元ネタ Elona
冒険者A「・・・」ブンッ
グウェン「あっ・・・」トサッ
ヨウィンの村の片隅に血だまりが広がり、そしてすぐに、よく耕された大地であることを示すようにスッと地面に吸い込まれていった
チュンチュン...チュン...
ギルバート「むっ・・・」ムクリ
朝日の差し込む室内で、2段ベッドの上で上体を起こす大柄な中年が一人
村人「ギルバートさん、準備はいいですかなー?」
ギルバート「!・・すまない、すぐに行く!」バサバサッドサッ
村人「いえいえ、焦らんでもまだ大丈夫でs・・」
ギルバート「待たせたな!」バタンッ
村人「おぉ、いつもながらお早い。では早速まいりましょうか」
ギルバート「うむ!」
9月、農村であるここヨウィンの村において1年でもっとも忙しい月である
辺境の騎士として名をはせるギルバート大佐が連戦の疲れを癒そうとここヨウィンの村を訪れたのは2日前のこと
しかし、人手がいくらあっても足りないというように働き続ける村人たちの姿を黙って見ていられるような男ではなく、今日の朝から農作業を手伝おうと申し出ていた
村人A「あぁ、ギルバートさん、15000sも野菜を収穫してくださったのですね」(sは重さの単位)
村人B「ほんとうに助かりました・・この時期は毎年多くの冒険者さんが収穫依頼を受けようと村を訪れてくれるのですが今年は少し少なくて・・」
ギルバート「ワハハ!なぁに、いつも鍛えておるからな。この程度であればまたいつでも言ってくれ」
村長「みんな、もう昼だー、一旦昼休みとしよう」
村長の号令に一仕事終えた疲れ混じりの歓声で応え、ゾロゾロと村人たちが村へ帰り始める
ギルバートも畑のほうをチラリと見やってから村人たちに続こうと歩みを・・
ギルバート「?」
畑のそばに点々と立ち並ぶ穀物用の倉庫
そのひとつの陰から白く巨大ななにかが飛び出す
ギルバート「・・・」ダッ
コボルト
白く巨大な体躯、それに見合った圧倒的な筋力によって繰り出される棍棒や大剣の一撃は、そこらの駆け出し冒険者など一撃でミンチに変える
畑にはやどかりやねずみ、こうもりといったモンスターはよく見かけられるものであり、その程度であれば村人たちも軽くあしらいながら作業ができる
しかしコボルトとなると話が違ってくる
とはいえコボルトの走っていく方向はこちらとは真逆、一応処理しておこうとギルバートは駆けるがそれほど焦る必要は・・
ギルバート「!」
コボルトの走っていく先、畑と畑の間にある花の咲く野原
その真ん中で座り込む少女がいた
グウェン「~~~♪」
どうやら花を摘んで集めているようで近づいていくコボルトに気づいた様子はない
ギルバート「うぉおお!」ブンッ
手に持ったクワを全力で投げつける
残念ながら投げるのに適した形状でなかったため投擲スキルが完全には発揮されなかったが運よくコボルトの足元に突き刺さり、注意を引けた様子
グウェン「あっ・・・」ポトポト
ようやく気が付いた少女は手に持った花を落としながら立ち上がる
少女にとっては幸運なことにコボルトの意識は獲物から敵へと切り替えられていた
コボルト「グルルッ・・」ザッ
力を貯めるように身をかがめるコボルトに臆することなく突っ込んでいくギルバート
ギルバート「フンッ!」
装備を変えている暇はない
ギルバートは徒手空拳の状態で右腕を振りかぶりつつ大きく相手の懐へ踏み込んでいく
それを待っていたかのようにコボルトは猛烈な突進とともに両手で持った棍棒を振り抜こうと
ボゴンッ
ギルバートの大柄な体躯からは想像もできない速さの右フックがコボルトの頭を打ち抜き、突進の勢いをも打ち消す
それと同時にコボルトの棍棒も――多少勢いが衰えているとはいえ――ギルバートの脇腹に叩き込まれてはいるのだが・・
ギルバート「ハァッ!」ドシュッ
ギルバートはまったくダメージの無いかのように腰を使った鋭い左ストレートでコボルトの喉を叩き潰し、完全に息の根を止めた
ギルバート「ハァ・・ハァ・・」
ギルバートはたしかに鍛え上げられた戦士ではあるが、防具もなしにコボルトの両手持ち棍棒を喰らったダメージに息を切らせざるをえない
とはいえ少女を救うことはできた
痛む脇腹は無視して背筋を伸ばし、なるべく笑顔を浮かべつつギルバートは少女のほうを振りかえ・・
グウェン「・・・」フルフル
ギルバート「・・ワ、ワハハ・・そんなに脅えなくともよいのだぞ?もうモンスターは・・・」
グウェン「・・・」ビクビク
ギルバート「・・その・・どこか痛いのか?大丈夫か?」スッ
グウェン「・・・」ササッ
ギルバート「むぅ・・弱ったな」ポリポリ
グウェン「・・・」ジーッ
ギルバート「・・と、とりあえずここは危ないかもしれんのだ。村に一緒に戻ってはくれまいか?どうかな?お嬢さん?」
グウェン「・・・・・・」コクン
ギルバート「よ、よし、でははぐれないように付いてくるのだぞ?」
なんとか説得(?)に成功しギルバートはほっとしながら村のほうへと踵を返す
まったくもって女性の相手というのは疲れるものだと思いつつ歩き出し・・
グウェン「ありがと」
ギルバート「ワハハ、当然のこと・・を・・」
振り返ったギルバートの目には少女などまるで初めからいなかったかのように、これまでもこれからも変わることのないだろう土の道が映るだけだった
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