実録! テレポート装置が普及した世界 (42)

20XX年。

テレポート装置が普及して十数年が経った。

今回はそのテレポート装置が販売、普及されるまで。

その結果起きた人々の生活の変化。

そして――社会がどうして崩壊したのか。

以上を辿っていきたいと思う。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1469105217

まずはテレポート装置の説明から始めよう。

テレポートとは離れた場所に一瞬で移動することである。

その意味の通りこれで行えるのは、二つの装置間の転送だ。

この際、距離の制約は存在しない。

10mだろうが、1kmだろうが、国と国の間だろうが、地球の裏側だろうが一っ飛びである。

そして転送できる物にも制限はない。

生き物でも、物資でも転送可能である。

装置の大きさは冷蔵庫を少し大きくしたくらい。

家庭の電力でも十分に使えるため、今や一家に一台テレポート装置は欠かせないものとなっている。

それを可能にした技術は……詳細に関しては難解なため省略する。

とにかく安心、安全で副作用なども一切起こさずに瞬間移動出来る理論と思っていいだろう。

そして装置を開発したのはテレポート社……世界的に有名な大企業なため皆さんもご存じのはず。

しかし、その当時は名もないベンチャー企業の一つであったのだ。

当時転送技術というものは眉唾ものの理論として扱われていた。

そんな不確かなものに、大企業はリソースを割くことはなかった。企業が大きくなればなるほど保守的になるのは今も昔も同じである。

そういうわけでフットワークの軽いベンチャー企業、テレポート社が、当時理論を研究していた大学との共同開発という形で装置を作り上げたのだった。

とはいえ、初期のテレポート装置の値段は高く一般庶民の手が出るものではなかった。

また、本当にそんなことが出来るのか、詐欺じゃないかという声もかなり大きかった。

その反応を予想していたテレポート社の対応はきわめて普通だった。

テレビで大々的に宣伝したのだ。

CMで、ニュースで、バラエティの番組で……とにかくテレポート装置を宣伝しまくった。

開発費用がかさみ、金が底を尽きそうになっていたベンチャー企業にとっては一種の賭けだった。

しかし、社は確信を持っていた。

「きちんと我が社の製品を知ってもらえれば売れる」と。

そしてその考え通り……テレポート装置は売れ始めた。

とはいえ、最初は少しずつだったと言っていいだろう。

テレポート装置が社会に浸透していないため、個人での使用しか方法が無かったからだった。

遠く離れた友達、恋人、家族の元に……そういう使い方のみ。

それでも便利だったため売れていたのだが……発売から一時して、爆発的に普及したきっかけがあった。

とある観光地がテレポート装置を設置、ポート開放を無料で行ったことである。

テレポート装置は、電話のようなものだ。電話が声を伝える代わりに、装置は人を送るといった解釈で構わないだろう

つまり、電話番号のように一台毎に固有のパスワードが設定されていて、そのパスワードを登録している装置にしか転送できない。

そうやって制限しておかなければ、知らない人間が突然転送してやってくるという事態が起きかねないからだ。

ポート開放とはその固有のパスワードを誰にでも分かるようにすること。

つまり、テレポート装置を持っていれば誰でもその観光地に一瞬でいけるようになったということだった。

効果は瞬く間に現れた。

装置さえ持っていれば、無料で行けるのだ。

とりあえず、という感覚で所有者は観光に訪れる。

もちろん中には来ただけで、すぐに帰った者もいただろう。

だが、おみやげを買ったり、宿に泊まったりとする人は目に見えて増えた。

基本無料で配ったアプリで気に入った者がアイテム課金するのと同じ理屈だった。

スマホ(テレポート装置)さえ持っていれば楽しめるというわけだ。

その観光地は人気があったがアクセスが不便だったという側面もあるだろうが、増収増益は目に見えるほどだった。

そして観光地に行った者もSNSなどで感想を上げ、拡散される。

他の観光地も、装置を持っていない者も後に続けとテレポート装置の需要は爆発的に高まった。

そうしてテレポート装置は普及していったのである。

以上、普及までの道筋を語った。

次からは普及してからの変化、弊害などを語っていきたいと思う。

次回は産業を中心に語っていきたい。



……ちなみに、この年テレポート装置にコンビで一人がハエの被り物を、一人がハエの着ぐるみから頭だけ出して表れるという設定のコントで人気を得た芸人がいたらしい。

こんな感じでテレポート装置が流行ったらというのを語っていきたいと思います。だいぶ見切り発車ですが。
開発は軍だったり、国の機関だったり、普及方法も普通に最初から需要があって転売屋が買い占めたり、とか考えましたがこの方法で行きます。スマホとかも最初はそこまで普及してなかったし、そんな想定で。


面白そう

ザ・フライは遥か未来まで語り継がれる名作映画だな

産業編投下します。

前回はテレポート装置が普及するまでを語った。

今回は普及した結果起きた変化、特に産業を中心に語っていきたいと思う。

産業に関しては善悪どちらにも影響があったと言えるだろう。

テレポート装置が普及したと見るや否や、飛びついたのがインターネット販売大手のA○azonだった

自宅のテレポート装置のパスワードを書き込み、注文することでテレポート装置を介して商品が届くサービスを始めたのだ。

それまで「注文したその日に届く」などのサービスを行っていた同社。

それがテレポート装置を介したサービスでは「注文から一時間以内に届く」を売り文句にしていた。

これにより利用が倍増。業績をさらに伸ばした。

負の側面としては業種ごと壊滅した例がある。

その一つに運送業が挙げられるだろう。

前述の通り、テレポート装置は物資も送ることが出来る。

宅配便を使わずとも装置を使えば一瞬で物を届けられる、となれば利用の機会が無くなるのも仕方がないだろう。

そういうことで多くの運送業者が潰れることとなったが、とはいえ完全になくなった訳ではない。

テレポート装置を持っていない家庭に送る、装置を使って荷物を送るなど不敬だという前時代的な考えを持つ者などを相手に細々と続いている。

交通機関はテレポート装置が流行りだしても一時は役割があった。

どこもかしこもテレポート装置を置いているという状況では無かったからである。

しかし、会社が社員の通勤用ポータルの設置、店も客用に装置の設置、と社会にテレポート装置が迎合していく内に交通機関の役割は無くなっていった。

今では観光用に飛行機や船、電車などが残っているばかりである。

また、不動産業でも大きな変革が起きたと言えるだろう。

これまで駅に近いからという理由で物件の値段が高くなったりしていたのが通用しなくなったからだ。

それどころか田舎の土地の方が売れるという事態にまでなった。

テレポート装置を使えば、どこに住んでいようが交通の便は気にしなくてもよい。

となれば、田舎の方が土地も安い、空気もいい、雰囲気も良い、と良いことずくめだ。

また、外国からの客も増えた。

日本に家を建てて、テレポート装置で通勤、アメリカで仕事ということも可能だからだ。

そういうわけで不動産業はグローバル化を迫られた。

サービス業にとっては経営者的には朗報、雇われる側からすれば悲報だった。

チェーン店やフランチャイズなどで展開する企業の話である。

多くの店舗を展開するその業態の意味が、テレポート装置によって無くなったのだ。

これまで近くにあるA店に行くとなっていたのが、テレポート装置により遠くにあるA店に行くということが可能になった。

つまり多くの店舗を展開せずとも、一つの店舗を持っていればテレポート装置で客は全国から来るのだ。

そういう理由で店舗数個を残し他は閉店。

経営者側からすれば店舗を減らすことで維持費がかからなくなった。

閉店したところで雇われていた者は仕事が無くなったという訳である。

特にコンビニではその動きが顕著だったと言えるだろう。

近くて便利がテレポート装置により近くなかろうと便利になったからだ。

距離が関係ないならば、割高なコンビニよりスーパーで買おうという者が増えるのも仕方がない。

コンビニは買い物のしやすさを売り出すなど、あの手この手でサービスを変えることを迫られていた。

以上産業のことを語った。

省略したが、三次産業ばかりでなく一次二次にも余波的な影響はあった。

田舎に人が集まったことで農業も変わったり、工業でも車が売れなくなったりと。

とにかくテレポート装置は多方面に影響を与えたのである。

次回、最後にテレポート装置が起こした社会的な問題について語りたい。



……ハエの芸人は、翌年には飽きられてテレビから姿を消したそうな。

それではまた次回。

乙乙

乙乙

車はドライブデート用に見た目重視か快適さ重視になっていそうだな

むしろ何故その芸人は流行ったんだ…

現実でも今考えると何で流行ったんだろう?って芸人は結構いるからな

新しく普及したものに乗っかった芸人は売れる
がそれに慣れたら速攻飽きられる

こういう技術革新では結局、ベンチャー企業側が訴訟やら賠償やら信用失墜やらで倒産するよね
慎重に事を構えて、爆死したやつらから学びながら、正しい運用方法を見つけた大企業が生き残る

最終回の今回はテレポート装置によって起こった社会的問題について言及したい。

たった一つの発明が、どこまで社会に影響を及ぼしたのか。

予想している学者もいたが、想定以上だったと言わざるを得ないだろう。

まず、問題となったことがリアル・タックスヘイヴン(租税回避地)だった。

タックスヘイヴンとは、ペーパーカンパニーを税金の安い地域で設立。そこに資金を回すことで、税金の徴収を回避するという社会的になった問題。

それが現実で行われるようになった。

テレポート装置の普及により、どこに住んでも変わらず生活できるようになった世界。

そこで富豪の一部は住居を税金の安い海外に設立。そこで暮らすようにして税金の取り立てを逃れたのだ。

生活自体はテレポート装置により、元の国に住んでいるのと変わらずに送れる。

各国はこの問題に頭を悩まされることになった。

他にも後を追ってテレポート装置を開発する会社もあった。

量産体制が整ってきたとはいえ、まだ高かったテレポート社の装置。

そこに中国の会社が安くで装置を販売したとなればそちらに飛びつく者もいるだろう。

しかし――一部の人間には分かりきっていたことだったが――事故が多発した。

装置の誤作動により『いしのなかにいる』状態になる者。

実際にハエと体が入れ替わってしまう者。

はたまた、装置が爆発するなど。

そういう事態が多発したため、事故もなくサポートも手厚いテレポート社の装置がますます信頼を高くした。

また、社会問題としてはこれも語らずには通れないだろう。

テレポート装置流行の初期に発生した、通称『歩き族』である。

テレポート装置を使って移動することは間違っている、歩いて移動することこそ人間の本来の姿だ、と主張して止まない集団だった。

最初は一部の者の訴えだったのだが、それがテレポート装置によって職を失った者、業界などが加わることにより一時とんでもない規模に達した。

しかし、程なくして自然消滅をする。

頻繁に行われるようになったデモ。その会場設営を頼んだ業者がテレポート装置を使って資材を運ぶというような矛盾。

また、テレポート装置が社会に定着することでその便利さが広まり、徐々にその声に賛同する者はいなくなっていった。

テレポート装置一つ一つにつけられた固有のナンバー。

電話番号のように、それを知っている先にしか転送することが出来ない。

知らない人間が転送されてくるというような事態を防ぐというプライバシーを守るための機能だった。

が、それもやはり完全ではない。

ナンバーが流出するという事態が発生した。

するとどうなるか。

メアドが流出した携帯で迷惑メールが絶えなかったように、絶えずゴミを送りつけられる。

そういう嫌がらせが多発した。

有名人の場合はもっと悲惨で、流出したナンバーを元にファンが押し寄せるという事態が多発した。

それもあってテレポート社はセキュリティを強化したが、やはり完全に防ぐことは出来ず、時折ニュースの一面を飾ることになる。

そして……テレポートテロも発生することになった。

テレポート装置は冷蔵庫くらいの大きさだ。

電力も家庭でまかなえるとあって、そこまで必要としない。

そのため車に装置を乗せて、対象の建物に突貫。

装置を起動させてテロリストを送り込むという、俗に言うテレポートテロが多発した。

また、第二回で語ったようにチェーン店を展開する意味がなくなり、一つ一つの建物が巨大化、人が多く集まる場所が多くなったのも、テロ被害の拡大させた。

テロにあっても、テレポート装置で逃げればいい?

テロリストが真っ先にねらうのはその建物にある装置の破壊である。

アルファコンプレックス社製のテレポート装置とかも紛れていそう

また、戦争のあり方も大きく変わった。

どれだけ相手国に自国の装置を置けるか、相手国の装置の番号を盗めるかとなったのである。

戦闘機でやり合うより、テレポート装置で相手国の施設に侵入、破壊をした方が効率がいいのだ。

直接的に人がやり合うことが多くなる、奇襲が多くなる。

こういうことにより戦争に置ける死者は増えることになった。

以上社会の問題を語った。

しかし、それは前座であったと言えるだろう。

今までの問題は国というものがある前提で起きている。

だが、テレポート装置が開発され、それが普及したことにより国境が機能しなくなったのだ。

このときの社会は国という存在を前提に作られている。

その国が無くなるということは……社会の崩壊を意味する。

――だが、皆さんがこの番組を見ているように人の生活は続いている。

テレポート装置により、国が機能しなくなった今。

地球全体を一個の国として統治をする方向に進んでいるからだ。

確かに社会は崩壊した。

だが、新たな社会は作られている。

この世界が行く先を……我々は追っていきたい。



『実録! テレポート装置が普及した世界』 完

というわけで完結となります。

社会に起こる問題を精巧にシミュレート出来れば面白いかと思ったのですが、いかんせん力量不足でした。
いや、こうなるんじゃね、って思う部分が多々あると思います。
……誰かもっとうまく書いてくれませんかね。他にも題材は人の心を読む機械が発明された、透明人間に成功したとか色々あると思いますので。


最後に余談
地球を一個の国家としたこの世界。次はテレポート装置を宇宙に射出、転送することにより、宇宙に進出する。そこで発展した人類が、地球出身とは違う文明を築いたり、我らが故郷を取り戻せーと戦争したり。……完全にSF。

こういう現実的SF作品好きだよ
乙でした

乙乙


実際は店の巨大化よりも絶景スポットに建つことで秘境地の高騰とか起こりそう

おつおつ


冒険者の人気が高まりそう、
テレポートできない秘境ってことで
テレポート阻止とかできないのかな?有名人だったら特定の装置同士でしかできないとかの対策が…

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