冬の陽炎型 (70)
陽炎から秋雲まで。
陽炎型姉妹実装16人分。
前作からの続きです。
未読の方はどうか夏の方から先にご覧下さい。
夏の陽炎型
夏の陽炎型 - SSまとめ速報
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【 陽炎 】
『 ガチャピンの中に誰かいる 』
かぶりつきでテレビを観る雪風に、真実を告げられないままでいる。
『 ムックの中にも何かいる 』
歓声をあげ拍手する時津風に、未だ言えないままでいる。
駄目なお姉ちゃんを、許してほしい。
陽炎はまだまだ未熟です。
黒潮「陽炎」
不知火「陽炎」
陽炎「こんなの無理だから!前より難易度上がってるじゃない!」
黒潮「だって言わんと」
不知火「恥をかくのは雪風達です」
陽炎「だから無理って!ふなっしーの時だって、大変な騒ぎになったじゃない!」
黒潮「あー…」トオイメ
不知火「あー…」トオイメ
陽炎「もうちょっと大きくなったら、絶対言うから!ね!ね!」
【 不知火 】
あの日。
キュアピンクの名と共に失ったものは、自信。そして誇り。
◇◇◇
漣と再戦する事になった。
全てを取り戻す為に。
ただひたすらに積み重ねた研鑽の日々。
捲土重来。譲れないものがある。
負けられない戦いがここにある。
不知火「」シクシク
漣「」メソメソ
黒潮「どないしたん、あの二人?」
浜風「途中から明石さんが飛んできたらしくて」
陽炎「え?工作艦よね」
初風「オーパーツ ガン積みだったみたいよ。ファンネルとか」
黒潮「うわ、大人気ない」
朧「あと、何故か夕張さんも一緒に。フル装備で」
陽炎「何やってんのよ、あの二人……」
潮「連日の徹夜明けだったみたいで、何かテンションがおかしかったです」
陽炎「あー…」
黒潮「あー…」
曙「仕事押し付け過ぎたみたいね……」
◇
明石「キュアピンクでーす!」キラキラー!
夕張「キュアメロンでーっす!」キュアキュアー!
明石「ふったーりーはー♪」ハイ
夕張「プーリーキュアー♪」ターッチ
明夕「イエイ!イエーイ♪」パーンッ!
大淀「」ソワソワ
大淀「」ウズウズ
大淀「」チラッチラッ
武蔵「おい」
大淀「ぴぃやああああーーっ!?」ビックウッッ!!
武蔵「仲間に入りたいなら、ここで見てるだけじゃ駄目だ」
大淀「ななな、わ、わた、私はっ、別に?」
武蔵「早く行ってこい」
大淀「な、何の事か私にはさっぱり!か、会議があるので失礼しますっ」タターッ
武蔵「……やれやれ」
【 黒潮 】
雪見だいふく。冬季限定販売のアイス。
一部に熱狂的なファンを持つロングセラー商品。
黒潮「美味しいわー、美味しいわー」パクパク
黒潮「雪見だいふく最高やわ。アイス界のプリマドンナや」
黒潮「お餅とアイスの組み合わせとか凄いわ、考えた人は天才や」
黒潮「何で冬だけなんやろ?こんなん黙ってても一年中売れるのに」
黒潮「あー美味し、あー美味し」モキュモキュ
黒潮「……ふぅ」ブルッ
黒潮「アカン、ちょっと寒なってった」ブルブル
黒潮「アイス食べ過ぎや、お腹冷えてまう」
黒潮「どないしよ、どないしよ」
黒潮「あ、そうや、お汁粉あったんや」ピコーン!
黒潮「お汁粉食べよ、お汁粉」
黒潮「ちょっと身体温めな」ハフハフ
黒潮「はー……」ホッコリ
黒潮「あー、お汁粉美味しいわー、ホッとするわー」
黒潮「やっぱ冬はお汁粉やわ」
黒潮「そういやお汁粉とぜんざいて、どう違うんやったかな」
黒潮「ん?粒あんと、こしあんやったっけ」
黒潮「白玉とお餅やったかな」
黒潮「あれ?どっちやろ」
黒潮「今度、大淀さんに聞いてみよ」
黒潮「大淀さんは何でも知ってるんや。何でも知ってる大淀さんや」
黒潮「あー、それにしてもお汁粉美味しいわー、美味しいわー」モフモフ
黒潮「……ぁっ」フーッ
黒潮「アカン、暑なってった」
黒潮「アカンわ、汗かいてるし」
黒潮「どないしよ、ちょっと暑いわー」パタパタ
黒潮「あ、アイスあったんや」ピコーン!
黒潮「そやそや、よーさん買うたんやった」
黒潮「アイス食べよ、アイス食べよ」ウキウキ
黒潮「でもちょっと食べ過ぎかなー」
黒潮「そうや!半分だけ食べよ」ピコーン!
黒潮「一個だけ食べて、半分は後に取っとこ」
黒潮「そうしよ、そうしよ……ん?」
陽炎「黒潮」
不知火「黒潮」
黒潮「何やの二人して。あ、一緒にアイス食べよか?まだよーさんあっt」
陽炎「黒潮」つ メジャー
不知火「黒潮」つ 体重計
黒潮「」
陽炎「黒潮」ジリジリ
不知火「黒潮」ジリジリ
黒潮「……ぅう」ダッ!
陽炎「あっ!?」
不知火「逃げた!」
黒潮「う、ウチ違うもん!ウチ何も悪い事してないもん!」ウワーン!
【 初風 】
甘味処 間宮
初風「あの」
間宮「あら初風ちゃん、待ってたわよ」
初風「忙しいところ、すみません」
間宮「いいのよ全然、気にしないでね。さ、こっちに」
初風「……お邪魔します」
間宮「ボウルはここ、ホイッパーはこれね。材料は揃ってる?」
初風「はい、大丈夫です」
間宮「厨房の道具は、何でも自由に使っていいからね」
初風「あ、ありがとうございます」
間宮「えっと、何か手伝いましょうか」
初風「じ、自分で、その」
間宮「うふふ、それでは私はお店の方にいますから、何かあれば声を掛けてね」
初風「ありがとうございます」
間宮「ふふ、頑張って」ニッコリ
初風「は、はい ///」
◇◇◇
酒保(売店)
明石「いらっしゃいませー」
初風「あの」
明石「はいはーい、バッチリ入荷してますよー!」
明石「リボンも包装紙も、とびっきり可愛いのが揃ってます」
明石「これなんか特にオススメです」キラキラーッ!
初風「わあ……」
明石「限定品です。みんなには内緒です」コソッ
初風「あ、ありがとう。あの、えっと、じゃあコレを」
明石「はーい、ありがとうございまーす」
初風「…… ///」ホクホク
明石「良かったらラッピングも出来ますけど?」
初風「う、うん、ありがとう。でも自分でやってみるから」
明石「そうですか」ニコー
初風「わざわざありがとう」
明石「いえいえ、予備も沢山仕入れてますから、もし失敗しても遠慮なく言って下さい」
初風「うん、わかった」
明石「きっとうまくいきますよ」ニコッ
初風「う、うん ///」
◇◇◇
当日。
初風「……」モジモジ
陽炎「初風の様子はどう」
黒潮「アカン。執務室の前で固まっとる」
陽炎「どうしちゃったのよ初風、普段と全然違うじゃない」
黒潮「他の娘にも、じゃんじゃん先を越されてるわー」
陽炎「戦場ではあんなにキビキビ動くのに」
黒潮「そんだけ本気なんや」
陽炎「ああもう!サッと行って、パッと渡してくればいいのよ」
黒潮「そんな簡単にはイカンて」
陽炎「本当に何やってんのよ、これじゃあ去年の二の舞よ」
黒潮「今年もアカンかー…」
妙高「こんにちは」
陽炎「みょ、妙高さん!」
黒潮「ど、どうしてここに」
妙高「初風に呼ばれたんだけど……聞いてないかしら?」
陽炎「い、いえ…」(初風、あの子……!)
黒潮「ウチらは何も…」(退路を断ちよったー!)
初風「妙高姉さん」スッ
陽炎「は、初風」
妙高「あら初風、こんにちは」
初風「あ、はい、あの」
妙高「……?」
初風「あの、姉さん、あの」
妙高「…………」ジーッ
初風「わ、私…私は…」
妙高「……初風」
初風「は、はいっ」ビクッ!
妙高「胸を張りなさい」
初風「え、あ、はっ、はいっ」
妙高「…………」
初風「…………」
妙高「……大丈夫」
初風「え?」
妙高「あなたなら出来るわ」ニコ
初風「……あ」
妙高「いってきなさい」ポン
初風「あ、あのっ、私っ!」
妙高「頑張ってね」ニッコリ
初風「いってきますっ!」
昨日の誓いは今日の為。今日の勇気は明日の為。
三度目の、白の季節の鎮守府に、今日初めての風が吹く。
初風「初風よ!提督、失礼するわ!」
【 雪風 】
雪風こんこ、霰やこんこ。
降っても降っても、まだ降りやまぬ。
時津風は喜び庭かけまわり、多摩はこたつで丸くなる。
雪風「見て見てー!」
時津風「雪だるま作ったよー」
陽炎「あら、すごいわね」
不知火「たくさんあります」
黒潮「えらい頑張ったなー」
雪風「このリボンのがね、陽炎」
陽炎「あら可愛い」
時津風「こっちが不知火」
不知火「ふむ」
黒潮「この丸っこいのは?」
雪風「黒潮ー!」キャッキャッ
時津風「黒潮ー!」キャッキャッ
黒潮「んー?」
雪風「わー、逃げろー」ターッ
時津風「とんずらー」タターッ
黒潮「こら!待ちやー」ダッ
陽炎「しかし、本当にいっぱい作ったわね」
不知火「こちらにも並んでいます」
陽炎「ふむふむ、このティーカップを持ってるのは金剛さんね」
不知火「こちらの傘を差しているのは、大和さんでしょうか」
陽炎「えーっと?このバナナ持って笑ってるのは誰かしら」
不知火「ごりら、って書いてありますし、長門さんじゃないでしょうか」
陽炎「ブフォッ!あの子達……怒られるわよ、もう」
不知火「長門さんは愛されていますね」
陽炎「愛されてるって言うのかなー」
不知火「最強の戦艦なのに、怯えている子は誰もいません」
陽炎「まあ、それはね」
不知火「意味もなく怖がられるのは、辛いものです」
陽炎「え?」
不知火「可愛らしい格好でもしてみれば、少しは違うのかもしれませんが」
陽炎「アンタ、もしかしてプリキュアって……」
不知火「……何でもありません」フイ
陽炎「……」
不知火「あちらにも並んでいます。見てみましょう」
陽炎「不知火……」
陽炎「こっちも壮観ね」
不知火「マイクを持ってるのは那珂ちゃんですね」
陽炎「マフラーを巻いてるのは川内さんかしら」
不知火「それじゃあ、この真ん中のは……」
陽炎「……」
不知火「……」
陽炎(角、生えてる)
不知火(金棒もってる)
陽炎(顔、怖い)
不知火(すごく、怖いです)
神通「」
陽炎「あ」
不知火「あ」
神通「……」
陽炎「あの、これはね、違うの」
不知火「子供のいたずらで、その」
神通「……」グスッ
陽炎「あー…」
不知火「あー…」
神通「……ジンツウ オニジャナイモン」メソメソ
川内「……」ナデナデ
那珂「……」ヨシヨシ
不知火「意味もなく怖がられるのは、えっと……」
陽炎「あの二人、おやつ抜きね」
【 天津風 】
初めて食べたそのお菓子は、シンプルだけど上品で。
そして何より、信じられないくらい美味しかった。
おはぎや羊羹も美味しいけれど、正直比べ物にならないくらい。
こんなに美味しいお菓子は普通じゃない。きっと特別なお菓子なんだろう。
特別な人と特別な時に特別な場所で食べる、そんな特別なお菓子に決まってる。
それくらい特別な美味しさなんだ。
その、お菓子の名は───
足柄「マッハ文朱?」
天津風「ザッハトルテ!」
足柄「ああ、ザッハトルテね。似てるわね」ヒョイヒョイ
天津風「似てないから、全然違うから、あとカツはいらないから」バシバシッ!
足柄「もう、ワガママな子ね」
天津風「ワガママじゃないから、素直だから、正直だから」
足柄「で、何?ザッハトルテがどうしたの」
天津風「う、いや、知ってるかなー…と」
足柄「そりゃ知ってるわよ、そのくらい」
天津風「そ、そうよね!知ってるわよね、ザッハトルテ!」
足柄「何?食べたいの」
天津風「いや、食べたいというか、その……作り方とか、ね」
足柄「作り方?簡単よ。え、もしかして知らないの天津風?」
天津風「え、え?普通知らないでしょ、そんなの」
足柄「馬鹿ねー、駄目よ、駄目駄目。すごく大事よ?みんな知ってるわよ」
天津風「え、嘘?作り方よ?」
足柄「はー…何やってんだか」ヒョイ
天津風「ため息つかないでよ。あとカツはやめて、いらないから」モドシ
足柄「作り方教えてあげるから、よく聞きなさい。メモも取りなさい」
天津風「あ、ハイ。お願いします」サッ
足柄「まず豚肉に塩胡椒をしてね、パン粉をまぶした後、高温の油でね」
天津風「カツじゃないから!カツ違うから!カツの作り方聞いてないから!」ビリビリバーン!
足柄「今日はアグレッシブね」
天津風「ザッハトルテね!ザッハトルテ!チョコレートのお菓子!カツ違うから!全然違うから!」バンバンッ!
足柄「ちょっと落ち着きなさい」
天津風「落ち着けないから!姉さんのせいだから!」
足柄「もー、分かったわよ。はいはい、ザッハトルテね」ヒョイ
天津風「カツは、いりません!ノー、モア、カツ、デス!OK?」バシーッ!
足柄「アーハン」
天津風「まったくもう……」
足柄「でも、何で急にザッハトルテなの」
天津風「う、べ、別に理由なんてないわよ?ザッハトルテ美味しいわよね」
足柄「ふーん」
天津風「な、何よ……」
足柄「そういえばもうすぐバレンタインよねー、ふーんチョコレート菓子ねー」
天津風「そ、そうね、偶然ね」
足柄「ザッハトルテ美味しいわよねー」
天津風「そ、そうよね、食べたいわねー」
足柄「でも提督食べられないわよ?チョコアレルギーだし」
天津風「えっ!嘘!?そんなの一言も……」
足柄「んー?」ニヤニヤ
天津風「」
足柄「そっか、そっかー、天津風がねー」
天津風「違うから、全然そんな事ないから、違うから」
足柄「あの、天津風がねー」
天津風「な、何よ」
足柄「おねしょしては泣いてた天津風がねー」
天津風「してないから、そんなのしてないから、姉さん知らないでしょ ///」
足柄「昔は可愛かったのになー」
天津風「今も可愛いから、大丈夫だから、プリティーだから」
足柄「今は駄目よ」
天津風「え、何でよ?」
足柄「だって変なパンツはきだしたし。黒の」
天津風「な、何で知ってるのよ!? ///」
足柄「ちょっと透けてるし」
天津風「だから何で知ってるのよ!ちょっと姉さん? ///」
足柄「ブラとお揃いだし、レースが素敵だし、シルクの肌触りが最高だし」
天津風「わー! /// わー! /// 助けてー、誰かー! ///」
【 時津風 】
浜風「もう!またオモチャ出しっぱなしで!ちゃんと片付けてください」
雪風「あとでー」
時津風「今テレビ観てるからー」
◇
浜風「おやつを食べてそのままにしてるのは誰ですか、ゴミはゴミ箱に!」
雪風「あとでー」
時津風「ついでに捨てといてー」
◇
浜風「夜更かしはいけません、いつまでゲームしてるんですか」
雪風「もうちょっとー」
時津風「このボス倒したらー」
浜風「はあ……全然言う事を聞いてくれません」
陽炎「仕方ないわね」
陽炎「あーあ、悪い子がいるなー」
陽炎「お片付けしない子がいるなー」
陽炎「神通さん呼んじゃおうかなー」
陽炎「神通さんに電話しちゃおうかなー」
陽炎「悪い子がいたら、すぐ電話して下さいって言ってたもんなー」
雪風「え」
時津風「だ、駄目!神通呼んじゃ駄目!」
陽炎「悪い子がいるから仕方ないわね」
不知火「仕方ありません」
黒潮「こら仕方ないなー」
雪風「するよ!お片付けするよ!」
時津風「お風呂も入るよ!歯も磨くよ」
雪風「ちゃんとするよ!悪い子じゃないよ」
陽炎「ホントかなー?嘘ついたら神通さん怒るよ」
時津風「嘘じゃないよ!ほら、もうゲームやめたよ、ほら!」
雪風「テレビも消したよ!もうパジャマ着るよ」
陽炎「もしもし……はい、はい、分かりました」デンワ ピポパポ
雪風「……」ドキドキ
時津風「……」ソワソワ
陽炎「神通さんすぐ来るって」
雪風「嫌あああーーッ!?」
時津風「神通、嫌ー!神通、駄目ー!」
陽炎「神通さんすごく怒ってたよ、悪い子がいるって聞いて」
雪風「陽炎の馬鹿!馬鹿馬鹿!バカリボン!」
時津風「呼んじゃ駄目って言ったのに!」
陽炎「……神通さん走って来てるって、鉢巻は赤だって」
雪風「嫌ーッ!嫌、嫌、嫌ーッ!」
時津風「赤鬼なの?血の色なの?時津風死ぬの?」ガクガク
雪風「り、リボンは?リボンは普通だよね?」
陽炎「夜叉柄だって」
時津風「嫌ーッ!嫌、嫌、嫌ーッ!」
雪風「極妻なの?キルビルなの?雪風も死ぬの?」ブルブル
陽炎「……もうそこまで来てるって」
雪風「嫌ー!神通来ちゃ嫌!嫌!」
時津風「神通駄目ー!神通駄目ー!」
雪風「く、黒潮助けて!ちゃんとするから!いい子にするからっ!」
黒潮「うーん、ホンマにちゃんとする?」
雪風「する!するよ!お片付けもちゃんとするから!」
時津風「もう散らかしたりしないから!」
黒潮「しゃーないなぁ。陽炎、二人ともちゃんとするって」
陽炎「えー?本当かしら」
時津風「ホントだよ!時津風ちゃんとするよ!」
陽炎「それじゃあ神通さんには帰ってもらおうかしら」
雪風「帰って!もう来ないで!」
時津風「早く電話して!早く!」
陽炎「もう……仕方ないわね」ピポパポ
雪風「早く!早く!陽炎早く!」
陽炎「……はい、すみません。ウチに悪い子はいませんから、大丈夫です」
陽炎「……はい、はい、ありがとうございます、失礼します」
雪風「……」ドキドキ
時津風「……」ソワソワ
陽炎「……分かりましたって、神通さん来ないって」
雪風「───!」 ロッキーのポーズ
時津風「───!」 プラトーンのポーズ
黒潮「ほらほら、それじゃあパジャマ着てもう寝やー」
雪風「うんっ!」ニッコリ
時津風「おやすみー」ニコニコー
陽炎「すごい効き目ね」
黒潮「さすが神通さんやわー」
不知火「鬼神の名は伊達ではありません」
◇
川内「……あの」 夜戦のお誘いに来てた
那珂「……その」 新曲のお披露目に来てた
神通「…………」 二人を止めに来てた
神通「……」グスッ
川内「あー…」
那珂「あー…」
神通「……ジンツウ オニジャナイモン」メソメソ
川内「……」ヨシヨシ
那珂「……」ナカナイ ナカナイ
【 浦風 】
雪風「浦風、テレビが観たいです」
浦風「あー、今サッカー観よるけぇ、ちょい待ち」
時津風「サッカーはルールが分からないよ」
浦風「ボール蹴って四角いマスに入れるんじゃ。紫の方を応援せえ」
雪風「赤いチームじゃないの?」
浦風「あれは野球じゃ。今日は赤いのは敵じゃけぇ」
時津風「敵になったの!?」
浦風「はん?まあ、敵になったのもおるわ」
雪風「う、浦風は平気なの、敵になってもいいの」
浦風「しゃーないわ、大人の世界はそういうもんじゃ」
時津風「じゃ、じゃあ、浦風も赤いチームになるの!?」ビク
雪風「浦風もいつか敵になるの!?」オド
浦風「あー…、あののぉ……」フーッ
浦風「なるか、阿呆ォ!!そんなん世界中が敵になっても、ウチはお前らの味方じゃあ!」クワッ!
浦風「ウチが!ずっと、絶対!お前ら守っちゃるけぇ心配すんな!阿呆かぁ!!」ギャース!
雪風「う」
時津風「はう」
浦風「ほら、テレビ観い!ポンキキーあるんじゃろ」
雪風「う、うん」
時津風「ポンキッキーだよ」
ヨイコノミンナー ポンキッキー ハジマルヨー
雪風「今日は水上スキーです」ウキウキ
時津風「ガチャピンすごいねー」ワクワク
浦風「……」
『 浦風も赤いチームになるの? 』
『 浦風もいつか敵になるの? 』
雪風「ムックは何もしてません」
時津風「ムック頑張れー」
浦風「……」
浦風(ウチがもし、そんな事になったら……)
浦風(その時はお前らがウチを殺してくれ)
浦風(ウチは死んでも、ずっとお前らの味方じゃ……頼むで)
雪風「ガチャピン大活躍です!」パチパチ
時津風「ガチャピンかっこいい!」パチパチ
浦風「……」
浜風「……ぅら風、浦風!」
浦風「ん!あ、ああ、どしたんじゃ浜風?」
浜風「お風呂に行きましょう。ちょうど今 空いてます」
浦風「おう、そうじゃの、そうしようて」
浜風「……ボーっとして、大丈夫ですか?」
浦風「おう、ウチは元気じゃ。さ、風呂行こうで。綺麗に磨いて、べっぴんさんにならんとの」
浜風「雪風達はどうしましょう」
浦風「あー、あんならは しばらく無理じゃ。テコでも動かんで」
浜風「それでは先に行きましょう」
浦風「おう、ほんじゃ用意してくるの」
浦風「……」チラ
雪風「ガチャピン沈みました!」アワアワ
時津風「ムック頑張れ!ムック頑張れ!」フレーフレー
浦風「……ま、そんな事なんかないけどな」クルッ
浜風「浦風、早くしましょう」
浦風「あいさー」
【 磯風 】
大淀「こんにちは」
不知火「お疲れ様です、大淀さん」
大淀「最近頑張っていますね。数値も戦績も素晴らしいです」
不知火「恐縮です」
大淀「頑張っている子は好きですよ、応援したくなります」
不知火「あ、はい、ありがとうございます」
大淀「提督も喜んでいました。不知火はすごいなぁって」
不知火「──! そ、そうですか」
大淀「はい、とっても」ニコ
不知火「……べ、別に、司令は何も関係ありませんけど」
大淀「あら?」
不知火「し、司令の為に戦っている訳ではありませんし、あの、任務ですから、その」
大淀「そうですねー」ニコ
不知火「はい、そうです。ですから不知火は別に、何も」
大淀「あ、ところで話は変わりますけど、準備は進んでますか?」
不知火「準備、ですか?えっと、艤装ならちゃんと整備に…」
大淀「いえいえ」
不知火「?」
大淀「手作りの、愛情いっぱいチョコレートの準備ですよ」ニッコリ
不知火「」
大淀「あれ?もしもーし?」クスクス
不知火「は、な、な、何の事でしょう、不知火にはさっぱり ///」
大淀「意外に思われるかもしれませんが、大淀はお菓子作りが得意です」キリッ
不知火「は、え?あの」
大淀「他の鎮守府の大淀は知りませんが、少なくともこの大淀はそうです」
大淀「今まで作った事がなくても大丈夫です、最初から全部教えます」
大淀「とびっきりのレシピも知っています」
大淀「もちろん誰にも言いません。二人だけの秘密です」
不知火「あ、あの、その ///」
大淀「黙って待っているだけじゃ、気持ちなど誰にも伝わりません」
大淀「言葉にするのが難しいなら、せめて形で伝えましょう」
大淀「一年に一度だけ、たった一度の機会です」
大淀「もし、不知火さえ嫌じゃなかったら、お手伝いさせて貰えませんか?」
不知火「うう……え、あの ///」ヌイヌイ
大淀「応援させて下さい」ニコ
不知火「あの、ご指導ご鞭撻を……その ///」
大淀「はい」
不知火「……よろしく、お願いします ///」
大淀「はい!」ニコーッ
◇◇◇
執務室
大淀「合同演習、ですか」
提督「ああ」
提督「広域の鎮守府から選抜された艦娘を一堂に集め行われる、耐寒訓練を兼ねた大規模演習」
提督「平たく言えば、若手の強化合宿だね」
提督「場所や規模は例年通りなんだけど、今年は少し開催が早まったんだ」
大淀「来月末ではない、と」
提督「うん。半月程度だけどね」
大淀「えっと…それでは日程は」
提督「合宿は来月の第二週。二月の十日から十四日までの五日間」
大淀(第二週…?その日は……!)
提督「あと、移動で前後 半日ずつ潰れるから、実質一週間だね」
大淀「あの、それでこちらからのメンバーは」
提督「うん、ウチからの選出は駆逐艦が二名」
提督「磯風と──不知火だ」
大淀(────ッ!)
大淀「…………」ピキピキ
提督「大淀?」
大淀「いえ、何でもありません」
提督「この半年間での二人の成長には、目を見張るものがある」
提督「強い決意を持って日々の鍛練に取り組んできた結果だろう。素晴らしい事だ」
提督「今回数多の艦娘の中から選出されたのも驚きではない。むしろ順当な召集であったと思う」
大淀「……はい。それは確かに」
提督「ついては、期間中に両名が不在になるので、編成や休暇の調整をお願いしたい」
大淀「はい、承知しました」
提督「うん。頼むよ」
大淀「あの、提督」
提督「ん?何かな」
大淀「今回のメンバーは提督の推薦ですか」
提督「いや、人選は全て中央の管轄だよ。他の鎮守府との兼ね合いもあるからね」
大淀「それでは、えっと……人員の変更などは」
提督「変更?うーん、まあ命令ではないから辞退するのは可能だけど」
提督「今回の選出も、あくまで事前に提出された数値からの判断だから」
提督「現時点での艦娘の状態や、鎮守府の状況までは考慮されていないからね」
提督「もしコンディションやモチベーションが万全でないなら、無理をする必要はないかな」
提督「実際に補欠…というか、次点の人員も併記されている」
提督「仮に二人ともが辞退しても、問題はないよ」
大淀「そう……ですか」ホッ
提督「えっと、磯風達に何か不安でもあるのかな」
大淀「あっ、いえ、そういう訳では……」カレンダー、 チラッ
提督「ん?」
大淀「…………」チラッ、 チラッ
提督「何かな」ジーッ
大淀「…………」2/14の部分 チラチラッ! チラッ!
提督「ああ、そういえば!」
大淀「────!!」パアアァ!
提督「もうすぐ節分だねぇ」
大淀「────!?」ビキィッ!
提督「忘れないうちに、枡と福豆の発注もお願い出来るかな」
大淀「…………!」ワナワナ
提督「鬼のお面も用意しておこうね。イベント好きだし、みんな喜ぶよ。楽しみだね」ニコッ
大淀「…………!!」ビキビキビキッ!
提督「さて、それじゃあ磯風達を呼んでみよう」
提督「メンバー入りしたなんて聞いたら、驚くだろうなー」ウキウキ
◇
磯風「合同演習……」
司令「ああ、どうだろうか」
司令「二人にとっては飛躍するまたとない機会だ。可能ならば是非参加するべきだと思う」
司令「メンバーに選出された事自体が大きな名誉だし、実力を認められた証なんだ」
司令「この合宿で得られる貴重な経験は、これからにおいて間違いなく大きな財産になる筈だよ」
不知火「……」
大淀「……」
司令「もちろん強制ではない。急な事案でもあるし、参加が難しいと思えるなら拒否して貰っても構わない」
司令「あくまで演習だからね、それに関してのペナルティなんかも特に無いよ」
司令「訓練も極めて厳しいものだろうから、各自の予定やコンディションを踏まえた上で判断して欲しい」
磯風「……私は構わないが」チラ
不知火「……」
司令「そうか、うん。不知火はどうかな?」
不知火「……」
大淀「……」
司令「不知火?」
不知火「はい、選んで頂き光栄です。謹んでお受け致します」
司令「そうか、うん。ありがとう」
磯風(不知火……)
大淀「……」
司令「日時や場所はさっき話した通りだ。訓練内容などの詳細は、追ってまた連絡する」
司令「限られた期間ではあるけれど、出来るだけ沢山の事柄を吸収して、更に成長した姿を見せて欲しい」
司令「頑張って。期待しているよ」ニッコリ
◇
不知火「……」
磯風「おい、不知火!本当にいいのか?」
不知火「何がですか」
磯風「何が、じゃない!あの日は大切な用事があるのだろう」
不知火「任務ですから」
磯風「不知火!」
不知火「磯風、履き違えてはいけません」
磯風「しかし……」
不知火「何より優先されるのは任務であり、求められているのは、その先の成功です」
磯風「む……」
不知火「忘れないで下さい。私達は、恋をする為に ここに来たのではないのです」
磯風「不知火……」
◇◇◇
後日。
舞風「提督、急に痩せたね」
野分「隣で大淀さんが一日中、殺すオーラ出してますからね」
浦風「そりゃ痩せるわ。あんなの音のない拷問だわ」
浜風「水槽の魚は次々死んでいくし、花瓶の花なんか半日で枯れました」
谷風「執務室が魔界のような雰囲気だよ。窓の外に死神がいたもん」
舞風「提督かわいそう」
野分「むしろ、よく痩せたくらいで済んでいます」
秋雲「しかし提督も提督だよ、何で見えてる地雷を思いっきり踏むかなー」
浦風「自業自得とはいえ、少し気の毒じゃのぅ」
谷風「いや、提督は何も悪い事してないんだけどね」
浜風「鈍感は罪」
秋雲「気付かない内に乙女心を踏みにじっている訳だから、まあ多少はね」
舞風「でも、まさか不知火がそうだとは思わないでしょう?」
秋雲「いや、バレバレじゃな~い?」
野分「バレバレです」
舞風「そっかー、バレバレかー」
谷風「ところで、磯風と不知火はいつ帰ってくるの?」
野分「予定では明日のお昼頃だと聞きました」
谷風「そっか、戦績はどうだったかな」
浦風「あの二人なら問題ないじゃろ」
◇◇◇
提督「報告書があがってきたよ」バサッ
提督「総括はまだだけど、とりあえず最終日までの戦績と、各部門の成績優秀者が書いてある」
提督「すごいよ」
提督「磯風は模擬戦ではあるものの、遂に初の雪風超えを果たしたらしい」
提督「不知火も獅子奮迅の闘いぶりで高い評価を得ている」
提督「その反面、団体では少し数字を落としているね」
提督「初対面のメンバー同士だと、やはり連携に難があるみたいだ」
提督「二人ともコミュニケーション能力の向上が課題だね」
提督「それでも何とか及第点で纏めたのは立派。総合的に見れば堂々のランカーだよ」
提督「強者揃いの合宿でこんなに高評価を得るなんて、二人とも本当にすごいや」
提督「出動報酬は勿論として、これは何か特別にご褒美を出さないといけないね」
大淀「……」ピクッ
提督「うーん、何がいいかな、やっぱり間宮券かな?」
提督「それとも纏まった休暇の方が喜ぶかなー」
大淀「……ディナー」ボソッ
提督「え」
大淀「一緒にディナー。提督と二人っきりで」ユラリ
提督「え、俺と?いや、それはどうかな……」
大淀「ディナー」ドギャアアアアンッッ!!
提督「ひいいっ!?」(つ、机が真っ二つに……!)
提督「あ、うん、そうだね、美味しいもの食べたいよね」ダラダラ
提督「えっと、じゃあ、鳳翔にごちそう作ってもらって………」
大淀「夜景の見えるレストラン」ドガアッッ!!
提督「ふわあっ!」(机!机蹴ったよ!この娘!)
大淀「上品なバーでお酒」ドゴオッ!
提督(椅子もっ!椅子もなのっ?)
大淀「星の降る並木道をお散歩」ガスッ!ゴスッ!ドガッ!
提督(連打!連打は止めて!)
大淀「ずっと、手を、繋いで」バギャアアンッッ!!
提督(止めてっ!机もう粉々だから!もう止めてあげて!)
大淀「……」
提督「ぜ、善処、します……」
◇◇◇
後日。
甘味処 間宮
秋雲「それじゃあ、乾杯ー!」
浜風「磯風お疲れ様ー!」
浦風「おつかれー!よう頑張ったのー!」
ワイワイ ガヤガヤ カンパーイ カンパーイ
磯風「ありがとう。みんな遠慮なく食べてくれ」
舞風「わーい、やったー!こんなにたくさーん!」
谷風「こいつは景気いいな!盆暮れ正月いっぺんに来たよ!」
野分「でもこれ全部奢りだなんて、本当にいいんですか?」
磯風「構わんさ、どうせこんなに食べきれないしな」
磯風「それに本当に欲しいものは、もう手に入った」
谷風「ふーん」
雪風「磯風、磯風!あんみつおかわりしていいですか」タタターッ
時津風「ずるいよ、ずるいよ!雪風ばっかり!」キャンキャン
磯風「ふふ、たくさん食べてくれ。時津風もな」ニッコリ
浜風「そういえば、不知火は?」
浦風「不知火は提督さんと二人でお食事する権やって」
磯風「私はそんなものいらんから間宮券20枚にした」
陽炎「あー、それでか」
黒潮「道理であの二人が落ち着かん訳や」
初風「」ソワソワ
天津風「」ソワソワ
黒潮「ま、今回はしゃーないな」
陽炎「そんなに焦んなくても、すぐに決着なんてつかないわよ」
黒潮「せやなー、大分 先の話や」
陽炎「みんな まだまだ子供なんだから」
谷風「なになに?初風って喧嘩してんの?」
黒潮「んー、勝負は勝負やけど、喧嘩とはまた違うかなー」
陽炎「勝っても負けても、恨みっこなしよ」
雪風「雪風も勝負するー!」
時津風「わたしも、わたしもー」
陽炎「二人にはまだちょっと早いかなー」
黒潮「もうちょっと大人になってからな」
時津風「大人っていつ?あした?あさって?」
陽炎「そうねぇ……黒のパンツはくようになったらかなー」
天津風「何で知ってんのよっ! ///」バンッ!
黒潮「透けててな、レースの奴やで、エロかわやでー」
天津風「だから!何で知ってんのよっ! ///」バンバン!
雪風「エロかわー」
時津風「エロかわー」
初風「黒かー……」
【 浜風 】
冬コミ冬イベ目白押し。連日追い込み締切間近。秋雲明らか赤疲労。
浦風「秋雲はまた徹夜なんか」
浜風「寝不足で死にそうな顔をしています」
浦風「そんなに辛いんなら、辞めりゃーええのに……」
浜風「そういう訳にはいかないのでしょう」
浦風「まあ、こんなに打ち込めるモンがあるのは幸せな事じゃがのぉ」
浜風「何か手伝えればいいんですけど」
浦風「ウチら絵心ないしのぉ」
雪風「雪風が手伝ってあげるよ!絵を描いてあげるよ!」ヒョコッ
時津風「長門さんにも褒められたんだよ!時津風は絵が上手いなって!」キャンキャン
雪風「雪風はお姉ちゃんだからね!」フンス!
時津風「画用紙とクレヨン持ってくるね!」タタターッ
浦風「ははは……参ったのぉ」
浜風「本当に何か描ければいいんですけど」
浦風「ウチらじゃ何もしてやれんよのー…」
磯風「ふむ」
浦風「ちょっと待て磯風。何やそれ」
磯風「何とは?見ての通りうどんだが。秋雲に夜食の差し入れだ」
浦風「」
浜風「」
磯風「私には何もしてやれないが、せめてこれくらいはな」
浦風(ヤバいヤバいヤバい。何やこの色と匂いは、殺しに来とるんか)ガクガク
浜風(弱っている秋雲にこんな劇薬与えたら、本当に死んでしまいます)ブルブル
磯風「さっき急いで作ってきた。愛情たっぷりだぞー」ハハハ
浦風(何でこんな時に限って、妹想いのいい奴なんじゃ)
浜風(爽やかな笑顔が憎いです)
磯風「夜中だし消化のいいものをな。手作りだから添加物とかもないぞ」
浦風(何でそんな間違った方向にばかり気が利くんじゃ)
浜風(味です!味に気を配るんです!他の事はどうでもいいんです!)
浦風(どうする、叩き落とすか?このままじゃマジで秋雲の命がヤバい)ヒソヒソ
浜風(ですが、そんな事をしたら磯風が…!)ボソボソ
浦風(いや、しかし秋雲が…!)
浜風(でも、だって磯風が…!)
磯風「さあ、どいてくれ。冷める前に早く秋雲に……」
雪風「うどんなの?雪風も食べる!」ヒョコ
時津風「時津風も食べるー!」ヒョコッ
磯風「む?いや、これは秋雲にだな…」
雪風「雪風が食べる食べるー!すぐ食べるー!今食べるー!」ジタバタ
時津風「うどん食べないと死んじゃうー!食べる食べるー!」キャンキャン
浦風「い、磯風、どうじゃろうか、雪風達に食べさせてやっては」
磯風「む、いやしかし」
浦風「秋雲の分は浜風がすぐ作るから。のう、浜風?」
浜風「は、はい!浜風にお任せ下さい!すぐ作ってきますね」ダッシュ!
浦風「すまんが頼むわ」
磯風「う、うむ、そこまで言うなら仕方ないか……」
雪風「やったー!磯風大好きー!」ピョンピョン
時津風「うどんだ!うどんだ!」ワーイワーイ
磯風「よし、それじゃあテーブルに行くか。温かいうちに食べてくれ」
雪風「はい!いっぱい食べます!」
時津風「それじゃね!浦風!」
最期の言葉は“ いってきます ”ではなく、“ いきます ”
妹を想うのは、磯風だけではなく。
想われる妹は、秋雲だけではなく。
きっと。
そうして磯風はテーブルへと、うどんを運び。
隣にはサムズアップの雪風と時津風。
その薄れゆく後姿を浦風は、最敬礼で見送った。
◇
浜風「はい、どうぞ。おうどんです」
秋雲「あー、生き返るわ~」
浜風「ふふ、たくさんありますからね」
秋雲「いつも賑やかなのに、今日は雪風達 静かだね」
浜風「え、ええ……そうですね」
秋雲「気を遣ってくれたのかな。悪い事しちゃったな」
浜風「ああ見えて姉ですから。ちゃんとみんなの事を考えてくれてます」
秋雲「うん。今度お礼しとくよ」
浜風「ええ、きっと喜びます」ニコ
秋雲「おかげで、何とか締切に間に合いそうだよ」
浜風「無理はしない事。約束ですよ」
秋雲「あいあいさー」
【 谷風 】
深々と降る白が、やがて世界を銀に変える頃。
空の中にひとり、黒の中にそろり、月が静やかに顔を出す。
小さめの猪口に酒を注ぎ、干し、空を仰ぐ。
早くもなく、遅くもなく。同じ所作を繰り返す。
向かい合い座る二人に、然したる会話はない。
淡々と、手酌で酒を飲む。
炙った海苔。擦った山葵。焼いた味噌。
合間に肴を挿みつつ、馴れた手つきで酒器を繰る。
小さく可愛らしいその猪口は、二人の体躯にそぐわない。
けれども今日はそれでいい。
飲めと言われれば、それこそ底なしに飲めはする。
けれども今日はそうではない。そういった時と場ではない。
酒ではなく、雰囲気に酔いに来たのだ。
那智と武蔵。
二人は沈黙を恐れない。
那智は語らず酒を飲む。武蔵は黙って酒を飲む。
余計な事は喋らない。無駄な事は口にしない。
泰然とした佇まい。そこに不自由さは何もない。
那智は雪を見た。冬を眺め、また酒を飲む。
武蔵は月を見た。夜を望み、また酒を飲む。
那智「いい夜だな」
武蔵「ああ、いい夜だ」
静けさが、心地よかった。
◇◇◇
出掛ける支度をしていると、めざとく谷風がやって来た。
清霜から話を聞き付けて、慌ててここに来たようだ。
谷風「蕎麦屋に行くんだって?谷風も連れてっておくれよぅ」
生粋の江戸っ子である谷風にとって、蕎麦は欠かせぬソウルフードなのだと言う。
那智(お前のソウルフードは、蕎麦ではなくてお菓子だろう)
那智は心の中でそう思ったが、口に出すのは止めておいた。
那智「別に構わんが、退屈だぞ」
谷風「がってんだー!」パアアァ!
”生粋の江戸っ子”という言葉の意味を、那智は百回くらい教えたが。
大阪生まれ広島育ちの谷風は、大きく「うん!」と答えるだけで、最後まで理解を示さなかった。
武蔵「フッ、随分待たせたようだな」
果たして約束の時間になると、のそり、と武蔵がやって来た。
足元にはいつものように、清霜が纏わりついて離れない。
那智「いや、時間通りだ」
清霜「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
大きいのと小さいの。賑やかなのと静かなの。
凸凹とした四人は連れ立って、行きつけの蕎麦屋へと歩みゆく。
夜の帳はとうに下り、雪が静かに舞っていた。
◇
那智「燗酒を二合と、蕎麦前にいつものを」
武蔵「あと、こいつらに板わさと出汁巻きを頼む。甘めでな」
清霜「あたし玉子そばー」
谷風「ばっか、おめえそういう時は、月見そばって言うんだよ」
清霜「何だよー、玉子じゃんかー」
谷風「かあーっ!清霜は物を知らねぇな。谷風さんはうず巻 一つな!海苔入ってるやつ!」
那智「花巻だな」
武蔵「うむ、花巻だ」
店主「あいよ、花巻一丁!」
谷風「お、おぅ… ///」
清霜「花巻じゃんかよー!」
谷風「ば、ばっか、おめえ!江戸じゃあ、うず巻って言うんだよ!」
清霜「うず巻きなんて、江戸じゃなくて鳴門だよー!」
谷風「う、うっせーやい ///」
◇
谷風「かまぼこ、うめー!」
清霜「玉子焼き、美味しい!」
谷風「なあなあ那智、かまぼこもう一個頼んでいいか?」
那智「何でもいいから好きなだけ頼め。あと、少し静かにしろ」
谷風「よっしゃー!こいつは景気いいな!」
那智(聞いちゃいない)
清霜「武蔵さん、玉子焼きもうひとつ食べていい?」
武蔵「好きにしろ。あと、少し黙れ」
清霜「やったー!じゃあ、月見焼き追加してくださーい」
谷風「ばっか清霜、それは玉子でいいんだよ」
清霜「えー、何でだよー」
武蔵(全く聞いてないな)
◇
那智「寝たか」
武蔵「ああ」
那智「腹が膨れて暖かくなれば、すぐに寝る。犬や猫と同じだな」
武蔵「いや、犬猫でも もう少し大人しいぞ」
那智「違いない」クス
武蔵「雪が止んだようだ」
那智「ああ、見ろ、月が出ているぞ」
武蔵「これは……困ったな。酒が進んでしまう」ニッ
那智「一大事だな」クス
武蔵「困った困った」グビグビ
那智「あー、困った困った」グイグイ
◇
那智「さて、そろそろ蕎麦を頂こうか」
武蔵「うむ、頃合いだな」
那智「私は今日は南蛮にしよう」
武蔵「ほう、珍しいな。私はやはり せいろにするか」
那智「ふむ、それでは鴨南蛮とせいろを一枚。あと酒をもう二合、冷やで頼む」
店主「あいよ」
那智は雪を見た。冬を眺め、また酒を飲む。
武蔵は月を見た。夜を望み、また酒を飲む。
武蔵「雪月花か、いいものだな」
那智「ん?花はどこにあるんだ」
武蔵「目の前にさ」ニヤッ
那智「はっはっは。なるほどな」ケラケラ
今日という日が心地よかった。
【 野分 】
学園祭、文化祭、秋祭り。年末年始の催し物に、開店セール。
各種イベントで大好評。那珂ちゃん人気は急上昇。
バックダンサーも可愛いと、最近巷で噂になってます。
那珂「グラビアに、載りましたー!」イエーイ!
舞風「舞風と野分も一緒だよー!」
暁「え、本当に?すごいじゃない」
雷「すごーい!見せて、見せて」
野分「地方のタウン誌ですけどね」
響「それでもすごいよ」
雷「カラーなんだね。わー可愛い」
電「綺麗なのです」
響「素敵な衣装だね。素晴らしいよ」
暁「う、羨ましくなんて、ないんだからねっ」
那珂「実は貸し衣装なんだけどねー」タハハ
響「ふむ、みんな少しずつ違うんだね」
舞風「イメージに合わせてね、一番いいのを選んだんだよ!」
響「うん、みんなとても似合ってるよ」
雷「個性が出てていいわよね」
舞風「スタジオの衣装って、すごいんだよ」
舞風「百着以上あるの!種類もたくさん!」
那珂「何回も試着してね、もう大変だったんだからー」
電「どれも素敵なのです」
暁「本物のアイドルみたいね……」
那珂「もーっ、那珂ちゃん本物のアイドルだよー!」
野分「でも、決まるまでが大変でした」
舞風「野分が嫌がるからだよー」
野分「フリフリの衣装ばかり持ってくるからです」
那珂「だって可愛いもんねー」ニシシ
野分「とっかえひっかえ、何十回着替えた事か。まるで着せ替え人形です」
野分「なすがまま、されるがままで、最後の方は何を着たかさえ覚えてません」フウ
雷「どんなの着たの?」
那珂「んー、こんなのとか?」
つ [ はしたない野分 ]スッ
野分「ふおっ?」
電「こ、これは…… ///」
雷「す、すごいね ///」
響「覚えてないのかい?」
野分「こ、こんなの全然」
那珂「まだまだあるよー」
つ [ みだらな野分 ]サッ
つ [ しどけない野分 ]サッ
つ [ あられもない野分 ]サッ
野分「ふおおおおーーッ!? ///」
那珂「のわっち冒険してみましたー」
舞風「野分大胆ー」
暁「あ、アンタ、何て格好してんのよ…! ///」
電「は、はわ、はわわ、はわわ ///」
雷「こ、こんなの、まるで島風じゃない ///」
響「さすがにこれは……恥ずかしいな… ///」
野分「なっ、な、何なんですか、これはっ!? ///」プルプル
那珂「あ、カメラマンさんは女性だったから大丈夫だよ?」キャピーン!
野分「そういう問題ではありませんっ!」
那珂「ちゃんと高画質だし」
舞風「ラミ加工もバッチリだよっ!」
野分「ああああーっ、そうじゃなくて、そういう事じゃなくって!」
那珂「こんなのもあるよ」
つ [ ふしだらな野分 ]サッ
野分「ふああああーーッ!? ///」
暁響雷電「キャーーッ!? ///」
つ [ いやらしい野分 ]シャッ
つ [ ハレンチな野分 ]シャッ
つ [ いかがわしい野分 ]シャッ
野分「~~~ッ!! ///」バンバンバン!
野分「だからっ!何なんですか、これはっ! ///」バンバンッ!
電「ふ、ふわああぁぁ…… ///」
暁「だ、駄目よこんなのっ、レディーじゃないわっ ///」
雷「野分って意外と…… ///」
野分「何でもありませんっ!何でもないです! ///」
陽炎「なに大騒ぎしてるのよ」
野分「陽炎!どこから来たんですかっ!?」
陽炎「えーっと、なになに?何の写真?」
野分「駄目です!これは駄目ですっ!」
陽炎「……野分、アンタとうとう大人の階段を……」シミジミ
野分「違います!これは違うんです!これは野分ではありません!」
黒潮「これなんか紐やで、布なんかないで」
電「セクシーなのです ///」
野分「黒潮までーー!?」
黒潮「子供は見ちゃアカンで、目の毒や」
雷「えー」
黒潮「アカンアカン。芸能界っちゅーのはな、怖い所なんや」
黒潮「見てみ、これなんかホラ、このポーズや」ピラッ
暁響雷電「キャーーッ!キャーーッ! ///」
野分「ほわああああーーっ!! ///」ガンガンガン!
舞風「野分ノリノリだったから」
野分「違います!こんなの知りません! ///」
那珂「あとこれ、大きく引き伸ばしたやつ」バサアッ!
野分「うあらあああーーっ! ///」ゴンゴンゴン!
那珂「出来が良かったから、ポスターにしてみたの」キャピッ!
舞風「舞風もお気に入りだよ!」
響「大迫力だね」
暁「こんなのが部屋にあったら卒倒するわよ」
野分「駄目です!みんな、見ては駄目ですっ!駄目ーっ! ///」
司令「賑やかだね。何の騒ぎかな?」ヒョイ
野分「とおおぉぉ↑おう↓!!!」トビヒザッ!
司令「ぐはあーっ!?」ズサーッ
司令「」チーン
野分「これは違います!違うんです!違うのですー! ///」荒ぶる鷹のポーズ
【 嵐 】
陽炎「さあ、大掃除するわよ。断捨離(だんしゃり)よ!」
雪風「だんしゃりって何ですか?」
時津風「鉄棒?」
陽炎「それは大車輪」
時津風「大車輪かー」テヘペロ
雪風「金剛さん?」
陽炎「それはダージリン」
雪風「ダージリンかー」テヘペロ
陽炎「いらないものを捨てるの」
時津風「いらないもの?」
陽炎「そう、いらないもの。早く捨てないとね」チラ
黒潮「何や」
陽炎「余分なお肉とか脂肪とか」
黒潮「」ピキ
黒潮「陽炎、ウチの事 ブーちゃんやと思ってない?」
陽炎「思ってないブヒ」
黒潮「」ピキ
ドカーン! ガシャーン! バリーン!
磯風「黒潮がキレたぞー」
浜風「陽炎が鷹のポーズを!」
浦風「こらまた派手にやりよるねぇ」
初風「うっさいわね!二人とも外でやんなさいよ!」
嵐「ったく、あいかわらず騒々しいな」
不知火「え?あ、嵐!」
萩風「まあ、いつも通りね」
秋雲「わあ、萩風も!おかえり!」
嵐「ただいま、みんな」ニッ
萩風「また一緒だね」ニコッ
黒潮「ええかげんウチも虎出すで!虎!」ガオーッ!
陽炎「お姉ちゃんパワー!」
谷風「火事と喧嘩は江戸の華さぁ!」
初風「アンタ達、妙高姉さんに言いつけるわよ!」
嵐「全然聞いてねぇな」
萩風「通常営業だね」
舞風「わあーっ!嵐ー!おかえりーっ!」ダキッ!
野分「萩風もおかえりなさい。二人一緒だったんですね」
天津風「それじゃあ今夜はお祝いね。みんな、派手にやるわよー!」
【 萩風 】
『 今年の冬は、厳しい寒さになりそうです 』
天気予報に教えられ、萩風せっせと冬支度。
寒さ冷たさは苦手だけれど、冬が嫌いな訳じゃない。
リベッチオ「それ、何?」
萩風「おコタよ」
リベッチオ「オコタ?」
萩風「人を駄目にする機械。雷ちゃんよ」
リベッチオ「雷なの?」
萩風「駄目人間製造機なのです」
リベッチオ「すごーい」
萩風「部屋に置いとくとね、怠け者が寄ってくるの」
リベッチオ「へー」
萩風「みかんとお煎餅置いてね、ポットにはお茶よ」
萩風「それから隣には雑誌と漫画本」
萩風「はい完成!見ててね」
~10分後~
多摩「猫じゃないにゃ」ニャー
球磨「ゆとりの行動をするクマ」クマー
大井「北上さん、みかん剥きました!どうぞ召し上がれ」デレデレ
北上「うん、ありがとね大井っち」ダルーン
萩風「ほら、大漁よ」
リベッチオ「すごい、すごーい!」
木曾「こら、みんな!弛み過ぎだぞ!」
リベッチオ「木曾さんは元気ですね?」
萩風「子供には効かないの」
リベッチオ「ふーん」
木曾「おい!聞いているのか!」ウガーッ!
萩風「じゃあ、お姉ちゃん呼んでみる?」
リベッチオ「うん、楽しみ!」
◇
リットリオ「何かしら、オコタ?」
リットリオ「うーん、床に座るのはあんまり好きじゃないのよね……」
萩風「まあまあ、いいからいいから」
リベッチオ「いいから、いいからー」
リットリオ「はいはい、分かったわよ」ゴソゴソ
リットリオ「……あら?案外いいわね、コレ」モゾモゾ
萩風「美味しいお茶もありますよ」
リベッチオ「アイスもあるよ」
リットリオ「冬にアイス?」
リベッチオ「いいから、いいからー」
リットリオ「…………」
リットリオ「…………」
リットリオ「あー……」ウトウト
リットリオ「ちょっとだけ、横になろうかしら?」
リットリオ「あー……」ウツラ ウツラ
リットリオ「五分だけ仮眠しようかしら?」
リットリオ「………ぐぅ」スヤア
萩風「ほら!」
リベッチオ「すごーい!秒殺だよ!秒殺!」ピョンピョン
萩風「ヒットマン雷よ!稲妻の左ストレートなんだから!」
リベッチオ「世界を狙える逸材だよっ!」
◇◇◇
リベッチオ「これは?」
萩風「着る毛布よ。人を駄目にする兵器なの。夕雲ちゃんよ」
リベッチオ「こっちは?」
萩風「ビーズクッション(大)ね。大鯨さんだよ」
リベッチオ「どうやって使うの?」
萩風「試してみる?」
リベッチオ「うん」ゴソゴソ モゾモゾ
萩風「どお?」
リベッチオ「うーん……この服 動きにくいし、こっちは身体が沈んじゃって、何かヤダ」
萩風「でしょ?子供には効かないのよ」
リベッチオ「ふーん」ヌギヌギ ポイッ
萩風「それじゃ、お姉ちゃん呼んでみて」
リベッチオ「うん!」
◇
ローマ「何これ?こんなダサいのなんて着ないわよ」
萩風「まあまあ、いいからいいから」
リベッチオ「いいから、いいからー」
ローマ「もう、仕方ないわね……」モフッ
ローマ「……うん?なんだか落ち着くわね」モフモフ
萩風「美味しいお茶もありますよ」
リベッチオ「アイスもあるよ」
ローマ「冬にアイス?」
リベッチオ「いいから、いいからー」
ローマ「…………」
ローマ「…………」
ローマ「あー……」ポーッ
ローマ「ちょっとだけ、横になろうかしら?」
ローマ「あー……」コックリ コックリ
ローマ「ちょっとだけ、眼鏡外そうかしら?」
ローマ「………すぅ」スピー
萩風「ほらほらぁ!」
リベッチオ「すごい、すごーい!」ピョンピョン
萩風「ウチの二枚看板なんだから!雷ちゃんとローテで優勝も狙えるよ!」
リベッチオ「いけるよ!ペナント独走の予感だよっ!」
【 舞風 】
甘味処 間宮。
確かな品質と豊富な品揃えで皆を癒す甘味処ではあるが、持ち帰りもまた充実している。
一番人気は屋号を冠する間宮羊羹。長きに渡り老若男女に愛される、文字通りの看板メニュー。
長門「邪魔をする」
間宮「あら、いらっしゃいませ」
長門「うむ、芋羊羹と栗羊羹を五棹ずつ頼む」
間宮「はい。ありがとうございます」
長門「少し冷えてきたな」
間宮「ええ、また雪になりそうです」
長門「そうか、道理で」
間宮「包みますから、それまでお茶をどうぞ」
長門「おお、これはありがたい。頂こう」
間宮「はい。ちょっとお待ち下さいね」
長門「……」ズズー
間宮「今日も清霜ちゃん達ですか」
長門「ああ、いつものメンバーに朝潮達もいるな」
間宮「あら、最近多いですね」
長門「うむ、やっと呼び付けなくても遊びに来てくれるようになった」
間宮「朝潮型の子は真面目ですからね」
長門「荒潮みたいなのもいるがな」ニッ
間宮「まあ、長門さんったら」クスッ
間宮「黒文字はどうしましょう?」
長門「いや、いい。恐らく無駄だろう」
間宮「それじゃ、一応楊枝を入れときますね」
長門「ああ、ありがとう。でもまあ、どうせ手掴みだろうがな……」ヤレヤレ
間宮「あらあら」
長門「逆に暁は、ナイフとフォークで食べるとか言い出すしな」
間宮「うふふ、そりゃレディーですもんね」クスクス
長門「誰が間違えて教えてるんだろうな。その度に雷と喧嘩になる」タメイキ
間宮「賑やかですこと」クス
長門「笑い事じゃないぞ。そんなのが毎日だからな」
間宮「あらあら」フフ
間宮「……長門さん」
長門「ん?」
間宮「いつもありがとうございます。みんな喜んでくれています」
長門「……幼子には厳しい時代だ。せめてこれくらいはな」
間宮「でも結局、長門さんにばかり負担を強いる形になってしまって……」
長門「菓子を食べ、一緒に遊んでいるだけだ。私など何もしてないさ」
間宮「長門さん……」
長門「……お茶が美味いな」ズズ
間宮「……」
長門「……」ズズー
間宮「……お待たせしました。あと、これはおまけです。良かったらどうぞ」
長門「む、すまんな気を遣わせて」
間宮「いえいえ、そんな事は全然。お気になさらず」
長門「ありがとう。また寄らせてもらう」
間宮「ありがとうございます。お気を付けて」
◇
長門「そういえばおまけと言ってたな……ふむ、豆大福か」テクテク
長門「ひとつだけ持ち帰っても喧嘩になりそうだな」
長門「それなら食べてしまうか」
長門「うーむ……甘いなこれは」モキュモキュ
舞風「長門さん、また甘いもの食べてる」
野分「本当に好きなんですね」
舞風「買い食いなんてだらしないなー」
野分「そうですね」クス
舞風「こないだも、また大和さんに怒られてたんだよ」
野分「それは困りましたね」
舞風「あーあ、もっとちゃんとしてくれないかなー」
野分「でも好きなんですよね、長門さん」
舞風「えへへー、そりゃーねー」
野分「うふふ」
舞風「野分はー?長門さんの事、好きー?」
野分「ふふ、内緒です」
舞風「内緒かー、あはは」
野分「さ、行きましょう。みんな待っています」
舞風「うん、行こー!手つないで行こー!」
野分「はいはい」ニッコリ
【 秋雲 】
金儲けの為に原稿を描いている訳ではない。
けれども、本が売れれば幾許かのお金が入るのも、また事実。
必要経費を差し引いて、お世話になった人達にお礼をしても、手元にはまだ少し残った。
秋雲「ケーキ買ってきたよー」
お土産を持って部屋に戻ると、姉達が疲労困憊で死んでいた。
陽炎型を全員集めて急遽行われた特別演習が、前代未聞の厳しさだったらしい。
お土産の袋をガサガサ鳴らし、有名店のスイーツをチラ見せしたら動き出した。
エサを持ったまま池に落ち、怒涛の勢いで鯉の群れに襲われた時津風の気持ちを、少しだけ理解する。
オイテケー オイテケー ティラミスオイテケー
オイテケー ワタシオペラー ズルイワタシモー
こんな状況でも、あずきムースは人気がない。
◇◇◇
陽炎「しかし今日の神通さんは、本気で鬼神だったわね」 苺のショートケーキ
不知火「元々厳しい方ですが、さすがにちょっと異常でした」 レアチーズケーキ
黒潮「あれは久々に殺す気で来とったなー」 バームクーヘン
初風「誰よ、あんなに神通を怒らせたのは?」 ティラミス
雪風「雪風は知らないよ、いい子にしてたよ」 パンナコッタ
天津風「時津風じゃないの?ほら、こないだの雪だるまの件とか」 ザッハトルテ
時津風「時津風ちゃんとごめんなさいしたよ、お詫びにお菓子もあげたよ」 カラメルプリン
浦風「何じゃ、お菓子って」 紅茶のシフォンケーキ
磯風「ああ、私が持たせた。手作りのスイーツだ。愛情たっぷりだぞー」 オペラ
浜風「……いきなり犯人が判明しましたね」 シュークリーム
谷風「コナンくんいらないね」 はちみつホットケーキ
野分「道理で那珂ちゃんや川内さんが居ない訳です」 モンブラン
嵐「というか、何で神通さん普通に動けるんだよ」 ミルフィーユ
萩風「えっと……それでは裁判長、罰則をお願いします」 マカロン
舞風「舞風もう一個ケーキ食べたーい」 オレンジタルト
秋雲「はい!判決出ましたー!」 あずきムース
全員「ゴチになりまーす♪」
磯風「いや、ちょっと待て。みんな何を言っている?」(困惑)
以上です。
読んでくれた人ありがとう。
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