん。ジュリアちゃんが来てくれました。今、一通りの契約が終わりましたよ。うちのアイドル候補生になること、快諾してもらえました」
ミリP「おー、早かったですね。やる気満々みたいで嬉しいです」
ニッコニコのスーツ男に、小鳥さんは苦言をさす。
小鳥「嬉しいですじゃないですよ!プロデューサーさん!あれほどスカウトのときにはきちんと説明をしてくださいって言ったのにピヨピヨピヨピヨ」
すごい勢いでオセッキョーに突入する小鳥さん。全力でまくし立てられるスーツ男は、一通りそれを聞いた後やっぱり笑顔で言った。
ミリP「まぁまぁ、快諾してくれたなら結果オーライということで、ね?」
ウインクして、許してくださいのサインを出すスーツ男。あー、この人全然悪いと思ってねぇな。
小鳥「ね?じゃないですよ、まったくもう!この件、律子さんにも報告しておきますからね」
リツコという名前が出た途端、急に慌てた顔になるスーツ男。
ミリP「ごめんなさいごめんなさい本気で反省しますからそれだけは許してどうかご勘弁を」
どうやら、リツコという名前の人は相当に怖いらしい。あたしもいずれ会うことになるだろうから、名前覚えておこう。
そんなこんなやりとりが終わって、あたしの目の前にスーツ男が座る。
ミリP「改めて、うちに来てくれてありがとう!俺は765プロシアタープロジェクト担当のプロデューサーだ」
中肉中背、目立って爽やかでもイケメンでもないフツーの若い男って感じのプロデューサーが改めて挨拶をしてくれた。
ジュリア「あたしはジュリア。まぁ、あたしとしては手違いでここに来るみたいなことになっちまったが、やると決めたらきちんとやるのがあたしのやり方だ。よろしくな」
少しの皮肉を混ぜて、プロデューサーに挨拶を返す。
ミリP「手違いか...言い得て妙だな。まぁ、来てもらったからには、絶対に後悔はさせないから任せて欲しい」
自信満々にあたしの皮肉をかわすプロデューサー。まぁ色々と言いたいことはあるが、信用できない人ではなさそうだ。
ミリP「そうだな。まずは歓迎のしるしと説明不足だったお詫びとして、来て欲しいところがある。時間はある?」
ジュリア「あぁ、構わないよ。どこに連れてってくれるんだ」
こっちはバイトを辞めてきたばっかだ。時間はある。でも、無駄にできる時間はないから、そこんとこはきちんと分かってくれよな。
ミリP「オッケー。早速出ようか。今から出れば、少し余裕を持って着くはずだ」
車を少し走らせて着いた先は、小さなライブハウスだった。ちょうどおっさんがやってたくらいのやつだ。どうしてこんなとこにと疑問に思っていると、入口のチラシを見て察した。
チラシの片隅にはチハの名前があった。そうか、チハの歌を聴かせたいためにプロデューサーはここまであたしを連れてきたんだな。
ジュリア「今日、チハがライブすんのか?」
ミリP「いや、正確には千早のライブじゃない。千早は前座だ。歌うのも2曲くらいだよ」
なるほど、チハもまだまだ駆け出しってことか。まぁ、なんでもいいぜ。チハの歌が聞けりゃ。あんなことを言ってのけるやつなんだ。絶対にスゲェに決まってる。
あたしたちは控え室に行ったが、そこにチハはいなかった。まぁ、狭い部屋に今日の演者が全員詰め込まれてるみたいだったので、居づらかったんだろう。あいつ、コミュ力なさそうだしな。
少しばかりプロデューサーと手分けして探すと、暗くて狭い機材置き場の奥で声出しをしているチハを見つけた。
ジュリア「チハ、そこにいるのか?」
あたしが声をかけると、声出しが止んで返事が返ってきた。
千早「...その声と呼び方は、ジュリア?」
チハが奥からあたしの方に顔を出す。相変わらずの無表情。歌う前だというのに、えらい落ち着きようだ。
ジュリア「悪いな、準備の邪魔しちまって。あー、早速765プロでお世話になることにしたんだよ。今日はプロデューサーがチハの歌を聴かせいたいって連れて来てくれた」
がーっとここに来た経緯を説明する。準備の時間を取っちまっても悪いし、よくよく考えればチハと二人で何を話せばいいかよくわからない。
千早「そう。私のライブではないからこういう言い方はおかしいけれど、楽しんで行ってね」
そう言った千早の声は、言葉とは裏腹にポジティブな音には聞こえなかった。
あたしとプロデューサーは、フロアの最後列に移動した。騒ぎに来たわけじゃないから、モッシュやらに巻き込まれるのは勘弁だからな。
スデージでは前座のバンドが演奏をしている。あまり大きな口は叩きたくないけども、まぁ前座にふさわしい演奏だった。あのおっさんなら間違いなくスデージに上げないな、なんて思いつつも客に目を向けるとそれなりに演奏を楽しんでいるようだった。
そして、そのバンドが下がってチハの順番がやってきた。やっぱりの無表情。これから謝罪会見でもするような暗い雰囲気。おいおい、ライブなんだからも少しテンション上げようぜ。
イントロが流れ、チハが大きく息を吸ったのち、歌を歌い始める。その瞬間、あたしは息を飲んだ。さっきまでフロアに漂っていたぬるいハイテンションが嘘のようにかき消えて、冷たい空気に変わっていた。
いや、空気が変わったはまだ表現がぬるいや。世界がまるごと変わってしまったような気さえ感じる。この空間、この時間が全部、チハの歌に根こそぎ奪われてしまったような感覚。
スゲェ!やっぱりスゲェよチハは!と感心すると同時に、フロアの異様な空気に驚く。さっきまでステージに目を向けてノッていた客がステージに見向きもしない。中には、アクビをしてスマホをいじり始める奴までいる。
信じられなかった。あのぬるいバンドにはそれなりにノッていた奴らが、この歌を聞き流して暇している。あぁ、あのパンクロッカーが言っていたのはこういうことだったんだ。
曲はサビに差し掛かり、チハの音圧が一層増す。チハの叫びが一層強くなる。チハの歌はスゲェ、確かにスゲェ。圧倒的だ。だけど、あのパンクロッカーの叫びにあった胸を強烈に打つインパクトはチハにはなかった。
高まったチハの叫びは血を流し続ける流血ショーに見えた。ダラダラと流し続ける血を拭おうとも隠そうともせずに、ありのままさらけ出している。あたしはだんだんチハのステージを直視できなくなっていた。
そして冷静な頭の部分で考える。きっとチハには何か決定的なものが足りていない。100万人が自ずと耳を傾ける歌声にたどりつくために、決定的な何かが欠けている。でも、それが何だかあたしには分からなかった。
やがてチハのステージが終わって、メインのバンドに演奏が移る。待ってましたと熱狂するフロアの前方と、あたしたちのテンションにはひどく大きな差があった。これ以上ここにいても無駄だとプロデューサーに目線で合図して、あたしたちはフロアを後にする。
プロデューサーは挨拶がてらチハを迎えに行き、あたしは会社の車の助手席でプロデューサーを待つ。ギターのレッスンができるくらいの長い時間待たされたが、あたしは相棒を鳴らす気にはならなかった。
通行人を観察するのにもすっかり飽きてしまった頃、ようやくプロデューサーが一人で戻ってきた。
ミリP「悪い悪い、いやーライブハウスのオーナーがテンション高い人でさ。ずっと熱いロック談義を聞かされてたよ」
そう言ってシートベルトをして車にエンジンをかけるプロデューサー。あれ?なんか足りないぞ?あたしは不思議に思ってプロデューサーに聞く。
ジュリア「あれ?チハはどうした?」
プロデューサーはアクセルを踏んで、ハンドルを動かしながら答える。
ミリP「あぁ、千早は電車で直帰するってよ」
ライブ後に打ち上げも何もせずに帰るのは、確かにあいつらしいななんてぼんやり思った。
ミリP「で、どうだった?千早の歌は」
唐突に問いかけるプロデューサー。あたしは正直な感想をそのまま返した。
ジュリア「スゲェと思ったよ。圧倒的に上手かったし、チハの時だけライブハウスが別世界みたいだった」
目線は車の前方にやり、あたしの言葉を黙って聞くプロデューサー。
ジュリア「だが、ワクワクしなかった。指が相棒のギターを探さなかった。別世界に連れてってもらったというより、連れて行かれてしまったみたいな感じかな」
プロデューサーはあたしの言葉を聞き、ニヤッと口角を上げる。なんだ?あたしは別に面白いこと言わなかったぞ。
プロデューサーはニヤニヤ笑ったまま、それ以上は何も言葉を続けなかった。でもプロデューサーは一人でニヤニヤ笑い続けていて、薄気味悪い企みをしてそうだなんてあたしは考えていた。
################
そして翌日、昨日車の中で考えていたあたしの予感は的中した。事務所に顔出すや否や、ドヤ顔でプロデューサーはあたしに言った。
ミリP「ジュリア!今日からお前は千早とユニットを組んでもらう!」
それは予想もつかない言葉だった。あまりに驚いてぽかーんとしてるあたしに熱弁を続けるプロデューサー。
ミリP「孤高の歌姫に孤高のパンクロッカー。アイドルと言うには少しベクトルの違うユニットだけど、その反作用がどう働くか見てみたいんだ!」
おいおいマジか。ユニットなんてそんな軽く言ってできるもんじゃねぇぞ。誰かと音を作る難しさは、あたしは痛いほど味合わされたんだ。一緒に音楽を一から作っていける奴ならともかくよ、あんなユニットに向いてなさそうな化け物と一緒に音楽なんて作れるのか?
ぐるぐると回る思考。別に逃げてるわけじゃない。化け物に怖気づいちまってるわけじゃない。あたしは突っ走る道が拓けて、そこを走ってやろうと決めたんだ。プロデューサーが敷こうとしている道が、そこに繋がってるかどうかあたしは判断しかねていた。
ミリP「俺のゴーストが囁くんだ。おまえらは絶対に良いユニットになるって。だからどうだ?騙されたと思ってやってみないか?」
ゴースト...?プロデューサーの言ってる意味はよくわからなかったが、あたしはこいつに一杯食わされてここにいるんだ。オーケー、ならもう一度話にのってみるのもいいかもしれない。
ジュリア「わかったよ。そこまで言うならやってやる。もう一度、騙されてやろうじゃねぇか」
あたしの『騙される』って言葉に小鳥さんがピクッと反応する。ジトーっとした目でプロデューサーを見る小鳥さん。あぁ、違うよ今のは売り言葉に買い言葉ってヤツで、ってなぜかあたしがあたふたして、プロデューサーは子供みたいな無邪気な笑顔で喜んでいた。
そして学校を終えたチハが事務所に訪れる。プロデューサーは同じドヤ顔でチハにユニットの説明をして、チハは驚いた風に2マイクロメートルくらい顔の筋肉を動かした後、すんなりユニット結成を承諾した。
すぐにあたしたちはスタジオに移り、ユニットとしての初めてのレッスンを始める。と言っても初日も初日なので、トレーナーもいない二人だけのレッスンだ。何をしようかとストレッチをしながら考えているあたしに、チハから提案があった。
千早「今更自己紹介は不要だと思う。そうね、ユニットはあなたの演奏をベースに、私とあなたの歌を重ねる形になると思う。だから、まずあなたの歌を私に染み込ませたい。一曲演奏してもらってもいいかしら?」
チハがプロデュースした方がいいんじゃないかってくらい、論理的でシンプルな提案。そうだなと、あたしは相棒を手に取る。あたしは今の持ち歌の中でもとっておきの一曲を、相棒と一緒にチハに聞かせた。
チハは一昨日と同じ、静かな表情で微動だにせずあたしの歌を聴いていた。そして曲が終わると、淡々と一言言った。
千早「ありがとう。私、あなたの歌すごく好きなんだと思う。あなたの心の叫びが伝わってくるようで」
『好きなんだと思う』ってえらい他人事だなと思ったが、それはスルーしてあたしはチハに尋ねる。あたしの思いは一昨日とはえらく変わっている。それはきちんと歌に乗っているかい?
ジュリア「どうだ?一昨日と比べて何か変わってるか?」
チハは言葉を探すように少し間を置いて、適切な言葉が見つかったというようにあたしの目を見て言った。
千早「そうね。随分変わったと思う。飛び立つ空が見つかって翼を広げたよう。目指すべき地が明確に決まれば、もっと高く美しく飛べると思う」
やっぱり流石だなと思った。きっといくら言葉を重ねるより、こうして歌を歌う方があたしらは分かり合えるんだと思った。
ジュリア「オーケー。それは嬉しい言葉だ。じゃあ、今の曲を二人でやってみよう」
あたしが相棒を鳴らして、そこにチハが歌を重ねる。そしてあたしがさらに歌を重ねる。そうやって、セッションは始まった。
こうして音を重ねてみると改めて身にしみる。チハの歌は圧倒的だ。一切の妥協を許さない。一切こちらの音に耳を貸さない。遠い遠い辿り着くべき場所に行くために、自分の歌を洗練させようとすることしか考えてない狂気があった。
喉元にナイフを突き立てられてるような緊張感。少しでも気をぬくとチハの音に飲み込まれてしまう切迫感。あたしと相棒は負けじと全力で叫ぶ。自分たちが生き残るために。
そんな中、あたしの目の前には見たことのある光景が浮かんでいた。1人で猛特訓をしていた屋上。あの小さなライブハウスの事務室。一昨日まで通っていた駅前のストリート。
きっと、チハの叫びに歌に呼応してあたしの記憶が掘り起こされているのだろう。だからあたしは理解した。なんだ。そうか。そうだったんだ。チハ、お前も一緒だったんだな。
だとすれば、お前はやっぱりサイコーだ。サイコーの大バカ野郎だ。そしてこうやって喜んでるあたしも大バカ野郎だ。
短いセッションだったが、終わった頃にはお互いに肩で息をしていた。よかった。余裕がなかったのは、あたしだけじゃないようだ。
ジュリア「チハ?どうだった?あたしとのセッションは?」
あたしはチハに問う。あたしの感じたものと答え合わせをするために。
千早「そうね。うまく言葉にできないけれど、きっと今の私たちの相性は最悪ね」
そのネガティブな言葉とは裏腹に、チハは嬉しそうな笑顔を見せる。オーケー正解だ。
ジュリア「ならよかった。チハ、ユニットは解散だ」
千早「えぇ、解散ね」
目線と目線を交わし、お互いに不敵な笑顔で笑う。あたしは相棒をケースにしまい、レッスンスタジオを後にした。
ミリP「なに?解散したって?」
事務所に帰ってプロデューサーにユニットの解散を報告する。小鳥さんが『解散』って言葉に反応して、ピヨピヨとうろたえている。あぁ、心配しないでくれ、特にネガティブな理由じゃないさ。
ミリP「ここじゃアレだな...屋上に来てくれるか?」
そうだな。他の人たちを心配させるのも悪いし、そっちの方が話しやすい。デスクを一通り片付けるプロデューサーを横目に、あたしは先に屋上へと上がる。
ミリP「で?何があった?」
淡々と尋ねるプロデューサー。怒ってるのか、悲しんでいるのか、表情や声からはよく読み取れない。特に言い訳することもなかったので、あたしはそのままあったことを話す。
ジュリア「二人でセッションして、いろいろぶつけ合って、お互いに相性が最悪だと納得して笑顔で解散した」
自分でもあっさりとした説明だと思ったが、すまない、これ以上は何もなかったからな。
プロデューサーは一つ大きく呼吸をしてさらに尋ねる。
ミリP「セッションをしてみて、お互いを理解した...か。で、おまえは千早とやってみて、何を感じた?」
あたしは頭を回転させて言葉を探す。そうだな。息苦しくて、パーっと光るものがイライラするほど眩しくて、空気の流れにさえ痛みを感じて。たくさん言葉は出てくるが、どうにも上手い言葉が見つからなさそうだったので、以前のチハの言葉を借りることにしよう。
ジュリア「例えるなら、鳥籠に放り込まれて、そこから必死に飛び立とうとしてガンガン檻にぶち当たり続ける鳥」
あたしの答えを聞いたプロデューサーの口角が歪む。開いた口の隙間から溢れたのは、笑い声だった。
ミリP「鳥籠の中の鳥か。そりゃあいい」
なんとなく予想はしていた。『解散』て言葉を聞いた時、プロデューサーは小鳥さんみたいに驚かず、微かに笑顔を作って見せたからな。
ミリP「で、おまえはユニットを解散してどうするつもりだ?」
そう問いかけて、嬉しそうにあたしの言葉を待つプロデューサー。
ジュリア「チハと喧嘩するために、一人で歌うよ」
ジュリア「あたしはさ、燻っちまってたとき、チハの言葉にガソリンぶっかけられて炎がメラメラと燃えたんだ」
ジュリア「そん時はすげぇやつだと思ったけど、分かったんだよ。さっき。あいつも同じだったんだって」
ジュリア「ただ決定的に違ったのは、あたしは光を探して立ち止まったけれど、あいつは血が流れても歩き続けている」
ジュリア「だからよ、今度はあたしの番だ。あたしがチハの心にガソリンぶっかけて、檻から引きずり出してやる。そう決めたんだ」
思いを言葉にして口から出すと、炎がメラメラ勢いを増すのがわかった。きっとあたしは今の状況を楽しんでいる。プロデューサーはさらに質問を重ねる。
ミリP「どうしてそこまで千早に肩入れする?」
そう問われて、改めて理由を探す。思い当たったのは2つ。1つ目はさっき言ったように、借りを返すためだ。でもきっと、それは大きな理由じゃないだろう。そんな義務に似た何かでここまで燃えるはずがない。きっともう1つの理由の方が大切だ。
ジュリア「会って2日目だけどよ。多分あたしはチハのファンになった。だからムカつくんだ。檻から飛び出して自由になった本当のチハの歌が聴きたいって」
あたしの言葉を聞いて、プロデューサーはドヤ顔で言う。
ミリP「やっぱりお前らは最高のユニットだな」
ジュリア「はぁ?意味わからねぇ。だからユニットは解散したって言ったろ?」
あたしの苦言をスルーして高笑いするプロデューサー。あぁ、こいつはホントに何か考えてんのか、何も考えてないのかよくわからない。
一通り笑い終わった後、プロデューサーが話し始める。今までのひょうひょうとした態度ではなく、初めて見る真剣な顔。
ミリP「俺はさ、千早はずっと眠ってると思うんだ。遠すぎる夢を見続けて、現実から目をそらして、きちんと起きて生きているフリをする眠り姫」
あぁ、なんだ。あたしに変な例えをさせなくても、同じ気持ちじゃねぇか。相槌を入れるのも憚られたので、心の中で答える。
ミリP「俺らにとって、夢ってそうじゃないだろ?目を見開いて、きちんと足元を見て、そしてしっかりと歩くための道標だ」
そうだな。時々霧がかかって、いろいろと見えなくなっちまうこともあるけれど、きっと夢はそういうものだとあたしも思うよ。
ミリP「おまえはきちんと目を開いている。時々曇った日も諦めて眠ることなく、きちんと足元を探して道標を探すことのできる奴だ」
それは買いかぶりすぎじゃないのかい?あたしは必死にやってきただけだよ。
ミリP「だからこそ、千早の眠りを覚まさせることができるのはジュリアしかいないと思った。おまえのその叫びで、千早を叩き起こしてやってくれ」
簡単に言うねぇ。あのクソマジメのガンコモノは相当なもんだよ。こっちは大喧嘩のつもりで今から身構えてるんだ。でもまぁ、そこまで言われたからには仕方がない。オッケー。気合が入ったよ。
自分の檻を宿命を頑なに守り続ける飛べない眠り姫を、あたしと相棒の叫びで叩き起こして高い空に羽ばたかせてやる。
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チハとの喧嘩の仕方は簡単だ。あいつの心を燃え上がせるような叫びを、あたしと相棒が聞かせればいい。それには新しい曲が必要だ。それはあいつを導く曲じゃない。もちろん100万人のために歌う曲でもない。そんなもんはあたしのやり方じゃないしな。
必要なのは、あたしがあたし自身のために歌い、その叫びをあいつに叩きつけてやるような曲だ。だからあたしは考える。今あたしは何を叫びたいのか。自分の目と耳で世界を眺め、そしてあたし自身の中に深く潜り込む。じっくりと思考する。
しかしその思考は、キャーキャー叫ぶ子供の声にかき消された。
女の子1「ねーねーおねーちゃんもアイドルでしょー?かわいいポーズしてー」
女の子2「えーでもおねーちゃんかっこいいよー。カッコイイポーズのほうがいいよー」
デパートの屋上に建てられたちっさいステージ。あたしはそこにいた。
翼「わー、わたしもジュリアーノのかわいいポーズみたいみたい!」
瑞希「私はカッコイイポーズが見て見たいです...ワクワク」
ギャーギャーはしゃぐ子供と一緒になって騒ぐ二人のアイドル。おまえらなぁ、あたしたちは仕事で来てんだぞ...。
ジュリア「だーかーらー。カワイイポーズもカッコイイポーズもやらねぇって!あたしはそういうの苦手なんだよ!」
翼「キャー、ジュリーアーノが怒った逃げろー」
女の子1、2「「逃げろー」」
瑞希「逃げろー...シュタタタ」
あーだめだこいつら。あたしがなに言ってもおちょくって遊ぶ気だな。チクショウそれならノッてやろうじゃねぇか。子供らを喜ばせりゃいいんだろ?なら、こっちの方が話は早い。
ジュリア「逃げても無駄だぜ!捕まえてやる」
つばみずこども「「「「キャー!!!!」」」」
男の子1「あー、オニだ!オニがおっかけてるぞ!」
男の子2「かみもあかいしゼッタイおにだ!たいじしてやる!」
ガシッとあたしに飛びかかる男の子二人。ちびっことはいえ、容赦無く体当たりされるとなかなかにきついものがある。いてておいやめろお腹つまむな。
ジュリア「ははははははあたしはロックの鬼だ!おまえらも蝋人形にしてやろうか?」
彼らはヘビメタだから少し違うかな?なんて少し思うがまぁ細かいことはいい。乙女のお腹をつまんだ罪は重いぜ坊主たち。
男の子1、2「おわああああああ食べられるー逃げろー」
元気よくだーっと全力で逃げる坊主たち。アイドル2人と子供が4人か。オッケー全員捕まえてやるよ。んで、そろそろ歌を歌わせてもらうぜ。
あたしはガッと地面を蹴り、ダッシュで奴らが逃げた方向へ走り出す。
こんなところにあたしがいる理由、それはもちろん仕事だ。ユニットを解散してから少しだったのち、プロデューサーから依頼された。
ミリP「ジュリア、ステージの仕事があるんだけど受けてくれないか?」
あたしはその話を聞いて、両手を叩いて喜ぶ。ユニットを解散しちまってステージの仕事は随分先になっちまったと思っていたので、こんなに早くそういう仕事が来るとは思わなかった。
ミリP「だが、ギターは禁止な。場所はデパートの屋上。3人組のユニットで、子供相手に楽しく盛り上げて、んで1曲歌を歌ってほしい」
はぁ?なんだそりゃ?想像した仕事とは少し違っていたので驚く。そんなあたしを見てプロデューサーは言葉を続ける。
ミリP「社長の懇意にしている方のオファーでな。ウチのペーペーの新人たちは多くがこの仕事をさせてもらっている。竜宮小町も昔やったことがあるんだ」
チハとのアレコレで忘れかけちまっていたが、そうだなあたしはアイドルとしてここにいるんだったな。オーケーその依頼受けるよ。何気に初ステージってことで、やっぱりありがたいしな。
ジュリア「オーケー、喜んでそのステージやるよ。で、あたしと組む2人は誰だ?」
あたしと組むなら、ボーカル寄りの紗代子とか琴葉かななんて考えていた。2人ともマジメだし、やりがいのあるユニットになりそうだ。なんて初めてのステージに想いを馳せていた。
結論から言うと、あたしの予想とは違っていた。初めてのレッスンをレッスンルームで待つ。あたしの目の前にいたのは真壁瑞希だった。
瑞希「初めてのユニットのレッスン、頑張るぞ...おーっ」
瑞希が右手をグイッと上げる。どうやら気合い満々のようだ。ストレッチしながらそれを眺めていると、瑞希が右手をあげたままじーっとあたしを見てきた。ん?なんだ?あたしもやれってことか?
ジュリア「おぅ、がんばろうな!」
そう言ってあたしも右手を上げる。瑞希の目がキラキラっとなって、口角が微妙に上がる。どうやら喜んでるようだ。よかったよかった。
瑞希は一見すると無表情だが、意外に感情表現は豊かで素直なんだなと、あたしは思う。気合いも十分そうだし、なかなかに頼もしい仲間だ!
それから少し時間が経った。レッスン開始予定の時間から時計の長針は180度ほど回っている。長めの準備体操にそろそろ飽きて来た頃、ドアが勢いよく開いて楽しそうな声がした。
翼「おっはよーございまーす!」
瑞希「おはようございます翼さん」
ニコニコと元気よく挨拶をする伊吹翼。それに挨拶を返す瑞希。でも、あたしは素直に挨拶を返す気にはなれなかった。初日だぞ?ユニットの仕事だぞ?自覚あんのか?
ジュリア「おい翼。挨拶だけじゃなくて言うことがあるだろ?」
翼はゴキゲンな空気のまま、うーんと考えるポーズをとる。少し間を置いて両手をポンと叩いてひらめいたってサインをしてから、甘い声であたしたちに言う。
翼「遅れてごめんなさい。でもねでもね、偶然見かけた喫茶店のパフェが美味しそうでね、どうしても食べたくなって。今度みんなで行こう!ね!だから、ね?」
ペコペコと頭を小さく下げながら、甘えるように話す翼。あたしはなんだかおかしくなる。なんというか毒気を抜かれちまった。すげぇな、もう空気が翼のペースだ。
まぁ、謝罪の言葉は貰ったんだ。この件はこれで終わり。さぁ、レッスンをするとしよう。
瑞希「では改めて、頑張るぞ...おー」
つばじゅり「「おー!!」」
それからしばらくダンスレッスンをして、あたしは愕然とする。あたしは2人のダンスに全然ついていけなかった。足が絡まって、腕はこんがらがって、全然上手く踊れなかった。ブカツもやってなかったからな、体を動かすのはあまり得意じゃない。でも、やっぱりあたしだけ遅れるのは許せない。肩で息をしながら、2人にお願いする。
ジュリア「もう一回、もう一回やらせてくれ」
瑞希がタオルを差し出しながら答える。
瑞希「ジュリアさん、頑張り過ぎは体に良くないです。まずは休みましょう...ふぅ」
瑞希のダンスは無駄がなくて綺麗だった。動きはコンパクトだが、リズムにのって体が流れていて、それでいて決めるところはビシッと決める。教科書のようなお手本のダンスだった。
翼「ジュリアーノは頑張り屋さんだね。わたしは疲れたよー、うへー」
翼のダンスは爆発力がすごかった。フリを少し忘れたり、アドリブ入れたりと自由奔放だが、思わず翼のダンスに見入ってしまいそうな圧倒的な魅力があった。
小さいステージでの仕事とはいえ、2人よりも全然踊れないままステージに上がるのは絶対に嫌だった。あたしは立ち上がり、2人にもう1回お願いをする。
ジュリア「2人は休んでてていいから、あたしのダンスをみて、気づいたことを言ってくれ。遠慮なく頼むよ」
こうして懸命にレッスンをして、あたしたちは本番を迎えた。
鬼ごっこも終え、本番前にいったんステージ裏に引っ込んだあたしたち。司会のお姉さんと着ぐるみが子供たちを盛り上げている声が聞こえる。あぁやっぱプロはすげーな、あたしたちが全然ダメだったことをきちんとこなしている。
にしてもこれは...なぁ...。姿見をみて一つため息をつく。まさかあたしがフリフリの衣装を着てステージに上がるなんて、ストリートで歌ってたときには考えもしなかったよ。変じゃねぇよな?クルクル回りながらなんども確かめていると、後ろから声がした。
瑞希「ジュリアさん、大丈夫ですよ。可愛いです...」
かかかかかかかかか可愛いだと!不意打ちでそういうこというのやめろよ!恥ずかしいだろ!照れて慌てているあたしをみて、ニヤッと口角を数ミリ上げる瑞希。ちくしょう!
翼「ねぇねぇ、わたしは?わたしは?」
『可愛い』って言ってという催促が満々に詰め込まれた甘い声で聞いてくる翼。というか、衣装を着た翼フツーにめちゃくちゃ可愛いなおい。
瑞希「はい。めちゃめちゃ可愛いです...ブイ」
翼「だよねだよねーえへへ」
そういってはしゃぐ翼。おいおい本番前につかれてもしらねぇぞと思う中、瑞希がなにかソワソワしているのを感じる。あー、なるほどねとソワソワしている理由にたどり着く。あたしは瑞希に向かって、言って欲しそうな言葉をかける。
ジュリア「瑞希!おまえもチョー可愛いよ。衣装似合ってる」
それを聞いた瑞希は少しうつむいてしまった。あれ?外したか?と瑞希の顔を覗き込もうとすると、それを制しながら瑞希は言った。
瑞希「ジュリアさんに言われると、なぜだか恥ずかしいです...テレテレ」
あーなんだ、恥ずかしがってただけか。へへ、さっきの借りは返せたかな、なんて考えていると、翼の非難の声が聞こえる。
翼「あー瑞希ちゃんだけずるいー!ジュリア―ノわたしにも可愛いって言って!ねぇ言って!」
本番直前なのになんだろうこの緊張感のなさ。まぁ、でもこれがあたしたちらしいのかな。翼に「あーあ可愛い可愛いよ」と適当に返事をし、気合いを入れなおすことにする。
ジュリア「うし!そろそろ本番だ!円陣でも組もうか!」
そうしてライブが始まる。パチパチパチと子供たちが拍手をくれる中、BGMが鳴ってダンスを始める。
とその瞬間、翼が飛び出した。フリにはないアドリブだ。あたしたちはそのアドリブに合わせて、翼が浮かないように後ろで支える。後方から見る翼のダンスは練習の時とまったく輝きが違っていた。体全体で「わたしを見て」って全力で輝きを放っている。全力で楽しいって感情をばらまいている。
すっと瑞希と視線を合わせる。瑞希もテンションが上がっているようで、目の奥の奥に炎を感じた。瑞希は翼のアドリブでバランスが崩れてしまった空間をフォローするようにささっと動いている。あたしは踊るだけで精いっぱいなのにすごいな瑞希は。
あたしはとにかく踊りきることで精いっぱいだった。体にしみこませたようにきちんとダンスができているか、自分を監視しながら懸命に踊る。曲の中盤の方になると若干の余裕が出てきて客席の方を見る。客席にはたくさんの笑顔があった。ニコニコ笑って、凄い凄いってはしゃいで、リズムに合わせて手を叩いている子もいた。
あたしも自然と笑顔になる。きっと瑞希も翼もそうだ。ステージの空間が時間が楽しいって感情で満ちている。こんな場所があったなんて、こんな場所をつくれるなんて、あたしは知らなかった。1曲のみの短いステージはあっという間に終わってしまい、あたしたちはたくさんの声に送られてステージを後にした。
翼「あー!やばい!楽しかった!すごい!」
瑞希「わたしもすごく楽しかったです...イェイ」
2人ともだいぶ興奮しているようだ。あぁ、あたしもだから3人全員だな。ステージは楽しかった。ただただ楽しかった。翼も瑞希もあたしも全力で楽しんで、客の子供たちも全力で楽しんでいた。
そうか、そういう歌だな。そういう叫びだな。あたしが歌いたいのはそういう歌だ。2人がはっきりと教えてくれた。あたしの奥の奥にある気持ちを引っ張り出してくれた気がした。
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それからあたしは曲を作りはじめた。あたしの今の叫びをぎゅっと詰め込んだ曲。屋上で一人ギターをかき鳴らしていると、ガチャっと扉が開いて誰かがやってきた。
社長「やぁ、ジュリアくんか!いやーいい音が聞こえると思って来てみたら、君だったんだね」
ジュリア「おはようございます。社長」
すっとたって礼をする。社長と話をするのは事務所に入った直後だけだったか。2人で話すのは始めてだな。
社長「いやー構わないよ。ギター続けてくれたまえ。よければ聞かせてもらいたいのだが、いいかね?」
曲を作っているところを聞かれるのは多少恥ずかしいものの、まぁいいかとオーケーする。屋上で作ってたら、こういうこともあるよな。
それから30分程、弾いて止めてを繰り返すあたしの演奏を社長は景色を眺めながら黙って聞いていた。切りのいいところまですすんでフーッと一つ大きく呼吸をすると、社長があたしに話しかけてきた。
社長「いい曲だね。実にいい曲だ。若者らしい、まっすぐ夢をみるような」
だてに芸能事務所の社長をしているわけではないなと思った。あたしが叫ぼうとしていることを、飛ばし飛ばしの演奏でも聞き取ってくれたらしい。
ジュリア「ありがとうございます」
社長「私も負けていられないねハハハ」
子供のように無邪気に笑う社長。そういえば社長の第一印象もそうだったな。こんな年齢なのに、キラキラと無邪気な目をするんだなって思った。あたしの知っている大人とは違って、夢をみることを楽しんでいるような。あたしは社長に一つ聞いてみたいことがあった。
ジュリア「社長?聞いてもいいですか?」
社長「私に答えれるものであれば、喜んで」
ジュリア「ずっと見続けた夢が叶わないことがわかったら、人はどうするべきなんでしょうか?」
唐突なあたしの問いに社長は即答した。
社長「新しい夢をみればいい。新しくワクワクする方向に向かえばいい。夢見ることは生きることだと私は思っている。だから、生きている限り夢を見続けられるさ」
なるほど。この人はなんというか、ステナなオトナだ。あたしもいつか年を取ったとき、こういうことが言える大人になりたいものだ。
社長「おっと、そろそろ行かねばならん時間だ。ありがとう。話ができて、元気をもらえたよ」
そう言って笑いながら屋上を後にする社長。こちらこそ元気を貰えたよと一礼し、作曲の続きにとりかかった。
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そうして曲が完成したころ、待ってましたというタイミングでプロデューサーから仕事の話が来た。
ジュリア「フェスの予選?」
ミリP「あぁ、今度行われる大型フェスだ。あらゆるジャンルのアーティストを集めて、競争させようという試みだ。そこで新人賞が設けられているんだが、事前に決まっている出場アーティストだけで新人賞を決めてもおもしろくないということで、1組だけ予選通過者がフェスに参加できるようにしてるんだとよ」
ミリP「予選には各事務所から2組出せる。1組は千早に出てもらおうと思っている。とすれば、もう1組はジュリアに出てもらうしかないなと」
ジュリア「あぁ、サイコーの話じゃないか。喧嘩の場所をどうしようかと考えてたところだ。喧嘩の勝者がでかいフェスに出られるなんて、願ってもない場所だ」
ミリP「忘れてないか?他のアーティストもいるんだぞ。まぁ、自信があるのはいいことだが」
あぁ、そうだな。だけど、あたしとチハ以上の新人なんてちょっと考えられなかった。まぁ、いたらいたで大歓迎なんだが。
ミリP「まぁ、いいや。それじゃエントリーしとくな。予選は2週間後だ。それまで仕事は全部レッスンにしておくから、無理しすぎない程度に頑張ってくれ」
2週間。完成した新曲を体になじませるには、まぁそれだけあれば十分だ。早速あたしと相棒はレッスンルームに向かった。
何度も何度も曲を繰り返して、指の動きを歌の音程を体に覚えさせる。あたしの叫びと相棒の叫びをピタッと一致させるように、ひたすら音の世界に入り込む。そうしてレッスンを続けていると、レッスンルームの扉が開いた。
千早「おはようございます」
入ってきたのはユニットの元相方だった。あたしは「負けねぇぞ」って気持ちを視線に込めて、挨拶を返す。
ジュリア「おう!おはようございます!」
へへ、挨拶の声のでかさはあたしの勝ちだななんて、喧嘩モードのあたしは小さな競争事も敏感になってしまう。
千早「フェスの予選。あなたも参加すると聞いたわ」
チハはあたしとは対照的にいつものように静かだった。なんだよ喧嘩モードなのはあたしだけか?
ジュリア「おう、負けねぇからな」
その言葉にチハの目が少し揺れた気がした。目を凝らすとなんとなくわかる。それは炎の揺らぎだ。なんだ、チハも十分やる気じゃねぇか。
千早「えぇ、私も負けるつもりはまったくないわ。お互い、ベストを尽くしましょう」
ガシッと握手をして、千早は別のレッスンルームに移動した。
2週間後、フェスの予選の日がやってきた。会場はとあるコンサートホール。そこを貸し切って大々的に予選を行うようだ。
会場に着いて受付をすませる。ロビーにはたくさんの人がいる。騒めくたくさんの声に、緊張感と高揚感を感じる。ピリピリ張りつめた空気が、ここには漂っている。きっとここにいる奴らは、ゼッタイに自分が一番になってやるって構えてるんだろう。あたしも負けるつもりはねぇよ。
少し息苦しかったのでロビーを出る。テキトーに相棒のウォームアップをできるところを探して歩いていると、見覚えのあるヤツを見つけた。
ギタリスト「あれ?キミは?」
あたしが初めてバンドを組んで、初めてクビになったあのバンドのギタリストだ。あの時の爽やかさはそのままに、完全に垢抜けて芸能人みたいな身なりになっていた。
ジュリア「あぁ、久しぶり」
どういう言葉を返せばいいかよくわからなかったから、当たり障りのない言葉を投げておく。ギタリストは嬉しそうにあたしに問いかける。
ギタリスト「君がここにいるってことは、フェスの予選に出るのか?」
ジュリア「あぁ、ソロでエントリーしてるよ」
あれ?ということは逆にこいつがここにいるってことは、こいつも予選に出るのか?風の噂で、あたしがクビになってすぐ大手事務所からメジャーデビューしたって聞いた気がする。そんなデカイ事務所のバンドが、予選から出てくるのか?
あたしの疑問を察したように、ギタリストは答える。
ギタリスト「僕らは本戦に出ることが決まってるんだ。今日は予選の様子を見にきた。ジュリアちゃんの演奏を聴くのも楽しみだ」
あー敵情視察ってやつか。オーケー、あの時からあたしがどれだけ変わったか見せてやるよ。クビにしなきゃ良かったって後悔しても知らねぇからな。
そうこうしてるとギタリストを呼ぶ声があり、「頑張ってね」と言ってヤツは去っていった。昔の知り合いが同じフィールドで頑張っている。それはなんだか嬉しいことなんだなって、あたしは初めて知った。
ジュリア「よし!頑張るか!」
両頬をパシッと叩いて、あたしは気合を注入した。
そして予選が始まった。デビューしたてのヘロヘロなバンド、レッスンの延長線みたいなアタフタしてるアーティストもいれば、おっと驚くようなヤツらはもいるなかなかに実力がバラバラな感じだった。
今のところあたしとチハのライバルになるようなヤツらはいない。進行表に目を移すと、あたしとチハの出番は最後。チハがラスト前であたしがラストだった。連続してるなんてありがたい。こりゃ喧嘩がやりやすいぜ。
結局、あたしらの出番直前になっても、あたしたちのライバルになりそうなヤツらは出てこなかった。こりゃ正真正銘の一騎打ちだななんて考える。
ステージ裏、出番を待つチハとあたし。向き合って、開戦宣言をする。
ジュリア「どうやらこの予選はあたしたちの一騎打ちになりそうだな」
千早「えぇ、どうやらそのようね」
ジュリア「どっちが勝っても恨みっこなしだからな」
千早「もちろん。互いに全力を出しあいましょう」
スタッフがチハを呼ぶ声がする。どうやら出番がきたらしい。ステージに向かうチハの後姿は、戦に向かう騎士のような厳かさがあった。
チハの選んだ曲は前のバラードとは違う、ロックテイストの曲。たくさんのアーティストの中で歌うことを意識した選曲だろう。一瞬でホールの空気が変わる。チハの世界に塗り替えられる。
やっぱりチハの歌は圧倒的だった。音圧でガンガンあたしたちの身体を揺さぶっていく。いくら激しいダンスをしても、いくら走っても、音圧も音程もブレることなく音を叩きつけている。鳥肌が止まらない。おいおい、あたしはやっぱとんでもないヤツと喧嘩しようとしてんだな。
ふと翼と瑞希のパフォーマンスを思い出す。2人のパフォーマンスとチハのパフォーマンスは対照的だな、なんて思う。2人と一緒にやったからか、よくわかるよ。チハのダンス一つ一つから、血が流れるのがみえる。チハの歌一音一音から、痛みや苦しみの叫びが聞こえる。
なぁ、チハ?そんな歌を歌って、楽しいか?あたしは心の中で問いかける。あたしはそんな辛さや苦しさを叫びたくはないよ、夢見ることや生きることって楽しいって気持ちを思いっきり叫んでやりたいんだ。
チハのステージが終わり、あたしの番になる。チハがステージ裏に帰ってくる。肩で息をしながら、心なしか満足そうな顔にも見えなくはない程度の無表情。あたしたちは、言葉も目線も交わさずにすれ違った。
ステージに上がって、フロアを見る。ラストだからか疲れた顔の審査員たち。チハの歌に圧倒されて諦め気味の参加者たち。一様に顔は暗かった。おいおいお前らしっかりしろよと、あたしは心の中でツッコむ。まぁ、いいよ。あたしの歌を聞けばそんな顔してられなくなるからさ。
キッと前を向き、相棒をジャーンと鳴らしてステージを始める。
「エントリーナンバー50 765プロ ジュリア 曲は『流星群』」
イントロ。指を動かす。その指の動きに呼応して、相棒が叫ぶ。よし、いい調子だ。そこに歌を乗せる。声もしっかり出ている。オーケー。入りは十分だ。
コードが進行するにつれ、あたしの気持ちもドンドン高ぶる。この空間をあたしだけの音で満たして、独り占めする。最高に気持ちいい。
声高に叫ぶ。あたしの思いを、感情を、願いを。あたしのその叫びにあてられたのか、フロアもだんだん熱を帯びてくるのを感じる。
夢をみて突っ走るこの道を行くために、カバンに何を詰め込もう?あたしはきっとたくさんの願い事を詰め込むさ。なりたい自分になって、たどり着きたいとこに走る道なんだ、楽しい方がいいに決まってるからな。
チハ?おまえは何をカバンに詰め込んでるんだ?そんなに重そうにカバンを引きずってさ。そんなもん捨ててしまえよ、代わりに楽しめるものをたくさん詰め込もうぜ。
演奏が終わってフロアのヤツらの表情を見る。笑顔のやつや、驚いた顔のやつ。演奏前の暗い顔はそこにはなかった。それをみて、あたしは勝利を確信した。
ステージ裏に戻ると、チハが拍手で迎えてくれた。
千早「凄かったわ、ジュリア。そして、楽しかった。私の負けよ」
そう言って、優しい笑顔のチハ。おまえそんな顔できるんだなと、なんだか失礼なことを思ってしまう。
ジュリア「ありがとう。今回はあたしが勝ったけど、もうチハとは戦いたくないよ。次はどうなるかわからない」
あたしの叫びはチハに届いた。檻から引っ張り出せたかどうかわからないけど、チハの表情を見るに何かが変わりそうな気がする。檻から自由になったチハとバトルするなんてゴメンだ。それよりも、一番いい席でその歌にただ浸りたい。
そして表彰式。トロフィーはあたしの手に渡った。本戦のチケットを手に入れて、次のステージにあたしはすすむ。まだまだ辿り着くべき場所は先にあるんだ、ここはまだ通過点。でも、今日くらいはこの喜びに浸ってもいいよな、なんて思う。
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ミリP「予選通過おめでとう。やったな。社長も小鳥さんも喜んでたよ」
連絡が既にいっていたようで、事務所に帰るとプロデューサーがそう言って迎えてくれた。
ジュリア「あぁ、チハとの喧嘩に勝ったよ。チハが目を覚まして歩き出せるかどうかは、これからわかるか」
プロデューサーは「そうだな、楽しみだ」と相槌をうって手元の資料を眺める。それをあたしに渡して言った。
ミリP「これが本戦の概要だ。ハコは3万人でTV中継もある。そうだな、軽く数百万の人がお前の歌を聞くぞ」
その数字を聞いてもあたしにはピンと来なかった。3万人の人が一斉に集まる空間をあたしは知らないし、数百万って数がどのくらい大きいかも想像できなかった。
ジュリア「うーん。数がデカすぎてわからないや。まぁ、あたしのやることはひとつ。叫びたいことを叫ぶだけさ」
目の前に何人いたとしても、あたしにはそれしかできないしな。
ミリP「確かにそりゃそうか。あ、曲はどうする?『流星群』でいくか?」
ジュリア「いや、フェスまでは時間がある。新曲作って行こうと思う」
せっかくの大舞台だ。カケにはなるけれど、そこで叫びたいことがあるんだ。だから、それをカタチにしたい。
それからしばらく経ち、曲はほぼほぼ完成した。あたしは最後のピースをはめるために、とある場所を訪れた。
ジュリア「ん?こんなに小さかったっけ?このライブハウス」
訪れたのは、あのおっさんのライブハウス。小さく見えるのは、あたしが大きくなったからなんだろうなきっと。
受付には知らない顔があった。きっとこの人が今のオーナーなんだろう。お金と引き換えにチケットを受け取る。こうやって客として入ったのは、初めてここに来た時以来だな。
おっさんがいなくなったせいか、ステージに上がるバンドも様変わりしていた。パンクロックのバンドはおらず、オシャレなジャズバンドが大半だった。ジャズはあまり聞かないから勝手がわからねぇや。周りを見渡してみても、かつての見知った顔はいなかった。フロアも随分と様変わりしちまった。
なんだか居心地が悪くって、半分くらい演奏を聴いたのちあたしはライブハウスを後にした。外に出て、ライブハウスを一度振り返ってあたしは思う。
ここであたしは夢を歩き始めた。ここがあたしの原点だ。でも、ここは変わってしまった。あたしの居場所はもうここにはなかった。それは少し寂しかったけど、あたしが遠くまで歩いて来た証のようだった。
あたしはきっとここに戻ることはないだろう。だから、ライブハウスに一礼をした。ありがとな、そしてサヨナラ。
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そしてフェス本番の日を迎えた。プロデューサーの車で会場に向かう。今日はちょっと荷物が多めなんで、車移動で助かったよ。
ミリP「昨日はよく眠れたか?緊張で一睡もできなかったんじゃないか?」
ジュリア「いや、寝つきは確かに悪かったな。緊張じゃなくて、ワクワクして、だけどな」
窓の外の人の流れに目をやる。朝の通勤ラッシュで人が波のように流れていた。この人たちは今あたしを知らねぇけど、今日の夜にはあたしの歌を聞くのかな?そしてちょうどあたしが歌ってた駅前を通る。相変わらず、人の流れが忙しかった。
ミリP「おまえ、あそこで歌ってたんだよな。それが3万人の前で歌うんだ。信じられないな」
なんであんたが感傷に浸ってんだよ、なんてツッコむのは野暮だな。確かにあの日ここで歌ってたあたしに、『近い未来おまえはアイドルになってでかいハコで歌うぞ』なんで奴が現れたらあたしはゼッタイに無視すると思う。
そう考えると、ここまで来たのはあたしだけが頑張ったからじゃねぇなって思う。プロデューサーやチハにもらったこの場所で、あたしは輝くことができるんだ。だからまぁ、少しくらいは素直になってもいいかもしれない。
ジュリア「なんつーか、ありがとな。あんたとチハにこんな場所まで連れて来てもらった気がするよ」
プロデューサーはあたしの言葉に驚いた顔をする。いや、そんなあたしの顔ジロジロ見んなよ恥ずかしいだろ。
ミリP「いや、まだまだ通過点だ。おまえの目指す場所はもっと先だろ?」
あぁ、その通りだ。良かったよ。一緒にこの道を歩く人があんたで。ガッとアクセルを踏み込むプロデューサー、クルマが音を立てて加速する。そんな感じで、あたしもワクワクが高まっていった。
会場はトンデモナイでかさだった。東京ドーム何個分だこれ?て、東京ドーム1個分の広さもよくわからねぇけどな。観客は3万だっけか?この前のデパートの屋上と比べると1000倍くらいか?じゃああのデパートの1000倍でかい声援がくるのか、そりゃすごそうだ。......まさか、鬼ごっこはしないよなぁ。
プロデューサー「んじゃ受付済ませとくから、関係者入口から一旦控え室に入っておいてくれ。そこからは地獄の挨拶回りだ」
うへー、そうだな今日はたくさんのアーティストがいるんだったな。あたしはその中でも一番下、ペーペーの新人だからお偉いさんたちに頭を下げに回らないといけないか。気分が重くなりながら、関係者入口に向かうあたしにプロデューサーは声をかける。
ミリP「ギター1本持とうか?重いだろ?」
ジュリア「いや、大丈夫さ。こいつらはあたしが持っておきたいんだ」
悪いな、こいつらはいくらあんたでも預けられねぇ奴らなんだ。そうしてプロデューサーと一旦別れ、あたしは中へと入って入った。
控え室にはたくさんのアーティストがすし詰めのようになっていた。どうやら新人は全部ここにぶち込まれているらしい。
控え室に入ると、予選の時に再開したギタリストの顔があった。ヤツはあたしを見かけると、嬉しそうに挨拶して来た。
ギタリスト「おはよう!いや、予選すごかったね。如月さんもすごかったけど、ジュリアちゃんもホントすごかった」
あたしはラストだったのに結局こいつ全部予選みたんだな、暇だったのか?なんてことは言わずに、あたしは挨拶を返す。
ジュリア「おはよう。で、ありがとう。今日はよろしくな」
ギタリストはもう衣装に着替えているようだった。なんかアイドルみたいな煌びやかな衣装。奇遇だな、実はあたしもアイドルなんだぜ。
ギタリスト「ジュリアちゃんの演奏には驚いたよ。上手くなってたし、なにより曲が素敵だった。油断してたらやばいって、練習量を増やしたくらいだよ」
はははと爽やかに笑いながら言う。相変わらずの嫌味はないが余裕のオーラ。かなり自信があるようだ、なにあたしも負けねぇぞ。
ジュリア「そりゃ嬉しい言葉だ。あたしも仕上げて来たからよ、そのつもりでよろしくな」
よく考えればあの時のリベンジになるわけか?まぁ、そんなことは今やどうでもいいか。そんな古い話をグダグダ持ち出すより、今のこいつらと全力でやりあいたい。
そして地獄の挨拶回り、メイク、着替えを済ませたあたしはリハーサルを行う。あたしは別にダンスをするわけじゃないから、軽い出はけと立ち位置の確認だ。
ステージが広い。袖から真ん中の立ち位置に出るまで、数十秒はかかってしまう。1人ポツンとそこに立つあたしは、客席からだと豆粒みたいに見えちまうんだろうな。
客席を見渡す。一番後ろの席までの距離はとてつもなく遠い。あたしが今ここで叫んでも、あそこまで声が届くかどうかわからない。ガラーンと空いている数万の席に、ナゼか言い知れないプレッシャーを感じた。無言の亡霊が『ちゃんとやれよおまえ』って圧力をかけてるみたいだった。
『まかせとけ』って小さく呟く。おまえらこそ目と耳をかっぽじって、あたしのステージを脳にやきつけろよ。
そして本番が始まった。あらゆるアーティストを集めただけあって、いろんなジャンルの音がステージにあふれていた。それに誰もが華々しくて、輝いていて、客の熱狂もすごかった。満員の客席からの声援は、怒涛のようにステージ裏まで響いていた。
そして新人賞のブロックに入る。最初はあたしの番だ。ステージ裏で待機するあたしに、プロデューサーとスタッフが苦言を呈す。
ミリP「ジュリア、おまえステージで使うギターはそれだけなんだろ?じゃあなんでもう1本ギター持ってくんだ?」
スタッフ「あのー、お客さんとかお茶の間の集中が散るので、良ければ置いていってもらえれば」
あたしは相棒を肩に担いで、おっさんのギターをスタンドにおいて右手に持っていた。
ジュリア「お願いだ。こいつと一緒に上がらせてくれ。大丈夫、あたしが歌い出せば聞いてる奴らの目はあたししか映らなくなるから」
プロデューサーとスタッフはそれを聞いてナゼか笑った。おいおい、あたしは冗談で言ってないぜ。プロデューサーは笑ったままポンとあたしの肩を叩いて言う。
ミリP「おまえ以前千早がクレイジーだって言ってたな、安心しろ、おまえも同類だよ」
それはきっと褒め言葉なんだろう。そのあと『行ってこい』とプロデューサーはアツイ視線をあたしに送って、ステージへ送り出してくれた。
ステージに上がる。リハーサルの時とは変わって、ガンガンの照明が熱い。何の指示の聞こえないほど、観客の声援で会場が満たされている。
あたしは立ち位置のそばにおっさんのギターを立てかける。ほら、あんたがもう一度見たいって夢みてた光景だぜ。一番いい席で見させてやるよ。
あたしは客席に向かって唇の前に人差し指を立てる。『シーッ』っというジェスチャーに気づいた観客が声援をやめる。
会場がシーンとした静寂に包まれる。盛り上げてくれたたくさんのアーティストには悪いが、これからここはあたしの空間だ。一旦リセットさせてもらうよ。
そして曲を始める。新曲の『プラリネ』。一本一本相棒の弦をなぞる。静かな空間に相棒の叫びだけが響く。BGMが入り、盛り上がった曲にあたしの声を重ねる。客がそれに反応して、ワーッと声援をあげる。
なぁ、聞こえてるか?届いてるか?あたしの叫び。
夢を追うってさ、割りにあわねぇよな。苦しかったり悲しかったり。で、叶わないことの方が多くて。
諦めちまえば簡単なもんなんだろうな。茨の道を見捨てて、今いる場所でずっと暮らしてたら安心だろうな。
でも、どんなに悔しくたって悲しくたって、あたしは絶対に未来に夢を見続けるよ。あたしがあたしであるためにね。多分、あたしにはそういうやり方しかできそうにもないから。
不意にあの日のチハの言葉を思い出す。あたしの心にガソリンをぶっかけて思いっきり火をつけた言葉。
あたしは100万人のために歌わない。自分1人のために歌う。それでも、きっと最高の歌を歌えば、絶対に100万人は耳を傾ける!
あたしは声いっぱい叫ぶ。ありったけの感情を絞り出して、ありったけの思いをぶちまける。あたしの全力に相棒も呼応する。願いを想いを全部音に変えて叫ぶ。
響け!響け!響け!響け!響け!あたしの叫び!この空間をこの時間をあたしたちの音で満たして、パンクさせてやる!!
夢破れて動けないなら、あたしの叫びを聞きな!もう一度夢を見せてやるから、あたしについてこい!お前ら全員、あたしの歌を聞けえええええええええ!
演奏が終わる。高まった熱が爆発したみたいに、会場が揺れる。どうやらあたしのステージはうまく行ったみたいだな。
おっさんのギターを右手で掴む。どうだい?久しぶりにいい夢が見られたかい?ギターの傷に照明が反射する。あたしにはそれが、おっさんからの返事に思えた。
################
そこから先のことはあまり覚えていない。意識が戻った頃には、あたしは帰りの車内にいた。
ジュリア「は?あれ?ここは?」
隣には車を運転するプロデューサー。呆れた声であたしに言う。
ミリP「は?何言ってんだおまえ?フェスは終わって、今車の中だ」
あー、フェス終わっちまったのか。自分のステージで燃え尽きちまったせいで、後の奴らの演奏は全く覚えてねぇや。チクショー、もったいないことした。
あれ?なんか忘れてないか?なんか大事なことがあったような。呆けた頭を回転させて思い出す。何だっけな?何だっけ?
ジュリア「新人賞!!!」
いきなり叫んだあたしにプロデューサーは少しハンドルを取られる。おいおいおい、揺らすんじゃねぇよビビんだろうが!
ミリP「おまぇなぁ!いきなり叫ぶなよ!事故ったらどうすんだ!」
はーっとひとつ溜息をつくプロデューサー。悪い悪いと平謝りをする。
ミリP「おまえ、手元見てみろ手元」
その言葉を聞いて手元に注意を向けると、ズシンと重みのあるトロフィーがあった。
ミリP「新人賞おめでとう!すげぇな快挙だぞこれ!」
おおおおおおおおおお!やった、あたしはやったのか!
ミリP「帰ったらパーティーだ。みんなお前の帰りを待ってるぞ」
パーティーって言葉を聞いた途端、キューっと腹の音が鳴る。やべっ!聞かれたか?とプロデューサーを見ると、どうやら聞こえてないらしくてホッとする。
もうすぐ事務所に着くだろう。それまでは我慢してろ、腹の虫。
ミリP「きっとお前の叫びは、100万人に届いたよ。そのトロフィーが、何よりの照明だ」
プロデューサーが温かい声で優しく言う。そっか、そうだよな。あたしの勝手な叫びは、とうとう100万人に響いたんだな。
窓の外を見る。今日は綺麗な星空だ。この空の下のたくさんの人が、あたしの叫びを聞いたんだ。
ミリP「さぁ、これからどうする?一つの目標を果たしたから、燃え尽きてもらってもこちらは困るぜ」
バカ言え、あたしはさらに燃え上がってるよ。まだまだあたしのやりたいことはたくさんある。あたしは底なしの欲張りだからさ。
ジュリア「新しい夢ならたくさんある。そこに向かって、同じように突っ走るだけさ」
ジュリア「まぁまずは、事務所に帰ってご飯をお腹いっぱい食べたいかな」
あたしは何度も夢を見る。
無邪気な子供のように未来を信じて。
E N D
終わりだよ~(〇・▽・〇)
書きたいことをただ書いていたらクソ長くなってしまいましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。
乙
良かった
50と67誤字っぽいのが気になったけど
続きが気になってリロードしながら読んでた
乙です、引き込まれて一気に読めました
あと2nd愛美さんのシーかっこよかった
>>4
ジュリア
http://i.imgur.com/5tJ1lNT.jpg
http://i.imgur.com/rDKIKZp.jpg
http://i.imgur.com/8XBHBvV.jpg
http://i.imgur.com/i7IyEB5.jpg
>>24
如月千早(16) Vo
http://i.imgur.com/rFwvSfp.jpg
http://i.imgur.com/cE68np1.jpg
>>30
音無小鳥(2X) Ex
http://i.imgur.com/hFRWAa5.jpg
http://i.imgur.com/rJCkhta.jpg
>>44
真壁瑞希(17) Da
http://i.imgur.com/P8D1rrC.jpg
http://i.imgur.com/sLKk1DI.jpg
伊吹翼(14) Vi
http://i.imgur.com/jYD95ta.jpg
http://i.imgur.com/zbtjSF7.jpg
>>55
『流星群』
http://www.youtube.com/watch?v=Hstu1RmC0BU
>>64
『プラリネ』
https://www.youtube.com/watch?v=pBxjzK-DkWs&t=1m27s
乙、どこかでオーナーが活躍知ってくれたらいいな
おつおつ!
ちはジュリの関係いいな
おつおつ 今読み切ったけど面白かったよぉ
ジュリアの生き様かっこいい乙
おつおつ
これぞ良作
素晴らしかった。乙
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