※このSSは「【艦これ】The Black Cruisers 2 - 那珂ちゃん、武道館で仕事する -」の全年齢版です。
※「家族で笑ってディスプレイを囲んでお茶が飲める位」の話を目指して、試験的に書きました。
※内容は修正前とほとんど同じです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462629003
満員の武道館の照明が落ちた。
八千人のどよめきが爆発する。
真っ暗な会場に、オレンジに光るペンライトの海が現れた。
「うおおおおおおお!!!」
「那珂ちゃーーーーん!!!」
「那ッ珂ッちゃーーーーん!!!」
みんながわたしの名前を絶叫する。
誰かの手からすっぽ抜けたペンライトが、二階席から流れ星のように落ちていった。
(那珂ちゃん……とうとう武道館に来た……)
わたしは真っ暗なステージに立ち、会場を見渡す。
広い。圧倒的に広い。そして、人、人、人……。
観客、バックバンド、照明、音響、カメラ、制御卓、会場整理、多くのスタッフのみんな……。
(みんな……みんながいてくれたから、那珂ちゃん、ここまでこれたよ……)
色んな思いがこみ上げる。もう泣きそう。歌う前なのに……。
提督も会場に来てくれた。指令はただ一つ。
「魅せてやれ」
それだけで十分だった。
突然、スポットライトがわたしを照らす。
それを合図に演奏が始まった。
オレンジの海が、一斉に波を立てる。
「ハイッ!!! ハイッ!!! ハイッ!!!」
八千人の観客が一体となって、合いの手を入れる。
最初の曲は、わたしの代表曲。
何百回、何千回と歌ってきたけど、今から歌うのが間違いなくマイベスト。
いつだってそう。
「ハイッ!!! ハイッ!!! ハイッ!!!」
わたしが手を突き上げる。
「ハイッ!!! ハイッ!!! ハイッ!!!」
観客のみんなも突き上げる。
ステージから観客一人一人の顔が見えた。ツアーで毎回見る顔、見たことのない顔……。
でも……みんな……全員……ずっと前から知っている気がする……ずっと那珂ちゃんと一緒だった気がする……。
だめだ……やっぱり泣きそう……みんなを感じる……八千人が一体になった感じ。
今なら何でも出来そう……今のわたしたちなら奇跡を起こせる、そんな確信を持った。
「今日は那珂ちゃんのライブに来てくれて、ありがとーーーー!!!」
涙が出た。我慢できなかった。ボロボロと涙がこぼれる。
「みんなーーーー!!! 最高のライブにしようねーーーー!!!」
「うおおおおおおお!!!」
「いっくよーーーー!!! 解ッ体ッアイドル~♪ ナンバーワンッ……」
バンッと演奏が止まった。
振り返るとバックバンドがいない。
(なにっ!?)
前を見ると観客がいない。
(えっ!?)
横を見ると……。
「那珂ちゃん……探しましたよ……」
笑顔の神通ちゃんが脇を抱えていた。
「え?! 那珂ちゃんライブ中なんですけど……」
逆を見ると川内ちゃんがいる。
「那珂! 仕事だよ! 指導だよ! 夜戦だよ!!!」
「え?! えっ!? えぇえええええ!?!?!」
わたしは両脇を抱えられ、舞台の袖に連れていかれる。
「ちょっ! やめっ! 那珂ちゃんは……那珂ちゃんは……那珂ちゃんは絶対、路線変更しないんだからーーーー!!!」
那珂ちゃん、そこで目が覚めた。
いつもの部屋のいつものベッド。枕が涙とよだれで濡れている。
(せめて一曲歌わせてほしかったよ……)
【艦これ】The Black Cruisers 2
- 那珂ちゃん、武道館で仕事する -
【全年齢版】
那珂「今何時……げっ! もうこんな時間!」
わたしは飛び起き、急いで支度をして部屋を飛び出した。
行く先は鎮守府の軽食コーナー。
そこにはもう川内ちゃんと、神通ちゃんがいた。
那珂「おっはよう~☆」
川内「おはよう!」
神通「おはようございます」
鎮守府には軽食コーナーがあるんだけど、経費削減のため、艦娘が持ち回りで店員をしている。
今日の当番は、わたしたち三姉妹。
開店準備を済ませたら……。
那珂「看板出すよ~♪」
『The Cruisers Caffee』と書かれたボードを軽食コーナーの前に置いた。
憲兵「こんにちは!」
さっそくお客さん。
常連の憲兵さんがカウンターに座る。
憲兵「神通さん、ホットのブレンドをお願いします」
神通「はい、かしこまりました」ニッコリ
この憲兵さん、常連といっても、わたしたちの当番の時しか来ないらしい。
その上……。
川内「あの憲兵さん、相変わらず神通のことしか見てないね~!」ニタニタ
那珂「そういうことは、あまり大声で言わないほうがいいと思うな……」
その時だった。
バーーーーーン……。
演習場の方向から爆音。
演習場で爆音は珍しくない。でもこんな音は聞いたことがなかった。
那珂(なんかイヤな音……)
急に人の往来が激しくなる。
川内ちゃんが人を捕まえた。
川内「なにごと?」
水兵「演習中、陽炎さんの主砲の砲身が爆発し、負傷したそうです!」
神通ちゃんの顔が険しくなった。
川内「行ってきなよ。店はわたしと那珂でやるから」
神通「はい」
憲兵「私も行きます」
神通ちゃんと憲兵さんが慌ただしく出て行く。
結局、神通ちゃんが戻って来たのは夕方近くだった。
神通「陽炎は軽傷でしたが脳震盪で意識を失っていました。目が覚めるまで病室の前で待っていたので、遅くなってしまいました……」
川内「遅くなったことを気にしなくていいって。陽炎のほうが大事だし」
那珂「軽傷ですんだのは、不幸中の幸いだったね」
川内「しかし……砲身が爆発するなんて、今までなかったけどね。原因は分かったの?」
わたしもそれが気になる。
陽炎ちゃんは神通ちゃんが認めるほど優秀な艦娘で、艤装の整備不良なんて考えられない。
砲身の内側がサビてたりゴミが入っていたとか、絶対に無いと思う。
だから爆発するなんて不思議だった。
まさか……深海棲艦のテロ……?
神通「陽炎によると、演習の前に艤装を整備して、主砲も確認し、砲身内に異物やサビは無かった、と」
川内「陽炎が言うなら、本当にそうだと思うよ」
神通「それに、砲身は交換したばかりだと言ってました」
川内ちゃんがうつむく。
川内「実はさ~、わたしも気になることがあるんだ。最近、主砲の砲身を交換したんだけど、弾がばらけるんだよ」
神通「……?」
川内「新しい砲身に交換するとさ、いつもなら同じ場所を狙えば、そこに弾が集まるんだ。
でも、この前交換したら、同じ場所を狙っても弾が集まらない。ばらける。まるで寿命が切れた砲身みたいにね」
那珂「それって……まさか……」
神通「陽炎は新品に交換したつもりが、実は寿命切れの砲身で……脆くなっていたから爆発した……と」
川内「その可能性はあるね」
那珂「明石さんに相談してみようよ」
店を閉めた後、工廠の明石さんに会いに行った。
明石「三人そろって工廠に来るなんて珍しいですね。ここじゃなんですから事務所で話しましょ。会議卓で待ってて下さい」
事務所の会議卓で待っていると……。
明石「コーヒーをどうぞ。インスタントだけどね」ニッコリ
那珂「ありがとーー!」
コーヒーを飲みつつ、明石さんにわたしたちの推測を話した。
川内「それでさ、寿命切れの砲身が新品として取り付けられることって、ありえるの?」
明石「陽炎さんの砲身交換は、工廠ではやってません。梱包されたままの未開封の砲身を、陽炎さんに渡しました。
ですから、工廠で使用済みの砲身を誤って取り付けたということはありません」
那珂「そうなんだ」
明石「もしあるとするなら……砲身が初期不良品だった。もしくは製造工場で誤って寿命切れの砲身が混入した……とかですね」
川内ちゃんが身を乗り出した。
川内「実はさ、わたしの砲身も怪しいんだよねー。最近、交換したんだけどー」
明石「……」
川内「使った感じは寿命切れだけど、見た目はピッカピカの新品なんだよ。もしこれが使用済みなら、
偶然混入したんじゃなくて、意図的に新品に見せかけてるとしか思えないね」
明石さんが、ぴくっと反応する。
川内「わたしの砲身……業者に調査してもらうことは出来る?」
明石「業者に問い合わせることは出来ますが、その前に川内さんの砲身を私にせて下さい。
私も工廠を預かる身ですから、砲身の精度は見れます。それでもし疑わしいとなったら、
提督を通して海軍の技術部に報告します」
目が笑っていない明石さん。
明石「絶対に白黒つけます。適当なままでは済ませません」ニッコリ
艦娘は艤装に命を預けている。それを知っている明石さんだからこそ、機材の品質を徹底的に追求する。
品質に疑問があれば、納得するまで調査する。鎮守府の艦娘が頼りにするだけはある。
まあ、だからこそ目が笑ってないんだけどね……。
それから数日後、また軽食コーナーの当番が回ってきた。
憲兵「こんにちは」
那珂「こんにちは~☆」
憲兵「神通さん、いつもので」
神通「ホットのブレンドですね」ニッコリ
憲兵「そ、そ、そ、そうです」
憲兵さん、顔真っ赤だよ……。
そういえば……。
那珂「憲兵さん、陽炎ちゃんの事故、原因分かったの?」
憲兵「いや……残念ながら何も……」
神通ちゃんが上目づかいで言った。
神通「私も気になります」
憲兵さんの顔に、汗がひとすじ。
憲兵「……ここだけの話にしておいてくれるかな……爆発した原因は、砲身がボロボロだったからです。
砲身の流通経路のどこかで、新品に見せかけた寿命切れの廃品が混入したらしいです。
憲兵隊はこの件を重大事件と見なし、現在、大規模な捜査を行ってます」
翌日、あっけなく事件が終わった。
わたしたちが大食堂でお昼を食べていると、青葉ちゃんが入ってきた。
青葉「青葉新聞の号外だよーー! 憲兵隊の緊急会見! 爆発した陽炎の砲身は、なんとリサイクル品だった!!!
調達部門の技官と、商社の営業の悪だくみ! 廃品として回収した砲身を、研磨して新品として売り飛ばす! 濡れ手に粟の大儲け!
儲けた大金は行方不明! パナマか? スイスか? リヒテンシュタインか??? さあさあ号外だよーー!!!」
さっそく号外を読んでみる。
神通「調達部門の技官と、大手商社の営業が犯人だと……」
那珂「なになに……廃品として回収した砲身を、海外から輸入したと偽って商社が納品。
ワイロを受け取った調達部門の技官が、その砲身を品質検査せずに受領した。
そして……実は数年前から廃品を新品と偽って納品していたが、状態の良いものだけ選んでいたので発覚しなかった。
しかし、最近は状態の悪い砲身までも納品したため、事故が多発し発覚した……だって」
川内「……それだけ大掛かりな不正、この下っ端二人じゃ無理だね」
神通「……」
神通ちゃんの顔がみるみる無表情に……怖い……。
次の当番の日、憲兵さんに聞いてみた。
那珂「憲兵さん……ほんとのこと、教えてほしいなーって」
憲兵「発表以上のことは知りません」
神通ちゃんが上目づかいで言った。
神通「何かご存じでしたら……」
憲兵さんの顔に、汗がひとすじ。
憲兵「……他言無用でお願いします……実は軍の上層部から圧力がかかって、捜査がストップしたらしいです。
誰が圧力をかけたのかは分かりません……残念無念です……」
神通「そうでしたか……」
まずい。神通ちゃんのスイッチが入っちゃう。勘弁してほしい……。
店が終わって部屋に帰る途中、神通ちゃんが切り出した。
神通「姉さん、那珂ちゃん、相談したいことがあります。今晩、私の部屋で夕食でもどうですか?」ニタァ
那珂「ヒッ! な、那珂ちゃん……ボイストレーニングしないといけないから……今晩は……」
神通「……今晩……は……?」ハイライトオフ
那珂「いっけなーーい☆ ボイトレは明日だった! な、那珂ちゃん、うっかり♪ きゃは☆ 今晩、お夕食、一緒に食べたいなー!」
神通「那珂ちゃんたら……うっかりさんですね」ニッコリ
川内「わたしも行くよ」
神通「……では一九〇〇時に……」
夕食まで時間がある。
川内ちゃんは夜のランニングに出かけた。
川内(夜は……夜の街はいいね……)
港の近くの誰もいない公園。その横の暗い夜道を走りぬける。
突然、大きな衝突音と悲鳴。
川内「!?」
遠くを見ると、中年男性と女の子が道路の真ん中に座りこんでいる。二人とも血だらけ。
その先に大型のセダンが止まっている。
どうやら、このセダンにひかれたようだ。
川内「……えっ?!」
セダンがUターンした。
負傷者を病院に運ぶためと思ったが、様子がおかしい。
狙いをさだめるようにハイビームのランプを付け、ホイルスピンしながら加速。
殺意とアクセルを全開にして、男性と女の子めがけて突っ込んできた。
川内(走る? 間に合わない。ジャンプ? 間に合わない。魚雷? 車に当てて爆発で進路を変える? 少ないと車の進路を変えられない。
多いと爆風に女の子たちが巻き込まれる。主砲? 車を貫通するから進路を変えられない。エンジンを打ち抜いても直ぐには止まらない。
ドライバーを打ち抜いても進路は変わらなそう。さあ、どうする? どうする? どうする? ならこれでどう!)
セダンはスピードを上げ、男性と女の子の目前に迫る。
川内ちゃんは魚雷を投げた。
ひゅん、と魚雷の飛ぶ先は、セダンの真下の地面。
魚雷が爆発し車体を持ち上げ、セダンが片輪走行になった。
川内「イヤーーーーッ!!!」
ニンジャめいた絶叫とともに、すかさず主砲を発射。
ドドン! とセダンの腹に命中。垂直近くまで車体が傾いた。
女の子「!?」
セダンは男性と女の子の真横をギリギリすり抜け、片輪走行のまま公園の茂みに突っ込んで止まった。
道路の二人は、その場に気を失って倒れこむ。
川内「大丈夫!?」
川内ちゃんは急いで駆け寄ると、救急車と警察を呼んだ。
そのまま警察の事情聴取を受けるはめになった川内ちゃん。鎮守府に帰ってきたのは翌日の昼。
帰ってきても、すぐに提督による事情聴取。解放されたのは定時後だった。
わたしたちも事情聴取を、もちろんやる。
神通ちゃんの部屋で夕飯を食べながらね。
川内「……ということがあったの。昨日は夕食に行けなくてごめんね」
神通「謝る必要なんてないですよ。人助けしたのですから。とても良いことです。電話連絡もしてくれましたし」
那珂「そうだよ! 人の命を救ったんだから!」
神通「それで、お二人の容態は?」
川内「うん。女の子は重傷だけど命に別状はない。男の人は意識不明の重体」
神通「まあ……」
那珂「ドライバーは?」
川内「軽傷。薬物中毒で、意味不明のことを言ってるらしい」
川内ちゃんはよほど空腹だったらしく、夕飯をかき込むように食べている。
口で、ちゅるんとスパゲッティを吸い込むと……。
川内「それで……女の子から面白い話を聞いんだ……」
事故の翌日、鎮守府に帰る前、川内ちゃんは女の子の病室に行った。
女の子がどうしてもお礼を言いたいので病室に来てくれ、と言われたからだ。
女の子「……助けてくれてありがとう……」
川内「どういたしまして」
女の子「……お名前は……?」
川内「わたしはXXXX鎮守府の川内、よろしくね」
女の子「……よろしく……」
川内「じゃ、行くね」
長居しては悪いと思った川内ちゃんは帰ろうとする。
女の子「……待って……艦娘さんに……どうしても言わなきゃいけないことがあるの……」
川内「言わなきゃいけないこと?」
女の子「……そう……艦娘さんの大砲が爆発した事件……」
川内「……」
女の子「……犯人と言われている技官は……わたしのお兄ちゃんなの……」
川内「!?」
女の子「……でもお兄ちゃんは犯人じゃない……無罪なの……本当なの……信じて……」
女の子の目から涙がこぼれる。
女の子「……わたしは濡れ衣をはらそうと探偵さんに調査を頼んだの……そしたら脅迫されたり……駅のホームで誰かに押されたり……。
……この事故も……きっと……調査を止めさせようとして……」
川内「……」
女の子「……探偵さんが言ってた……もうすぐ証拠が掴めそうだって……でも……」
川内「……本当の犯人のあてはあるの?」
女の子「……大手武器商社の社長……東部憲兵隊の憲兵司令官……そして……海軍の調達部門統括の中将……」
川内「!?」
女の子「……お姉さんが艦娘って聞いて……お礼も言いたかったけど……本当はこれが言いたかった……お兄ちゃんは無実なの……」
川内「うん、信じるよ」
女の子「……ありがとう……」
川内ちゃんはハンバーグを平らげた。
川内「……だそうだよ」
那珂「那珂ちゃんも信じる!」
ふと横を見ると……。
神通「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
那珂「ヒェッ!!!」
那珂ちゃん、思わずアイドルにあるまじき顔をしちゃった……。
翌日、神通ちゃんは青葉ちゃんの部屋を訪ねた。
青葉「青葉になにか御用ですか?」
神通「調べて欲しい人がいます。お願いできますか?」
青葉「誰ですか?」
神通ちゃんは真犯人らしき三人の名前を伝える。
青葉「いいですよ。神通さんの頼みなら」
神通「ありがとうございます」
青葉「お互いさまですよ。神通さんの駆逐艦ネットワークからは、多くの情報をいただいてますから……」ニタリ
神通「お願いしますね……」ニタリ
数日後、とうとう神通ちゃんの部屋に召集がかかった。
一九〇〇時、神通ちゃんの部屋。わたし、川内ちゃん、神通ちゃんがいる。
川内「仕事だね?」
神通「ええ。例の三人の裏が取れました」
那珂(やっぱり……)ガックリ
神通ちゃんは『真の指導』と称して、腐敗した海軍のお偉方に『仕置き』をしているんだ……。
前の戦争で、戦争に勝つには駆逐艦より先に、まず軍の上層部を『指導』すべし、という結論に至ったんだって……。
でも……警護厳重なお偉方に襲撃をかけるとか、頭おかしい……どうかしてるよ……。
神通「……那珂ちゃん……元気がないですが大丈夫ですか……?」ハイライトオフ
那珂「えっ!? 那珂ちゃん、いつでも元気いっぱいだよ♪ きゃは☆」
那珂ちゃんだって、女の子はかわいそうだと思うし不正は許せない。
でもアイドルだから、バイオレンスなことはしたくない。
だから憲兵さんに任せればいいと思うんだけど……ぶっちゃけ神通ちゃんが怖いから、断れないんだよ……。
それでズルズルと……もうイヤーーーーーっ!!!
神通「今夜、中将の家に三人が集まります……」
テーブルの上に、三人の写真と家の見取り図を広げる。
一体、どこからこんなものを……???
神通「担当ですが……」
神通ちゃんが写真を手にとり、川内ちゃんとわたしに差し出した。
神通「姉さんは、この武器商社の社長をお願いします」
川内「あいよ」
川内ちゃんの『仕置き』の技は、関節外し……。
アゴを外して助けを呼べなくしておいてから、全身の関節という関節を外して激痛を味合わせるんだ……。
神通「那珂ちゃんは、憲兵司令官をお願いします」
那珂「那珂ちゃん、ごきげぇん!」
那珂ちゃんは解体ハンマーで滅多打ち……。
神通「私は中将……」
神通ちゃんは魚雷で百叩きして、海軍精神を注入するんだよ……。
そして見取り図の部屋を指さす。
神通「二人はいつも決まったゲストルームに泊まるそうです。社長はここ。憲兵司令官はここ」
川内「家の警備は?」
神通「家の外に要人警護の憲兵が二人。車両が一台。家の中に私的な警備員がいるようですが、こちらは詳細不明です。
外壁の高さは三メートル。監視カメラ、有刺鉄線付き。鉄線には電流が流されています」
川内「三メートルか。人間は防げるかもしれないけど、艦娘ならジャンプで飛び越えられる」
艦娘を警戒する人間はいない。艦娘は人間に危害を加えないように作られているから。
作られているはずなんだけど、神通ちゃんは『指導』することは当人のためであり危害に当たらないという超理論で、思考回路のリミッターを突破。
いったいどこに、魚雷で百叩きすることが危害に当たらない世界があるのかな……?
神通「ところで……那珂ちゃんのために、新しい得物を用意しましたよ」ニッコリ
那珂「え、ありがとーー♪」
神通「那珂ちゃんと言えばアイドル……」
那珂「うん……」
神通「ですから、マイクスタンドの……」
那珂「マイクスタンドの?」
神通「……ように柄の長いスレッジ・ハンマーですよ!」パァアアア
那珂「」
やっぱりか! 解体なの? 那珂ちゃんといえば解体なの?
神通「頭部は堺の刀匠の作。柄は特別に取り寄せたチタン製ですよ!」
那珂「あ、ありがとーー……。那珂ちゃん、パワーアーップ……」
その後、作戦を打ち合わせて、黒い制服に着替えた。顔には面頬。
神通「装備の不正、断じて許しがたし……。いくら演習をして練度を上げても、海戦で砲身が爆発したら元も子もなく……。
艦娘が命を預ける装備をド汚い欲望で汚し……陽炎を始め、多くの艦娘の命を脅かすなど……。
かくなる上は、このようなタワケが二度と現れないよう奴らに地獄を見せて、一罰百戒とするのみ……。
我ら海軍のドブさらい……川内三姉妹がやらねば誰がやる……」
神通ちゃんが立ち上がった。
神通「出撃いたします!!!」クワッ!!!
闇夜を駆ける三姉妹。
でも那珂ちゃん、できたら車で現場に入りたいなーって……。
中将の家の近くまできた。高所から屋敷の様子をうかがう。
広大な敷地に日本家屋の母屋。日本庭園には松、石灯籠、鯉のいる池、鹿威しまである……。
時代劇かな?
川内「お……。神通、あれあれ」ニタニタ
神通「あれは……まさか……そんな……」
屋敷の外で警備しているのは、あの憲兵さんだった。
神通ちゃんが人間らしく動揺するのを見ると、かえって怖い。
川内「憲兵さんが正面入り口で頑張ってるから、裏手から入ろう」
裏手にまわり、ジャンプで壁を飛び越え、屋敷に潜入する。
わたしたちは目配せして、作戦を開始した。
那珂「……窓から侵入だけど……」
窓を割って家屋に浸入するんだけど、そのまま割ると警報が鳴る。
だから……。
数分後、屋敷の照明が全て消えた。
那珂「……チャンス……」
急いで窓を割って、屋敷に入る。
まもなく照明が復活した。
那珂「……警報は鳴ってないね……ふぅ……」
照明が消えたのは、川内ちゃんが電柱と屋敷の間の電線を切断したから。
電線切断から自家発電に切り替わるまで、ほんのわずかだけど完全に電源を喪失する時間がある。
その間に窓ガラスを割れば、ガラス破壊センサーに気づかれずに侵入できるってわけ。
ガラス破壊センサーは窓が割れる音を検知するから、割れた後で電源が復活しても、もう遅いってこと。
那珂「ここかな……?」
ゲストルームのドアをノックした。
憲兵司令官「なんだ?」
那珂「お酒をお持ちいたしました」
憲兵司令官「酒など頼んでないぞ」
どうしよう……。
那珂「中将閣下からの差し入れでございます。日頃のお礼にと」
憲兵司令官「ふむ……入れ」
ドアが開いた。すかさず部屋に入り、後ろ手でドアを閉める。
憲兵司令官「誰だ!?」
制服姿の憲兵司令官が叫んだ。
わたしは答えずハンマーを振り下ろす、が、スルリとかわされる。
スキンヘッド、太眉、彫りの深い浅黒い顔の憲兵司令官がニヤリと笑った。
那珂「!?」
高い身長、冷蔵庫のような胴体、大木のような手足のわりには、機敏な動き。
ムキになってハンマーをブンブン振り回すが、ヒラヒラと動いてカスリもしない。
憲兵司令官「どうした? 動きが止まってるが。息が上がったのか?」
しまった……こっちの体力切れを狙っていたのか……?
憲兵司令官「では、こちらから行くぞ」
腰の長い鉄棒を抜き、構えた。
憲兵司令官「こいつは俺が特別に作らせた実戦用鍔付十手でな……長さを三尺にしてある……」
そう言うやいなや、十手を上段から一気に振り下ろしてきた。
那珂「キャアアアアア!」
ハンマーの柄で受け止めたけど、ものすごい衝撃。
やばいよ……この人強い。
憲兵司令官「ほう、受け止めるか。折れないハンマーの柄もなかなかのものだが……お前もただの小娘ではないな?」
那珂「……」
憲兵司令官「……艦娘か? 艦娘が人を襲うとは信じられんが……。まあいい。憲兵隊でも軍でも、
俺とまともにやりあえるやつがいなくて退屈していた。艦娘なら相手にとって不足はない……」
この人、なんかすごく怖いんですけど!
憲兵司令官「すぐにやられて俺をがっかりさせるなよ……いくぞ!」
ガキン! ガキン! ガキン!
上から下から左右から十手が打ち込まれる。
那珂「あわわわわ……」
受け止めるだけで精一杯。反撃なんて無理! チタン製の柄が折れそう!
憲兵司令官「もっと速くなるぞ」ニヤリ
那珂「」
ガキン!!! ガキン!!! ガキン!!!
那珂「ひぇええええ!!!」
十手の打ち込みが早すぎて、柄を短く持たないと間に合わない。
那珂「……ん?」
疲れたのか、ふと十手の打ち込みが止まる。
チャンス!
柄を長く持ち、フルスイングでハンマーを思いっきり振り下ろした。
憲兵司令官「……」ニヤリ
罠だ!!!
憲兵司令官はハンマーを十手のカギで受けると、柄が抜けないように十手をひねる。
そしてわたしのみぞおちに後ろ回し蹴りを放った。
那珂「うぐっ……ぼぉえぇええ……」
盛大に反吐を撒き散らしながらも、なんとか踏みとどまる。
面頬の裏がすごいことに……。
朦朧としながらも、十手の連撃にそなえ、急いでハンマーの柄を短く持ち直した。
憲兵司令官「手が震えているぞ。握力が無くなったのか?」
まずいよ……十手を受け止めた衝撃で、手がしびれて握力が無くなってきている……。
憲兵司令官「休んでいる暇はないぞ?」
憲兵司令官が十手の連撃を再開する。
ガキン!!! ガキン!!! ガキン!!!
気がつくと、部屋の角に追い詰められていた。
左右に逃げ場がない!
そこに上段から十手が打ち込まれた。
柄でなんとか受け止めると、あまりの衝撃によろめき、ハンマーを取り落としそうになる。
憲兵司令官「そのハンマー、はね飛ばしてやる」
ダンッ!!!
ものすごい足の踏み込み。下段から十手をすくい上げる。
あまりの速さに十手が見えない!
そんな打ち込みを受け止めたら、握力のない手からハンマーが吹っ飛ばされちゃうよ!
ガキンッ!!!
グシャッ……。
何が起きたのか一瞬わからなかった。
チタン製のハンマーの柄が、憲兵司令官の股間にめり込んでいる。
憲兵司令官は白目を剥き、泡を吹いて倒れた。
那珂「な、なんでわたしが勝ってるの……?」
しばらくして事情が飲み込めた。
短く持ったハンマーが下からカチ上げられ、手を中心に回転し、柄が跳ね上がって股間を直撃したようだ。
鬼神のような十手の速度が、そのまま柄に乗ったみたい。
那珂「……ほんの少しだけ可哀想に思わないこともないけど……やっぱり許せないよ!!!」
那珂ちゃん、憲兵司令官をハンマーでフルボッコにして、きっちり九割殺しに仕上げた。
那珂「しかし……主砲や魚雷が使えたら楽なんだけど……」
指導では、極力、主砲や魚雷は使わない。
主砲は旋状痕、魚雷はシリアルナンバーで出所がばれてしまうから。
それに鎮守府では毎週のように砲弾や魚雷の棚おろしをするから、こっそり使って数が合わなくなると大騒ぎになる。
だから神通ちゃんが使った魚雷は持ち帰ってるんだよ……。信じられない……。
同じころ、川内ちゃんはピッキングでゲストルームのドアを開け、音もなく部屋に入った。
部屋は真っ暗。社長はもう寝ているようだ。
素早くベッドに近づくと、いきなり銃撃を受けた。
川内ちゃんはバク転して回避する。
川内「……」
社長のボディガードらしい男が、アサルトライフルを構えながらカーテンの陰から出てきた。
髪は茶色で短い。背は高く、痩せてヒョロっとしている。
黒いコート、カーキ色のズボン、黒いコンバットブーツ。瞳は赤く、異様な光を放っていた。
男「誰だ? 答えなくてもいいぞ。死体になっても顔がわかれば調べられるからな」
男がライフルを撃ってきた。暗闇でも狙いは正確。
川内ちゃんはドアから逃げ出し、窓から外に出た。
追いかけてきた男も窓から外に出る。そこには日本庭園があった。
川内ちゃんは木に登って、姿を隠し様子を見ていたが……。
川内「!?」
男が川内ちゃんの方向を見て、銃を向けた。
川内ちゃんはバッと木から飛び退き、間一髪で銃撃をかわす。
川内(わたしも夜目には自信があるけど、あの男もなかなかやるね……)
男が叫んだ。
男「俺の目からは逃れられんぞ! あきらめろ!」
川内(逃れられないなら……こっちから仕掛けてやろうか……)
川内「イヤーーーーッ!!!」
川内ちゃんは一気に間合いを詰め、必殺の蹴りを放つ。
男の脇腹につま先がめり込み、体が浮き上がった。しかし……。
川内(手ごたえが無い……まるで風船でも蹴ったようだね……)
男は自分から飛び上がり、蹴りの衝撃を逃がしていた。
川内(それにしても……わたしの蹴りがいくら凄いからって……飛びすぎじゃね……?)
なんと男は一〇メートル近い高さまで飛び上がり、フワリと屋敷の屋根に降り立った。
男「いい蹴りだな」
川内「ずいぶん身軽だね」
男「それはな……こういうことだ」
川内「!?」
男のコートの下からチェーンガンが現れ、掃射する。
川内ちゃんは石灯籠の陰に隠れた。
男「無駄だ」
男がコートを脱ぐと、艦娘の艤装のような武器が現れた。
腰の後ろから二本のアームが伸び、その先にはチェーンガンとヘルファイアミサイルが四基。
川内(艦娘? いや……違う……)
男「俺は攻撃ヘリの魂を宿した人型兵器だ。お前ら風に言うと『ヘリ息子』ってか? ヘリ息子だから、体が軽いのも当然だぜ!」
男がミサイルを発射した。まっすぐ石灯籠に飛んでいく。
石灯籠が大爆発し、木っ端みじんになった。
川内(ちっ……ずいぶん目がいいね……ならこれはどうだい?)
あぶりだされた川内ちゃんは、男に探照灯を照射した。
男「くっ……」
一瞬視界を奪われた男に、川内ちゃんの夜偵が体当たりを仕掛ける。
男「なんだと!!!」
男はぎりぎり夜偵をかわすと、チェーンガンで撃ち落とした。
夜偵から妖精さんが脱出し、パッと落下傘が開く。
男はチェーンガンを妖精さんに向けたが、なぜか撃たない。
男「……」
妖精さんは地面に降りると、一目散に走り出した。
男(妖精があっちに走ったということは……)
視線を妖精が走る方向と逆に向ける。
男「こっちだな! 妖精は艦娘をかばって、隠れている場所と逆に行くはずだ!」
男の眼球の赤外線カメラが熱源と捉えた。
男「見つけたぜ!」
チェーンガンとミサイルを同時発射する。
その時、ぞくりとした感触が男の背骨を突き抜けた。
川内ちゃんの手が男の顔に触れたとたん、アゴが外れた。
一瞬遅れて、男の体に激痛が走る。
男「~~~~ッ!!!」
男のすぐそばに、全身に泥を塗った川内ちゃんがいた。服は下着だけ。
川内(肩……)グキッグキッ
男「!」
川内(ひじ……)グキッグキッ
男「!」
川内(股関節……)ガコッガコッ
男「!!!」
川内(ひざ……)グキッグキッ
男「!」
全身の関節を外され、立てなくなり、激痛にのたうちまわる男。
川内「『なぜ?』って顔してんね。あんたが赤外線を使ってんのは、すぐにわかったよ。
だから体温の残っている服を囮にして、冷たい池の泥を体に塗って近づいたってわけ」
川内ちゃんが、くしゃみを一回。
川内「あんたが負けた理由はただ一つ……。『プレデター』を見てなかったってこと……」
それを聞いて男は気絶した。
なお、妖精さんはとても不思議な存在で、夜偵で体当たりしたぐらいでは傷一つ付かない。
それを知っていたから川内ちゃんは夜偵に体当たりをさせた。
妖精さんて、一体なんなんだろう……?
もちろん妖精さんと撃墜された夜偵は回収したよ。
川内(何も知らずに寝てるね……)
川内ちゃんはゲストルームに戻り、寝ている社長の関節をバラバラに外した。
激痛で目覚め、のたうち回る社長。
川内(今回は、わたしも激おこだからね……)
川内ちゃんによると、人間の頭蓋骨は複数のパーツが合わさっていて、関節のように外したり、動かすことが出来るらしい。
特に頭頂部のパーツを動かすと、脳の形状が変わって性格も変わるらしい……本当かな? 嘘っぽいけど……。
で、川内ちゃんは社長がまともな性格になるよう、頭蓋骨を整体をしてあげたそうな……。
神通ちゃんはというと、わたしと同じようにメイドを装った。
神通「旦那様、社長様からのお届けものを持って参りました」
中将「なんだ? 入れ」
深海棲艦なんか目じゃない位の死神とも知らず、ドアを開ける中将。
ドアがわずかに開いた瞬間、神通ちゃんは手を差し入れ、部屋に入り込む。
中将「だれだ貴様は!?」
神通「クズ相手に名乗る名前などありません……」
神通ちゃんが中将に迫ったその時、大男が割って入った。
大男「お嬢ちゃん、おいたが過ぎるな。どうやってここまで来たのか、あっちのベッドで話そうぜ?」ニタニタ
二メートルを超える身長で、逆三角形の体格、髪はブロンドで短い。頭は小さいが、アゴは大きい。瞳は青。
ボディガードらしく、黒いスーツ、ベストだが、青と赤のストライプのネクタイが見事に浮いている。
中将「言うことを聞くんだな。その男は、お前の体を簡単にバラバラするほどの怪力を持っているぞ」
大男「ガスタービンエンジン、一五〇〇馬力だよ、お嬢ちゃん。俺は足も速いから、逃げんのはあきらめな」
神通「一五〇〇馬力……? 逃げる……?」
神通ちゃんの目じりが、ほんのわずかに下がった。どうやら笑っているようだ。
怖い……怖すぎる……。
神通「興が乗りました……。遊んであげます」
神通ちゃんが左手を上げる。
大男「ハイタッチ? まさか力比べか? 俺をからかってんのか?」
神通「力比べで私に勝てたら、この体を好きにしていいですよ。ハンデをあげましょう。私の利き手は右ですから、左手で相手してあげます」
大男「おもしれえ」
大男が笑いながら右手で神通の手を掴んだ。
大男「……!?」
笑顔が凍り付く。どんなに大男が力を入れても、神通はピクリとも動かない。
なりふりかまわず左手も使うが、まったく変わらない。
神通「……あなたが誰の手を掴んでいるか、教えましょうか……?」
大男「……!?」
神通「……死神……」
大男「ヒッ!」
大男は手を放そうとしたが、がっちり掴まれて放せない。
メキ……メキキキ……ミチチチ……
大男の手首が手の甲の方向に、強引に曲げられていく。
大男「ギッ……ギャアアアアア!!!」
大男はひざを付き、悲鳴をあげた。
神通「むんっ!」
メギメギメギパキパキパキ……。
神通ちゃんが右手で大男の肩を掴んで、下に押し込む。
バキバキという音と共に、大男の背骨が折れ、潰れてしまった。まるでジャガッタ・シャーマンのように……。
それでも大男は生きている。どうやら人間ではないようだ。
後日聞いた話だけど、神通ちゃんは瞬間的に九万馬力が出せるらしい……。
那珂ちゃん、どうやったら出せるのか聞いてみた。
神通「本来、川内型軽巡の艦娘は九万馬力を出す潜在能力があるのですが、体が受け止められないので無意識に力をセーブしているのです。
そのリミッターが外れるのは、体が生命の危機を感じたときだけです」
川内「それで神通がどうしたかというと……」
神通「ウェイトトレーニングをするとき、姉さんにお尻を刺してもらいました……ぶっとい畳針でね……」
川内「あんなんで尻を刺したら、間違いなく生命の危機を感じるね!」
神通「それを続けたら、九万馬力を出せるようになったのです」
大山倍達かな? やっぱり頭がおかしい……。
中将「ひっ! 『戦車息子』が……」
腰が抜けた中将が、四つん這いで逃げようとする。
それを神通ちゃんが捕まえて……。
神通「中将閣下……僭越ながら私が閣下にご指導つかまつります……」
うつ伏せの中将の後ろ手を縛り、尻を上げさせる。
中将「な……なにをするつもりだ!?」
神通「閣下にはご自身で軍に規範を示して頂きます……不正を働いた者の末路がどうなるか……天下に知らしめるために……」
中将「何を言っているんだ? やめろ! 放せ!」
神通「じたばたと見苦しいですよ……このド外道が……地獄にッ……落ちろぉおおおおおお!!!」
神通ちゃんが魚雷で中将の尻を叩く!
バシーーーン!!!
中将「ぎゃああああああああ!!!」
神通「反省なさい!!! この百叩きで!!!」
百回尻を叩かれた中将は、息も絶え絶えに……。
神通「将官であらせられる閣下には、地位に見合う責任を負っていただきます……もう百回……」
中将「ひっひっ……ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙あ゙……あ゙……あ゙……ま゙っ゙……」ガクッ
もう百回尻を叩かれた中将は、糸が切れたように気絶。
指導、完了です!
数日後、わたしたちは軽食コーナーの当番になった。
憲兵「こんにちは」
那珂「いらっしゃいまっせー♪」
神通「いらっしゃいませ」
憲兵さんに事件について聞いてみた。
那珂「陽炎ちゃんの事件、真犯人が見つかったって聞きました!」
憲兵「そうなんだよ! 調達部門の中将、大手商社の社長、憲兵司令官が犯人だったんだ!
不思議なことに、大手商社の社長が急に真人間になって自首してきて、スムーズに解決したんだ」
那珂「」
川内「へ~? 真人間にねぇ!」
ニヤリと笑う川内ちゃん。
憲兵「実はもっと不思議なことがあってね……逮捕の前に、中将、社長、憲兵司令官が何者かに襲撃されたみたいなんだ。
それがきっかけで、中将は廃人に、社長は真人間に、憲兵司令官はオカマになってしまったんだ……」
那珂「」
神通「憲兵さん……もしわたしたちが、その何者だったらどうしますか?」
憲兵「え? アハハハ! 神通さんが冗談なんて珍しいですね!」
神通「うふふっ」
川内「はははっ」
那珂「ヒヒヒ……」
那珂ちゃん、正直笑えなかったよ……。
ここは武道館。
とうとうわたしは、その舞台に立った。
舞台から見える客席、天井……。
万感の思いが胸にこみ上げる。
みんながいてくれたから、ここまで来れた……。
「………………………………」
ここに立てたのは、大きな夢の一歩……でもこれで終わりじゃないよ……。
「……ちゃん…………そこの………団子の………」
みんなと一緒なら……もっと先……埼玉スーパーアリーナ、東京ドーム、そして、国立競技場……。
夢の続きを見ようよ……きっと行けるよ……みんなとなら……。
「そこの姉ちゃん、聞こえてる? ねえ、そこのお団子の姉ちゃん?」
那珂「はい! なんでしょうか?」
作業員「舞台のスピーカーを台車で運んで、搬入口に持って行ってくれや」
那珂「よろこんで!」
那珂ちゃん、武道館でライブ……の後片付けのバイト中。
日払いだから、艦娘でもこっそりバイト出来るんだよ……。
作業員「スピーカーは重いから、二人で持ち上げ……お姉ちゃん、すげぇ力持ちだな!」
川内「やるじゃん!」
神通「無理をしてはいけませんよ?」
川内ちゃん、神通ちゃんも一緒にバイト。
川内ちゃんは夜戦のためのナイトビジョン、神通ちゃんは教育の専門書を買うためだって。
那珂ちゃんはボイストレーニング教室の月謝のため……。
作業員「このスピーカーを一人で持ち上げるなんて、やるじゃねえか! 気に入った!
俺と一緒に、埼玉スーパーアリーナ、東京ドーム、国立競技場で舞台設営の仕事をしねえか?」
川内「お? 那珂、こっちの道で頑張ったほうがいいんじゃないか?」
神通「アイドルより、よっぽど堅実な仕事ですよ」
那珂「ちょっ! やめっ! 那珂ちゃんは……那珂ちゃんは……那珂ちゃんは絶対、路線変更しないんだからーーーー!!!」
- 完 -
おしまい
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