白菊ほたる「不幸中の災害」 (18)
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右の道を選ぶと走ってきた軽自動車に泥をはねられます
左の道を選ぶと居眠り運転のダンプカーにはねられます
だったら選ぶ道は一つですよね
挽肉になった自分の姿を思い出さないようにしながら右の道を進みました
白菊ほたる「こっちの坂道の方が視界が悪いんだけどなぁ...」
そこそこの勾配だけれど、やや急カーブな坂を上りながら独りごちます
「あっと...」
見えにくい曲がりに差し掛かったあたりで折りたたみ傘を開き、待ち構える
雨上がりの快晴、空は青色。地面に残った水たまりはやや茶色
「.........来た来た」
カーブにもかかわらずそれなりの速度でカーブを曲がってきた軽自動車を傘越しに見据えて
次の瞬間お気に入りだった傘はタイヤが踏み散らした泥にまみれました
「ありがとう......」
おかげでお気に入りの靴は綺麗なまま
汚れた折りたたみ傘は洗えばまた使えます
さて
坂道を越えると交差点ですが
ここでわざわざ通りたい道が青信号になるのを待ってはいけません
老朽化した看板の一部が剥落して真下にいた私に突き刺さるからです
私さえそこにいなければその落下物は誰も傷付けないのです
警察や救急車が無為に呼び出されることもない、日常に起こりうる不注意からのアクシデントで済むのです
「信号が青の方へまっすぐまっすぐ...」
目的地へは遠回りになりますが命には代えられません
重い矩形の看板に後頭部を割られ、脳漿をこぼした姿を思い出してはいけません
あれは未熟だった頃の私です
それなりに愛着のある腕時計を確認します
ほたる「......時間に余裕を持って出発したから大丈夫そうですね」
だったら、出発の時間をずらせば軽自動車も看板も、狙ったかのように私のところに来ないのでは?
いえいえ、世の中そんなに甘くありません
それも試したからこその、この出発時間です
出発時間をずらした結果、
私より前に出発したどこかの誰かがこぼしたらしい、そして拭き取られないままだった飲み物に盛大に足を滑らせてしまうのです
そのまま階段から転げ落ち、アイドルとしても女の子としてもふた目と見られないくらいに顔面の骨を陥没させた私の姿などいらないのです
ほたる「.........50...51...52...」
歩きスマホよろしく、腕時計の秒針を見つめながら歩を進めます
えっ?そんな不注意な移動をしているとまた不幸な目に遭うぞって?
なんという説得力でしょうか
タイヤの下で挽肉になった私や頭蓋の風通しが良くなった私や顔面陥没した私の声でしょうか?
ほたる「...56...57...58...59...」
60
最後の数字は心の中で唱えます
同時にぴったりのタイミングで歩みはストップ
さぁ来ますよ。ここら一帯を地獄絵図へと貶めるアイテムが
ほたる「.........」
カラン、コロコロ......
ほたる「..................」
コロコロコロカラカラ......コトン
ほたる「..................ふぅ...」
悪魔の兵器、ドリンクの空き缶は通り過ぎたようです
あれを踏んでしまった私や無理に避けようとした私がどうなったのか忘れた私ではありません
あの空き缶を完璧に無効化するタイミングを測るために何人の私がこの世を去ったことでしょう
カオス理論、バタフライエフェクト、死のドミノ倒し
私を、つまり白菊ほたるを解説するにはそういった単語を並べるべきなのでしょうか?
車に轢かれ、落下物に潰され、空き缶に蹴躓いた挙句苦痛のオンパレードを味わって
そういった私にとっての”ありえた未来”が私を救ってくれるのです
私は不幸です、不幸体質です
ただ何気ない日常風景の中でも家から出るだけで何度でも死ぬのです
あらゆる場所で取り返しのつかない目に遭うのです
不幸中の幸いは、私がその結末を知っていること
私ではない”白菊ほたる”の死体がそれを教えてくれるのです
透明な膜を張ったような茫洋として知れないどこかの世界から
平行世界、並行世界?
そういう単語で説明しても良いのかもしれません、いい安っぽさです
可能性の世界、こうだったかもしれない世界
そしてありとあらゆる並んだ世界の中で、白菊ほたるはどんどん数を減らしているのです
ほたる「単純に普通の人の数倍の速さで死んでいってるんですから...」
確認できる限り、13歳の私は今日だけで10人以上は亡くなりましたね
そうして残った私は14歳になる
14歳になった何人もの私、そのうちの何人が15歳になれるのでしょうか?
ほたる「.........」
事務所が見えてきました
アイドルとしての私が存在を許される場所
ほたる「あっと、忘れるとこだった」
予定調和のようにその場にしゃがみこむ
さっきまで頭のあった場所をレンガブロックが通り過ぎていきました
ほたる「さて、これで目立った致死級の障害はクリアできましたね」
事務所に続く階段に手をかけます
エレベーター?使いませんよそんなもの...
流石にビルが崩れてくることはなく、私は事務所に続く扉にたどり着きました
ほたる「...ふぅ」
張り詰めた気を解き、ノブに手をかけました
ほたる「お、おはようございます」
この事務所だけが全ての並行世界において、唯一のセーフゾーンです
この場所でだけは、どの世界の私の死体も存在しません
「「「ほたるちゃん!!!誕生日おめでとう!!!」」」
見知った顔が並んでいました。その中に私の死に顔はありません
だってどの顔も羨ましいくなってしまうほどの笑顔で...
彼女たちの構えたけたたましいクラッカーの、安全な破裂音に包まれて
ほたる「......あ......」
この世界の私は一つ歳をとりました
ほたる「..................やっと...」
クラッカーから漂う火薬の匂いが今は心地よいです
13歳のまま死んでいった私達の死臭をかき消してくれるから
ほたる「..........ぅあ...」
頬を伝う涙のが何よりものプレゼントです
涙に潤んだ視界にはココ以外のどの世界も映りこみませんから
ほたる「...うれしぃよぉ...」
並行世界の数はいくつ?
私が存命中の世界はいくつ?
私が成人できる世界はいくつ?
私がアイドルを続けてられる世界は?
私がアイドルとして大成できる世界は?
私が、
私がシンデレラガールになれる世界は?
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以上、終了
輝子ちゃんSSを書いてる途中でしたが
ほたるちゃん誕生日おめでとうSSを書こうと思い立ち
総選挙も応援しようとしたらこうなりました
これでも私はほたるPです
芳乃とこずえのPでもあります
お読みいただきありがとうございました
乙乙
乙
ほたる「100万回やられても負けない」
乙
左手が携帯で出来てそう
>>2
グロ
乙です
岡部を超えて尚絶望しない鋼の精神
二百代目くらいでなれるでしょ
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