男「俺vsコンビニ店員」(30)
休日、昼下がりのコンビニ――
客は俺の他には主婦と老人がいるのみ。
男(水とアイスクリームと牛丼と……あとブレスケアも買っておくかな)
男「お願いします」ゴトッ
店員「ありがとうございます!」
店員「ポイントカードはお持ちですか?」
男「持っているさ……」
男「大量になァ!」バッ
俺は財布からカードを十数枚取り出すと、それらを勢いよく投げつけた。
シュババババッ!
店員の体に鋭く研がれたカードが突き刺さる。
グササササッ!
店員「ぐおおっ……!」
店員(なんて威力ッ! カードだけに、ガード不可……ッ!)
店員「やるな……」ニヤ…
店員「しかも……こんだけカードがあって、ウチのポイントカードが一枚もねえでやんの」
店員「ひでえ話だぜ……」
男「このコンビニのカードは作ってなかったからな……」ニヤ…
店員「さてと……オレのターンだ……」
男「来るがいい」
店員「こちら温めますか?」
店員が手に取ったのは、なんと牛丼ではなくアイスクリーム。
男(こ、こいつ……ッ!)
男(なんて露骨な挑発行為ッ!)
男(国境スレスレで核実験を行うが如き蛮行ッ!)
男(だが……ッ! いいだろう、乗ってやる!)
男「お願いします」
店員「かしこまりました」
店員「レンジで――珍ッ!」チンッ
男「うわぁぁぁ、なんだこりゃあ……!」
男「ドロッドロに溶けてやがる……ッ!」
残虐非道のマイクロ波によって、無残な姿になったアイス。
狼狽する俺を見て、店員が下劣な笑いを浮かべる。
店員「ヒャハハハハハハハハハハァ!」
店員「アイスってのはなァ、温めると溶けるんだよォォォ! 勉強になったろォ!?」
男(こ、こいつの頭脳……東大級ッ!)
男「――ん?」ペロッ
男「いや、案外うめえぞ、これ」
男「熱により温まったアイスが、ヒートでホットな旨みを生み出してやがるッ!」
男「たとえるなら……溶けたアイスの中にいた恐竜ッ!」
店員「な、なんだとォォォォォ!?」
店員「レジ打ちはしょっちゅうミスるが、こんなミスは初めてだぜ……!」
店員「どれ、オレも食ってみるか……!」
店員「うめぇぇぇ!」
男「な? 結構イケるだろ?」
店長(フッ……あいつめ、店の商品を勝手に食いおって……)
店長(ま、今回だけは特別に許してやるがな……)
えぇ・・・(困惑)
店員「戦闘再開だ……次は水を温めてやるッ!」
男「フッ……」
男「水を温めたところで、お湯になるだけッ! 大したダメージにはならねぇぜ!」
店員「残念だったな……」
店員「さらに温めると水蒸気になるッ! 理科の授業で習わなかったかい……?」
男「バ、バカな……ッ!」
温められた水は、哀れ気体となってしまった。
店員「そしてェェェェェ!」
店員「水蒸気は雲となり、雨となって大地へと還るッ!」
店員「しかも昨今の環境汚染の影響で、pH2未満の酸性雨が降り注ぐッ!」
ドザァァァァァ……!
男「ぐあああああっ……!」ジュワァァァ…
強酸の雨が、俺の肉体に大ダメージを与える。
主婦「傘を持ってきておいてよかったわ」バサッ
男「やるじゃねぇか……」
男「だったら、俺は“追加注文”をさせてもらうッ!」
店員「どうぞ」
男「おでんください」
店員「おでんッ!?」
男「そう、O・DE・Nッ! Organized DEath Navigation!」
店員「おのれ……ッ! だが、いいだろう! 望み通りおでんをくれてやるッ!」
店員「おでんとは、漢字と書くと“御電”!」
男「なにッ!」
店員「すなわち、電気の敬称ッ!」
男「なにィッ!」
店員「ゆえに、1000万ボルトの電気を喰らえッ!!!」
バチバチバチバチバチッ!
強烈な電撃が俺を襲う。完全に計算外であった。
男「ぐおああぁぁぁぁぁ……ッ!」バリバリバリッ
店員「オレの辞書に“節電”の文字はない」
店員「そろそろトドメを刺してやろう」
男「ぐっ……!」
店員「…………」スッ…
ビニール袋を取り出そうとする店員。
しかし、すかさず俺は――
男「あ、袋いりません」
店員(なっ……!? ビニールキャンセルッ!?)
略して、ビニキャン!!!
老人「ほう、まだ若いのにあの技を使えるとは……」
男「どうする? その使い道がなくなっちまったビニール袋をよ……へへへ……」
店員「だったらよォ……」
店員「てめえに被せてやらぁっ!」バサッ
男「うぷっ!」
俺の頭にビニール袋が被せられた。
店員「さぁさぁさぁ! 窒息しちまいなァ!」
男(息が……できない……ッ!)
店員「もがけ、あがけ、苦しめぇ!」
店員「気分は……宇宙空間に放り出された宇宙飛行士ってとこかァ?」
店員「NASAの人間なら耐えられるだろうが、ただの人間であるアンタにゃ耐えられまいッ!」
店員「ヒャハハハハハハハハハハァ!」
男(く、苦しい……!)
男(息ができない……! 呼吸ができない……ッ!)
男(呼吸……そうかッ!)
俺は起死回生の名案を編み出した。
男「ブレスケアッ!」
男「俺の呼吸(ブレス)をケアしろォォォォォ!」
ブレスケア「了解(ラジャー)!」ビュオッ
店員「し、しまった……ッ! こいつにはブレスケアがあるのを忘れてた……ッ!」
ブレスケアがビニール袋を破ってくれたおかげで、俺はどうにか九死に一生を得た。
つまり、相手の切り札を破ったことになる。
男「空気がこんなにおいしいものだとはな……」スゥゥ…
男「“窒息は最高の調味料”とはよくいったもんだ」
男「さぁ、もうお前に打つ手はないはずだ!」
店員「ぐっ……!」
男「いくぞ……」ジリ…
店員(なにがくる……なにがくるッ!?)
男「福沢諭吉、召喚ッ!」
俺はゆっくりと一万円札を取り出した。
福沢諭吉「天は人の上に人を造らず……しかし金は人の上に人を造るッ!」
店員「ぐぅおおおあぁぁぁぁぁっ!!!」
店員「一万円、入りまっすゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
あわてて計算を開始する店員。
店員「えぇと……釣銭はいったいいくらになるんだ……!?」
店員「3000……4000……5000……。ろ、6000……!?」
店員「な、7000……はっ、8000……!? バカな、まだ上昇する!」
ボンッ!
あまりに巨大な数字に対応できず、レジのコンピュータが爆発した。
店長(いかんッ! まだ未熟なあやつでは万札には対応できんッ!)
男「――勘違いするな」
店員「え?」
男「釣りはいらねぇ……とっときな」スッ…
俺は万札を店員の胸ポケットに入れた。
過不足・・・か
店員「な、なぜだ……! なぜ情けをかけた!?」
男「情けをかけたんじゃあない……」
男「俺はアンタがよりすごい店員になることに賭けたのさ!」ビシッ
男「その万札はチップだ……もらっといてくれや」
店員「ぐ、ぐぐぐ……ぐぐぐっ……!」
店員「ありがとうございましたァァァァァ!!!」
店員「またお越し下さいませェェェェェ!!!」
男「フッ……また買い物しにくるよ」
号泣する店員を背にして、俺は自動ドアから店を出た。
しかし、俺は当分このコンビニで買い物はできないだろう。
なぜなら――さっき渡した一万円札は俺の全財産だったのだから……。
< 完 >
乙
このコンビニ24時間睡眠無しで営業してそう
見守る店長の男気よ
俺はお箸いりません、おはキャンを発動するぜ!
乙!
笑ったぜ
さりげに主婦の主婦力、たけえ
乙
なんか俺がおかしい気がしてきた
このSSまとめへのコメント
なんだこれ。
ちょっと面白いじゃねぇか