【モバマス】ダイアモンドとペルセウス (38)
「友紀さんは、何故この曲を選んだのですか?」
「キャッツの応援歌とか……カバーでは、そういうものを歌うのかと思っていました」
「Perseus-ペルセウス-……どちらかといえばPaというより、Coな曲だと思うんですけれど……」
同じような質問を、何人の人にされただろう?
同じような答えを、何度返しただろう?
何度だって、何度だって。繰り返すことができた
2つの理由のうち、1つめの理由だけを話す。それで、納得してもらえることができた
別に……なんていうことはなかった質問だった
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ただ……
これを、『Coのアイドル』に問われるということは
あたしにとって、特別な意味を持つことになる
ありすちゃんのこの質問に、一切の悪意は含まれていないことをあたしは知っている
あたしを傷つける意図をもって発言したわけでは、絶対にないのだ
ただの興味、ただの関心
青、いや、蒼に憧れる少女のふとした気まぐれに過ぎないはず
……分かっているのに
それが、分かっているのに
あたしの心中は、穏やかではいられない
たまたま、ありすちゃんが不運のクジを引いてしまったと理解するだけでいいのに
八つ当たり以外の何でもない、不快な考えが湧き上がってくる
ありすちゃんにはどうにもならない、あたしの現実を突きつけてしまおうか
突きつけて、あたしだけ楽になってしまおうか
あたしの過去を、話すだけ話して
2つめの理由を教えてしまおうか?
☆
[クールヒメカワ]
ダイアモンドと言えば、何を想像するだろう
例えば、あたしたちシンデレラガールを目指すアイドルにとって、ダイアモンドとはCo属性を象徴するマークだ
気高い輝きを放つ、硬い固い、砕けない石
Coに所属するアイドルは、この石と青色を背負ってステージに立つ
その時、ステージ上の彼女達もまさに宝石のように見えるのだ
……でも
あたしにとっての『ダイアモンド』はそれだけじゃない
4つのベースを結ぶ、四角形の内側
かつて、その世界があたしの全てだった
☆
兄貴に向けて、初めて球を投げたとき
それが、あたしの夢の始まり
「ほら、ボールはこう握るんだ」
「んっと……こう?」
「そうそう。できれば、親指をボールの中心にもっていくと回転が安定するんだが……」
「む~……駄目!指、届かないよ!」
「はは、友紀の手は小ちゃいからなぁ。大人になって、手が大きくなったらでいいさ」
「よし、そのまま投げてみろ」
「うん……えーいっ!」
バシッ
「おお!凄えじゃねえか、友紀!」
「あたし、ちゃんと投げられた?」
「ちゃんと、どころじゃないぜ。お前、野球のセンスあるよ!」
「ほ、本当?」
「こりゃ、将来は甲子園……ゆくゆくは、プロ入りだな!」
「えへへ……」
☆
「お父さん、あの大きい建物、何?」
「ありゃ、球場だ。サンマリンスタジアム宮崎ってやつだな」
「え!こんなところに球場があったんだ。プロの人とか、来るの?」
「来るぞぉ。キャッツなんか、キャンプ地にしてるしな」
「いいなー、見たいなー、プロの選手」
「見学会なんか、やっとるらしいが。今度のキャンプ時期に、一緒に行くか?」
「行きたい行きたーい!」
「サインとか、書いて貰えたりするのかな?」
「頼むチャンスはたくさんあるんじゃないか?よく知らんが」
「よーし、こうなったら、キャッツの1軍だけじゃなく2軍の選手もしっかり調べて、将来のスター選手からサインをゲットしなきゃ!」
「……オフシーズンには、すっかりキャッツファンになっちまいそうだな」
☆
「友紀、またキャッツ戦見てるのか?」
「うんっ!」
「……ここ最近はキャッツ、大変みたいだな。投手の補強が必要っぽいのに、鈍足バッターばかり集まっちゃって」
「……そうだね。でも、苦しいながらも投手陣は精一杯踏ん張ってるよ!」
「中継越しでも滝のような汗が見えるからなぁ……」
「……友紀は、やっぱりピッチャーが一番好きなのか?」
「うん、見るのも好きだし、やるのも好き」
「何で、ピッチャーが好きなんだ?」
「そうだねー……やっぱり、内野の……ダイアモンドの中心で、輝いているから!……かな」
「……たしかに汗で輝いてるな」
「そういう話じゃないって!確かにキラキラしてるけど!」
「すまんすまん」
「……観客と選手の注目にさらされながら、たった一人ぼっちでボールを投げる。それって凄く怖いことだけれど……」
「ああ、そうだな。怖いだろうな、プロならなおさら」
「そのときが、何ていうか、あたしがあたしだと示せる……みたいな。それが、『輝いてる』ってことなんだと思う。これを味わえるのがピッチャーの魅力かな」
「輝いて……か。宝石みたいな話だな」
「おっ、お兄ちゃん上手いこと言うじゃん。そうだね、ダイアモンドとかけて……」
フィールドの皆が願う夢を白球に乗せて放つ
それが、あたしの憧れたピッチャーだった
☆
「あの……友紀さん。どうしたんですか、ぼーっとして?」
「……あ、ゴメンゴメン」
……ちょっと、昔の思い出に浸りすぎたみたい
でも、おかげで大分落ち着いたかな。勢いに任せて、2つめの理由を滑らさないでよかった
待たせてごめんねありすちゃん、今、1つめの理由を言うから
「侍プロ野球って番組、知ってるかな?あ、今はSAMURAIBASEBALLって名前になったっけ」
「……すみませんが、知りません」
「そ、そうだよね……野球に興味無いと、知らないか」
あたしの無邪気な夢は、夢のままで終わらずに苦すぎる現実に変わったのだ
身体的に、精神的に、男子に追いつけなくなって
それでも諦めきれなくて、砂を噛む思いで野球部のマネージャーをして
……最期まで諦めきれずに、ボロボロになって。あたしの野球プレイヤーとしての夢は終わった
「その番組は、2003年から2005の間THEBASEBALL野球烈闘って名前だったんだけど……」
「話が豆知識の方向に逸れてませんか」
「いやいや、この程度の説明くらいさせてよ」
それでも、あたしは夢を完全には捨てきれなくて
アイドルになった今、野球番組や始球式等で、未だに野球に関わり続けている
……そんなあたしがこの歌をカバーした理由は
「で、Perseus-ペルセウス-はね……2003年のこの番組の主題歌だったんだ」
「なるほど……その頃の思い出の一曲というわけですか?」
「そうそう!8歳の頃に番組を見てーーー」
『ダイアモンド』から、夢を歌に乗せて放ってみたかったからだ
あたし以外の誰が悪いというわけでもなく、何が悪いというわけでもなく
ただ、あたしの自己中心的な考えで
八つ当たりで、お門違いで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い
そんな勝手なものなんだけど
文香ちゃん、奏ちゃん、周子ちゃん、飛鳥ちゃん、ありすちゃん……ええと、とにかくCoアイドルの全員がCoに所属していて
あたしが……Paに所属しているという事実が
……何よりも哀しかった
たまたま、Coの象徴がダイアモンドで
たまたま、フィールド上の4つのベースを結んだ内側をダイアモンドと呼ぶことになっている
それだけ
そう、たったそれだけで
Coに属さない
ダイアモンド上に立つことは相応しくない
……だからあたしは、ダイアモンドとしては輝けない
そう感じてしまったんだ
他の人にはさっぱり分からないだろうけど
、Paがどうだとか、Coがなんだとか、そういうレベルの話じゃなく……
……あたしがPaに所属することになった時に、野球の運命を否定された。そんな気分だった
それぞれには何の因果関係も無くて
勝手に思い込んで
勝手に苦しんでる
何もかもあたしのこじつけなんだけど、ね
「ーーーそれでね、当時は打線の方が……」
「あの、すいません」
「……あ、ごめん。野球の話になっちゃって、つまらなかったかな」
「……それは否定しませんが。友紀さん、何か無理してませんか?」
「え?」
「いつもより、早口ですし……なんとなく焦っているような……」
「そ、そんなことないよ」
「……本当ですか?」
「……本当だよ」
蒼く咲くCoの彼女達を尻目に
はたして、あたしは今どんな種類の宝石になったのだろう?
ルビー、トパーズ……候補は色々ありそうだ
正直なところ、宝石のことをよく知らないんだけれど
そんなあたしでも一つだけ、分かることがある
それは……
ピッチャーになれなかったあたしには、ダイアモンドは似合わない
……ということだ
おしまい。
姫川友紀「あたしはマウンドに立ちたいだけ」橘ありす「アイドルに興味はありません」
姫川友紀「あたしはマウンドに立ちたいだけ」橘ありす「アイドルに興味はありません」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470048841/)
こちらは繋がりはありませんが、同じく野球を捨てきれない友紀の話です
真っ先に高野レン想像して本当に申し訳なく思う。
シリアスで素晴らしかった。乙。
おっつおっつ
おつつ
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