姫「勇者と亡者が私を助けにやってきた」(27)


―魔王城―

勇者「姫っ! 助けに来たよ!」バタンッ

姫「!」

姫「ああ……あなたが勇者様なのね? 私を助けに来て下さったのね!」

勇者「そうだよ、姫。魔王はこのボクが倒した。ケガはしてないかい?」

姫「ええ、幽閉されていただけだから大丈夫よ」

勇者「よかった……!」ギュッ…

姫「こちらこそ……」ギュッ…


姫「……」

勇者「ん? どうしたんだい?」

姫「あちらの方は?」

勇者「ああ、あいつかい? あいつはボクの付き人のようなものさ。気にしないで」

勇者「よく絵画に描かれてる亡者みたいだろ? だけど一応、あれでも生きてるんだ」

姫「そう……」





亡者「……」


勇者「さぁ、帰ろう! 王様やみんなが待つ、王都へ!」

姫「ええ……そうね」チラッ





亡者「……」


―城―

王「勇者よ! よくぞ魔王を倒し、我が娘を助けてくれた」

勇者「いえ、こちらこそ王様のお役に立てて光栄です」

王「ふむ……これほどの大手柄を立てても、その謙虚さとは、あっぱれな心意気」

王「おぬしなら人格も家柄もワシの娘に釣り合う!」

王「どうだろうか……ワシの娘をもらってはもらえんだろうか」

勇者「私も……実はそれを望んでおりました」

王「そうかそうか! その正直なところがまた素晴らしい!」

王「ならばこの国の建国記念の日である一週間後に、盛大な披露宴を行おうではないか!」

勇者「ありがたき幸せ!」

姫「……」


……

勇者「姫! どうして……どうしてボクと一緒に寝てくれないんだい?」

姫「……」

勇者「ボクとキミはもう結婚する仲なんだ! 恥ずかしがることはないんだよ! さぁ!」

姫「……ごめんなさい」

姫「私、どうしても心の中に何かが引っかかっていて……!」ダッ

勇者「姫っ、待ってくれっ!」


―城下町―

姫「……」ハァ…ハァ…

姫(勇者様から逃げているうちに、町に下りてきてしまったわ)

姫(早く戻らなきゃみんなに心配をかけてしまうけど……)

姫(今は一人になりたい気分だし、しばらく散策してみようかしら)スタスタ…


―町外れ―

姫「!」ハッ

姫(あの方は……勇者様と一緒にいた――)





亡者「……」


亡者「……」ガサゴソ…





姫(こんな町外れで、一人きりでボロ小屋に暮らしている……)

姫(勇者様の付き人だったのに、どうして今はこんな暮らしを……)

姫(あの方っていったい何者なのかしら……?)


亡者「……」スパーンッ





姫「!」

姫(ものすごい剣さばきで薪を割った!)

姫(あの方……もしかして!?)

姫(私の心の中にずっと引っかかっていたのは、もしや、あの方……!?)


―城―

姫「じいや……」コソッ

執事「姫様!? なぜこのようなところに!? みんな心配しておりましたぞ!」

姫「ごめんなさい……。だけど少しだけ時間をちょうだい」

執事「それはかまいませんが」

姫「私、じいやなら信頼できる……。これから私の尋ねることに正直に答えて」

執事「は、はい……なんなりと」

姫「……」

姫「勇者様と一緒に私を助けに来てくれたあの方……いったい何者なの?」

執事「!」


姫「……」

執事「……そのご様子では、おそらく察しはついているのでしょうな」

姫「ええ」

執事「お察しの通り、あの方こそ“真の勇者様”でございます」

姫(やっぱり……!)


執事「あの方は魔王を倒すためにそれこそ血のにじむような鍛錬をされました」

執事「しかし、その結果、あのような亡者を彷彿とさせるお姿になってしまったのです」

執事「そして、あの方の存在を知る人間が少ないのを幸いにと、陛下はご決断されました」



王『ワシはあのような者に“勇者”の称号を与えたくはない!』

王『戦いはあの者にやらせるとして、別に“勇者”を立てることにする!』

王『外見も家柄も人柄も、全てが“勇者”に相応しい者をな』



執事「――と」

姫「なんてひどいことを……!」


姫「ようするに、魔王を倒したのはあの方ということなのね?」

姫「そしてその手柄を全部、あの勇者様に奪われる形になったということなのね!?」

執事「……そういうことです」

執事「もちろん、陛下はこのことについて固く口を閉ざすよう命じられました」

姫「分かったわ……。ありがとう、じいや」

執事「姫様……」


勇者「やぁ、姫! 捜したよ!」

姫「……勇者様」

勇者「そんな青ざめた顔してどうしたんだい? キミには笑顔が一番よく似合うよ!」

姫「勇者様……あのね」

勇者「?」

姫「私……全てを知ってしまったわ」

勇者「な!? だ、誰に聞いたんだ!? そっ、そんなのデタラメだよ! ウソだ!」

姫「今の反応で確信してしまったわ、勇者様」

勇者「うぅぅ……」


姫「ごめんなさい……」

姫「あなたが悪いわけじゃないのは分かってるけど、もうあなたと一緒にはいられない」

勇者「姫っ! ま、待って――」

姫「ごめんなさいっ!」タタタッ



勇者「姫っ! 姫ぇぇぇっ!」

勇者「姫ぇぇぇ……」ガクッ


姫(今行きます……!)タッタッタ…



姫(全てを奪われたあなたのもとへ、参ります!)タッタッタ…



姫(真の勇者様……!)タッタッタ…


―町外れ―

姫「勇者様っ!!!」ザッ





亡者「!」


姫「勇者様……ついさっき私は全ての真実を知りました」

姫「魔王を倒したのは……私を助けて下さったのは……あなたなのですね?」

亡者「……」

姫「どうか……どうか私と一緒になって下さいませ!」

亡者「それは……できない」

姫「どうして!? 私はすでにあの勇者様に別れを告げてきました!」

姫「お父様だって私が説き伏せてみせます! 絶対に!」

姫「もはや私たちの仲を引き裂くものは、どこにも存在しないのです!」

亡者「あ、いや……そうじゃなくて……」


亡者「こっちにも……選ぶ権利ってあるし……」

姫「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」










―END―

シリアスなSSだと思ったのに…
一体どんな姫なんだろうw

なんつーオチだw


こういうのホント好き

泣いた

唐突な正論!!!
いいオチだったw

亡者が幸せそうで何より

これは見事

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