扶桑「十三海里」 (26)
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「私は今日も待っている」
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川内「私の妹は鉄になりました」
【艦これ】川内「私の妹は鉄になりました」 - SSまとめ速報
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「大将殿、私を解体してください」
いつもは海の上を艤装を身に着け、こちらに属する艦娘に出迎えさせるのだが、その日はわざわざ陸路で来たことに疑問を抱きながら大将が取り次ぐと、部屋に入り、簡単な挨拶をすますなり、扶桑はそう頼んだ。
大将は扶桑の所属する鎮守府の提督に絶対的信頼を置いていた。
彼の鎮守府には大和がいたのだ。
大和はこの日本の最高戦力であり、その大和の能力を活かせるのが彼だったからである。
そして、その大和は扶桑が鍛えたいうことも、そして、その鎮守府でも古参である扶桑がその鎮守府の皆の精神的支えであることも知っていた。
だからこそ、大将はどうしてだと返す。
大将の隣にはここの秘書艦である長門もいる、その視線は扶桑に問うようだった。
大和は確かに活躍をしているが、まだ連度は十分とは言えず、扶桑もそれは承知していて、突然このようなことを言い出したことで大将に叱られることも承知していた。
そして、ここで自身が辞めたのちにどうなるのかと、大和たち鎮守府の仲間や、この横須賀で頑張る妹の山城、そしてかつての西村艦隊の皆の行く末が今更になり気になりだした。
今ならまだ一時の迷いと言えば許されるだろう。そう言って、そして、あの人――――提督の元に戻ろうか。しかし、やはりいやだと心が拒絶する。
「そもそも、君がここにいるということは、彼は知っているのか?」
と、言われて、また更に悲しくなる。
今日はここまでで明日以降書かせていただきます。
ふむ
「……そう言えば、大和や矢作が君の鎮守府にはいたね。彼女らも息災かい?」
扶桑の顔を見て何かを悟ったのだろう、一度話題を変えようと大将はそう尋ねた。
「ええ、とても元気です。近々報告書が上がってくると思いますが、私がここに来る前にも戦果をあげたようです」
扶桑はまるで自身のことのように嬉しそうに言うた。しかし、その顔もすぐに曇る。
次に口を開いたのは長門だった。
「なあ、扶桑よ。今日は旧暦の十三夜……栗名月だ。
お前は元々この鎮守府の戦艦の一人であり、今は飛ぶ鳥を落とす勢いのある新興鎮守府の秘書艦でもある。
そのために、こちらから届けさせるのもあれだと思っていたのだが、今日来てくれるとはまるで夢のようだと思ったんだ。
今日はそのようなことを気にせず、豆でも栗でも好きなだけ食べて行ってくれ」
窓際に備えてあった豆と栗を皿ごと差し出しながらいう長門に、扶桑は今日初めて笑みを静かにこぼした。
扶桑はその二人の気遣いがうれしくなると同時に、自身はその二人に愚痴を溢しに来たという賤しき身分を情けなげに、
「本当に私は不幸だと思います。
船の時とは違い、このような立派な和かな着物来て、立派な艤装を身に着けてはいます。
しかし、私はあの鎮守府の秘書官に推薦してもらった恩をお二人にお返しできず、お国の為に奉公できずにいます。二人のお傍で出撃させて頂いた方が余程快くございます」
それを聞き、大将は、
「馬鹿者、そのようなことは仮にも言うてはならない。
君は艦隊の旗艦であり、秘書艦である。彼のサポートを行いつつ、君たちの動きやすいように鎮守府内を納めて行けば何も子細はない。
実際に今までだって君はよくしてくれている。
その証拠に、この鎮守府にだって君を慕うものは大勢いる。そこに栗や豆と共にある団子を作るのを金剛も手伝っていたのだが、今年は君に食べさせてやれないと心底がっかりしていた。たくさん食べて安心させてやってくれ」
と、たしなめる。そう言われ、扶桑も一旦落ち着こうと栗、豆、団子を二人と共にいただくのだった。
また明日書きます。
「先ほどは急に失礼いたしました」
間を置いたために少し冷静になった扶桑が行ったことは二人への謝罪だった。
「よい、君も先ほどは少し冷静ではなかった。
改めて、君の話を聞かせてくれないか?」
「ありがとうございます」
一度頭を下げ、そして、扶桑は再び真剣な表情でその口から先程と同じ言葉を紡ぐ。
「大将殿、私を解体してください」
大将の隣にいる長門が息をのんだのが扶桑にはわかった。
「私は今宵限りであの鎮守府に帰らぬ決心で出てきました。提督が許したからでなく、皆をだまし、皆の顔をもう見ぬ決心で出てきたのでございます。
今日まで約一年……悩みに悩みぬきました。そして、今日という今日、どうしても解体してもらおうと決心した次第です。どうぞ、お願いいたします、解体を許可してくださいませ」
「それは、どうしてだい?」
と大将と長門が詰め寄って問いかける。
「今まで黙っていましたが、私はこの一年、ろくに出撃していません……。確かに演習などに出ていますが、提督は出撃では大和を使います。彼女が鎮守府の……いえ、日本の最大戦力であり、一方の私は不幸型と言われたことのある船です。どちらを使うかなど理解しています。
そう思い、最初の内は我慢もできました。しかし、これだけ長い間出撃しないとなると、やはり私は必要ないのではないかと思えてしまうのです。
しかも、他の鎮守府では妹の山城も活躍し、他の西村艦隊の皆も頑張っているとよく手紙をくれます。それがうれしいと同時に、私はとても悲しくなってしまいます。ああ、私は何をやっているのだろうと……。
そして、何よりも辛いのが、鎮守府の皆が優しいことです。私に価値などないのに、どうして優しくしてくれるのか……。提督も……どうして私などと……」
そう言いながら、扶桑は自身の左手にはめられた指輪に視線を移す。
「ケッコンカッコカリ……たしかにそれを送ったときに君たちの鎮守府に大和はいなかった。
しかし、その指輪を送ったのも彼の意思だ。彼はとても誠実な人間だ。確かに大和は君よりも強い船だが、それでも、その指輪に込められた彼の思いは変わりはない……と私は思うがね」
「そうでしょうか……」
悲しげに目を伏せる扶桑。大将はさらに続ける。
「扶桑、こういう私を無慈悲とくみ取っているかもしれないが、決して君に対して懲罰を与えようと思ったり、説教をしようとも思っていない。
しかし、私は彼のことも責めることはできない。……彼は提督なのだから、いい意味でも悪い意味でも……その結果、君が辛い思いを知っていることも今はっきりわかった」
大将はここで頭を下げた。
「許してくれ、私は君に今から残酷なことを言う。
彼の報告書を読んでいるので無論そんなことは無いことはわかっている……しかし、たとえば彼が君を艦として必要しなくとも、艦娘たちは君を必要としているだろう。
君が軍をぬければ、情報統制の関係から、君の妹や仲間にも会えなくなる。
同じ不幸になくほどならば、彼の艦娘として大いに泣いてくれないか。その不満を胸に抑え、知らない顔で今夜は帰って、今まで通りに彼や他の艦娘たちを支えてやってほしい」
大将は震える声でそう言った。
長門もその横で顔を伏せる。戦いたいのに戦えない。その気持ちを彼女は前世で痛いほど味わっていたので、扶桑の気持ちを理解できるのだ。
扶桑もわっと泣いて、
「解体をと言ったのも私の我儘でした。確かに、皆に別れも告げずに軍を抜け、皆の顔を見れなくなるのはとてもつらいことです。
その辛さに比べれば、このまま皆の近くで皆の顔を見れる生活の方が辛抱できそうな気します。出撃できないくらいで不幸とは我ながらとても情けなくなりました。
大将殿、長門、もう心配しないでください。」
扶桑はそう言って、笑顔を無理に作ってみせた。そのことは二人にも分かったが、何も言えなかった。
ただ長門は心の中でこう思った。
「なんと不幸せ」と。
まだかな?
大将は一つ電話をかけた後に、扶桑に言う。
「ともかく、今日はもう帰りなさい。提督に断りなの外出、これをとがめられても文句は言えないぞ。後日、そちらへの視察の予定が入っているから、そこでまた話を聞こう。
日本近海なら最近は深海棲艦を見かけたという報告も少ない。護衛をつけて高速船を出させるからそれに乗って帰りなさい」
事を荒立てないのも大将の慈悲、扶桑はこれまでの身と覚悟して、
「大将殿、今夜のことはこれ限り、帰りますれば私は提督の秘書艦です。もし帰って許されるのなら、秘書艦として、皆の為に提督のよき片腕となり、皆さんがそれで喜んでくだされば、私はもう何も思うことはございません……。
私から言い出したことですが、もう心配しないでください。私の体は、今夜を最後に提督のモノだと思いまして、あの人の思うがままに何なりとしてもらいましょう。
それでは私はもう戻ります。金剛さんや、この鎮守府の皆さまにもよろしくお伝えください。大将殿と長門も御機嫌よう……この次には笑って参ります」
輝く月に照らされ、海風の音と波を切る船のエンジン音を感じながら扶桑は艦隊に護衛される船の上で物思いに更けていた。
大将は上手く言っておくと言っていたが、一度鎮守府から逃げ出した自分を皆は受け入れてくれるのだろうかと。
「電探に感ありッ! 総員、減速してください!」
護衛艦隊の旗艦の声で護衛艦たち、そして扶桑の乗る船も、速度を下げる。
「反応からして……駆逐が3、軽巡1……ですね。幸い気づかれていないようですし……こちらから打って出ます。
雪風は船の護衛として残ってください。扶桑さん、万が一の時はお願いします――――二水戦、突撃します!」
月明かりに向かい進む艦隊。一方の船は雪風の指示に従って戦闘海域から離脱をするように舵を取る。しかし、離れすぎてもいけないのであくまでも少しだ。
雪風が辺りを警戒し、海風に混じって爆発音が時たま聞こえる。
「……もう、ここまでで大丈夫です……」
扶桑は静かに口を開き、静かに立ち上がろうとするのを、操縦士が止めた。
「何を言ってなさる。ここからあなたの鎮守府までまだ半分しかきていない。ここで降りて一人で帰るなんて危険だ。考え直しなさい」
操縦士が声に力を入れて扶桑を叱れば、
「ごめんなさい。けど、ここで下してください。ここまでで、ここまででいいのです」
「あなたをここで下して帰ったら私どもが大将殿に怒られてしまいます。どうかお考え直しを……」
扶桑は何も言わずに顔をそらし、海に飛び降りて艤装を展開。そのまま探照灯を着けた。そして、その探照灯で照らされた操縦士の顔を見て、我知らずに声をかける。
「もしやあなた様は……」
「え?」
操縦士はしまったと顔を隠したがもう遅い。
「あなた様は、あのお方ではありませんか? 私をお忘れではないでしょう?」
扶桑は艤装をしまい、船に飛び乗ってその顔を覗き込もうとする。
そして、操縦士は顔を背けるが、それでも扶桑は覗き込もうとし、暫くして操縦士の方が折れた。
「雪風殿、少し船から離れてはもらえぬだろうか、扶桑殿と二人でお話ししたい」
様子をずっと窺がっていた雪風も察してくれたらしく「何かあればお呼びください」と言って、船から少し離れてくれた。
それを確認した後に、扶桑は口を開く。
「あなたは整備士の録之助様……。面目ありません、このような姿で……この様にすぐお近くにいたはずなのに、まったくお気付きになることができませんでした。本来ならお声ですぐに心づくべきはずなのに……私も余程鈍になってしまいました……」
と下を向いてその身を恥じた。
「いえいえ、私も大将殿に扶桑殿だと教えてもらっていなければただのどこぞのお嬢さんだと思っていたでしょうし、お互いさまでございます。
それにご存じないのも当たり前、元々整備士でしたが、今はこのように、一介の運転手。
お恥ずかしい身に落ちまして、今はこの様な雑用をいろいろ熟しています。
それにしても、あなたは相変わらずの美しさ、ケッコンカッコカリをしたと聞いた時から、それでも一度は拝むことができるか、一生のうちにまたお言葉を交わすことはできるのかと、夢のように願っていました。
今日まで入用のない命と捨てモノに取り扱ってきましたが、命あればこその対面。ああ……よく私を整備士の録之助と覚えていてくださいました」
と感涙するに扶桑は、
「不幸だわ」
とつぶやいた。
そのつぶやきは波音にかき消されて録之助には聞こえなかったようで、録之助は何か言ったかと問うと、扶桑は首を横に振った。
「そういえば、録之助さんも私が移籍してすぐにお見合いをしたと風の便りでお聞きしましたが……」
乙
> 「そういえば、録之助さんも私が移籍してすぐにお見合いをしたと風の便りでお聞きしましたが……」
正「そういえば、録之助様も私が移籍してすぐにお見合いをしたと風の便りでお聞きしましたが……」
「お恥ずかしい話、うまくはいきませんでした。
接j各大将殿が持ってきてくれた縁だったのですが、お答えできず。さらに仕事にも身が入らなくなってしまいまして、この立場に落ち着いているのでございます」
今度は録之助が顔を伏せた。
それとほぼ同時に遠くに響いていた砲雷撃音が止み、録之助は伏せたその顔をパッと上げ、雪風を呼び、戦況を問う。
どうやら完全勝利の様で、二人は一つ息をつく。
「どうやら一安心の様ですな。
しかし、まだこの様な危険があるかもわかりませぬし、一人でこんな寂しい海を行くのは心細いではないですか。一人で帰るなどとは言わず、我々にもう少しお付き合いさせてください」
そして、再び波を切り進む船のエンジン音が海原に響く。
暫く進むと、遠くに小さく明かりが見えた。
神通たちは減速し、その光に対して船舶信号を送ると、向こうもそれを返してきた。
「扶桑さん、あなたの鎮守府の方たちのようです」
「……そう、ここまでなのですね……」
扶桑は少し悲しそうな眼をして、船から飛び降りながら艤装を展開。
そして、船に振り返ると、先ほどまで着けていた自らの髪飾りを外し、それを小菊の紙に包んで録之助に手渡す。
「録之助様、昔あなたから送ってもらったこの髪飾りをお返しいたします。お久しぶりにお会いして、まだまだ話したいことはたくさんありますが、口へ出せませんことをお察しください。
どうぞ、私のことなど忘れて、以前の録之助様にお戻りになられて、この子たちが生き残るためにお力を尽くしていただくと嬉しく存じます」
と、あいさつすれば、録之助もその包みを受け取り、
「あなたの手より渡されたものなら受け取りましょう。しかし、あなたを忘れることだけは約束はできませぬ。
お別れを申すのが惜しいと言っても、これが十三夜の夢ならば仕方のないこと……さ、お行きなされ。私達も帰ります」
扶桑がそういうと、速吸からの補給物資を受け取った護衛艦隊が敬礼してきたので返した。
「ここまでありがとうございました。
大将殿にも宜しくお伝えください」
「はい、扶桑さんもお元気で」
あいさつを済ませ、扶桑は自らを迎えに来た矢作の方を向いて申し訳なさそうに頭を下げた。
「皆もごめんなさいね。私のためにこんなところにまで……」
「いえ、ご無事で何よりです。提督や大和も心配していますよ? 大将殿からの急な呼び出しとはいえ、書置きもなく出ていかれたのですから……」
そういうことになったのかと扶桑はひそかに胸をなでおろした。
「さあ、早く帰りましょう。鎮守府までは十三海里です」
「そうね、帰りましょうか……」
録之助の乗る船は東へ、海を駆る扶桑は西へ。大海原の波が月で煌き、波を切る音。
「十三海里」
扶桑は我が家までの距離を、そっと呟くのだった。
後日、扶桑は執務室に呼び出された。
何かあったのだろうかと赴くと、提督が手渡してきたのは大本営からの改装許可証であった。
「これは……」
「今朝突然送られてきてね。
これにより、君の艤装はさらに強化される。試してみるかい?」
扶桑はその問いに、迷わず首を縦に振った。これでまた出撃できるなら、と。
「よし、明石はすでに工廠で支度をしているから、今から向かってもすぐに開始できるだろう。持って行きたまえ」
判を押された書類を受け取り、急ぎ工廠に向かおうとすると、提督に呼び止められた。
「あと、君宛にこれも来ていた」
扶桑が手渡されたのは小さな封筒。それを開けると、中からは手紙と、この間録之助に返したはずの髪飾り、そして海と空をバックに写されたハイビスカスの花の写真だった。
扶桑は手紙を読み、思わず頬を染め、笑みをこぼした。
この花は青空と海がよく似合う。手紙にはその一言が書いてあった。
以上です。
今回は樋口一葉の十三夜を元にさせていただきました。
原作とはだいぶ変えてしまいましたし、文章も稚拙ですが、読んでくださった方、ありがとうございました。
この作品も青空文庫で無料公開されているので、興味を持っていただけたのなら幸いです。
よかった
乙乙
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