春の陽炎型 (62)
陽炎から秋雲まで。
陽炎型姉妹実装16人分。
続き物です。
未読の方は是非 夏→冬→春 の順にご覧下さい。
夏の陽炎型
夏の陽炎型 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437361196/)
冬の陽炎型
冬の陽炎型 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453085655/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460947475
【 陽炎 】
『 金魚を何年育てても、錦鯉にはならない 』
せっせと餌をやる雪風に、真実を告げられないままでいる。
『 ザリガニを何年育てても、伊勢エビにはならない 』
甲斐甲斐しく世話をする時津風に、未だ言えないままでいる。
駄目なお姉ちゃんを、許してほしい。
陽炎はまだまだ未熟です。
黒潮「陽炎」
不知火「陽炎」
陽炎「絶対無理!そもそも誰よ、こんな大嘘教えたのは!」
黒潮「だって言わんと」
不知火「恥をかくのは雪風達です」
陽炎「だから無理って!インコの時だって、大変な騒ぎになったじゃない!」
黒潮「あー…」トオイメ
不知火「あー…」トオイメ
陽炎「もうちょっと大きくなったら、絶対言うから!ね!ね!」
【 不知火 】
プリキュアへの道は、長く険しい。
追いかけても追いかけても届かない。
臥薪嘗胆。夢を諦めるなんてありえない。
◇◇◇
漣、そして春雨と共闘する事になった。
反則戦力を有する強大勢力への対抗措置。
春雨「三人がかりだなんて、ズルくないかな」
漣「戦いは数だよ、春雨ちゃ~ん」チッチッチ
不知火「大人数で交戦するのは、むしろプリキュアの正攻法です」キリッ
漣「ちょうどお昼ごはんを食べて寛いでいる頃だよ」ゲッゲッゲ
不知火「三方向から一気呵成に攻め込みましょう」
春雨「正義って何だろう……」
不知火「春雨はアレを見ていないから、そんな呑気な事が言えるのです」
春雨「明石さんって、そんなに凄いの」
漣「規格外戦力を全力投入した挙句、躊躇なく引き金を引ける程度には」
不知火「興奮状態の川内さんの群れと、夜戦で出くわしたイ級の気持ちが分かりました」
春雨「明石さんって……」
不知火「あと、あのデスメロン。魔改造鬼改修炸裂で、まさかの8スロ上等です」
漣「激昂状態の龍田さんの群れに、背後から強襲されたロ級になった気分だったよ」
春雨「夕張さんまで……」
ドキドキ!プリキュア♪ ラブラブ!プリキュア♪
不知火「楽しげな歌が聞こえます」
春雨「明石さん達の声だね」
漣「浮かれてるね。完全に油断してるよ」
不知火「背後から行きましょう。タイガー・タイガー・タイガーです」
◇
明石「キュアピンクでーす!」キラキラー!
夕張「キュアメロンでーす!」ピカピカー!
大淀「キュアストラテジストが戦列に加わりました!」キュアキュアー!
漣「」
春雨「」
不知火「」
明石「大淀、長ーい!」
大淀「そ、そうでしょうか?」
夕張「キュアブラックでいいんじゃない?」
大淀「ブラックはちょっと……悪役みたいで」
夕張「でも初代とかそうだよ」
大淀「出来れば、その…もうちょっと可愛い方が」
明石「じゃあピンクでいいじゃない!キュアピンク!」
大淀「え、でもピンクは明石が……」
明石「全然いいよ!大淀にだったら譲ってあげる」
大淀「あの、でも私、黒髪だし……」
明石「そんなの関係ないよ!」ビシイッ!
大淀「明石……」
明石「キュアピンクになりたい気持ちがあれば、誰だってなれるよ!」
夕張「大丈夫だよ。大淀なら、きっと大丈夫」
明石「大淀なら出来るよ、自信を持って!」
大淀「二人とも……」ポロッ
明石「ほらほら、元気出して、フレッシュプリキュア! 」
夕張「泣いてちゃ駄目だよ、スマイルプリキュア! 」
大淀「うん…うん。わだじ、やるね!」グスッ
明石「よーし、それじゃあもう一回いくよー!」
夕張「みーんーなーでー♪」ハイ
大淀「プーリーキューアー♪」ターッチ
明夕大「イエイ!イエイ!イエーイ♪」パン!パン!パーンッ!
漣「」
春雨「」
不知火「」
【 黒潮 】
黒潮「出来たでー」
雪風「わーい、たこ焼きー」
時津風「何だか甘い匂いがするよ?」
黒潮「んっふっふー、今日のは特別やでー」
雪風「特別ー?」
黒潮「名付けて、チョコたこ焼きやー!」
時津風「チョコたこ焼きー?」
雪風「すごい、すごーい!」
黒潮「ホットケーキ生地を丸く焼いてな、溶かしたチョコをかけたんや」
時津風「甘ーい、おいしーい!」
雪風「すごーい、甘ーい!」
黒潮「ようさんあるからな、じゃんじゃん食べような」ニコー
時津風「はーい」ニコー
雪風「わーい」ニコー
陽炎「黒潮」
不知火「黒潮」
黒潮「ちゃうねん」
陽炎「もう甘いものは食べないって言ったじゃない!」
黒潮「ちゃうねん、これは別腹や」
陽炎「アンタいいかげんにしなさいよ!太ももとかパンパンじゃない」
黒潮「ちゃう!そんな事ない」
陽炎「スパッツもパッツンパッツンよ!」
不知火「パッツンパッツンです」
陽炎「パッツン パッツン スパッツンよ!」
黒潮「ちゃう!これは洗濯して縮んだんや、太ったんやない」
陽炎「お腹だってポンポンじゃない!」
不知火「ポンポンです」
陽炎「ポンポコ ポンポン たぬきさんよ!」
黒潮「たぬきとかちゃう!お腹も全然出てないから!」
陽炎「とにかく、もう甘いものは禁止!絶対駄目!」
黒潮「そんなん横暴や、何でそんな事言うん」
陽炎「不知火!」つ メジャー
不知火「はっ!」つ 体重計
黒潮「うわああーーん!陽炎のアホー!」ダダダーッ!
【 初風 】
みんなで暮らす鎮守府は、海辺の小さな田舎町。
珍しいものは何にも無いが、長閑で平和な良い所。
雪風「初風、初風、見てください!ちょうちょ捕ってきました!」
初風「あら、モンシロチョウかしら、それともアゲハ?」
雪風「いっぱいあります」ニコー
≪≪ 蛾蛾蛾芋虫蛾蛾蛾蛾飛蝗蛾蛾蛾 ≫≫ ウジャウジャ
初風「」
◇
黒潮「雪風どないしたん?メッチャ泣いとるやん」
不知火「初風が雪風の虫かごを、海に投げ捨てたらしいです」
黒潮「はあ?何でそんな事を」
不知火「さあ」
陽炎「初風、ちょっと!何で雪風泣かすのよ」
初風「私、悪くないから!絶対謝らないから!」
◇◇◇
酒保(売店)
明石「虫かごですかー」
初風「やっぱり無いわよね」
明石「すみません、流石にちょっと……」
初風「いえ、無茶言ってごめんなさい」
雪風「……」ショボーン
初風「……悪かったわよ。ごめんなさい」
初風「新しいの買ってあげるから、明日街まで付き合いなさい」
初風「あと、お詫びに何か欲しいものも買ってあげる」
雪風「……ホント?」
初風「あんまり高いのは駄目よ」
雪風「うんっ!」ニコーッ
時津風「おでかけなの?時津風も行く!」タタターッ
初風「アンタは駄目」
時津風「ヤダヤダ!時津風も一緒に行く!おでかけする!」キャンキャン
初風「アンタは関係ないでしょ」
時津風「ヤダヤダ!やーだー!時津風も!時津風も!」ジタバタ
初風「ああもう、うっさい!」バシーッ!
時津風「うわーん!初風がぶったー!」ビエーッ
陽炎「初風!時津風泣かせないの!」
初風「私、悪くないから!」
◇◇◇
翌日。
初風「……結局ついて来てるし」
時津風「おっでかけ!おっでかけ!」キャッキャ
雪風「初風、早く!早くー!」キャッキャ
初風「いい?言う事を聞かなかったら、すぐ帰るからね」
時津風「はーい」ニコー
雪風「はーい」ニコー
陽炎「これ、雪風と時津風の分。昼食代と交通費」
陽炎「あと、おやつに何か買ってあげて」
初風「え?いいわよ、そんなの」
陽炎「いいから」
時津風「初風ー、まーだー?」
初風「はいはい」
陽炎「二人とも車に気を付けるのよ」
雪風「はーい」
時津風「はーい」
陽炎「それじゃ、いってらっしゃい」ニコ
【 雪風 】
電車に揺られて街まで進む。
店も人も華やかで、綺麗とお洒落が目白押し。
横文字の並ぶ店先も、そこはかとなく良い感じ。
初風「いい匂いね」
雪風「パン屋さんだよ、パン屋さん!」
時津風「パン食べたーい」
初風「そうね、お昼はパンにしましょうか」
初風「天気もいいし、公園で食べましょう」
雪風「わーい」
◇
時津風「すごーい!たくさんあるよ」
初風「焼きたてなのね、ちょうど良かった」
雪風「見て見て!アンパンマンだよ!アンパンマンのパンがあるよ!」
初風「はいはい」
初風「手で触っちゃ駄目よ、トングを使ってね」
時津風「トング?長門さん?」
初風「それはコング」
時津風「コングかー」テヘペロ
雪風「トングって何ですか」
初風「トングっていうのは、コレ。この挟むやつ」カチカチ
時津風「おー」カチカチ
初風「一緒に会計するから、好きなの一つ選びなさい」
雪風「はーい」カチカチ
時津風「はーい」カチカチ
雪風「どれにしようかなー」ウキウキ
時津風「あれもいいな、これもいいな」ワクワク
初風「さて、私は……あ、ベーグルがある。これにしよっと」
初風「……ん?フォカッチャまであるじゃない」
初風「さすが街のパン屋さんね、種類が豊富だわ」
初風「うーん、これは悩むわね……」チラ
雪風「メロンパンナちゃんあるよ!メロンパンナちゃん!」キャッキャ
時津風「夕張パンナちゃん!夕張パンナちゃん!」ピョンピョン
初風「……」ソーッ
雪風「あー!?初風二つ買ってるー!」
時津風「ずるい、ずるい!一つだけって言ったのにー!」キャンキャン
雪風「雪風も二つ買うー!」
初風「ああもう!分かったわよ。一人二個ずつね、みんな一緒!」
時津風「やったー」
◇
雪風「雪風はメロンパンナちゃんと、クリームパン」
時津風「時津風は、あんドーナツとチョココロネ」
初風「甘いのばっかりじゃない」ハア
雪風「初風はー?」
初風「これよ」つ ベグフォカ
雪風「……」フーッ
時津風「……」ヤレヤレ
初風「ちょっと待ちなさい。何よその『分かってないなー』的な反応は」
雪風「べっつにー」
時津風「何でもないよー」
初風「ぐぬぬ」
初風「あと飲み物は、私はカフェオレで……アンタ達は水でいいわね」
雪風「何でっ!?」
時津風「やーだー!」
◇
雪風「雪風はカルピス」
時津風「時津風はメロンソーダ」
初風「アンタ達、蟻なの?」
雪風「お昼からメロンなんて贅沢だね」メロンパン パクパク
時津風「お金持ちだね、ぶるじょあだね」メロンソーダ ゴクゴク
初風「私に感謝しなさい」
雪風「初風ありがとー」
時津風「初風優しいー」
【 天津風 】
野分「長門さんの好きな物……ですか?」
初風「いや、知らないけど……やっぱり、甘いものじゃないの?」
谷風「何、何?急にどうしたのー」
陽炎「いつも雪風や時津風が入り浸って、迷惑を掛けてるでしょう?」
陽炎「毎日おやつも貰ってるみたいだし」
陽炎「お返しというか、何かお礼をしようと思って」
黒潮「なるほどー、舞風も皆勤賞やしなー」
不知火「無難に菓子折りなどがいいんじゃないでしょうか」
陽炎「甘いものは自分で買ってるみたいだから、どうせなら別の物をと思ってね」
嵐「別の物かー、うーん」
萩風「甘いもの以外で長門さんが喜びそうなのと言えば……」
浜風「えっと……バナナとか?」
浦風「骨付き肉なんか好きそうじゃ」
磯風「鉄アレイとかいいんじゃないか?」
陽炎「アンタ達、長門さんの事 嫌いなの?」
天津風「アクセサリーとかは?ピアスとか」
浦風「そういうキャラじゃなかろーて」
磯風「うむ。貰っても、すぐ失くしそうだ」
初風「じゃあ指輪なんてどう?ピンキーなの」
浦風「想像つかんな」
磯風「ああ、指輪よりメリケンサックのイメージだ」
浜風「それじゃあ、実用的な物の方がいいんですかね」
陽炎「ふーむ、意外と悩むわね。どうしよっか」
雪風「ゆ、雪風が、宝物のどんぐりをあげますっ!」
時津風「わたしも松ぼっくり出すよっ!すごく大きいんだよ!」
谷風「よっしゃー、それならこの谷風さんがスーパーボールを出すぜ!」
谷風「長門になら、とっておきの金ラメとクリスタルをあげてもいいぜ!」
初風「あー、うん、はいはい」
天津風「あなた達は何も心配しなくていいからね」
磯風「ふむ。ならば物ではなく、手料理などはどうだろうか」
浦風「磯風」
浜風「磯風」
磯風「ウチに招待して、沢山の御馳走でもてなすんだ」
嵐「磯風」
萩風「磯風」
磯風「いわゆるホームパーティーという奴だ」
初風「磯風」
天津風「磯風」
野分「ま、まあ時間はたくさんありますし、ゆっくり考えて決めましょう」
陽炎「ところで秋雲は?」
舞風「お部屋で原稿描いてるよー、締切なんだって」
不知火「こないだからずっとですね」
黒潮「冬も春も大変やなー」
◇◇◇
後日。
陸奥「あら、それどうしたの」
長門「う、うむ。陽炎型の子達からな」
陸奥「へー、いいじゃない。でも、つげ櫛なんてよく知ってたわね、あの子達」
長門「ああ、妙高達に聞いたらしい」
陸奥「あー、なるほど。ね、ね、座ってみて?梳いてあげるわ」
長門「いや、こういうのは私にはちょっとな…」
陸奥「何言ってるのよ、綺麗な髪なんだからピッタリよ」
長門「あー、いや、うん」
陸奥「いいわねコレ。ますます綺麗になっちゃうわよ?」
長門「なっ、ば、からかうんじゃない ///」
陸奥「あら?姉さんは素敵よ、本当に。私の自慢なんだから」ウフフ
長門「何を馬鹿な事を…まったく… ///」
◇◇◇
足柄「どうだった?」
天津風「うん、喜んでくれたわ。大分 照れてたけどね」
足柄「そっかー、ちょっと地味かとも思ったんだけどね」
天津風「うん、ちゃんと使ってくれるみたいだし、良かったわ」
足柄「まあ、実際あれは本当にいいものだからね」
天津風「そうなの?あんまりよく知らないんだけど」
足柄「髪がね、ツヤツヤになるの。丈夫だし、使う度に風合いも出てくるわ」
天津風「いいなー、あたしも買っちゃおうかなー」
足柄「いやー、でも自分で買うものじゃないでしょ」
天津風「姉さんがプレゼントしてくれてもいいのよ」ニコ
足柄「あら、あたしでいいの~?」
天津風「ん、何で?いいわよ全然」ウェルカム!
足柄「他に贈ってほしい人がいるんじゃないの~」ニヤニヤ
天津風「」
足柄「ザッハトルテの君とか~」ニヨニヨ
天津風「な、ななななっ ///」
足柄「ホワイトデー楽しみね~」クスクス
天津風「違うから!全然そんなのじゃないから!ホントだから! ///」
【 時津風 】
おもちゃ屋、ペット屋、洋菓子店。
田舎暮らしの子供には、都会の色は眩しくて。
二歩三歩と進む度、好奇の的がそこかしこ。
弾ける姉に振り回されて、引率初風過労気味。
それでも未だ道半ば。大きな仕事が残ってる。
初風「ちょっと買い物してくるから、アンタ達はここで待ってなさい」
雪風「えー、やだー」ブーブー
時津風「時津風も一緒に行くー」キャンキャン
初風「アイス買ってあげるから」
雪風「いってらっしゃい」
時津風「早く帰ってきてね」
◇
雪風「雪風はクッキークリーム」
時津風「駄目だよ、クッキーは時津風のだからねっ!」
雪風「雪風はお姉ちゃんなのです!」キシャーッ!
時津風「雪風にはクリーミーミントあげる」
雪風「これはスースーするから駄目です!」
時津風「じゃあラムレーズン」
雪風「眠くなるから駄目」
時津風「なら抹茶トリュフ」
雪風「寝れなくなるから駄目」
時津風「全部駄目じゃん!」
雪風「クッキークリームは大丈夫です!」フシャー!
時津風「クッキーは!時津風の!」キャンキャン
雪風「時津風はチョコブラウニー食べてればいいです」
時津風「チョコはお昼に食べたから嫌!」
雪風「じゃあベイリーズ」
時津風「眠くなるから嫌」
雪風「ならカフェモカ」
時津風「寝れなくなるから嫌」
雪風「全部駄目じゃないですか!」フカーッ!
時津風「だーかーらー、時津風がクッキークリーム!」ガルルー!
雪風「雪風がクッキーです!」キシャシャーッ!
初風「喧嘩するなら帰るわよ」
雪風「時津風がクッキーでいいよ」
時津風「ううん、雪風がクッキー食べなよ」
雪風「半分こ しようね」ニコ
時津風「仲良しだもんね」ニコ
◇◇◇
ギフト売り場の装飾小物。
百を超える柄の中から、たった一つを選び出す。
透き通る水色の染布に、鮮やかな黄色のワンポイント。
それは、初風色のハンカチーフ。
大きめの紳士用。一回り小さな婦人用。
サイズの違う揃いの柄を、丁寧に抱えレジへと向かう。
店員「いらっしゃいませ」
初風「これください」
店員「ありがとうございます。包装はいかが致しましょう」
初風「一つは自分用なので、この大きい方だけラッピングしてください」
店員「畏まりました。もし宜しければメッセージカードもお付け出来ますが」
初風「え?」
店員「サービスです。いかがですか」
初風「えっと……じゃあ、お願いします」
店員「はい。それでは絵柄をお選び下さい」
初風「あ、沢山あるのね」
店員「恋人へのプレゼントでしたら、こちらなどいかがでしょう?」
初風「こ、恋っ……!?」
店員「このハート柄などお勧めです」
初風「はっ、ハートっ!?」
店員「はい、当店の一番人気でございます」
初風「え、えっと、その……」
店員「大変ご好評を頂いております」ニコ
初風「そ、そうなの?それじゃ、あの、これで…… ///」
店員「はい、畏まりました」
初風「は、はうー…… ///」
店員「メッセージはいかが致しましょう?定型文で宜しければ、印刷したものがございますが」
初風「え、あの、自分で」
店員「それでは、空白のものをご用意致しますね」
初風「あ、ハイ。それでお願いします」
手渡されたカードには、表も裏にも隙間なく、強烈なハートマークが乱舞する。
『 好き好き大好き、愛してるっ! 』以外の文面など、受け付けないラブ度の高さ。
初風はまた、赤い顔で石になる。
◇◇◇
田舎へ向かう帰りの電車は空いていて。
眠りこける姉達の隣で、初風は窓から外を見る。
カードには何て書こう。どんな顔をして渡そう。
受け取ってくれるだろうか。喜んでくれるだろうか。何と言ってくれるだろう。
紙袋は膝の上。夢見心地でうわの空。
流れゆく夕暮れの景色を、いつまでも眺めていた。
【 浦風 】
菱餅、白酒、ひなあられ。
お内裏様に、お雛様。五人囃子に、三人官女。
桃の節句の晴れの日は、みんなが嬉しい雛祭り。
浦風「何しよるん」
雪風「おりがみです」
時津風「おひなさまだよー」
浦風「あー、雛人形か」
浜風「鳳翔さんに教えて貰ったんですが、中々難しくて……」
浦風「どれ、貸してみ?」スッスッ
浦風「ほら」キャピーン!
雪風「すごーい!」
時津風「きれー!」
浜風「すごいじゃないですか」
浦風「昔、よーやったけぇのぉ」
浦風「色々出来るで」スッスッ
浦風「風船」シャッ
浦風「手裏剣」シャッ
浦風「やっこさん」シャッ
雪風「すごい、すごーい!」
浦風「まあ、元々手先は器用じゃけーのぉ。手順覚えれば簡単じゃ」
浦風「そうじゃ、新聞紙あるか?」
時津風「うん、これでいい?」バサッ
浦風「これをこうやって……」バッサバッサ
浦風「いくで」バアンッ!
雪風「わー!」
時津風「すごーい!何これー!」
浦風「紙鉄砲じゃ」
浦風「ヤクザの事務所の前でな、思いっきり鳴らすんじゃ。度胸試しじゃ」
浦風「出入りと勘違いした若い衆がな、もの凄い勢いで飛んで来るで」
浦風「逃げ遅れて捕まったあの子は、今頃どうしよんかのー…」トオイメ
浜風「浦風…あなた、どんな子供時代を……」
浦風「みんな悪ガキじゃったけーの」
雪風「すごーい!」バンッ!
時津風「格好いい!」バアンッ!
雪風「ダブルガントレットだよっ!」ババンッ!バンッ!
時津風「こっちはショットガンだよっ!」ババババンッ!
陽炎「没収」
雪風「あーん」
時津風「陽炎の馬鹿ー」
不知火「近所迷惑です」
陽炎「浦風も変な事 教えないの」
浦風「あいさー」
◇
陽炎「……」ウズウズ
陽炎「……」ソー
陽炎「えいっ!」バアンッ!
陽炎「わー…!」
初風「うっさいのよ!何やってんのよ!」ムキーッ!
陽炎「いやー、ちょっと好奇心で」タハハ
不知火「……」二丁拳銃の構え
初風「不知火」
不知火「はい」
初風「……駄目だからね」
不知火「……はい」ショボーン
【 磯風 】
磯風「何だ?やけに騒がしいな」
浜風「雪風が虫を捕ってきたみたいです」
磯風「ああ、そういえば新しい虫かごを持っていたな」
浜風「初風に買ってもらったようです」
磯風「ふむ」
浜風「たくさん捕って見せびらかしているのですが、みんな虫は苦手で……」
磯風「だらしないな、虫ごときで。よし、私に任せるがいい」
浜風「大丈夫ですか?」
磯風「たかが虫だ。汚れたら洗えばいい、それだけの事さ」
磯風「どれ、雪風。たくさん捕れたらしいじゃないか」ニコ
雪風「磯風!はい、見てください!いっぱいあります!」ニコー
≪≪ 蜘蛛蜘蛛脚高蜘蛛蜘蛛蜘蛛脚高蜘蛛 ≫≫ ウジャウジャ
磯風「」
◇
黒潮「雪風どないしたん?メッチャ泣いとるやん」
不知火「磯風が雪風の虫かごを、海に投げ捨てたらしいです」
黒潮「はあ?何でそんな事を」
不知火「さあ」
陽炎「磯風、ちょっと!何で雪風泣かすのよ」
磯風「私は悪くない!悪くないんだ!」
【 浜風 】
雪風「カルピスですー」
時津風「わーい、やったー」
雪風「幸運の女神のキスを感じちゃいます!」ゴクゴク
時津風「うんうん、いいかもね、いいかも!」ゴクゴク
雪風「」バタン
時津風「」バタン
◇
大井「北上さん、甘酒ですよ!甘酒!」
北上「おー、いいねえ」
大井「じゃんじゃんいきましょう!じゃんじゃん!」
北上「大井っちも飲みなよー」ゴクゴク
大井「はいっ!頂きます!」ゴクゴク
北上「」バタン
大井「」バタン
◇
隼鷹「那っちゃん那っちゃん、にごり酒だよ」
那智「誰だ、那っちゃんて」
隼鷹「さ、さ、駆け付け一杯ぐいっとね!」
那智「ふむ、にごり酒とは珍しいな」
隼鷹「パーッといこうぜ~、パーッとな!」ゴクゴク
那智「まあ、私も嫌いな方ではないしな」ゴクゴク
隼鷹「」バタン
那智「」バタン
◇◇◇
浜風「鳳翔さん、この白いのは何ですか?」
鳳翔「はい、それはお米のとぎ汁です」
浜風「ああ、筍を茹でるんですね」
鳳翔「ええ、アク抜き用です」
浜風「筍ですか、春ですね」ニコ
鳳翔「うふふ、風物詩ですね」ニコ
【 谷風 】
出掛ける支度をしていると、めざとく谷風がやって来た。
清霜から話を聞き付けて、慌ててここに来たようだ
谷風「天ぷら屋に行くんだって?谷風も連れてっておくれよぅ」
生粋の江戸っ子である谷風にとって、天ぷらは欠かせぬソウルフードなのだと言う。
那智(お前のソウルフードは、天ぷらではなくてお菓子だろう)
那智は心の中でそう思ったが、口に出すのは止めておいた。
那智「別に構わんが、退屈だぞ」
谷風「がってんだー!」パアアァ!
”生粋の江戸っ子”という言葉の意味を、那智は百回くらい教えたが。
大阪生まれ広島育ちの谷風は、大きく「うん!」と答えるだけで、最後まで理解を示さなかった。
武蔵「フッ、随分待たせたようだな」
果たして約束の時間になると、のそり、と武蔵がやって来た。
足元にはいつものように、清霜が纏わりついて離れない。
那智「いや、時間通りだ」
清霜「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
◇
那智「季節のものを適当に。あとビールを瓶で、グラスは二つ」
武蔵「こいつらには芋とカボチャを頼む」
谷風「てやんでい、べらんめえ」
谷風「谷風さんも那智と同じのを食べるぜ!」
谷風「芋やカボチャの天ぷらなんて、女子供の食うものさぁ」
清霜「む、むむー」
那智(いや、お前は思いっきり女で子供だろう)
武蔵「それでは、こいつにも同じものを」
店主「あいよ」
◇
店主「それじゃ、春野菜ね」
店主「まずは、タラの芽、こごみ、ぜんまい」スッ
那智「美味い、美味い」サクサク
谷風(草じゃん……)
店主「お次は、せり、菜の花、ふきのとう」スッ
武蔵「酒の肴に最高だな」ハフハフ
谷風(葉っぱじゃん……)
谷風「……」パク
谷風「──ッ!?」ビキィィーーンッ!
谷風(に、苦あああぁぁーーいッ!)
谷風(毒じゃん!いじめじゃん!罰ゲームじゃん!)チラッ
清霜「お芋おいしーい!甘ーい!」ニコー
谷風(ぐぬぬ……)
武蔵「やはり天ぷらは最高だな」
那智「普段はカツばかりだからな」
武蔵「足柄か」
那智「あいつは親の仇のように作るからな。カツはもう当分いい」
谷風(カツ食いてぇー!)ワオーン
那智「どうだ谷風、美味いだろう」
谷風「お…おうともよ」
那智「そうだろう、そうだろう。流石は谷風だな、旬の味わいを分かっている」
武蔵「ほう、この滋味が分かるとは。若いのに通だなぁ」
谷風「あ、あたぼうよ!こちとら江戸っ子でい!」
清霜「む、むむむー、何だよー!」
武蔵「はっはっは」
◇
清霜「武蔵さん、他にも何か頼んでいい?」
武蔵「好きにしろ」
清霜「やったー!じゃあ清霜はねぇ、イカの大葉巻き!」
谷風「ばっか、おめえそういう時は、シソ巻きって言うんだよ」
清霜「何だよー、大葉じゃんかー」
谷風「かあーっ!清霜は物を知らねぇな。谷風さんは花巻な!花巻エビ!」
那智「才巻だな」
武蔵「うむ、才巻だ」
店主「あいよ、才巻ね!」
谷風「お、おぅ… ///」
清霜「才巻じゃんかよー!」
谷風「ば、ばっか、おめえ!江戸じゃあ、花巻って言うんだよ!」
清霜「花巻なんて、江戸じゃなくて岩手だよー!」
谷風「う、うっせーやい ///」
◇
那智「寝たか」
武蔵「ああ」
那智「あっ、という間だな」
武蔵「職人芸だな。少々揺すっても全然起きん」
那智「しかし知らない場所で、何でこんなに熟睡出来るんだろうな」
武蔵「肝が太いんだろう。こう見えて、やはり二人とも並じゃない」
那智「大口を開けて……全く、ひどい寝顔だぞ」ヤレヤレ
武蔵「安心しきってるな」フフッ
那智「静かになったし、もう少し飲もうか」
武蔵「私はそろそろ焼酎にするかな」
◇
那智「さて、最後はエビ天を入れて蕎麦にしよう」
武蔵「私はかきあげを入れてもらおう」
那智「ふむ、それでは〆に蕎麦を頼む。エビとかきあげを入れてくれ」
店主「あいよ」
◇
那智「美味い、美味い。やはり蕎麦にはエビ天だな」
那智「ウチでは蕎麦にもうどんにも、カツが入るからな」
武蔵「お前の妹は筋金入りだな」
那智「それで一度、殴り合いの大喧嘩になった事がある」
武蔵「何やってんだ、お前ら」
那智「私も腕っぷしには自信があるが、足柄も相当な負けず嫌いでな」
那智「お互い顔の形が変わるくらい派手にやらかしたんだが」
那智「その後、妙高姉さんに死ぬ程怒られてな……」
武蔵「子供か」
那智「この説教がまた、デタラメに長いんだ」
武蔵「妙高らしいな」クックッ
那智「足がもう痺れに痺れて、終わってもしばらく動けなかったぞ」
武蔵「はっはっは」
那智「笑い事ではない。二人してボコボコの顔で倒れて、動けずにいるんだぞ?」
那智「そこにちょうど帰宅した羽黒が、これまた盛大に勘違いしてな」
那智「悲鳴を上げるは、泣いて騒ぐわで大騒動だ」
武蔵「わっはっは」ケラケラ
那智「もうお願いだから安静にさせてくれよと、頼むよと」ヤレヤレ
武蔵「いい姉妹じゃないか」クスクス
【 野分 】
野分「一発芸?」
龍驤「そうや、花見の余興や。せっかくみんな集まるし、楽しい方がええやん」
野分「でも、そんな芸なんて……」
龍驤「あー、そない大仰に考えんでええよ。みんな身内やし」
龍驤「出来る事でええから、歌でも踊りでも何でもな」
龍驤「もし難しかったら、無理せんでええ」
龍驤「どうせ放っておいても、那珂がオンステージやりだすしな」
舞風「それじゃあ舞風はダンスを踊るよ!野分と一緒に!」
野分「え、野分もですか」
舞風「もちろんだよー!」
野分「いや、恥ずかしいですよ」
舞風「大丈夫だよー」
野分「龍驤さんは何かやるんですか?」
龍驤「ん、ウチか?そやなー、漫才と漫談どっちがええ?」
舞風「おー」
野分「余裕ですね」
龍驤「そら空母連中で、しょっちゅう飲み会してるからなー」
龍驤「みんな芸達者やでー」
野分「そうなんですか」
龍驤「赤城は手品で、加賀は歌やな」
舞風「赤城さんが手品?」
野分「加賀さんが歌?」
龍驤「何や?意外か」
舞風「意外どころか……」
野分「想像もつきません」
龍驤「加賀はああ見えて、歌上手いんやで」
龍驤「赤城のはまあ、ネタというかお約束なんやけどな」
舞風「?」
龍驤「皿の料理を一瞬で消しますー…って、まあ、見たら分かる」
野分「へえー、楽しみですね」
龍驤「あと隼鷹は脱ぐな」
野分「ぬっ……!? ///」
舞風「それって芸ですか」
龍驤「いや、あいつ凄いんや、めっちゃエロいで」
野分「そ、そんなの聞いてません ///」
龍驤「脱ぐし脱がすしで大騒ぎや。雲龍と絡んだ時なんか、もう!マジでヤバかったわ」
舞風「ふ、ふーん ///」
野分「舞風、駄目です!興味を持ってはいけません! ///」
【 嵐 】
鎮守府恒例、春のお花見。今年の催しは二部構成。
昼の部は、弁当と和菓子のお食事会。
夜の部は、お酒とオードブルの大宴会。
どちらかに参加せよ、との事。
黒潮「嵐はどっちがええ?」
嵐「そりゃ昼だろ。酒なんか別にいらないし」
萩風「私も和菓子の方が嬉しいかも」
黒潮「そんじゃ、嵐に萩風もお昼……と、舞風は?」
舞風「えっと、よ、夜の方で! ///」
黒潮「え?」
舞風「ま、舞風は夜桜の部でお願いするよ!いいよねっ、野分 ///」
野分「あ、はい、野分も夜で」
黒潮「あら、意外。ホンマにええの?お菓子とかあんまりないで」
舞風「構いません!」ビシッ!
黒潮「えらい気合い入っとんなー」
黒潮「浦風はどないする?」
浦風「ウチ、金剛姉さんと一緒がええ」
黒潮「金剛さんは……えーと、金剛型の人らは、みんな昼の部みたいやね」
浦風「ほんじゃウチもお昼で」
磯風「ふむ、なら私も昼にしよう」
浜風「あ、それでは私も浦風と一緒で」
黒潮「はいはい、ほな三人は昼なー」
嵐「黒潮はどうすんの?」
黒潮「ウチは夜やな。龍驤さんと漫才するんや」
萩風「余興やるんだ」
黒潮「せやでー、どっかんどっかん笑かすからなー、期待しときやー」
舞風「余興…… ///」
黒潮「何や舞風、顔赤いで?風邪か」
舞風「う、ううん、何でもない、何でもないよ!ね、野分 ///」
野分「え、あ、はい。何でもありません。何でも ///」
浦風「初風とかは?」
黒潮「初風と天津風は夜やったな。あと谷風もか」
黒潮「妙高さん達が夜やったから、それに合わしたんやろな」
磯風「あ、それじゃあ不知火は……」
黒潮「不知火も夜や。初風と天津風に首根っこ掴まれてたわ」
黒潮「あと、抜け駆け禁止の紳士協定結ばされてたな」
浜風「熾烈な戦いが続いてますね」
嵐「今んとこ誰がリードしてんの?」
黒潮「三人とも まだ横一線ちゃうかな、よう知らんけど」
舞風「雪風と時津風は昼だよね?」
黒潮「そやな。一応陽炎が聞きに行ってるけど、まあ流石にあの二人は昼やろなー」
黒潮「後は秋雲がどうか分からんな。あの子はつかみどころが無いからなー」
野分「意外と夜桜組が多いですね」
嵐「おいおい、美味しい和菓子頂いちゃうよ?桜餅に三色団子~♪」
黒潮「うーん、それは困るなー」アハハ
萩風「間宮さんの和菓子は絶品ですからね」
磯風「ん、何だ?そんなに和菓子が好きなのか」
嵐「いや、そりゃ好きだろ。こう見えても女子だし」
萩風「嫌いな理由がありません」
嵐「自分で作れたらいいんだけどなー」
萩風「お菓子は難しいですよ、和菓子なんて尚更」
磯風「ふむ」
浦風(あっ……)
浜風(あっ……)
磯風「よし、ならば私が一肌脱ごうじゃないか」
嵐「え?」
萩風「え?」
磯風「可愛い妹達の願いは叶えてやらんとな」
嵐「え?」
萩風「え?」
磯風「あっ、いかんいかん。今 言ってしまうと、サプライズにならないな」
嵐「い、磯風?」
萩風「あの、ちょっと磯風さん?」
磯風「ん、何かな?私は何も知らないぞ~」ピューピュー
磯風「おっと、こうしてはいられない。そうと決まれば早速材料の調達に……」
嵐「ちょっと待ってみようか磯風」
萩風「うん、少し落ち着いた方がいいかな、いいかな」
磯風「うむ、それでは私は急用が出来たから、先に帰らせてもらう」
磯風「嵐」
磯風「萩風」
磯風「楽しみにしておくといいぞ」ニッコリ
嵐「」
萩風「」
浦風「さて、どっちに参加するかじゃったの、えーと、それじゃウチは夜の方にしようかの」
黒潮「受付は締め切ったで」
浦風「いやいや、黒潮」
黒潮「磯風止めれるの、アンタしかおらんやん」
浦風「いやいや、黒潮」
嵐「浦風助けて」
萩風「お願いします浦風」
黒潮「頼んだで、浦風」
浦風「」
【 萩風 】
鎮守府の裏手。高台にある公園に、大きな桜が咲いている。
澄み渡る空に暖かな日差し、穏やかな風。
普段の行いが良いのだろう。絶好のお花見日和となった。
嵐「ばっちり快晴!天気予報大当たり!」
萩風「桜も綺麗だし言う事ないね」
嵐「やっぱ昼で正解だな、桜がこんなに咲いてるよ」
萩風「来てよかったねー」
萩風「見て見て、祥鳳さんと神通さんが野点をしてるよ」
嵐「あの二人って何でも出来るよな」
萩風「こっちでは金剛さんが紅茶を淹れてるね」
嵐「浦風憧れの人か、確かに綺麗だわ」
萩風「後でご馳走してもらおうよ、とっても美味しいんだって」
嵐「そうだな、楽しみだな」
萩風「長門さんはオレンジジュース飲んでるね。お酒じゃなくていいのかな」
嵐「現場の最高責任者だからな、酔っ払う訳にはいかないんだろう」
萩風「そっかー、偉い人は大変だー」
嵐「あ、赤城さんと加賀さんだ」
萩風「黙々と食べてるね、桜なんて一秒も見てないよ」
嵐「あの二人は夜の部じゃなかったっけ」
萩風「そう聞いたけど……変更したのかな」
嵐「もしかして両方出るつもりなんじゃ」
萩風「えー?まさかそんな無茶は……」
嵐「やりかねないな」
萩風「やりかねないね」
嵐「リットリオさんだ、リベもいる」
萩風「桜なんて珍しいでしょうね」
嵐「イタリアにも桜ってあるのかな」
萩風「うーん、どうだろ」
嵐「アメリカにはあるよな。桜の木を切って謝る話あるし」
萩風「あー、誰だっけ。オバマさん?」
嵐「オバマは違うだろ」
萩風「えーっと、じゃあクリントン」
嵐「あ、何かそれっぽい!冴えてるな はぎぃ」
萩風「いやいや、それ程でも。えへへー」
嵐「あ、磯風だ」
萩風「思いっきり手を振ってるね、すごい笑顔」
嵐「大きな荷物持ってるな」
萩風「すごいね。あれ全部、アレなのかな」
嵐「アレなんだろうね」
萩風「そっかー、アレかー…」
嵐「……」
萩風「……」
嵐「あんなに作るの大変だったろうな」
萩風「昨日から寝ずに頑張ったんだろうね」
嵐「……」
萩風「……」
嵐「呼んでるね」
萩風「うん、呼んでるね」
嵐「……」
萩風「……」
嵐「行こうか」
萩風「うん、行こう」
花は桜木、人は武士。
春の香満ちる光の中を、二人並んで歩いてく。
繋いだその手は離さずに、大切な人と共にゆく。
嵐「あーあ、全く困った姉貴だなー」
萩風「ホントに。困った姉さんだね」
嵐「あはは」
萩風「うふふ」
今日という日が心地よかった。
【 舞風 】
花見提灯に照らされて、桜も昼とは違う顔。
酒樽、ビア樽、ワイン樽。重箱、折箱、玉手箱。
飲兵衛と大飯喰らいが意気揚々。諸手を挙げて集いゆく。
ドンチャン、ドンチャン、ドンチャカチャン。
騒ぎ立てるが宴の作法。飲めや歌えやと さんざめく。
初風「どう……かしら?」
妙高「どれどれ…うん、美味しい。とてもいい出来よ」
初風「そ、そう!」
妙高「これならきっと提督にも喜んで頂けます」
初風「は、はあっ?ち、違うし!別にあいつの為に作ったんじゃないし!」
初風「偶然作り過ぎただけなんだから。本当よ、本当に違うんだからね」
妙高「はいはい」ニコニコ
妙高「さ、それじゃあ渡してらっしゃい」
初風「う、うん。ついでにね!そう、たまたま ついでに渡してくるわ」
◇
足柄「天津風。ほら、カツよ」
天津風「いらないわよ」
足柄「ビールのつまみに最高よ」
天津風「お酒なんて飲まないもん」
足柄「あなたじゃないわよ、提督よ」
天津風「む」
足柄「喜ぶわよ。渡してらっしゃい」
天津風「いらない」
足柄「何でよ」
天津風「……自分のがあるから」
足柄「あら、いつの間に!やるじゃない」ヒョイ パク
天津風「あっ、コラ!ちょっと」
足柄「わ、美味しい。私より上手かも」
天津風「え?そ、そう」
足柄「これなら大丈夫よ。ほら、早く渡してらっしゃい」
天津風「う、うん。行ってくる」
足柄「渡す時、ちゃんと大好きって言うのよ」
天津風「いっ、言わないわよっ! ///」
◇
陽炎「何なのよ、この量は」
黒潮「なんぼなんでも作り過ぎや」
不知火「だって…司令が好物だって……」
陽炎「限度があるでしょ」
黒潮「ホンマ司令の事になると見境のうなるな」
不知火「……」ショボーン
陽炎「だいたい何よ、このタッパーに新聞紙。主婦じゃないんだから」
黒潮「味付けは……うん、味は大丈夫やな。上々や」
陽炎「ほら、この可愛い重箱に詰め直して」テキパキ
黒潮「風呂敷もこの花柄のにしようなー」テキパキ
陽炎「はい、完成!」
黒潮「ほな、行っといで~」
不知火「あ、あの……」
陽炎「モジモジしない!」
黒潮「早よせんと、先越されるで」
不知火「──!行ってきます」
不知火「陽炎、黒潮、ありがとう」タタタッ
◇
谷風「なあ那智、お稲荷さんもう一個食べていいか」
那智「いくらでも食べろ」
谷風「やったー!」
那智「お前は色気より食い気だな」
谷風「ん?何だよそれ」
那智「何でもない。ほら、太巻きもあるぞ」
谷風「こいつは景気いいな!」
足柄「あら、谷風じゃない。カツ食べる?」
谷風「食べるっ!うひょー、うめーっ」
羽黒「谷風ちゃん、桜餅もあるよ」
谷風「んはー!来て良かったー」
妙高「あらあら、賑やかね」
足柄「あ、妙高姉さん」
妙高「乾杯しましょ。谷風もどうぞ」
那智「お、おい、酒は……」
妙高「今日ぐらい良いでしょ、でも少しだけね」トクトク
谷風「おっとっとー」
妙高「それじゃあ、乾杯ー」
◇
足柄「いやー早かったわね。瞬殺よ、瞬殺」
那智「だから言ったのに」
妙高「よく寝てますね。何か羽織るものは……と」
足柄「羽黒の膝で寝られるなんて、世の男からしたらプレミアものよ」
羽黒「も、もう、姉さんったら」
陽炎「すみませーん、ウチの子 引き取りに来ましたー」
足柄「あら、陽炎」
陽炎「あ、やっぱり寝てる」
羽黒「もうぐっすり眠ってるから、焦らなくても大丈夫だよ」
那智「ああ、こうなったら揺すっても当分起きん」
足柄「陽炎もちょっと飲んでけば?カツあるわよ、カツ」
陽炎「あ、ハイ。えーっと……」
足柄「遠慮しなさんな、ほら」
陽炎「それじゃあ少しだけ」
妙高「では、もう一度乾杯しましょうか」
◇◇◇
野分「舞風、助六を貰ってきました」
舞風「わあ、ありがとう。嬉しい」
野分「隼鷹さんの様子はどうですか」
舞風「まだいつも通りだよ」
野分「うーん、結構飲んでいる筈なんですが」
舞風「やっぱり相当お酒強いよね」
舞風「あ、でもさっき千歳さんが来てたから、多分勢い付くよ」
野分「そうですか。それではもうしばらく待ちましょう」
舞風「うん。楽しみだね ///」
野分「もう、舞風ったら ///」
アラエッサッサー
隼鷹「あーもう、あたしゃ脱いじゃうよ!」スポーン!
隼鷹「隼鷹さんは脱いでも凄いんだからねー!」
イイゾ ヤレヤレー マッテマシター
飛鷹「ちょっと隼鷹、やめなさいって」
隼鷹「ほらほら飛鷹も脱ぎなよーっ」
飛鷹「ちょっ、やめ、隼鷹!キャーッ!」
舞風「始まったよ、野分、ほら!」
野分「い、いきなり凄いですね ///」
舞風「もっと近くに行こうよ」
野分「あ、待って下さい舞風、引っ張らないで」
隼鷹「今日はもう止まんないよあたしはー」
野分「///」ドキドキ
隼鷹「ん?おいおい何だい、この可愛い子ちゃんは」
野分「ふおっ?」
隼鷹「いいのかい、こんな所にノコノコ来ちゃってさぁ」
野分「え、あの、はい?」
隼鷹「アタシは駆逐艦でも構わず剥いちゃうんだぜー」ワキワキ
野分「ちょっ、あの、舞かz」
隼鷹「ウラーッ!」ガバッ!
野分「ふおおおー!?」
舞風「ああっ、野分ー!野分ー!」
野分「ちょっ、あっ駄目、そこは、違っ?あッアーッ ///」ンアー
舞風「の、野分ー /// 野分ー ///」
◇◇◇
巻雲「秋雲ちゃんは!ウチの子れすっ!」
巻雲「絶対どこにも行かせしぇません!」
巻雲「秋雲アイラービュー」
秋雲「あははー…参ったねー…」
風雲「相当酔ってるわね」
長波「誰だよ、お酒持ち込んだの」
巻雲「聞いているのれすか、長波!」
長波「へいへい、秋雲だねー」
巻雲「秋雲ちゃんはっ!可愛いのれすっ!」
長波「お前の方が可愛いよ」
風雲「ベロンベロンじゃない。どんだけ飲んだのよ」
高波「飲んだっていうか、舐めただけ…かも」
長波「そもそも、何で巻雲が夜に居るんだよ」
沖波「保護者として一緒に行くって聞かなくて……」
風雲「絵に描いたようなミイラ取りだね」
巻雲「お義父さん!秋雲さんを私に下しゃいっ!」
巻雲「駄目れすっ!秋雲ちゃんはウチの箱入りれすっ」
巻雲「そこを何とか!愛しているのれす!」
巻雲「ええい、帰りなさい!秋雲ちゃんは渡しましぇんっ!」
長波「一人芝居始まったぞ」
風雲「無駄に迫真の演技ね」
沖波「えっと、こんなに酒癖悪かったかな?」
高波「お酒飲むとこなんて見た事ないかも…です」
巻雲「秋雲~秋雲~」
秋雲「はいはい、秋雲はそばにいるよ。ずっと一緒だよ」ナデナデ
巻雲「えへへー」ニヘラ
【 秋雲 】
春の好日。柔らかな光に包まれて、姉達が寝息を立てていた。
『 春眠暁を覚えず 』とは言うけれど。朝のみならず、昼も夜も皆よく眠る。
寝る子は育つはずなのに、育ってない子も稀にいる。育たぬ部分も稀にある。
お土産の袋をガサガサ鳴らし、焼きたての香りを泳がせたら動き出した。
芋を持ったまま山で迷い、烈火の勢いで猿に襲われた谷風の気持ちを、少しだけ理解する。
オイテケー オイテケー スコーンオイテケー
オイテケー ワタシベーグルー ズルイワタシモー
こんな状況でも、小倉デニッシュは人気がない。
◇◇◇
陽炎「ロシアパン?何それ」 サンドイッチ
不知火「ピロシキとかでしょうか」 チーズ蒸しパン
黒潮「ちゃうちゃう。ロシアパンやのうて、ロシアンパンや」 焼きそばパン
初風「あー、ロシアンルーレットね」 ベーグル
雪風「ロシアンルーレットって何ですか?」 メロンパン
天津風「たくさんの中に、一つだけ当たりがあるの」 クロワッサン
時津風「当たり?何が入ってるの」 チョココロネ
浦風「ハバネロらしいで。鬼盛りで」 スコーン
磯風「それは……当たりなのか?」 ガレット
浜風「そんなに辛いのはちょっと……」 クリームパン
谷風「いいじゃん、いいじゃん!面白そう」 コロッケパン
野分「秋雲もどれが当たりかは知らないんですよね?」 ライ麦パン
嵐「よっしゃ、それなら公平だな」 カレーパン
萩風「見た目じゃ全然分からないね」 クイニーアマン
舞風「うわ~、何だかドキドキするよ」 フルーツサンド
秋雲「それじゃあみんな、せーのでいくよ!」 小倉デニッシュ
全員「いっせーの!!」 パクッ! パクッ! パクパクッ!
嵐「…………おいおい、マジかぁ~~!!」(涙目)
以上です。
読んでくれた人ありがとう。
おつおつ
乙乙
季節ごとの楽しみだわ、今回も皆可愛かった
もうすぐ1年ほどたつがメロンの真実は伝えられてないんだな...
乙
ムッツリ担当まいのわ
乙
乙です
帰りの電車の所で
初風って7番艦だから雪風・時津風は妹やない?
乙です。
秋雲は隠れグルメだな。
乙でした 季節の楽しみになってます
このSSまとめへのコメント
ずっと続いて欲しい、このシリーズ
やっぱ陽炎型は最高ですね