王「昔、四人の勇者がいた」(18)
これは王国の古文書にかかれていた物語である。
敵軍「よっしゃあ、門を攻略したぞ!」
敵軍「雪崩込めえ!」
ウワアアア…
王「」フラフラ
王「もはや、これまでか・・・」
姫「ちょっとふざけんじゃないわよ!」
姫「こんなところで蛮族に陵辱されるぐらいなら死んだほうがマシよ!!」
姫「ほら、そこのボンクラ!さっさと私のために戦って来なさい!」
騎士「ひ、ひいいいい」
王(もとより女王の器では無かったが、これほど酷いとは思わなんだ)
王(ああ・・・あの勇者と結婚させておけば良かった)
ホワホワーン
勇者「お呼びですか、王よ」
王「おお、よくぞ来てくれた勇者よ」
王「南の蛮族に我軍は大いに悩まされておるのだ。行って討伐してきてはくれぬか」
勇者「承りましたで候」
勇者「ところで、王よ・・・」
王「ウムウム。貴様の親は没落した貴族であったな」
王「この討伐を終えた暁には、期待しておるとよいぞ」
勇者「ハハッ!」
勇者は南の蛮族に対する作戦を立て、軍に3つの奇怪なお触れを出した。
一つには、騎乗を禁じる。一つには、派手な頭飾りを禁じる。一つには、厚底の靴を禁じる。とある。
作戦とは関係のなさそうなことばかり命じる勇者に、忠義は比するもの無き騎士も流石に苦言を呈した。
勇者「討伐軍、出発だ!!」
騎士「勇者殿、一つお伺いしてもよろしいでありますか?」
勇者「どうした、騎士」
騎士「いえ、騎士にも関わらず馬に乗るなとはどういった作戦なのでしょうか」
勇者「馬鹿者、そんなことも分からん貴様は騎士失格だ!」
勇者「自分で考えよ、愚か者!」
騎士(二回も悪口を言われた・・・クソっ)
騎乗を禁じられたため、特権階級であるはずの騎士も、徒歩での行軍を余儀なくされた。
騎士の誇りはどこへやら、鎧を脱ぎ捨て、腰が砕けそうになりながらアヒルのように
ぺったん、ぺったんと歩く姿はどこか滑稽ですらあったという。
騎士「うぐぐ・・・足が痛くて歩けない」
勇者「軟弱者め、農民を見習え」
農民兵「おらさ、朝から晩まで農作業ばっかりしよるけ、強いだが」
農民兵「騎士さんきつそうだべ。おぶっちゃろうか?」
騎士「おお、かたじけない」
農民が担ぐと、騎士は馬に乗った勇者と目線があった。
馬は昔のものだけあって小さく、子供の背丈ほどのところに鞍がある。
その鞍の上に鎮座する勇者は凛々しく胸を張り、荘厳な頭飾りを天高く延ばし、天狗も驚くほどの高い靴を履いていた。
騎士「勇者様・・・」
勇者「どうした」
騎士「いえ、なんでもありませぬ」
流石、忠義は海よりも深く山よりも高い騎士。
勇者を見ても表情一つ崩すことはしなかった。
よく見れば、日々旨いものを食べ、肥えたのっぽの騎兵共は皆腰が砕けている。
もとより頑丈だが背の低い農民兵共は、畏れ多い勇者様の御威光に平伏し皆地を向いている。
騎士(このクソ野郎。背だけでなく器まで小さいとは。これだから嫌いだ)
南方に配備された軍は土埃にまみれ、全軍何やら霞がかかって見える。
勇者「よし、今日はここで一休みだ。全軍、戦闘は明日、日が暮れてからとする。」
参謀「勇者殿、そのような作戦は・・・」
勇者「私に全権が委ねられているのだ。貴様は黙って従えば良い」
参謀「むぅ」
騎士「勇者殿。慣れぬ徒歩での行軍に主力である騎兵は疲弊しきっております」
騎士「夜に奇襲を仕掛けるというのならばいざ知らず、夜に戦を仕掛けるなどとは聞いたことがありませぬ」
勇者「貴様は反乱を何も分かっておらぬ。良いから黙って俺に従え」
翌朝、反乱軍たる蛮族の主、名前は・・・いや、蛮族に名前など必要はあるまい。
南の蛮族は兵をずらりと並べ、その士気高く、戦利品を身につけ大いに盛り上がる。
蛮族「ぐわははは。勇者と聞いていたが我等が軍に臆したようだ」
蛮族「あの貧しい薄汚れた軍を見よ。もはや勝利は決したも当然、全軍突撃だ!」
蛮族は轡を並べてどっと襲いかかる。
そこで勇者、何を考えたか頭飾りも厚底の靴も捨て、単身軍の前に飛び出していた。
蛮族「ぐわはははっ!とうとう気が触れたか・・・ふぁっ!?」
蛮族の主、驚くのも無理は無い。
敵は4尺に満たぬ小兵の中の小兵、何の役にも立たなさそうな風体である。
其奴が馬に取り付くとその腸をぶち撒け、怯んだ隙に自分の首まで飛んでいるとは思うまい。
さて、蛮族共。主を失った直後は仇を討てと息巻いていたが、低く堅固な国王軍を前に犠牲が増えるばかりである。
太陽がすっかり上に昇る頃には草臥れて自軍へ帰ってしまった。
ここで多い士気が上がるのは国王軍である。
騎士「ここで追撃の命令を!勇者殿!!」
勇者「阿呆。突撃は日がとっぷり暮れてからだ」
蛮族「ええい、王の仇を討つのが先であろう!」
蛮族「なにを、新たな王を決めるのが先だ!」
蛮族「だまれ、ここは亡き先王の民と財を如何に取り分けるかが先である!」
哀れ、卑怯なことこの上なき蛮族の主ではあったが、統率力だけあったのが災いした。
蛮族共は蛮族らしくすっかり仲間割れしてしまい、その夜を迎えたのである。
身につけた戦利品が虚しく月明かりに照らされる中、戦いはひっそりと始まった。
蛮族「グエーッ」
蛮族「な、どうし、プギャー」
蛮族「アビャッ」
国王軍、全軍突撃である。
闇夜で敵味方をどのようにして見分けるのか?愚問。輝く蛮族を埃に塗れた薄汚い国王軍が突き殺すだけである。
まとまりを欠いた軍など烏合の衆に似たり。
日が登る頃には、蛮族どもは屍となった。
勇者「貴様を生かしてやっても良いのだぞ」
蛮族「くっ、殺せ!このチビめ!」
勇者「」ブチッ
この時の般若の形相を忘れることはできまい。
親族郎党をこの蛮族の前に並べ全員の刎頚とし、その民は埋土と化した。
さて、ともあれ大勝利を収めた勇者、姫に求婚し目出度目出度となるかと思いきや現実は非情。
姫「チビは嫌い」
この言葉に逆上して危うく姫を殺しかけた勇者、英雄故処刑することは叶わず北の地へ流刑となった。
王「うむ・・・やはり、娘を殺しかける勇者はダメだろう」
王「そうだ、あの勇者と結婚させておけば!」
ホワンホワ~ン
勇者「ぶふうぶふう。お呼びですか、王よ」
王「おお、よくぞ来てくれた勇者よ」
王「南の蛮族は平定できたのは、やはり勇者の働きあってこそ」
王「しかし、東の蛮族に我軍は大いに悩まされておるのだ。行って討伐してきてはくれぬか」
勇者「ブフゥ」
勇者「ブフゥ!」
王「ウムウム。貴様の親は高血圧・高脂血症・糖尿病の末、突然死した貴族であったな」
王「この討伐を終えた暁には、期待しておるとよいぞ」
勇者「ブフゥ」
勇者は東の蛮族に対する作戦を立て、軍に2つの奇怪な命令を出した。
勇者「ブフゥ。ブフブフゥ。ブフゥ」
騎士(何言ってんのか分かんねえよ)
勇者の命令の元、千の車に万の輜重兵が付き、全軍出発となった。
参謀「勇者殿、お言葉ですが・・・」
参謀「輜重兵ばかりで、軍の主力は一体どこに?」
勇者「ブフゥ」
参謀「このような無謀な戦いは看過できませぬ。前のチビも軍略に疎いバカではありましたが」
勇者「輜重兵が主力だ」
勇者が百貫はあろうかという巨体を揺らし一言そう答えた。
参謀は口を開きかけたがもう何も言わない。
騎士「ひぃひぃ」
高貴な身分であるはずの騎士も、輜重兵として行軍を余儀なくされた。
王国は蛮族に囲まれた小国。若い人手があれば猫の手も借りたいほどなのである。
行軍の先端には、車の上に鎮座する勇者がむしゃむしゃと車を食べていた。
東に着く頃には、千の車は一に、万の輜重兵は十となった。大損害である。
もちろん、これは比喩であって、勇者が人食を行っていたというわけではない事を追記しておく。
但し、輜重兵に多くは帰りに食料が無く、道端にあった大量の●を喰らって命を繋いだらしい。
さて、蛮族を前に士となってしまった国王軍。無論、蛮族は万を超えんかという勢いである。
勇者、ここで百貫の巨体を揺らし地に乗ると、地響きで敵軍にまで声が伝わる。
「ブフゥ!!!」
1kcalとは何か。
1kgの水の温度が1℃上がることを1kcalと称するのは皆によく知られた事実である。
百貫とは375kgである。もちろん、勇者は千の車の食料を食し、今や彼の体重を測ることは叶わない。
ぽてち一袋侮ること刎かれ、5kgの水がたちまち沸騰してしまう。
千の車の食を保って、万の敵の血液が沸騰するには十分な量の熱量を手に入れたことは明白。
見よ。敵軍はドロドロと溶け、阿鼻叫喚地獄とは正にこれである。
偉大なる引篭り、大魔導師勇者は画して十貫ほどの体重に戻り、意気高く王城へと舞い戻った。
伝染病は街にはびこったが、ともあれ大勝利を収めた英雄、姫に求婚し目出度目出度となるかと思いきや現実は非情。
姫「でぶは嫌い」
この言葉に赤面し、危うく心の臓に血を詰まらせかけた勇者、養生のため食料乏しき北の地に領地替えとされた。
王「うむ・・・やはり、不健康な勇者はダメだろう」
王「そうだ、あの勇者と結婚させておけば!」
ポワワ~ン
勇者「お呼びですか、王よ」
王「おお、よくぞ来てくれた眩き勇者よ」
王「東の蛮族は平定できたのは、やはり勇者の働きあってこそ」
王「しかし、西の蛮族に我軍は大いに悩まされておるのだ。行って討伐してきてはくれぬか」
勇者「分かりました」
勇者「ところで・・・」
王「ウムウム。貴様の親は武士であったが、髷が結えず農民となっておったな」
王「この討伐を終えた暁には、期待しておるとよいぞ」
勇者「ハッ。ありがたき幸せでございます」
勇者は西の蛮族に対する作戦を立て、軍に1つの奇怪な装束を着せた。
騎士「あのう・・・この鬘に何の意味が」
参謀「聞いてやるな、騎士よ」
この勇者については多くは知れない。
ただ、敵軍は勇者の眩さに目が眩み、涙するばかりであったと風の噂に伝え聞く。
蛮族「まだ20前半らしいぜ?」
蛮族「嘘だろ!?どう見ても・・・」
蛮族「もうその話はやめろ。この杯は頭の失われた戦士達に捧げよう」
蛮族「乾杯」
帰って求婚する勇者に姫は一言、「ああ、あのハゲ」と述べ、遂に勇者は会うこと叶わず。
あまりの情けなさに北の地へと武者修行に行ってしまった。
王「うむ・・・娘が会わないと言ったらもはや手の施しようがあるまい」
王「滅びも運命。仕方なかったのだ」
蛮族「とらえたぞ国王、王女!」
蛮族「ブフゥ!」
蛮族「いよいよ好き放題できますね!!」
さあて、蛮族の長3人、絶世の美女と謳われた王女のベールを剥ぎ取り、好き放題しようとしたところ・・・
蛮族「げえっ」
哀れ、王女は最も恐ろしき病に侵されていたのであった。
蛮族「「「「BBAはなあ・・・」」」」
蛮族共は何も無かったかのように騎士を花嫁として迎え、北の地へ帰っていた。
ここに4人目の勇者が誕生したのである。
王国は何とか存続したそうな。
了。
騎士はくっ殺さんだったのか
老い老い
良かった
乙
ワロタw
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