真姫「私のMOMENT RING」 (38)

始まりがいつなのかと聞かれると、私にはそれがわからない。

そんなつもりで見てなかったし接してなかった。

けどよ、けど。

仕方ないじゃない。

あんなの相手に、気付いたら"こう"なっていたんだもの。

気付かないうちに大きくなった。

あの子に近付く度に跳ね上がる心臓の鼓動も、私の中のあの子への思いも。

まったく……疎いというか、無頓着というか。

我ながら呆れちゃう。

けど……案外そんなものなのかしら。

海未が詞を書くように、ことりが衣装を縫うように、口が、手が心を紡ぎだすみたいに。

ごく自然なもの。

言っておくけど、"これ"がどんなものかくらい、私にだってわかるわよ。

当たり前のように近くに転がっていて、求める人はたくさんいるけど、手を出そうとするのは怖くて、サンタさんでも届けることの出来ない、星みたいにキラキラした、トマトのように甘い感情。



"恋"



私は、にこちゃんに恋をした。

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――――――――

にこ「……いい?いくわよ?」

りんぱな「ごくり……」

にこ「……せーのっ!にっこにっこに~♪」

りんぱな「にっこにっこに~♪」

にこ「大銀河宇宙~?」

りんぱな「ナンバーワーン!!」

にこ「ありがとー!!って、ちょっとそこ!マジメにやりなさいよね!」

真姫「うるさいわね。なんで自分のコール&レスポンスなんて練習しなきゃいけないのよ。意味わかんない」カミノケクルクル

にこ「アイドルなんだから、ライブの序盤でしっかりお客さんのハート掴まなきゃいけないでしょ。お客さんも、私たちの自己紹介を楽しみにしてるんだから」

真姫「そんなふざけたのでも楽しみにしてるのかしら」

にこ「どぅあれがふざけてるって言うのよ!!」


――――――――

存在がふざけてるじゃない。

って、そんなこと言ったらさすがに機嫌悪くしちゃうわよね。

あながち間違いでもないと思うけど。

家事が出来て、面倒見がよくて、可愛くて、おもしろくて。

そんな子どもみたいな姿でそのスペック……ふざけてるって思われても仕方ないでしょ。

――――――――

にこ「いいからほら!ついて来なさい!にっこにっこに~♪」

真姫「はいはい、にっこにっこにー」

にこ「雑!!」

凛「真姫ちゃんもほら、一緒にやるにゃ!にゃーんにゃーんにゃーん♪」

真姫「やらないわよ」

凛「凛ちゃんと言えば~?」

真姫「イエローね」

凛「テンション上っげるにゃ~!!」フシャー

真姫「本番では上がるからいいのよ」

にこ「練習だと思って舐めてると、本番でダダ滑るわよ。真姫ちゃん、さいたま?みたいに」

真姫「滑ってないわよ!盛り上がったわよ!さいたまスーパーアリーナ揺れたじゃない!」

にこ「お客さんの一瞬の置いてけぼり感をにこは見逃しませんでした~!」

真姫「なによ!にこちゃんたら!」

にこ「なによ!!」

にこまき「むぅぅぅぅぅぅ!!」

にこまき「ふんっ!!」プイッ

花陽「け、ケンカしちゃダメだよぉ……あうぅ……だ、誰か助けて~……!」

凛「ちょっと待ってて~!」ニャー

――――――――

思い返すと、毎日ケンカしてるんじゃないの?私たち。

つまんないことでいがみ合ってるのはわかってるわ。

でも、にこちゃんが悪いのよ。

無意味に突っ掛かって来るから、つい私もムキになっちゃって。

にっこにっこに~♪だって、本当はやりたいのよ?

ほんの少し恥ずかしいだけで……

…………………………まっきまっきま~♪

…………消えたくなるわね。

なんだって、にこちゃんは私にちょっかいを出すのかしら。

ホントに子どもなんだから。

あら?

だったら、子どもを好きになった私も子どもなのかしら?

だとしたらお似合いなんじゃない?

なんて、甘い夢を見た。

――――――――

真姫「まったくもう」

にこ「そんなんで大丈夫なの?もうすぐ私たち三年は卒業なのよ?私たちがいなくなった後もアイドル研究部を支えられるように、もっとしっかり、アイドルとしての自覚を持ちなさい」

――――――――

……わかってるわよ。

ちゃんと……わかってる。

――――――――

にこ「あんたのことを応援してるファンがいる。それに120%応えるために、日頃から努力するのは当然のことなんじゃないの?」

――――――――

そうね。

その通りよ。

いつだって、どんなときだって、アイドルはファンを笑顔にさせないといけないのよね。

わかってるわよ。

にこちゃんが教えてくれたんじゃない。

笑顔にさせられてきたわよ。

にこちゃんは、私にとっての最高のアイドルなのよ。

私はにこちゃんの大ファンだもの。

ちゃんとわかってる。

でもね、それじゃあ……応援してるアイドルがいなくなっちゃうファンはどうしたらいいのよ。

この思いを、どこに向ければいいのよ。

誰が受け止めてくれるっていうのよ。

ねえ……にこちゃん……

――――――――

にこ「ちょっと?聞いてんの?」

――――――――

聞いてるわよ。

ちゃんと聞いてる。

にこちゃんの声。

どこか刺々しくて、軽快でくすぐったくて、けど不思議と心地よくて、いつだって私を……ううん、私たちみんなを後ろから支えてきた温かい声。

もう毎日のように聞くことのなくな……

あ……

――――――――

真姫「」ポロッ

にこ「!!?」

凛「真姫ちゃん……?」

花陽「泣い……た……」

にこ「ちょっ!!なによ!!そんなにキツく言ってないでしょ!?」オロオロ

真姫「ちがっ!そんな……じゃなくて……違う……違うのッ!!」ダッ

花陽「真姫ちゃん!?」

凛「行っちゃった…………にこちゃん」ジトッ

にこ「ええっ!?いやっ!?えぇ……」

――――――――

意味わかんない。

意味わかんない。

意味わかんない!

なんで……なんで……

なんでよ……

あてもなく走ったあげくに着いた中庭。

一本の木に手を置いて寄り掛かる。

吐き気がするほど荒い呼吸を整えると、今度は木に背を預けた。

木漏れ日の射す空をふと見上げた。

ああ、なんて青いのかしら。

ほんと……意味わかんない。

卒業するのなんて、わかりきってたことじゃない。

当たり前のことじゃない。

いつかは私たちも別々の道を進む。

なかなか会えなくなって、連絡がとれなくなることもある。

それが普通……なんじゃないの?

にこちゃん……

――――――――



真姫「うぇ……」ウルッ



――――――――

……考えただけで目が潤んできたわ。

こんなに感情のコントロールが下手だったかしら……

私はいつでもクールなパーフェクトマッキーよ♪…………やっぱりおかしいわね、うん。

……それもこれも、にこちゃんのせいよ。

あのおもしろ小悪魔のね……

にこちゃんが卒業しなければ、とりあえずあと一年は問題が先送りになるんじゃ……そうね、よし!

――――――――



真姫「にこちゃんを留年させましょう」

にこ「どういうことよ!!?」

クルッ

真姫「あ、にこちゃん」

にこ「泣いて走ってったかと思ったら、なんでにこを留年させる考えに至ってんの!?どういう経緯よ!!」

真姫「冗談に決まってるじゃない。まあ、留年どうこうはにこちゃんの学力次第だけど。大丈夫なの?」

にこ「なんで急にディスられてんのよ!!心配しなくても絵里と希に勉強見てもらってるっての!ったく!!……心配して損したわよ」

真姫「……心配してくれたの?」

にこ「うえっ!?///ま、まぁ?にこが言い過ぎて泣かせたってんなら後味悪いし~?スーパーアイドルにこにーが弱いものいじめなんてねえ~?」

真姫「……そう」

にこ「…………なんで泣いたの?」

真姫「……………………」


――――――――

ほら、そういうとこが泣けるのよ。

別に……って、そう返すしかないじゃない。

涙の理由を説明するのは、気恥ずかしいし難しいもの。

――――――――



真姫「なんでもないわ。ちょっと感傷的になっただけよ。μ'sの今後のこととか、にこちゃんの卒業とか――――」



――――――――

そこまで言って口を閉じた。

ああ……もう……失敗したわ。

余計な一言だってすぐにわかった。

これはダメよ。

にこちゃんたちの……って、そう言うべきでしょ。

――――――――



にこ「真姫……?」

真姫「…………卒業……するのよね」

にこ「当たり前でしょ」

真姫「卒業した後は?」

にこ「大学行きながらアイドルの勉強する。地道にオーディション受けたりして、今以上のトレーニングして、今度はμ'sじゃない、なんの後ろ楯も無い0から、ただの矢澤にことしてスタートする」

真姫「なによ、考えてるようでけっこうざっくりしてるのね」

にこ「がむしゃらに根を詰めてなんとかなるなら、なりふり構わずそうするわよ。そんなに甘くないことはわかってる。三年間のアイドル研究部部長の経験は伊達じゃないわよ。それでも精一杯、前を向いて夢を目指す。最後まで諦めない。やるったらやる!……って、なんか穂乃果みたい」

真姫「そうね。ファイトよ」

にこ「なによ、あんたまで」



――――――――

クスリとこぼれた笑みを見て、にこちゃんも安堵したみたいに笑った。

同時に、あっけらかんとしてるにこちゃんに、寂しさも覚えた。

なんだ……にこちゃんは寂しくないのね、なんて悪態をついてみると。

寂しかったらいつでも電話してきていいのよ~って、いつもみたいにおどけてみせる。

未来のトップアイドルと気軽に連絡がとれるなんて幸せ者ね~♪なんてあざといことを言うから、私も私で、はいはい、って適当に返した。

お互いに見つめ合って、どちらからでもなく吹き出した。

アハハと笑い合うこの一瞬が楽しくて、終わらないでと乞い願って、また頬を涙が伝った。

こんなに近くでその笑顔を見られないことが……

このなんでもない時間さえ無くなるのが、無性に寂しいのよ……

――――――――



真姫「ッ……エグ……ウッ……ウゥ……!」

にこ「……………………」ポン…ポン

真姫「ッアア……ウアァァァァ…………!!」



――――――――

頭に置かれた小さな手……

ずっと私を引っ張ってくれた手……

甘えるようににこちゃんに抱きついた。

練習着が汚れちゃうくらい泣いて……泣いて……泣いた。

泣きじゃくる私を、にこちゃんはずっと、よしよし、なんてあやしてくれた。

卒業しないでよ……

離れちゃ嫌よ……

次から次に口から言葉が洩れた。

躊躇いも羞恥も無いわ。

今なら全て、たった一度の青い春の出来事で終わるもの……

若さ故の過ちという、過ぎ去るだけの瞬間で……

――――――――



真姫「にこ……ちゃん……」ポロポロ

にこ「うん」

真姫「…………なの」

にこ「……なに?」ギュッ

真姫「私……私、にこちゃんのこと……」



――――――――

好きなの……

大好きなの……

どこにも行かないで……

ずっと私と一緒にいて……

溢れ出る言葉の数々……

言おうとして、言葉が出なかった。

――――――――



にこ「」チュッ



――――――――

――――――――

私の唇に重なった、にこちゃんの唇。

ほんの少し背伸びをして、下から押し当てるみたいに……

柔らかくて、少しだけ震えてたのがわかった……

わけもわからず言葉を詰まらせて、……息をするのも忘れた一瞬に、唇が離れる。

――――――――

――――――――



真姫「にこ……ちゃ……」

にこ「寂しいのが……あんただけのはずないじゃない……」ポロッ

真姫「に……」

にこ「寂しいのがあんただけのはずないじゃない」ポロポロ

真姫「――――ッ!!」

にこ「こんな楽しい時間……ずっと終わらなければいいなんて、思わないはずないじゃない。大好きなあんたと……離れたくないって思うのが当然じゃない」ポロ…ポロ…

にこ「ずっと……好きだった……」

――――――――

感動も驚愕もいっしょくたにかき混ぜたとき、人間はこんなに冷静になれるのね。

冴えた頭とは裏腹に涙は流れるけど。

ああ、本当にズルい子……頬を伝わる雫の熱さを感じながら。

私が言いたかったのに。

私が先に伝えたかったのに。

ずっと溜め込んでた思いを無下にされたみたい。

もう……

困った小悪魔なんだから。

悔しいから返事はしてあげないわよ。

ね?にこちゃん。

――――――――



真姫「」チュッ



――――――――

卒業して、どんなに離ればなれになっても、どんなに遠い存在になっても、きっと変わらないものがある。

にこちゃんと出逢い、過ごし、夢見た時間。

ずっと思い続けて、これからも紡ぎ続ける、輪のように巡るこの瞬間。

楽しいも悲しいも嬉しいも全部一緒に……

にこちゃんの誰よりも一番近くで……ずっと……ずーっと……

――――――――

ねえ、にこちゃん。

なによ。

一緒に暮らしてあげてもいいわよ?

生活力皆無のあんたと?

嫌なの?

考えとく。



ねえ、にこちゃん。

なによ。

結婚しましょうか。

あー……まあ……

嫌なの?

……アイドル引退したらね。



ねえ、にこちゃん。

なによ。

チュッ

…………チュッ

ずっと一緒にいてくれる?

…………チュッ



ねえ、にこちゃん。

真姫。



愛してる。

…………うん。

ねえ、にこちゃん。

なによ。

すごくいい曲が出来たと思うの。

ふーん?聞かせてもらおうかしら。

きっと気に入るわ。

どんな曲?

このずっと続く瞬間をイメージしたの。

瞬間って、μ'sっぽいわよね。

海未にステキな歌詞を考えてもらいましょう。

花陽には私のラップを伝授してあげようかしら。

凛には楽しそうに踊ってほしいわね。

絵里と希のユニゾンなんて良さそうよ。

ことりの甘い声も映えるんじゃないかしら。

出だしはやっぱり穂乃果よね。



チュッ



ねえ。



大好き。

おわり

乙です


お互いに思いも伝え合わないままいきなりキスって…

おつ

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