逢魔が時、虫どもはさざめき、木々は笑う。
一寸先は闇という状態で、頼りになるのは手元の懐中電灯のみ。
男は闇に呑まれないように、呟いた。
「エロ本ぐらい、いいじゃねえか」
妹に発見されたエロ本は例外なく風呂の燃料となる。そして、昨日にはオレの部屋全てのエロ本が捕らえられ、灰と化した。
魔女狩りよりも徹底している。
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本部以蔵かな?
なので今夜は、その補充に向かうところだ。
妹が眠ったことを確認してから、500円玉と懐中電灯を握りしめて外へ飛び出した。
1キロ弱離れた、販売機を目指して。
夜の田舎は意外と騒がしい。特に夏はそうだ。
それに紛れるように獣は目を光らせて、息を[ピーーー]。獲物に気取られないために。
オレは絶えず周囲を警戒していた。
脅威となる野犬、猪、熊。そして、人間に怯えていたのだ。
本部かな?
販売機まで、あと半分という距離に達したとき
イヤァァー。
目の前の闇がそう、叫んだ気がした。
男「うそ、だよな」
言葉とは裏腹に、手にはじっとりと冷や汗が浮かんだ。心臓はドラムのように鳴り響く。
闇は目の前に広がったままだ。
なにも、答えない。
つぎの獲物がやってくるのを待っている。
男「くそが…」
オレは右手の包帯をするするとほどいた。
オレの武器はこれしかない。
手をかたどっていたはずの紅色の細胞が一斉に分裂し、巨大化する。
それは長さ一メートル程度の槌となって、肩からぶら下がっている。
何度か素振りをしてから、オレは闇へと踏み込んだ。
なるほど本部か
それ以外で守護ると書いてまもると読ませる人は痛い中二病
本部なら納得
とうとう本部がssになる時代がきたか
なんだ、この臭い。
それは鼻がひん曲がるほど酸っぱく、そして腐った臭いだった。
手で鼻を覆いながら、懐中電灯を前へ走らせる。
むかって左方は田んぼが広がっており、見通しが良い。だが右方は山に繋がるため、急傾斜になっている。その上、頭上を覆わんとばかりに木々がしなだれているせいで、視界はすごぶる悪い。
もし、獲物を襲うとしたらまず右方へ身を隠すだろう。
そうして、通り過ぎるのを待ってから
無防備な後ろから襲う。
安全で確実だ。
いつの間にかオレは狩られる側になっている。
誘き出されているんだ。
オレは懐中電灯をけして、立ち止まった。
それは逃げるためではない。
腐臭と夜目に慣れるためである。
一方的に片手を封じられ、位置を悟られるのはあまりに不利だ。
そして、慣れたら右手の槌を縮めて、元の腕のサイズにした。
これらからやることには、邪魔である。
そうして息を整えたら、準備は完了だ。
前を睨んで、全速力で駆け出した。
なりふり構わず、ただ前へ、前へ。
周りの景色が後ろへ流れてゆく。
一息で進めるだけ進んだら、停止して物音を探る。
全速前進&停止を繰り返す。
どこかに潜んでいる何ものかも、これには手を焼くはずだ。
全速前進している間は、こちらは盲目状態だがむこうはこちらに追いつかなければならない。
そして、停止したときに物音をたてれば、即座に近寄って右手の槌でつぶしてやる。
4回目の全力疾走、突如二つの影が目の前に現れた。片方は、無防備に倒れ込んでいた。
もう片方は四つん這いになって、それに跨がっている。
それは獣の性行為か、補食行為のどちらかに見えた。
だから、オレは勢いのままに跨がっていた奴を右足で思い切り蹴っ飛ばした。
ドガッ!
肉と肉がぶつかり合う鈍い音がして、そいつは転がっていった。
一方、オレのほうもバランスを崩して倒れ込んだ。地面に頭を打ちつけると
土の匂いと、化粧品の香りが鼻孔をくすぐった。
オレは痛みをこらえながら、立ち上がろうとして気づいた。
倒れ込んでいたほうが、オレの学校と同じ制服を着ていることに。
紺色のブレザーとスカート。女の子だ。
そして、その服は所々引き裂かれていて、下着や彼女の柔肌を露出させている。
それはひどくおぞましい光景だった
アイツがこの子を襲ったに違いない。
アイツ、つまり跨がっていたやつの姿を求めて、目を凝らす。
いた。距離はわずか5メートルといったところ。
過度に肥大した肉体を揺らしながら、肉塊に埋没した目で、こちらの様子を伺っている。
特に、オレの右肩からぶら下がった槌が気になるようだ。紅色の肉で造られたそれは、アイツの肉体と同じ材料でできているからな。
同類かどうか、判断を決めかねているのかもしれない。
奇妙な沈黙が、オレとアイツの間で流れた。
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