新東京物語 (110)
この街は眠らない。
新東京は日付が変わっても夜明けが来るまでビルは青く照らさせ道路は車のハイライトで光の筋が通っていた。
街が眠らなければ当然人も
吸血鬼も眠らなかった。
この街の中心部である新東京国立公園は
午後7時、青くライトアップされていた。
公園には新型電動車輪ブーツを履いて技を磨く者や超能力を使って曲芸をする者もいた。
この時代においてモーターのついた靴も
身体を透明にするスーツも吸血鬼も
限度こそあるが不可能を可能にする力も不思議なことではなかった。
超能力や気功、魔法は人間の限界を超えることで可能となった。
今や炎を纏うことも怪力の持ち主になることも
努力次第では特段珍しいことではなくなった。
すると公園にいた誰もが一人を除き、
慌てて何かを見て公園から出て行こうとした。
公園の東側の入り口から白いジャケットを着た男たち20名ほどが入ってきた。
先頭にいる男はジャケットを着ていなくて
代わりに白いTシャツに白いズボンを履いていて髪は黒く長く後ろで結っていた。
男は正に美男子というに値するような容姿で
女と言っても信じてしまいそうなほどだった。
それが彼の周りに人が集まるカリスマの要因でもあったに違いない。
公園は広く見晴らしが良かった。
ベンチに座っている男を見つけるのは
他に人もいなかったし誰でも可能であった。
「こんにちは、ヤマト君」
その綺麗な顔に笑みを浮かばせながら
新聞紙を顔に広げて寝そべっている男に話しかけた。
しかし返答がない。
寝ているのだろう、新聞紙を支えているはずの手は力尽きてベンチの下に垂れていたからそうに違いなかった。
普通ならそこで肩をたたくなり、手をつねったり、はたまた腹に一撃を加えたりする。
しかしこの美男子、涼は違った。
ヤマトと呼ばれる男の腹に手を置くと、
バチィッと鞭を打ったかのような電撃を男に浴びせた。
与えるとほぼ同時にヤマトの体は瞬時に反応し
声にならない悲鳴をあげた。
「誰だよバカ!」
新聞紙を手に力を込めて顔からどけて
男は声を荒げた。
ヤマトという男はツバ付きの帽子を被っていて、涼とは対称的に精悍な顔つきで身長も192センチと大柄でかつ筋骨隆々の熊のような男だった。
ヤマトは涼の顔を見ると全てを察したように
冷静になった。
「なんだよ、お前かよ。
今日は何?」
イラついた素振りを見せながらベンチの上にあったに両足を地につけ片足をあぐらをかくように曲げた。
「はい、みんな一万円」
涼が右手を上に向けると涼以外の28人が
福沢諭吉の描かれた薄黄色い紙幣をレイの右手に置いた。
「それと、俺からの2万円、
しめて30万円でコイツの彼女を
ドラッグに沈めたヤツを
俺たちのところに連れてきて
欲しいんだっちゃ」
左手を頭に斜め45度の角度で押し付けると
涼はヤマトに右手を差し出した。
「あのさぁ、そういうの消し屋に
頼んだほうがいいんじゃねえの?」
ヤマトは30枚の紙幣を受け取りながら
一枚一枚丁寧に数えながらいう。
「ダメダメ、だって消し屋じゃ
殺しちゃうしさ、これは俺たちが
私刑にすんの」
「まぁいいけどよ、俺たちもう22だからさ、
先のこと考えろよ」
「いや俺たちはもう就職してるよ」
涼が知らなかったの?という顔をしている。
対するヤマトも嘘だろ?俺は知らなかったぞ
という顔をする。
「つかさ、ヤマト君”IATA”辞めて
まだこんなことしてんの」
IATAとは
インターナショナルアンチテロリストアーミィの略で世界の秩序を乱そうとするテロリストを
人、吸血鬼関係なく殲滅する国際治安維持機関である。
ヤマトは1年前にそこを辞めた後この街のトラブルシューターとして日銭を稼いでいた。
「うるせえ、俺の中では辞めることを決意した
日から何も変わっちゃねぇんだよ。
あんまごちゃごちゃ言ってっとやらねえぞ」
「はいはい。じゃ、絶対捕まえてきてよ。
じゃあね」
涼はバイビーとおどけたようにヤマトに告げて公園から立ち去った。
他の白服たちはヤマトに敬意を表するように
深く頭を下げて涼とともに消えた。
この街のシマ・ヤマトの立ち位置はあらゆる場面での顔役であった。
軍に入る前からこの街の中心人物であった
彼は決して群れなかった。
それはこの街に帰ってきた後も変わらなかった。
ヤマトにとっての強みというのは仲間がいないことである。勿論、時には協力する人や吸血鬼もいる。が、しかし常に徒党を組むということはしなかった。それは欠点のように思えるかもしれないが徒党を組まないということは敵を作らなくて済むということでもあるため強みの材料である。
逆に涼はホワイトクラウンという組織を持ち前のカリスマ性で作り上げ、この街の代名詞にまで発展させたが代わりにこの街の一部のヤクザや黒十字という組織と対立しているため頼る勢力は極めて限られてくる。
ヤマトのその強みは幅広い人脈を形成した。
飲み屋に行けば報道記者のサラリーマンと、
クラブに行けば会話全てを耳に入れたバーテンダーと、暴力団事務所へ行けばかつての旧友がといった具合にあらゆる筋の、信頼できる情報源が彼の手の元にあった。
銭湯「愛善」
薄いクリーム色に囲まれた浴場でヤマトと
指定暴力団、「赤木組」の若頭鮫島が
湯に浸かっていた。
「桐島の野郎にさ、依頼されたんだ」
湯に浸かってから3分の沈黙を破ったのはヤマトだった。
桐島とは涼の名字である。
「へぇ、で?」
顔だけはヤマトの方を向く鮫島。
「いやさ、クスリ絡みなんだよ」
面倒くさそうな顔をヤマトは作る。
反してすました顔の鮫島。
「ウチはクスリは人道に反するから
ダメって掟があるから違うと思うぜ」
湯を手ですくって顔をに流すと鮫島は応えた。
「そんなの知ってるよ、多分バイヤーは
フリーだろうな、それも国籍持ってない
不正入国者あたりかなぁ」
「なんだよ、目星ついてんのかよ」
「いや探りじゃなくて世間話、世間話」
「クスリは儲かるけどさ、
呑まれたら終わりだから
ウチみたいな大所帯じゃ危険すぎるね」
鮫島がサウナを指差すと2人は湯から上がった。
銭湯を後にするとヤマトは30万を渡された時に
紛れさせられたメモを頼りにクラブへと向かった。
メモには沈められた女の子の顔とバイヤーの特徴が書かれていた。
仮説ではフリーの不正入国者であるため頼りはこのメモだけである。
夜も更けて客のボルテージも最高潮に達した
ハコは熱気で溢れるようなサウナだった。
人混みをかき分けヘトヘトでカウンターに着くとヤマトはビールとバーテンダーに注文する。
バーテンダーはビールをサーバーから注ぐと
何用で?と聞いてきた。
「この女の子、最近見なかった?」
「ああ、その女の子ね先週まで毎週来てたけど
どうしたの?大分飛んでるようだったけど」
「まぁその通りなんだけどさ、
廃人になっちゃって。で、
バイヤー探してんだけどこの特徴に
見覚えある?」
メモを手を伸ばし渡すとバーテンダーの森崎は
顔をメモから遠くして頷いた。
「日本語が変な奴だったよ、ここの常連だな。
くる時間は不定期だけどほぼ毎日来てる。
今日はまだ見てないな」
ビンゴ!と心の中でガッツポーズをするヤマトだった。
「そう、じゃちょっと待ってるよ」
あ、ついでにジャーキー。と注文するヤマト。
森崎はニコッと爽やかに笑った。
それから40分ほどしてからだろうか、
フードの男がヤマトの隣に座ってきた。
フードの男の顔は隠れてよく見えなかったが
怪しさは充分にあった。
スッと試すようにヤマトは例の女の子の写真をカウンターの上に乗せるとフードの男がそれを一瞥してから5秒後、人混みをかき分けて店から飛び出した。
ヤマトはすかさず追おうとするが派手な音楽に気を取られた群衆に阻まれてうまく動けない。
その間に男は裏口から飛び出し、ビルとビルの合間をすり抜けていく。
「逃がすかよッ!」
ヤマトは腰のホルスターのボタンを取り外しながら追いかける。
男は体を湯気のような透明のオーラで包み、並外れた跳躍力で仮設階段のパイプから窓の出っ張りへと次々に足場を見つけ上へ上へと登る。
(バカと煙は上に上るってか)
ヤマトはビルの壁に足を垂直につけてその足の力だけでビルを走っていく。
これもヤマトの闘気がなす技である。
バイヤーの男はビルからビルへと猿のように飛んでいく。
ビルの屋上にヤマトは辿り着くと腰のホルスターから月光で銀色に光る拳銃を取り出して
2発男に向かって撃った。
2発の弾丸は男の脚に着弾し男の脚は砕け散る。男はバランス崩すとビルの谷底に身を落とした。
ヤマトは男が落ちた場所に、
逃げられないように男の目の前に飛び降りると
バイヤーの男は片足だけで身体を起こし、
懐から金属音を響かせてバタフライナイフを
身につけた。
そのバタフライナイフの形状は変わっていて
刃の軸を中心に両刃が二つに分かれていて
軸は針のように尖っていた。
男は野太い奇声をあげると残った片足に闘気を
集中させスペツナズナイフのようにヤマトの心臓を狙って飛び出した。
(形状からして毒を塗り込んであるな、
実力差を認めて形勢逆転を狙ったか)
男の直線移動の攻撃はいかに速くとも
身体能力が人と比べ格段に違う吸血鬼と
戦い続けていた百戦錬磨のヤマトにとって
避けることはは容易であった。
男は右手に持ったナイフを左手に持ち替えて
避けたヤマトに斬りかかる。
それをヤマトは男の左手首を抑え、攻撃を阻止した。
男は力でヤマトには勝てずナイフはヤマトの肩の上で止まったままだった。
男の顔に血管が浮き出るとヤマトは空いた手で
フックを放ち男の顔にヒットした。
男の鼻からは夥しいほどの血が流れる。
「ほらほら、もっと隙を隠さなきゃ、
結構手加減して能力使ってないけどさ、」
「死んじゃうぞ」
ヤマトは鼻を抑えている男にさらに2発ワンツーを撃ち込み、左足のハイキックで男の首を
斜め45度に向けさせると男はもう足に力が入らず内腿の鋭角は30度にも満たなかった。
それでもまだナイフを持ったままだったので
ヤマトは鋭い一撃を男の鳩尾に撃ち放った。
男はすでに気絶していてナイフはコンクリートの地面にカラリと落とされ、体の後ろで手錠をはめられていた。
「ふぅ、あとは涼を呼び出すだけか」
ヤマトはぺらぺらの紙のような情報端末を手に取ると涼へとコールし、ここに来るよう伝えた。
するとビルの暗闇から浅黒で鼻筋の通った長身のスーツを着た男が現れた。
「いやぁ~、シマ君はさすがだなぁ。
まだ2日もたってないよ」
パチパチと拍手しながら現れた目の下に
黒いクマが印象的なスーツの男は
身嗜みも綺麗なものだったし、
時計も革靴もスーツも皆上等なものだった。
「いつから俺のことを尾けていた?
安藤さん」
ヤマトは後ろを振り返らず鋭い語気で言い放った。
「君が国立公園で諭吉を
受け取ったところからかな」
優等生のような落ち着いた声で応える。
「最初からじゃねえか」
「シマ君、日本にいるんだから
法律は守らないと、ダメだよね」
「なんだよ引っ張るってのかよ」
一触即発の場が出来つつあったところで
白いワゴンカーが通りに止まった。
ワゴンカーのドアがガラッと開くと
涼が飛び出して2人に走り寄ってきた。
「どうもー、これはこれは
特別捜査官の安藤さんじゃないですかー!」
「こんにちは、桐島君。
この間僕のうちに送ってくれた苺大福、
びっくりするほど変な味がしたんだけど
何が入ってるの?」
「えっあれ食べちゃいました?
あれ1ヶ月消費期限切れてるか送ったんすけど
食べちゃいました?」
「ええっあれうちの子供食べちゃったよ!」
安藤が驚いているとレイはポケットから端末を取り出すと一枚の写真を安藤に見せた。
「そういえば家族といえばなんですけどぉ、
これだぁれ?」
写真はラブホテルに入る安藤と謎の女性である。安藤は既婚者で2人の娘がいた。
「そ、それは!」
口をパクパクさせていると涼は続けて言った。
「その倒れてるやつうちで
預かっていいですよね」
凄まじい早さで頭を地につけ、安藤は土下座した。
「どうか、どうか妻にだけはッ」
満面の笑みを涼は浮かべる。
「………どうぞ、何なりと」
権力が不良に屈した瞬間であった。
「おい、安藤、
……尾けんじゃねえよ」
とぼとぼ歩き出した安藤にヤマトは言った。
「それは君に対する信頼が回復したらの
話じゃないかな」
安藤は鋭い目つきで言った。
ヤマトは食えねえとつぶやき白のワゴンに涼と乗り込んだ。
新東京は眠らない、
人は絶えず起きていて、それはこの時代を的確に表しているようだった。
第1話「白夜」完
登場人物
シマ・ヤマト
身長192センチ110キロの巨漢、
常につば付き帽子をかぶり
上は黒いシャツで下は迷彩柄のズボン、
黒いブーツを履いている。
15から新東京国立自衛軍学校に通い、
18から2年間海軍に入隊し、
その1年間国際機関で活動していたが1年前に
新東京に帰ってきた。
桐島涼
新東京の代名詞と言っても過言ではない
暴走グループ「ホワイトクラウン」のヘッド。
容姿端麗で長い髪を後ろで結っている。
就職をしている模様。
能力は闘気を白い電撃に帰るというもの。
安藤
警視庁公安部の特別捜査官で42歳、
既婚者で2人の娘がいる。
尚、私生活がひどいものでよく涼に強請られている。
鮫島
赤木組の若頭、48歳。
6歳になる息子を誘拐された時、
助け出したヤマトとそれ以来銭湯に行く仲である。
森崎
情報通のバーテンダー、39歳。
大体の世界観、
現実の日本とは結構違う新東京。
銃の携帯は拳銃ならオーケー、
新政権樹立で治安維持が思うようにいかない様子。
特殊能力やSFに出てくるような道具も
結構存在する世界。
こんな感じで続けて行く
次回は少し構成を練るので遠くなるかもしれない
期待
期待
レイって誰だろ?涼とは別人?
やべっ打ち間違えだレイ→涼で
明日投下しまーす
新東京、この街には華やかな表があり、
かつ闇よりも深く恐ろしい裏が存在する。
次回、第2話「化物」
了解
待ってる
いきまーす
絶えず光が反射する街、新東京。
光があるところには影がある。
それはたとえ光そのものの近くにだって
より濃く存在する。
第2話「化物」
「イッチ、ニッッイッ」
少年は斧を片手にナニカに振り下ろしていた。
コンクリートに囲まれたその場所は人の目につきにくい。この街の影とはこのような場所のことを指していたりする。
五歩も歩けば光できらびやかな通りに出られるのに。影の住人はそのことに気づかないし、光にあたる住人もそれを見ようとしない。
見えないのではない、見ようとしないのだ。
無意識に行っているそれはまさに人間の性質を表していると言っていいだろう。
動物としての本能が、人としての倫理観が
それに触れ、聞き、見るのを危ないとし、
自己を危険から遠ざけようとするのであった。
少年はその影そのものだった。
目の焦点は定まっていなくて、
辺りは赤黒く染まっている。
まるで水面に石を投げたときのように
少年が斧を振り下ろせば紅の飛沫がコンクリートの壁を灰色から赤に染めていく。
「美しくない、非常にナンセンスだ」
少年は見上げた。
その発言の主は少年の前方にあるビルの屋上にいた。
主は声からして50代ほどの男だったがその姿は
月の逆光でよく見えない。
「誰だよ、あんた」
少年に見られたことに気づいた男は屋上に立ったまま言った。
「ああ、すまない。普段なら人の行為に
口出すつもりはないのだが、
思わず独り言を言っていたようだ」
男の声は紳士のようでその声は芯のしっかりしたある美学を持ち合わせていることを感じさせた。
「どうぞ続けて」
紳士が言うと少年は再び斧を振り上げた。
するとカランと斧をアスファルトの上に落とし、少年の体を黒と紫を混ぜたような色の湯気が覆った。
紳士は感じた、少年の明確な殺意を。
はっきりとした殺意は闘気を増幅させ、
人を人でなくすることを彼は経験上知っていたので少年が何か仕掛けてることを予想できた。
しかし、これ程の明確な殺意は普通の場面では
起こらない。
行為を見られたということが殺意につながったのかもしれない。それはある種の美学を持っているということである。
「君も美学を持ち合わせていたか、
いいね、それでこそ狂人だ!」
「殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ」
カシャカシャとカメラの切る音がした。
公安部特別捜査官の安藤は異常な死体現場に
いた。
「ひどいなあ、人としての尊厳を
踏みにじってるよ」
「身元はこれでもわかる?」
安藤の隣にいた男、鑑識の錦はいった。
「どうでしょうね、ドナー提供か
何かをしていればDNA鑑定なりで
照合できるんですが。みたところ
能力持ちでもないようですし。
おそらくID持ちでもないでしょうね」
「そうかあ、この場所だもんねえ」
安藤はコンクリートに四方を囲まれた空を見上げた。
本来なら死体が見つかることなく、
行方不明もしくは何も起こらないところだったが処理されていない死体を偶然犬の散歩をしていた老人が見つけて通報が入った。
「まぁ科捜研の結果待ちってところですね」
錦はカメラをケースに入れ、現場から撤退しようとする。
「僕の方からも知り合いに
かけあってみようかな」
「シマ君ですか?」
「うん、まぁ」
安藤は気恥ずかしそうに頭をかいた。
「あんまり彼を深入りさせないで下さいよ」
安藤は誤魔化すように笑った。
新東京国立公園。
時刻は午後5時を回ったところ、
橙色と青が入り混じって心を動かされるような
空だった。
ヤマトはベンチで足を組み、
煙草を吸っている。
「で、何用だ?」
ヤマトは隣で背を丸めて座っている安藤に言った。
「今日の朝方、唐亜通りの裏で
死体が発見された」
ヤマトは転がっていた空き缶に煙草を押し付ける。
「穏やかじゃねえな、だけど別に
そんなおかしなことじゃねえだろ」
「確かに普通の死体だったらね、
けど今回は違う。
パーツごとに切り分けられてた」
「ほう、面白い性癖だなそりゃ」
「ま、そういうことだからさ。
裏のこと知ってたら
教えて欲しかったんだけど
知らないみたいだね」
「悪いな、安藤」
銭湯「愛善」
約43度の湯に浸かる涼とヤマト。
「ふーん、バラバラ死体ねえ」
タイルの溝を指でなぞりながら物騒なことを言う涼。
「お前なんか知ってるか?」
「知り合いにさぁ、人肉食べるの
好きなおっさんいるんだけど違うなぁ」
「さらっと言うけど穏やかじゃねえな」
「その人だったら残さないしね、
でも探さなかくてもそんな異常者なら
ひょっこり出てくるんじゃない?」
「わかんねえな、話半分に聞いただけだし」
「あ、今夜ベットレースやるけど来る?」
「あ、駄目だ。まだ整備してねえ」
「じゃ見るだけでも?」
「いいぜ、あとちょっともうキツイ」
「ハハッ、じゃあ上がろうか」
2人は湯からヘトヘトになって上がる。
いつの間にか我慢比べになるこれは最早疲れを取りに湯に浸かるどころか浸かる前よりずっと疲れしまうのであった。
神楽通りはここら辺の道の中ではずっと広く、
見通しの良い直線が1キロほど通っていた。
これは25年前の旧東京内戦で多くの建物が
更地になって公道になったおかげである。
そんな神楽通りは若年層の溜まり場となり
治安は決していいとは言えなかった。
しかし、7、6年前に桐島涼やシマ・ヤマトが
この街に現れてからここら一帯はかつての治安を取り戻した。
ホワイトクラウンは週に一回、金曜の夜11時頃に集会をする。
集会といっても仲間内でチューニングしたクルマやバイクを公道で走らせて競うもので、
白冠の活動資金は主にそのレースで賭けられた
資金である。
夜も更け、あと1時間で日付が変わる頃、
ヘッドは拡声器を手にして彼ら仲間を
焚きつけた。
『じゃあー、これからー、
ベットレース始めまーす!
各自ークルマはー、白線の内側にー、
入れー!』
「おい、なんだあれ?」
メンバーの1人が涼の後ろ、公道の先を指差す。
すると、涼以外のメンバーは何か異変を感じて騒ぎ出す。
「なに?後ろ?ってワッ、驚いた~」
顔は真顔にして振り返った涼の先には黒い闘気で包まれた少年の姿があった。
大衆の奥で見ていたヤマトも椅子をガタッと倒して凝視する。
「あらら~、もしかしてぇ、
例のバラバラ死体のやつだったりしてぇ?」
「そこのボーイ!レースの邪魔だからぁ、
退いて?」
おどけながらいう涼、その手には赤いガソリンの入ったポリタンク。
少年はなにやらブツブツ言っていて彼の声は届いていない。
「どいてくんないだぁ、残念」
涼はポリタンクを少年の真上まで投げ飛ばす。
ヤマトは遠くで見ながら、隣の新入りの島崎に
声をかける。
「よく見ておけ、新入り。
あれが曲芸師、クラウンだ。」
投げ飛ばされた赤い飛行体は少年の上で
何かが光った後刃物で切った様にバラバラになる。
当然中のガソリンは空中で形を変えて、
少年の体はガソリンを被る。
「懐かしいですね、八年前まだクソガキだった
俺らの憧れだったあなたたちの戦い、
今でも鮮明に思い出せますよ」
白冠幹部、磁鋼の蔵木がいう。
「お互いボロボロになっても倒れなかった、
なんていうかガッツがありましたね」
「今はないっていうのかよ」
「そんなことないですよ」
涼はガソリンを被った少年に神速で近づき手に
白い電撃を纏って電撃を放つ。
「白閃」
ガソリンに引火し、少年は炎の渦に巻き込まれる、というよりも炎そのものにあった。
しかし、その少年以前変わらずその体は無傷。
少年は黒い闘志を虫の手足の様な形にして
涼を攻撃する。
「人間じゃない、フリークスだね!」
鼻筋の通った顔は目がギョロついていて好戦的な様子が一目でわかる。
また、ポリタンクを切り裂いた光の筋が風切り音を立てて、少年の体に切り傷を与える。
「その感触、死体じゃないか」
突然涼は悲壮感の漂う顔になり、がっかりした声を吐き出す。
少年の切り傷は黒い闘気が噴き出し、塞がれる。
すると、涼と少年を結ぶ光の糸がキラリとひかった。
「残念だ、生きてないモノにはボクの曲芸は
わからない」
涼の前髪が吹き出された闘気で浮かび、
白い闘気は糸を伝って少年の体へと向かう。
「白雷」
瞬時に闘気は電撃に変わり、糸は黒く焦げ、
パソコンの起動音の様な音とともに少年の体は
爆発四散した。
戦いを終えた涼に蔵木が近寄る。
「ヘッド、メンバーを帰して
処理屋呼びましょう!これはさすがに安藤を
誤魔化せないです!」
蔵木はいつになく焦り、動揺している。
「焦らない焦らない、
どう思う?ヤマト君」
「それが最善だ」
日曜、新東京国立公園。
非番なのか、眼鏡をかけた安藤とヤマト。
「アレ、バラバラ死体どう?
科捜研の検証結果をこっそり言うとね。
残留したオーラからは148センチ、
13歳ほどの少年だってさ」
「さあ、さっぱりだな」
ヤマトはさらりと嘘を吐いた。
この街には裏がある。
その裏はどう足掻いても消すことはできない。
人に闇が必ずある様に、街にも闇がある。
要は街は生き物なのである。
そんな街にとって彼ら人は血流なのであろう。
街は生きている。
決して眠らず、心に表裏を兼ね揃えて。
完。
登場人物其の二。
蔵木 実
ヤマト、涼とは同い年であるが尊敬の念を込めて彼らには敬語を使う青年。
能力は磁力性の極めて強い鉄鋼柱を生み出すというもの。
普段は教習所の教習員をしている。
新入りの島崎
見た目が猿。雑魚。
世界観其の二。
能力の使い手にクラスがある。
とても曖昧なもので系統トップ以外は目安。
旧東京内戦、物語開始から二十年前に永田町を中心に起きた内戦。
何者かが左翼と右翼を煽り全面抗争までに発展した。隣国の内政干渉が問題となり国際問題となる。
戦後都市再生計画。
住民区画と工業区画を綿密に分け、
工業区画の建物を大いに減らした。
住民区画は全国に散らばり、商業都市を各地に持たせる様にする。
今現在日本国は首都がない。
以上第2話終!
おつ
今日短いけど3話目あげます
かつてこの世を闇に陥れた鬼がいた。
鬼の真祖はそれから2000年を超えて現代に生きているという。
神楽通りの交差点に4台の車が横に並ぶ。
白線に揃って並んだそれらは信号が青に切り替わるのを待っていた。
4台の中にヤマトもいた。
赤の車体の低い、よく整備された車である。
ヤマトはパーツを海外と国内から取り寄せて
組み立てた。実際速い、おそらくこの4台の中で飛び抜けて速いだろう。
他の3台は当然ヤマトに勝つ自信があってそこに立っている。
信号が、パッと切り替わる。
「はい、これが賞金」
相変わらずの姿の涼から10万を手渡される。
「おう、次もよろしく」
手短に挨拶だけ済ましてそのまま車から降りることなくその場をヤマトは去った。
新東京の西側に位置する歓楽街、そこの外れの
赤いレンガ造りのアパートがヤマトの住処だった。
ヤマトは一見そこの一部屋に住んでいるように見えたが実際はアパートの壁をぶち抜き、
外からは数部屋あるように見えるが中は広いたった一部屋だった。
主にヤマトに依頼が参り込んでくる時はベンチで請け負うかアパートで請け負うかである。
依頼条件はヤマトと直接会うことである。
キシキシと音を立てて軋む階段を上がり、
そろそろ直さなきゃななどと思いながらヤマトは部屋のドアを開けようとドアに近づく。
その時、ヤマトの体に猛烈な違和感が堰を切った川のように流れ込んできた。
違和感は警戒心へと変わり、ヤマトを臨戦態勢へと
導く。
瞬時に右手をホルスターに当てパチンと留め具を外す、静かに静かに手のひらをグリップに当て、人差し指を立てて安全装置を外す。
敢えて穏やかなままで決して闘気を隠そうとせずにひたりひたりと足を進める。
ドアノブを指の腹、関節、掌というように
しっかりと握る。
音を立てずにゆっくりと鍵をさし、カチリとならないように回す。
ドアノブに力が入り、左手で勢いよく回して
体で扉を押し右手の銃で牽制して入る、
「動くな!」
たった一言だけ発する。
ヤマトの目に入ったのは自分のデスクの椅子にこちらとは逆に向いた男の姿だった。
照明はついていなくて姿は見えない。
夜目に慣らすことをしなかったヤマトは
衰えたなと自分の腕を卑下した。
ヤマトの声に反応してゆっくりとくるりと椅子が回る。
依然、その顔は見えない。が、紅く光る瞳だけ
存在が目立っていた。
「吸血鬼かッ!だがなッこの距離ならッ
この拳銃でも貴様らには有効射程だッ!」
模範的な牽制だった。
すると闇に包まれた男は声を発した。
「フフ、島大和。」
ピクッと大和の血管が動く。
「身長は192センチ、体重は110キロ。
一年前までは国際機関に所属、
現在はこの街のトラブルシューター、
ここまでは探偵を雇えばわかる」
男はスラスラと言いあげた。
「だが、問題はここからだ。
君はある男を追っている。
男の名はー、」
「クラウド=レイソンだ」
ヤマトの顔は引きつっている。
「ほう、君の方から言ってくれるとは
思わなかったよ」
「こっちのことは言ってやったんだ!
てめえは何者だ!」
瞬きすることなく紅く眼の持ち主は言った。
「そうだな、ウォーカー、とでも
名乗っておこうか」
その瞬間ヤマトの指は絞られ3発の弾丸が飛んだ。
しかし、男に当たることなく男はデスクから消えた。
ピト、ヤマトの頬を刃が冷たく当たる。
「衰えたね。もう一度、
鍛えなおしたほうがいいよ」
「それと、いいことを教えてやろう。
クラウドの小童はロードとなるために
私を殺しにくるはずだ。動く必要はない。
今の君にはやつを倒せるほどの力も
ないしね」
男の掌から刃は伸びていた。
ヤマトの体に緊張が走っていた。
殺される、明確にそのイメージだけが頭にあった。
「まあ、今君を殺すような真似はしないから
安心してくれ」
男は続けていう。
「この街で消し屋をすることになったんだ、
挨拶にでもと思ってね。これ名刺」
男は手首を返してヤマトの目の前に名刺を突き刺した。
「では、これで」
男はそれだけいうと自分の影に包まれたようにして消えた。
重圧から解放されてヤマトの体から汗が噴き出す。
荒々しい息をしながらヤマトは腰を滑り落とし、いった。
「なんてやつだ!敵いっこねえ!」バキッ!
振り上げた左手は床へとハンマーのように振り下ろされた。
「まずいな。そろそろ、本腰入れるか」
ヤマトの瞳に闘志の炎が灯る。
自分が何をすべきか、はっきりと浮かんだヤマトは
以前とは変わった様子だった。
この街に何かが起きようとしているのだろうか、その真実は誰の手にもわからなかった。
第3話「来客」終
乙
乙
水曜投下しますわ
待ってます
エンジンの低い音が枯れ果てた大地を木霊する。
新東京を少し離れると首都一点化のかつての影響でそこら一帯は砂漠と化していた。
その光景はさながらアリゾナである。
その有様によって首都という制度は日本から消えたというわけである。
四駆の赤い燃え盛る炎のような車は大和を乗せて長野へと向かっていた。
長野へと県境を越えてしばらくすると緑の光景は復活し、山を登る。
この山の頂上には大きい寺があってそこは大和の生まれ故郷でもあった。
大和がそこへ帰るのは実に七年ぶりのことであった。
(相変わらずの威圧感、七年じゃあ
変わりっこないか)
大和は車窓から山に根をはるように存在する
その真来寺を見た。
どうして大和がここへ来たかはあの吸血鬼の
来訪が理由である。
元々己の力量の限界を発揮することなく一年を過ごしていたため大和は力の衰えを薄々感じていた。要は実力は常に上がっていないと衰えていると思った方が良いということである。
それがあの来訪で予感が確信へと変わったのであった。
大和は日頃自分を頼る人や関係する人に新東京をしばらく離れることを伝えると最小限の荷物を持って街を離れた。
真来寺の門は途方もなく大きい。
その大きさは明らかに威圧感を放っていた。
大和は門の前に立つと門に手を置く。
すると彼はありったけの闘気を送り込む。
彼の周りは土埃が立ち込み、
軽い煙幕となっていた。
しかし、門はビクとも開かない。
(ジジイは怒ってるな)
真来寺の造りは普通のそれと変わっていた。
中の御堂の柱に弟子たちは背をつけ経文を唱える。経文を唱えることをきっかけとして彼らは自らのオーラを寺そのものに流し続けているのだ。
従って住職が許可した者の全力の闘気以外は
寺に入ることを許されない。抜群のセキュリティを誇っている。
十五のときにこの寺を飛び出して新東京へと身を移した大和は住職の怒りに触れ寺に入ることを許されていないということである。
大和がその事実に狼狽えていると門はゆっくりと開いた。
中には頭を丸めた坊主が立っている。
「お久しぶりですね、大和君。
君が再びここの門をくぐろうとすることを
待っていました」
眼鏡をかけた坊主は落ち着いた口調で
まるで全てを予め知っていたようにはなす。
「ご無沙汰しています。倉科さん。
無理を承知の上です。住職に
会わせていただけないでしょうか」
大和は頭をさげる。
すると倉科はにっこりと慈愛の笑みを浮かべて
門の中へと手を招く。
「私の能力を知っているでしょう。
住職は確かにお怒りです。
骨の二本は覚悟して下さいね」
二人はひたひたと足を進めて本堂へと向かう。
寺の境内の中で一際大きい御堂が正に本堂だった。二人は本堂の近くまで来ると殺気ににた非常に濃い闘気を感じた。
通常闘気を自身の周辺に展開するというのは闘気をソナーのようにして探知するためか、
能力の性質上かである。しかしそれらは闘気を薄く薄くしたものを漂わせるものであるはずだった。闘気には限界があるため無駄な浪費を避けるためである。
本堂から放たれる濃密な闘気は”我ここに在り”
という住職の意思表示に違いない。
大和は本堂の中で住職の背中を見た時悟った。
「……今更何をしに来た」
背中で語るを体現する住職は背を向けたままいう。
「単刀直入に申します。
私に、力を授けてください」
大和は畳の上に頭をつけた。
「たわけ!」
本堂に轟音が響く。
けれども大和、住職、倉科の三人は微動だにしなかった。
「基礎さえ、基礎さえ満足に為さなかった者が
力を授けてくれだと?正気ではないわ!
力を己で得るもの、そう教えたはずだ!」
住職が立ち上がる。
その身の丈はあまりに大きすぎた。
「愚か者め、ついてこい」
長い白い髭を蓄えた住職は本堂から立ち去り、
そのあとを二人は追う。
別の御堂に来ると明かりは薄暗く、
四隅の柱には修行の身の弟子たちが闘気を放っている。
「儂に、一撃を加えてみよ」
厳かに住職は構えをとる。
大和は目を閉じ、目をカッと見開く。
畳を親指で掴むようにして急発進する。
そのまま接近するのかと思いきや間合いに入るか入らないかのところでまた親指を軸にして
動きを変える。
しかし大和の動きに住職は動じない。
背後から一撃を加えようとした。
しかし住職はそれを左に回転しながら躱す。
僅か、一瞬の大和の伸びきった拳を見逃さなかった住職は左足の突きを大和に与える。
全身に闘気を纏っていた大和は辛うじて外傷を
つくらないかったが強く吹き飛ばされ内臓はダメージを負っていた。
追撃するようにして柱にもたれる大和に闘気を込めた突きを放つ住職。
大和はそれを避けると柱は消し飛んでいた。
寺の中は滅多に傷つかない。
結界のようにして弟子たちが常にオーラを寺に纏わせているからである。
しかし住職のあまりの一撃に寺の柱は耐え切れなかった。
大和は体勢を取り直して動きを撹乱する。
けれどもまたしてもその動きは住職に看破され通用しない。
畳の上に大の字になる大和。
「貴様は動きが単調だ。心を読まずとも
わかる動きはあまりに軟弱だ!」
大和の長い修練は始まったばかりであった。
今気づいたけど今日木曜日なんだね
1日遅れてすまんな
乙ー
続き来てた
良いのう
土曜投下すます
待ってます
水曜に2話分投下します。
遅れてごめんなさい。
第5話「多重能力者」
ホワイトクラウンが新東京駅の北側、新東京公園をナワバリにしているのと同じように西側の
洞巌公園は黒十字が仕切っている。
噴水広場を中心とした円状の公園にはほぼ常に
黒い服装の男らがいる。
噴水近くの大理石に腰をかけているのは牧、黒十字のアタマの男だ。
彼は常に片手に本を持っていた。
彼の顔はというと確かに綺麗な顔立ちをしていて男前だがこれといった特徴のないフツウである。
しかしホワイトクラウンのような寄せ集めとは違い黒十字は牧を崇拝するかのように硬い結束で結ばれている。
まるで一つの宗教団体だ。
これは彼の能力による。
彼の能力は接触感知というもので触れたものの
残留思念や潜在意識を把握する能力であった。
これによって部下の生い立ち、トラウマ、癖を見抜きあたかも全知全能のように崇められている。しかしこれは彼が自ら装っているわけではない。限られた人間が波動、オーラ、闘気といった同一のそれを備えているとはいえ、部下の中では皆、牧が語らないにしても何らかの能力を持っていることは解っていた。だけれども部下のほとんど、いやその全ては彼に対する強いロイヤルティを抱いているのである。
彼の能力はそれとは別にあるものがある。
精神細菌。これは対象に芽というものを感づかれずに植え付け次第にその精神世界を気づかれずに支配するというものである。
そんな業物な能力を持つ彼には今悩みがあった。
北からのホワイトクラウンの侵撃に加え、
南東からの赤木組による思惑が見え隠れしていたからだ。
これは街の顔役、島大和が突如いなくなったからである。
これによりほとんどのこの街の組織に隙が生まれまるで冷戦のように互いを睨み合うようになり始めた。
そんな中ついにホワイトクラウンから果たし状が部下数名をボロ雑巾のようにされた上に届いた。
決断のとき、といっても彼には進むことしか許されなかった。部下の皆が自分に期待している、これは彼にとって辛いと感じさせていたのである。
精神干渉系統の能力を持つ彼の悩みは実にセンチメンタルなものなのである。
三日後、ホワイトクラウンと黒十字の抗争が始まることになる。
ホワイトクラウンは足に電動制御の車輪を付け
壁を軍隊蟻のように滑り走る。
反対に黒十字の面子は彼らの縄張りを動かず
じっと構え防御の一点であった。
実力は拮抗、数で誇るホワイトクラウンに対し、黒十字は吸血鬼が十数名いるため少数精鋭型にホワイトクラウンはなぎ倒されていく。
抗争が始まり、一週間が経った頃ついに桐島と
牧の大将戦が始まろうとした。
「こんにちは、マキクン」
「どうも」
たった一言交わした後、互いに攻撃を仕掛ける。
体操競技のゆかのようにアクロバットな動きを見せる牧、桐島は長袖に巻きつけたワイヤーの先の針を壁に飛ばし牧と距離をとる。
牧は着地とともに波動を固めたエネルギー弾を
桐島に飛ばしていく。
桐島は蜘蛛のように壁から壁へワイヤーにより
エネルギー弾を躱す。
桐島は知っていた。
牧の能力が精神干渉タイプでその多くが接触、
または波動に触れることでハマるものであることを。
いつになく慎重に桐島はシカケを済ましていく。おそらく牧には感づかれているだろう。
けれども技巧的に感づかれないようそれを済ませていくことよりも牧に接触しないことの方がはるかに優先順位が高かったのだ。
(そろそろか)
意味ありげに牧は思う。
その頃には少しづつ力の差が見え始めていた。
やはり近距離攻撃を主とする牧よりも中距離を
主とする桐島に軍配が上がったのだ。
牧のズボンはところどころが切り裂かれ生々しい傷が見えている。
「その傷痛そうだねぇ!
例えばこう思ったりしないの?
ワイヤーに痺れ毒や催眠毒を仕込んでないか
とかさぁ!」
「その発言が仕込んでないことを意味してるね
そういうのは考えるほど無駄じゃないか」
「流石ぁ!でもこれじゃあ
お得意の芽は使えないねぇ!」
ニヤリと桐島は笑う。
すると牧もニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、やっぱり勘違いしてたか。
君がどうしてそれを知ってるかは
すごく気になるけど」
「君、負けたね」
「!」
桐島の動きが止まる。
膝は地に着き、震えが始まった。
「何も手で触れるだけが条件じゃない。
例えば視覚ではめることだってできるだろ」
「君が見えていた僕の波動の色の
赤が芽なのさ。そろそろ意識が
変わる頃じゃないかな」
桐島の震えが止まった。
この時牧は一片の疑いもなく勝利を確信した。
「俺の名前は桐島、明だ」
涼とは明らかに声色が変わる。
波動の色も白から紫へと変貌する。
「想定外だ。………多重人格者か!」
明と名乗る青年は桐島の本来の人格である。
これを説明するにあたって桐島涼の生い立ちを語る必要がある。
まず、桐島涼は日本人ではない。
彼は中東系の出生国不明の若者である。
かつて中東では日本国と同じく20年ほど前、
エネルギー資源の争いによる内争が頻発していた。
しかし彼ら同士が戦っていたわけではなく、
それぞれが雇ったPMCによる間接的なものだ。
桐島涼はそんな争いの中で命を授かる。
彼は文字の前に安全装置の外し方を習った。
そして本を読めるようになる前に人を殺した。
戦争による悲劇そのものである。
それから内戦が終わると彼は七つだった。
当時内戦が終わった中東では観光ブームが到来し多くの観光客が押し寄せたという。
そんな観光客の中にある博士がいた。
彼は心理学を専門としていた。
そんな彼は涼のことをほんの少しだけ不憫に思った。
しかし博士は決して人格者ではない。
まず博士がしたことは涼という実験素材による
人格の植え付けだった。
戦争の悲劇による殺人のプロをうまく隠すためにリセットしてしまおうと考えたのだ。
博士の目論見はうまくいった。
穏やかな人格は表となるようにそのままの名を名付け、かつての人格は裏となるよう新しい名前の明と名付けた。
それから博士は涼を手放し、涼は新東京に居ついた。
そんな中、精神干渉という涼の心の錠を開けるような真似がなされたことによって再び凶暴人格の明が目覚めたのだ。
明は腰からバタフライナイフを取り出すと
牧との間合いを瞬時に詰めるが如くナイフを展開させながら高速移動する。
普通、波動というものは自然現象系、身体能力系、精神干渉系、武装系、波動変化系と別れていて大体の能力者はそれらのうち二つのコンパウンドである。だが、人格が変わると能力は変わらないにしても系統が変わることがある。
涼の系統は自然現象系と波動変化系だった。
しかし明と交代することにより白い電撃から
紫電という自然現象系と身体能力系に人格と共に変化したのだ。
この勝負、こうなると明らかに牧は分が悪かった。精神干渉系という肉体攻撃をほぼ伴わない系統に対して高速移動が可能な身体能力系は相性が悪すぎる。
しかし、第三勢力の参入がこの勝負の行き先を
闇に葬る。
明のナイフが牧の首元に刺さろうとしたとき、
黒い影が明の首元を狙う。
「この勝負、ウチがもらった」
赤木組若頭、[禁則事項です]である。
彼はビルの上から三人を見下ろした。
明の首元を抑えるは殺し屋ウォーカーだ。
明はそのとき全てを悟った。
これは罠だったと、はじめからこの抗争は彼らの手によって構想され計られていたと。
「正解だ。クソガキ壱号、
此のシマはうちの管轄と
此のときを持って決めた。
何、少し協力してほしいことがあるんだ。
そこのクソガキ弐号もな。嫌だったらうちの
百鬼夜行と戦争だぞ」
この状態で二人はうんと頷く他ない。
互いに闘気を使って披露している上、百鬼夜行などというわけのわからない妖怪を相手にするのは生命の危機を感じるほどの馬鹿げた話だったからだ。
「クソガキにしては聞き分けがいいな。
話はそこの吸血鬼が話す。黙って聞いとけ」
この街の人間が生命の危機に侵されているのは
何らおかしくないことである。
しかし今回はちょっと、いやすごく話が違うようだということは子供でもわかった。
もう一話しばらくしたら投下する
乙
メール欄にsagaつけた方がいいと思う
待ってる
保守
保守
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