島村卯月「私の道、私の舞台」 (22)
地の文あり
独自設定あり
元ネタ(イメージ元)あり
モバマス、デレステ、アニメどれにも準拠してません
久しぶりの地の文なのでおかしなところがあるかもしれませんがよろしければ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1478405157
『シンデレラガール』
ずっと憧れていたものに、私はたどりついた。
緊張している、というよりか実感がないと言った方が当てはまるだろうか。
でも、数万という人が私を「アイドル島村卯月」を見に来てくれている……それがたまらなく嬉しかった。
私は小さいころ、キラキラしたものに憧れていた。
それはアニメの中のヒロインだったり、ドラマの中の主人公だったり、舞台で踊るアイドルだったり。
そんな憧れを胸にアイドルの世界へと飛び込んだ、もちろん初めから上手くいくはずがなくデビューすらできないまま養成所でレッスンをする日々が続いた。
一緒に養成所に入った子たちはどんどんと辞めていって、いつの間にかたった一人になっていた。みんなが『普通』の生活に戻る中、私だけが独りで夢を追い続けていた。
ある夏の日、私はオーディションを受けることになった。そのオーディションは大手プロダクションであるCGプロが主催しており、所属アイドルのPVを撮るためのエキストラ募集……という名の新人アイドルオーディションだった。大きな役ではないにしろ、もし受かることができればアイドルになるための大きな一歩を踏み出せることになる。
私は、これまでにないほどレッスンに力を入れ、寝る間も惜しんでオーディションに向けて練習をし続けた。この頃からだろうか、『頑張る』という言葉が口癖のようになったのは。
自分の全力を出すことができた。
素直にそう思った。
人生の中で最も身体が軽く軽快に踊り、自分の身体を突き抜けるような声が出て、最高の笑顔を振りまくことができた。
合格者は、当日発表されることになっていた、そのままプロダクション入りをするためだったのだろう。
[合格者]
小日向美穂
城ヶ崎美嘉
速水奏
そこに、私の名前はなかった。
合格者は偶然にも自分と同い年の子だけだった。
私なんかには無理だったんだ。
そんな思いが胸を締め付けた。
きっとアイドルになる子には素質があるから、私にはなかったんだ。
そんな言葉で逃げようとしていた。
両親や、かつての養成所の仲間たちに結果を聞かれた時、「次頑張ります」なんて言って逃げていた。
『悔しい』
この感情を私は人生で初めて理解した。
あれから2ヶ月がたった。
まだまだ残暑の続く季節、学校帰りに養成所に行くと、後輩……最近養成所に入った子が辞めると話していた。
私はその子を引きとめようとした、「もう少し頑張ってみよう」って。
でも、引きとめられなかった。その時自分にも一つ疑問が生まれてしまった。
「なんで私は頑張っているんだろう」
それからまた1ヶ月がたった。
まだ私は頑張り続けていた、悪く言えば惰性で続けていた……のだろうか。
ふと学校で友達の持っていた雑誌を見ると見覚えのある名前があった。
『速水奏』
あの時合格した子の名前だった。
たった3ヶ月、彼女はたった3ヶ月で、それこそ飛ぶような速さで『アイドル』になっていた。
綺麗な衣装に身を包んだ彼女は、キラキラして見えた。
あの時の「悔しさ」が込み上げてきて、養成所へと走り出していた。
養成所へ行くと、見知らぬ男性がいた。
「島村卯月さんですね」
彼は私を見てそういった。
「私はCGプロのPと言います、あなたを私にプロデュースさせていただきたい」
彼の話を要約するとこうだ、彼は先日のオーディションの合格者の一人である「城ヶ崎美嘉」の現プロデューサーであり、あのオーディションの審査員の一人であったという。
彼は3人目の合格者に私を推してくれたが、最終的に外れることになった、しかし彼は諦めきれず「城ヶ崎美嘉」と同時にプロデュースし、二人とも成果を上げることを条件に私をスカウト、いや、引き抜きに来たということだった。
私は素直にその時の気持ちを打ち明けていた。
「どうして私なんですか?」
「……というと?」
「私は、もう1年も養成所に通っています、ずっとレッスンし続けて、それでもオーディションには1つも受かってないんです」
「…………」
「あの時合格した子たちはもう既にアイドルになってるんです……私、気になって調べたんですけど、城ヶ崎さんは元モデルってだけでアイドルとしてのレッスンは受けていなかった。小日向さんと速水さんは養成所にいたのは1ヶ月にも満たないって」
「……続けてください」
「それなのに、みんな飛ぶように進んでいくんです……私なんて、1年もこの道を歩き続けてきたのに舞台にすら立てていないんです……そんな私をなんで……」
言葉が溢れて止まらなかった。こんなこと言わなくていいのに。
ただ行きますと、それだけ言えばアイドルになれるのに。
「…………島村さん、今からあの時のオーディションでの評価をお話しします、本来はあまり言うべきことではないのですが、私の独断です。島村さんにとって辛いこともあるかもしれません、それでも聞いてもらいたい」
「…………」
「まず技能です、どの分野も平均以上で特出した分野はなし。大きな欠点もないが大きなアピールポイントもなし」
「…………」
「次に態度、これに関しては全応募者の中で島村さんが最も高い評価になっています、アイドルに対する真摯な姿勢があると非常に高評価でした、このことだけで島村さんを選ぼうと言った審査員もいます」
「…………」
「最後に特長、ここが人によって評価が分かれました。最終的にこれといった特長がない、というのが結論です……ですが、私はそうは思いません」
「え?」
「島村さんは歌う時も、踊る時も、オーディションとは関係のない待っている時ですら自然な『笑顔』がありました。私にとってアイドルとは人々を『笑顔』に出来る人のこと……自らが素敵な『笑顔』を見せられるこの子ならきっと素晴らしいアイドルになれる、私はそう思いました」
「笑顔……」
「それが、私が島村さんを選んだ理由です。技能なんて、後からどれだけでも伸ばすことなんてできます、しかし心の底からの自然な笑顔をみせる……これはプロデューサーやトレーナーがどうにかできることではなく、アイドルの『才能』なんです」
「…………」
「確かに、あの時の合格者は飛ぶような速さで売れています、しかし、だからなんだというんですか」
「……どういう、ことですか?」
「飛べないのなら、歩いていけばいいんですよ。辛いことがあってもあなたは歩き続けてきた、結果が出ないのに1年間も頑張り続けるなんて並大抵の気持ちではできません」
初めて、自分が認められたような気がした。
頑張ってきたことは、無駄じゃなかったんだって、そう思えた。
「私でも……アイドルに、なれるんですか?」
「なれます、私がしてみせます。あなたが迷ってきた道、もしかしたら間違えた道もあるかもしれません。でもその道の先に私が舞台を必ず用意します、あなたの歩いてきた道を舞台にしてみせます」
その日、私はアイドルへの第一歩を踏み出した。
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「しまむー!いるー?」
「未央、うるさいよ」
控え室に、二人がやってきた。私の、大切な友達。
「しまむー大丈夫?緊張してない?」
「大丈夫だよ未央ちゃん……むしろなんだか落ち着いちゃってて」
「ふふっ、卯月は不思議だね、私なんて自分のことじゃないのに緊張してるよ」
「うん、ありがとう二人とも」
未央ちゃんも、凛ちゃんも本当に優しい。自分の舞台じゃないのに、私のために控え室にきて、応援してくれる。
私が歩き続けられたのは間違いなく仲間のおかげだと胸を張って言える。
いつだって私には仲間が、友達がいた。その場にいなくたってみんなが助けてくれたから。
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CGプロに加わってから1ヶ月、私の生活は急激に変わった。
これまでは養成所でレッスンを受けるのがメインだったのに、レッスンは空いた時間に、それ以外の時間は『アイドル』としての時間になった。
先輩アイドルの撮影の見学、裏方の勉強、あるいは小さな会場での前座。
まだまだ始まったばかりだけど、レッスンしかしてこなかった私にとって楽しくて仕方がなかった。
疲れはあったし、辛いこともあった、でもあの時の合格者……私よりも先にアイドルになった彼女たちを見ると身体が疼いて仕方がなかった。
それから3ヶ月
私にとっては大きなイベントが舞い込んできた
「美嘉ちゃんのバックダンサーですか……?」
「そう、美嘉のCD発売の宣伝も兼ねたミニライブをやるんだが、そのバックダンサーに卯月をと思ってな……どうだ?」
プロデューサーさんと美嘉ちゃんとはすぐに仲良くなれた。
なんでも私が来る前からプロデューサーさんは美嘉ちゃんに私のことを何度も話していたらしい……すごく恥ずかしい。
「わ、私にできるんでしょうか……」
「できるか、できないかじゃない。やるか、やらないかだ」
「……やります、頑張ります!」
「その意気だ」
ライブが終わってからも、高翌揚感が収まらなかった。
自分のライブではない、お客さんが見ていたのは島村卯月ではなく城ヶ崎美嘉、それはわかっていた。
それでも、楽しかった。
その日家に帰ってすぐに携帯が鳴った。着信はかつて養成所で一緒だった子からだった。
「もしもし」
『もしもし卯月ちゃん!?今日城ヶ崎美嘉のライブに出てたよね!?』
「え、うん……見てくれたんですか?」
『うん!やっぱり卯月ちゃんはすごいよ!本当に頑張ってるんだね!』
「……ありがとうございます」
嬉しかった。
主役なんかじゃなかった、でも自分を見てくれる人がいて、応援してくれる。それが何よりも嬉しかった。
『私はさ、諦めちゃったから……きっと卯月ちゃんみたいに根性がなかったんだ』
『だからさ、身勝手なお願いだとは思ってるんだけど、私の分まで頑張って!!応援してるよ!!』
「……うん!私、頑張りますね!」
一緒にアイドルをやっていなくても、仲間がいるから私は頑張れる。
あれから2ヶ月、CGプロに入って半年が経ったことになる。
とうとう、私、島村卯月はCDデビューをすることになった。
「作詞を……私に?」
それは、ありえない話だった。
「あぁ、作曲家さんが卯月のことを知っているみたいでね、是非とも卯月の世界をみて、それで曲をかきたいって言ってくれてね」
「私の……世界」
「無理にじゃない、作曲家さんも嫌なら断っていいと言ってくれている、仮に断っても曲の提供がなくなるわけじゃないから」
「嫌というか……私でいいのかなって、まだ名前もあんまり知られてないようなアイドルなのに」
「でも、作曲家さんは知ってくれていた」
「……」
「とりあえず書いてみてもいいんじゃないか?」
何を歌詞に書けばいいか、全くわからなかった。
ずっとモヤモヤとしていた時声をかけられた。
「卯月ちゃん」
「あ、美穂ちゃん……」
「どうしたの?難しい顔して」
「えっと歌詞を書くことになったんだけど……」
私は美穂ちゃんに事情を話した。
「そうなんだ……」
「うん、でも何を書けばいいかわからなくなっちゃって」
「卯月ちゃんのことでいいんじゃないかな?」
「私のこと?」
「うん、歌詞って思いを伝えるためにあるものだと思うの、だから自分のことを伝えたらいいんじゃないかな?」
3日後、書き終えた歌詞をプロデューサーさんに渡した。
「ん、じゃあ作曲家さんに渡しておくな」
「えっと、確認とかはしないんですか?」
「しないよ、作曲家さんが欲しいのは卯月の世界であって他の人の世界じゃないから」
あの歌詞で、島村卯月を、私を表現できているだろうか。
そんな不安もあったけれど、私の曲ができるというワクワクが止まらなかった。
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「あら?凛と未央もいたのね」
「卯月大丈夫?緊張してない?」
「大丈夫ですよ美嘉ちゃん、むしろ落ち着いてるんです」
「そっか★ソロステージ頑張ってね!」
「はい!」
奏ちゃんと美嘉ちゃんはいつも私にとっての目標だった。
初めの頃はまるで月や星のように遠くに見えていた。でも、今私は彼女たちと肩を並べて歩けている。
「卯月、ソロステージおめでとう」
「ありがとうございます奏ちゃん」
「それと」
「?」
「次は……負けないわよ」
「……はい!私も負けません!」
このソロステージはその年のシンデレラガール……つまり1位に選ばれたアイドルしか立つことができない。
だから私は、立つことのできなかったみんなの分まで頑張って歌おう、託された思いを胸にここまで来たんだって。
「卯月、そろそろ時間だ……って、みんな集まってたのか」
「しまむーの緊張を和らげてあげてたんだよ、プロデューサー君!」
「まったく未央はすぐ調子のいいことを言うんだから……」
「まぁ、仲がいいのはいいことだ。卯月、行けるな?」
「はい!」
「島村卯月、頑張ります!!」
ステージの上から見える景色は、今までのどんな景色よりもキラキラして見えた。
ここに立てたのは、みんなのおかげ。
プロデューサーさん
アイドルの仲間
ファンになってくれた人たち
そして、私を応援し続けてくれて、今日も観客席にいる友達たち
私は弱いけど、みんながいるから強くなれた。その思いを歌に……私の歌「S(mile)ING!」のせて届けよう。
今日ここまで迷った日も、間違えた日も、全てはここに立つために必要なことだったって、胸をはっていえる。
歩いてきたこの道が、私の舞台なんだから。
以上です
ものすごく遅くなりましたが卯月シンデレラガールおめでとう。
久方ぶりの地の文ということでなんだか色々と稚拙な部分もありますが卯月への思いを書き連ねました。
元ネタというかイメージ元は
BUMP OF CHICKENの「stage of the ground」です、歌詞がとても好きなんです。
では、読んでくれた方がいらっしゃいましたら百万の感謝を。
>>12
誤字してました
誤:ライブが終わってからも、高翌翌翌揚感が収まらなかった。
正:ライブが終わってからも、高翌揚感が収まらなかった。
なんかおかしい……saga入れないとダメですかね
高揚感が、です
おつ!
良い卯月SSだった
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