鷺沢文香「二人の間通り過ぎた風は」 (53)

遅まきながら、鷺沢文香の誕生日SSです。
自分はデレステしかやった事ないので、色々とツッコミ所があると思いますがご了承ください。

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鷺沢文香「……プロデューサーさん……おはようございます……」

P「あっ、鷺沢さん。おはようございます。今日は宣材写真の撮影ですので、よろしくお願いします」

文香「……はい……あの、プロデューサーさん……」

P「なんですか、鷺沢さん?」

文香「はい……あの……相談、というか、その……」

P「? なんですか? すみません。もう少し大きな声で……」

文香「はい……あの、ええと……今度、私と一緒に……え、えい――」

城ヶ崎莉嘉「わぁーPくんだー!おっはよー!」

赤城みりあ「プロデューサーさん、おはようございまーす!」

ドーン!(二人がPに抱きつく)

P「うわっと……すみません、お二人とも。今、私は鷺沢さんと話してまして……」

莉嘉「ねーねー聞いてPくん!!あのね!!」

みりあ「あー! その話はみりあが話すー! あのねプロデューサーさん! さっきね!」

P「……すみません、鷺沢さん……またじっくり聞きますので……」

文香「……はい……」

文香(……また、誘えませんでした……)

文香(……少し前までの私は、どこにでもいる、平凡な女の子でした)

文香(読書が好きで……ずっとそのまま、一生本に埋もれて生きていくのだろうな、と自分でも思っていましたが……)

文香(ある日、プロデューサーさんにひょんなことからスカウトされて……)

文香(今の私は、きらびやかな衣装を身に纏い、人前で、歌い、踊り、可愛らしいポーズを決めるアイドルです)

文香(少し前までの自分に言っても、恐らく信じては貰えないでしょう)

文香(私自身、この、アイドルになってからの日々がキラキラしすぎていて、たまに夢ではないか、と思うほどですから……)

文香(そして最近、やっと自分がアイドルになったという自覚が少々持てて来た所です……)

文香(……故に、今までは自分の事だけで精一杯だった私ですが、ほんの少しだけ周りの人に気を配る余裕が出来てきました)

文香(……そうして、余裕を持てて気付いたのです。自分がどれだけプロデューサーさんに頼り、甘えさせてもらっていたかを……)

文香(ですから、そのお礼という訳でもないのですが……映画でも誘おうと思っていました)

文香(……別にデートという訳ではなくて、その……プロデューサーさんはいつも怖いくらいに頑張っているので、ほんの少しだけ、息抜きをさせてあげたくて、です……)

文香(ですが、決意してからもう一週間以上経つのに、未だに誘えていません……)

文香(人前に立つ事は慣れても……こういう事は全く別物のようです……)

モブスタッフ「はいオッケーでーす! 鷺沢さんお疲れ様でしたー!」

文香「お疲れ様です……ありがとうございました……」

P「鷺沢さん、お疲れ様です。今日はこの後は特に予定もないので、今日は早めにあがってゆっくり休んでください」

文香「はい……あの、プロデューサーさん……」

モブスタッフ「あ、すみません。プロデューサーさん。この前の事でちょっと相談が……」

P「ああ、例の件ですね。わかりました。あっ、鷺沢さん。迎えのタクシー呼んであるんで、それで帰っちゃってください」

文香「……はい」

文香(また……誘えません……)

モブスタッフ「それでですね。今度の新プロジェクトなんですけど……」

P「ああ、それは把握してます……けど、あの案はあの子達にはちょっと合わないんじゃないかと思うんですが……」

文香(プロデューサーさんも、疲れているでしょうに……全然そんな顔を見せずに……)

文香(……いえ、よくみると、眉間にシワが寄っていますね……心なしか、声にも雰囲気にも、どことなく力が……)

文香(……)

モブスタッフ「あー、じゃあこっちの案だったらどうですか?」

P「……うーん。悪くはないと思いますが、今ひとつパンチに欠けてるような……うーん。もうちょっとだけ、こっちで掘り下げてみます」

文香「……あの」

モブスタッフ「すみません、お願いします」

P「はい。では……あー、どうすっかなー……」

文香「あ、あのっ!」

P「うわっ!? あ、ああ……鷺沢さんですか。急に大声出されたからびっくりしました…」

文香「あっ、す、すみません……」

文香(私らしくもなく、大声を……やはり、緊張しているのでしょうか……)カァァ

P「それで、どうしました? あ、タクシーまだ来てなかったですか? 多分、もう少しで来ると思うんですけど」

文香「いえ、そうではなくて……」

P「?」

文香「ぷ、ぷ……プロデューサーさんは、その……次のお休みの日の予定は何か……ありますか?」

文香(言えました……!)

P「え? 私の休み、ですか……? え~っと、次の休みの予定は……あ、ちょっと、用事がありますね」

文香「……そうですか……」シュン

P「……あ、でも。その次の休みなら、空いてますが……何か用事ですか?」

文香「は、はい……その……気になる映画がありまして……一人で行くのもどこか気恥ずかしいので……プロデューサーさんに付き合っていただきたいのですが……」

P「……それは、構いませんが……私でいいんですか? 仲の良いクール組の方々や、ヴァルキュリアの皆さん、それに確か城ヶ崎美嘉さんや一ノ瀬志希さんとも一緒に海に行った事がありますよね? そう言った方々と行かれた方が……」

文香「……プロデューサーさんでなければ、駄目なんです……!」

P「……そ、そうですか。ならばご同行させてもらいますが……」

文香「あっ……///(誤解を招くような言い方をしてしまいました……///)」

P「……ただその日は確か……あの、本当に一緒に行く人は私でいいんですね……? 」

文香「は、はい……!」

P「……わかりました。ではその日は、よろしくお願いします。とりあえず今日は少々忙しいので、細かい予定はまた後で……」

文香「……はい」

文香(やった……やりました……!)

数日後。

ティロン。

文香(あっ……プロデューサーさんから、LINEです……)

P『鷺沢さん、お疲れ様です。今度のお休みに行く映画ですが、何時から見ましょうか?』

文香『お疲れ様です……私が最近良く行く美味しいお店があるので、お昼にそちらを食べて、夕方くらいに映画を見るのはどうでしょうか……?』

P『了解です。それと鷺沢さん。もし良かったら、ディナーも一緒にどうでしょうか? とっておきというか、是非連れていきたいお店があるんですが……』

文香(えっ……夕食まで、一緒……ですか……それは嬉しいですが……)

文香『私は……構いませんが……私は……つまらない人間なので……短時間ならまだしも……そんなに長い時間一緒に居ても……プロデューサーさんを、退屈させてしまうかと……』

P『鷺沢さんのような美人と一緒に居て、退屈になる男なんて居ませんよ。是非ディナーもお願いします」

文香(美人……///)カァァ

文香『…ぁ…いあp……』

P『? どうしました?』

文香『すみません……間違えました……」

文香(動揺して……つい、変な文字を送ってしまいました……)

文香『わかりました……では、夕食はプロデューサーさんおすすめのお店で、是非……』

P『ありがとうございます。それでは、その日はよろしくお願いします』

文香『……はい……』

文香(美人……と言われてしまいました……)

文香(それに、プロデューサーさんと、殆ど一日一緒に……過ごせます……二人だけで……)

文香「……」

ぎゅぅぅ(本を胸に抱きしめる文香)

文香(……プロデューサー、さん……)

文香「……はっ」

文香(だ、駄目ですね……これは……プロデューサーさんを息抜きさせる為なんですから、私がこんなに楽しみにしては、駄目です……)

文香(でも、どうしたらいいんでしょう……考えてみれば、同性の人とすらも、プライベートでは二人きりで出かけた事が殆どない私が、プロデューサーさんを楽しませる事が、出来るでしょうか……)

文香(そういう系統の実用本を読んで、勉強するのもいいでしょうが……でも、本に書いてあるのは、あくまで大多数の、普通の人を対象にした、実用術です……)

文香(人一倍引っ込み思案で、人と目を合わせるのも未だに難しい私に、適用出来るとは思えません……)

文香(……やはり、ここは……あの人達に頼んでみましょう……)

そして当日。


P(確か、待ち合わせ場所はここだったはず……つい仕事の癖で30分前に来ちゃったけど……流石にまだ来てないか……)

P(ん?……秋なのに日傘を差してる人がいる……ああ、女性は紫外線対策で差す人もいるんだっけ……)

P(でも、雰囲気だけで分かるな、すごい美人さんだ。スカウトしたらアイドルになってくれないかな……ん? というか、どこかで見たような……)

文香「……プロデューサーさん……お疲れ様です……」

P「って……え、あれ? さ、鷺沢さんですか?」

文香「……はい……お早いですね。まだ三十分前なのに……私生活でも真面目なのですね、流石です……」

P「いや、それは鷺沢さんも一緒じゃないですか……というかすみません。待たせてしまって……」

文香「いえ……プロデューサーさんが謝る事では……」

文香(本当は……家に居てもそわそわして落ち着かなくて……1時間前に来ていたのですが……それを言ったら平謝りしてきそうですね……)

P「……というか、その日傘は……」

文香「はい……あの、美波さんにこの前ちょっと美容の事で相談したら、私は肌が白いから、紫外線対策に日傘をと言われまして……すみません、脆弱な肌で……」

P「いやいや! 鷺沢さんが謝る事じゃないですから! ……それと今日は前髪を上げて……あと、ちょっとお化粧してますか?」

文香「あ、はい……今日ほとんど一日、一緒に居てくださるプロデューサーさんが、周りの人に地味な女の子を連れてると思われないように、精一杯オシャレしてきましたが……どうでしょうか……?」

P「……」

文香「……やっぱり……変……でしたよね……」カァァ

P「……鷺沢さん」

文香「……はい?」

P「あの、これはお世辞とか、仕事での関係抜きに言いますが……死ぬほど可愛いです。アイドルの時とはまた違ったお化粧も素敵ですね。綺麗です」

文香「……!?!!?///」ワタワタ

P「じゃあ、ちょっと早いですけど、行きますか?」

文香「……かわ……きれ……」

P「……鷺沢さん? あの、顔が真っ赤ですけど、大丈夫ですか?」

文香「だ、だ、大丈夫、です……。それではこちらへ……」

P「鷺沢さん、その……そっちは何もない路地ですが……」

文香「あっ、す、すみません……」

テクテク

文香「……あっ、プロデューサーさん、このお店です」

P「ここは……中国料理屋、ですか?」

文香「はい……この前の撮影の役作りに、茶荘などに入るようになり……お茶の煎れ方や中国茶などを調べて行く内に、少々中国料理にも興味を持ちまして……」

P「そうですか……あー、聞いていいかわかりませんが……確か、茶荘の時は、気後れしてなかなか入れず3回目でようやく入店出来たんでしたっけ……?」

文香「あ……そ、そうです……」

P「……今回は何回目で……?」

文香「……二回目です……///」

P「……成長しましたね」

文香「……そんな大層なものでは、ありませんよ……」

P「いえ、それも立派な成長ですよ。自信を持ってください」

文香「……はい。ありがとうございます……」

文香(プロデューサーさんと話していると……不思議と、落ち着きます……私に、自信を持たせてくれるからでしょうか……)

P「私はあまり中国料理には詳しくないのですが……何かおすすめはありますか?」

文香「はい、小籠包がおすすめですね。ここの小籠包は特に美味しくて……また、種類も抱負で、様々な味が楽しめて……気に入っていただけると嬉しいのですが……」

P「へー……ホタテや、カニ味噌……それにチョコ入りなんかもあるんですね」

文香「はい……チョコは小籠包の白い皮が黒くなっていて……見た目も面白いですよ。良かったらデザートとして、最後に頼むのがいいかと……」

P「なるほど。では、小籠包と……あとは、適当に餃子とかチャーシュー炒飯とか、頼んじゃっていいですか?」

文香「はい……私も好きな物を頼みますから……」

P「わかりました。すみません。注文を……」


それからしばらくして。

モブ店員「お待たせしましたー。こちらご注文のお品です」

P「わ、本当に美味しそうですね」

文香「はい。ぜひご賞味ください……あっ、小籠包は肉汁がとても熱いので……気をつけてくださいね」

文香(……しかし、今更ですが、私服のプロデューサーさんも、新鮮、ですね……)

文香(それに、料理を目の前にして、子供のような顔をするプロデューサーさんも……何だか可愛らしいです……)

文香「……熱っ……」

P「ん? 鷺沢さん、どうしました?」

文香「……あっ、う……その、自分で言っておいてなんですが……小籠包の肉汁が、思った以上に熱くて……すみません……」

文香(プロデューサーさんを見つめていて……つい、冷ますのを忘れていました……バカですね、私は……)

P「……ぷ、ふふ。わかりました。すみません、店員さん。こちらの方にお冷を」

文香「……す、すみません……お恥ずかしいところを……」カァァ

P「いえ……くっくく……」

文香「……そんなに笑わないでください……///」

P「はい……すみません……ははっ……はははは」

文香「……///」カァァ

文香(恥ずかしいです……でも、何だか緊張がほぐれました……それに、プロデューサーさんも楽しんでいただけるようで、何よりです)

文香(……プロデューサーさんは、お世辞や私への気遣いではなく、本当にこのお店の料理がお気に召したらしく……何度も料理をおかわりしていました)

文香(プロデューサーさんに気に入っていただけて、何だかとてもうれしくなりました)

文香(それから、二人で料理を食べながら色んなお話をしました)

文香(話すのはやっぱりお仕事の事や、ライブの事です)

P「そういえば、あの時のBright blueは素敵でした。完璧にあの曲を表現しきってましたね。流石です」

文香「いえ……レッスンをしてくれたトレーナーさんや、演出してくれた照明さんや音響さん、それにアドバイスをくださったプロデューサーさんのおかげです……」

P「……そんな事はありませんよ。裏方さん達の頑張りと、鷺沢さんの頑張り、その両方が合わさって、素晴らしいステージが出来るんですから」

文香「そう……でしょうか」

P「はい。何より、前奏がかかって、鷺沢さんが現れた時のファンの皆さんの歓声は……どうでしたか?」

文香「……鳥肌もの、でしたね。ペンライトの色が一斉に青く……それこそまるで青空のように染まって……皆さん楽しそうに私の歌声を聞いてくれて……言葉では言い表せないほど、感動的でした……」

P「……私はアドバイスは出来ますが、ステージの上に立つ事は出来ません。鷺沢さんは、もう一人の立派なアイドルですよ。余り自分を卑下しないでください」

文香「……ありがとう、ございます……」

P「きっと、Bright blueは鷺沢さんが歌うから完成するんです。例えば私がステージ上に現れて歌いだしても、ファンの皆さんが困惑するだけでしょう?」

文香「……ふふっ、そうですね……ふふふ……」

文香(ステージの上で……一生懸命歌うプロデューサーさんを想像したら……何だかちょっと可笑しくて、笑ってしまいました……)

P「……さて、ではデザートも食べた事ですし、そろそろ行きますか?」

文香「はい……あっ、お会計は、私が……」

P「いえ。私が出しますよ」

文香「いえ……私が誘った訳ですから……それにプロデューサーさんには普段からお世話になりっぱなしですし……」

P「いえ、お世話になってるのは私も同じですから。それに鷺沢さんのような綺麗な女性と二人きりで食事を一緒に出来ただけでも光栄ですし」

文香「い、いえ……そんな……綺麗だなんて……それに……私の方がよっぽどプロデューサーさんのお世話に……」

P「……カッコつけさせてくださいよ」

文香「……プロデューサーさんは、普段からカッコいいと思いますが……」

P「……? すみません、もう一度……」

文香「い、いえ……なんでもありません……それでは、お言葉に甘えさせていただきます……」

文香(つい、本音が出てしまいました……///)

その後、映画館。


P「さて……映画の券も発券しましたが……映画まで時間がありますし、どうしましょうか?」

文香「……」ボー

P「鷺沢さん?」

文香「……あ、す、すみません。なんですか?」

P「……いえ、ボーッとされていたので、どうしたのかと思いまして……」

文香「あっ、はい……実は私、ここの映画館に来るのは、初めてでして……隣にあるショッピングモールの大きさにビックリしていました……」

P「ああ。最近の映画館は商業施設の屋上にあったりショッピングモールに隣接している場合も多い……というか、殆どそうでしょうしね。どこか、暇つぶしに見て回りますか?」

文香「はい。是非そうしましょう」

P「ちなみに、なにか見たいものはありますか?」

文香「……ええと、本屋さんはあるのでしょうか?」

P(ですよねー)

文香(……休日だけあって、人がたくさんいます……プロデューサーさんとはぐれないようにしなければ……)

P「人が多いですね。まだ映画の時間まで余裕ありますし、ゆっくり行きましょう」

文香「はい」

文香(プロデューサーさん……普段ははきはきというか、颯爽と歩く方なのですが、今日は私に合わせて、ゆっくり歩いてくれています……)

文香(気が利く方です……)

P「あ、本屋さんありましたよ、鷺沢さん」

文香「……見つけていただき、ありがとうございます……わぁ……」

文香(そこは、とても大きい本屋さんでした。言ってはなんですが、私のいる古書店とは比べ物にならないほどの……)

文香(床はピカピカで、最新刊が丁寧にディスプレイされていたり、目に留まり、興味を持てるような本の配置の仕方だったり)

文香(さらには書籍の在庫やどこに置いてあるかを検索出来る機械まであり……まさしく最新の本屋さんという感じのお店で、お客さんも沢山入っています)

文香(……)

P「鷺沢さん? どうかされましたか?」

文香「いえ、なんでも……あっ、この作者の新刊、出ていたんですね。すっかり忘れていました」

P「あっ、私もその作者の本、気になっていたんですよね。面白いですか?」

文香「はい、とても面白いですよ。読みやすい文体と、魅力的な登場人物、丁寧な構成と伏線回収が見事で……読み終わった後の読了感も爽やかで……素敵な作家だと思います」

P「特に一押しの本とかってありますか?」

文香「はい、『終末の嘘』や『死神の制度』などが特におすすめです……『死神の制度』は続編もあるので、そちらもよろしかったら是非……」

P「なるほど、じゃあ購入させてもらいますよ。他に何かおすすめはありますか?」

文香「他は……そうですね、こちらの本にまつわるミステリー小説はどうでしょう? ミステリーも面白いのですが、本が読めない主人公と本の虫のヒロインの関係も、読んでいて胸がキュンとなるので、良かったら……」

P「なるほど……ん?この表紙絵にいる人がヒロインなんですよね」

文香「はい」

P「どことなく、鷺沢さんに似ているような……」

文香「そ、そんな事はないです……こんな美人ではないですよ……」

P「そうですかね。黒髪ロングですし、肌も白いですし、本が好きな所とか似てますよ……あと……」

文香「? あと、なんですか?」

P「い、いえ、何でもありません。あっ、すみません。ちょっと漫画コーナーに行ってきます……」

文香「? はい」

文香(急に、どうしたんでしょうか? 何か、言いかけたような……あっ)

文香(そう言えば、この小説のヒロインは、胸が大きいんでしたね……そこも似ていると言いかけたのでしょう……)

文香(プロデューサーさんも、男の人、なんですね……)

文香(……///)

文香(その後も、プロデューサーさんに、たくさんの本を紹介したり、感想を言ったりしました)

文香(プロデューサーさんは、ずっとニコニコしながら聞いてくださいました)

文香「それでですね、物語の終盤での、今までの展開全てを収束させるその一言が……あっ、すみません。私ばかり、喋ってしまって……」

P「いえ、面白かったですよ。たくさん喋る鷺沢さんも新鮮でした」

文香「……はい……」

P「さて……まだ映画まではちょっと早いですけど、そろそろ出ますか? 他の店舗も回ってたらちょうどいい時間帯だと思いますし」

文香「分かりました。あっ、すみません。本を購入したらちょっとお手洗いに行ってきます……」

P「分かりました。じゃあ私ももうちょっと物色しながら待ってますね」



文香(いけませんね、本の事となると、つい喋りすぎてしまって……)

文香(……でも今日はとっても楽しいです。プロデューサーさんも、たくさん笑ってくれていますし……)

文香(……しかし、これでいいんでしょうか……プロデューサーさんの息抜きに、なっているでしょうか……?)

文香(……なっていれば、いいんですが……奏さんの言うとおりには、していますが……)

文香(その後、一通りのお店を見て、プロデューサーさんとあれやこれやをしている内に、もう映画は始まる30分前になりました)

P「さて……ポップコーンとかジュースとか買う時間考えたら……そろそろ映画館に戻りますか?」

文香「……」

P「鷺沢さん?」

文香「……はい? あ、すみません。ボーッとしていて……」

P「どこか行きたい場所でもありましたか?」

文香「は……いえ、行きたい場所というか、その……」

P「?」

P(鷺沢さんの目線の先には……ゲームセンターか)

P「……ひょっとしてですが、ゲームセンターに行きたいんですか?」

文香「い、いえ……そんな事は……ただ、ちょっと興味があるというか、どんなものが置いてあるか気になるだけで……」

P「それを行きたいというのでは……」

文香「そ、そうですかね……すみません、……ただ一度も入った事がないもので、つい……」

P「え? ゲームセンター入ったことないんですか?」

文香「はい……幼少の頃から、ずっと本ばかり読んでいて……数少ない友達も皆、ゲームセンターとかには行かない子ばかりだったので……」

P「……じゃあ入りましょうか」

文香「……いいんでしょうか? 私達のような大人だけで入っても」

P「年齢制限とかはありませんから。それにゲームして子供に戻るのもいいものですよ」

文香「……はい」

文香「わぁ……おっきい画面ですね……その手前には、銃のおもちゃ……あれは、一体?」

P「あれはシューティングゲームです。あの銃のおもちゃで画面に出てくる敵をバンバン撃つゲームですよ」

文香「……すごいですね……あ、プロデューサーさん、あの洗濯機のような筐体は?」

P「あれは所謂音ゲーという奴ですね。あの画面にリズムよくタッチして得点を伸ばすゲームです。やってみますか?」

文香「……いえ……何だかあれは目立ちそうなので、辞めておきます……」

文香(色んな機械があって、音がちょっとすごいですけど……でも、何もかも新鮮です……)キョロキョロ

P「……ふふっ」

文香「? なんですか、急に笑って……」

P「いえ、輝いた表情で辺りを見てる鷺沢さんが、何だか子供のようで……」

文香「!? す、すみません……お恥ずかしい所を……」

P「謝らなくていいですよ。やりたいゲームがあったら何でもやっちゃってください。まぁあまり時間はないですが」

文香「はい……そうですね……うーん……では……あ……プロデューサーさん。あのゲームは……?」

P「あれはワニワニパニックと言って、出て来るワニを叩くゲームです。やりたいんですか?」

文香「……はい……」

P「(渋い所を付くなぁ……まぁ鷺沢さんっぽいけど……)じゃあ、やってみましょうか」

チャリーン(100円入れる音)

文香「……えっとワニさんをこのハンマーで叩けばいいんですよね?」

P「そうです」

文香「……わっ……出てきました……えいっ……えいっ……」

P(……鷺沢さんがハンマーで叩こうとする度に……胸がぽよんぽよんと揺れて……)

文香「……わ、わ、連続で……えいっ……えいっ……!」

P(……これ動画にしたらすげえ勢いで売れそうだなぁ……はっ……いかんいかん。こんな邪な事を考えては……)

文香「……わ、一度に沢山……えいえいえいっ……!!」

P(……胸が、ぽよんぽよん……)

文香「……あう。全然駄目でした……スコアもひどい……すみませんプロデューサーさん、もう一度やってもいいでしょうか?」

P「……」

文香「……プロデューサーさん?」

P「あ、す、すみません。ええとなんですか?」

文香「もう一度だけやってもよろしいかと聞いたのですが……」

P「え、ええ、どうぞ。お好きなだけやっちゃってください」

文香「では……今度こそハイスコアを……えいえいっ」

P(……胸がぽよんぽよん……)

文香「ふぅ……やっとハイスコアが取れました……楽しかったです。ではプロデューサーさん。そろそろ行きましょうか……?」

P「……はっ。あ、そうですね。では行きますか……って、ああ、上映時間5分過ぎてます!?」

文香「!? すみません……私が熱中しすぎたせいで……」

P「いえ、私もぼーっとしてましたから……と、ともかく急ぎましょう!

今日はここまでです。
明日で全部投稿出来ると思います。
もし良ければ明日も読んで下さい。

乙です

はよ

投下します。

文香(最近の映画館は、新作の予告やコマーシャルが長いようで……何とか上映には間に合いました)

文香(映画は、最近大ヒットしている、人格と体が入れ替わった高校生の男女のラブストーリーです)

文香(題材自体は、そんなに目新しいものではないですが……しかし、良く練られているストーリーや、見惚れてしまうほど美しい映像)

文香(物語の世界観に合わせて作られたという音楽もとてもクオリティが高く……どっぷりとその映画に浸る事が出来ました)

文香(そして、物語のラストシーンでは……思わず涙を流してしまいました)

文香(私は普段、感動的な小説を読んでも余り泣かないのですが……それでも溢れ出る涙を抑える事が出来ませんでした……)

文香(私が余りにも泣きすぎて、プロデューサーさんが思わず本気で心配してくれた程です)

P「……落ち着きましたか?」

文香「……はい。すみません。ご迷惑を……」

文香(今は映画館を出て、ちょっと外れた近くの公園のベンチに、二人で座っています)

P「いえいえ、鷺沢さんの貴重な泣き顔を見られて、眼福でしたよ」

文香「……あまり見ないで下さい……///」

文香(私は恥ずかしくなって、思わず顔をうつむけました)

P「ははっ。すみません……もうこの時期だと、夕方はすっかり寒いですね……さっきは急いでいてジュースを買う暇も無くて、喉も渇いてるでしょうし、良かったらどうぞ」

文香(うつむいた私の元に、一本のホットコーヒーが差し出されました)

文香「……ありがとうございます……あ、いくらでしたか?」

P「いりませんって」

文香「……すみません……」

文香(お言葉に甘えていただいたコーヒーは、私が前に、一度だけ好きと言った味のものでした)

文香(……どこまでも気の利く方です)

P「しかし、良い映画でしたね。大ヒットの理由がわかりましたよ」

文香「はい……私は映画は余り見ませんが、数年……いえ、十年に一本の映画でしょうね……それくらい素晴らしい作品でした……」

P「はい。私も泣きはしませんでしたがとても感動しました……音楽も良かったですねえ……たまにはロックもいいものです」

文香「はい……でも、前前前世から探し始めた、という表現はちょっとだけ大袈裟な気がしますが……」

P「……三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」

文香「……え?」

P「……いえ、何となくこの詩を思い出しまして……男というのは、いつの世も変わらず、いくつになっても子供で、夢見がちというか、物事を大きく見せたがるものです」

文香「……ああ、そういう事ですか。でも、確かにそうですね。女性の詩で、現実離れしたような表現は、あまり思い当たりません……」

P「はい。女性は男と比べると現実的というか大人ですよね。それも早い内から。ライブ前の赤城みりあさんや佐々木千枝さん、それに櫻井桃華さんのキリっとした表情には、ドキッとしてしまいますから」

文香「……ドキッと、するんですか」

P「い、いえ、その、言葉のあやです! 決して、そういう意味では……」

文香「……分かっています。冗談ですよ。ふふっ」

P「……からかわないでくださいよ、もう……」

文香「そう言えば結局本は何を購入されたんですか?」

P「はい。鷺沢さんがおすすめしてくれた本と……あと、アイドル情報誌を……休日でも、仕事の事が頭にあって……」

文香「……真面目ですね、プロデューサーさんは……」

P「いえ……それくらいしか取り柄がないものですから」

文香「……軽薄で、見た目だけ着飾り、上辺だけ取り繕った男性より、プロデューサーさんのように、勤勉で実直な男性の方が、私は好きです……」

P「……あ、ありがとうございます」

文香(プロデューサーさんの顔が赤い……? っ、私は、今、何を言ったのでしょうか……///)

P「……」

文香「……」

P「……」

文香(……気まずい沈黙です……)

文香(……何か話題を、と思い……そのアイドル情報誌の表紙に目を通すと……)

文香(そこには、私達とは違う、アイドルグループの事が記されておりました)

文香(『変化し、進化し続けるアイドル』……そう題されて、特集が組まれておりました)

文香「……プロデューサーさん」

P「なんですか?」

文香「……私もアイドルとしてデビューしてしばらく経ちますし、何か変化を取り入れた方がよろしいでしょうか?」

P「……? 例えば、どのような……」

文香「はい……例えば、髪型を変えてみるとか、髪の色を城ヶ崎美嘉さんのような色にしてみるとか……」

P「……絶対にやめてくださいね」

文香「……しかし、私の髪型や髪色は、少々古臭くないでしょうか? 最新のトレンドを取り入れてみるのも、悪くないと思うのですが……」

P「もし鷺沢さんが今の髪型や髪色を変えたら、日本全国の鷺沢さんファン数億人が血涙を流して咽び泣くと思うので、本当に辞めてください」

文香「そ、そんなにファンの方はいらっしゃいませんよ……ですが、プロデューサーさんがそこまで言うのなら辞めておきますが……」

P「ふぅ、ならいいです……というか、そもそもなぜそんな事を……?」

文香「……今日行った書店は……設備なども最新式で、多くの人が集まっていましたよね」

P「はい」

文香「そうなると、やはり人は新しいものの方に興味を持ち、集まるのかと思いまして……だったら私も、何か新しい事を、と……」

P「……」

文香「私がバイトしてる古書店は、いつも閑散としていますから……勿論、叔父の経営方法や、来てくださるお客さんを古いと言っている訳ではありませんが……」

P「……」

文香「今現在の私を応援してくださっているファンの皆さんにも、とても感謝しています。でも、もっと……」

P「――鷺沢さん」

文香「……は、はい(真剣な顔のプロデューサーに、ちょっとドキッとしてしまいました)」

P「焦らなくて大丈夫です。確かに、人は目新しいものや一見派手なものにすぐ目移りしますが……その興味はあまり長く続くものではありませんよ」

文香「そう……でしょうか」

P「はい。実力や質が伴っていなければ、案外人はすぐ離れるものです。それに、そう行った派手さや新しさを売りにした手法は、延々とそれを続けなければならず……そう何年も続けられるものではありませんよ」

文香「……そうかも、知れませんが……」

P「そういう手法を続けられる例外もいるでしょうが……ですがやはり私は、鷺沢さん自身の魅力を中心に、プロデュースして行きたいと思っています」

文香「……プロデューサーさん……」

P「それに、今日鷺沢さんがやったワニワニパニックというゲームがあったでしょう?」

文香「はい……シンプルなゲーム性でしたが、面白かったです……」

P「あれは、私が幼少の頃からずっとゲームセンターに置いてあります。例え古くても、良い物はずっと残りますし、評価されますよ」

文香「……確かに、数十年前の良書、名著は、今でも高く評価されています……」

P「でしょう? 確かに今は目まぐるしいスピードで何もかもが変化する時代ですが……それに惑わされず、ブレずに行きましょう」

文香「……はい」

P「それに、私から見たら鷺沢さんは十分に変化を遂げていますよ。それは鷺沢さん自身も、感じていると思いますが……」

文香「……それは……否定しません……昔の私が今の私を見たら、同じ私だとは信じてくれないと思うくらいには……」

P「なら良かったです。これからも鷺沢さんらしく、少しずつ変化して進化してください。きっと、ファンの皆さんも、そんな鷺沢さんを暖かく見守ってくれると思います」

文香「はい……」

P「……それから、これは私個人の感想というか、感情ですが」

文香「……?」

P「覚えていますか? あの古書店で、初めて会ったあの日の事を」

文香「……はい」

P「あなたを見た瞬間、私はあなたをアイドルにしたいと思いました。あなたなら絶対にトップアイドルになれると思ったからです」

P「そんな私の荒唐無稽な、無茶苦茶な、子供のようなワガママにあなたは応えてくれて、アイドルになってくれました。そしてあなたがその為に沢山の努力をしているのも、私は良く知っています」

P「ですから、鷺沢さんが今現在のアイドルとしての処遇や将来に、不満や不安を抱えているのなら、それはひとえに私の努力不足であり、プロデュース力不足です。申し訳ありません」

文香「い、いえ……そんな……私も……プロデューサーさんがとても頑張っていらっしゃるのは、良く知っていますから……」

P「……なら良いのですが……昼間にも言いましたが……もっと自信を持ってくださいね」

P「鷺沢さんは、とっても綺麗な女性なんですから」

文香「……は、はい……///」

P「……それと、ですね。これはそんな鷺沢さんへの日頃の感謝を込めて……というかお礼というか……諸々を込めまして……」

文香「……?」

文香(プロデューサーさんが、カバンをゴソゴソと探ると、何か、綺麗にラッピングされた物を私に差し出しました)


P「鷺沢さん、誕生日おめでとうございます」

文香「……え?」

P「……今日は、鷺沢さんの誕生日ですよ」

文香「え……? ほ、本当ですか?」

P「はい」

文香「……今日の日付は10/27……あ、本当、ですね……」

P「……もしやとは思いましたが、本当に覚えてなかったんですね」

文香「……すみません。自分の事には、無頓着なもので……」

P「無頓着すぎます……これからは法律の上でも大人として分類されるんですから、せめてご自分の誕生日くらいは……」

文香「はい……申し訳、ありません……」

P「いえ、私も本気で怒っている訳ではありませんけど……まぁ、鷺沢さんらしいと言えば鷺沢さんらしいですが……」

文香「はい……以後、気をつけます……あの、プレゼントを開けても……?」

P「どうぞ……鷺沢さんのお気に召したらいいんですが……」

文香「……」←丁寧にラッピングを剥がす文香

文香(プロデューサーさんがくれたプレゼント。その中身は……)

文香「……これは……紅茶やコーヒーの詰め合わせと、スイーツ、ですか?」

P「はい。食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋……と。秋は、色んな事をするには適した季節ではありますが、やはり鷺沢さんは読書の秋でしょうから。夜長の読書のお供に、と思いまして」

P「それにこれからは寒くなりますし、女性が体を冷やすのはよくありませんから、良かったらですが、受け取ってください」

文香「……」

P「……あ、えっと……ひょっとして……気に入りませんでしたか……?」

文香「……いいえ」

P「だったらすみません、えっとじゃあさっきのショッピングモールに戻って何かお好きなものでも……って、え?」

文香「……すごく、嬉しいです……ありがとうございます……」

文香(その紅茶やコーヒー、それに数々のスイーツは、そういうものに疎い私でも知っているような有名な物だったり、また見るからに高そうなものばかりでした)

文香(こんな私に、ここまでしてくれるプロデューサーさんの優しさが嬉しすぎて、言葉に出来ず、つい返事が遅れてしまいました)

文香「本当にありがとうございます。大切に飲ませて、食べさせていただきます……」

P「そ、そんなに喜んでいただけるなら、私も選んだ甲斐がありました……ネックレスやイヤリングの方が、女性は喜ぶかなぁと思って、そちらと迷っていたんですが……」

文香「……そういうものをもらっても嬉しかったと思います。ですが私は、こちらの方が嬉しいです……何より……」

P「……ん? 何より、なんですか?」

文香「……いいえ、何でもありません」

文香(そういうありきたりなものより、プロデューサーさんが、私の事を思って、悩んで、選んでくれたものというのが嬉しいです、と伝えたら、どんな顔をするでしょうか……)

P「? ならいいですけど……」

文香(しかし、私はプロデューサーさんに貰いすぎですね……物や思い、色んな物を……このお礼はいくら感謝の言葉を連ねても、足りないでしょう……)

文香(……やはり、ここは、奏さんに言われたあれを実行してみましょう……何より、私自身、そうしたいと感じています……)

P「あ、それとですね、鷺沢さん。誕生日に異性を遊びに誘うのは、変な勘違いをされてしまう可能性が高いですから、これからはお気をつけて――うわぁっ!?」

ぎゅうぅ(文香がプロデューサーを自身の胸に抱き寄せる音)

P「あ、ああ、あの? 鷺沢さん……?」

文香「……プロデューサーさん……」

P「は、は、はい……?」

文香「いつも、いつも、本当に、ありがとうございます……私、今日は本当は、プロデューサーさんを癒やしてあげたくて、息抜きをさせてあげられたらいいなと思って、誘ったんです」

文香「でも、私は、プロデューサーさんに貰ってばかりです。食事もご馳走になって、励ましてもらって……さらには誕生日プレゼントまで頂いてしまいました……」

P「……いえ、そんな……別に……大した事では……」

文香「いえ、そんな事はありません……少なくとも私にとっては……」

P「……」

文香「本当は……私、もっと何か、プロデューサーさんの肩の力を抜いてあげられるような、そんな行動をしたかったんです……でもそれを、美波さんや奏さんに相談したら……」

P「……なんて言っていたんですか?」

文香「はい……そのままの私でいい、と。普段の私自身で、プロデューサーさんに接していればそれで十分だと言われました……でも、それだと納得出来なかったので、せめて美波さんにお化粧をして貰ったんです……」

P「……なるほど……(う……鷺沢さんの匂いが……鼻をくすぐる……)」

文香「あと……奏さんに、こう言われました……どうしてもプロデューサーさんに何かしたくなったら、頬にキスでもするか、胸に顔を埋めさせてあげて、と……それだけでどんな疲れも吹っ飛ぶから、と……」

P「あ、あの人は……まったく……いいですか、鷺沢さん。奏さんの言う事はあまり真に受けないように……」

文香「はい……でも、プロデューサーさん……癒やされて、ますか?」

P「……ええ、まぁ……それは否定しませんが……」

文香「ふふっ、なら良かったです……最近のプロデューサーさんは、お疲れ気味のようでしたから……」

P「……何だか、知らぬ間に気を使わせてしまっていたようで、すみません」

文香「いいえ、私がしたいからしてるんです。気にしないでください」

P「……はい」

文香「……(プロデューサーさんの匂いがしますね……髪の毛もさらさらです)」

P「……(いつまでこうされてるんだろうか……めちゃくちゃ柔らかいし、いつまでもこうしていたいけど……でも、これはまずいんじゃないだろうか……色々と……)」

文香「……(プロデューサーさん、顔が紅葉のように、赤く染まっています……ふふっ、何だか可愛らしいです)」

なでなで(プロデューサーの頭の撫でる文香)

P「あの、鷺沢さん……私は子供じゃないんですから、その……」

文香「……嫌、ですか?」

P「……嫌という訳では……」

文香「では……」ナデナデ

P「……」

文香「……プロデューサーさん、私は今日で法律上でも、もう大人です。ですから、これからは、私もプロデューサーさんに支えられるだけでなく、プロデューサーさんを支えられるように頑張りますから」

文香「プロデューサーさんがお疲れの時は、こうして差し上げますから……いつでも言ってくださいね……」

P「……あ、ありがとうございます……」

文香「いえ……」

P「……」

文香(プロデューサーさんの体、暖かいです……それに、プロデューサーさんの匂いがします)

文香(いい匂いです……いつまでも、こうしていたい……ずっと……ずっと……)

P「あの、鷺沢さん……お気持ちはわかりましたので、そろそろ……」

文香「お願いします……もう少しだけ……あと少しだけでいいですから……」

P「……」

文香(……プロデューサーさんは本以外に興味の無かった私の人生を、変えてくれた人)

文香(だからでしょうか……いつの間にか、プロデューサーさんの存在が、私の中で大きくなり始めていたのは)

文香(こんな想い、他の誰にも感じた事は……)

文香「……プロデューサーさん」

P「はい」

文香「急に、さっき見た映画のごっこ遊びがしたくなりました……今だけ、名前で読んでもいいですか?」

P「え……ああ、ええと……それは……やはり、私と鷺沢さんはプロデューサーとアイドルという関係ですから……」

文香「……先程、プロデューサーさんはいいましたね。自分のワガママに応えてくれて、あなたはアイドルになってくれた、と。なら、私のワガママも聞いて欲しいです……特に誕生日のワガママくらい、許してくださいますよね?」

文香(プロデューサーさんは優しい方ですから……こう言えば了承してくれるだろうという言い方を、しました……)

文香(卑怯な言い方というのは分かっています……でも、誕生日くらい、思いっきりプロデューサーさんに甘えてみようと思いました)

P「……ごっこ遊びという事で、なら……」

文香(……やっぱり、優しい方です)

文香「では……」

文香(一息つくと、私はプロデューサーさんの本名を呼びました)

文香「〇〇さん……」

P「……な、何だか……鷺沢さんに本名で呼ばれるのは、気恥ずかしいというか、背中がむず痒いですね……」

文香「……文香」

P「え?」

文香「私の事も、文香と呼んでくれないと、嫌です」

P「…………」

文香「……そう呼んでくれないと、拗ねちゃいますよ」

文香(……以前の文学少女の頃の、自信を持てない頃の私だったら、一生言う事は無かったような……可愛らしいセリフです)

文香(でも、プロデューサーさんが……〇〇さんが、アイドルにしてくれたから、言えたセリフでした)

P「……どうしても、ですか?」

文香「はい、どうしても、です」

P「……ふ、文香さん」

文香「……ぁ……///」

文香(……数々の恋愛小説を読んできましたが……こんなドキドキは、どんな物語を呼んでも、感じる事はありませんでしたね……)

文香「もう一度、呼んでくださいますか、〇〇さん……」

P「……文香さん」

文香「……///」

文香(幸せとは、まさに……こういう事を言うのでしょうね……)

文香「……〇〇さん……」

ぎゅぅぅぅ(さらに強くプロデューサーを抱きしめる文香)

P「あ、あの……文香さん……」

文香「……」

P「……文香さん……」

文香「……」

P「文香さん……息が、出来な……し、死ぬ……」

文香「……あ、す、すみません、〇〇さん……」

P「はぁはぁはぁ……ふぅー……ふぅー……」

文香「だ、大丈夫ですか?」

P「はい……何とか……」

文香「すみません、私ったらつい……」

P「いえ……(天国と地獄を同時に味わったような数十秒間だった……)」

文香「……すみません。誕生日だからと、つい調子に乗ってしまいました……もうごっこ遊びは終わりです。付き合っていただきありがとうございました……プロデューサーさん」

P「……え? あ、はい……」

文香(どことなく、名残惜しそうなお顔です……何だかその顔が可愛らしくて……少しだけ、奏さんの真似がしたくなりました……)

文香「ふふっ、それとも……これからもずっと、〇〇さんとお呼びした方がよろしいでしょうか?」

P「!? いや、えーっと、それは……う、あの、それはその……!」

文香「……冗談です、プロデューサーさん」

P「……し、心臓に悪いですよ、もう……二度とそんな冗談は辞めてくださいね……はぁ」

文香「……失礼しました(……でも、奏さんが、プロデューサーさんをからかう理由が、少しだけ分かった気がしました)」

……びゅううぅぅ……

P「……風が出てきましたね。夕陽も沈んで寒くなってきましたし、ディナーの時間も近づいてきたんで、そろそろ行きますか?」

文香「……プロデューサーさん」

P「はい?」


文香(好きです――)

文香(と、今、ここで伝えたら、プロデューサーさんは、どんな顔をするでしょうか……)

文香(ですが……それを伝える勇気は、まだありません)

文香「いえ……何でもありません……私もお腹が少々空いてきたので……行きましょうか」

P「……? では、タクシーを呼びますんで少々お待ちを。あっ、すみません。それで事務所に所用があるんで、一回事務所に寄りますね」

文香「わかりました」

……びゅううぅぅ……

文香(……今は、私とプロデューサーさんの間を、風が通り過ぎて……その距離感が、少し寂しいですけど……)

文香(でも、いつかは私達の間を、風すらも通れる隙間がないほど……くっつけるような、そんな関係に……)

文香(焦らず、ゆっくり……いつか、ちゃんと告白出来る勇気が出来るその日まで……)

文香(その日までは……アイドルとプロデューサーというこの関係を……楽しみたいと思います……)

タクシーの中。

P「……あー!」

文香「ぷ、プロデューサーさん。どうしたんですか? 急に大声をあげて……」

P「いえ……そのー……さっき、私、誕生日プレゼント渡したじゃないですか」

文香「はい」

P「何でか流れで渡しちゃいましたけど……本当は、今日、サプライズするつもりだったんです」

文香「……? と、言いますと……」

P「はい……さっき所用で事務所に寄るって言いましたが……実はこの後、鷺沢さんと一緒に事務所に入った瞬間に、待機していたちひろさんやアイドルのみんなが、クラッカーを鳴らして、私が誕生日プレゼントを渡すというサプライズをする予定だったんですが……」

文香「……先程、プレゼントを貰ってしまいましたね、私……ということは、今日のディナーのとっておきの場所というのは、事務所の事だったんですね……」

P「はい……あー、失敗しましたね……どうしましょう……」

文香「……もう事務所前に着いてしまいましたが……」

P「とりあえず出ましょうか……あ、運転手さんありがとうございました。支払いはカードで」

P「……あの、じゃあ申し訳ないですが、ごまかすために適当に芝居を打ってもらっていいでしょうか? ビックリしたフリをしてもらえるとありがたいのですが……さっきあけたプレゼントの包装も、何とかこう、ぱっと見だったら開封してないように偽装してですね……」

文香「……わかりました。サプライズを仕掛けようとしてくださった皆さんのご厚意を無駄にする訳には行きませんし……やってみます」

P「はい。ありがとうございます。この事はどうか二人だけの秘密に……あ、それと……先程の事も、誰にも言わないでくださいね」

文香「……はい。言いませんよ、ふふっ」

文香(……むしろ、誰にも言いたくありませんね……私と、プロデューサーさんだけの、二人だけの秘密、思い出にしておきたいと……そう思います)

P「はい。お願いします……そう言えば二十歳でお酒解禁という事で……ちひろさんがシャンパンを用意していますよ」

文香「シャンパン、ですか……まぁ、そのような高価なものまで……ただ私、お酒を今まで飲んだ事がないので、飲めるかどうかわかりませんが……」

P「……真面目ですね、鷺沢さんは」

文香「……? 普通では、ないでしょうか? 二十歳未満は、飲酒禁止ですよ?」

P「いえ、まぁ、そうですね……はい……」

文香「(どこかバツの悪そうなお顔ですね……)ところで、プロデューサーさんは、お酒は嗜まれるんでしょうか?」

P「自分から飲む事はあまりないですが……高垣さん達の飲みの席に誘われたり、姫川さんなどと一緒に野球観戦すると、飲まざるを得ないので……まぁほぼほぼ毎日飲んでます」

文香「……体調や健康の管理は、しっかりしてくださいね」

P「はい。そこは何とか……ウコンをいつもカバンの中に忍ばせてます」

文香「ふふっ、そうですか……でも、そうですね。プロデューサーさんや他のアイドルの皆さんも嗜まれているのなら……せっかく解禁されたのですし、私も飲酒に挑戦してみようと思います」

P「はい。ぜひ。ようこそ、大人の世界へ」

文香「はい……ふふっ」

P「ははっ」

文香(冗談めかしたプロデューサーさんの言葉に、私が笑うと、プロデューサーさんも笑いました)

P「……では、行きましょうか。驚いたフリ、よろしくお願いしますね」

文香「はい」

文香(そう言うと、プロデューサーさんが、ゆっくり事務所のドアを開けました)

文香(……クラッカーの音が、鳴り響きます――――)

文香(それからの時間はあっという間でした)

文香(沢山の豪華な料理や、プロデューサーさんが先程仰っていたシャンパン、それに、大きなバースデーケーキが用意されており)

文香(そして大勢のアイドルの皆さんが、私の誕生日を祝ってくれ、誕生日プレゼントをいただきました)

文香(木村夏樹さんがアコースティック・ギターを弾いて――その横で多田李衣菜さんがエアギターをしつつ――バースデーソングを皆さんで歌ってくれたり……)

文香(美波さんや奏さんからも誕生日プレゼントをいただき、またその際に今日のお化粧や振る舞いのお礼を言うと、二人に今日のおでかけの事を問われ、プロデューサーさんと二人でなんとか誤魔化したり……)

文香(また、相葉夕美さんが選んでくれたという、数々の花を、ヴァルキュリアのみなさんから花言葉を添えつつ貰ったり……)

文香(さらにはLIPPSからという事で来ていただいた城ヶ崎美嘉さんからは誕生日プレゼントで綺麗なイヤリングを貰い、一ノ瀬志希さんからはいい匂いのするオーデトワレをいただいたり……)

文香(また、誰かがふざけてありすちゃんにお酒を飲ませてしまったらしく、ありすちゃんに何故か泣きながら延々と抱きつかれたり……)

文香(日野茜さんが、何メートル先からロウソクの炎を吹き消せるかということに挑戦したり……)

文香(さらには、『今日は若い子だけで楽しんで』という書き置きと共に、プレゼントだけ置いておいてくださった高垣さんや川島さんや片桐さんと言った大人組の皆さんが、明らかに泥酔した様子で乱入してきたり……)

文香(その大人組の皆さんがプロデューサーさんに逆セクハラするのをみんなで止めたり……)

文香(最終的には、飲んで、歌って、踊って、笑って、とまさしくどんちゃん騒ぎとしか言いようがないほど、大騒ぎして……)

文香(気がついたら、私は大きく口を開けて涙を流すほど笑っていました)

文香(お酒が入っているとは言え、こんな風に笑うのは人生で初めての事でした)

文香(そして宴もたけなわという事で、最後、私が締めの挨拶を任されました)

文香「みなさん……今日は、私の誕生日パーティーを企画していただきまして、ありがとうございます」

文香「誇張ではなく……今までの誕生日の中で一番笑って、一番楽しい誕生日になりました」

文香「私、アイドルになって……みなさんと出会えて……本当に良かったです……私、皆さんの事がとても好きだなぁ、と心から思いました……」

文香「最近、毎日がとても刺激的で、キラキラしていて……夢みたいです」

文香「魔法にかかったように、こんなにも楽しい日々があるなんて、思いもしませんでした」

文香「そして、その解けない魔法を私に……私たちに、かけてくださっているプロデューサーさんに、特別な感謝を……」

P「……///」

ヒューッ。(大人組の誰かが冷やかしの声をあげる)

文香「……あ、あう……お酒を飲むと、普段言えないような恥ずかしい事も……言えてしまいますね……///」

文香「……では、皆さん。改めまして……至らぬ私ではありますが……二十歳になった私とも、これからもどうかお付き合いください」

文香「本日は本当に、ありがとうございました」


パチパチパチパチパチパチ!

そして翌日。 


文香「おはようございます……みなさん、昨日はどうもありがとうございました……」

P「あっ、鷺沢さんおはようございます。それでは早速ですが、次のお仕事の打ち合わせを……」

文香「はい……わかりました……〇〇さん……あっ」

文香(まだ寝ぼけていたのでしょうか、それとも昨日のお酒が残っていたのでしょうか……つい、プロデューサーさんの事を、名前で呼んでしまいました……)

P「…………」汗ダラー

文香(私の一言で、事務所の空気が一瞬凍り……)

文香(そして、次の一瞬で、おもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎになりました……)

文香(城ヶ崎美嘉さんが『ちょっと、プロデューサー、どういうこと!?』とプロデューサーさんに詰め寄り)

文香(奏さんが『文香も隅に置けないのね、やるじゃない。でもそれなら私も名前で呼んでいいかしら?』と妖しく迫り)

文香(ありすちゃんは『プロデューサーさん。私の文香さんに名前で呼ばれるってどういう事ですか?』と静かに激怒し……)

文香(上手く説明しようにも、言葉に詰まるプロデューサーさんは、顔面蒼白になり……)

文香(このままでは、渦中のプロデューサーさんがストレスで倒れてしまう、と思った私は咄嗟に……)

文香「ぷ、プロデューサーさん……あの、もしよろしければ、また胸をお貸ししますから……あっ」

文香(と、火に油を注ぐ一言を言ってしまい……)

文香(さらにてんやわんやの大騒ぎになるのですが……それはまた、別のお話です……)


以上です。
ふみふみが大好きすぎて、書いてしまいした。
本当は誕生日当日に投下したかったですが……結果的にこんなに長いSSになってしまいました。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

おつ!
いい雰囲気だった!

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