剣士「……旅に疲れた」 盗賊「シケたツラしてんな、おっさん」 (3)

とある酒場

剣士「……はあ。剣術に魅せられ、毎日毎日修行三昧の挙げ句、女房に見放され、娘に責められ、
   故郷に居場所を失い、それでも己の腕を磨くべく一人旅立ち、今日まで色々な場所を巡ってきたが……」

剣士「今俺は猛烈に後悔している……」

剣士「今更故郷に戻ったところで、女房に半殺しにされるのがオチだ。いや、その前にもう俺のことなんて……」

剣士「 自分勝手だよなあ。俺に居場所を求める資格なんてないってのも分かってんだ」

剣士「なにしてんだか……」

カランコロンカラン

盗賊「いやぁ~、今日も大量大量」

盗賊「おっ、ジジィ。いつものくれや。今なら出血大サービスで2割引だ」

店主「そりゃてめぇが決めることじゃねぇんだよクソアマ。毎日毎日来やがって。
     お前に飲ませる酒なんざとうに品切れしてんだよ。わかったらとっとと帰ってママの乳でも吸ってなガキが」

盗賊「おいおい、客に向かって随分な口の聞き方するじゃねぇか。ここは刑務所かなんかか?」

店主「酒代ふんだくるような奴は客だと言わねぇんだよ。それこそてめぇにゃ牢屋がお似合いだぜ」

盗賊「バカヤロー。あたしゃふんだくったことなんか1度もねぇよ。そっちが勘定間違ってんじゃねぇのか?」

店主「なんだと?」

剣士(なんだ……。急に騒がしくなったな)

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店主「てめぇ、どこの世界に盗みをやらねぇ盗賊がいるってんだ」

盗賊「知らないねぇ。そんなに言うならあたしがヤったっつう証拠はあんのか?」

店主「んなもんねぇよ馬鹿野郎。ただそんなことするような馬鹿はお前みたいな馬鹿しかこの街にゃいねぇってことだけだ」

盗賊「はっ。笑わせるぜ。大体な」

剣士「あー……。悪いんだが、嬢ちゃん、店主さんよ。少し静かにしてくれねぇかな。
   俺は今自分を卑下するのに忙しいんだ。そんなに喚かれちゃ雰囲気ぶち壊しだぜ」

盗賊「あ?」

店主「いや、すまんな旅のお方。こいつさえ黙れば俺も黙るんだが、きゃんきゃん吠え出したらとまらねーんだ、こいつ」

盗賊「先に突っかかってきたのはテメーだろジジィ。あたしゃ酒を飲みに来ただけだ」

店主「だから何度も言ってるだろが。盗んだ金で飲む酒なんざねぇんだよ」

盗賊「だから証拠をだな……!」

剣士「わかった、わかった。おい、店主さんよ。このよく吠える嬢ちゃんに酒を一杯やってくれ。
   俺のおごりだ。どうだ、これで文句ねぇだろ」

盗賊「お?」

店主「……はぁぁ。しゃあねぇ。おいクソアマ、今日のとこは勘弁してやる。この旅のお方に感謝するんだな。ほらよ」ゴトッ

盗賊「へへっ、ラッキー! ……っぷはぁー! おい、おっさん、サンキューな!」

剣士「礼なんかいらねぇから黙ってくれ」

店主「ちげぇねぇ」

盗賊「なんだなんだ? シケたツラしてんな、おっさん」ススッ

剣士「お前、隣に来るなよ。俺はお前と飲む気なんざサラサラねぇんだ」

盗賊「そういやさっき、自分のヒゲがどうとか言ってたな。なんだ? 剃りすぎて落ち込んでんのか?」

剣士「うるせーよ馬鹿。卑下だよ卑下!
   いい歳こいたおっさんがそんなことぐれぇで悩むかってんだ気持ち悪ぃ」

盗賊「確かにいい歳こいたおっさんだな! あれか、逆に歳取りすぎて毛も生えねー! ってか! あっはっは!」

剣士「なんだこいつ……めちゃくちゃうるせぇな」

店主「こいつと絡んだのが運のツキだよ旅のお方。今夜は諦めな。
   何を悩んでんのか知らねぇが、感傷に浸るスキすらねぇだろな」

剣士「5分前の俺をぶん殴りてぇよ」

盗賊「まあパァーっと飲もうぜ! パァーっとよ!」

剣士「てめぇそれ俺の金だからな」

盗賊「だからこそだろ」

剣士「こいつ……!」プルプル

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