デブ「ポテチとコーラが飲みたいお…」(447)
デブ「けどデブがそんなデブエサを買ってたら店員さんに笑われるお…」
デブ「けどポテチ食いたいお…」
デブ「いくか」
ドタドタ
ウィーン
店員「いらっしゃいま……せー」
デス(あああやっぱりデブはこういう目で見られるんだお)
デブ(とっととポテチとコーラとファミチキ買って帰るお)ガサゴソ
デブ(うわ…レジ混んでるお。こんなもの持って並んでるとデブ(笑)ってお客さんからも笑われるお)
デブ(はやく順番こないかなぁ)
店員「2番目にお待ちのお客様どうぞー」
デブ(うわああああ俺だお! こういうの目立つからやめてほしいお!)ドサドサ
店員「いらっしゃいませ。当店のカードはお持ちですか?」
デブ「あ、いえ。あの、ファミチk」
店員「失礼しました。2点で386円になります」
デブ「…………」 チャリン
店員「丁度お預かりします。レシートはよろしかったですか?」
デブ「あ、いえ…」
店員「失礼しました。ありがとうございましたまたお越しくださいませ」
デブ(なんとか買えたお…。店員さんも会計の時は普通にしてくれたし良かったお)
店員2「ねえ、今のアレ……クスクス(小声)」
店員「こら、お客様のことそんな風に笑っちゃ…フフッ(小声)」
デブ(もう二度とこのコンビニには来ないお)
デブ「型あげポテトとメロンパンと三ツ矢サイダーが食べたいお」
デブ「けど昨日みたいに笑われるのはごめんだお」
デブ「けど食べたいお。ちょっと遠いけど別のコンビニに行くお」
ドタドタ
ウィーン
店員「らっしゃーせッ↑!?!?!?!?」
デブ(あからさまに動揺してるお…)
デブ(友達いっぱいいて彼女もいて同棲までしちゃってそうなリア充っぽい店員がこっちチラチラ見てるお…)
デブ(出ていきたいけど入ってすぐ何も買わずに出るのも目立つお…)
デブ(仕方ないから買うお)ドサッ
店員「…っしゃせッ(プルプル)」
デブ(完全に笑いをこらえているお。店長はバイトに何を教えてるんだお)
店員「えっと、ウグッ、型あげポテト3点、9代目メロンパン5点、三ツ矢サイダー2L1点で、計1328円になります…ッ」
デブ(何故商品名を言う必要があるんだお…。この店員失礼すぎるお)チャリン
店員「2千円お預かりします。672円のお返しです」 チャリン
店員「ありがとうございましたー…ゥフヒッww」
デブ(いくらなんでもひどいお)
デブ「ミスタードーナツのエンゼルクリームが食べたいお」
デブ「近所のミスドはお客さんも多くて忙しいから」
デブ「きっと僕なんか笑っている暇なんかないはずだお」
デブ「早速行くお」
ドタドタ
ウィーン
店員「いらっしゃいませー!」バタバタ
デブ(やっぱりだお。ここはいつも忙しいお。店員さんはこっちを見る暇もないお)
デブ(安心したら余計腹が減ったお)
デブ(久しぶりに来たけど美味しそうだお。どれを買うか迷うお)
デブ(エンゼルクリームは絶対だお。あとゴールデンチョコも必須だお)
デブ(ミスドに来たらポンデリング全種類は鉄板だおね)
店員「いらっしゃいま……え?」
デブ(え?)
店員「ちょ、ちょっと手伝って!」
店員2「へ?こっちも忙s……え?」
デブ(な、なんだお。なんでみんな僕を見ているんだお)
デブ(確かにデブかもしれないけどそんな目で見るなお)
店員「えー、48点で6065円になります…」
デブ(ちょっと少なかったかお)チャリン
店員「7千円お預かりします。935円のお返しです。少々お待ちください」
ガサゴソ
店員2「お待たせしました。こちら商品になります」
デブ「どうもだお」
デブ(他の店員さんにヘルプ頼んだ時は焦ったけど、忙しいから仕方なかったんだおね)
店員「私、箱5つも使ったの初めてです…(小声)」
店員2「時々いるのよね。ああいうの。それも忙しい時に限って(小声)」
店員「…あれ、1人で食べるんですかねぇ…(小声)」
デブ(なんでみんな悪口ばっかり言うんだお)
デブ「外界の醜い心を持つ人間どものせいで、僕の繊細なハートはズタボロだお」
デブ「もう外で買い物はできないお」
デブ「amazonでポチろう」
ピンポーン
佐川「佐川急便でーす。お荷物届いてまーす」
デブ「はいはいだお」
ドコドコ
ガチャリ
佐川「えーと、amazonから8箱届いてますね」
佐川2「何買ったんスかwww めっちゃ重いッスよwww」
佐川「おい失礼だぞ。ではこちらにサインを」
デブ「あ、はい」
カキカキ
佐川「ありがとうございましたー」
佐川2「どうもっしたーwww」
デブ(あの若い方の配達員、言い方悪いけどうざいお)
デブ(大体察しはついてるのにいちいち聞いてくるのが嫌だお)
デブ「まあいいお。荷物を届けてくれたことに感謝するお」
ガサゴソ
デブ「冷凍ピザ25食セットにコーラZero30本セット、その他食物が届いたお!」
デブ「早速食うお!」
デブ「3日でなくなったお」
デブ「1週間は持つと思ってたのに、意外と量少ないんだおね…」
デブ「倍量ポチるお」
ピンポーン
佐川「佐川でーす! お荷物届いてまーす!」
デブ「はいだお」
ドスドス
ガチャリ
佐川「またamazonからきてますよwww 今度は何買ったんスかwww あ、サインオネシャス」
デブ「か、関係ないお」カキカキ
佐川「フヒッwwwサーセンwww」
デブ(この配達員苦手だお。悲しいけど佐川は控えるお…)
力士、巴真実さん(15)。
,'.: 〃 ,:1 , __/ // / } , ',
__彡ァ 乂_ノ :! ,′ ./ ̄/7=‐.、__ノノ ,'∧ '
.. / /i::, { 彳ア:::抃< ( (、__,/' i }
,'/リ., ,イ ./`¨´i.|:∧. 、 .c弋匕Z_ >、_`ヽ、」 ,'
_彡'厶イ./iヽ,′ |:::∧ {?Y// ア:::抃、 | /
/ i|:::{: `(( .?Y .)) ‘ 弋匕Zっ /
/ ∨:、 }}_口_{{ ,_-‐- 、 / //
. i.| ∨:\ .γ´,...-‐-ミメ、 └‐―-、、、 .辷´五ニ=一、
. ヾ、 \,:´,´./ ,.-‐-、.刈ハ. `~ / \
-‐…‐-'_ヾ / l l. {::::::::::::} l l≧:.. ___.... -‐=¬=-、― _....___〉
. / { /.Y¨Y .ゞ.,`=‐-‐ 彡.1辷7―‐-/ ∨―‐- 、
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. | >'´`ヽ:. /.i⌒i:::::::::::::::::::::::::::::::|/⌒) ( , -―- j ./
\! .Уヽ (./ ./:::::::::::::◯:::::::::::::! / ∧/ , -‐-、. \ 〈‐‐-、 j
. / ヾ .〈 ヾ::::::::::::::::::::::::::::::! 入 _〈_/ \ \ ∨_)'
――――「お菓子が脂肪を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない!!」
デブという設定は当初から明らかにされていなかったが、
その見事な肢体のパンパン張りと肉の垂れ下がり、直ぐに発砲する高血圧特有の気性の荒さ、そして腹の太さに痛々しいまでの厨二病っぷり、肥満のヲタクファンからは「同胞ではないか」と言われていた。
好きな物は三食のケーキ。特技は三食ケーキ。三食ケーキ。すりーけーく。ティロ☆フィナーレ。
-1週間後-
デブ「流石に腹減ったお」
デブ「冷蔵庫の蓄えも米も底を突きたお」
デブ「体重計ったら500gも減ってたお…」
デブ「けどコンビニもミスドも行けないお。マックとかは学生で溢れかえってるから行きにくいお」
デブ「どうしよう」
デブ「ググるお」
デブ「近所に小さなスーパーがあるお。そこに行くお。ついでにアイスも買うお」
ドスドス
ウィーン
店員「いらっしゃいませ!」
デブ(か、かわいいお! こんなボロスーパーに天使がいるお!)
デブ(この子にまで笑われたら死にたくなるお…)
店員「……?」
デブ(こっち見てるお。やっぱりデブはキモいんだお。とっとと買って店を出るお)ドサッ
店員「いらっしゃいませ。商品おあずかりします」
ピッピッ
デブ(会計をしながらもこっちをチラチラみてるお…。もう嫌だお)
店員「29点で6780円になります」
デブ(冷凍食品買いすぎたお)チャリン
店員「7千円お預かりします。220円のお返しです」チャリン
店員「ありがとうざいました」
デブ(うう、すごくかわいいお。こんな子にもゴミを見るような目で見られるのかお…)
店員「あ、あー!」
デブ ビクッ
店員「思い出したよ! 俊夫くん、俊夫くんじゃない?」
デブ「な、なんで僕の名前を知ってるんだお!?」
店員「私だよ、覚えてない? 小学校のとき同じクラスだった林田だよ! 林田恵だよ!」
デブ「め、恵ちゃんかお!? 僕の知ってる恵ちゃんはもっと根暗で髪の毛もボサボサの子だったお」
恵 「し、失礼だね。あれからもう何年経ってると思ってるの? 少しは身なりに気を使うよ」
デブ「そ、そうかお…。えらいべっぴんさんになったお…」
恵 「俊夫くんこそ。見ないあいだに随分大きくなって」
デブ「それは馬鹿にしてるのかお」
恵 「馬鹿になんてしてないよ。けど、ちょっと待ってて」
パタパタ
デブ「?」
恵 「はいこれ」
デブ「惣菜かお? けどこれ高いお」
恵 「私のおごりだよ。さっき買ったものばかりだと体壊すから。少しは野菜も食べるんだよ?」
デブ「あ、ありがとうだお…(ジィン…)」
ウィーン
デブ(馬鹿にされずに心配してもらったのは初めてだお…)
デブ(この気持ちはなんだお? ハートがホットな感じだお)
デブ(恵ちゃんは心配してくれたお。お惣菜までくれたお。本当に嬉しかったお)
デブ(彼女の好意を無駄にしないためにも)
デブ「痩せよう」
-1ヶ月後-
デブ「腹減ったお…」
デブ「流石に1ヶ月乾燥わかめばかり食べていたら飽きてくるし腹も減るお」
デブ「けど体重は22kgも落ちたお」
デブ「久しぶりにスーパーに行くお」
デブ「せっかくだし走って行くお」
ドッタドッタ
ウィーン
恵 「いらっしゃいませ!」
デブ(相変わらずかわいいお////)
デブ(冷凍炒飯食いたいけど我慢してこんにゃくとかキノコを買うお)
ドサッ
恵 「いらっしゃいませ。商品おあずかりします」ピッピッ
恵 「5点で720円になります」
チャリン
恵 「800円お預かりします。80円のお返しです」
デブ「どうもだお」
恵 「今日は健康的なものばかりだったね。俊夫くんもこの間よりちょと小さくなってるし」
デブ「ダイエットしてるんだお」
恵 「そうなんだ! 大変だろうけど頑張れ!」
デブ「ありがとうだお///」
デブ「目標は80kgなんだお。元は160kgで今は138kgまで落とせたんだお」
恵 「もうそんなに落ちたんだ! 順調に行けばきっと痩せるよ! 応援するからね!」
デブ「////」
-1年後-
俊夫「やったお! わずか1年で85kgまで減量できたお!」
俊夫「急激な減量は危険みたいだけど特に無理もしなかったし、元は細身だからスルスル落ちたお!」
俊夫「そしてここに減った食費で購入した映画のチケットが2枚ある」
俊夫「早速恵ちゃんのところに行くお!」
ドタドタ
ウィーン
店員「いらっしゃい」
俊夫「え?」
俊夫「あ、あの、林田恵さんは…?」
店員「ああ、あの子かい。あの子なら結婚したよ」
俊夫「え?」
店員「なんでも大きな会社の…社長さんとらしくてね。羨ましいよまったく」
俊夫「…………」
ドサドサ
店員「うわっ! 何だい、あんたこんなに食うのかい」ピッピッ
俊夫(儚い恋だったお…)
-二ヶ月後-
デブ「わずか二ヶ月で元に戻ったお」
デブ「しかも初期よりグレートアップしてるお」
デブ「失恋によるストレスだから仕方ないお」
プルルルルル
デブ「電話だお。もしもし」
お袋「ちょっとあんた! 一流のアーチストになるって言って何年経ったと思ってるんだい!?」
デブ(ゲッ だお)
お袋「テレビでもニュースでもちっともあんたの名前は聞かないんだけど、今何やってるんだい」
デブ「え~とぉ、その、ご、極秘のプロジェクトを…」
お袋「意味わかんないよ。彼女の一人や二人できたんだろうね?」
デブ「その話はするなお」
お袋「あんたねぇ、やることないならこっち戻ってきたらどうだい」
デブ「えー。あのコンビニも無い田舎に帰るのかお?}
お袋「境さん家の息子さんが都会の一流企業に就職が決まっちゃってね」
お袋「畑仕事の人手が足りなくなったらしいんだよ」
お袋「あんたそれ手伝いな」
デブ「嫌だお」
お袋「問答無用だよ。帰っておいで」
デブ「…はいだお」
デブ「戻ってきたお。かあちゃーん」
お袋「誰だいあんた」
デブ「俊夫だお! 息子の顔を忘れたのかお!」
お袋「うちの俊夫がこんなにデブなわけがあるかい!」
デブ「ひどいお! それでも親なのかお!?」
お袋「…本当みたいだね。一体どんな食生活を送ってきたんだい」
デブ「関係ないお」
お袋「まあいい。境さん家の場所はわかるだろう? とっとと行っておいで」
デブ「少しは休ませてくれお…」
お袋「そんなだらけてるから太ったんだろう!? 働けクズ!!」
ピンポーン
境 「はいはい。…誰だい君は」
デブ「あ、俊夫ですお。何か息子さんの変わりに仕事を手伝えって言われて来たんですお」
境 「あ、あー…。え? 俊夫くん? ああ、そう、そうか、うん」
デブ(微妙な反応だお…やっぱりデブだとみんなこういう風に見るんだおね…)
境 「呼びつけておいて悪いんだが、君には畑仕事はちょっと…」
デブ「え?」
境 「できるのかい?」
デブ「や、やってみないと分からないお!」
境 「そうかい。じゃあ丁度茄子の苗を植えるところだったから、やってみてくれ」
デブ「任せろだお!」
デブ「…………」
境 「…………」
デブ(は、腹が邪魔で腕が地面に届かないお!!)
デブ(けど、あんなに大見得きったんだからなんとかしないと…)
デブ「~~~~~~~ッ!!!」
境 「もういい。帰ってくれ。仕事の邪魔だ」
デブ「」
お袋「あらおかえり。どうだった? 畑仕事は」
デブ「あ、えっと、だ、ダメだったお…」
お袋「そうかい。ま、あんたの姿見た瞬間無理だろうとは思ったけどね」
デブ(じゃあ行かせるなよ…)
お袋「まあ疲れたろう。御飯作ってやったからこれ食って帰んな」
デブ「ひどいお! ご飯はありがたくいただくけどこんな時間にどうやって帰れっていうんだお!」
お袋「今ならまだ夜行バスに間に合うだろう。家には肉塊を飼う余裕なんてないんだよ」
デブ「」
デブ「あ、あの、東京行きのバスまだあるかお?」
受付「…はい、丁度次の便で最終ですが」
デブ「よ、よかったお! まだ席はあるかお?」
受付「…一応」
デブ「じゃ、じゃあ券を貰えるかお?」
受付「…はい(ペッ)」
デブ「…ど、どうもだお…」
デブ(いくら田舎だからってこんな対応あんまりだお…)
ブロロロロロr
デブ(あ、バス来たお)
デブ(お客さんいっぱいいるおね)
運転手「それではチケットを確認しま--……す」
デブ「?」
運転手「少々お待ちください」
運転手「お、おいあれ(小声)」
運転手2「なんだよ忙しいのに…ブフッ」
運転手「あれ席乗れるか?」
運転手2「い、いけんじゃね?フハッwww」
デブ(どこでもこんな扱いだお)
運転手「失礼しました。それではご乗車ください…」
デブ(一番後ろの席おね)
のっしのっし
デブ(せまい通路おね…。夜行バスなんて若い頃に東京に上京した時以来だお)
乗客「ブハッ!!」
乗客2「ちょっとタッくんコーヒー吹かないでよ汚いなぁ」
乗客「し、仕方ないだろ、あんなの来れば(小声)」
乗客2「え? うっわ何アレ。あんなのTVでしか見たことないよ」
デブ(なんでみんな外見だけで人を判断するんだお。醜いにも程があるお)
デブ(ここが僕の席おね)
デブ(と、隣が女の子かお!? 普通こういうのは同性が隣になるようにするもんじゃないのかお!?)
デブ「よ、よろしくだお…」
女 「ん? うっわ何あんた。こんなのと一晩共にするわけ? 最悪なんですけど」
デブ「」
女 「…チッ」
デブ(今まで陰で悪口言われることはあったけど、直接毒づかれたのは初めてだお)
デブ(この子は良い子だお)
女 カチカチカチカチカチカチカチカチ(携帯を打っている)
デブ(常に携帯をいじっている、絵に書いたような女子高生だお)
運転手「では発進します。次の休憩所は0時30分頃の予定です」
運転手2「それでは皆様、ごゆるりと夜の旅をお楽しみくださいませ」
女 カチカチカチカチカチカチカチカチ
デブ(さっきからずっと携帯いじってるおね。メールでも打ってるのかお?チラッ)
女 「ちょっ! 何見てんだよ死ねよおっさん!」
デブ「す、すいません」
女 「分かればいいけどさ。あんまこっちこないでよね」
デブ「はいだお」
デブ(思ったことをなんでも言ってくれるお。良い旅になりそうだお)
デブ「ハッ」
デブ(気づいたらもう朝だお)
デブ(昨日畑仕事したから疲れてたんだおね)
デブ(隣の子は起きてるかお?)
女 「…………ッガチガチ」
デブ(? 携帯を見て怯えてる感じだお)
デブ(目にもくまができてるし、もしかして寝てないのかお?)
運転手『まもなく最後の休憩ポイントですうんたらかんたら』
デブ(丁度いいお。朝飯でも買うお)
デブ「外の空気は気持ちがいいお」
デブ「ん? あの子電話してるのかお?」
女 「…だから、それは私が悪かったって! けどそっちの勘違い…」
女 「何もしてないから! もうやめてよ!!」
デブ(な、なんだお? 修羅場とかいうやつかお?)
デブ(もしかしてあの子貫通済みなのかお…?)
女 「今夜行バス乗ってるから。あと2時間くらいでそっち戻る」
女 「ちゃんと話しようよ。ね?」
女 「……ちょ、ちょっと待ってよ! もしもし! もしもし!?」
デブ(リアルで切れた電話にもしもし言い続ける子初めて見たお)
デブ(けど、何か心配だおね)
運転手『まもなく発射しまーす』
デブ(電話聞いてたら朝飯買うの忘れたお)
ブロロロロロ
デブ「あ、あの」
女 「……なに」
デブ「さっき、電話してたけど、だ、大丈夫なのかお?」
女 「はあ? あんたには関係ないでしょ」
デブ「そ、そうだおね。踏み入ったことを聞いて申し訳ないお」
女 「ふん」
-2時間後-
デブ「ついたお。長い旅だったお」
デブ「ん? 角にガラの悪そうな兄ちゃんが集まってるお」
不良「オラァ!! てめーか梓の彼氏寝取ったって奴はヨォ!!」ゲシゲシ
不良2「ブッサイクな面してよくもまぁそんなことできたよなぁ!」ボコボコ
デブ(と、東京は怖いお…。とっとと逃げるお)
デブ(ん? あの不良に殴られてる子って…)
女 「だから勘違いだって言ってるじゃ…うっ」
不良「口だけなら何とでも言えるよなぁー? ネタはあがってんだよ」
梓 「親友だと思ってたのに。残念だよ美樹」
美樹「違うんだって! 話を聞いてよ!」
梓 「は? 何が違うの? 私の彼氏が田舎に行った日と同じ日にあんたも田舎に行った」
梓 「これ以上の証拠がどこにあるわけ?」
美樹「そんなのが証拠になるなら警察はいらないっつーの! グッ!」
不良2「言い訳はいらねぇんだよ。こっちが求めてるのは心からのしゃ・ざ・い」
美樹「わ、私はおじいちゃんが倒れたから田舎に戻っただけで、梓の彼氏になんか会ってない!」
梓 「あくまで認めないわけね。いいよあんたたち。やっちゃって」
不良・不良2「おうよ」
デブ(わわわ…なんかすごいことになってるお)
デブ「ちょ、ちょっと待つお!」
梓 「あ? 何あんtブフッ! ちょ、もしかして美樹の知り合い?」
美樹「あ、あんた…」
デブ「大勢で一人の女の子を寄ってたかって、さ、最低だとはお、思わないのか! お!」
不良「あーん? 何言ってんだこのハム」
不良2「梓ちゃーん。こいつ殺っちゃっていい?」
梓 「目が腐るからバラバラにして東京湾にでも沈めてよ」
不良「ラジャ」
デブ(こ、こわいお…。けどここで彼女を助けてデブのイメージアップにつなげてみせるお)
不良「オラァッ! 死ねデブ!!」
ドゴオッ
不良「…なにッ!?」
デブ「良い拳だ。常人なら肋骨の数本はイッていただろう」
デブ「しかし私の腹肉により貴様の拳はトランポリンで遊ぶ幼児のごとく跳ね返された」
デブ「貴様は私には勝てん」
不良2「ちょ、お前何ひるんでるんだよ!」ヒュッ
ズガァッ
不良2「嘘だろ…」
デブ「良い蹴りだ。足をすくい、敵を宙に浮かし地面に叩き落とそうというつもりらしいが」
デブ「あいにく私はそんなことではバランスを崩さない」
デブ「終わりだ」
不良・不良2「う、うぜーんだよこのデブッ!!」
ゴスッ
不良・不良2「なっ!?」
デブ「顔と股間を狙うか。漢として最悪の行為だな」
デブ「顔の肉は頬骨を守り、太ももの肉は股間を守る」
デブ「我が肉壁は絶対」
デブ「貴様らなどではとても太刀打ちできる存在ではないぞ」
不良「な、なんだよこいつ…キモすぎだろ…」
不良2「す、すまねぇ梓ちゃん、俺こいつ殴るのもう嫌だ…っつーか無理だ」
梓 「え、ちょ、は?」
デブ「逃げるのか? それでも漢か」
不良2「う、うるせーんだよデブ! じゃ、俺帰るから」
不良「俺も俺も」
デブ「ふざけるな! 散々女の子や私を殴っておいて自らは一切の傷も受けずに逃げるというのか!」
デブ「神や仏が許してもデブが許さん! くらえ私の超人必殺!!」
デブ「体当たり」
不良・不良2「ぐあああああーーーーーッ!」
梓 「なんなのこいつマジキモイんですけど…」
梓 「不良どもも使えないし…美樹!」
美樹 ビクッ
梓 「あんた覚えときなさいよ」
美樹「…………」
デウ「だ、大丈夫かお?」
美樹「あんた、なんで…」
デブ「困っている女の子を助けるのに、理由なんていらないお」
デブ(やばいお! まじかっこいいお! これでデブの株急上昇だお!)
デブ(デブが堂々と街を歩ける日も近いおね!)
美樹「えっと、その……あ、ありがとう、ございます…」
デブ「お礼なんていいおいいお!」
デブ「けどデブに助けられたことをミクシィとかツイッターに書き込んでくれると嬉しいお!」
美樹「…フフッ。あんた、見た目はキモイけど良い人なんだね」
デブ「わ、分かってくれたのかお!」
美樹「バスの中で色々失礼な態度とってごめん。謝るよ」
デブ「そんなの全然いいお! 見た目じゃなくて中身を知ってくれた子は君が初めてだお!」
デブ「お? 不良どもに殴られたせいで服とかボロボロになってるおね…」
美樹「ああ、これくらいなら平気だよ」
カチカチカチカチカチ
デブ「?」
ブロロロロロロロロキキィッ!
? 「美樹ちゃん、大丈夫かい!?」
デブ「お、お前は!」
美樹「境さん遅いよーぅ!>< いっぱい殴られちゃったー痛いよー><」
境 「ごめんね、なかなか会社を抜け出せなくて」
美樹「境さん遅かったからこのデb人が助けてくれたの><」
境 「そうかい。ありがとう。僕の大切な人を助けてくれて」
デブ「え、あ、ぜ、全然いいお…別に…」
境 「服もボロボロじゃないか。さ、乗って。使いに君の服を買ってこさせるよ」
美樹「ごめんね境さん>< ありがとう><」
美樹「それじゃね。助けてくれたことは感謝するよ!」
ブロロロロロロロロr
デブ「…………帰るお」
デブ「デブだからってだけで外を歩いたら後ろ指を刺される毎日」
デブ「恋をして頑張って痩せても、その子は他の男とケッコン」
デブ「親に帰って来いと言われてもデブってだけで出て行けと言われる」
デブ「仕事を手伝おうにもデブってだけでお払い箱」
デブ「女の子を助けても他の男とキャッキャウウフフされる」
デブ「もう嫌だお」
-1週間後-
ウィーン
店員「いらっしゃいませー!」
デブ(カラムーチョ買うお)ドスドス
店員「ちょっとあの人…(小声)」
店員2「え、マジじゃない…?(小声)」
デブ(まぁた陰口だお。もういい加減慣れないととは思うけど、やっぱり傷つくお)
デブ(カルピスも買うお)
ドサドサ
店員「いらっしゃいませ! 商品お預かりします!」
デブ(? この店員やたらとテンション高いおね)
店員「合計で1900円になります」
チャリン
店員「丁度お預かりします。レシートはよろしかったですか?」
デブ「あ、いえ」
店員「ありがとうございました。あの、」
デブ「?」
店員「かっこよかったです」
デブ「は?」
店員「東京駅での不良退治のニュース見ました」
店員「新聞では小さい記事でしたけど、見ていた人がツイッターとかで書き込んでいて」
店員「今までデブは自己管理すらできないクズで醜い生き物だと思っていましたが」
店員「かっこいいところもあるんですね。見直しました」
デブ「あ、ありがとうだお…////」
店員「ありがとうございましたー」
ウィーン
デブ(も、もしかして本当にデブのイメージアップにつながったのかお!?)
デブ(あの時の僕の勇姿は無駄ではなかったんだお!)
デブ(これで堂々と9代目メロンパンを買えるお!!)
デブ(いや、もしかしたら)
デブ(今までデブだからって行けなかったスタバとかにも行けちゃうんじゃないのかお!?)
デブ(なんてったって僕は時のデブ! 女の子を不良から助けた勇者なのだから!)
デブ「早速行くお!」
ウィーン
店員「いらっしゃいま…せ…」
客 「ちょっと、アレ…(小声)」
客2 「す、すごいのがきたわね…(小声)」
デブ(ふふん。皆が僕を見ているお。やはり時のデブは人気者だおね)
店員「ご、ご注文は……?」
デブ「えーっと」
デブ(時のデブはかっこいい。シャレオツな物を選ぶお)
デブ「えっと、この、生クリームがのってるやつ…」
店員「…ゥクッ! フラペチーノですね。こちらのキャンディオレンジフラペチーノでよろしいですか」
デブ「あ、はいそれで」
デブ(フラペチーノって変な名前だおね…)
店員「サイズはTall、Grande、Ventiのどちらにされますでしょうか」
デブ「は?」
店員「Tall、Grande、Ventiのどちらにされますでしょうか」
デブ「あーえ、えっと? い、一番おっきいので…」
店員「……ッ!! あ…ぅぐ、Venti、ですね…グッ(プルプル)」
デブ(時のデブに会えて感動なのは分かるけど日本語くらいまともにしゃべってほしいお)
店員「ご、570円になります…ッ」
デブ チャリン
店員「600円お預かりします。30円のお返しです…ッ」
店員「そちらでお待ちくださ…フハッ」
デブ(なんかこの空気いつも感じているのと同じような気がするお)
デブ(いや、僕は時のデヴ。きっと気のせいだおね)
店員2「お待たせしました。キャンディオレンジフラペチーノでございます」
デブ「あ、どうもだお」
店員2「生クリーム増量しときましたんでwwww」
デブ「あ、ありがとうだお」
デブ(ふふん。僕は時のデヴ。サービス精神が働いてしまうのだおね)
デブ(気持ちがいいおwww)
デブ(そうだ。時のデヴが来ているとなれば、きっと客寄せにもなるお)
デブ(窓際に座って宣伝してやるお)
デブ「どっこいしょっと」
デブ「初めてのスタバ。初めてのキャンディオレンジフリペーノ」
ズオオオオオオ
デブ「美味だお」
デブ「ここは格好よくフリペーノ片手に本でも読むお」
ゴソゴソ
デブ「クッキングパパの最新刊だお」
ペラペラ
ズオオオオオオ
ペラペラ
デブ「ふう。今巻も良い料理がたくさん出てきたお」
デブ「ん? お昼時なのに店内がガラガラだお」
デブ「僕が入ってきた時はお客さんいっぱいだったのに…」
デブ「何故」
店長「あの、すみません」
デブ「な、なんだお?」
デブ(もしかしてこないだみたいにかっこいいって褒められちゃうのかお!?)
デブ(モテるデブは忙しいお///)
店長「大変申し上げにくいのですが、そこに座られますと他のお客様のご迷惑になりますので」
デブ「」
店長「できれば奥の席に移動していただけますと…」
デブ「…………」
デブ「帰るお」
デブ「結局いいことをしてもデブはデブ」
デブ「飛べないデブはただのデブ」
デブ「さっきのコンビニで飛べたつもりになってたけど、それはロウの翼だったんだお…」
デブ「スタバという太陽の怒りで、僕の翼はドロドロに溶けてしまったお…」
デブ「やけ食いしてやるお」
ペラッ
デブ「あ、財布が空っぽだお…」
デブ「ATMに行っておろしてこよう…」
デブ「…あ、通帳の残高300円だお…」
デブ「子供の頃から貯めてたお年玉」
デブ「学生時代、友達と一緒に夏休みと冬休みにバイトで貯めたお金」
デブ「下積みとか言って同人の音楽活動で貯めたお金」
デブ「同人活動時代に母さんが送ってくれたお金」
デブ「アーティストの夢が敗れてやけくそになってバイトした時に貯めたお金」
デブ「その全てが僕の脂肪となった」
デブ「僕、なんでこんなになっちゃったんだろう」
? 「あれ、俊夫くん?」
デブ「あ、君は…」
恵 「どうしたの? ATMの前でぼーっとして」
デブ「ぼ、僕は…僕は……どうしたらいいんだおおおおおおおお」ダキッ
恵 「えっちょっと! は、離れてよ! こんなところ旦那に見られたら!」
? 「恵、どうしたんだい?」
デブ「お?」
境 「あれ、君はあの時の…」
デブ「境さんとこの坊主じゃないかお」
恵 「あ、紹介するね。こちら俊夫くん。小学校の時の同級生だよ」
恵 「そしてこちらは境雄大くん。私の今の旦那です//」
デブ「よろしくだお」
境 「う、うん、よろしく(キョドキョド)」
デブ「?」
恵 「それで、俊夫くんどうしたの? すごい顔してるけど」
デブ「あ、ああ。お金が底を尽きたんだお」
恵 「え? もしかして俊夫くん、お仕事してないの?」
デブ「う、うん…お恥ずかしながら。今さっき蓄えが尽きて、仕事を探さないといけなくなったんだお」
恵 「そうなんだ…。この歳で再就職になると大変だね…。そうだ、境さん!」
境 ビクゥッ!
恵 「境さん、今度会社の営業を募集してるって言ってたよね。それ、紹介してあげたら?」
境 「ん? あ、ああ、そうだね。うん(キョドキョド)」
恵 「?」
境 「ちょっと、その話をするから、恵は席を外していてくれないかな…?」
恵 「うん分かった。じゃあ、車で待ってるね」
境 「ああ、すぐ行くから。チュッ」
恵 「やだもー俊夫くんの前で! じゃあね」パタパタ
デブ(アツアツだおねー。羨ましいお)
デブ「そういや境の坊主は会社の社長なんじゃなかったのかお?」
境 「え? いや、専務取締役だけど」
デブ(あのババア店員、話盛りやがったんだお。何が社長だお)
境 「それはどうでもいいよ。今度の求人は僕が面接官で選考員だからね」
デブ「営業には自信ないけど、よろしく頼むお」
境 「それで、その。なんだ。あのことは、恵には言わないでくれ」
デブ「は?」
境 「とぼけないでくれ! こっちは必死なんだよ!!」
デブ「な、なんだお! 急に怒鳴らないでほしいお!」
境 「だから、美樹ちゃんとのことだよ! 不倫なんてバレたら僕は職を失い美樹ちゃんも退学だ!」
デブ「え」
境 「え?」
デブ「えええええーーーっ!? お前不倫してるのかお!? 最低だおね!」
境 「最低も何も君は目撃者で証人じゃないか! 何言ってるんだ!」
デブ「言われてみればあの時美樹ちゃんを迎えに来たムカつくイケメン野郎はお前だったお!」
デブ「不倫なんて人間のクズじゃないかお! 恵ちゃんがかわいそうだお!」
境 「モテる男はつらいんだ! わかってくれ!」
デブ「生まれてこの方モテたことなんてないからわかるわけーねだろうがクソが!!」
境 「君の良心で二人の人間の人生が変わるんだ! 頼む! このことは恵には…!」
デブ「頭を下げても無駄だお。そもそも境の坊主が不倫なんかしてるからいけないんだお」
デブ「君は恵ちゃんという健気で可愛らしい奥さんを裏切っていることに、罪悪感は感じないのかお」
境 「それはわかっているつもりだ…」
境 「けど、恵と美樹ちゃん。二人の美しい女性を悲しませることは、僕にはできないんだ…」
デブ「どっちにしろ二人は悲しむお。結局お前は女の子を泣かせるクズなんだお」
境 「……反論できないな、はは」
デブ「わかったらこのことを恵ちゃんに言うお。僕まで恵ちゃんを裏切るようなことはしたくないお」
境 「君はそれでいいのかな?」
デブ「え?」
境 「いまここで君が恵に僕と美樹ちゃんのことを言ったら、その瞬間、君の再就職は不可能だと思ったほうがいい」
デブ「な、なんでだお! 別に会社はお前のところだけじゃないし、バイトだってありふれてるお!」
境 「君は知っているかな? 団工社という出版社を」
デブ「日本でも有名な出版社だおね。ジンマガ毎週立ち読みしてるお」
境 「何を隠そう僕はそこの専務取締役だ。この僕はいろいろな会社に息を吹きかけることができる」
デブ「ただの出版社の取締程度がそんなに権力を持っているのかお!?」
境 「大学の友人達がこぞっていろいろな会社で成功していてね」
境 「その中にはコンビニや飲食チェーン店、パチンコ店を経営している者もいる」
境 「電話一本で君を無職にすることができる。ああもう無職かwww」
デブ「…何が言いたいんだお」
境 「このことを恵に言えば、君は仕事にありつけない」
デブ「ひ、ひきょうだお!」
境 「取引といこうじゃないか」
デブ「ぐぬぬ……」
境 「よく考えてくれたまえ。あ、これケー番ね」ピラッ
境 「それじゃ、愛する妻が待っているので失礼するよ」
カツカツ
デブ「…くやしいお」
デブ「権力の前には無力なのかお…」
デブ「世界は理不尽だお…」
デブ「境のクズと話してから三日がたつお」
デブ「運良く田舎の母さんがじゃがいもを送ってくれたから生きていられるものの」
デブ「このまま仕事につけないと電気も水道も止められて死ぬお」
デブ「境のクズを無視して就活したら、たぶんあいつはその、大学の友達に色々言うお…」
デブ「…けど、恵ちゃんをあのままにはできないお」
プルルルルルル
デブ「電話だお」ガチャッ
デブ「もしもし」
お袋「もしもし!? じゃがいも届いたね!?」
デブ「母さんか。こないだ届いたお。助かったお」
お袋「そうかい。手紙は読んだかい」
デブ「手紙?」
お袋「読んでないのかい。とっとと読みな」ガチャッ
デブ「な、なんなんだお…」
ガサゴソ
デブ「あったお」
俊夫へ
こないだあんたが帰ってきたときは、冷たくしてしまって悪かったね。
だけど、あのままじゃいけないと、私は思ったんだ。
大学を卒業して、アーチストになると目をキラキラさせて東京に状況したあんたを、今でも昨日のことのように思い出すよ。
それなのに、このあいだ帰ってきたあんたの目は死んでた。
私はショックだったんだよ。
夢に敗れても、あんたならしっかりと生きていると思っていたからね。
ここで甘やかしたらいけないと、冷たくしてしまった。本当に悪かった。
もうあんたは32だ。本来なら仕事も波にのってきて、嫁さんももらって、暖かい過程を築いているであろう年齢だ。
今からでも遅くない。せめて仕事にはついて、母さんを安心させておくれ。
立派になった息子の姿を、死ぬまでに見せておくれ。
P.S じゃがいもがたくさんとれました。太らない程度に食べてください・
デブ「母さん、心配してくれてたんだお…」
デブ「どうしよう…」
デブ「気晴らしに散歩でも行ってくるお…」
トポトポ
デブ「…ここ、恵ちゃんと会ったスーパーだお…」
ガラガラ
店員「あ? もう閉店だよ。帰んな」
デブ「お、おばさん、あの時のおばさんじゃないかお?」
店員「あん? あー、あんたか。恵ちゃんのストーカーの。随分太ったねぇ」
デブ「ストーカーじゃないお! 太ったのは否定しないけど!」
店員「それで? 何かようなんか?」
デブ「境の野郎は社長でもなんでもなかったお。ただの取締役だったお」
店員「知るかいそんなこと。用がないならあたしゃ帰るよ」
デブ「ちょ、ちょっと待つお!」
店員「まだなんかあるのかい」
デブ「ちょ、ちょっと相談したいことがあるお。すぐすむお」
---------
デブ「と、いうことで、僕はいまどうすればいいのか悩んでいるんだお…」
店員「そんなことあたしに言われてもねぇ…。まああたしはもう56だから、あんたの母親に同情しちまうね」
デブ「と、いうと?」
店員「あたしがあんたの母親だったら、恵ちゃんには黙ってろ、っていうね」
デブ「…………」
店員「あんたの将来がかかってるんだろう? なら多少の犠牲は仕方ない。それが母親だよ」
デブ「そんなもんなのかお…?」
店員「けど、あたしがあんたの父親だったら」
店員「我が身かわいさに目の前の悪に屈っするな! と頭をグーで殴るわい」
デブ「……!」
店員「あたしがアドバイスできるのはこんくらいだよ。あとは自分で考えな」
デブ「あ、ありがとうだお!」
プルルルルルルルルル
境 『…はい』
デブ「境かお。決心がついたお」
境 『ん? 再就職する決心がついたのかい?』
デブ「色々話を聞きたいから、境ん家に行ってもいいかお?」
境 『はぁ? 図々しいデブだな。なんで家に来たいんだよ?』
デブ「仕事の内容とか、色々知りたいんだお」
境 『チッ。しゃーねーな。住所教えるから自分で来いよ。あ、シャワー浴びてこいよ?』
デブ「ありがとうだお」
デブ(なんかこいつ口調がただのヤンキーになってるおね)
支援
デブ「ここが境ん家かお。でかいにもほどがあるお」
ピンポーン
恵 『はいはーい』パタパタ ガチャッ
恵 「俊夫くんいらっしゃい。境さんはリビングで資料広げて待ってるわよ」
デブ「ありがとうだお。おじゃましますだお」
恵 「…………?」
デブ「気にしないでいいお」
恵 「そう? けどいいの?」
デブ「いいんだお。ちゃんと後で説明するお」
境 「いらっしゃい。まあ座ってよ(ニコニコ)」
デブ(なんだお。恵ちゃんの前では猫かぶってんのかお。死ねお)
恵 「今お茶いれるね。俊夫くんはコーヒーと紅茶と緑茶、どれがいい?」
デブ「コーヒーでお願いするお。あ、ブラックでがいいお」
デブ(ブラックで大人のクールと余裕をアピールだお)
恵 「へぇー、ブラックで飲めるんだァ。私はこの歳になってもブラックは飲めないよぉ」
境 「恵は甘党だからなぁ」
恵 「もぉー。そんなことないよ。辛いのも好きだもん」
境 「ははは」
デブ(和やかな景色だおね…。一見誰もが羨む夫婦像だお)
デブ「この風景を今から僕がズタボロに引きさくんだお…」
境 「ん? 何か言った?」
デブ「いや、何も…」
デブ「…………」
境 「それじゃあ、営業部の仕事の説明だけど」
デブ「いや、そんなの必要ないお」
境 「え?」
デブ「…………」
デブ「何故なら今日は、仕事の話をしにきたんじゃないからだお」
くるぞくるぞ!
境 「……は? 何を言ってるんだ君は」
デブ「この話は恵ちゃんも関係することだお。座ってほしいお」
恵 「え? 私も?」
境 「仕事の話をしないなら帰ってくれ! 君が座ったせいでソファが潰れてしまっただろう!!」
デブ「いや、帰るわけにはいかないお。僕は恵ちゃんを裏切るようなことはできない」
境 「…………ッ」
恵 「えっと…じゃあ、その、失礼、するね」ヨッコイショ
いいぞいいぞ
境 「いいのか? ここで言ったら、君は二度と仕事にありつけなくなるんだよ」
デブ「別にいいお。今までずっと馬鹿にされつづけてきたんだお」
デブ「今更路頭にまよってホームレスとして生きることになっても全然平気だお」
デブ「あの日、恵ちゃんにもらった惣菜は、すごく美味しかったんだお」
デブ「初めて優しくしてもらえた。初めて心配してくれた」
デブ「僕は恵ちゃんを裏切ることは絶対にできないんだお」
境 「…………」
恵 オロオロ
デブ「恵ちゃん。驚かずに聞いて欲しいお」
恵 「う、うん…?」
デブ「境は不倫をしているんだお」
境 「…………ッ」
恵 「……え?」
デブ「こないだ僕が不良に絡まれている女子高生を助けたとき。彼女を迎えに来たのが境だったんお」
デブ「境は彼女を『大切な人』と言ったんだお」
デブ「彼女も境さんをとても慕っていたんだお。まるで恋人のように。いや、恋人にしか見えなかったお」
恵 「さ、境、さん……?」
境 「妄言だ」
デブ「!」
恵 「!」
境 「君の様子を見ていると、恵のことが好きみたいじゃないか?」
境 「僕を妬んで、勝手に僕が不倫をしているなどと妄想して」
境 「これだからデブは困るんだ。自己中心的で周りが見えていない。判断能力に欠ける」
境 「これ位所恵に変なことを吹き込むつもりなら、無理矢理にでも追い出すけど」
デブ「…あくまで境は、不倫の事実を認めないんだおね」
境 「当然だろう? 事実ではなく虚実なのだから」
デブ「なるほどだお」
>>302
誤字
これ位所→これ以上
デブ「ではこれを見るがいいお」チャッ
恵 「? 携帯?」
デブ「これはあの時の映像だお。誰かが携帯で撮ってインターネットにアップしていたらしいんだお」
境 「!?」
デブ「画質は悪いけど、これは間違いなく僕だし、この高級車に乗ってるのは背格好からして境だお」
恵 「嘘…そんな……」
デブ「これを見ても自分は不倫なんかしてないと言い張るつもりかお?」
かお?
境 「…か、仮にそれが僕だったとしても、会話は雑音にかき消されてて聞こえない」
境 「僕は丁度、仕事で東京駅近くにいたんだよ。それで騒ぎに気付いて現場に行ったら、君とボロボロになった女の子がいた」
境 「女の子があんな格好じゃ外を歩くのは危ないからね。車に乗せて代わりの服が届くまでかくまってあげていたのさ」
境 「ただの親切心からきた行動が、まさか不倫扱いされるなんてね。心外だよ」
恵 「境さん…」
デブ「貴様の言い分はそれだけかお?」
俺「かお?」
境 「あんだと…?」
デブ「親切心からと言ったけど、別に車に乗せる必要なんか無いんじゃないかお?」
デブ「近くの駐車場に車を停めて、一緒に服を買いに行けばいいだけじゃないのかお?」
デブ「見ず知らずの女の子…しかも未成年を車に乗せるだなんて、下手したら誘拐犯だお」
境 「そ、それは…お互いの同意の元だったから…」
デブ「それもおかしいお。初対面の男の車に、女子高生がホイホイ乗り込むかお?」
デブ「いくら今時の女子高生がススンデルからって、そんな馬鹿な子はそうそういるもんじゃないお」
デブ「あの時は二人の男に襲われた直後だったし、なおさらだお」
俺「そうだお。俊夫の言うとおりだお」
俺「悪いのは全部境だお!」
境 「…! 変にいちゃもんをつけるのがお得意みたいだね」
境 「けど、僕は本当にただの親切心だったんだ。恵、こんなデブのことは信用するな」
恵 「えっと…その、え……えぇ?」
デブ「…まだ認めないのかお。仕方ないお。ちょっと待ってろお」
境 「?」
恵 「!」
ドタドタ
デブ「これを見てもまだそんな口が聞けるのかお?」ボロン
美樹か・・・
バタン
ドタドタ
境 「----!」
美樹「久しぶり、境さん」
境 「な、なんで!?」
デブ「あの時彼女が持っていた携帯にプリクラが貼ってあったんだお」
デブ「その中に制服で写っていた写真があったお」
デブ「その制服は私立のXX高校のものだったお。張ってたらすぐに見つかったお」
美樹「境さん。こいつから全部聞いたよ。奥さん、綺麗な人だね」
境 「や、やあ! 君はあの時の女の子じゃないか! 傷も綺麗に癒えているね、安心したよ!」
俺「どう見ても境はクズだお」
デブ「さか---」
バシッ
境 「…………ッ?」
美樹「境さん、最低だね」
美樹「ねえ。あの映像、見せたの?」
デブ「見せたお。境はあの映像にあったことは事実だと認めたお」
デブ「あの時美樹ちゃんを迎えにきたのは自分じゃないとか言い張られたらおしまいだからおね」
デブ「手間かけてそれっぽい映像作ってよかったお」
境 「てめぇ…まさかあれは…」
デブ「気づくの遅いお。美樹ちゃんの高校の友達に協力してもらって作った偽造映像だお」
境 「ふざけんなよデブ……!」
美樹「この携帯に境さんとのやりとりの履歴は全部残ってる」
美樹「メールに電話、一緒に撮った写真。カレンダーにはデートの日付も」
美樹「映像は偽物だけど、こっちは紛れもない本物だよ」
美樹「これ以上ない証拠だと思うけど」
境 「……くっ!」チャッ
デブ「大学のお友達に僕の悪口を吹込むのかお? けどもう遅いお」
境 「はああっ!!?」
デブ「借金して買ったこのもうひとつの僕の携帯。こっちはずっと通話モードにしてるんだお」
境 「……は?」
やだこのデブカッコイイ///
デブ「通話先は団工社だお」
境 「死ねデブううううううううううううううううううう!!!!!」
バシィッ
境 「…………?」
境 「……め、恵、お前……誰に手を挙げてるとおもって……」
恵 「…………わたし、嬉しかったんですよ。境さんにプロポーズしてもらって」
恵 「…私の家、貧乏で。だからバイトいくつも掛け持ちして」
恵 「そんな私の力になりたいって、言ってくれて…。すごく、すごく嬉しかったんです」
恵 「けど、もうだめ、ですね……」
恵 「今は嬉しかった、って気持ちよりも……何倍も、何倍も、悲しいです」
やったれデブ!!!
デブ「…………」
美樹「…………」
境 「…………あ、いや、その…」
恵 「さよならですね、境さん」
恵 「大好きでした」
デブ(こうして、僕の就職活動のはずが何故か他人の家庭内事情に巻き込まれてしまいました事件は、幕を降ろしたのだお…)
キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
泣いた
デブ(それからのみんなはというと)
デブ(スーパーのおばちゃんは相変わらずスーパーでパートしてるし)
デブ(美樹ちゃんも今年は受験だからと毎日目の下にクマを作りながら勉強しているお)
デブ(なんでも、もう男には頼らないといって、良い大学に入りたいんだそうだお)
デブ(境のおじさんは無職になって帰ってきた息子の尻を叩きながら畑の仕事を手伝わさせてるし)
デブ(母ちゃんは田舎でひっそりと隠居生活楽しんでるお)
デブ(恵ちゃんは、都会を出てどこかで普通に働いて、普通に生活しているらしい)
デブ(時々メールするけど元気そうだお)
デブには幸せになってほしい
デブ(そして僕はというと)
デブ(あの不倫騒ぎの時の電話のおかげで団工社の偉い人が僕を気に入ってくれて)
デブ(僕は雑用レベルの仕事内容だけど、団工社に就職することができたんだお)
デブ(大手の出版社だから給料いいお)
デブ(母さんに少しだけど送金できるようになったし、生活にももう困らないお)
デブ(境には悪い事したけど、今の僕はとても充実してるし、毎日が楽しいお!)
デブ(…なんか腹へったので、ポテチとコーラ買いに行ってくるお)
おわり
面白かった乙
団工社って講談社のことか
乙!
できたら後日談オナシャス
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