【モバマス短編集】「貴方がくれたもの」 (37)
地の文注意。
拓海と加蓮の二本立てです。
4th抽選結果なんてなかった。いいね?
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【向井拓海】
時の流れってのは残酷なもんで、
ガキの頃から野郎と遊んでるのが普通だったアタシは色々戸惑ったんだ。
「女の子らしくしなさい」
完全に、チャンスを逃しちまったんだよな。
男と居るほうが気が楽だったし、お淑やかなんて性に合わねぇ。
男子とつるむってことは、女子とはつるめねぇってことだ。
「べつにいっか」だなんて思ってたら、いつの間にか煙たがられてた。
怯えられるのが苛立って、アタシは自分の居場所を探した。
その場所は傍から見りゃ下品で、低俗に見えてたんだろうよ。
でも、そういうところでしか生きられなかったんだ。
一生そういうところで暮らすもんだと思ってた。
「女の子らしく」なんて、いつの間にか忘れちまった言葉だった。
だから、あの優男がアタシに声掛けた時はイラついたってよりも、恥ずかしかったんだ。
胸の奥がムズムズするような気がしてさ。
でも。
すっげぇ、嬉しかったのは今でもしっかり覚えてんだ。
授業中。
ガラリと教室のドアを開けようが、今更こっちを見る奴は居ない。
先公もアタシを確認してそのまま授業を続けた。
別に気にもしない。いつも通りの風景だ。
遊び歩いて不登校だった腫れ物が、
アイドル活動で遅刻気味な腫れ物になっただけだ。
学校だってあの野郎が青春だの云々言うから来てるだけだ。
別に今さらオベンキョーがしたいわけじゃない。
……ねみ。
里奈の奴が昨日遅くまでラインしてきたせいで寝不足だ。
カバンを机の脇にかけて睡眠に入る。
カンシンイヨクタイド。
んなの知らねぇよ。
アタシにやることは他にある。
グースカと惰眠を貪っていたんだが、ひそひそ声で目が覚めた。
……聞き覚えがある。いつもの奴らだ。
「ねぇ……また来てるよ? くすくす」
「ほーんっと、何しに来てるんだろうね。『お仕事』忙しいんじゃないの?」
アタシの席から少し離れたところに座っているグループ。
お世辞にも頭のいい学校とは言えねぇし、通ってる奴らもそりゃお察しだ。
校風なんて破って当然とばかりに『おめかし』して、調子に乗ってる。
普段からカリスマを見てるせいか、ヘッタクソなギャルメイクに笑いを堪えるのが大変だ。
そんな『カリスマギャル』達はどーもアタシが気に食わないらしい。
アイドルなんぞやってるからか、人気もありゃ僻みもある。
女子特有の陰湿なやつだ。アタシにだけ聞こえるようにわざと漏らしてやがる。
……はぁ、しょーもねぇ。
「なんの『お仕事』してるんだろうね?」
「さぁ? でも、ズルは使ってそうじゃない?」
「分かる。あの身体ででしょ?」
「そうそう。案外アイドルじゃなくて、別なほうで稼いでたりして」
「ウリ?」
「そーいうこと♪」
いい加減に腹が減ってきた。
席を立つとのっぺらぼう達が肩を震わせてこっちを見る。
その反応すらも面倒くさい。
別にアタシがバカにされようがなんともねぇ。
相手にするだけ無駄だ。勝手に言わせときゃいい。
だが。
守るもんは守んなきゃいけねぇ。
「てめーらが思ってるより、泥くせえもんなんだよ。アイドルってのは」
通りすがりに言ったせいで、奴らがどんな顔をしてたかは分かんねぇ。
そもそも鼻を明かしてやろうとか、そんな下品な感情じゃねぇ。
アイドルが、ウリで上に行けるもんだと思われてることに腹が立っただけだ。
事務所の奴らの顔が浮かぶ。
アイツらだけはバカにされたくねぇ。
ぐぅっと腹が鳴る。
全く、余計腹が減ってきやがった。
適当に昼飯を済ませて教室に戻る。
アタシはいつからこんなおりこーさんになったんだよ。
あの野郎のマヌケ面が浮かんで来て無性に腹が立ってきた。
『拓海、せっかくだから学校行けよ。お前もJKなんだぞ、JK! 青春満喫しろよ!』
何がジェーケーだ変態野郎が。嬉しそうに言いやがって。
あのバカはアタシが制服で事務所に行くとニヤニヤしやがる。
鬱陶しい。脳味噌お花畑かよとか言いたくなるが、仕事はできるから余計苛立つ。
で。
そのセーシュンってのが、これかよ。
前言撤回。お花畑だったのはこいつらの方だったみたいだ。
わざわざ買ってきたCD割らなくても、口で言えばいいじゃねぇか。
「……あ、帰ってきたよ。マヌケヅラしてるね。くすくす」
呆れてんだよ。てめーらにな。
「特攻隊長だっけ? 大したことないじゃん」
群れてりゃ強いとでも思ってんのか? しょーもねぇ。
「誰がやったんだろうね。CD割るとか」
ギャラリーが集まってきやがった。
見せモンでもねぇんだけどな。
「あ、アタシー、なんかそーいうの見たことあるよ」
「え、何々?」
「ほら、熱愛発覚とかしたらキモーイ人たちがやってんじゃん」
「見たことある! もしかして、向井さんも熱愛発覚?」
「やだ! 誰と!?」
口を開けば恋愛恋愛。いいねぇ、バカたちは。
大きくため息をついてCDの破片をかき集める。
悪いな、里奈。アタシのせいでお前まで傷つけられちまった。
例えそれが印刷された紙だろうと、ただのプラスチックケースだろうと。
アタシにはそれが腹立たしい。
でもな、アタシはアイドル。
事件なんかやらかしちまうわけにはいかねぇんだ。
だからよ、里奈。
今度単車でドライブ行こうぜ。それでチャラにしてくれ。
「あの人じゃない? よく学校に来てる」
ピクリと肩が震えた。
いや、震わせちまった。
「図星みたいだよ? えー? 趣味悪ーい。冴えないおじさんじゃん」
「もしかして、ほら、さっきの話!」
「その人とってこと? キモーい!!」
ざまあねぇな。
お前が好きなJKに冴えないおっさん扱いされてるぜ。
初めてあの猿どもと話が合いそうな気がしてきた。今度こっちから話しかけてやろう。
「キモイキモイ! マジ!?」
だがな。
「ひょっとしたら付き合ってたりして!?」
アイツはてめぇら如きに馬鹿にされるような奴じゃねぇんだよ。
「……もういっぺん言ってみろ」
猿どもが沈黙する。怯んでるわけじゃない。
ニヤニヤと意地悪く笑ってるだけだ。
それがますますアタシを苛立たせる。
「もういっぺん言ってみろっつてんだろうがァッ!!」
鈍い音が鳴って机が倒れる。
その音とアタシの声で猿どもの顔が青ざめる。
「な、何さ机とか蹴っちゃって。マジにしてんの? ウザいんだけど」
猿がウキーと鳴く。膝を震わせてるんだろうが、アタシには見えねぇ。
「アタシの話は構わねぇ。何を言ってくれてもいい。ただな」
指の骨を鳴らし、猿どもを躾に行く。
「ダチを悪く言うのだけは、許さねぇ」
一歩、一歩と近づくたびに、猿がのけぞる。
「そのブス面、ひん曲げてやろうか?」
振りかぶったその時。
「向井! やめなさい!」
生徒指導の乱入で、その場は消化不良に収められた。
野次馬共の視線に晒されて生徒指導室行きだ。ざまあねぇ。
……別にいいか。脅すだけのつもりだったし。
大きくため息をついた。
情けねぇ。アタシとしたことが取り乱すなんて。
下を見て歩いていると、ふと握りしめていた右の拳が目に入った。
……いつぶりだろうな、こんなの。
拳の震えは、いつまで経っても収まらなかった。
結局午後の授業は全部パス。
迎えが来るとかで生徒指導室に閉じ込められっぱなしだった。
別に悪い話じゃない。雑音が聞こえないだけで十分快適だった。
予鈴がなって授業が終わる。
今日はこの後レッスンだけだ。明日も学校だと思うとまたため息が溢れる。
カバンを手にとって扉を開ける。
迎えなんぞ来る前にさっさと退散だ。
お袋の顔なんて今は見たくねぇ。
「拓海ー迎えに来たぞー」
お袋の顔よりも見たくねぇ面がそこにあった。
「な、なんで、てめーがここに!?」
「ん? お前この後レッスンだろ? 俺が来ると不都合でも?」
「ないわけねぇだろうが!」
のこのこと迎えに来た馬鹿野郎を蹴りあげて校門を出る。
後ろからついてくるのが鬱陶しい。
まぁ、車で事務所までいけるのは悪くはなかったが。
「なんかあったのか? 拓海が切れるなんて珍しいじゃん」
「別に。アタシはダチを守っただけだ」
元はといえばてめーが原因だニヤケ面。
「相変わらずだな。俺は好きだよ。拓海のそういうとこ」
「はいはい」
「やだっ、たくみん冷たい……。制服だから?」
「気持ち悪ぃんだよてめぇは!」
「おーこらーれたーいっ」
年甲斐もなくはしゃぎながら楽しそうに笑う。
ホント、笑った顔も冴えねぇな、アンタは。
「お? 拓海、先行ってるぞ。車は校門の前に止めとくからな。じゃ!」
「あ、おい!」
そんなことをいって、そそくさと走って行きやがった。
ますます意味が分からん。あんなのがアタシのプロデューサーだと思うと虚しくなる。
「しょーもねぇおっさんだな、全く」
「向井!」
「あん?」
急に後ろから声をかけられた。
振り向くと、ケバめのギャルが突っ立ってる。
さっきの猿どもよりはメイクが上手いらしい。
「んだよ」
「そう威嚇すんなって。クラスメイトだろ?」
「してねーよ。何の用だ?」
どーやらクラスメイトらしい。
居たっけか、こんな奴。
「さっきの、イカしてたじゃん。特攻隊長なんだって?」
「元、な。用がねぇなら行くぞ」
「だから待ちなって」
そういうと、クラスメイトは急にもじもじしやがった。
んだよこいつ。そっち系のやつか?
「あ、アタシ、……美嘉ちゃんのファンだから……サインとか欲しいんだけど……」
「……ぷっ」
思わず笑いが溢れちまった。
良かったなカリスマ。支持率バツグンじゃねぇか。
「笑ったな!」
「あはははは。悪ぃ。いいよ。サインぐらいもらってきてやるよ」
「マジで!? ありがと! あ、LINE交換しよ」
「あァ。事務所に居たら隠し撮りでも送ってやるよ」
「話分かんじゃん! サンキュー!」
コイツと仲良くやれそうだと思うと、学校生活も捨てたもんじゃねぇ。
ダメだな、アタシも。
しっかりダチづくりしときゃよかったんだ。
美嘉ファンとしょうもない話をしながら歩いていると、見慣れた車が目の前に止まった。
どうやら時間のようだ。少しだけこの時間が名残惜しかった。
「迎えみたいだね。明日も学校来る?」
「おう。忘れてなかったら、そんときサイン持ってくるよ」
「マジ約束ね! あ、LINEしとくから見といてね!」
「はいはい」
扉を開けて車に乗ろうとしたその時。
「向井! また明日な!」
我ながら、マヌケな面をしてんだろうよ。
マヌケ面ってのは伝染するみたいだな。
後で病原菌をシメとかなきゃな。
「おう、また明日」
車に乗り込んで窓から外を眺める。
夕焼けがアスファルトをオレンジ色に染め上げていた。
「青春……か」
おい、そこの冴えないおっさん。
アタシも青春満喫できそうだ。
「……ありがとな」
「ん? 今ありがとうって言った? 制服たくみんが俺にありがとうって言った?!」
「るっせぇ! 黙って運転しやがれ!」
「だって中々ないじゃん! たくみん俺にありがとうって言わないじゃん!」
「あああああああああああああ、もう!」
黙って聴き逃してりゃいいのに、この男は。
絡むのも面倒くさいんで徹底的に無視を決め込む。
シメられないだけマシだと思え。全く。
そうだ、今から美嘉へのイタズラでも考えるか。
愛海の奴と打ち合わせしといて、小梅も巻き込むか。
考えてる内に楽しくなってきやがった。自然と口角が上がってくる。
「女の子らしく」だなんて、やっぱ無理だ。
こういうののほうが性に合ってる。それがアタシなんだ。
でもよ。
冴えない魔法使いのおかげで、アタシは今、輝けてる気がするんだ。
終わり
そうそう、こういうのでいいんだよ
【北条加蓮】
お洗濯物を取り込んで一息。
入れておいた緑茶と紗枝ちゃんからもらったお煎餅で3時のおやつ。
最近お煎餅が美味しい。私もおばさんになったなー。
やだやだ。これでもピチピチの20代だもん。
「いい天気だなー」
昔は青空が嫌いだった。
あの部屋からずっと見てても何一つ変わらないから。
真っ白なお城は退屈で、お空が時間を止める魔法でもかけてるんじゃないかって思ってたから。
なーんてね。
こんなの、私らしくなかったかな?
『アイドルだった頃に戻りたいか?』なんて、今でもあの人は言うけど、正直本当に悩んじゃう。
あの頃の凛や奈緒に会いたいって気持ちもあるし、
幸せな今に帰れなくなるかもとか思っちゃうと、首を縦には振れない。
本当に幸せなんだ、今。
でも、少しだけ刺激が欲しくなってる。
『卒業』した時もそうだった。
欲しい欲しいと思ってたものは、手に入っちゃうと呆気ない。
手に入れるまでは必死だったのにね。自分の単純さに笑っちゃう。
だから、久しぶりに。
今日はちょっと遠くに行ってみよう。
お気に入りの服を着て、お気に入りのネイルをして、事務所に向かう。
別に用があるわけじゃない。
もうアイドルも引退しちゃって、今はフリーランスでネイルの仕事をしてるだけ。
『働かなくてもいいぞ』なんてあの人は言ってくれるけど、暇なんだもん。
だから今日は、愛しの彼に会いにいくだけ。
家で待っていても帰ってきてくれるけど、
事務所のみんなとは会えないから。
今日の私は攻めの加蓮だよ。
覚悟しといてね、Pさん♪
事務所に来るのも久しぶり。
さっきから通り過ぎていく子たちに見覚えがない。
すっかり世代交代って奴かな。なんだか寂しくなってきちゃった。
ウチの元リーダーのポスターが至る所に貼られてるから尚更。
やっぱり凄いよ、凛。
アイドルじゃ私は敵わなかったね。
真顔を決めてる凛を見ると、なんだか笑えてきちゃう。
仕事の時の凛は昔から表情が変わらないよね。
雑誌もポスターもテレビだって、いっつもキリッとしてる顔ばっか。
ファンのみんな、知ってた?
凛ってコロコロ表情が変わるんだよ?
ファンが知らない凛を私が知ってることにちょっぴり嬉しくなる。
みんなよりも、私のほうが凛のこと知ってるんだから。
「あら……加蓮ちゃん?」
懐かしい顔に会った。
結婚式以来かな? あの頃と同じように、黄緑色のスーツに身を包んでいる。
変わらないなー。相変わらず綺麗だった。
「ちひろさん、久しぶり」
「やっぱり加蓮ちゃん!? お久しぶりです!」
私だと確信して笑顔で駆け寄ってくる。
あの頃が一瞬戻ってきたような気がしてたまらなく嬉しくなった。
「今日はどうしたんですか? あ、プロデューサーさん?」
「そんなとこ。あの人、私が事務所に来るの嫌がるから」
「あらら? それじゃあ嫌がらせ? 喧嘩でもしたのかしら?」
「ううん。久しぶりにみんなの顔見たくなっちゃって」
家だとデレデレしてるくせに、外では会いたくないらしい。
全く。
こんな可愛い奥さんほっとくと、浮気しちゃうかもよ?
「事務所、大きくなったね。知らない子ばっかり」
「そうですね。相変わらずあなたの旦那さんが頑張ってますよ」
「ちひろさんがこき使ってるんじゃないの?」
「おかしいですね。いきなり耳が聞こえなくなりました」
「ふふっ」
「うふふ」
懐かしいやり取りに笑いが止まらない。
やっぱり来てよかった。
私の居場所は、確かにここにあったんだ。
ちひろさんに案内されて、みんなと再会した。
大人になったありすちゃんとか、桃華ちゃんとか。
もう年少組だなんて言えないね。
テレビでは見てたけど、本当に大きくなった。
「綺麗になったね」って思わず零れちゃった。
『何言ってるんですか。私、加蓮さんに会ってちょっと凹んでるんですけど……』
ジト目なありすちゃんの顔が忘れられない。
そりゃあ、ねぇ?
トップアイドルまではいけなかったけど、私もそれなりに頑張ってたしね。
まだまだ若い子には負けてられないよ。
それに。
いつまでも綺麗じゃないと、私の旦那さんが取られちゃうもん。
「やっほ」
『昇進した~』とか嬉しそうに言ってたけど、こりゃ凄い。
一室貰えるとか、本当に偉くなっちゃったんだね。
昔みたいにアイドルたちと無駄話しながら仕事する~だなんて、もうないのかな。
「か、加蓮!? なんで? 加蓮なんで!?」
「浮気調査官です。取り調べに来ました! 手を挙げろ!」
「してねぇよ! あー、ビックリした。一瞬スカウトしかけたわ」
「あらあら。奥さん口説いてどうするの?」
「もう一回結婚する」
「ばか」
「さーって、美人さんとデートがしたいので、私は仕事を終わらせますよっと」
「がんばー。ブラックでいい?」
「さんきゅ」
コポコポとコーヒーメーカーが音を立てる。
独特の匂いがたまらない。
忙しなくキーボードを叩いてる彼は昔のまま。
本当に結婚したのかな?
式を挙げてから何年にもなるのに、未だにそう思っちゃう。
「ねぇ、Pさん」
「おー?」
「今日、晩ごはん作ってないんだ」
「職務放棄だなーコンプライアンス違反だぞー」
「だね。だから罰として、美味しいお店を予約しておきました」
「褒めてつかわそう」
「ははーっ、ありがたきお言葉ー」
なんちゃって。
こんなやり取りが本当に楽しい。
「ふわぁ」
なんか、疲れてきちゃった。
久しぶりに事務所に来たからかな。
「寝ててもいいぞ? 終わったら起こすし」
「……ごめん。じゃあ、お言葉に甘えて……」
ふかふかのソファーに身体を預けると、睡魔が加速してきた。
この幸せな時間を睡眠に使うなんて、とっても贅沢。
神様がいるなら、頼んじゃおうかな。
どうかお願い。
これが夢じゃありませんように。
「……れん。加蓮?」
身体を揺らされて起きた。
本当に寝入っていたらしい。
眼をこすりながら声の主を確認すると、思わず声が出ちゃった。
「……あれ? 若い?」
「はぁ? 何言ってんだ?」
夢で見ていたのよりも若々しいプロデューサーの顔。
同時にどっと疲れが押し寄せてきた。
あちゃー。夢だったか。
「もうみんな帰っちゃったぞ。明日も学校だろ? 送っていくから支度しろよー」
気づけば辺りは真っ暗。
ずっと寝ていたせいか、制服にシワが寄っている。
お母さんに怒られちゃうかも。
「加蓮ー、電気消すぞー」
「あ、待って。今出るから」
帰りの車の中で、私はやっぱり消化不良。
いっその事、こっちが夢だったらいいのになって思っちゃう。
そこまで考えて、本当にこの人のことが好きなんだなって実感する。
「なんか今日口数少ないな。まだ眠いか?」
「ううん、平気。誰かさんと一緒に寝たからね」
「そういう言い方はやめなさい」
「ふふっ。はーい」
まぁ、これはこれでいっか。
もう一回、私に惚れさせてあげるんだから。
「ねぇ、Pさん」
「んー?」
「もしさ、Pさんが結婚しててさ」
「なんだいきなり」
「疲れて帰ってきたのに、奥さんがご飯作ってなかったら、どうする?」
「ほぉ? そうだなー」
運転しながらもしっかりと考えてくれる。
なんだろう。凄くドキドキしてきた。
「罰ゲームだって言って、無理やりデートに連れて行くかな」
「なにそれ」
急に暑くなってきた。
あれ? どっちが夢なの?
「どうした、加蓮。顔が真っ赤だぞ?」
「なんでもない! なんでもないんだから!」
バカだな。すっかり期待しちゃってる私が居る。
なら、少しだけ。
このまま踏み出してもいいよね?
「Pさん。私がお嫁さんだったら、嬉しい?」
もう、抑えられない。
この気持ちは吐き出してしまいたい
「お、スキャンダルか? 上等だ。一緒に写真撮られようぜ」
「そうじゃなくて! 本当にわた」
「加蓮」
捲し立てようとした私をPさんが諌めた。
真剣な眼差しが私の鼓動を早くする。
それは冷たく突き放すものではなくて、
とても温かいものだった。
「全部終わったら、な?」
その一言がたまらなく嬉しい。
本当にこの人は。
「……うん」
エンジン音だけが静かに響く。
昔に戻れても戻らないなんて、夢の私は思ってたけど、
これはこれで悪くない。
本当に、どっちが夢だかわからなくなってきた。
「着いたぞー」
気づけば私の家の近く。
夢でも現実でも、幸せな時間はあっという間だ。
噛み締めていてもどんどん過ぎていく。
だから少しだけ、傷跡を残しておこうと思った。
絶対に忘れない、そんな傷跡を。
「ねぇ、Pさん。私さ、もっとアイドル頑張るよ」
「今よりもっともっと綺麗になって、もっともっと可愛くなる」
「あなたが育てたアイドルはずっと成長していくんだから」
「でもね」
そっと触れる。
今は頬に。
本番は、未来の私に取っておいてあげる。
「この気持ちは、ずっと変わらないよ」
「か、加蓮!」
「ふふっ。また明日ね、Pさん♪」
「もしもし凛? ううん。何でもないんだけどさ」
「明日レッスン終わったらさ、うん、奈緒も誘って」
「え? 別に何もなかったよ? 考え過ぎだって」
「あ、そういえば、今日先に帰ったでしょ? 待っててくれても良かったのに」
「もー、凛はそういうとこあるからなー。ごめんごめん、怒んないで」
神様がくれた時間は零れる。
零れた時間は誰かが拾ってくれればいい。
きっとその人は驚いちゃうよ。
だって私が零した時間は、キラキラに光り輝いているんだから。
終わり
お疲れちゃんです。
モバPとちっひが駄弁るネタとオチが思いつかなかったのでこうなりました。
拓海は最近凄く好きです。
加蓮のはデレステの薄荷に感動して勢いで書きました。
副業が忙しいんでなんとも言えないですが、
その内卯月とちっひもやりたいです。仕事行きたくねぇ。
そういえば、美優さんのSSRが実装されましたが、
何回見ても所属アイドル一覧にいないんですよ。
これって悪質なバグですよね? 問い合わせてきます。
前スレ
モバP「ちひろさーん、飲みましょー」
モバP「ちひろさーん、ドライブ行きましょー」
モバP「ちひろさーん、ライブ見ましょー」
モバP「ちひろさーん、一旦終わりにしましょー」
モバP「ちひろさーん、生き返りましょー」
以上です。
なんかあったらどうぞ。
おっつおっつ、このSSの雰囲気好きだわ
乙
とても良い
面白かった
乙
たくみん主役の漫画も始まったみたいだし、これからの活躍に期待
乙!
生き返りましょーを見逃していたのか、俺…
漁ってくるわ
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