「てーきゅう」の二次創作ssです。
投稿は初めてですがなんとかやっていきます。
書きためた文章を14個くらいに分けて、時間をおいてひとつずつ投下していきます。
本編に比べてテンションは低めでお送りしますが、鬱展開や過度な考察はありません。
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「それじゃまたね、ユリ!」
「うん、また明日学校で!」
ショッピングを終え、私はクラスメイトと別れた。すでに日は傾き始めていて、春にもかかわらず風が冷たく感じられた。
日曜日、私の通う高校がある亀井戸から数駅離れたここは、買い物客や家族連れでとてもにぎわう。
両手にショッピングバッグを提げ、人にぶつからないようにしながら、私は駅へ向かって歩いていた。
なんで「投稿は初めて」って嘘書かないと始められないの?
疲労感もあり、無心で黙々と歩いていた私は、突然子どもの甲高い笑い声が聞こえて驚いた。
子どもたちは背が小さく、周りは人だらけなので分かりにくいが、前のほうで幼稚園児の集団が歩いているようだった。
またその集団の中に、緑の髪をした女性の保育士と、あきらかに場違いな、迷彩服を着た色黒の大男がいるのが見え、私は小さく声を漏らした。
あれは間違いなく、かなえ先輩の従姉で保育士のミカさんと、ボビー園長だ。幼稚園の遠足の帰りだろうか。彼らも駅の方へ向かっているようだ。
元気いっぱいの園児たちと触れ合う体力はもう残っていなかったので、私はこのまま彼らと距離を保ちつつゆっくり歩いていくことにした。
街の雑踏の中、幼稚園児たちは、興奮した様子でありながらも集団から離れることなく、かたまって歩いている。
彼らの中心にいる、少し大きめの子どもに皆群がっているらしい。
ちらりと見えたその姿にはとても見覚えがあった。まさかと思いつつ、私は少し背伸びをして、前を歩く人々の肩越しにその姿をよく確かめた。
「やっぱり、かなえ先輩だ」
まだ暗い色の上着を着た人の多い今の時期、先輩のピンク色の髪の毛は特に目立つ。
遠くてよく声は聞こえないが、どうやら園児たち以上にはしゃいでいるように見えた。
表情豊かで朗らかで、ちょこんとした先輩の姿は、まるで小動物のようだ。またあの小さな体から全力で繰り出される「ボケ」には、いつも呆れながらも反応せざるをえない。
子犬が遊びたそうに走り寄って来たら、たいていの人はどんなに忙しくても構ってやりたくなるだろう。
同じように、私にとって先輩はほうっておけない存在だ。
にわかにボビー園長が後ろを振り向いた。
虚を突かれて、私はとっさに人影に隠れてしまった。
今彼らと合流するのは面倒だという気持ちが働いたのか、あるいはこの尾行をもう少し楽しんでいたいと思ったのか、自分でもよくわからなかった。
しかしこのとき、隠れてしまったことへの後悔の念に苛まれたのは、疑いようのない事実だった。
それからしばらくは、先輩たちの方をあまり見ることができなかった。
園児たちが先輩を引き留めようと騒ぐ声や、駅まで一緒に行くから安心して、となだめる先輩の声が耳に入ってきたようだったが、人にぶつからないように歩くことで精いっぱいになっていた私には、まったく聞こえていないも同然だった。
目の前の男性がゆるやかに歩みを止めた。ふと前を向くと、赤信号の先に駅前のモニュメントが見え、安堵した。
早く家に帰って、この重い荷物を置いてしまいたい。
周りもやはり疲れた顔で駅の方向を見ていて、会話もあまり聞こえない。
園児たちも体力が尽きたらしく、はしゃいでいる子どもはもう少ないようだった。
かなえ先輩は園児の手を引きつつ、まだ元気な子どもの面倒もみている。先輩の声は特徴的で、大声でなくても遠くによく響く。
無口な集団の中で先輩の声だけがよく聞こえ、私は少し気恥ずかしかった。
しかし先輩も、一日中幼稚園児の相手をして疲れているはずだ。
それにもかかわらず先輩は、力尽きようとしている子どもたちを励まし、笑わせ、明るくふるまっている。
私は前にもこのようなことがあったことを思い出した。
信号が変わり、集団がゆっくりと動き出す。冬に先輩が風邪をひいたことがあった。普通風邪の時はなにもかも気力が出ず、自分のことで精いっぱいになってしまうものだが、その時も先輩はいつも通りボケ倒し、いつものテニス部の空気を保ってくれていた。
向こうから横断歩道を渡ってきた男性に軽くぶつかった。
謝ろうとしたものの、突然のことだったのでうまく口が動かなかった。
しかし男性の方も気にせず行ってしまったようだったので、私の意識はすぐに先の考え事のほうに向けられた。
今まで確かに感じながらもうまく言葉で考えられなかったことが、次々と形をなしていく。
先輩への「ツッコミ」を私はそれなりに楽しく感じている。
しかし同時に、しょうがない先輩だけれども、ほうっておけないから「ツッコんであげる」という気持ちもあった。
ところが、ペットのハムスターを眺め、この子は自分が養ってあげないとダメなのだ、と困り顔で笑う人は、その実、ペットの健気さや愛嬌に心を生かされているのだ。
そして先輩の「ボケ」は、先輩の賢さとやさしさあってのものだ。
私はそのことを忘れていないだろうか。
先輩のやさしさに、過剰に甘えてしまっていないだろうか?
ここでふと我に返る。
私はポシェットの口を閉めわすれていなかったか。急激に鼓動が早まり、すぐさま中身を確認する。
財布が見つからない。
振り返り今ぶつかった男を探すが、横断歩道を渡る人の流れに邪魔をされる。
引き返そうとするも、信号は無情にも赤に変わってしまった。呆然とたたずむ私の前を、車が激しく行き交う。
こうなってしまってはもう、交番に急ぐほかなかった。
はたして交番に行ったところで解決になるのか疑問に感じながらも、勝手の分からない街で交番を探した。
園児たちのことやかなえ先輩のことはもう頭に残っておらず、無力感だけが心と体を支配していた。
交番が見つかったころ、すでに日は落ちていた。街燈が人々の姿をくっきりと照らし出す。
すれ違った人が心配そうに私の顔を見たようだった。ショッピングバッグは、前の何倍にも重く感じられた。
「ユリちゃん!ユリちゃん!」
後ろから唐突に名前を呼ばれた。その声はとても聞きなれた声で、私は思わず泣きだしそうになってしまった。
かなえ先輩は息を切らしてこちらへ駆けてくるなり、私の前に何かを差し出した。それは私の財布だった。
「先輩、どうしてこれを」
なぜ私がここにいるのがわかったのか、私が尾けていたのに気付いていたのかなど様々な疑問が頭を駆け巡った。
しかしまず初めに私の口から出たのはやはり、すられたはずの財布が今かなえ先輩の手の中にあることへの疑問の言葉だった。
「これはね・・・」
先輩が呼吸を整える。
「これはね、ユリちゃんの匂いを追いかけてたら見つけたんだよ!」
「先輩は犬なんですか!?・・・あとその財布、ぼうっと歩いてた時にスられたんだと思ってたんですが」
「落ちてたよ、けどここらへんはスリ多いし、これからは気をつけなきゃだよユリちゃん!聞いてるのユリちゃん!」
「先輩、それ私じゃなくて私の財布です」「でも本当にありがとうございます、かなえ先輩」
先輩は、先ほど私に尾けてられていたことを知らないはずであり、なぜ先輩がこの街にいるのかと問わない私に疑問を抱くはずだった。
しかし先輩と私は、お互い特にそういった質問もせず、いつも通りのやりとりをしながら一緒に駅へ向かって歩いて行った。
「そんなわけで昨日は映画見なかったんだよね」
「珍しいですね。あ、それってえーと、そうだ、“Intermission”ってやつですか?」
「そうそう、そんな感じ!よく知ってるね」「あ、見て。すごい並んじゃってるね」
駅のホームに上がると、すでに多くの人の列が伸びていた。
「あの寝袋もった子の後ろに並ぼうか」
「先輩はラケットバッグで寝るんですか!?」
前に並んでいる女の子は、兎亀中学校テニス部三年と書かれたジャージを着ていた。
この子も四月から、高校でテニスを続けるのだろうか。彼女を見ていると、高校に入ったばかりのころの自分を思い出す。
思えばかなえ先輩は、初めて会った時から私に対してボケまくっていた。
変わった人だとは思ったものの、嫌な感情は抱かなかった。
むしろその時からかなえ先輩に惹かれていたという気さえする。
ここでふと、なにか心につかえていたことが、すっと腑に落ちた感覚を覚えた。
横断歩道を渡りながら考えた、先輩への私の態度のことだ。
先輩のことを何も知らなかったあの頃、あの「ボケ」は、完全な生来の、いわゆる「天然」の振る舞いだと思っていた。
その時の私は確かに、先輩のやさしく賢い「ボケ」に甘えていたと言える。
しかし先輩もそんな私とのやりとりを楽しんでくれていたし、私も今までずっとそう考えて、この楽しい、安心する関係を続けてきたのだ。
先輩の「ボケ」を、先輩の人格の表れだとか賢さそのものだとむやみに尊ぼうとすることは、この心地よい関係を壊してしまうのではないか?
そうだ、先輩のさらなる魅力を感じることができるようになった今だからこそ、先輩との日常を自然に楽しむのだ。
私は、肯定感と嬉しさで胸がいっぱいになった。
「ユリちゃん、電車来たよ!」
現れた電車は人であふれていた。
ホームには憂鬱そうな空気が流れたが、私の心はそんなことはおかまいなしに、これ以上なく晴れやかだった。
「先輩、つり革につかまるとかえって倒れやすくなりませんか」
「そんなことないよ!私だって少しは身長のびたよ」
そう言い終えるや否や電車が急停車し、背伸びをしてつり革につかまっていた先輩は大きくよろけてしまった。
ばつが悪そうに頬を膨らませる。
「ほら、それなら私につかまってください」
先輩は少し意外そうにこちらを見たが、すぐにいつもの無邪気な笑顔に戻って、私に抱きついてきた。
「ありがとね、ユリちゃん!」
車内放送が、亀井戸に近いことを知らせる。明日からまた学校だ。いつも以上に明日が楽しみに感じられた。
「先輩、つかまっていいからって変なところ触らんでください!」
~ 先輩とINTERMISSION おわり ~
「ほら、それなら私につかまってください」
先輩は少し意外そうにこちらを見たが、すぐにいつもの無邪気な笑顔に戻って、私に抱きついてきた。
「ありがとね、ユリちゃん!」
車内放送が、亀井戸に近づいてきたことを知らせる。明日からまた学校だ。いつも以上に明日が楽しみに感じられた。
「先輩、つかまっていいからって変なところ触らんでください!」
~ 先輩とINTERMISSION おわり ~
それでは各位、買って支えて続けさせましょう。
さようなら。
おつ
おつ
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