【艦これ】 艦娘小話集  (253)

もう一つのスレを真面目にやりすぎてるのでダラダラ自由にやります。
こっちは毎日ではなくネタを思いついたら投下、なくなったら落とします。


↓もうひとつの方 嫁艦で静かな萌えをやりたくて。地の文。

【艦これ】叢雲「狼の慢心」【ラノベSS】
【艦これ】叢雲「狼の慢心」【ラノベSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459689516/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459947573

【熊野】


執務室で仕事中の俺に、今日の秘書艦の熊野がそういえばと語りかけてきた。


提督「ファミレス?」

熊野「ええ、最近、近くに出来たそうですわね」


少し前まで田舎町でしかなかった鎮守府のまわりも、ようやく発展してきた。

これも俺たちが日々、海の安全を守っているからだと思うと少し誇らしい。


熊野「いったいどういったお店なのでしょう」




お嬢様の両目は、まだ見ぬ未知の存在に爛々と輝いていらっしゃる。


提督「そんなに特別なモンでもないぞ?」


お嬢様気取りの熊野のことだ。
ファミレスを高級レストランかなにかを勘違いしているのかもしれない。

俺は一通りファミレス、というのがどんなものなのか熊野に語ってやった。



提督「別になんてことない、フツーの食べ物屋さんだぞ? 値段もリーズナブルだしな」

熊野「そういえば貴方は昨日のお昼、鈴谷と二人で行ってきたそうですわね」

提督「……あんまりアイツが連れてけってうるさいからだ」



鈴谷め、喋ったな。世情に疎いはずの熊野がどうして知っている、とは思ったんだ。

……提督である俺が勤務中、鎮守府の外をぶらついていると思われるのは好ましくない。

提督「昨日の秘書艦の時に無理やりな……鈴谷はハンバーグセット頼んでた」


こう言ってやれば多分熊野は なあんだ、そういうのでしたらいいですわとか言って、


熊野「ハ、ハンバーグセット!?」

提督「は?」



いまコイツ、妙に反応が良くなかったか?



熊野「いいい、いえ、なんでもありませんわ。げふんげふん」



あれ、コイツもしかして……?

提督「あー、あと食後にパフェ頼んでたかな。あやうく奢らされるところだった」

熊野「パフェもあるんですの!?」


提督「ん?」

熊野「ん、ん、んん! の、のどの調子がおかしいですわね」



いやこれどう考えてもファミレスに興味深々だろ。

お嬢様のハードル低すぎてハーブ不可避ですわコレ。

うーん、どうするかな。これはどう考えても連れてけってアピールされてるわけだが。

……熊野をおちゃくるのが面白そうだから、もうちょっとだけ遊ぶとしようか。



提督「そういうわけで、高級志向のお前には意味のないお店だな」

提督「庶民派の鈴谷はともかく、お嬢様の熊野の舌では満足せんだろう」


熊野「……っ!」

熊野「ま、まあそうですわねっ わたくしの舌を満足させられるお店が、そうそうあるとは思えませんもの!」


乗っけられると自分からは降りられないくまのん()

熊野「ま、まあ、でも……」


お、まだ頑張るか?


熊野「たまには庶民の食べ物をというのもいいかもしれませ 提督「ないわあ」 」

熊野「な、なんですの、その残念な人を見る目は!?」


ふだん演習のあとのご飯は美味しいですわとか言って、みんなと食堂で飯かっ喰らってる女が何言ってんだ?

なんて微塵も思っちゃいませんけれど、何か。


熊野「もう、なんですの、なんですの~!?」

熊野「もしかして貴方、さっきからわたくしをばかにしてますの!?」

提督「なんだ、今頃気づいたのか」

熊野「~~~~~~っ!!」


こいつの胸中は手に取るように分かる。チョロいもんだ。


提督「人にお願いがあるときは、もっと素直にしたらどうだ?」

熊野「さ、最初から分かっていましたのね。わたくしがしたがっていること」


提督「当然」

提督「ささ、言いたいことがあるのならどーぞどーぞ」

熊野「うぅ……」

熊野は少し頬を赤くして、蚊の鳴くような声で、


熊野「その、ファミレス……一緒に行ってみたいですわ」

提督「え、何だって?」


熊野「こ、このっ、れ、レディにここまで言わせておいて、その態度はなんですの!?」

提督「はは、悪かったよ。ちょっとおちょくりすぎた」


熊野「もう!あんまり調子に乗ってると高くつきますわよ!」

提督「奢らないけどな」


そこまで必死になってでもファミレスに行ってみたいかと、俺は苦笑した。

仕事も区切りがついたし、連れて行ってやると言って、二人して執務室を出る。

二日連続になるけれど、ここまできたら仕方ないか。

調度お昼時にこんな話題が出てしまったし……熊野が行くと分かれば、アイツも誘わなくちゃ後で駄々をこねるだろう。


提督「しょうがない、ちょっと鈴谷も呼んできてくれ」

熊野「? 鈴谷は昨日行ったでしょう」

提督「アイツは二日連続だろうが行きたがる。そういうやつだ」


それに熊野としても仲のいい鈴谷がいた方が嬉しいのではないか?

俺がそういうと、熊野は何故か少しだけ頬を膨らませて、


熊野「鈴谷は昨日、貴方と二人で行ったのでしょう!」


そう言うと、ファミレスがどこにあるかもしらないくせに、どんどん廊下の先へ行ってしまった。


提督「おい熊野待てって、そっち逆!逆だから!」



この後……鈴谷のおねだりすらガードした俺の財布がどうしたことか。

今日はというと、二人分の昼食代を吐き出すはめになったのである。


熊野「鈴谷ばっかり、ずるいですもの!」

提督「鈴谷は俺に奢らせなかったぞ……」


そうため息をつくと分かっていませんわね、と熊野に呆れられた。

今日はこんなもんです、暁や夕張やりたいと思っていますが形になり次第投下です
熊野は我が鎮守府に来て以来ずっと好き。鈴谷より身体が貧相でも好き。

おちゃくるってなんだよ…
おりょくるだろ

>>14
ち、力を抜いてやってるから仕方ないから(震え声)
次、夕張。我が鎮守府の軽巡ではレベル的に見れば第四位。

【夕張】





『あの映画の中には、ザイルが出てこなかったわよ』



少女の問いかけに少年ははっと息をのみ、世界は光を失っていく。

画面は教室の隅に立つ二人を遠巻きにして、そして――

提督「うおおおお、すげえ、面白くなってきたなこれ!」

夕張「でしょでしょでしょう? 夕張さんのオススメに外れはないのです!」



深夜にぶっとおしのアニメ鑑賞をしませんか。

そう言われて工房に招かれた俺は、夕張と二人してテンションをアゲにアゲアゲにしていた。


夕張のオススメという触れ込みで観始めた当初こそ半疑半疑だった俺だが、いまやどっぷりとこのアニメにハマっていた。

そうなると会話も弾み、深夜とは思えないほどの大声が出ている。


提督「お前が以前、この工房を完全防音にしましょうとか提案した理由が分かったわ」

夕張「あはは、バレましたか」



提督「このやろー」

夕張「えへへ」



そして、誘われるがままについてきた俺もこうして見事に共犯にされてしまったという訳だ。

まことにずる賢い奴である。

提督「おい次、次の話は? どうせ録画してあるんだろ!?」

夕張「ふふ~ん、気になりますか?気になりますよねえ?」

提督「気になります!」



あの謎がどう解決されるか見届けなくては、気になって眠れないだろう。

すでに時計の針はふだん寝る時間を余裕で過ぎているが、そんなこと言ってられないのだ。


隣で腰までソファに浸かっていた夕張は、俺の食いつき具合に嬉しそうにして立ち上がりかけ、そこでなぜか動きを止めた。

そして、何を思ったのか……座り直して言った。

夕張「う~ん、どうしよっかなあ? 私、他のアニメも見たいですし~」

夕張「提督、次は何のアニメ見ます~?」


提督「いや、出来れば今のアニメの続きを――」

夕張「あれれ~、続きを録画したディスク、どこへやったかなあ? えへへ、ちらちら。」



こ、こいつ……。

どう考えてもこれは続きを観たがる俺をじらして遊んでいやがる。


夕張「誰かさんが諦めて帰ったころには見つかるかもしれませんね~、これは」

提督「それじゃ生殺しじゃねーか……というかお前、ぜったいワザとやってるよな?」

夕張「さあどうでしょう? うふふっ」



この女……。

提督をおちょくった際にはどのようなセクハラをされても文句は言えないという鎮守府鉄の掟を知らないのだろうか。

そっちがその気なら、俺にも考えがあるぜ!

たったいま思いついたそれを夕張に語り、俺は出来るだけいやらしそうな顔を作って夕張に迫るふりをした。

むろん、本当に何かする気も、その勇気も無い。




夕張「ちょっ……セクハラ、セクハラですよ提督っ、というか、目が本気っ、目がヤバイです提督っ」

提督「艤装のメンテは合法、艤装のメンテは合法っ」



そう言って手をワキワキさせてみると、夕張はいっそう慌てだした。

我ながらどうかしているが深夜なら仕方ないっ。

夕張「わわわ、私いま寝間着で、それに艤装なんてしてないんですけどー!?」

提督「……う」




そう言われると、寝間着のうえにパーカーを羽織っているだけの夕張のいまの姿が、途端にものすごく無防備なものに見えてきた。

そう、目の前の夕張は湯上りのせいか肌がうっすらと上気しているし、いつも一つに束ねている髪も下ろしたままにしている。

同じソファに腰かけているせいで元々の距離も近い。アニメを観ている最中も時折肩と肩がぶつかって、かなり意識させられたりもした。

夕張「……」
提督「……」


妙なところで俺が黙ってしまったせいか、お互いに何を言ったらいいか分からなくなる。

波の音、鳥の鳴き声すら聞こえないほどに工房は静まり返っており、

この沈黙を助けれれるのは自分たちだけであると知った。





提督「なあ、」
夕張「ね、ねえ」


気まずい。こうなるともう、嫌でも意識せざるを得ない。

深夜の、誰も来ない、この工房に呼ばれた意味――?

それは本当に、そういう意味なのか?

単に夕張は、同じ趣味を持つ者同士で話し込みたかっただけではないのか。

俺は彼女の上官だ。だからいっそう勘違いは許されない。




夕張「わわわ、私、次のディスク入れてきますねっ」



沈黙に耐えかねたのか、夕張が慌てて立ち上がろうとする。

その立ち上がり方は傍目にも分かるほどバランスの悪いもので……

夕張「きゃっ」

提督「危ないっ!」




長く座っていて足でも痺れたのだろうか。

パジャマの裾を踏んづけた夕張は、頭から前のめりに倒れ込もうとする。

俺も慌てて身を乗り出し、なんとか夕張の身を守ろうと――




抱きしめる勇気は沸かなかった。

だから代わりに夕張の身体がソファに落下するように誘導して、自分は彼女を覆うように両手をつく。

提督「そ、その、すまない」

夕張「い、いえ……転んだのは私の不注意ですし……」




謝りながらも俺は眼下の夕張から目を放すことが出来ないでいた。

不安げな表情の夕張に自分の顔を押し付け、うずもれたい。その欲求をとどめるだけで精一杯だ。

パーカーの襟元からのぞく夕張の白い鎖骨が、俺に生唾を飲み込まさせた。




まずい。はやく何とかしないと、我慢の限界が近い。

なにかそう、いつも通りの気安い会話をするようなとっかかりを掴まなければ……。

夕張「あ、あのう、提督?」


困ったような、でもどこかはにかんだような夕張の笑顔。

この状況をどう思っているか判断するには微妙な表情だ。




夕張「つ、次はなんのアニメ見ましょうかね~、あはは」

提督「あ、ああ。そうだな……」


いいぞ、夕張。その調子でどんどん続けてくれ!

心の中ではそう応援しているのに、夕張はというとそれきり黙ってしまって。

夕張「あ、アニメは駄目ですか~、あはは。困ったなあ……じゃ、じゃあ」


夕張の手がおそるおそる伸びてきて、下から力なく俺の肩を掴む。

そうして再び口を開いたかというと、今までに見たことのない熱っぽい笑みを浮かべて、




夕張「ねえ、提督……つ、次は、なに、します?」


懇願するように様に囁かれた俺はもう、限界などとうに迎えていることを悟った。

こっちの本日分は終了です。
夕張とイチャイチャして周囲を苛つかせたいだけの人生だった・・・。

いいぞもっとやれ

パンツ爆散したはよ

叢雲地の文の方が終わりまして、お付き合いいただいた方はありがとうございます
こちらはガチガチに考えてやったあっちに対しては気楽にというか、思いついたままテキトーに書いていきたいと思います

【グラーフ・ツェッペリン】


瑞鶴「あれ、グラフさん、なんかいいことあった?」


出撃から帰投して鎮守府本棟を一人で歩いていると、廊下で会った少女から声をかけられた。

道着を着ているところから見ると、瑞鶴はこれから演習か何かだろう。






グラフ「ズィ……んん、ズイカク。鋭いなあ、分かるのか」


ドイツ艦娘の気性かはたまた個人的な性質か、私は少々感情表現が苦手なのを自覚している。

それどころかもともとの感情の起伏もあまり激しくないので、いっそう無表情に見えると思う。


だがしかし、今日は珍しくその私が少々上機嫌ではあるのだが……

まさかそれを見抜ける人物がいるとは思ってもいなかった。

瑞鶴「分かるよ。口の端がさ、ほら、こーんなになってるんだもん」



両手で自分の頬をつまんでみせる瑞鶴を見ると、自然と笑みがこぼれる。

まだ着任して間もない私が大和空母勢の中に上手く馴染めたのは、

この気さくな少女の笑顔が多分に役立っていると思う。



グラフ「ほう、そうか。自分では気づかないものだな」

瑞鶴「へへん、この鎮守府で私ほど先輩艦娘のご機嫌に敏感なひとはいないからね!!」

ともすれば生意気ともとれるこんな発言も、瑞鶴がすると不思議と愛嬌がある。

この減らず口を聞いて愛着こそ沸くものの、不快に感じる者はいないだろう。



瑞鶴「うん、で、なにがあったの?」

グラフ「ええと、それはだな、なに、大したことではないんだ」

日本に着任して来て初めてMVPをとったという、ただそれだけのこと。

それだけのことだが、やはり最初にそれを告げる相手は決まっている。

だから私は話をはぐらかすことにした。




グラフ「ところで、なぜズイカクは私が喜んでいると分かったんだ?」

グラフ「本国で付き合いの長いビスマルクやオイゲンでもない限り、私の機嫌を察するのは難しいと思うのだが……」



私の疑問に対して瑞鶴は、ああそんなこと、とこともなげに呟いた。

えへんと胸を張りながら得意げな顔で、

瑞鶴「私がどれだけ長い間、年中仏頂面の先輩空母の相手してると思ってるの?」

グラフ「あ」



瑞鶴「あの人に比べればグラフさんなんてまだまだよ」

グラフ「いや、あの……そうなのか?」



瑞鶴「うんうん、話しかけちゃヤバいなーって時は大抵、提督さんと大喧嘩した後だし」

瑞鶴「逆に赤城さんといるときはチャンスね。なんか失敗した時とか、サボりたい時とかは――」



さてさてこれはどうしたものか。お調子者の瑞鶴の自業自得な面もあるのだが……

この国でいうブシノナサケというやつで、すぐにでも口を閉じろと教えてやるべきか。

……瑞鶴の後ろに立つ彼女からの目線には、私こそが黙っておけという含みが読み取れる。

グラフ「そ、その、ズイカク? そろそろやめておいた方が……」


しばらく迷ったあげく、私はしびれを切らした。

この後訪れるだろう惨状を頭の中に思い描きながら。




瑞鶴「ん? なんでよ。グラフさんも覚えておくといいよ?」

瑞鶴「この鎮守府にいる以上、手の抜きどころってのを何個か知っておかないと―」

加賀「……知っておかないと、どうなるのかしら」


はるか北方の極寒海域任務ですら感じたことのない絶対零度が、瑞鶴の背中に襲い掛かる。

加賀「是非私にもご教授願いたいものね……ねえ、瑞鶴?」

瑞鶴「ひっ!?」

加賀「まったく、そろそろ演習の時間だと呼びに来てあげたら……」



太陽のような笑みを浮かべていた少女の顔はさっと青くなり、

この世の終わりかと思うほど絶望しきった表情でこちらを見た。

もはや泣きそうである。

そんな彼女の横顔をジロリと睨んで加賀は、



加賀「……仏頂面で悪かったわね」

瑞鶴「べ、別に加賀さんのことを言ってた訳じゃ」

加賀「あら、そう。なら……誰の事を言っていたのかしら?」

瑞鶴「いい!?」



瑞鶴が救いを求めてこちらを見て来るけれど、私は力なく首を振った。

まだまだ新参の私が二人の仲を取り持てるとは思えないし、

こんな関係が瑞鶴と加賀にはしっくりくるような、何故だかそんな気がしたからだ。

グラフ「では、カガ。私はこれで失礼するとしよう」

加賀「ええ、後の始末は任せて頂戴」

瑞鶴「始末ってそんな物騒な……ははは」



瑞鶴の道着の後襟を掴んだ加賀に別れを告げて、私は執務室へ続く廊下の先を見やる。



瑞鶴「え、ちょ、グラフさん嘘でしょ!? た、たーすーけーてーーーーー!!」

流石に瑞鶴が可哀想かと思って、一言言っておこうかとも思ったが。

すれ違う時の加賀の表情を見た私は、結局、何も言わずにおくことにした。



加賀「ちょうど、最近の貴女に対しての指導が甘すぎたのでは、と反省していたところなの」

加賀「いい機会です。今日の演習で無表情になるのはどちらか……試してみましょうか」

瑞鶴「ちょ、うそ、嘘でしょ加賀さん!?」


加賀「全力で来なさいな。でないと、今夜のご飯は喉も通らないわよ?」

瑞鶴「ごごご、ごめんなさーーいっ」


加賀「……まったく、しょうがない娘なんだから。ほら、グズグズしないで行くわよ」

瑞鶴「えへへ。はーい」



言葉こそ厳しいものの、そんなことを言う加賀の表情は。

先ほどの私のようにどこかほころんでいるような……そんな気がしたのだ。

グラーフ・ツェッペリンの愛称はどうなんでしょうね、僕は自分のなかで『グラフ』です。
『グラーフ』はいいかもしれませんが『グラ子』はちょっとなあという感じ。ビス子()じゃあるまいし。

次も上手くいけばグラフ②です、ではまた。


自分の中ではグラタンで確定してたわ

乙です
自分もどっかで見かけてから愛称はグラたん(″たん″はひらがな派)だな

俺はツェペ子とかいう少数派だぞ

おれはグラさん

ツェペリのおっさん

グーちゃん派です

グーちゃんかわいいな
今度から俺も使おう

我が鎮守府はE1突破、E2E3メンバー考え中です。
今回は焦らずやったほうが良さそうですがみなさまはどうでしょう。
では引き続きグラーフ・ツェッペリンで投下します。

【グラーフ・ツェッペリン②】



川内「ええ、いーじゃん、なんで神通が良くて私は駄目なのよ!?」


分厚い執務室の扉を開くと、聞こえてきたのはこの部屋の主に詰め寄る軽巡洋艦の甲高い声だった。


この鎮守府独特のやりとり。


最初のうちはここの艦娘たちが自分たちの指揮官に対して通常抱くであろう恐れ、

そして人間と艦娘にあるマリアナ海溝よりも深い隔たりが全く感じられないのに驚いたものだ。





グラフ「なんだ、今日は一段と騒がしいな」



だがしかし、慣れというのはあるもので、日本語の習熟とともに私もこの程度のことでは動じなくなっていた。

その証拠に、そんなことよりもこの騒ぎの原因を知ろうと視線は自ずとこの部屋の奥へと招かれる。

この部屋の主は荘厳な執務机に両肘を突いて座っていたが、私と目が合うやこれ幸いと招き入れた。

センダイの追及から逃れようという魂胆が見え見えだ。




提督「おお、グラフ。出撃帰りだな?」

グラフ「その通りだがアトミラール、この騒ぎは一体?」

川内「あ、ちょっと、話しをそらさないでよ。あとドイツの空母さんおかえり」




じっとアトミラールを見据えたままの発言だが、センダイの後半の発言はひょっとして私へのものだろうか。

こちらへひらひらと手を振ってくるあたり、どうもそのつもりらしい。

神通「ね、姉さん、そんな呼び方は失礼……うう、グラフさん、おかえりなさい」


一方、先ほどから姉艦の凶行を止めようと必死に行動し、

そのことごとくを失敗させたと思われる妹艦のジンツウは気の毒になるくらいオドオドとした態度で私と挨拶を交わした。


センダイはともかく、ジンツウの弱気さは見ていて不安になる。

まだ一度も戦場を共にはしていないが、しのぎを削る場に立つ者として致命的な傷にならないだろうか。






提督「とにかく、駄目といったら駄目だからな」


さて話の本筋はというと、何かセンダイの求めに対して、アトミラールががんとして首を縦に振らないことが原因らしかった。

彼の答えの変わらないことにセンダイは業を煮やして、

川内「もう、提督の分からずや。ちょっとぐらいいーじゃん。ねえ、空母の人もそう思うでしょ?」


グラフ「く、空母の人!?」


神通「もう、姉さんったら!」



日本には様々な言葉遣いがある。

親しくなった艦娘からこの国のことばを教わり、ようやく日常会話には支障を来たさないレベルに達してきた私だが……

そんな呼ばれ方は始めてだ。

ヤマトナデシコというのはこうも型破りなものなのだろうか……。

グラフ「夜戦の許可、だと?」

川内「そう!」



この黒髪の少女の不満はその一言で表された。

アトミラールはここラバウル鎮守府と、東隣のショートランド泊地の提督を兼任している。

当然それは深海棲艦の強襲で壊滅したトラック環礁復興のための責務を負うということだ。



ラバウル・ショートランドからトラック環礁へ北上する海路の確保、周辺の深海棲艦への警戒とその撃滅。

そしてその間をぬって行われる最も地味かつ重要な任務が……

提督「トラック環礁復興のための、かの地への物資輸送という訳だな」

グラフ「ああ、それでか。合点がいった」



提督「合点て、お前難しい言葉知ってるなあ。いったい誰に日本語教わってるんだ?」

グラフ「私を冷やかす時のアトミラールを除くと、あと数人はいるな」



提督「お前と特に仲の良い奴というと……うん、まあいいや」





生真面目な私と気の合う、終始しかめつらの重巡洋艦仕込みの皮肉を見舞うと、アトミラールは肩を開けて追及を打ち切った。

彼女に怒られているときの自分の姿が脳裏に浮かんだのだろうか。

酔っている時を除いて、ナチは敬愛すべき私の友であり師匠なのだ。

さて、私にもそろそろこの騒動がどんなものか見えてきた。

アトミラールが、センダイの注文に許可を出さないのも当然と分かる。




提督「ドラム缶抱えてわざわざ敵に向っていく理由をお聞かせ願いたいもんだな?」

川内「えっと……夜戦をすると、うれしい?」


提督「誰がお前の感想を喋れと言った! アホか、アホなのかお前は!?」

川内「アホじゃなくて夜戦馬鹿ですぅ」

提督「黙らっしゃい」

呆れたアトミラールが制帽を片手にセンダイの頭をパシリと叩く。

そこに彼と気ごころの知れた艦娘との間にある絆のようなものを感じられて、

私はなるほど、ああいう風にやればああなるのかとひとしきり頷いた。




川内「ちょっとぉ、痛いじゃない。艦娘虐待だぞ、このDV男―っ」

提督「ええいうるさい、このじゃじゃ馬め」

神通「ね、姉さんったら……」




…………き、絆のようなものを感じられた。

川内「だいたいこの前神通が旗艦の時には、思いきり夜戦をやらせたじゃないの」

提督「ほう、そうだったかな、神通?」


神通「ええと、はい。姉さんの言う通りです。夜の航行中に一個艦隊と遭遇してしまって」

グラフ「それは大変だったな」




やる気にあふれているセンダイならともかく、同じ水雷戦隊の旗艦をジンツウにも任せていて大丈夫なものだろうか。

鎮守府にいるときの様子から人柄面は問題なさそうだが……。


アトミラールの指揮を疑う訳ではないし、ことさらジンツウを馬鹿にしたい訳でもない。

しかしそれでも彼女が適性に合わない役回りを任されているのではないかと不安に思ったため、私は質問を続けた。

グラフ「それで、戦隊の戦果は?」

神通「その時ですか? ええと、敵軽巡2隻、駆逐4隻を撃破しましたっけ」




敵艦隊を全滅させた勘定になる。

視界の限られた夜、それも不慮の遭遇にしては驚くべき戦果と言えるだろう。



……ジンツウはともかく、僚艦のサポートが余程優秀だったのだろうか?

しかしそれではあまりにも、旗艦としてまわりに不甲斐なくは映らないだろうか。

グラフ「ジンツウはその内いくつを撃破したんだ?」


神通「軽巡2隻、駆逐4隻です」


そうか、それならばまあ旗艦としての面目も……




……。


…………。


………………ん?

グラフ「え?」

神通「え?」



この時初めて、私はとんでもない勘違いをしているのではないかとぞっとした。


神通「ああ、僚艦の子たちはまだ経験の浅い子ばかりでしたから、私が下がらせたんです」


私の驚いた反応が、僚艦は何をやっていたのかと訝しんでいるように見えたのだろう。



ジンツウはその時の戦闘が自分ひとりで如何に何でもなかったかとか、

6対1ならまだマシな方だとかそう言ったことを慌てて語ったが、語れば語るほど私は唖然とするばかりだった。

神通「それに、いまはあの子たちも同じことが出来る様にと、しっかり鍛えていますから」

グラフ「……そ、そうか。そうなのだな」



この華奢な身体つきと淑やかな態度の底に眠っている激しさに、一体誰が気づけるというのだろう?

後々知ったが、彼女こそがこの鎮守府の水雷戦隊のエースだったのだ。





提督「鎮守府の人事についてお気づきのことがありましたら、ぜひこの提督めにご一報を」

グラフ「……覚えておこう」



可笑しさを隠し切れずに笑うアトミラールの憎たらしさといったらない。

知っていて口を挟まなかったのだから肘くらい突いてやれば良かった。

そのくらいの親しさは、私ももう表してもいいはずなのだ。

川内「ね、ね、神通が1回したんだし、私にも1回させて?」

提督「何の根拠にもなってない上に、言い方が紛らわしいわ!」


日本語の微妙なニュアンス、言い回しまではまだ完全に会得出来てはいない。

私は首を傾げて隣に立つ常識的で非常識な軽巡洋艦に尋ねることにした。





グラフ「紛らわしい、とはどういう意味で言ったんだ?」


今のセンダイの発言は、私には夜戦をさせて欲しい、という意味にしか聞こえなかったが。


神通「さあ、私も今のは良く……?」

提督「んんん、ゴホン! 何でもない、今のは忘れてくれ」


私たちの反応を見てか、アトミラールが妙な咳払いをした。

提督「神通が夜戦をしたから、自分にも夜戦をさせて欲しいと言ったな?」

川内「うん」


提督「その時の神通が出撃した海域は?」

川内「鎮守府北。今回と同じトラックへ向いた海域ね」


提督「率いた艦隊は?」

川内「おお、なんとこれも同じ、軽巡旗艦の水雷戦隊っ! こりゃ夜戦するしかないわ!」





提督「ほほう? では神通のこなした任務と、今回のお前の任務は?」

川内「……哨戒任務」


提督「今回の任務は?」

川内「……輸送作戦」

提督「以上だ」

川内「こらーっ、待てひきょうものー! 夜戦させろー!」

神通「姉さん、もう出発の時間ですから……はやく……」



まだ納得しないセンダイをジンツウに任せて執務室から追い払うと、

アトミラールはため息をついて腰を下ろした。カタルニオチルとはこのことだろうか。

提督「まったく、ひそみに倣うとはまさにこのことだな」

グラフ「ひ、ひそ……?」



ナチの教えてくれた中にそんな例えは無かった。

那智もアトミラールも勤勉な性格のせいか引用が好きで、時々私を困らせるのだ。




提督「意味を理解せずに上っ面しか見ていない者を戒めることばさ」


なるほど、先ほどジンツウの底を見抜けなかった身には耳が痛いことばだ。

提督「そういえばさっき誰かさんも神通のことを」



旗色が悪くなったのを感じて、私は部屋の隅のキチネットを目指して踵を返した。



グラフ「アトミラール、私はコーヒーを淹れて来よう。本格ドイツコーヒーだぞ」

提督「……お前も中々、俺に似てきたね」




背後から寄せられたそれももちろん、聞こえないフリをした。

だからアトミラールの呟きに私がどんなにか気をよくしたか、悟られることは無かった。

グラフ「ふふ、瑞鶴。今ならお前じゃなくても私の機嫌を見抜けるぞ」

提督「なんか言ったか?」

グラフ「なんでもないさ」



備え付けのコンロをカチリとまわして、私は二人ぶんのお湯が沸くのを待つ。

カタカタと震え始めた薬缶の銅色では、私の表情を映すことは出来なかった。

目指していたオチへの布石置いただけなのに長くなってしまいました、③でグラーフの話は終わりです。
丁度読んでいた小説の影響か①と比べ地の文が増え文体が固くなってしまいました。

川内は一見ガサツっぽいのに一人称が「あたし」でなく「私」なところが萌えポイントだと思います。

それではまた。


改二ならだいぶ変わってるぞグラよ

グラたんかわいい

基地航空隊が使いこなせない俺提督を加賀さんがすごい表情で睨んでくる・・・
こっそりと更新していきます

【グラーフ・ツェッペリン③】




グラフ「さあ、出来たぞアトミラール。本格ドイツコーヒーだ」


提督「ほう、これは不思議だなあ。俺にはその辺のインスタントにしか見えないのだが?」




せっかく私がコーヒーを淹れてやっているのに、アトミラールときたらいったい何が不満だというのだろう。

じっとっとした目でこちらと、湯気を立ち昇らせる漆黒の液体を見比べていた。

はてさて、お湯を注ぐのはもう少し蒸らしてからの方がお好みだったのだろうか。

グラフ「ようく見ろ、アトミラール」

アトミラールに知らしめるため、私は先ほど淹れたコーヒーの包装を目の前にかざした。

聞き分けの悪い子供を諭すようにやさしく、ビニル製の小袋に印字された文字を読み上げる。




グラフ「ここに会社名……○CC、とあるだろう。いいか、アルファベットだぞ」

提督「お前は俺を馬鹿にしてんの?」


グラフ「だからこれはドイツから来た、れっきとしたドイツコーヒーなんだ。まさか読めなかったのか?」

提督「読めるわ!そして○CCは立派な日本の企業だよっ!」



残念、知っていたか。

アカギがアトミラールは意外と純粋で騙されやすく、そしてそんな抜けたところが可愛らしいのだと言っていたので試してみたのだが……。

それを確かめるのは次の機会にするとしよう。

アトミラールは嘆息しながら肘掛椅子に腰を預け直して、



提督「まったく……真面目なくせしてどこか適当になってきたんだよな、お前」

グラフ「私もまさか自分が冗談を言うようになるとは思いもしなかったが……」


グラフ「それをアトミラール……貴方に言われるのはシンガイ、というやつだな」

提督「犬は飼い主に似る、かあ。やれやれ」

グラフ「ちょっと待て。 誰が飼い主で、誰が犬だと?」



得意げな顔で鼻を鳴らして見せるのが憎らしかったので、私はささやかな復讐を敢行した。

シュガー・ポットから塊を何個か摘み、それをそのままアトミラールのカップへと投入する。

提督「ああ! お前、俺がブラックで飲むことを」


勿論知っている。執務で疲れた時はなおさら苦めの味を好むことも、だ。


グラフ「失礼した。手が滑ってしまってな……手袋はしているのだが」

提督「こんにゃろう」

砂糖入りのコーヒーを一息で飲み干すと、息まいたアトミラールはまさかの行動に出た。






グラフ「おい待て、それは私の……っ!」



ふんぞり返った上官に一泡吹かせたことに満足して、完全に油断していた。


電光石火。


自分のカップをソーサーに置くや否や、アトミラールの右手は滑る様にして執務机に置かれたもう一つのカップ……

――すなわち私のもの――に伸びていた。

まだ手を付けていない私のカップをひょいと取り上げて、ひと口口をつけて見せる。



提督「おー、こりゃ苦い。黙って出されたらドリップだって気づかないかもな」

グラフ「あ、う……」




そうして勝ち誇った顔で私を見て、執務机を挟んで対峙する自分と私の真ん中あたりにカップを置いた。

飲めるものなら飲んでみろ、ということらしい。

アトミラールが口を付けたカップに唇を寄せる自分の姿を想像してしまって、胸が高鳴った。



いかに艦娘といえど、軍人といえど、これと決めた相手以外にそういうことをするのはどうなのだろうか。

いや、それでは私がアトミラールを然るべき相手と見なしていないということになってしまうではないか。

いやいや、問題はそこではないだろう、私。だが、しかし……。

逡巡する私の態度を何と見たのか。

アトミラールはもともと自分が口を付けたカップを私に渡す気などなかったのだろう。

困っている私の顔も見たことだしと、残りを片付けるために執務机へと右手を伸ばした。ええい、ままよ。




提督「お、おいっ!?」

グラフ「ふん、こんなもの」




左手で素早く取っ手を掴みアトミラールから顔を背けると、口元に寄せたカップをぐいと傾ける。

灼熱の液体が喉を撫でるが、もうすでに火照った身体は追加の熱さなど微塵も感じなかった。


全てが終わって振り向くと、緊張に震えた指で取り落とさないように空になったカップをそっと元の場所へと戻す。

そして、あっけにとられているアトミラールにこう言ってやった。

グラフ「貴方が口を付けた反対側から飲んでやれば、何も問題ないだろう?」

提督「なんだよ、びっくりしたなあ。あやうく間接キスじゃないか。かくなる上はケッコンでもして責任でも取らなくちゃと思ったよ」



グラフ「ほう? こんなセクハラを仕掛けておいて、意外と誠実な心がけではないか」

提督「冗談だよ、冗談。 なにせほんとにした訳じゃないんだからな。ああびっくりした」



グラフ「その軽口、いつか取り立てられなければいいがな」



どういうことだと首を傾げるアトミラールに、もちろん答えは返してはやらない。

次で今度こそグラフは最後ですほんとです
グラフの次はだれかなんて考えてないですけど・・・


楽しみだ

更新は親潮掘ってから

早く親潮出るといいっすね

ツェッペさん可愛いなぁ

このグラーフ嫁に欲しい

親潮掘れなかったのかな

明日か明後日くらいに更新するんじゃないかなあと思われる

天鏡のアルデラミンアニメ化なんて無茶やろと思う反面信頼と実績のマッドハウスに期待している今日この頃
投下します

空になったカップをキチネットまで下げると、背中からアトミラールの声が聞こえてきた。



提督「へえ、ほお。」



先ほど私が提出した、本日の戦闘データを端末で確認しているのだ。


提督「ふぅむ……」



旗艦から随伴艦の構成、出撃から帰港までの所要時間、消費資材……と記録される情報は様々だ。

自分たちの行動の結果が上官にどう評価されるのか……それを待つ時間というのは何度経験しても慣れることは無い。


まして今日は、私にとって特別な――

【グラーフ・ツェッペリン④】


空になったカップをキチネットまで下げると、背中からアトミラールの声が聞こえてきた。



提督「へえ、ほお。」


先ほど私が提出した、本日の戦闘データを端末で確認しているのだ。


提督「ふぅむ……」



旗艦から随伴艦の構成、出撃から帰港までの所要時間、消費資材……と記録される情報は様々だ。

自分たちの行動の結果が上官にどう評価されるのか……それを待つ時間というのは何度経験しても慣れることは無い。


まして今日は、私にとって特別な――

提督「とうとうお前もMVPを取る様になったか。頑張ったな」

グラフ「なに、たいしたことはしていないさ」


望んでやまなかった結果を、それでも何でもない様に振る舞ってみる。

少しは格好をつけてみせてもバチは当たるまい、というものだ。


提督「たいしたことはしていない、ねえ……」


アトミラールが意味深に呟く。ジロリとした視線が手袋で隠れている私の指先に向いているようで気が気ではない。

カタパルトでは掴めないこの国独特の艦載機の特性に慣れたくて、私が足繁く道場へ通い、

初めて扱う弓で血豆を作ったことなどお見通しなのだろうか。

提督「まあ何にしろ、もっと誇っていいさ。褒美に酒を要求する艦娘だっているんだから」

グラフ「ふむ。いったい誰のことか、見当もつかないな」



提督「お前の語学の師匠だよ」

グラフ「ほう……なら弟子の私も当然、何か期待していいのだろうな?」



迂闊な自分の発言に、アトミラールはぐっと喉を詰まらせた。

日本語の習熟のためこの国の映画に連れて行かせる約束をした私は、

上場の戦果を得てすっかり気分が高揚していた。

それを悟られずに済んだので、この時ばかりは感情表現が乏しいことに感謝だ。


提督「これ以上日本語の練習が必要とは思えませんがね」

奢らされることを根に持ってるのか、アトミラールの口調は恨みがましいことこの上ない。

別に私は奢りであることを喜んでいる訳ではないのだが、おそらく彼は分かっていまい。




グラフ「いいや、私などまだまだだ。それに、丁度見てみたい映画があったのだ」

提督「それ絶対最後の方が本音じゃねーか……」

的外れな指摘にクスリと笑う。本音など、一度も口にしていないというのに。

グラフ「しかし、そうなると心配だな」

提督「何がだ?」

グラフ「この調子では、見たい映画の候補などすぐに無くなってしまう」



そうして胸を反らせる私に対し、どれだけ奢らせる気なんだとアトミラールが呆れる。

こんな風に彼とささやかな冗談を言い合う関係になるなど、着任した時は想像もしていなかった。

提督「そうして喜ぶのも大事なことだがな」

提督「一度成功すると、得てして油断が生まれるものさ。気を付けないとな」


グラフ「分かっているさ。私を誰だと思っている?」

提督「だから、そういうところだっちゅうに」


だってほら、堅物と言われた私が、こんなにも気を許して上官と話している。

提督「お前の師匠も言っているだろう、“勝って兜の――”」



慢心を戒める時のナチのことばを引用するアトミラール。

酒の席で彼女に嫌というほど聞かされたそれは、今さら人から言われるまでもなく私の中に染みついている。

だから、少々得意げに言い放った。



グラフ「知っている。“勝ってカブトのナントヤラー”、だろう?」

提督「……は?」

グラフ「ん?」


そして、時が止まった。

提督「どうやらまだ日本語の練習は必要みたいだな」

グラフ「なっ……? どういうことだ、私は何かおかしなことを言ったのか!?」


提督「さて、どうかねえ」

グラフ「いや、待て。やはり私は間違っていない。ナチが良く言うことばを一つも間違わずに使ったのだから」


提督「ドイツの空母さんがそうおっしゃるのなら、そうなんじゃないですか~?」

グラフ「~~~!?」


なんて嫌らしい男だろうか。意地悪そうに笑うアトミラールの顔が憎らしい。

もう少し親しくなれたら、その憎たらしい顔を思い切り小突いてやろう。

真っ赤になった顔を隠しながら、私はこの鎮守府での次の目標を、そっと心に刻んだ。

那智がはぐらかした言い回しを鵜呑みにして壮大に恥をかく、というのをやりたかっただけ。
最初は浜風でやるまいと思ったもののかたちにならずグラフで長編をやろうとするも出来ず。

結局ヒロインがやらかして顔真っ赤、というところだけ引き継いで叢雲SSを書きました。
今回短編ですがやりたかったネタが出来て良かったです。それではまた。

次は磯風でしょうか。

乙乙


やっぱ安定の可愛さだわ

最近とある漫画家にドハマリしまして(今さらかよと言われるくらい有名だが読んだことなかった)
その中で一番好きな漫画のワンシーンをパク・・・・・・参考に書いてみました。

当てられたらすごいと思います、いやほんと。
分かる人がいれば私が上手くパク・・・・・・本歌取り出来たということでもあるのでピンと来た方は教えて下せえ。

【磯風】


「コーヒー一杯でいつまで粘るつもりだ」




カウンター越しに発せられた磯風のことばは、中途半端な時間に食堂へ訪れた客に向けられたもの。

既に昼時の喧騒は去り、あと一時間もすれば日が傾きかけるかという頃。



食堂にいるのはカウンターに疲れた様子で座る提督と、厨房にいる磯風の二人だけだった。

腰まで届く長い黒髪を一つに括った少女の顔はやや呆れ気味だ。

磯風はこの厨房本来の主ではない。



鳳翔と間宮によって仕切られるこの食堂は、毎日の美味しい食事を艦娘たちに提供している。

もっともそれは開店時間の限られた間だけで、昼と夜の合間はもちろん“準備中”。



その間だけ有志の艦娘たちがせめて片づけくらいは任せてほしい、と持ち回りで詰めているのだ。

よって普段であれば、食器洗いと掃除の当番の艦娘しかいるはずがないのだが……。

「なんだあ、客に対してその言いぐさは」

「世間では上官権限で準備中の店に押し入る人間を客とは言わないようだぞ?」

「上官が食堂に入ってくる世間なんてもんが頻繁にあってたまるか」


気だるげに吐き捨てた提督は、ふう、と一つため息をついて残り少ないカップを持ち上げる。





「それで?」

「ん」

食器を水に浸けながら、磯風が呟いた。

「期待の新人たちは有望か」

「カマかけだとしたら大したものだ」

「まさか。私も通ってきた道だからな」




提督が食事の時間を踏み外す理由なんて知れている。

やがて戦場に出る新人艦娘たちの演習が行われたのが、今日の昼過ぎ。


午前の執務を終えたまま彼女たちの動きを見に行けば、

その結果出来上がるのは指導に熱を入れ過ぎて食いっぱぐれた目の前の青年、という訳だ。

「飯を食う時間くらい確保してから指導したらどうだ」

「部下の成長を見守ることこそが、上官たる俺の務めだからな」





熱くなりすぎて時間を忘れただけのくせに偉そうなことを言う。

“優しくて素敵な司令”の激しい一面を初めて見せられた神風や春風たちの心境を思うと、磯風としては少々複雑な心境となる。



目の前の青年に対する動揺と高揚――妥協を許さない厳しい采配と、艦娘である自分たちに向けられる愛情への――

あの二人の胸にはいま、そのどちらがより強く渦巻いているだろうか?

「そういえば、今日の当番は浦風じゃなかったか?」

「浦風なら今頃工廠だ。浜風に呼ばれていった」

「ああ、それで」




厨房の片づけ当番が誰か、なんてことまで提督が覚えていることを意外に思い、磯風は眉を上げた。

それと同時に『準備中』の札を下げた食堂の扉を開けた青年の、あの驚いた表情にも合点がいく。

提督の言う通り、今日のこの時間の片づけは磯風ではなく浦風の当番だ。

しかし浦風と浜風、二人の艤装に問題があったらしく、先ほど明石の呼び出しがあった。

そんな訳でたまたま時間のあいていた磯風が代役として臨んでいるのだった。




「あの二人は艤装の調子が悪くなることが多くてな。何故だろうか」

「負担がかかってるんじゃないのか」



それは艤装の扱い方が悪いという意味だろうか。

問題点があるならば直さなければならない。次の出撃の際はあの二人の射撃姿勢をよく見ておかねばと、磯風は心の中で誓った。

「それでお客様、なにかご注文は」


食堂へ来たということは、やはり空腹に耐えかねてということだろう。


「なにか残り物でもあるのか」



閉店中といっても場所が場所、食材のストックくらいはあるのが普通。

提督もそれを見込んで来たのだろうし、裏を返せば浦風が当番の時はこっそりと何か振る舞っているということ。



だがあいにくと、今日に限っては食材もほとんど使い果たしているし、厨房の中に料理と言えるものはない。

夕方には外の世界からの搬入があるだろうが、いま残っている素材となると……

麺が一玉ばかりと人参、玉ねぎ。そして冷蔵庫にケッチャップが少々――。


「ナポリタンくらいなら今からでも出せるが」

「うーん、そうかあ」



勇んで腕まくりをする料理人へ、チラリと目をやる提督。



「それじゃ、コーヒーをもう一杯」

「おい」

「部下の成長を見守ることが司令の務めなのでは無かったか?」

「あいにくとここは陸の上でね」



以前に秋刀魚だったものを食わされた身としての防衛策だろうか。

磯風の追及もどこ吹く風、といった様子で、提督はカップを差し出すとカウンターの上に置く。

磯風も渋々といった様子で二杯目の準備をし、伝票にきっちりと代金を上乗せすることを忘れてやらなかった。

「あ、磯風」

「なんだ司令、やはり腹が空い――」


「コーヒー、焦がすなよ」

「む」


妥協を許さない意地の悪い采配と艦娘への深い愛情は、ひいき目に見積もっても半々ではない。

「別に他意は無いぞ。すぐに仕事に戻るし、この時間に食べるのも今さらだしな」


ジト目で睨む磯風をかわす表情さえ憎たらしい。

しかしながら提督の言い分ももっともで、磯風としては片づけに専念するしかなかった。




磯風が提督に背中を向けてスポンジを手に取ったころ、

入り口に付けられたドアーベルが小気味の良い音を立てて来客を告げた。


「すまんね磯風、やっと終わったけえ。ぶち疲れたわぁ、あ、提督も来てるんじゃね」

あとはうちに任しとき。

テンション高く入ってきたのはこの時間本来の当番艦娘、浦風だった。

厨房を出た時のまま、服装は艤装ではなくゆったりとした彼女の私服だ。




「艤装の調子はもういいのか」

「うん、もうばっちり」


そう言いながら壁にかけられた共用のエプロンを手に取る浦風に、提督が声をかける。

「丁度よかった、ナポリタンひとつ」

「む!?」


調子よく言う提督に浦風は苦笑するのみだったが、磯風の口元は引きつく。

コーヒー二杯の粘りはこのためか。




「部下の成長を」

「ここは陸の上だからな」


そんな得意げな青年の顔を曇らせたのは、二度目の鐘だった。

「やはりここにいたのですか、浦風」


カランカランと鳴る鐘の音に被せて現れたのは駆逐艦浜風だ。

こちらは浦風と違いセーラー風の艤装姿で、いささか急いでいる様子だった。


「明石さんからなのですが……先ほど直したはずの私たちの艤装のことで、まだ疑問があるとかで」

「へ?」

浜風のことばに間の抜けた声を上げたのは、当の浦風ではなく提督のほうだ。


「夜の演習を考えると急いで直しておきたいんです。早く行きましょう」

「浜風、そんなに引っ張らんでも……って、焦らんでもいま行くけぇ!」


提督失礼します、提督さんごめんね、と言い残して、二人は足早に食堂を去っていった。

浦風が置いていったエプロンを手に取ると、磯風が不適な笑みを浮かべて振り返る。




「……お客様。ご注文はナポリタンがひとつ、だったな?」

「へ?」


後に残されたのは、代打の料理人と乾いた笑みを浮かべたお客のみ。

【磯風】は終わりです。そして、駆逐艦磯風が一番好きだ。


おつー

おつ

なんかあだち充の作品(タッチだったか?)にこんなんあったの思い出して笑ったわ
次も楽しみにしてます

私も磯風が好きだ

タッチかクロスゲームか…どっちにせよあだち充っぽいフィーリング

椎名優が艦娘描いてくれるなら死んでもいいくらいだ。
さて、【磯風】の後を受けて【浦風】で行きます。

【浦風】



「ではな、浦風。私は先に駆逐艦寮に帰っているぞ」



浦風が今度こそ完璧に用事を済ませて工廠から戻ると、

それを待っていたかのように磯風が入れ違いに食堂を出ていく。


妙に慌ただしく去っていく磯風の背中を目で送りつつ、

彼女から受け取ったエプロンを着て浦風は厨房へ歩を進めた。

「料理を振る舞うなら、食わせた人間の評価くらい聞いてくべきじゃないのか?」



同じく出ていく磯風の後ろ姿を、こちらは腕を組みながら恨みがましく見つめていた。

どうやら浦風が連れていかれたあとひと悶着あったらしい。

出ていった時はなかったはずの品物が提督のもとに置かれているのを見て、

浦風は自分が不在の間に起ったことに見当をつけて苦笑した。



「ははあ、なるほどね」


我が愛しの旗艦さまは提督に、自分が出来る精いっぱいの料理を用意したようだ。

……それを味わった青年がどういう表情を浮かべるかを見る勇気は、まだ無かったらしいが。

磯風もあれで可愛いところがあるけえね。

そう思って視線を提督へ向けると、当の本人はなんとも言えない渋みのある顔をしていた。

磯風がこれを見ずに出て行ったのは、今後の修業へのモチベーションという意味では正解だったかもしれない。




「ええじゃない、提督さんのために一生懸命作ったんじゃから」

「練習台の間違いだろ」

「一生懸命作ったんじゃ、もう!」

聞き分けの悪い子供を諭すようにして怒ってみせると、提督も口をつぐんだ。

後回しにして来た執務があるからか、これ以上浦風相手におしゃべりする気も無さそうだ。

木椅子のきしむ音を響かせ気だるげに伸びをした提督は、置いていた制帽を小脇に立ち上がる。



「感想は」

「ん?」



やれやれ、提督さんは天邪鬼じゃねえ。

問いかけの意味が分かっているくせにわざと聞き返す提督に、浦風は心の中で呟いた。

「磯風が提督さんのために一生懸命料理して、その感想は?」

「ああ」


そして、天邪鬼は天邪鬼だからこそ、こういう時だけは無駄に正直なのだ。


「まずかったよ。もっと修業する様に浦風から言っておけ」

「そこで素直に嬉しいって言えんようじゃ、まだまだじゃね」


本音を言わない正直者はある意味、嘘つきよりもタチが悪いのではないか。

空になった提督の食器を洗い場へ下げながら言ってやると、青年はバツの悪そうに肩をすくめた。

「あ、そうだ」


ドアに手をかける寸前に提督が振り返ったので、浦風と目が合う。


「もともと俺はお前が当番だから来たんだぞ。責任取って今度、なんか作れよ」

「……ウ、ウチだって忙しいんじゃ。時間通り食堂に来ない提督さんのことなんて、構ってられん!」


「ちぇ、ケチ」

「ウチが暇で暇でしょうがない時に提督さんが来て、その時気が向いてたら作ったげるよ」


「しめたっ……で、その暇ってのは具体的にいうといつ頃で?」

「そ、そんなん今から知らん!ウチは提督さんのご飯なんて、別に作りたくて作ってる訳じゃないけえね!」


うるさい猫を払うようにしっしと手を振ると、今度こそ青年はドアーベルを鳴らして廊下の向こう側へ。

革靴が床板を叩くコツコツという音が次第に遠ざかっていく。

……提督が出て行って、どのくらい時間が経っただろうか。

廊下の革靴の音も、皿を洗う水の音もしない無音の中。

食堂に一人残された浦風は、先ほど提督が出て行った後の扉をぼんやりと見つめていた。

そうやってまたしばらく無言で立ちすくんでいたかと思うと、両手で腰を掴み、嘆息するように呟く。



「お前が当番だから……か」

「素直に嬉しいって言えんようじゃ、まだまだじゃね」



話し手以外誰もいない食堂で放たれたそのことばは、いったい誰に向けられたものだろう。

本音を言わない正直者と嘘つきの、どちらがタチが悪いのか。

少なくとも素直になれない天邪鬼という点では、違いは無いのかもしれない。

【磯風】【浦風】を通してお手本にした漫画は、あだち充先生作「クロスゲーム」です。
見当をつけて頂いた方が出てきてくれて驚き半分嬉しさ半分です。
主人公の、あるいはヒロインの心の声を安易に漏らさない描き方が素晴らしいくなんとか真似できないかと頑張りました。

ちなみに「クロスゲーム」のヒロインは月島青葉。死ぬほどかわいいです。やばいです。
僕がなぞらせて頂いたのは第68話になります、特装版も出ていてとってもお得!ぜひ購入しよう!

相変わらずこの>>1の文章力には脱帽
小説で出されたら絶対買うレベルで好きだわ

メッチャあだち充の宣伝してて草
そっかクロスゲームだったかー
よく考えたら南が料理下手なわけないもんな

>>1のSSが文庫化されたらクロスゲームと一緒に買うわ
おつ

青葉もいいけど一葉姐さんも妙に達観した四女も好きやなー

(次女の若葉で神田朱未の声が聞けるんやで)

一時間くらいでちゃちゃっと書いて投稿しようと思ったがとても無理なのでまた今度
早くても金曜日です

舞ってる

>>139 痛いの飛んでけぇ~(士気7)

たぶん今日中には更新できるんじゃないかなあと思います

今度のが分かる方はいらっしゃるでしょうか。投下します。

【神風】



午前中の出撃任務や演習戦、書類仕事なんかに一区切りをつける、お昼前のこの時間。

本館や別館などの建物から伸びる、鎮守府の渡り廊下がひとつに集結する連絡部分。



「……彼女、今日も可愛かったなあ」



この時間、この場所ですれ違う、ある女の子をひと目見てため息をつくのが、ぼくの日課になっていた。

ふだん別館で士官見習いとしてこの鎮守府に務めるぼくは、

午前、午後の2回に分けて上官の書類を取りまとめ、本館へ持っていくという使命を帯びている。

まあ、下っ端がやらされるていの良い雑用というやつだ。




鎮守府別館から本館への最短ルートは、別館北出口から伸びる長い渡り廊下を使う。

廊下の連絡部分を左に折れれば食堂や入浴施設だし、右はというと武器庫や出撃門なんかがズラリ並んでいる。

ぼくが目指す本館はというと、寄り道をせず真っすぐ行けばおのずとたどり着ける。

出会いは唐突だった。


あの日のぼくは午前中の仕事の処理に少し手間取ってしまい、いつもより遅いスタートを切った。

通るルートは同じでも時間が5分違うだけで通行人の顔ぶれは大分変わる。


そんなことを思いながら渡り廊下を早足で突破しようと連絡口に差し掛かると、

丁度ぼくが目指す本館の方から歩いてきた二人組の少女艦娘とすれ違い――



その二人組の、先頭をいく女の子の目を見た瞬間。

ぼくは魔法にかかってしまったんだ。

編み上げのブーツが底上げしてもなお小柄な身長に、腰まで届く撫子色の髪が靡いていた。

その、春の風に靡く長い髪と同じ色の目は、吸い込まれそうなほど美しかった。




自分の中に初めて湧き上がったどうしようもない衝動にぼくは戸惑った。

これ以上ないくらいに戸惑った。その場で奇声をあげて暴れなかっただけ僥倖というヤツかもしれない。

……たんに緊張がのどを締め付け、ことばが出てこなかっただけかもしれないけれど。

そうして何も言わずに立ち止まって彼女(正確には彼女たち)をやり過ごしたところまではどうにか覚えている。

振り向いて目で追いかけたけれど、二人はぼくのことなんて気にもかけず食堂のほうへと去っていったこともだ。



でもその先の記憶はひどく曖昧だ。


渡り廊下の連絡部分にどれくらいぼうっとしていたのかも不明だし、膝をついてがっくりと崩れ落ちていたことや、

提督に届けるべき書類を取り落として足元に散らかしていたのに気づいたのも大分あとになってからだった。


軍服についた砂は払えたけれども書類の汚れはどうにもならず、その日は提督から大目玉を喰らってしまった。

「ああ、そうか」


朝の時点ではなかったはずの、頭の上にこしらえたこぶをさすりながら。

士官独身寮の自室のベッドに転がって天井を見上げると、ぼくはようやく昼間のあの現象がどういうものか理解した。


「これが一目ぼれってやつなんだな」

別館所属の艦娘でない彼女のことについて、ぼくはあまり多くを知らない。


むかしの大和撫子を彷彿させる女学生ふうの袴姿が艤装で、体格から駆逐艦だろうこと。

同じ格好の少女と連れ立っていたことから、仲の良い姉妹艦がいること。

そちらの少女も小柄だけれど身長は彼女よりも若干高く大人びているため、あの子の姉艦なのかもしれない。


そしてその二人が決まってあの時間に渡り廊下を通り、本館から現れて食堂へと向かうこと。

ぼくが時間さえ気を付ければ、廊下の連絡部分で彼女の笑顔をひと目見ることが出来ること。


知っているのはそれくらいだ。

「つまり何も知らないということじゃないか」



みもふたもなくぼやいて見せるけれど構わなかった。

別館の報告書を届ける時間は即日変更した。一日のうちの数十秒、いや数秒の日課。

彼女が自分の姉艦(?)に向ける屈託のない笑顔を見ることだけが、いまのぼくの生きがいなのだから。

「……きた!」



そうして今日も、ぼくは昼前のこの時間を長い渡り廊下に割り当てている。

別館から本館へと真っすぐつながる通路の向こうには、いつものように二人組の影だ。



出来ることならずっと眺めていたいけれど、あんまり露骨なのは気が引ける。

だからと言って士官見習いなんかの自分が、思い切って話しかけてみようとも思わない。

艦娘という存在はぼくのような下っ端にとって、ある種高嶺の花的な存在なのだ。

廊下の真ん中、連絡部分ですれ違う時に一瞬だけ彼女の笑顔を拝めればそれで十分だと自分を納得させている。

(さて、そろそろだ!)


きっと彼女はいつも通り、自分の後ろを行く連れに話しかけながら笑っているだろうと、ぼくは信じて疑わなかった。

だってこれまでそうじゃない日はなかったんだから。


あの素敵な笑顔を今日もひと目。

ぼくがいつもの様にタイミングを計ってわずかに視線を上げると、

そこに映ったのは後ろの姉妹艦に向けられた微笑みではなく――



「へ?」

「ちょっと、あなたっ」


数メートル先からぼくのことを睨めつけている、彼女のしかめ面があった。

い、一体これはどういうこと!?



ダン。ダン、ダン、ダンっ。


ブーツが廊下の床板を力強く叩いたかと思うと、それが連続して響いた。

袴の裾をはためかせた彼女が目指す先にいるのは、もちろんぼくしかいない。

「へ、な、なに!?」

「あなた、いつもここですれ違う人でしょ!?」


憧れの女の子にいきなり声をかけられた! しかもぼくに気づいてたんだ!!

それだけでぼくは動揺し、ばかなことに同時に淡い期待を抱いていた。


ぼくが目の前のこの子に一目ぼれをしたあの日。

彼女のほうもぼくと目があって、魔法にかかっていたんだ――と。


まったくもって究極的な、ばかな期待を。

彼女のいまの態度を見れば、そんなことは無いのが一目瞭然なのに。

たすき掛けにした小紋から伸びる彼女のか細い両手は自分の腰にあてられ、背を目いっぱい反らしてこちらを向いていた。

でも悲しいかな、ぼくを見下ろすには編み上げのブーツもむなしく身長が圧倒的に足りない。

その大きな不足を補うようにして元からつり気味の目をさらにきっと怒らせ、

精いっぱいの威嚇をしながら上目遣いにぼくを見つめていた。



(やっぱり可愛いな……)


ここまで小走りして来たとはいえ艦娘にしては大した運動ではなかったはず。

なのになぜかうっすらと頬を上気させているのが疑問だけど、可愛いことに変わりはない。

それとは別に、鈍いぼくでもようやく事態の深刻さが分かってきた。

喋ったこともない少女に睨まれている。これはおそらく、いや、もしかしてだけど……


「……何かぼくに怒ってたりする?」

「当たり前じゃない!」


ダン。最後の一歩が容赦なく詰められ、ぼくはたじたじとなる。

いつもすれ違うだけのぼくが、何をそんなに怒られるのか見当も付かなかったけれど……

その疑問は彼女のほうですぐに晴らしてくれた。

「あなた、いっっっつもわたしのこと見て来るけど、失礼じゃない!?」

「それとも何か、わたしに用事でもあるの?」


げ。

まさかバレていたなんて思いもしなかったので、ぼくは何も言い返せなかった。

一目ぼれの女の子をチラ見する以外に用事なんてある訳ない。


強いて言えばこれから二人が向かうはずの食堂にご一緒してお茶でも……という希望はあるけれど、

さすがにいまそれを言ったらぶっ飛ばされると分かるだけの常識はある。

「あんまりわたしをジロジロ見ないでよね。な、何か用があるなら別だけれどっ!」

「う……。ご、ごめんなさい」



ぼくは静かに俯くしかなかった。

こういう時にさらりと気の利いたことを言える性格なら盗み見なんてせず、とっくにデートにでも誘ってるだろう。

「……ふんっ、ばかね」


何も言えないぼくにあきれ果てたのだろうか。

そう言い残して彼女が去っていくと、なんだかとてつもなく惜しいことをした気になる。

いや、この場合は余計なことをしないで謝るだけが正解のはずなんだけど……。



「がんばって」

「……へ?」


いままで後ろで黙ってぼくらを見守っていた、あの大人びた彼女の連れにそんなことばをかけられたけれど、意味が分からなかった。

なにをどう頑張れと言うのだろう?

「あーあ、やっちゃったなあ」


二人の少女が去って、ぼく以外誰もいなくなった廊下にたたずむ。

提督への報告が遅れることなんかどうでもいい。この後喰らうだろうお説教すらも。

先ほどの出来事への驚きが大きすぎて思考が追いつかないのだ。



「完っっ璧に脈が無いどころか、たぶん嫌われちゃったかなあ?」


ため息ばかりが漏れ出るけれども、不思議と気持ちは悲観的にならなかった。

どんなことばであれ彼女に声をかけられたという事実が、ぼくをプラスに変えていたからだ。

もう一つだけ深いため息をついて、ぼくはゆっくりと歩を進めだす。

さしあたってぼくが考えるべきは、明日からの日課をどうするかだろう。

廊下を過ぎる時間を変えるか、今まで通り偶然を装ってすれ違うか、それとも……?


「がんばれって、がんばるけどさ」


もっと彼女のことを知りたい。

痛烈にそう思ったのは、たったいま、今さらながらとある事実に思い至ったから。

「名前、神風……、っていうのかあ」



憧れの女の子の名前一つ知らなかった自分は、なんてばかなんだろう。

明日のこの時間、この場所で。もしも彼女がぼくを避けずにいてくれたら……


まずは名前を呼んでみることからはじめよう。

奇跡の風が吹くことを祈って、ぼくは覚悟をひとつ胸に刻んだ。

終わりです。

神風「へ?いまのお話を神風視点からみたらどうなるかって?」

神風はチョロインの素質があると思います可愛い。

次は今のお話の中で目立たなかった春風でいきたいと思っています。
神風たちを後ろでどう見ていたかですね。書ければだけれども。


神風はチョロイン

チョロいぜ...

ラノベのアニメ化の弾がもうないだって?甘い甘い!
烙印の紋章カレカノ付喪堂、学校の階段神メモサクラダリセットとまだまだあるんだぜ!

さて、先日の【神風】を春風から見たお話になります。今回は分割します。

【春風】


「ふん、まったくあの男ったら、失礼しちゃうわ!」

「どうかなさったのですか、神風お姉様」


午前中のお仕事に区切りをつけたわたくしと神風お姉様は、いつものごとく食堂でお昼のひと時を過ごしていました。

鳳翔さんと間宮さんのご指導のもと振る舞われるメニューは絶品で、いつも二人して舌鼓を打っているのですが……。


どうやら今日のお姉様はどんなに美味しい食事も上の空のご様子。

トレイに載せられたカレーライスにひと口も手を付けずに、

先ほどからしきりに何事か呟いては鼻を鳴らしているのです。

「お料理が冷めてしまいますわよ、お姉様」

「だって腹が立つんだもの!」

「まあ。神風お姉様がそんなにお怒りになるなんて、何があったのですか?」



わたくしとお姉様は姉妹艦ということもあってか、一日の行動のほとんどを共にしています。

事実、本日の午前中は二人で本館の書類仕事を手掛けてきましたし、午後はというと、これまた二人そろって演習へと出かけます。

教官は軽巡洋艦の神通さまが務めるそうで、わたくしは鎮守府の着任時にご挨拶をしただけなのですが、

とても穏やかで優し気な方だとお見受けいたしました。きっと本日の演習も実のある、しっかりしたものになるのでしょう。

ああ、お話が横にそれてしまいました。申し訳ありません、わたくしの悪いくせです。

何が申し上げたかったかと言うと、神風お姉様がご立腹される様なことがあれば、そこにわたくしも居合わせているはずなのです。

ですから、こうして見当も付かないということはないはずなのですが……。

「さっきすれ違った男の子よ、今日も私のことジロジロ見て!」

「先ほど……すれ違った……?」


それだけでは理解出来ません。

鎮守府には当然ながら、艦娘の他にもたくさんの人間、それも殿方が働いていらっしゃいます。

神風お姉様はいったい、その中のどなたのことをおっしゃっているのでしょう?



「お姉様、今日もとおっしゃるからには、今まで何度かお会いしているのでしょうか」

「何言ってるの、春風。ここのとこ毎日じゃない!この食堂に来る途中、必ずあの渡り廊下ですれ違うんだから!」

「渡り廊下で……? ああ、そういえば」

そこまで言われてようやく、わたくしはおぼろげな可能性に思い至ります。

確かに最近、わたくしたちが午前中のお仕事を終えて食堂に来る途中にすれ違う方がいる気がします。

ですがわたくしの記憶はそこまでで、その方が一体どのような方なのか、お姿さえ覚えがありません。



「歳は15か16くらいで、あまり身長は高くないわ。なよなよと情けなくて、頼りなさそうな人よ」

「渡り廊下ですれ違う時にいっつも私のほうを見てきて、そのくせ何も言わないの!」



神風お姉様は相当お怒りなご様子でその少年の特徴をまくしたてますが、やはりわたくしにはとんと印象がありません。

生来ひとの顔を覚えるのが得意ではなく、まして殿方のことなど今まで意識することがありませんでしたから尚更です。

そんなわたくしですから神風お姉様の憤慨を目の前にしても、いったい何がお気に召さないのか分かりませんでした。

「その方、なにかお姉様に失礼なことをおっしゃったの?」

「だから違うわ、何も言ってこないんだってば!」

「では何故お姉様がお怒りになるのかしら」

「うっ……そ、それは……そ、そうよっ!用もないのにじっと見て来るなんて、失礼じゃない!」




それは……そういうものなのでしょうか。

ですが、言いたいけれども言い出せない用事というのも世の中にはあるものです。

ひょっとしてその殿方の用事というのは、自分からは言い出しづらいものではないでしょうか。

「でしたら、お姉様のほうから声をおかけになったら?」

「なんで私があんなやつのことなんか気にしなきゃならないのよ!」

「あら、おかしなお姉様。今も十分、気にかけていらっしゃるではないですか」

「え、ぁ……ば、ばかね、そ、そんなことないわ」




図星を突かれた気まずさからか、お姉様は口ごもってしまいます。

それをごまかすためか、はたまたいまがなんのお時間かお気づきになったのか。

今まで放り出していたスプウンをようやくお取りになったのですが……

「なにこれ、せっかくのカレーライスが冷めてるじゃない!」

「先ほど申し上げたではないですか。でもお姉様は腹が立っているからとおっしゃって」

「腹が立っててもお腹は空くの!」



珍しい我が儘に苦笑して、わたくしは先に食べ終えて空にしていたお皿をまとめると、

お姉様が不機嫌そうにライスを口に運ぶ様子を眺めるのでした。

いったん区切ります。続きは明日でしょうか。

神風、春風、アイオワ、ポーラ。
2016春イベントで着任してくれた新参艦娘の中で春風が圧倒的に好きです。
妹艦が(いるの?)出るとしたら清水香里さんでお願いしたいものです。


不機嫌になる理由が分かってなさそうで可愛い

「がんばって」は春風に惚れてるもんだと勘違いして発破をかけたのかと思ってた

おしとやかなのに清楚とは少し違うのが春風の魅力
>>178時系列で言えば神風が少年に啖呵を切る前のお話になります
続きです

「鎮守府の別館勤務らしいわ。だから今まで顔も知らなかったのね」

「私たちは本館勤務で、別館の人たちとはぜんぜん接点が無いもの」


先ほどの会話だけでは満足なさらなかったのか、午後になってからも折に触れてお姉様のお話が続きます。

もちろん話題は件の殿方についてで、いつもは太陽のような微笑みを浮かべるお姉様が、妙にしかめ面。

わたくしの反応なんておかまいなしに早口でまくしたてるのも珍しいことです。


それでもわたくしには、お姉様が口ぶりほどにはその殿方を毛嫌いしているようには見えません。

いったいこれはどうしたことでしょうか。

「お父さまが軍のお偉い方みたいでね、七光りなのかしら。とてもひ弱そうだもの。でも学科の成績はトップクラスだそうよ」

「お昼前のあの時間は本館のほうへ書類を届けに来るらしいの。いつもあの時間なの」

「時間をずらしてくれないかしら。その度にちらちらと見られたんじゃ、ねえ」

「その殿方について随分とお詳しいのですね、お姉様」


思ったことをそのまま尋ねてみると、お姉様は何故だか狼狽し出して、


「べ、別にこれくらい、ちょっと調べればすぐよ。別館の艦娘に聞けばいいんだから」

「それでわざわざお聞きになったの?」

「う、そ、それは……そう、まずは敵のことを知らないと」


「とても良い事を言っているようですが、身が入らないのはいけませんね」

「「あ」」

会話に夢中になって、わたくしたちは今どこにいるのかをすっかり忘れていました。

演習場の凪いだ海を前にして、わたくしたち新参の駆逐艦娘がズラリと並んでいます。

そして、大勢の前でこれからの演習について講釈されているのが……

「神通さま……申し訳ありません」

「ごめんなさい」


鎮守府きってのエースだという神通さま直々に指導して頂けるというのに、これではいけません。

わたくしたちが非礼を謝ると、神通さまは穏やかな笑みで許して下さいました。


「いえ、分かってくれればいいんです。では、指導は神風さんから始めましょうか」


居並ぶ新参艦娘の中からお姉様が選ばれます。

きっとお見掛け同様、神通さまは優しく手ほどきしてくださることでしょう。

「はい、分かりました!」


意気揚々と艤装を身に着け前に出る神風お姉様と、指導のため距離を取りだす神通さま。


「次は春風さんの番ですから、よく見ておいて下さいね」

「はい」


初めての本格的な実戦演習……そう思うとなんだか少し、心が躍ってしまいます。

「うわあ、可哀想」

「あの娘初めてなんだって、神通さんの指導」

「しっ、もし神通さんに聞こえたら、次はわたしたちが……」



後ろのほうから聞こえてきた声に首を傾げたわたくしですが……

彼女たちの発言の意味は後ほど、身をもって知ることになりました。

「身体中が痛いわ……」

「わたくしもです、お姉様」



最前線で活躍する皆さまはあんなにも激しいのでしょうか。

神通さまの演習でへとへとになったわたくしたちは、それでも身ぎれいにするのが乙女の嗜みと、

どうにかお互いを励まし合って夕食と入浴を済ませ、二人の自室までたどり着いたからにはもう大丈夫とみっともなく寝台に倒れ込むのでした。

因みにわたくしに割り当てられた寝台は二段式の下側なので、お姉様の疲れ切った声は上から降って来るものになります。

「それもこれもみんなあいつのせいよ!」

「それは何故ですか?」


あいつ、とはお昼間もおっしゃった例の殿方のことでしょう。

ポン、ポンと枕に怒りを殴りつける音を立て、うなるようにお姉様がおっしゃります。

「だって、アイツの話をしていなければ神通さんに目を付けられることもなかったじゃない!」


それは八つ当たりというものではないでしょうか。

そうは思うもののお姉様の感情はもはや理屈とは別のところにある様で、

わたくしは思わず例の殿方に同情してしまいます。



「次に合ったら絶対、文句言ってやるんだから!」

「あら、毎日すれ違うのではないですか?」

「じゃ、じゃあ明日。明日よ。ええ、そうですとも。絶対絶対、とっちめてやるわ!」

へとへとに疲れていたというのに、お姉様は元気を取り戻したように息巻いています。

対してわたくしはというと疲労の極致。

お姉様の宣言を耳にしながらもお返事をする気力もなく、次第に眠りへと落ちていきました。


うとうとと遠ざかる意識の中浮かんだのはただひとつの疑問です。

何故お姉様は、たった数秒すれ違うだけの殿方のことを、そんなにも気にかけるのでしょう?

明日で春風編終わりです。そうしたらネタが尽きるんで探さないと・・・

【春風】は今日ので終了です

明けて、次の日。

午前中の内務仕事を終えたわたくしと神風お姉様はいま、鎮守府本館の廊下を歩いています。

これから食堂で昼食を頂くのですから、行先はもちろんいつもの渡り廊下。


「ね、ねえ春風」


朝方から先ほどまで「今日こそはとっちめてやる」と息巻いていたお姉様ですが、

“その時”が近づくにつれ、段々と口数が減っていきます。

それに、小紋についたほこりを払ったり長い髪をしきりに撫でたりと、落ち着かない様子でもありました。

「どうしましたの、お姉様」

「やっぱりその……やめておいたほうがいいかしら?」

「あら、どうして?」


このころになるとわたくしも“おおよその見当”というものがついてまいりました。

すなわち、お若い殿方の視線の意味と、お姉様の苛立ちの意味に。

「そ、そのぉ、やっぱり理想は向こうから……じゃなくて!」

「あっ。お姉様、あの方ではございませんか」



お姉様の態度が煮え切らないまま、わたくしたちは本館の南出口までたどり着きます。

ひさしをくぐるとそのはるか先を一人の殿方が歩いていらして、こちらを目指していました。

なるほどこのまま行けば丁度、通路が東西へ抜ける連絡部分でわたくしたちとすれ違うでしょう。

そう思って固まりながら歩を進めるという器用なことをなさるお姉様の背中へ一言。


「お姉様がなさらないのでしたら、わたくしがお話してみようかしら」


きっとあの方、気さくで言い方ですわ。

そう付け加えると、お姉様の反応は予想外に大きなものでした。

「ど、ど、どうして春風が話しかけるのよ!?」

「だってお姉様が迷惑しているのでしたら、お力にならないと」

「い、いいわよっ。私が自分で言うから。いい? 春風は余計な事しないでよね!」


ようやく踏ん切りがついたお姉様が前を向くと、丁度あの殿方と一瞬だけ視線が重なり、

そしてまたしても目をそらされてしまいます。

「ちょっと、あなたっ」



それが合図となったのでしょうか。廊下の床板を踏み鳴らして、お姉様が駆けだします。

少し上擦った声で捲し立て、お姉様は殿方を問い詰めました。


あれでは殿方の方は何もおっしゃれないでしょう……。

どんな理由であれ、のぞき見は決して良いことではありません。

「……ふんっ、ばかね」



外から見ていたわたくしには一目瞭然だったのですが、ことばの端々にお誘いを期待していたお姉様の気持ちは伝わらなかったようです。

お姉様はそのままそっぽを向いて食堂へと駆けて行ってしまいました。


あとに残されがっくりと肩を落とす殿方が、これではあまりに不憫に思えます。

だからでしょうか、気付けばわたくしはこんなことばを発していたのです。

「がんばって」

「……へ?」



自分でも良く分からない励ましを殿方に送ると、先に食堂へと行ってしまった神風お姉様を追ってわたくしも駆け出しました。

願わくば、お二人の間に奇跡の風が吹かんことを……と祈りながら。

読み返してみると春風を書きたいだけのお話でした。
いままで書いた艦娘の中で春風が一番難しい。地の文台詞と、ことばの選び方が大変。

【神風】【春風】はコブクロの「神風」の歌詞から。アルバム「5296」にこれとsummer rainが収録されています。

おつー

痛いの飛んでけしながら
落雷打ったり、セイント馬超するのいいよね

めっさ可愛い

>>203僕は最強を求め続けている孫権絶対殺すマンさんの使い手でしたよ。

ここまで読者がいてくれることに感謝です。どうもありがとう。
次は能代メインで矢矧もいるようなお話が投下できたらと思います。まだ一文字も書いてないけど。

期待

バークリーとカー読んでたら一文字も進んでなかったので場つなぎ。
【神風】の大元、アイデア殴り書きです。こういうのなんていうんでしょう、初稿?原案?
踏み台にするつもりで書いたものなのでクオリティは低いです。
ふーんコイツ書く時こうやってやってるんだーとでも思ってください。

本館と別館、食堂や演習場、艦娘や将校の寮へは長い渡り廊下でつながっている。戦闘はフルダイブ方式。実際に遠く離れた外洋に基地を構えるのではない。
電子の海で戦っている。つまり全艦娘・全提督がこの施設にいる。

鎮守府の見習士官「ぼく」は、いつもこの時間に提督の雑用で決まってこの廊下を通る。ラバウル、ショートランド、トラック、パラオ、ブイン……内地サーバに所属しない、俗に「南半球」組と呼ばれる鎮守府・泊地の分室は別館にまとめられており、それら各分室から提出される書類を取りまとめて、これまた俗に「本土」と呼ばれる本館へ届けるのが毎日のぼくの役目なのだ。面倒くさい用事だけれども、決して嫌ではなかった。何故なら丁度この時間に、この場所ですれ違う一人の艦娘に恋をしているのだから。
一目ぼれだった。瞳をみた瞬間に膝から崩れ落ちるほどの衝撃。取り落とした書類を汚してしまい、その日のぼくは提督にどやされたものだった。膝の砂は払ったものの、紙についたものだけはどうしようもなかった。その日以降、この廊下で彼女とすれ違うのはぼくの秘かな楽しみとなっていた。

彼女は決まってもう一人の少女と一緒にいる。幼い印象の彼女と違い大人びた風貌をしているので、彼女の姉艦にあたるひとなのかもしれない。二人が花がほころぶように笑いながらおしゃべりするさまを見ながら通り過ぎるのは、ぼくにとって毎日の楽しみになっていた。二人のことで知っていることといえばおそらく駆逐艦であろうということと、僕の担当分室がこの前までショートランドだった(そしてそこで彼女たちの名前を聞いたことがない)ことから、所属が南半球(別館)ではないことくらいしか知らない。つまり、この時間にここを通るということ以外何も知らないわけだ。

しょせん見習のぼくに接点なんか生まれようはずもない。せめて通りすがるこの時、彼女の笑顔を見ることを一日の楽しみにすることくらいしか出来ないのだ……
そんなことを考えながらぼくは今日も例の廊下へさしかかる。するといつも通り本館と別館をつなぐ長い渡り廊下の向こう側から二人組の姿が。すぐに目をそらすぼくだが、視線はどうしても彼女を意識してしまう。そうしてほら、今日も彼女の笑顔が――?

おや?
どうしたことだろう、いつもは花がほころぶような笑みを浮かべている彼女が眉を怒らせて、袴のすそをおどらせながら大股でずかずかと歩いてくる。なにか不機嫌なことでもあったのだろうか。笑顔を見れなくて残念だな、そう思いながらすれ違おうとしたその時。彼女の足が、ピタリとぼくの前で止まる。
「ちょっと、あなたっ」
ダン、と力強くブーツがコンクリートの廊下を踏み鳴らす。腰に手を当てながら小さい身体でぼくを見上げる彼女。どうしよう、憧れの少女に声をかけられてしまった。ぼくのことを知っていてくれたんだろうか。でもいま彼女は何かに怒っていて、そして不機嫌な表情のままぼくに声をかけた。ということは、怒りの矛先は当然……?
「あなたいつもここですれ違う人よね!?」
ぼくのこと覚えててくれたんだ。その事実に胸が高鳴。けれどもいま彼女は怒っている…
「それで、いっつも私のこと見て来るけど、失礼じゃない?この神風に何か用なの!?」
最悪だ。すれ違うことに気づいてたどころか、ぼくの視線にも気づいていたんだ。
「あんまり私のことジロジロ見ないでよね。それともなにか、用事でもあるの!?」
あるのなら言ってみなさい、とでも言わんばかりに睨めつけられても当然、こちらに用事なんかあるわけがない。鎮守府内のカフェテラスへでも誘って話がしてみたい、というぼくの願望が用事といえるのであれば別だけれども。
「ふんっ、ばかね」
そっぽを向いて行ってしまう彼女と、遅れて続くもう一人の女の子。
「がんばって」
もう一人の女の子にそんなことばをかけられたけれど、もう遅い。
だってもう、完璧に嫌われてしまったのだから。
「ああ、やっちゃったなあ」
なのになぜか、いまのぼくに悲観的な感情は沸いてこなかった。
初恋の女の子のことについて、知っていることは少ない。
おそらく駆逐艦であるということ。仲の良い姉妹艦がいること。南半球所属でないこと。
「名前、神風っていうのかあ」
それでもいまは、何も知らないという訳ではないのだから。

能代の妄想に戻ります、では。

文才凄い

期待

愛しさと悲しみさえ僕という現実(リアル)であるように ← 歌詞ぐうかっこいい

・・・いや別にエロゲソング聞いてサボってた訳じゃないです。
今日は矢矧です。

【矢矧】



「よくもまあ、そんなに仕事が出来るものだわ」


出撃帰りのその足で戦闘結果の報告を済ませに来た矢矧は、執務室に足を踏み入れるや否や、

開口一番に大きなため息をついた。


部屋の正面に構える執務机の上は書類であふれかえっており、

その書類の海をかき分けているのは彼女の敬愛すべき方の姉艦だった。


「ようし、これはこれで片付いたわ……っと、ごめんなさい矢矧。いま何か言った?」


可愛い妹の声にすら気が付かない、その集中力の高さに呆れて矢矧は再び肩を落とす。

「別に。能代姉は魔法で時間を止めているのかしら……なんて思っただけよ」


そうでなければこの書類の海を、いったいどうしたら溺れずに泳ぎ切れるというのだろう。

戦闘任務ばかりで秘書艦経験が一度も無い矢矧には、とんと見当も付かない。


「まさか。この程度、ちゃんと効率を考えていれば楽勝だわ」

「これがこの程度、ねえ……?」

矢矧のような旗艦を務める者が出撃ごとに提出する報告書や、運び運ばれた資材の記録。

大本営や近隣鎮守府との作戦要綱に、集められた深海棲艦たちの情報の精査、エトセトラ、エトセトラ。

執務室に集まって来る情報は当然だが、素人目にも驚くほど多い。

それらがまるで渦潮のように凝縮されている執務机の有様を見ると、矢矧には楽勝だなんてとても思えない。



が、目の前の勤勉で実直な姉にとってはどうやら違うらしい。

もしかしなくても仕事が増えれば増えるほど燃えて来るタイプなのだ。

これだけの量を“効率的に”こなせるという自信がその証拠だろう。

「そうよ、秘書艦の仕事で大事なのは効率、効率、効率よ。無駄にしている時間はないの」

「効率、ね。確かにそうかもしれない」


阿賀野姉にも見習わせるべきかしら。

能代が生真面目な分、そのバランスを取るようにしてぐうたれているもう一人の姉――

長姉の阿賀野の顔を思い浮かべると、自然と笑いがこみ上げて来る。



そんな矢矧の表情をどうとらえたのか、能代はこんなことを口走った。


「矢矧も秘書艦の仕事に興味が出てきたのなら、提督に推薦しましょうか?」

「お断りするわ、私は戦場で身体を動かす方が性に合っているみたいだから」


答えながら提出しに来た報告書をかごに入れると、能代は残念そうに呟いた。


「残念。秘書艦が出来る艦娘が増えた方が効率的なんだけれど。」

「そういえば、肝心のその提督とやらはどこへ行ったの?」

執務室には書類と格闘する能代と自分以外の姿がない。

今更ながら矢矧が尋ねると、対する能代は顔も上げずに答えを返してきた。




「来月から始まる輸送任務の件で、本部や現地の方との会合。夕方には戻るわよ?」

「あらあら。上官のスケジュール管理も完璧とは、さすがは秘書艦さまだこと」



茶化したつもりだったのに、能代は冗談と捉えなかったらしい。

当たり前のように「まあね」と返事をして、今度は書類の滴をすくい集めてせっせと山を作り出していく。

出来上がった山は能代の目の前に一つ、馬鹿でかい机の両端に除けた一つずつの、合わせて三つ。

「能代姉、いまは何をやっているの?」

「仕分けよ、仕分け。こうした方が効率的だから」



不思議そうに能代の作業を見つめる妹に対して、能代は得意げに語りだす。

能代がこだわるのはあくまでも効率、効率のようで、らしいと言えばらしいと思えた。



そういえば、姉妹四人が暮らす寮室でも、能代のスペースが一番整頓されている。

二番目に綺麗なのが矢矧自身で、三番目四番目は……

これ以上の順位付けは個人の名誉に関わることなのでやめておこう。

「矢矧も将来のために覚えておくとためになるわ」

「そ、そうかしら……?」


別に教えてもらったところで空いている秘書艦枠になど立候補しないのだが……

どうやら能代は矢矧を“そちら側”に引き込む気マンマンらしい。

妹のどこを見込んだのかは分からないが、得意げに『先輩』としてのレクチャーが続く。

「これが処理済みと時間経過待ちね。それで反対側のこっちが、提督の印鑑とか判断待ちのやつで……」


話を聞くだけなら興味深いので、矢矧はそのまま能代の話に耳を傾けることにした。

両端の書類、二つの山を指さした後、能代は目の前に整えた最後の山を脇に寄せて、


「これが秘書艦の私のチェックだけで終わる奴ね。これは提督が帰るまでに終わらせないと」


実直な姉艦は、講義の最後にとんでもないことを口走った。

「提督が帰るまでにって、能代姉、嘘でしょ!? あと数時間で、しかも一人で……これ全部終わらせる気!?」

「ええ、もちろんよ? 提督が帰ってきたら、一緒に決めなきゃいけない案件が他にあるし」


そう言って能代は、先ほど仕訳した提督待ちの書類の山を指さした後、再び矢矧に向き直って当然のように、


「提督なしで終わる仕事は今のうちに終わらせておかないとね」

「だからって能代姉、こんな量……」


束ねて武器にすれば、深海棲艦だって殴れそうだ。

信じられないといった表情の矢矧に対して、能代は特に気負いもなく当たり前のように、


「決まってるじゃない。だって」

「だって?」


その先を聞くのは、なんだか怖い気もする。


「その方が効率的なんだもの」


――この先自分に何があっても、秘書艦だけはやらないわ。

心の中でそう固く誓いながら、矢矧は執務室を後にした。

【矢矧】終了です。矢矧が「あれ、こっちのお姉ちゃんもなんだかおかしいぞ?」と思ってしまう話でした。
阿賀野姉妹四人がいる部屋に入ったらなんかこう・・・フェロモンがやばそう(やばい)

次の投稿は提督が帰ってきた後の能代の話です。
自分の中での能代のデレ方をかたちにしてます、また今週中に投下します。
【能代】を終えたらスレを閉じるかもしれません。では。

能代はのしろん派とのっしー派どっちが多いかね?


もうちょいで終わりか
次回作の予定とかはあるのかな?

書き直してもクオリティが低すぎる惨状。もう少しかかります。
能代の身体がいやらしすぎて集中できないんや・・・

そのいやらしさを文字にするんやで

あのボディは反則や

これが一番いけるやん!ってとこまでやったので勘弁して下さいまし。めっちゃ書き直した。
【能代】を投下します。提督が会合から鎮守府に帰って来たあとの話になります。

【能代】



鎮守府の廊下を、一組の男女が歩いていた。

前を行く少女はバインダーを胸に抱き、一方青年はというと、どこか疲れを滲ませた表情でその背中を追いかけている。


「なあ」

「なんでしょう、提督?」


黄昏時をとうに過ぎたものの、夜間哨戒組の出番には夜の闇がまだ浅いこの時間。

他の艦娘たちの姦します喧騒は遠く食堂や浴場のほうへと過ぎ去り、行き会う者はいない。


「これってさ、秘書艦の印鑑だけで済む仕事だよな?」


だからだろう。提督の口調は普段みんなの前で決して見せようとしない、気だるげなもの。

能代が彼のこんな声を聴くのも、執務室で仕事に区切りがついた時か、もしくはこの時間だけだ。

そうなるとどうしても、この人の情けない姿は私だけが知っているという、

――そんな自惚れが心の中に浮かんできて、つい口角を上げてしまうのを慌てて戒めるのだった。

提督が言っているのは、いま二人が向かっている先での仕事のこと。武器庫の兵装の点検だ。

一日の終わりに鎮守府では、その日の秘書艦が武器庫に格納された兵装を点検している。

出撃で使用されたものも、出番が無かったものも、そこに何一つ例外は無い。

メンテナンス不足で仕舞われたものがないか、兵装の横流しという不正が行われていないか……?

戦場に生きる者の命を握る兵装があるべき数、あるべき状態で置かれているかを確認する大切な仕事だ。





「だってお前以外が秘書艦の日は俺、呼ばれないぜ?」


大切な仕事だが、提督自身が確認するのは四半期に一度で良いとされている。

武器庫は執務室から遠い。

能代以外の秘書艦はみな規則に則って、この面倒だが欠かすことの出来ない日課を最速でこなしているのだろう。

そしてその間彼は執務机に山と積まれた案件に専念している――そんな光景も脳裏に浮かぶ。

ちなみに、目の前の実物はというと、この連れ合いを明らかに面倒くさがっている。

ふだんのキリっとした彼に憧れている娘たちがこうした子供っぽさを知ったら、いったいどう思うのだろう?

能代としてはもうこちらの方が……いや、こちらの方に慣れてしまったが。



「おかしいですね、この前の点検の時は提督、能代に感謝してくれたような――」

戦艦主砲の開発の遅れに気付けたのは、こうしてあなたを連れ出したおかげでしょう?

暗にそう言ってやると、青年はたちまち降参して先を急ぎだす。



「ようし能代、武器庫はもうすぐだ。ちゃっちゃと終わらせて執務室に戻るぞ」

「……もう! ホントに都合が良いんですから、もう!」

もはや武器庫までの時間を埋める風物詩となった二人の口喧嘩は、今日も順調だ。

「しかしだな」

「どうかしましたか?」



上目使いに提督を見ると決まって目をそらされる。

次に続く提督のことばに、能代は少々混乱する。



「なんで毎回毎回俺を連れ出すんだ?」


――やだ、うっとおしいと思われてる?

――いえ、それはない……はずよね、ね?

提督の不満は口ばかりの冗談のはずで、本当はこうした機会を大切にしていると思う。

だって、これまで提督は能代の誘いを、一度として断ったことが無いのだから。

そして毎回のように武器庫へと至るこの長い道筋を能代と過ごしているのだから……。

それでも、と能代の心に一抹の不安が残るが、長続きはしなかった。なぜなら、



「いや、だってお前週に2回か、多い時は3回は秘書艦をやるだろう?」


提督の真意は能代が心配していたところとは違う所にあるらしかったからだ。

そうなると能代の気持ちは、不安からある感情へと変わっていく。


「お前が大切にしてるのは“効率”だろ……いつも言っているしな、効率、効率って」

「なら俺自身の目で確認するのは、週のうち1回くらいにした方が効率的じゃないのか?」

現場の状況をトップが直に見るのも大切だが、それは毎回である必要はない。

提督は執務室で仕事を、その間能代は武器庫で兵装の点検をした方がお互いに捗るに決まっている。

そんなことに能代が気づいていないとでも、本当に思っているのだろうか?



「提督って本当に鈍いですよね」

「真面目に話しているのに何故怒られる!?」


そう……不安からこの朴念仁へと向けられる怒りへと。

――矢矧にはウソをついてしまったわね。

――いえ、違うわ。ウソじゃない。正確じゃなかっただけ。


昼間の執務室での能代の発言と、矢矧の茫然とした表情を思い出す。

あの時矢矧には、能代は効率的に仕事をこなすのを生きがいにしていると思えたのだろう。


でもあれは能代のことばが足りなかったのだから、仕方がない。

問題は目の前のこの青年も、能代が好きで効率効率と言っているのだと思っていることにある。

「ご安心を、提督。自分の仕事は日中に終わらせていますから、帰ったらお手伝いしますとも」

「助かる……というか、能代が手伝ってくれるから、こうして点検作業にも付き合えるんだけどな」


そこまで自分で答えを言って気が付かないのがこの朴念仁の、朴念仁たるゆえんなのだろう。

能代が他の秘書艦さえ驚く速さで仕事を片付けるのは、まさしく””この時間を作るため””だというのに!

「提督。帰ったら夜食でも作ってあげましょうか」

「えっ」

「ちょっと、なんですか、今の反応は!?」

「だってお前……確か料理苦手じゃなかったかなー、と思いまして……」


そんなどうでもいい事にはすぐに思い至るのが余計に憎らしい。

目下修業中の分野といえど、それなりに進歩はしているのだ。


「まさかお前、今からカレーでも煮込むつもりじゃ」

「そんな訳ないじゃないですか、もう!」


ラーメンくらいならどうにか、と能代が付け加えると思い切り微妙な反応をされたので、

もう知りませんと言ってやったら途端に機嫌を取りに来る。

それが分かっているから能代もまた突き放して、そうして二人の間に会話が耐える事は無い。

武器庫までの道のりが、永遠に続けばいいのに――そう思うのは能代だけだろうか。

「提督」

「ん、なんだ?」

「“効率”より大切にしているものがあるんですよ、能代には」



先ほどの会話を蒸し返す。

矢矧にも言わなかった、いや、言えなかったこと。


「なんだよ、それ」


この朴念仁にそれを言ったら、どんな反応をするだろう?

喉まで出かかった熱い何かを、能代はぎりぎりのところで心臓まで押し返した。



「ふふ、提督には教えてあげません」

「なんだよ、それ……」

少なくとも、今はまだ、だめだ。

この気持ちを受け止めてもらえると確信できる時が来たら。

いいや、もはやそれさえどうでも良く思えるほど、溢れてしまう時が来たら。


その時は、教えてあげてもいいかもしれない。

秘書艦としての自分ではなく、艦娘……いや、能代が能代として、大切にしているもの。



そう、それは――

こうしてあなたと過ごす、この何気ないひとときなのだと。

【能代】編、終了です。

書くために妄想しているのにえっちな考えしか浮かばなかった艦娘は初めてでした。
鎮守府いやらしボディ選手権堂々の第一位(俺調べ)は伊達じゃなかった。

>>226
(呼び捨てじゃ)いかんのか?
>>227
ノートに落書きしてるくらいの構想が2つありますが、すぐ投稿出来るかたちではないです。
休日潰すくらいじゃないと中々・・・

いったん締めようかな、ここまで読んでくれた方ありがとうございました。
したらば作者スレに貼ることがありましたらその時はアドバイスよろしくお願いします。

過去作直近作。後のは適当にトリップで検索してくれたら嬉しいです。
【艦これ】キスから始まる提督業!【ラノベSS】
【艦これ】キスから始まる提督業!【ラノベSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429975036/)

【艦これ】叢雲「狼の慢心」【ラノベSS】
【艦これ】叢雲「狼の慢心」【ラノベSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459689516/)


おつ

乙 
面白かった

次のまだ?

次スレはまだですかい

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom