女騎士「古代遺跡から鋼鉄の扉が出た?」 (53)
騎士「そうらしい、そこで我々調査隊が編成されたわけだ」
女騎士「このご時世にそんな事をしていていいものか」
騎士「まぁ表向きは調査が目的としているが、目当てはその古代遺跡がある街の領主に支援を頼みたいのだそうでな」
女騎士「へぇ、隊長に選ばれた貴公がその交渉役を?」
騎士「ああ、そうだ」
女騎士「ふぅん……頑張れよ」
女騎士(早く帰って『週刊くっころ』読まなきゃ)
【四日後・・・北の国ノルド『東北領』】
< ガラガラガラ……ッ
門番「お待ちしておりました、王都より参られた調査隊の皆様ですね?」ザッ
女騎士B「如何にも! 門を開けよ!」
門番「手形の確認をさせていただきます」
女騎士B「うむ」
< 「着いたのか」
女騎士B「はい、御姉様」
< バサッ……ザッ
女騎士「ふぅ、ここは良い空気だな」
女騎士C「そうかぁ? 街の中の殆どが草原みたいに草生えてるだけだろ」ザッ
女騎士「東北領の領主は元は遊牧民だったと聞く、緑と共にあると落ち着くのだろう」
Aがいない
それはどうでもエーやろ
つづきほシー
騎士「ここまで来たら我々騎士団の仕事だ」
騎士「私と女騎士Bで領主殿に王からの書簡を渡しに行く、その際他の騎士達には件の遺跡を調査して貰いたい」
騎士「私に代わり指揮を取るのは女騎士だ、いいな?」
「「はっ!!」」ザッ
女騎士「指揮を取る、とは言ったが……所詮は遺跡を見に行くだけだがな」
騎士「そう言うな、古代遺跡の奥を目指すとなれば魔術の心得がある貴公に頼みたい」
女騎士「身体強化と簡単な対圧力強化だ、ゴーレム型の『魔獣』と戦う際には必要でな」
騎士「何にせよ、いざという時は心強いだろう、頼んだぞ」
女騎士「了解、私に任せてそちらは退屈な話を済ませてくるといい」
女騎士C「んで? どうすんです女騎士殿」
女騎士「古代遺跡は元々、街の地下にあるのを領民が発見し領主が管理していたそうだ」
女騎士「が、その実態は領民に近寄らせないだけの封鎖……稀に盗人が侵入するらしいが中には金属の回廊が広がっているだけでな」
女騎士C「あー、そりゃ意味無いっすわ」
女騎士「そうだな、盗めるものはない」
女騎士D「お姉様、では一体誰が鋼鉄の扉を見つけたのですか」
女騎士「今からその発見者の所へ訪ねるんだよ」
老人「こ、これは……! 王都の騎士様方! どうされましたか!」バッ
女騎士「楽にしてくれご老人、我々は此度の遺跡に関して聞きたいことがあるだけだ」
老人「はは……何なりと」
女騎士「話に聞く鋼鉄の扉、近くに罠らしい物や何か妙な物は見なかったのか」
老人「見ておりません、あの……遺跡にはたまたま入ってしまっただけなのです」
女騎士「たまたま?」
老人「私には一人、孫娘がいまして…南の大国にいる息子夫婦が一月預かってくれと言われていたのです」
老人「これがまたやんちゃでして……おまけに好奇心も強い、分かりますでしょう? あの年頃は……」
女騎士D「くどいですね、別に私達は遺跡に無断侵入したことは追及しないですよ」
老人「そ、そうなのですか……」
女騎士「安心するがいい、古代遺跡における新たな発見は国の利益になる事もある」
女騎士「今は数える程度しか残っていないらしいが、『銃』という古代の武装が発見された前例があるのでな」
女騎士「『魔獣』の被害が増加する中、我々がこの街に出向いたのもそれ目当てなのだ」
老人「な、なるほど……」
女騎士「それで? 先の話から推測するに、子供が遺跡に入ってしまい追いかけた先で見つけたといったところか」
老人「はい……その通りでございます」
女騎士「その娘に話を聞きたい、構わぬか?」
少女「……」
女騎士C「目つき悪いなこのガキ」
女騎士D「貴女も大概ですわ」
女騎士「呼び出してすまなかったな、我々は王立騎士団の調査隊の者だ」スッ
少女「初めまして……」
女騎士「聞かせて貰いたい事がある、良いか?」
少女「……」
『遺跡の中は最初は何もなかったの』
『地下を照らす白太陽が見たくて、お爺ちゃんに内緒で入ったの』
『本当に中は白く照らされてて、凄く明るくて……』
『壁とかいっぱい触ったり叩いてたら、開いちゃったの』
「開いた、とは?」
『一番奥の壁がね、上に雷みたいな音を出して開いたの』
『びっくりして泣いてたら……お爺ちゃんが来て叱られちゃったけど……』
??????……
女騎士「……何らかの仕掛けに触れてしまい出てきた、ということかこれは」
女騎士D「どうでしょうか……これまで多くの冒険者や国の魔術師も調べたそうですが、このように進展があったのは初めての様子でした」
女騎士「これはやはり、直接遺跡を調べる事になるか」
女騎士(帰って『日刊オークの気持ち』を読みたいのに……)
女騎士どんだけオーク好きなんや
< カツンッ・・・カツンッ・・・
女騎士C「……静かだな、ここそんなに深い地下でもないのに」
女騎士「金属板で覆われているからかもしれん」
女騎士D「魔力探知にも反応はありませんが、用心して下さいねお二人共」
女騎士「援護は任せたぞ」
女騎士「……見えてきた」ピタッ
女騎士(これは広間か? なんて広大な……!)
女騎士C「なんだこの空間……広いな、城が入りそうだ」
女騎士D「少女とあのご老人が見つけたのはこの広間ですね」
女騎士D「そして、東側の壁に同じく雷の様な音を出して現れたのが」
女騎士「巨大な鋼鉄の扉、というわけだ」
女騎士「ふむ、開かないな」コンコンッ
女騎士D「これだけの大きさですからね、オークでも開けられるかどうか」
女騎士C「高さは目測、大の男が十……二、三人分ってとこかねぇ?」
女騎士C「幅もこりゃ同じくらいか」
女騎士「……古代遺跡から発掘される物はどれも人間が扱えるサイズや文化だったと聞く、これはおかしい」
女騎士C「だねぇ、巨人でも出てきたら手に負えないぜ」
女騎士D「他に何かないか調べて、無ければ今日のところは撤退しましょう」
女騎士「うむ」
< ぺたぺた……
< ぺたぺた……
女騎士「……壁に触れながら歩いてみて分かるが、この広間は円を描いて作られているな」ぺたぺた…
女騎士「C! そっちはどうだ!」
< 「なーんもないぜー!」
< 「こちらもです!」
女騎士「……広すぎて全力で声を出してこれか、あの二人が小さく見えるぞ」ぺたぺた……
< ピピッ
女騎士「っ!!?」ビクゥッ!
< シャキンッ! ズザッ!
< 「どうした女騎士!!」
女騎士「…………」
女騎士「来てくれ……何か、聞こえた」
< ピピッ
女騎士D「あ、鳴りました」
女騎士C「その位置か」
女騎士「音が鳴るだけで、何も起きないのだな」
女騎士D「……ふむ」
女騎士「手が触れて反応があるのは、その赤いラインが四角を描いている内側か」
女騎士D「この赤い線に意味があるのかもしれません」
女騎士「確か私達の通ってきた通路にもあったな、確かめよう」
< ピピッ……ピーッ
ガッシャァンッッ!!
女騎士「!?」
女騎士C「うわぁっ!?」ビクゥッ
女騎士D「広間が……!」
女騎士「なんということだ……広間に通じていた道が壁に塞がれてしまった」
女騎士C「やべぇ……」
女騎士D「……」チラッ
女騎士「うわぁああっ!! これでは、これでは私達は遺跡の情報をむざむざ消失させてしまった重罪人じゃないかぁ!」
女騎士C「嘘だろ、あぁ……」がくっ
女騎士D「……」
女騎士D「えい」ぺたっ
< ピピッ……ピーッ
ガッシャァンッッ!!
女騎士「」
女騎士C「」
女騎士D「どうやらここに触れる事で開閉可能なようです」
女騎士「……そうか、良かった」
女騎士「それにしても古代のカラクリ仕掛けには驚かされる、これだけの質量を壁に触れるだけで開閉自由とはな」
女騎士D「これだけで軍事利用的価値は高まりますね」
女騎士C「それもあるが、こうなるとこの先にある広間もただの空間って訳じゃないのが分かったなぁ」
女騎士D「ええ、恐らくこれと同じ仕掛けで幾つか通路が出て来るかもしれません」
女騎士「開かないパターンもあるがな、先程の私が気付いた場所は反応はあれど何も起きなかった」
女騎士「とにかく調査を続けよう、幸いこの遺跡内部に昼や夜は関係無い」
【街の中央・『領主館』】
東北領主「……拝見させていただいた」コトッ
騎士「王への答えは?」
東北領主「……」
東北領主「名高き北の国、王立騎士団の隊長格を前にして私の答えなど限られている」
東北領主「故に、『魔獣』との戦いに関して我が領より出せる兵力のギリギリを全て王に献上しよう」
騎士「有難い、これで我々人類がまた有利になった」
東北領主「だが貴殿とそちらの女騎士殿にも告げておく、この街は数日中に滅びるだろう」
女騎士B「……何故です、領主」
東北領主「あなた方は理解しておられぬようだ……『魔獣』を生み出した者の事を」
騎士「……『魔女』の事か」
東北領主「私はかつて、この北の国の大地を渡り歩く遊牧民族の一人だった」
東北領主「今から五十年程前だったか、私は齢十三の頃でな……」
東北領主「あの頃はまだ何も知らなかった、国の事も世界の事も……世界に隠れ潜む恐ろしい存在の事も」
東北領主「私達民族はある寒い季節の夜に一人の女性に出会った」
東北領主「一目見るだけでそれと分かる、上質な衣に身を包んだ妖艶な女だった」
東北領主「彼女は若き日の私に言った、一晩泊めてくれるかと」
東北領主「私は快く頷き、周りの大人も同じく応えてくれた」
東北領主「だが、その晩のうちに誰かがその女の逆鱗に触れてしまった」
騎士「……」
東北領主「私が起きた時には、男も女も……子供以外は皆死に絶えていたよ」
東北領主「凄惨な光景だった、誰もが体を引き千切られていた」
東北領主「そしてその周りには……獣の足跡」
東北領主「『魔獣』だ、そう、私達が出会ったのは『魔獣』を生み出し人を殺し喰らう……『魔女』だったのだ」
こええ
よっしゃエロ女騎士スレや!って思って開いたら毛色が違いすぎてびっくり
これはこれで面白いからいいけど
>『週刊くっころ』
絶対エロ漫画雑誌だわ
騎士「……その話が先の話とどう繋がる?」
騎士「まるで『魔女』に刃向かう事を知られてしまうかのような事を言っていたが」
東北領主「その通りだ、彼女達には他者の心や思念を遠方から読み取る力がある」
女騎士B「そんな……」
騎士「でまかせだ、そんなものがあるならとっくに人類は滅ぼされている」
東北領主「大昔の先人達が残した書物の一部を我が館では保管している、そこには『魔女』とされる者の能力が記されていた」
騎士「……」
騎士「その書物とやらも貰えないか、騎士団として『魔女』に関する情報は欲しいのでな」
騎士「たとえ虚実でも対策が見えるかもしれん」
東北領主「うむ、わかった……だが忘れるな、私の街は長くない」
東北領主「きっとあの焦げ茶の髪をした、美しい女が私の街へ『魔獣』を向けるに違いないのだ」
騎士「……」
女騎士B「……」
< ピーッ
ウィーンッ!
女騎士「……遂に開いたか、こちらは良くも悪くも人が通る為の通路だな」
女騎士D「この矢のような紋と、戸を示す紋、これらは私の予測通りでしたね」
女騎士「よくやったD、あの巨大な鋼鉄の扉を除けば新たな通路はここしかなかったからな」
女騎士C「アタシが先行するよ! お姉様とDは後続から援護してくれよな!」シャキンッ
女騎士「念の為、二人に強化魔術をかけておく……油断するなよ、この先は未だ見つかった事の無い場所だ」
女騎士「緊急脱出用のエンチャントスクロールは持っている、危険だと判断すれば使用する!」
女騎士C・D「「了解!」」
< カツンッ……カツンッ……
< ウィーンッ
女騎士C「……」チャキッ
女騎士(さっきと雰囲気変わったな)カツンッ…
女騎士D「大分、空気が変わりましたね」
女騎士「うむ、先ほどまでの広間よりも……いや外よりも空気が澄んでいる」
女騎士C「二人とも」ピタッ
女騎士「! ……どうした」チャキッ
女騎士C「あれ、なんだ……」
ルンバ < フィーン……
女騎士「……動いてるな」
女騎士D「魔力探知に反応はなし、あれは魔法で動いてないようです」
女騎士「なんだあれは……」
女騎士C「浮いてるぞ、あれ」
ルンバ < フィーン……
女騎士「……」
女騎士「近づいてみよう」
女騎士D「危険では?」
女騎士「いざという時に自己強化魔術で即座に対処出来る私の方が安全だ」
女騎士「行くぞ」スッ
??????
女騎士「おー、これは掃除をしてくれるのか」
< ずずずずっ
女騎士「私の手を吸っている、この吸引力ならなんでも吸い取れるな」
女騎士D「便利ですね、私も欲しいですわ」
女騎士C「古代遺跡のこういう道具は高値で売れるし、売って使用人雇った方が良くないか?」
女騎士D「それもそうですね……盗まれちゃいそうですし」
女騎士「これはあとで持ち帰ろう、進むぞ」
女騎士C「了解」
【東北領・街の南門側……見張り台】
兵士「あーぁ……腹減ったなぁ」
兵士B「まだ交代の時間まで長いぞ、まだ日が沈んできたばかりだ」
兵士「夕焼け空眺めながら酒を飲みたいねぇ……」
兵士B「俺もだよ」
兵士「……だぁー」ぷらん
兵士B「体を乗り出して、落ちるなよ」
兵士「あーいあい」
兵士「……あ?」
兵士B「どうした」
兵士「…………」
兵士「……」カチャッ
兵士B「何か見えたのか? 遠筒なんて持ち出して」
兵士「…………………………」
兵士「……『魔獣』だ、それも凄い数だ……ッ!!」ドサッ
兵士B「何!?」
・・・
騎士「『魔獣』だと!?」
女騎士B「それも大群って……!」
東北領主「……ぁ、ぁぁ……もう終わりだ、こんなに早く来るなんて……!!」
騎士「領主! 敵は南側から迫っている、民を脱出させ我々で迎え撃つぞ!」
兵士B「無茶だ!! 目算で数は五十を越えていた……あんなの、あんたら騎士が数人いた所でどうにも出来やしない!!」
騎士「貴様……」
女騎士B「彼の言う通りです、過去に例を見ない最悪の群勢を相手にするには戦力が足りません!」
騎士「……」
騎士「街を囮に脱出するしかない、か……!」ギリッ…
騎士(このタイミングで『魔獣』の襲撃……早すぎる、有り得ない)
騎士(領主が協力に賛同してから半日も経っていない)
騎士(本当に『魔女』が我々の事を見透かしているとでも言うのか……)
東北領主「直ぐに四方の門の鐘を鳴らすのだ……! 無駄だとしても、一人でも多く、一瞬でも早く、民を逃がすのだ!」
兵士B「はっ!」ザッ
女騎士B「他の騎士と合流し、私達も策を考えます」
東北領主「うむ、どうか頼む……」
女騎士B「行きましょう、隊長」
騎士「ああ、急ぎ女騎士達と連絡を取らねば」
女騎士D「『魔獣』の大群が近づいている……」
女騎士「そうらしい、何とかしなければ大惨事になるだろう」
女騎士D「急いで外に出ましょう!」
女騎士「まぁ待て、こうなればさっき話していた事を確かめるしかない」
女騎士C「壁の開閉について、か?」
女騎士「そうだ、もし内側からしか開けられないように出来るならばこの古代遺跡は使える」
女騎士C「時間が無いんだぞ!? そんなのやってられるかよ!」
女騎士「……女子供、老人の足では山岳地帯から迫る『魔獣』から逃げられない」
女騎士「迎え撃つにも戦力が無い、きっと地上の騎士の奴も途方に暮れているだろう」
女騎士「この街の人間全てを入れられるこの遺跡の『奥』ならば、後は扉の仕組みを明かせば『魔獣』の手から逃れられるかもしれん」
女騎士C「……」
女騎士D「……隊長にまずは連絡を、せめて老人や女子供だけでも遺跡に誘導できないか聞いてみましょう」
< ピーッ……!
< ピピッ
女騎士「……開かない」
女騎士D「やりましたわ! 開閉パターンと施錠方法がわかりましたね!」
女騎士「直ぐに記録をしておけ、ここからは他の一般兵に任せることになる筈だ」
女騎士C「外の隊長と話してきたぜ! 町中がパニックになってるが、女騎士Bの奴がこっちに誘導してきてる!」
女騎士「よし、我々も外に出て誘導しよう」
女騎士「壁は広間に通じる部分のみ開けておけ! 『奥』へは騎士が誘導させねば危険だ!」
女騎士D「はい!」ペタッ
< ピピッ
ガッシャァンッッ!!
【南門】
女騎士「騎士! 敵はどこまで来ている!」ザッ
騎士「女騎士か、待っていたぞ」
騎士「『魔獣』の数は約二百、山岳地帯の方からまだ来ている……先頭の集団は『鳥獣型』が三十、此処へ到達するのに一時間とかかるまい」
女騎士「……二百か、遺跡がなかったなら全員嬲り殺しにされていたな」
騎士「その遺跡とやらも本当に『魔獣』の進攻から守ってくれるのか? 城壁を破壊する力があるのは承知の筈だが」
女騎士「私の肩幅を上回る鋼鉄の塊だぞ? あれが信用できないなら、他の策もたかが知れている」
騎士「それほどか、ならいい」
騎士「Cと、Dは?」
女騎士「あの二人はBと共に避難誘導をさせている、一般兵に遺跡内部の注意点と操作に関して説明もさせないといけなくてな」
騎士「さすがだな、では……俺達は迎え撃つとしようか」シャキンッ
女騎士「一般兵は下がらせよう、彼等を無駄死にさせたくない」
女騎士「一般兵は下がれ!! ここからは我々が時間稼ぎをする!」ザッ!
女騎士「相手の恐ろしさは知っているだろう、相手が如何に超常の存在かは噂に聞いているだろう!!」シャキンッ
女騎士「無理に戦おうとせず、ここで死ぬ覚悟のある者以外は街の北にある古代遺跡に迎え!」
女騎士「それだけの時間は必ず王立騎士団の我等が稼いで見せる!!」
騎士「初めて『魔獣』と戦う者は奴等を直視するな! 来るぞ!!」
< キィィ・・・ィイインッッ!!
< ズンッッ!!
蟲魔獣【ujTp.d2j33%*ギぃ.ぃぃ、ィイイイイイ!!!】
女騎士「……『飛行型』、蟲魔獣のバイアクヘーか」
騎士「俺とお前なら二人がかりで倒せるが、後続の『魔獣』による一般兵の精神汚染が気になるな……」
女騎士「ああ、あくまで時間を稼ぐのが限界だ……それ以上は無理だろう」
…………騎士は剣で戦わない。
北の国、王立騎士団が装備している大型の両手剣に見えるそれは、剣ではない。
剣の形態を保ったまま使用するのは、基本的に対人の場合のみ。
最も生存率、応用性、単騎に限らず集団での戦闘で敵を……『魔獣』を、効率的に殺せるのは剣ではないのだ。
< ヴヴゥッ……!!
蟲魔獣【twd’pj’”?5%°9|き、キァ…キャァアアアアア!!!】
……『魔獣』の大半が持つ絶叫には人の精神を破壊する効果があるのも、理由の一つだ。
女騎士「……ッ!」カシャンッ…!
その咆哮……絶叫に対抗するには精神力で耐えるしかない。
しかし距離があればそれだけ精神汚染を防ぐ事ができ、その隙に武装を変形させる事も可能なのだ。
一見すればゴテゴテと上から刃を付け足したかに見える、身の丈程の両手剣を女騎士は腰の下に落として『ギミック』を作動させる。
ギミックは全て手動。
対『魔獣』における緊急時の戦闘で上手く作動しない、その様な事故で命を落とさない為である。
武装を変形し終えるまでに必要なギミックは全部で二十八。
騎士達はそれを超人的な精神力と集中力で瞬きの間に手動で行うのだ。
< カシャカシャカシャッッ
< パチンッ……カシャンッ!
そうして変形を終えたその武装は、装備する者の身の丈を二倍した長さになる様に造られている。
女騎士「行くぞ……」ギシッ
騎士の武器……それは『長槍』である。
待ってるぞ
蟲魔獣【ギィイ……キュゥルルルル……ッ】ズッン…ッ
成人した男と変わらぬ程度の体格、しかし密度は鉛の塊と言える程に重量と堅牢な質感を見せる。
頭こそ爬虫類に似た形状を取っているものの、動きの機敏さと女騎士や周りの兵士に向ける瞳は虫のそれである。
背中に生える昆虫が持つ羽を開き蟲の『魔獣』が巨大な鉤爪を振り上げた。
< ドッッ!!
騎士「フンッッ……!!」ギィィンッ…??
振り上げた鉤爪が音も無く振り下ろされるより先に、半ば程で騎士の穂先がそれを受け止める。
直後に巻き上がる衝撃波と轟音は如何に『魔獣』の膂力が凄まじいかを物語り、同時に周囲の兵士達に希望を与えた。
騎士団ならば、『魔獣』と渡り合える……と。
兵士B「門上のバリスタ兵は接近する『魔獣』に迎撃! 戦う勇気のある者は騎士に続けぇええ!!」ジャキッ
< 「「ぉおおおおおおッッ!!!」」
街の門上、外壁上に設置された大型の弩が続々と迫る鳥獣型の『魔獣』と蟲魔獣に放たれる。
空を切り裂く音が雨のように鳴り響く中、最初に侵入してきた『魔獣』の咆哮が大気を揺さぶった。
蟲魔獣【twd’pj’”?5%°9|ほ、ホホ…ホホホホホホホォオオ”オ”オ”オ”!!!】
ヴヴヴッッ!!
< ヒュォッ……!!
騎士が鉤爪を受け止めた直後、背中の羽が高速で振動し蟲魔獣の姿がブレた。
粉塵を撒き散らして周囲を飛び回り始めたのだ。
兵士C「ぎゃ……ッ っ ッ
粉塵に混ざる鮮血、
兵士D「ナンッ… ……ッ < ボキユッッ!!
その後を追う脳漿、或いは肉片。
瞬時に二名の命を奪った蟲魔獣の動きは止まらない、狂気を促す咆哮を上げながら次々と鉤爪を一閃させていく。
正に『魔獣』。
獣を遥かに上回る狂獣を前に、槍を構えながらも騎士は動きを捉え切れずに硬直していた。
騎士「……ッ」ギシィッ
だがしかし。
それを、一人だけ動きを捉える者がいる。
< ズッ……ドォッ!!
蟲魔獣【ギュィィイッ!!?】ゴパァッ…
女騎士「……先ずは一匹……ッ」
< グジュルルッ!!
蟲魔獣【ぎ、ギャッ…twd’pj’”?5%°9|き、キァ…キャァアアアアア!!!】
女騎士「~~ッ!!」
長槍の造形は使用者の戦闘スタイルに合わせ鍛治師と魔術師が希望通りに形作られている。
騎士が持つ長槍は『魔獣』と正面から戦えるように穂先の重厚さを増す様作られ。
女騎士Bの持つ長槍は一撃離脱を意識したスレンダーな作りに。
女騎士CとDは組み立ての速度を向上させる為にシンプルさを、そして強度を求めた形状になっている。
あくまで生存率を上げる為に、誰もがそうした武器を装備している中。
女騎士は騎士団内において稀有な形状を選んでいた。
女騎士「~~ッ、ぐ…ッ! 逃す、かぁああああ!!」ギシッ
< ザクザクッ……!! ブシャァアア!!
蟲魔獣【ギュィッ……ギガァァアァァァ……!!】
一撃当てる事が出来たならば、どれだけ咆哮を与えられても暴れられても離さぬように、必ず仕留める為に。
返し刃によって抜けないように作られているのだ。
例えそれで自身が命を落とす事になっても、女騎士は『魔獣』を殺す為にその形状を選んだ。
来た
けど
騎士「女騎士ィィッ!!」
女騎士は飛び回っていた『魔獣』を捉え切り、次いで神速の突きにより確実に動きを止める。
動けずにいた騎士は眼前で繰り広げる女騎士の決死の一撃を見て、即座に地を蹴って援護しようとする。
そこで……『魔獣』に深々と刃を突き立てた女騎士が、更に穂先を捻り立てた。
度重なる咆哮を受け、その瞳には苦痛の色が映っていたが、決して手離す事はせずに身を翻して一気に刺し込んだのだ。
< ズンッッ!! ……ビチャァッ!!
蟲魔獣【……ギッ…………キィ………ッ】グラァッ
女騎士「くたばれ、化け物……ッ」ギチッ
二度、三度。
急所となるであろう『魔獣』体内の臓腑を切り刻み、女騎士は柄を握り締めて引き抜いた。
< ブシュゥッ!!
───────── ズゥンッ・・・!!
ガシャッ!
女騎士「ぜぇ……ぜぇ……」フラッ
騎士「無茶をするな、まだ敵は続々と迫ってるんだぞ!」
女騎士「ぜぇ……はぁ……っ、これが私のやり方でな……騎士団に入ってから徹底しているのだ」
騎士「貴公の事は聞いていない、他の兵士はともかく我々が死ねば街の人間は全滅するんだぞ!」
女騎士「……ああ、すまない」
騎士「だが流石だ……その腕を奮ってどうか少しでも長く持ち堪えさせてくれ」
女騎士「ふ、貴殿はサボりか?」
騎士「無論……俺が先頭に立つ」ギシッ
─── 【古代遺跡・中央ホール】 ───
女騎士C「女子供を先に通せ! 奥の通路は狭い、男共が殺到したら通れなくなるぞ!!」
女騎士D「我等騎士団が入り口を死守します、どうか落ち着いて避難を!」
< 「ガキなんかより俺たちを通せーッ!!」
< 「ヤバいぞ! 門の方で『魔獣』が現れたって!」
< 「も、もう来てるのか!? うわぁああっ!! 早くしてくれぇ!!」
女騎士C「……避難のスピードが遅い、このままじゃウチらのお姉様と騎士の奴が崩れる頃に間に合わねぇ」
女騎士D「それどころか未だに此方へ到着していない住民達の受け入れすら滞る可能性がありますわね」
女騎士C「……」チャキッ
女騎士D「脅しても動きが鈍くなり、余計に避難が遅くなるだけだと思いますが」
女騎士C「なら、どうすんだよ!」
< リーンッ
女騎士D「……連絡の水晶が…!」
女騎士C「連絡か、無事なのか向こう」
女騎士D「こちらD、はい、現在遺跡へ避難誘導してはいますが……民衆の混乱が原因で上手く進行出来てません」
< 『もう「魔獣」が複数入り込んでいる! くっ……!? ぐぁあ!! ドゴォオオッ!!』
女騎士D「お姉様!?」
< 『……ッ、既に数体の「魔獣」を倒したが、気休めだ……連中は私と騎士達を無視して其方に向かっているようだ』
女騎士D「こっちに……!?」
女騎士C「!」
< 『一人でも多く遺跡に逃がし、即刻閉じろ! 「ゴーレム型」が十数体来ている! ッ! ゴゴゴォッ! ……くそ、肋骨が……』
女騎士D「C! こっちに『魔獣』が迫っています! ここは任せました、近くに来ている人間を収容次第すぐに閉じて下さい!」バッ
女騎士C「D、何処に行くんだよ!」
女騎士D「……私が1秒でも長く食い止めます」
ザッ……!
女騎士D「……来ましたわね、『魔獣』……!」
< カシャカシャカシャッッ
< パチンッ!
女騎士D「……」チャキッ
女騎士D(遺跡に近付く『魔獣』を相手取りながら、ただ生き延びる……それがこんなにも難題に感じたのはきっとこれが最初で最後でしょうね)
女騎士D(魔力探知のピアスから伝わる振動が大きい……つまりこれはそれだけ強大な『魔獣』が複数存在するということ)
女騎士D(南門の方に見える火の手から察するに、お姉様達もこれ以上は食い止められない)
女騎士D(……ここが、私の墓場ですわね)
兵士E「ぎ、ぎゅぁあああ!!?」
< ゴリゴリッッ!! パキッ...ゴシャッ!!
グシャァッ!!
岩石魔獣【ujTp.d2j33%*ゴ、こ…ゴグォオオオオオオオ!!!】ズンッッ
騎士「はぁ…ッ、はぁ……! 女騎士! ゴーレム型だ……補助魔術をかけてくれ! 」
岩石魔獣B【twd’pj’”?5%°9|ヌ、ヌヌ…ヌルルルァアアアアアアアア!!!】ゴガンッ!
騎士「…ひぎ…がぁあッ!!?」
騎士(しまっ……地中からだと……!?)ミシミシミシィッ
騎士「ぅぐ、ごぁ……ああっ!!」ミシミシッ
< ザンッ!
騎士「!」フッ…!
岩石魔獣B【!?】ドザァアッ
女騎士「……無事か、騎士」スタッ
騎士「はぁ……はぁ…っ」ヨロッ
女騎士「南門で生き残ったのは私と卿だけか? あの威勢の良かった青年はどうした」
騎士「……ゴーレム型の『魔獣』に殺られた、撤退だ女騎士……! これ以上は最早無意味だ!」
女騎士「中心部に何体か『魔獣』が入り込んだのが見えた、分かっている」
< 【キャァアアアアア!!!】
< 【ウホォオオオオオオ!!!】
< 【ゴォアアアアアアアア!!!】
女騎士「……」
騎士「女騎士?」
女騎士「騎士を背負って遺跡には辿り着けぬな」
騎士「それはどういう……」
< ドサッ
騎士「ぐっ、おい! 女騎士!」
女騎士「先に行け、私は後から追い付く……好戦的な『魔獣』を相手取れば貴公でも逃げ果せるだろう」
女騎士「行け! 騎士!!」バッ!
─────── ォォオオオッ!!!
一人になる事で、女騎士という人間は視野が広くなった事を悟った。
一分一秒、いつ死んでもおかしくない極限に立たされた事により、周囲の惨状が目に映り始めたのだ。
緑の絨毯とも呼べた草原は黒く変色し、東北領の街を囲む外壁からは風も無しに蠢く炎が上がっている。
空は飛行型の『蟲魔獣』、『夢魔獣』。
地には鳥獣型の『烏魔獣』、ゴーレム型の『岩石魔獣』、異形種『人型魔獣』。
そして、水を泳ぐかのように地から空へ、空から 建物へ と移り行く魔獣。
女騎士「騎士団の歴史において数回しか遭遇しなかった『魔獣』が複数、か……悪夢だな」
女騎士「だが……!!」ガシャッ
着ていた鎧と兜を脱ぎ捨てると、女騎士は手に持つ長槍を奮い上げた。
同時に彼女を中心として地面に波紋が広がる。
その『魔獣』は、空間を泳ぐのだ。
猟犬魔獣【twd’pj’”?5%°9|シ、シシ…シャァアアァアアア!!!】ゴバァァアッ!!
< ザッバァンッッ!!
女騎士「私は!! オークとヤるまで死ぬ訳には行かないんだァアッ!!」
シリアスに読んでいいのか、コミカルなモノとして読んでいいのか、脳が錯乱してきてる…
はよ
はよ
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