――おしゃれなカフェ(室内の席)――
北条加蓮「モバP(以下「P」)さんとちょっと喧嘩しちゃったんだ」
高森藍子「喧嘩しちゃったんですか?」
加蓮「喧嘩しちゃいました」
藍子「喧嘩しちゃったんですか~」
加蓮「喧嘩しちゃったんです」
藍子「……え? 喧嘩しちゃったんですか!?」
加蓮「反応遅!」
藍子「もー、加蓮ちゃん、Pさんに何をやったんですか。そうだ、仲直りしなきゃっ」
加蓮「Pさんがやらかしたって選択肢はないの!?」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第31話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「夏景色のカフェで」
・「北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「風鈴のあるカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子さんと」高森藍子「7月25日のカフェテラスで」
お久しぶりです。
藍子「あっ、店員さん。いつもありがとうございます」
加蓮「クリームソーダありがと。あれ、今日はクリーム多めだ。何かいいことあったの?」
藍子「私のアップルジュースも、少し多いような……」
藍子「え? ……私たちが来てくれることがいいこと、ですか? ふふっ♪ そんなに喜んでもらえるなんて、私も嬉しいです」
加蓮「露骨なことしちゃって。そんなに藍子のことが好きなんだね――いや真顔でこっち向かれても。ありがとね、店員さん」
……。
…………。
加蓮「ごくごく」
藍子「ごく……ごく……。それで、どうして喧嘩しちゃったんですか? 今ここにいても――」
加蓮「ぷはっ。大丈夫大丈夫。私が一方的に逃げてきたようなものだし」
藍子「ぜんぜん大丈夫に思えない……」
加蓮「んー…………」マゼマゼ
藍子「聞きますよ?」
加蓮「うん、話す。くっだんない意地を張っただけなんだけど」ゴク
加蓮「ロケに行く時にさ、藍子がそういえば言ってたなーって思いだして。真似って訳じゃないんだけどさ、時間もあったし良さそうなお店があったら一緒に寄っていきたいなー、ってことで、現場まで歩いて行くことにしたんだ」
藍子「ふんふん」ゴクゴク
加蓮「そしたらPさんずーっとスマフォ見てばっかで」
藍子「誰かとお話していたんですか?」
加蓮「ポケモン」
藍子「あぁ……」
加蓮「もうホント、ずっと見っぱなし」
藍子「そういえばみんなやっていますよね。学校でも友だちが、いつも楽しそうだったり、悔しそう――」
藍子「あ、今は加蓮ちゃんのお話でしたね」
加蓮「そのまま藍子の話に流れてもいいよ? ただの愚痴だし」
藍子「今は加蓮ちゃんの番ですから。私だって続きが気になっちゃいますもん」
加蓮「ただの喧嘩だってばー」
藍子「それで、どうなっちゃったんですか?」
加蓮「Pさんもハマってるの知ってたし人気なのも知ってるしさ、ちょっとくらいはって思ったんだけど、Pさん、私が話振ってもすっごいテキトーに流すの」
加蓮「ちょっとカチンと来ちゃって。あとはまぁ……なんか、なんとなく……ね?」
藍子「…………」ゴクゴク
加蓮「……お仕事はちゃんとできたよ、もちろん。でも……事務所に戻っても、ごめんって言えなくてさー」
加蓮「ねちっこいのは嫌いなんだけどね。……明日まで続いたらどうしよ」
加蓮「……いーや。私はPさんが謝ってくるまで待つって決めた! それまではここを一歩も動かないっ!」
藍子「ふふっ。私もお付き合いしますね」
加蓮「ってお話」ゴクゴク
加蓮「あーあ、藍子まで敵に回っちゃった。Pさんかわいそー」
藍子「そんなひとごとみたいに。落ち着いたら、早く仲直りしてくださいね?」
加蓮「あははっ」
藍子「2人が喧嘩したままなんて、悲しくなってしまいますから」
加蓮「頑張る」
加蓮「私さ、ほら、流行ってるからさ。一応やってるんだ。ポケモン」
藍子「加蓮ちゃんもやっていたんですね」
加蓮「でもなんか……面白いんだけど、面白いことは面白いんだけどさ。Pさん程には夢中になれないっていうか、馴染めないっていうか」
藍子「なじめない……」
加蓮「スマフォのアレって一番最初のポケモンが出てくるんだよね?」
藍子「一番最初の、ですか?」
加蓮「色んなバージョンあるじゃん。で、私、ポケモンの……ええと、……赤色? 緑色? ってやったことなくて。ピンと来ないんだよね」
藍子「ポケモンっていっぱい種類がありますよね」
加蓮「そーそー。Pさん曰く……第……あれ、いくつだっけ。3? 4? とにかくその世代なんだってさ」
藍子「へぇ……。世代ってあるんですね。今は何世代まであるんでしょうか」
加蓮「さあ? 第十世代くらいまであったりして」
藍子「さすがにそんなにはなかったような……?」
加蓮「でもほら、たくさん種類があるから案外あるのかもね。ああでも同じ世代にもいろんな種類があるって言ってたっけ、Pさん」ゴクゴク
藍子「ぜんぶ覚えたら、いっぱい楽しめちゃいそう」ゴクゴク
加蓮「藍子はやってないの? 友達がってさっき言いかけてたけど」
藍子「誘ってもらったので、少しだけ……。ちょっぴりだけですけれど」
加蓮「おー」
藍子「お散歩している時、たまに確認したくなっちゃいますね。可愛いポケモンがいたりして、そうしたら初めて来た場所って感じがしちゃって」
加蓮「また発見できることが増えたんだね」
藍子「ですねっ。見つけることが楽しくて、捕まえたりはあんまり……そのことを友だちにお話ししたら、遊び方が変、って言われちゃいました……あはは」
加蓮「いいんじゃない? 藍子らしいし」
藍子「いいんでしょうか?」
加蓮「いいと思うよー」
加蓮「やっぱもうちょっとつついとこっかな。そうだ、私もちょっと調べてみよっと。最初の、ええと、最初のだから第一世代って言うのかな?」
加蓮「そしたらPさんともいろいろ話せそうだし」
藍子「……ふふっ。加蓮ちゃん、仲直りする前から、もう仲直りした後のお話をするんですか?」
加蓮「あ。……あー」
藍子「加蓮ちゃん、本当はもうPさんに怒ってなんてぜんぜんなくて――」
加蓮「うっさい」ベチ
藍子「あうっ」イタイ
加蓮「ぐぬぬ……ほら、それはさ……ね? こう……出し抜く……そう、Pさんを出し抜かなきゃね。アイドルとして舐められたくないし」
藍子「ふふふっ」
加蓮「…………」ヒクヒク
藍子「だって、加蓮ちゃんがなんだか可愛くて」
加蓮「むぅ……」
加蓮「まぁほら、Pさんにはいつも私のことに付き合ってもらってばっかりだし、たまにはPさんのやることにも付き合ってみよっかなー、なんて」
加蓮「藍子も一緒にやんない? 今のPさんにさ、一緒にポケモン探しに行こう、って言ったら絶対ついてくるよ。間違えなくノリノリだよ。アイドルとプロデューサーが! とか絶対言わないよ今のあの人」
藍子「それは…………!」
加蓮「クルでしょ? 魅力的でしょ?」
藍子「……………………」コクン
加蓮「ね?」
藍子「ち、ちょっと考えさせてくださいっ」
加蓮「あんまりのろのろやってたら誰かに盗られるよー。私とか」
藍子「むー。私、加蓮ちゃんほど大胆にはなれませんから……」
加蓮「藍子もそれなりだと思うけどね」
藍子「もしポケモンを探しに行くことになったら、私、Pさんに振り回されちゃうかもしれません」
加蓮「でもそれがー?」
藍子「……だから加蓮ちゃんも一緒に来てくださいっ。私1人じゃ、ついていくのがせいいっぱいになっちゃいそうですから」
加蓮「お、かわしてきたな? でもそういうのもいいかもね……んー、でも私はやめとく」
藍子「えー?」
加蓮「Pさんと一緒にいたら、つい自分のやりたいことばっかり言っちゃいそうっていうか……またそれで喧嘩になりそうだし。ワガママだもん、私」
加蓮「それにPさんにはいつも無理を言ってばっかりだからさ。私のことで苦労させてばっかりってのもあるし」
加蓮「ほら、ちゃんと休んでるのかも怪しいじゃん。私達にはちゃんとオフを用意してくれるのに」
加蓮「そんなPさんがゲームにドハマリしてるんだよ? 私の話を半分、っていうかほとんど無視するくらいに」
加蓮「ムカつくけど、それってすっごく珍しくない?」
加蓮「だったらさ、今くらいはうるさく言わないであげようっていうか……」
加蓮「ほら、また私の話を聞いてくれるようになったら、私のことを無視してた分までいっぱいワガママを言うってことで」
藍子「…………」ポカーン
加蓮「……ん? 何その顔」
藍子「あ、いえ……。なんだか加蓮ちゃんが、大人の女性に見えて……」
加蓮「いや今はアンタの方が年上でしょ。藍子さんって呼ぼうか?」
藍子「そう呼ばれちゃっても考えは変わりませんよ」
加蓮「ふうん。変なの」
藍子「加蓮ちゃんにそんなこと言われちゃったら、私もわがままは言えないですね」
加蓮「別に藍子はいいんだよ? 私の考えに合わせなくても。むしろ藍子はもっとPさんにあれこれ言うべきっていうか」
藍子「あれこれ言うより、あれこれ話してもらえる方が好きですからっ」
加蓮「ぶれないなぁ」
<ぶぶぶ、ぶぶぶ...
加蓮「ん? Pさんからメッセージだ」
加蓮「……」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「…………ん」スマフォミセル
藍子「どれどれ……」ノゾキコミ
藍子「ふふ。Pさん、ごめんなさいって」
加蓮「うるさく言うのやめるのやめた! やっぱワガママ言うことにする!」
藍子「じゃあ……私も、ちょっとだけ言っちゃいます!」
藍子「……うぅ、ち、ちょっぴり、本当にちょっぴりだけですっ。でもやっぱりPさんにはいつもお世話になってるから――」
加蓮「よし、一緒にデートに誘おっか!」
藍子「加蓮ちゃん!? 外、ここカフェです! アイドルがデートなんて言っちゃだめぇ!」
加蓮「おっと」キョロキョロ
藍子「……誰にも聞かれてないみたいですね。よかった」ホッ
加蓮「反省反省」
藍子「それに加蓮ちゃん、まずはPさんにごめんなさいって言わないと」
加蓮「だね。そうする……」ポチポチ
加蓮「…………」ポチポチポチポチ
加蓮「……Pさんのばかやろー、反省したら私の話をちゃんと聞けー。よしできた、送――」
藍子「こらっ」ベチ
□ ■ □ ■ □
加蓮「送信っと。……うわ、見てよ藍子。20分。もう20分も経ったよ。返信するのに20分も経った」
藍子「20分も経っちゃいましたね」
加蓮「つかれたー」
藍子「お疲れ様です。ずっと真剣でしたよね、加蓮ちゃん」
加蓮「台本を読んでる時くらいに考え込んでたかも……」
加蓮「ふうっ。ごちそう様でした」
加蓮「美味しかったけど口の中が変な感じするなぁ。何か食べよっかなぁ」パラパラ
藍子「何か食べるなら、ひとくちだけもらってもいいですか?」ゴクゴク
加蓮「はーい。……ん、ごめん、ピンと来るのがなかった」
藍子「それは残念っ」
加蓮「……スイカ……うん、スイカ。さすがに無いっぽいね」
藍子「スイカを置いているカフェ? あったかなぁ……」ウーン
加蓮「もっとこう、シャクシャクって感じが……ううっ、思い出したら余計食べたくなってきた。でも我慢我慢」
藍子「海に近いところは……ううん、スイカ味のアイスはあったけれど……あと……」
加蓮「何か近い物……近い物」
藍子「……あ、思い出しましたっ!」
加蓮「ん? 何を?」
藍子「確か、ここから電車で3駅行ったところのカフェに、夏限定でスイカを置いてあるところがあるんですっ」
加蓮「あるの!? カフェに!?」
藍子「あるんです!」
加蓮「うっそぉ……ヤバイ、カフェってやっぱりヤバイ」
藍子「最初に見つけた時は、私もびっくりして。でもその時は、あたたかい物を食べたい気分だったから……色々なお店に行って、クーラーでちょっぴり冷えちゃった時だったんです」
加蓮「あるある。なんか暖かい物を飲みたくなったりさ」
藍子「だからその時には、ココアを注文したんです。すごく暖かくて、甘くて……♪」
加蓮「へー」
藍子「…………」
加蓮「……………………、よ……よかったね?」
藍子「はいっ! ……あれ?」
加蓮「ん、ん? ……まぁいっか。そっかー」
藍子「行ってみますか? スイカのあるカフェ」
加蓮「ちょっと今日は暑すぎるからパス。着いた時にはぐったりなって帰れなくなっちゃうよ」
加蓮「……っていうか駅に行くだけでもダウンしちゃうかも」
藍子「今日、すっごく暑いですよね」
加蓮「室内にいると忘れそうになるよね。外を見たら……うわー、なんかゆらゆらしてる。何度いってんのこれ……」
藍子「涼しくなってから帰りましょう。途中で倒れちゃったら大変です」
加蓮「最近はもうクーラーつけっぱなしで寝ちゃってるんだ。クーラーに扇風機」
加蓮「寒かったり暑かったり極端なのはウザいけど、でもクーラーないと無理。死ぬって」
藍子「私は扇風機だけですね……」
加蓮「マジ? 寝れなくない?」
藍子「朝になったら、少し寒くなっちゃうから」
加蓮「それは分かる」
藍子「夜はお布団に入って、明日は何をしようかな? って考えていたら、いつの間にか寝ちゃってて」
加蓮「私も疲れてる時はすぐ寝ちゃう。でもクーラーはいる」
藍子「冷やし過ぎたら風邪を引いちゃいそうで……」
加蓮「家もここのカフェテラスみたいに涼しかったらよかったのに。そしたらクーラーもいらなくて済むのにさ」
藍子「寝泊まりできるカフェとか、あったら面白そうですよね」
加蓮「それもうホテルじゃん」
藍子「あ、ほんとだっ。ホテルと言えば眠る前に、ちょっぴりお散歩に出かけてみたりして……」
加蓮「分かる分かる。なんとなくコンビニとか行きたくなるよね」
藍子「Pさんもついてきてくれますから、夜でも安心です♪」
加蓮「だよねだよねー。…………はっ。さてはお散歩にかけつけて夜のデート? 藍子、やるじゃん」
藍子「そういうつもりじゃなくて! 私はただお散歩――」
加蓮「んー?」
藍子「…………ちょっぴりそういう気持ちもなくはないですけど!」
加蓮「うんうん、素直に言うのが一番だよ」
藍子「加蓮ちゃんがそれを言いますか……」ガクッ
加蓮「あとさ、ホテルの中ってなんか歩いてみたくならない?」
藍子「ホテルの中、ですか?」
加蓮「うん。あー、歩くって言うより眺めたくなる感じかも」
加蓮「ロビーとかってほら、ふかふかの椅子があったりするじゃん。あそこに座って、偉い人ごっこしてみたり」
藍子「え、えらい人ごっこ……うくっ……」アハハハ
加蓮「そこツボ? で、いろんな人が来てるー、もしかして私のライブ待ちのファンだったりするのかな? とか」
加蓮「実際、たまーに私のグッズを持ってる人とかいてさ。そういうの見ると……寝る前に少しだけ体を動かしたくなっちゃったり?」
藍子「加蓮ちゃん、いつでもやる気いっぱいですね」
加蓮「前日入りとかでずっと車で移動してたりしたらさ、ほら、体がなまっちゃうじゃん。その方が寝やすいんだ」
藍子「ふんふん……。私も真似してみますね」
加蓮「私も藍子を真似してみよっと。せっかくアイドルなんだし、いろんなところにツアー行けるんだし。ホテルの中もいいけど、周りの散歩も楽しそうっ」
藍子「…………ふふっ♪」
加蓮「?」
藍子「ううん。加蓮ちゃんにもお散歩の楽しさが分かってもらえて嬉しくて!」
加蓮「誰かさんが会う度に熱弁するもん。趣味が1つ増えちゃったよ」
□ ■ □ ■ □
藍子「そういえば私、加蓮ちゃんに聞こうって決めていたんでした」
加蓮「どしたの改まって。Pさんとの喧嘩なら終わったよ? ……たぶん。つついても面白いことなんて何も、」
藍子「ううん、そのことじゃなくて。ここに来る前に、聞きたかったことがあって」
加蓮「……?」
藍子「ねえ、加蓮ちゃん」
藍子「海の撮影は、どうでしたか?」
加蓮「…………そっちかぁ」
藍子「そっちですっ」
加蓮「答えるのが嫌だ、って言ったら」
藍子「今の加蓮ちゃん、そんな顔してません」
加蓮「……分かる?」
藍子「はいっ」
藍子「私、加蓮ちゃんの写真を見せてもらいました。綺麗な景色の中で、いつもとぜんぜん違う笑顔で、ああ、とっても幸せそうだなって……」
藍子「最初に見た時、つい泣きそうになっちゃったんですよ?」
加蓮「大げさだなぁ、もう」
藍子「だって加蓮ちゃん、すっごく幸せそうだったから」
藍子「…………はじめて見る顔だったのが……ほんのちょっぴり――」
藍子「ううん。だから私、加蓮ちゃんに聞いてみたかったんです。聞くって決めていたんです。どうでしたか? って」
加蓮「……どう、かぁ。うーん」
藍子「もったいぶらないで教えてくださいっ」
加蓮「もったいぶってる訳じゃないよ。こう……説明がしにくいんだって。すっごく」
藍子「説明が難しい、ですか?」
加蓮「どう言えばいいのかな……ああ、でも間違えなく藍子の想像通りだよ」
加蓮「私はとっても、幸せでした」
加蓮「それだけは胸を張って言えるかな。すっごく幸せだった、って!」
藍子「……はいっ♪」
加蓮「これでいい?」
藍子「む。なんだかまだまだありそう……そう言われちゃうと、もっと聞きたくなっちゃいます」
加蓮「もっと、って言われても」ウーン
加蓮「…………」ウーン
藍子「あ、すみませーんっ。ええと……何にしましょう?」
加蓮「え? いや呼んだの藍子でしょ。んー、じゃあサンドイッチ」
藍子「それなら私も、同じ物で。お願いしますね、店員さん」
加蓮「んー……」
加蓮「…………」ウーン
藍子「…………♪」ワクワク
加蓮「…………」ンー...
藍子「…………♪」ワクワク
藍子「あっ、店員さん。ありがとうございます。はい、加蓮ちゃん」
加蓮「ありがと。……お肉が入ってる。ちょうど食べたい気分だったんだよねー」モグモグ
藍子「いただきますっ。……うんっ。今日も、いつも通り美味しいです!」
加蓮「あ、それだ」
藍子「へ?」モグモグ
加蓮「……とりあえずほっぺたにトマトの汁がついてるよ。ほら」フキフキ
藍子「きゃっ。……あはは、ありがとうございます。ゆっくり食べなきゃ……」モグ
加蓮「でさ。それでこう……いつも通りなんだよね」
藍子「…………?」モグ
加蓮「いつも通りなの。Pさんがお仕事をくれて、ちょっとだけサプライズがあって……さすがに南の島で、っていうのはびっくりしたけどさ」
加蓮「水着の撮影なんて大丈夫かな、って言ったら、Pさんが――」
加蓮「ごほんっ。『加蓮ならきっと大成功間違いなしだ!』……なんて。Pさんの方が私以上に盛り上がってるんだよ」
加蓮「あ、大丈夫だ、って……それ見てたら思った。緊張っていうか、プレッシャーっていうか。そういうのがぜんぶ、すとんって落ちちゃった」
加蓮「失敗しそうになったり難しいことがあっても、頑張れば成功するってことは……もう知ってるし。それももう、いつも通り」
加蓮「あ、でも今回はスケジュールかなり無理したって言ってたっけ。撮影時間とか長かったし……私の体力とか、体調とか」
藍子「…………」テヲトメル
加蓮「それでもいつも通りなんだ。お仕事をもらって、レッスン頑張って、本番迎えて。ぜーんぶ、もう慣れたこと」
加蓮「――でも私が見た景色は、いつも通りなのに、ぜんぜんいつも通りじゃなかった」
加蓮「海と、夕焼けと……で、そこにいる水着の私とPさん」
加蓮「ぜんぶがいつも通りじゃなくてさ。それを少し上の方から私が見下ろして笑ってるんだ」
加蓮「こんな世界があったんだ……って」
加蓮「あははっ。変でしょ? 私を見て私が笑ってるんだよ」
加蓮「いつも通りの先に、こんな世界があったんだな、って」
加蓮「もしかしたら私は、ぜんぜんいつも通りなんて知らないのかもしれなくて」
加蓮「でもさ、冷静になってまた考えるの」
加蓮「ああ、また頑張れた、きらきら輝けたんだ、って。そこはやっぱり、いつも通りなんだよね」
加蓮「うん。そんな感じ。……訳分かんない話でごめんね?」
藍子「…………」モグモグゴクン
藍子「ううん。加蓮ちゃん。すてきなお話を聞かせてくれて、ありがとうございます」
加蓮「えーなにそんな大げさな。そんな神妙な顔されたら私まで変な顔になっちゃうよ……」
加蓮「……また、いろんなところに行きたいなぁ。世界には、見たことも……想像もできない場所が、きっといっぱいあるんだろうし」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「でも今日はここできゅーけい。疲れちゃったもんね。藍子とだらだらするって決めたんだー♪」モグモグ
藍子「……ふふっ。もうっ。一緒に行こうって誘いたかったのに」
加蓮「うん、いつかまた誘ってね」
□ ■ □ ■ □
加蓮「ふぁぁ……」
藍子「眠たいですか?」
加蓮「ちょっとだけ……。クーラーに当たりっぱなしだと、やっぱり……」
加蓮「寝てても置いてかないでよー?」
藍子「そんなことしませんよ……」
加蓮「ねむー。……念願の水着のお仕事はやったし、またしばらくは軽めなのをポンポンってやっていく感じになるのかな」
加蓮「あ、そーだ、トラプリでLIVEに出てポジパに宣戦布告しなきゃ」
藍子「加蓮ちゃん達のステージ、楽しみに待っていま――宣戦布告!?」
加蓮「せっかく私まで衣装をもらったんだからさ、ほら、そうなったら、ね?」
藍子「ね? じゃないですっ。LIVEなら一緒にやりましょうよ! 勝負じゃなくてもいいじゃないですかっ」
加蓮「駄目?」
藍子「だめ……とかじゃ、ないですけれど……でも……ううっ」
加蓮「ふふっ。しょーがない。優しい優しい藍子ちゃんがそこまで困るのならやめておいて差し上げよう」
藍子「ほっ」
加蓮「うむうむ」
藍子「LIVEの後は、プールで一緒に遊びましょうね」
加蓮「お、いいねそれ」
藍子「未央ちゃんや茜ちゃんも、加蓮ちゃんと遊びたいって言っていましたよ」
加蓮「……それ私がぶっ倒れるルート一直線だよね?」
藍子「あはは……」
加蓮「夏はほら、すぐバテちゃうし……クールダウンとかすっごく気を遣わないといけないんだし」
藍子「言われてみれば。加蓮ちゃん、大変そうです」
加蓮「大変大変。藍子も一度、この身体になって経験してみるといいよ。どんだけ制約多くてウザいか――」
加蓮「……入れ替わりとかうちの事務所だと普通にありそうだから今のナシで」
藍子「実際に起きても不思議じゃありませんよね……」
加蓮「ホントホント」
藍子「あ、でも、加蓮ちゃんが私の体になったら、自由に飛んだり走れたりするのかな?」
加蓮「それはー……どうなんだろ。いや、私の身体だって走れない訳じゃないんだよ? ……どうなんだろうねー。思いっきり走り続けてみたいような、そうでもないような」
藍子「Pさんに相談しちゃいましょうか」
加蓮「いくらなんでも身体を入れ替えさせてっていうのはおかしくない? や、それに乗っちゃうのがPさんだよなぁ」
藍子「最近は、Pさんの方からノリノリで提案してくれますから」
加蓮「夏だから色々やろう! ……おっかしーなー、春も、その前の冬にも同じこと言われた気がするよ? 四季ぜんぶで言われてる気がするんだけどね」
藍子「ふふっ」
藍子「私と加蓮ちゃんの体が入れ替わったら、私は加蓮ちゃんが見ている景色を見ることになるんでしょうか?」
加蓮「どうなんだろ。でもさ、身長同じでしょ? 事務所同じでしょ? なんか……入れ替わる必要ってなくない?」
加蓮「あ、周りのみんなをびっくりさせられるか」
藍子「私の方がびっくりしちゃいます! やめて~~~っ!」
加蓮「あははっ」
加蓮「藍子の身体になったらやってみたいことかぁ。他に何かあるかなー」
加蓮「…………」
加蓮「…………パフェを食べまくる」
藍子「太っちゃう!?」
加蓮「ちょっとくらい太っていいと思うんだけどなぁ」
藍子「それなら加蓮ちゃんだってそうじゃないですか。同じ体重なんですから」
加蓮「身体的に無理でーす。うん、やっぱりPさんに提案してみよっかな。1回でいいからポテトを飽きるまで食べてみたかったんだー♪」
藍子「ええぇ……」
加蓮「む、何その顔。ポテト美味しいじゃんポテト」
藍子「ポテトは美味しいですけれど……。えー……」
加蓮「しょーがない。入れ替わった後のことは、入れ替わった後に考えよっか」
藍子「そうしましょうっ。その時になったら、きっといいアイディアも浮かぶと思いますから」
加蓮「…………」
加蓮「……入れ替わった後のことは入れ替わった後に考えるってどゆこと?」
藍子「……さあ……?」
□ ■ □ ■ □
加蓮「帰ろっか」
藍子「はーい」
加蓮「ん~~~~~っ、っと」ノビ
加蓮「綺麗な夕焼けだね。……比べる訳じゃないけど思い出しちゃうなぁ。海の時のこと」
藍子「ふふっ。Pさんが熱弁していましたよ。加蓮ちゃんが、すっごく感動していたって」
加蓮「むぅ。あのアイドルバカめ、また余計なことを」
藍子「都会の景色は……綺麗に見られるようになりましたか?」
藍子「それとも加蓮ちゃんは、もう見飽きちゃってるのかな……」
加蓮「さあね。知らないこととかホントいっぱいあるし。行ったことない場所なんていくつあることか」
加蓮「でもこのお店から見る夕焼けは……もう見慣れちゃった」
藍子「あはっ。やっぱりですか?」
加蓮「でも見飽きないよ。藍子の顔だって、ずっと見てるけど飽きないし。きっと同じだよ」
藍子「飽きないでいてくださいね。加蓮ちゃんに誘われなくなったら、寂しくなっちゃいますもん」
加蓮「アンタには他にも友達がいっぱいいるでしょー?」
藍子「加蓮ちゃんは加蓮ちゃんしかいませんっ」
加蓮「そっか」
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
投稿が遅れて本当に申し訳ありません。
また、第25話にて仄めかした「夏に向日葵畑に行くお話」は執筆速度と構成の都合から実現できそうにありません。こちらも申し訳ない……。
夏のお話で1つやりたいことは用意しています。出来る限りやりますので、またよろしくお願いします。
あら向日葵、残念
乙ですん
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