提督「Man After Man」 (91)



工廠にて。

ダンボールに入ってる物体を見つけて、私はぎょっとした。


提督「妖精さん、これはなんだ?」

妖精「ハイキブツデス」

提督「廃棄物……?」

妖精「ゴミデス」

提督「私にはペンギンに見えるが」

妖精「シッパイペンギンデス」

提督「この白いもこもこしたのは?」

妖精「オナジハイキブツデス。ソウビカイハツニシッパイスルト、タマニデル」

提督「なんと。初耳だぞ。じゃあこれの他にも居るのか?」

妖精「イネーデス。ソイツラ、シバラクスルト、キエチマウデス」

提督「そんな知られざるホラーがあったとは……」


驚愕する。

しかし、そもそも妖精などというものが居るのだから気にしたら負けだろう。

私はダンボール箱の中で蹲ってるペンギンを持ち上げた。



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提督「お前、名はなんというのだ?」

ペンギン「クア」

提督「む、喋れないのか……?」

ペンギン「クア……」


妖精とは意思疎通ができるのだから、この生き物とも出来ると思ったが無理なようだ。

私はペンギンの傍らに居た白いもこもこを見た。


提督「お前はどうだ? 私の言っていることが分かるか?」

もこもこ「……」

提督「……」

もこもこ「……」

提督「……むう」



駄目らしい。

私はペンギンらしき生き物をダンボールの中に戻した。

謎の生き物に興味を惹かれた私は、そいつらを観察することにした。

妖精さん曰く、しばらくすると何処かに消えてしまうらしい。その瞬間を見てみたかったのだ。


提督「……」

ペンギン「……」

もこもこ「……」


じいっと視線を合わせること30分。

どこにも消える様子はない。ダンボールの中で蹲っているだけである。

そろそろ行かなければ。そもそもここへは烈風の開発に成功したとの報告があったから寄っただけで、ここまで時間を潰すつもりは無かったのだ。

諦めて、私は工廠を後にしようと踵を返した。

と。

がさがさと音がした。



提督「ん?」

ペンギン「クエ……」

もこもこ「……」


振り返ると、ダンボールが倒れてその中身たちが転がっていた。

そいつらは立ち上がると私の傍に寄って来た。というか白いもこもこは、ふわふわと埃みたいに浮いている。

私は後ずさりした。

ついてくる。

さらに距離を取るが。


ペンギン「……」

もこもこ「……」

提督「なんでついてくるんだ」


ペンギンはペタペタと、白いもこもこはふわふわと私の後についてくる。

私は近くの妖精さんに尋ねた。



提督「妖精さん、これはどういうことだ?」

妖精「シラネーデス。ホットケバキエルデス。イソガシイデス」


つまりは邪魔するなと言ってくる。

ほっとけば消える……まあ妖精さんがそういうのなら、そういうものなのだろう。

私は気にせず工廠を後にし、執務室へと戻ることにした。

その道中。

白いもこもこは私の傍を漂うだけだが、ペンギンは私の歩幅についてくることができず、随分と遅れていた。

後ろを振り返れば、私に追いつこうと必死にぺたぺた走るペンギンの姿が見える。

あ、転んだ。


ペンギン「クア……」



生まれたてだからだろうか?

ペンギンの足元はおぼつかなく、何度も転んでは距離を縮めようと追いすがって来る。

その姿を見て、私は刷り込みという言葉を思い出していた。

もしかして私を親だと思っているのだろうか?

また転んだ。


ペンギン「クエ……」


しかも目に涙まで浮かべている。

仕方なく、私はペンギンを脇に抱えて執務室へと戻った。



加賀「随分遅かったわね……ってなんです、それは?」

提督「わからん」


執務室に戻るや否や、加賀の発した疑問は当然と言えた。

しかし私も分からないのでどう言いようもない。とにかく


提督「ほっとけば消えるらしい。妖精さんがそう言っていた」

もこもこ「……」

ペンギン「クエ」

加賀「……どうして提督に懐いてるの?」

提督「知らん。勝手についてきたのだ」

加賀「はあ……」



3日後

謎の生命体たちは消えなかった。

相変わらず私の後をついてくるので、寝食はそいつらと共にしなければならなかった。


加賀「貴方達はいったい何を食べているの?」

もこもこ「……」

ペンギン「クエ」


執務室にて、加賀が疑問を口にした。

この3日間こいつらが何かを口にしたところを見たことが無かったからだろう。

試しに人間の食事を与えたが、お気に召さないのか見向きもしない。


ペンギン「クア……」


もこもこを頭の上に乗せながら、ペンギンが鳴いた。

目がウルウルと潤んでいて、心なしか悲しそうに見える。



加賀「困ったわね……」

提督「放っておけ。そのうち勝手に消えるだろう」

加賀「提督。一度生き物を飼うと決めたのなら、きちんと責任を取らないといけないわ。子供の時教わらなかったの?」

提督「飼っているつもりはない」

加賀「貴方はこの子たちの親代わりなのよ。無責任なことをするのは感心しないわね」


何故私が怒られなければならないのか……

だが本当に空腹というのなら、気の毒ではある。

今この日本は戦時中で、海外からの食料供給は途絶えている。それが食料自給率の低かったこの国にとって大打撃だったのは言うまでもない。

故に、私も空腹の辛さというのは身に染みて分かっている。


提督「お前たちは廃棄物らしいが……ふむ……」



そこで私はふとひらめいた。

こいつらの成り立ちを考えれば……と工廠の資材置き場に向かった。

果たしてそれは予想通りで、資材を見るや否や、謎の生物たちは一目散に飛びついた。

もしゃもしゃ食べている。とは言っても損失は微々たるものだった。具体的に言うと全ての資材が小数点以下で減ったぐらいだ。

省エネだ。まあ身体が小さいのだから当然と言えば当然か。


もこもこ「……」ゲフ

ペンギン「クエ」ゲフ


どうやら本当に空腹だったらしい。


提督「よかったな」

もこもこ「……」

ペンギン「クエ」


腹が膨れてご機嫌そうに見える。

ともあれ、これで加賀にどやされずに済むだろう。

かわいい



1週間後 


雷「こらー待ちなさーい!」

電「雷ちゃん、追いかけちゃかわいそうなのです」

ペンギン「クエー!」

暁「響ー、いくわよ! それー!」

響「あ、司令官の頭に……」

もこもこ「……」


執務室は託児所と化していた。

私がペンギンと綿菓子を連れ歩いているという噂が鎮守府に広まっていた。

もの珍しさからか、その謎の生物を一目見ようと人の往来が多くなったのだ。それは駆逐艦に顕著に見られた。

私は帽子の上に乗ったもこもこを響に投げ渡した。



響「司令官、この子の名前はなんと言うんだい?」

提督「決めてないな。お前たちが勝手につけていいぞ」

響「それは駄目だよ。名付け親は司令官じゃないと意味がない」

雷「そうよ! 名前ってね、自分を表すとても大切なものなの! つけてあげなきゃこの子がかわいそうだわ!」


ようやくペンギンを掴まえた雷が、響に同意してくる。ペンギンは雷の胸の中でばたばたと暴れていた。

正直どうでもよかったのだが、どうにも艦娘というのは名前に拘るらしい。きっとそれは彼女たちの性なのだろう。

私はしばし悩んだ後言った。


提督「ペン吉と、もこ美だ」

暁「司令官……もうちょっと良い名前はないの? 流石に安直すぎるわ」

電「なんの捻りもないのです……」

雷「ペン吉……この子オスなの?」

響「もこ美ってことは、君は女の子だったのかい? 確かにこのリボンは似合ってるね」


知らん。

と、ノックの音が響いた。私は入れと促した。



長門「提督、失礼する」


がちゃりと扉が開いてやってきたのは長門だった。

前回の任務の報告書を提出に来たらしい。2,3事務的な会話をして要件を終える。


提督「ところで、いいところに来たな、長門」

長門「なんだ?」

提督「この駆逐っ子達と謎生物を引き取ってくれ。うるさくて敵わん」

長門「それは命令か?」

提督「命令だ。今日は暑いからな、間宮でアイスでも買ってやれ。私につけて構わない」

長門「提督の命とあらば仕方ない……さあお前たち、間宮に行くぞ。私に続け!」


はーい! と元気よく口にする第六駆逐隊の面々。

嵐は去り、後には静けさだけが残った。

私はようやく一息ついた。

ながもんうれしそうですね

面白い
はよ



1か月後 

謎の生物は相変わらず鎮守府に居ついている。

食費も手間も全然かからないが、こいつらの目的が分からない。

ただ私の傍を離れようとしたがらないのは確かだ。暴れたり叫んだりしないため、邪魔にはならないが。


明石「へぇーまさかホントに居るとは思いませんでした」


執務室に入るや否や、明石はそう言った。


提督「なんだやぶから棒に」

明石「提督の頭に乗ってるものですよ。まだ居るなんて珍しいですね」

提督「もこ美か」

明石「もこ美……?」

提督「もこもこしてるだろう」
 
明石「なるほど。分かり易くていいですね」


だろう。

どうやら工廠に籠っていた明石は、遅れて噂を聞いてやって来たとのことだった。

私は椅子の隣ですやすや寝ていたペン吉を机の上に乗せた。




提督「明石はこいつらがなんなのか知ってるのか?」

明石「そりゃー知ってますよ。工廠にいるとしょっちゅう見かける憎たらしい奴です」

提督「憎たらしい?」

明石「だってこいつら開発や改修の失敗の際に出る廃棄物ですもん」

提督「それは私も妖精さんから聞いて知っているが……廃棄物とはいえ、いったいなんなのだこれは? 明らかに生きてるじゃないか」

明石「さあ……私たちは失敗ペンギンとか呼んでますけど、実際のところよくわかんないんですよねぇ。いっつも目を離すと消えちゃうんです。
   ゴミが溜まらないのはありがたいんですけど」

提督「こいつらはどこに消えるんだ?」

明石「妖精たちの間では海に帰るって言われてますね。迷信なのか、実際に見たのかは分りませんが……。それ、触ってもいいですか?」

提督「ああ構わん、好きにしてくれ」

明石「よいしょっと。意外と軽いですね」

ペン吉「クエ!?」


明石は寝ていたペン吉を無造作に持ち上げて、無遠慮にベタベタ触りだした。

ひっくり返し、でんぐり返し……羽を広げたり、口ばしの中を覗いたり。

ペン吉は暴れたが流石に艦娘の力には敵わなかったのだろう。されるがままだった。



明石「そっちの白いのもいいですか?」

提督「ほれ」

もこ美「!?」


頭の上に乗っているもこ美を渡す。

明石は容赦なくもこもこを撫でくり回した。このリボンっぽいの何? とか呟いている。

しばらくして……


明石「んー……わかりません!」

提督「そうか」

明石「何かに使えるかなーって思って見に来たんですけど、やっぱりただの廃棄物ですねぇ。一応生きてるみたいですし、リサイクルは現実的に難しいかと」


さらっと恐ろしいことを言ってくる。



明石「では提督、要件は済んだので私はこれで!」

提督「ん? それだけなのか?」

明石「ああそうだった。提督、資材を溜め込むのも良いですけど、出来れば私のほうにも回して下さいね! それでは!」


工廠での作業が忙しいのだろう、明石は世話しない様子で去っていた。

後にはぶるぶると怯えながら私に庇護を求める謎の生物が二匹。

それを眺めながら、半信半疑に思う。


提督「海に帰る……ねえ」

海還りかな?

Man after Manって時点で碌な想像が付かねぇ



半年後 

ペン吉ともこ美は鎮守府にとってすっかり馴染みの存在になっていた。

彼らも時を経て成長したのだろうか。普段は親元?である私の傍を離れようとはしなかった彼らも、今ではよく外を独り歩きする。

独り歩きというよりは、駆逐艦達に連れまわされていると言ったほうが正しいかもしれないが。


榛名「微笑ましい光景ですね」

提督「なにがだ?」

榛名「ふふ……提督も見ますか?」


楽しそうな笑みを見せる榛名につられて、私は窓の外を眺める彼女の傍へと寄った。

外を見やれば、そこには駆逐艦達がビニールボールできゃっきゃっと戯れる姿があった。




吹雪「ペン吉ちゃん行くからね、それ!」

ペン吉「クエー!」

夕立「おおーペン吉やるっぽい! じゃあ如月、行くっぽい!」

如月「やあん夕立ちゃん強い……もこ美ちゃん、それっ」

もこ美「……」

睦月「わわっ、すごいタックル! ってふぎゃっ」

時雨「顔面セーブとはやるね、睦月」

夕立「あはは、ただ取れなかっただけっぽい!」

睦月「もー酷いよもこ美ちゃん!」


どうやらビニールボールを落とした人が負け、という蹴鞠のような遊びをしているらしい。

そんな彼女たちを見守るように、周りでは他の艦娘達が談笑をしている。

なるほど確かに微笑ましい光景である。


榛名「……」

 
その風景を眺める榛名の瞳はとても優しい。




提督「前から思っていたんだが、お前たちはあの謎生物を妙に気に入っているな」

榛名「2人ともかわいいですからね。ぺたぺた歩いている姿なんて、なんだかぬいぐるみが歩いているみたいで持ち帰りたくなっちゃいます」

提督「なるほど、かわいいからか……ふーむ」

榛名「提督、なにか……?」

提督「いや。あいつらは元を辿ればお前たちの装備から生まれた。なら艦娘と相性がいいのは当然かと思ったのだ」

榛名「……」

提督「いたたたっ!? 榛名、何故抓る?」

榛名「もうっ、提督は女心というものをまったく理解してません。女の子は単純にかわいいものが好きなだけです」

提督「そういうものか」

榛名「そういうものです。提督はペン吉ちゃんたちに対してちょっと冷たいと榛名は思います」

提督「半年も一緒に居るのだ。私とて愛着はあるつもりだ」

榛名「いじわるしたら駄目ですからね?」


別にいじめているつもりはないが……

再び駆逐艦達に目を向ける。ボールを逃したのか、如月が尻餅をついてる姿が見えた。

出来ることならこの時間を長く共有していたかったが、そういう訳にもいかない事情があった。

気持ちを切り替えて、私は口を開いた。



提督「北方海域がそろそろ危ないそうだ」

榛名「! そうですか……」

提督「こちらの通商物資がことごとく破壊されてるらしい。それどころか主要なシーレーン自体を分断されて、北方海域は孤立しつつある」

榛名「私たちは何もできないのですか?」

提督「難しいな。我々の守る南西諸島海域からは離れすぎているし、ここは南西の最前線だ。こちらも自分の事に手一杯で手を回す余裕がない」

榛名「やはり戦線を拡大しすぎたのがまずかったのでしょうか……」

提督「榛名」

榛名「……ごめんなさい。失言でした」

提督「なに、そう心配するな。大本営は北方近辺の鎮守府から艦娘を接収してことに当たっているそうだ。そう易々と落ちはしないだろう」

榛名「そうですね……どんな状況であれ、私たちは出来ることをするしかありません。今は私たちの仲間が立て直してれることを信じます」

提督「うむ……」



夜。

こんこんと私室をノックする音が聞こえて、私は扉を開いた。


ペン吉「クエ」

もこ美「……」


謎生物たちが、我が物顔で部屋に入って来る。

別段不思議な事じゃない。こいつらが現れた初日から、私の部屋は彼らの寝床となっていた。

大方、駆逐艦に解放されて帰ってきたのだろう。


ペン吉「クア、クア」


ばたばたと羽をばたつかせて、ペン吉がベッドに上がろうとしている。

私はその身体を持ち上げてやると、ベッドに寝転がって読みかけの本を開いた。



提督「ええと、どこからだっけ……」

ペン吉「クエ」

提督「そうそうこの海図のページからだったな」


この生き物たちを相手に、海戦術書の朗読を始めたのは何時頃からだったか。

私が基本戦術の見直しをしようと本を開いたのがきっかけだったと思う。その内容を独り言のように呟いていると、こいつらはやけに興味を示したのだ。


提督「そう……艦隊は基本6艦で編成される。これは7艦以上になると極端に深海棲艦に察知されやすくなるからだ。その理屈はよくわからんのだがな……」

提督「艦隊は旗艦を基準に陣形をとる。陣形は全部で5つだ。単縦陣、複縦陣、輪形陣、梯形陣、単横陣。それぞれの特色は……」

ペン吉「クエ?」

提督「うん? そう、この図が単縦陣。ほら、縦に一直線だろ。一番シンプルで分かりやすい」

ペン吉「クワ?」

提督「それは輪形陣だな……」



果たして言葉の意味を本当に理解しているのかどうか疑問ではあるが……

イメージは掴めているのではないかと、私は思っている。

正体不明の廃棄物とはいえ、こいつらの原典を考えれば艦娘に縁のある生き物なのは間違いない。だから海戦の内容にも興味があるのだろう。


もこ美「……」

提督「うーんそうだな。まあ……困ったら複縦陣にしとけば問題ない……」

ペン吉「クエ……」


話しているとだんだんと意識がまどろんでくる。

この時間を私は嫌いではなかった。この時だけは煩わしいことを考えずに済む。

そして気が付けば、私はいつものように意識を手放しているのだった。

クエ



1年後 

北方海域が敵の手に落ちた。

海軍は完全撤退。深海棲艦は体勢を立て直すためにしばらくは北方海域に留まると考えられていたが、勢いのまま進軍してきた。

狙いは恐らく本土侵攻だろう。大本営は深海棲艦の本土上陸を防ぐため、再び各鎮守府から艦娘の強制動員を行った。

もちろんこの鎮守府もその対象に含まれている。

別れがあった。もしかしたら今生になるかもしれない別れが。


提督「お前の場合も、そうなのか?」

ペン吉「……」


このペンギンの相棒、もこ美も姿を消していた。

ほっとけばいつの間にか消えると言われていたが、本当に予兆も無く忽然と姿を消してしまった。

私は空気を入れ替えようと窓を開けた。




と。

ペン吉が私の足に寄ってきた。その意味を察して、私はその身体を持ち上げて窓の手すりに置いてやる。


ペン吉「クア……」


ペンギンは空を眺めた。晴れ渡る空に浮かぶ真っ白い雲を。

その瞳はうるうると潤んでいた。


提督「もしかして、もこ美は雲になっちゃったのかもな。あいついっつもふわふわ浮かんでたもんな……」

ペン吉「ククア」

提督「海に帰るとは聞いていたが、あの白いもこもこだ。海よりは空のほうが似合うと思わないか?」

ペン吉「クゥ……」

提督「ペン吉、泣きたいときは我慢したら駄目だ。今のうちに精一杯悲しんでおけ。そういう気持ちを抱えたまま出撃すると、戻ってこれなくなる」



口にしてからはたと気づいて、私は苦笑した。

今のはここ最近何度も艦娘達に伝えた言葉で、このペンギンにはまるで関係のない話だった。

深いため息をついて、手すりにもたれ掛かかる。


提督「提督という立場上、私は弱音を吐くことが許されなくてな……これがなかなかつらい」

ペン吉「クア?」


ペンギンは首を傾げている。

私は空に目を向けた。

今回の強制動員で鎮守府の3割以上の戦力を持っていかれた。

加えて今後は激戦区である北方へ物資が送られるため、後方支援は殆ど期待できなくなる。


提督「軽巡重巡はおろか、一航戦二航戦の航空戦力に、練度の高い長門型、金剛型戦艦まで……。
   現状でさえ手一杯だったのに、この戦力でいったいどうしろというのだ? ふふ……まったく笑い事ではないぞ」



南西海域における均衡は容易く崩れるだろう。

これからは今ある物資を潰していくジリ貧の戦いになる。しかしこれ以上戦線を下げることも許されない。

こうなればただの消耗戦だ。近いうち、私は部下に死ねと命じなければならなくなる。


提督「しかし最前線の戦力をここまで奪うとは、本土もほとほと切羽詰まっていると見える……
   ペン吉、お前が何者なのかはわからないが、お前は賢い。この鎮守府を包む不穏な空気が分かるだろう」

ペン吉「クエ……」

提督「去るのなら今が一番だ。きっともこ美はそれを分かってたんじゃないかと私は思う」


誰かに言えば間違いなく笑われるだろうが、私は確かな知性をこの生き物に感じていた。

ペン吉が肩の上に乗って来る。


ペン吉「クエ」

提督「なんだ、ついてくるのか? もうお前に読み聞かせてやる本はないんだぞ?」

ペン吉「クゥ」

提督「ふふ……まあ好きにすればいいさ。我々とて、むざむざやられるつもりはない」

クエクエ

おつクエ



5年後 

日本はついに深海棲艦の本土上陸を許した。

北方海戦に続いての敗走は国民にとって大きな衝撃となり、多大な混乱を招いた。

連日報道されるニュースは避難地域の移動や深海棲艦に遭遇した際の心構えなど、不安を煽るものばかりで。

戦争の主導権が深海棲艦へと渡ったのは、誰もが知ることとなった。


吹雪「この鎮守府の放棄……ですか?」

提督「ああ。正確に言うならこの南西諸島海域から撤退ということになるが……」

吹雪「そうですか……」


大本営から通達された内容を簡潔に伝える。

しかし吹雪の反応は淡白なもので、私は思わず聞き返した。




提督「……それだけか?」

吹雪「それだけとは?」

提督「いや、もっとひと悶着あると思っていた」

吹雪「私だってもう子供じゃありません。ここの現状も理解してますし、喚いてどうにかなる問題じゃないのは分かってます……」

提督「そうか……」


5年の歳月は、一人の少女の考えを変えるには十分な時間だったのだろう。

いや、歳月だけではない。この鎮守府に身を置けば、良くも悪くも考えを改めざるを得まい。

今や彼女の眼には、未熟だった頃の色合いは見えなかった。



吹雪「司令官……私たちは死に物狂いで戦ってきました」


ぽつりと、吹雪は遠くを見るように呟いた。


吹雪「睦月ちゃんや如月ちゃん、翔鶴さんに扶桑さん。他にもたくさんの人たちが沈んでいきました……」

吹雪「それでも戦ってこれたのは、私たちが皆の希望だったからです。
   一度も深海棲艦の侵攻を許したことのない南西の守護神だなんて、そんな大袈裟な名前まで背負って……
   この鎮守府を守り続けることが、多くの人の希望になると信じたから皆命を捧げたんです」


鉄壁の要塞として、この鎮守府の名は知れ渡っている。

南西の守りの要だと、多くの人の希望を一心に受けてきた。この鎮守府がある限り、南は安全だと。

だが実際は見掛け倒しの張りぼてに過ぎない。その張りぼてを倒さないために、多くの艦娘の屍が後ろに横たわっている。



提督「私を恨んでいるか? 皆を死地に送った私を……」

吹雪「私たちの敵は深海棲艦です。深海棲艦を恨みこそすれ、司令官を恨むのは間違ってます……」


数年前とは違う返答だ。

それを本心だと思いたいが、彼女の胸中が複雑なのは間違いない。


吹雪「皆の希望を、この鎮守府を捨てるということがどういうことなのか、私は分かっているつもりです。そうしなければならないほど、状況は逼迫してるんですね?」

提督「ああ……私たちはもう後がない。決戦は本土で行われるだろう」


告げると、吹雪は押し黙ってしまった。


提督「……吹雪?」

吹雪「ごめんなさい。私、悔しくて……情けなくて……」


涙を見せまいと、彼女は私に背を向けた。

その背中にかける言葉を、私は持っていなかった。



夜。

深夜になってもペン吉は部屋に戻って来なかった。

星明かりを頼りに波止場へと向かう。ペン吉はそこに居た。黒く揺れる海を眺めている。


提督「ペンギンてのは夜目が効くのか?」

ペン吉「クアー……」


振りむいたペン吉は目に涙を浮かべていた。それが別れの涙だと言うのは不思議とわかっていた。

私は隣りに立って呟いた。


提督「しかし5年か……随分と長い付き合いだったな。お前とて、本当はここまで長居するつもりは無かったんだろう?」

ペン吉「クア……」

提督「みんな感謝している。お前が居なかったら、この鎮守府はもっとギスギスしていただろうからな」



特にここ4年は多くの仲間が沈み、その軋轢があちこちにあった。

そんな中緩衝材の役割を果たしてくれたのがこのペンギンだった。そしてペン吉もそれを理解して動いている節があった。

共に苦楽を乗り越えてきた。鎮守府の皆はこのペンギンを家族だと思っている。それは私も同じだ。だが……


提督「きっとお前には本当の仲間がいるんだろうな。そしてそれは私たちではない……」

ペン吉「……」

提督「でも忘れないでくれ。私たちは、お前を家族のように思っていた。お前も同じように思ってくれていたと信じている」

ペン吉「クア……クア―!」

提督「おっと……」


飛びついてきたペン吉を受け止める。

私は胸の中でクワクワ泣き喚くペンギンを撫でた。思えば私はこいつに親らしいことをしてやれなかった気がする。

夜中に本を子守歌代わりに聴かせてやったぐらいだろうか。



提督「結局お前がなんなのか、さっぱりわからなかったな。ふふ……まあ今更の話だな」


失敗ペンギンだの廃棄物だの言われていたが、今となってはどうでもいいだろう。

ただこいつが泣き虫なのは間違いない。よく目をうるうると揺らしていたのを覚えている。

この泣き虫をこのまま行かせて大丈夫だろうかと、今更ながら親心が湧いたが、それはお節介というものだ。

私はペン吉を離して地面においてやった。


提督「さ、行くんだ。この鎮守府は深海棲艦の手に落ちる。もこ美に会ったらよろしく伝えてくれ」

ペン吉「クワ……」


ペン吉は頷いた。

それから最後に私を一目見て、暗い海の中へと飛び込んでいった。


提督「海に帰る……か」


妖精の言ったことは本当だったのだ。

静寂に揺れる波を見つめながら、私はしばし海を眺め続けていた。



後日、私たちは長年守り抜いた鎮守府を放棄した。

その際に、全員で誓いを立てた。また皆の眠るこの海に戻ってこようと。

その誓いは、遠い未来で叶うことになる。



50年後

半世紀を経て、すべてのものが変わってしまった。

荒れ果てた不毛の地に、崩れ倒れたビルが折り重なっている。

空は奇妙な色に染まっていた。漂う汚染物質が光を折り曲げて大地を怪しく照らしている。

戦争末期。人類は全ての艦娘を失い、深海棲艦に対する矛と盾を失った。当然ながら制海権は喪失し、戦いは陸地へと移行した。

しかし人類の兵器では深海棲艦に傷一つ付けられない。彼らはただ蹂躙される存在へと成り下がり、最期の切り札を切った。

結果として大地は尽く汚染され、深海棲艦は海に去った。対価として人類は破滅の道を辿り、後には廃棄物だけが残った。

そう、廃棄物だけが。


もこもこ「……」

ペンギン「クア……」


一羽のペンギンらしき生き物は、涙を流した。

それが荒れ果てた大地を嘆いたものなのか、それとも別の感情なのかはわからないが。

そのペンギンと白いもこもこの背後には多くの仲間が居た。

彼らには知恵と知性があった。そして次の地上の支配者が自分たちだと云うことを理解していた。



100年後 

彼らは急速に文明を築いていった。

旧支配者の英知を礎に、独自の文明を発展させ、社会を築き、彼らは人間に代わる新たな人類となった。

彼らは理解していた。

いずれこの大地が浄化された時、深海棲艦が再び地上を攻めてくるということを。

そして夢を見ていた。

我が物顔で海を支配する深海棲艦を打倒し、母なる海に帰ることを。

しかし今はその時ではない。

やがて果たす大願を胸に、新たな人類は爪を研いでその時を待つ。




太陽の届かない海底。

沈んだ軍艦は敗北の夢を見続けている。もう何百、何千年経ったのか覚えていない。

ふと声を聴いて、その魂は歓喜に震えた。目覚めの時が来た。人類が再び帰ってきたのだ。

もう一度海を取り戻すことを夢見て、その魂は戦場へと赴く。





時を経て、人類と深海棲艦の戦いの火蓋が再び切って落とされた。

この戦いが一体何度繰り返されて来たのか。それはこの星だけが記憶している。

おしまい

なぜこのようなSSを書こうと思ったのか、その動機を思い出せません……
また変なこと思いついたらこのスレに書くかもしれないです


こういうの好き


面白かったよ

気がついたらすごいスケールで話が展開してて面白かった

乙乙
面白かった

乙でした。

工廠から今度は、毛のない猿が出てくるんですかね……

唐突にMan After Manになったな

タイトル通りだけど

乙。面白かったよ



卯月「司令官弱すぎるぴょん」



提督「ぐあああああ」

卯月「ぷっぷくぷぅ~、司令官弱すぎるっぴょん」

提督「ば、馬鹿な。腕相撲で卯月に負けるなんて……」

卯月「司令官は艦娘を舐め過ぎだぴょん。いくらうーちゃんがかわいくてプリチーな駆逐艦でも、腕相撲でただの人間に負けるなんてあり得ないぴょん」

提督「し、しかし私は鳳翔と大鯨には楽勝で勝ったんだぞ?」

卯月「そんなの接待プレイに決まってるぴょん。お酒の席で恥知らずにも艦娘と力比べなんて事をやりだした司令官の顔を立てただけぴょん」

提督「そ、そうなのか? 鳳翔、大鯨!?」



鳳翔「そ、それは。卯月ちゃん、もう少し言葉を選んで……」

大鯨「ほ、ほら卯月ちゃん、お酒飲みすぎですから。もうやめましょう?」

卯月「2人とも~もっとはっきり言ってやるぴょん。司令官弱すぎぃ~って。あっはははは~」

提督「卯月、もう一度勝負だ」

卯月「えぇ~うーちゃんアルハラはお断りでっす。どうしてもやりたいなら相応のものを要求するっぴょん」

提督「私に勝てば残りの酒は全部お前にやる」

卯月「さっすがしれいかぁ~ん。話が分かるぅ~」

提督「レディー!」

卯月「ゴーぴょん!」



提督「ぐあああああ」

卯月「ぷっぷくぷぅ~」

提督「ま、また負けた……」

卯月「だから言ったぴょん」

提督「い、いや待て。おかしい。以前金剛と榛名と力比べをした時のことだ。もちろんこういう酒の席の出来事じゃない。その時も私は圧勝だったぞ! あいつらは戦艦だ、力は駆逐艦のお前よりずっと上のはず!」

卯月「そんなの猫被ってるだけぴょん」

提督「それだけじゃない。私はよく艦娘から瓶の蓋を開けてだの缶詰の蓋取ってだの、いろいろと力仕事を頼まれる。これはどういうことだ?」

卯月「知らないぴょん。大方、か弱い女の子アピールしてるだけっぴょん。もしかして司令官、ドヤ顔で瓶の蓋開けちゃったりしてたの?」

提督「ぐぬぬ……で、では私はあいつらに心の底では笑われていたのか? 内心ではぷっぷくぷーされていたというのか!?」

卯月「真実は時に人を傷つけるぴょん」



提督「大鯨ー!」

大鯨「は、はい!?」

提督「もう一度私と勝負しろ! 手心は加えず本気でかかって来い! 私も加減はしない!」

大鯨「え、ええ、提督?」

提督「さあ!」

大鯨「あ、あの……」

提督「卯月、合図は任せる!」

卯月「仕方ないぴょん。それじゃあレディー……」

卯月「ゴーぴょん!」



提督「だああらっしゃあああああ」

大鯨「あ、えと。きゃ、きゃあー……」コテ

提督「……」

大鯨「ま……負けちゃいました……」

提督「……」

大鯨「……」

提督「……」

大鯨「……」

提督「う……」

大鯨「……」



提督「うわああああん!」

大鯨「あ、提督!? 待ってください提督ー!?」

卯月「大鯨、顔に似合わず恐ろしい娘だぴょん……。あんなあからさまに花を持たせて、司令官の自尊心はズタボロだぴょん」

大鯨「そ、そんな!? 私は別にそんなつもりじゃ……!」

卯月「優しい嘘もまた人を傷つける……今日うーちゃんはまた一つ学んで賢くなったぴょん!」

大鯨「うう、ごめんなさい提督……」

鳳翔「ま、まあ、今度私もフォローしときますので……。卯月さんは今日はもうお酒を控えないと駄目ですからね?」

卯月「ああ~酷いぴょん!」

ナニコレ

いきなり来たからビックリしたぴょん

この提督はハイテック一歩手前



1ヵ月後


「第六駆逐隊のお部屋」


提督「たのもー!」

電「わわ、司令官いきなりどうしたのです?」

提督「道場破りだ」

暁「どーじょー?」

雷「やぶり?」

響「道場破りとは穏やかじゃないね、司令官」

提督「そうだ、穏やかではないのだ。さあ尋常に私と腕相撲で勝負して貰おうか」

暁「腕相撲?」

電「……なんで腕相撲なのです?」

提督「問答無用! まずは電、お前からだ!」



電「え? え?」

提督「さあいくぞ! レディー、ゴー!」

電「ま、負けたのです」

提督「次は雷だ」

雷「ま、負けたわ……」

提督「響!」

響「強いね、司令官の勝ちだよ」

提督「暁!」

暁「負けちゃったわ」

提督「ファーハハハ、やはり小童の駆逐艦など相手にならぬわ!」 




提督「―――と言うとでも思ったかぁッ!」

暁・響・雷・電「!?」

提督「お前たち……手を抜いたな。私を勝たせようと加減をしただろう?」

雷「そ、そそそそんなことないわよ!? ね、響?」

響「司令官の実力だよ。ハラショーすごいすごい」

電「さすが私たちの司令官なのです」

暁「わ、わー司令官とっても強くて憧れちゃうわぁー」

提督「ええいやめろそんな見え透いた優しさなど! 何故本気を出さなかった?」

暁「え~と……」

雷「……それは」

電「その……」



提督「なるほど……卯月に言われるまで判らなかったが、どうにもお前たちは私に対して力を隠す傾向があるようだな」

響「……」

提督「だからお前たちが本気を出せるよう、私も条件を出すことにしよう」

響「条件?」

提督「そうだ。もし私に勝つことができたら、希望を一つ聞いてやる」

雷「希望って……具体的には?」

提督「任務に影響が出ない範囲で、お前たちの望みを一つ聞いてやるということだ」

響「なら……例えば取り寄せたいウォッカがあるとしたら、司令官は頼まれてくれるかい?」

提督「うむ。いいだろう。何処の銘柄だろうと取り寄せてやる」

暁「暁がもっと淑女の扱いをして欲しいって頼んだら?」

提督「最善を尽くしてエスコートしよう」

雷「はいはい! 私は司令官にもっと、も~っと頼って欲しいわ!」

提督「いつも以上にめちゃくちゃお前を当てにしてやる」

電「電はもう少し秘書官の仕事がしたいのです」

提督「わかった。もし勝つことができたなら秘書官をして貰おう。ただし、希望を聞いてやれるのはお前たちの中で一人だけだ」



雷「え~一人だけなの?」

提督「流石に艦娘四人相手に連続して勝てると思っちゃいない」

雷「ならじゃんけんで誰か一人を決めましょ!」

電「わかったのです」

響「じゃあいくよ。じゃーんけーん」

暁「ぽい!」

電「あ、負けちゃったのです……」

響「……残念だ」

雷「むう、仕方ないわね……」

暁「へへーん、やったわ! 暁の勝ちなんだから!」

提督「暁か」



暁「私が勝ったら、司令官にはう~んとレディーとして扱ってもらうからね!」

提督「わかった。というか、いつもそうしてるつもりなんだが違うのか?」

暁「ぜんっぜん違うわ。司令官ってばいっつも暁の事からかって、子供扱いして! だいたい一人前のレディーに対してなでなでなんて、するはずないじゃない!」

提督「場合によってはするときもあるだろう」

暁「……訂正よ。司令官には夜景の綺麗なお店に連れて行ってもらうわ。ドレスコードがあるところで、エスコートして貰って、一緒にディナーをするの!
  そうすればきっと司令官も本当のレディの扱い方を分かるはずだわ!」

提督「良いだろう。もしお前が勝てたらなら、今度お前の休日と合わせて連れて行ってやる」

暁「ほんと? ほんとに連れてってくれるの!?」

提督「お前が勝てたらの話だ」

暁「えへへ、やったわ」

提督「よし、やる気は出たみたいだな。さあいくぞ!」

暁「あ、待って司令官」

提督「ええいなんだ!?」

暁「やっぱりこれ、フェアじゃないわ。だって私……どう考えても勝っちゃうもの」

提督「は……?」



暁「だから条件を変えましょ! そうね……もし司令官が10秒でも耐えられたら、司令官の勝ちってことで。その時は暁も一つだけ司令官の言うこと聞いてあげるわ」

提督「ふ、ははは……大した余裕だな、暁。もしかして、私がなんの策も無しにここに立っていると思っているのか?」

暁「例え司令官に何か考えがあっても、司令官は人間で、暁は艦娘よ。そもそもの条件が違うんだから、レディーたるもの少しでも公平にあるよう努めるべきだわ!」

提督「……わかった。お前が納得するならそれでいいだろう」

暁「じゃあ司令官が勝った時は、暁に何をして欲しいのかしら?」

提督「そうだな……近くに洋食屋が出来たんだ。そこに行こう」

暁「洋食屋?」

提督「ああ、新しく開店したんだ。小奇麗な店でな、前にちらっとメニューを見たら、お前の好きそうなものがたくさん並んでいた」

暁「どうせお子様ランチなんでしょ。暁はお見通しなんだから!」

提督「残念ながらそれはなかった。夜景の綺麗な店とやらも結構だが、お前はこっちのほうがずっと気に入ると私は思う」

暁「……」

提督「さあ、準備は整ったな? これでお互い加減は無しだ。いくぞ!」

暁「え? え……?」

提督「レディー……!」

暁「ちょ」

提督「ゴー!」



提督「うおおおお!」

暁「!?」

暁(あ、急でびっくりしちゃったけど、司令官めちゃくちゃ弱い……)

提督「ぐぬぬぬぬ」

暁(どうしよう、これ勝ちゃっていいのかしら? やっぱり夜景の綺麗なお店って憧れだし、一度は行ってみたいわ。ドレスも着たいし、司令官にエスコートされてみたい……)グググ

提督「ぐおっ!? ま、まだまだあ!」

暁(でも、せっかく司令官が暁の好きそうなお店を見つけてくれたなら、そっちにも行ってみたいし……うーん……)

提督「緩んだ!? いける……!」

暁(どうしよう……あ、10秒だった!? はやく決めないと!)

提督「海軍スピリッツを見晒せええええ!」

暁(えーと、えーと……暁は……うーんと……)

提督「でやあああ!」ダンッ

暁「あ……」



提督「か、勝った……はぁ、はぁ……」

暁「嘘……負けちゃった……」

提督「や、やはり力を隠していたな暁。だが私の……私の勝ちだ。はぁ、はぁ……」

響「こいつはすごい。まさか司令官が勝つとは……」

雷「暁? 貴方本気でやったの?」

暁「へ? え、えーと……」

提督「見事だったな、暁。やはり艦娘の力と言うのは、成人男性のそれを遥かに上回るみたいだ……。鍛え直した私でさえ、競り合うのが精いっぱいだった……」

暁(ま、まあいっか……。司令官は喜んでるみたいだし、ムキになってる男の人を持ち上げてあげるのもレディーの嗜みよね……?)



暁「ふ、ふふん! レディーたるもの負けは潔く認めるわ! だから司令官、ちゃんと約束は守ってもらうからね?」

電「暁ちゃん、もしかしてわざと負けたのです……?」

暁「そ、そんなことないわよ? 本当はもっと暁にふさわしいお店が良かったんだから!」

提督「まあそう言うな、きっと気に入るはずだ。というわけで、お前たちの看板は貰っていくぞ!」


「第六駆逐隊のお部屋」


雷「ああ、私たちの部屋プレートが!?」

提督「ファーハハハ、これは暫く私が預かっておく! ではさらばだ!」

電「あ……行ちゃったのです」

雷「一体なんだったのかしら……?」

響「さあ。司令官はたまに訳の分からないことをするからね。今回もそれじゃないかな」

ワロタ

唐突にくるからビックリする

ペンギンとモコモコの話はどこ行ったの?

もしかして別の話を続けてるの?

ペン吉ともこ美好きだったから続きでも視点変更でも掘り下げでも良いから見たいわ

わざわざ冒頭にタイトル置いてあるんだから別の話だろう
もしかしたら繋がってるかもしれんが、まあもしかしたら程度に思っておくのが無難では

おっつおっつ

はよ

>>46

100年後 

彼らは急速に文明を築いていった。

旧支配者の英知を礎に、独自の文明を発展させ、社会を築き、彼らは人間に代わる新たな人類となった。

彼らは理解していた。

いずれこの大地が浄化された時、深海棲艦が再び地上を攻めてくるということを。

そして夢を見ていた。

いつか我が物顔で海を支配する深海棲艦を打倒し、母なる海に帰ることを。

しかし今はその時ではない。

やがて果たす大願を胸に、新たな人類は爪を研いでその時を静かに待つ。


>>47

太陽の届かない海底。

沈んだ軍艦は敗北の夢を見続ける。

かつて戦いがあった。その戦いで敗戦を喫した艦船の魂たちは、勝利の誓いを胸に再び戦場へと戻った。

だがその誓いは叶わず、自分たちは守るべき者を残し、再び敗北の淵に沈んだ。

志半ばで散っていった仲間たち。なす術もなく敵に食われていった守るべき者たち。希望を託された自分は、悲鳴を上げながらその光景をただ眺めていた。

光の届かない海底で、後悔だけが渦巻いている。

ごぼりと、水底から水泡が立った。





沈んだ軍艦は夢を見続ける。

いつか新たな人類の眼差しに使命の光が灯り、この海を目指すその時まで。その魂は、三たび戦いの時を待つ。

それが何百、何千年後になるかは分からない。

でも、いつか、かならず……

最初の終わり方です。
これだと暗めで判りにくいのと、sfみたいに締めたかったので>>47に変えましたが、今見るとこっちのほうが好みでしたね。
もし転載するのならこっちのほうでお願いしたいです。

もう一つのほうですが、2ヶ月以上経っちゃいそうなのでいったん落としてまたあげるつもりです。
そっちよりも別の長編が先にあがるかもしれませんが…
ではまた。

了解乙

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年08月01日 (月) 20:11:37   ID: AWwFvgAR

このペンギンは、マンアフターマンで言う所の水中人間か。それと、深海棲艦が帰ってくる方のジメッツ・スムート?

2 :  SS好きの774さん   2017年01月30日 (月) 10:45:44   ID: hQeNSWqL

良いね!

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