双葉杏「街の中で」 (19)

短編です。あんきらです。

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朝が寒くなる今日この頃、私は羽毛布団の中でゆったりとした時間を過ごしていた。

気高きニートの心得その……えーっとなんだっけ。

まあいいや。決めたのは双葉杏って人だ。私のことだけど

誰かの声がする。どうやら杏を呼んでいるみたいだ。多分……きらりだ……

「杏ちゃん!起きてー!きらりんダッシュ☆」

ドドドドという音と共にきらりが部屋に入ってくる。なんていうことだ。杏の安眠が妨げられてしまう。

その日、私は思い出した。杏の家の家事はきらりがやっていたことに。

せっかくだし、きらりに朝食を作ってもらおう。

「きらり、私お腹すいたよ」

「じゃあ、杏ちゃんがハピハピになれる朝ごはん作っちゃうにぃ☆」

「ははは、ハピ粉は入れるなよ。こんなご時世なんだしさ」

うぇへへと肯定も否定もしないできらりは台所に行った。

あれ、確か今日ってオフだっけ?

休日だ!杏の勝利の日だ!栄光の日だ!記念すべき日だ!

台所をちらりと見る。今日はコーンスープとトーストらしい。

うん、いい一日が迎えられそうな気がする。きらり、ありがとう。愛してる。

暇なんだしなにかやろうかな。家でダラダラするのはもううんざりしてきた頃だし。たまにはきらりとお出かけするか。

まあニートは引き込もってなきゃいけないっていう決まりはないんだしさ。

うん、そうだ。たまには私だってお洒落したいし、洋服をきらりに選んでもらうっていうのもいいと思うんだ。

そんなことを考えているときらりが朝ごはんをテーブルに並べていた。

「ねえ、きらり」

「どうしたの?」

「今日お出かけしない?」

きらりは一瞬キョトンとして杏の顔をじっと見つめてからにょわっとした。

「今日は晴れのち槍かにぃ?」

「珍しくて悪かったな!」

「うぇへへ。杏ちゃんとお出かけうれすぃー☆」

「きらりの行きたい所はどこ?」

「杏ちゃん、そろそろ新しいお洋服欲しくなったにぃ?」

流石きらりよく分かっているじゃないか。

「そうそう」

「だからね、杏ちゃんと一緒に原宿に行こうと思います!パチパチパチ」

「成る程。原宿か……」

お昼はクレープかな。きらりは知っての通り甘いものが好きなんだ。私も甘いの結構好きだけど、飴じゃないと口が疲れるからさ。

まあとりあえず今は朝ごはん。トーストぐらい自分で食べれるのにきらりは一口サイズに千切ってくれる。

全く、杏は介護老人じゃないんだからね。食べるのすごく楽だけどさ。

「という訳で原宿に出発であります!びしっ☆」

「敬礼やめ!きらり、変装は完璧だね」

「うぇへへ、そうだね!誰が見てもあんきらだって分からないにぃ」

背の高さまでは流石に隠せないけどさ。杏は底上げのブーツを履いているから少しはましになった。ちょっとだけきらりの視線に近づいた気がする。

駅で人がそこそこ降りる。どっと降りるのは次の駅だしね。

色んな人が降りるから自分達がアイドルだってこともなんだか特別なことじゃない気がした。まあ気のせいだね。

「杏ちゃん、きらりがはぐれないように手を繋いでくれゆ?」

全くきらりは……

「杏も迷子になりそうだしね」

きらりの手を握る。どう考えてもきらりは迷子にならないだろうね。原宿できらりは目立つし地理にも詳しい。

杏はそこらへんの中学生と同じぐらいの身長だし分からないだろうね。

きらりの手は大きくて可愛いものを沢山掴めるんだろうな。杏の小さい手が優しく包まれる。

「うぇへへ、姉妹みたいだにぃ」

「杏がお姉さんかな?」

「誕生日だってきらりが早いゆ」

他愛のない会話をしながら街を歩いていく。

春はもう始まったのに今日はすごく寒い。暑いのか寒いのかはっきり決めて欲しい。

「ねえ、杏ちゃんそろそろつくよ!」

きらりが指差す方を見たそこはなんというかきらりっていうか。きらりそのものみたいな……

ファンシーな洋服屋だった。きらりが服に付けているような小物が沢山ある。

きらりの部屋とか愛梨の部屋とかにあった馬のぬいぐるみが目立つ所に置いてあった。
このお店の売りなのかな。まあたまにはこんな風な服を着るもの悪くないかもね。双葉杏だって可愛いものが好きなのである。

きらりにされるがまま、私は着せ替え人形になっていた。こういうのも嫌いじゃない。
でも放っておくときらりは私の髪まで弄りだすし、気が付くとファンシーな服にぴったりな三つ編みにされている危険だってある。

どこかで見たことのある顔を見つけた。話掛けるの面倒だからなーと杏が思うと愛梨ちゃんは友達と一緒に来ていたみたいで少し大人びた女性と話していることに気が付いた。

そういえば愛梨ちゃんって大学だといつも女友達と一緒なんだっけ。そういう子に守られているなら少し安心する。

きらりは杏に夢中で気が付いてないみたいだった。

結局私はきらりに勧められたピンクのTシャツと黒いチェックのスカートを買うことにした。ピンクと黒はよく似合うときらりが言っていたしさ。

さて、いい時間になったけどちょっとお昼には早いかもね。アイドルショップが立ち並んでいる商店街を見る。

早いけどグレープを食べようかな。ここは石を投げればグレープ屋に当たるぐらいある原宿。味もそんなに変わらないし、どこでもいいか。

きらりと一番近いグレープ屋の前に行く。

「きらりはね、いちごカスタードホイップにするにぃ☆杏ちゃんは?」

「きらりと同じので」

「にょわ!」

きらりが大声を出すから少しびっくりした。

「どうしたのさ」

なんだかすごくハピハピしてまわりにハピ粉を振り撒いているみたいだった。

「杏ちゃん!覚えてるにぃ?」

なんかあったっけ?

そういえば…

なんだっけ?喉元から出かかっているんだけど…もう少しヒントがあれば思い出すと思うんだけど。

「杏ちゃん、覚えてないにぃ?」

きらり、そんな悲しそうな顔をするなよ。杏の脳の容量はそんなに大きくないんだからさ。

ん、もしかして一年前のことを言っているのかな?

あれはな。少し恥ずかしい。

………
……

「ようこそ、ここがきらりの庭だにぃ☆」

「原宿って人多いね」

「杏ちゃん!はぐれないように手を繋ご!」

「やだよ。なんでそんなことしなきゃいないの?」

「杏ちゃんが迷子になっちゃうでしょ?」

少しむっとした。

「きらりの庭なら杏のことすぐに見つけられるんじゃないの?」

「むえー」

まあ、確かにこんな人混みの中に入ったら少し小さい杏は一瞬で飲まれてしまう。

「人混みに飲まれよ!」って言葉が浮かんだような気がするけど多分気のせい。

なんでニートから一番遠い街に来ているかというと、これもプロデューサーのせいなんだ。

きらりと杏のユニットを組ませた。なんてやつだ。

ユニットの仲を深めるためにオフに遊んでこいってさ。杏の貴重なオフをこんな風に使わせるなんて。これ普通に休日出勤じゃないか。後で手当てが貰えるかどうか聞いてみよう。

大体諸星きらりってなんだよ。でかいしうるさいしこれで杏と同じ年とか思えない。アイドルよりバレーとかバスケが向いてるよ


「でもでもきらりは杏ちゃんと一緒に手を繋いでいる方がハピハピするにぃ…」

しょぼーんという効果音が似合うような感じがする。大きな体が小さく見えた。

「まあ、そこまで言うなら手を繋いであげなくもないけどさ」

「うぇへへ、本当?いいの杏ちゃん!」

表情までコロコロしてうるさいやつだな

まあ、こんなうるさいやつも一人ぐらいいてもいいか。きらりが伸ばした手を私は握る。大きくて冷たかった。

「杏ちゃんのおててって暖かいにぃ☆」

「きらりが冷たいんだよ」

ぎゅっと握る。お母さんの手みたいだ。

「原宿きらりんツアーしゅっぱーつ!」

繋いだ手を上げる。私に痛くないように。

結局私はきらりに振り回されて一日が終わった。なんかすごく疲れたけど、これもまあ仕事の内だしね。これからこんなのに振り回されてアイドルするなんて少
しだけ辟易する。……楽しくない訳ではなかったけどさ。

「杏ちゃん!グレープ食べゆ?」

「あー。食べる食べる」

適当に近いグレープ屋に行く。

「杏ちゃん、なにがいい?どれも美味しいにぃ☆」

「どれでも一緒でしょ。きらりと同じので」

「じゃあ、きらりはイチゴカスタードホイップにするゆ☆」

クレープなんてすぐ焼き上がる。

二人で立ったまま一口かじった。まあ、普通かな

「うぇへへ、美味しいね。杏ちゃん!」

きらりの笑顔を見て

「そんなに美味しい?」

私はなんだか不思議な気持ちになった。

「うん!杏ちゃんと一緒だもん」

にょわっとした笑顔。それを見てるとなんだか。きらりと、きらりとなら、アイドルもちょっと楽しく出来る気がした。

なんてことはない。私の食べているクレープも美味しい気がした。気のせいだけどさ

「ねえ、杏ちゃん。今日は楽しかったにぃ?」

そう聞くきらりが小さくて私と同じぐらいの大きさに見えた。

「まあまあかな。一ヶ月は来なくていいや」

「うぇへへ、じゃあまた一ヶ月後に来ようにぃ☆」

そういう意味じゃないんだけどな。まあいいや。こんな風に一緒にクレープ食べるのもたまにはね

そうそう、本当に一ヶ月後に来たんだよね。まあ、その時もきらりに振り回されて、その次の時もそのまた次もね。

……
………

そういえば初めて原宿に来たの丁度去年の今頃で確か日付も…

「思い出したかにぃ?」

きらりは不安そうに聞いてくる。なんか楽しい。

「忘れちゃったよ」

「むー。そうだ!クレープ一口かじれば思い出すかも!」

出来立てのクレープを杏に押し付ける。

「そんな昔のこと覚えている訳ないじゃん」

するときらりはまたにょわっと言う。

「なーんだ。杏ちゃん覚えてたんだ」

うぇへへ、ときらりは小さく笑った。

「なんなのそれ?」

「なんだろーねー」

きらりは杏に差し出したクレープを戻そうとしたので一口かじった。

「これ、杏ちゃんと間接ちゅー?」

「女の子同士はセーフだろ?」

「そーだね!いただきます!」

まだお昼。まあこれから街を回るんだしのんびりしようかな。

街の中はそんなに変わってないと思うんだけど、まあ些細な変化だろう。

短いですが終わりです。
色々至らないところがあったかもしれませんけど、ついさっききらりの子宮から出てきたばかりなので許してください。

良い内容からの最後の気持ち悪い一文

最後のそれやばくない?

つまり>>1は俺ときらりの間に出来た子供……?

衝撃の告白に戦慄が走る読者。
あ、内容はとってもハピハピでした

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